そこは、誰しもが素直になる場所。
楽しげな喧騒に包まれ、気安くなった心は日々の不満を高らかに謳い上げる。
誰かが主の怠慢に憤れば、それに呼応した誰かが主の威厳の無さを嘆く。
友の殺伐さに苦笑いしつつ酒を煽る誰かの前では、達観とも諦観とも言える表情を浮かべた誰かが、緩やかに酒を進める。
店主の静かな、それでいて落ち着かなさげな歌声は、そんな彼らの心を躍らせる。
自らの存在を肯定しきれない誰かが号泣すれば、目の前にある存在感溢れるそれに絶望していた誰かが煌く何かを放って喚く。
虚ろな目をした誰かは在らぬ方向を見つめ、何かをつぶやき続けながら手に持つ撮影機のフィルムをひたすらに巻き続ける。
場が、静まる。
冷めあがった空気、後ろに感じる気配。
私は隣の椅子を引き、振り向きもしないまま気安げにその気配に語りかけた。
「やあ、ようこそ、八目鰻屋へ」
・・・微動だにしない気配、凍った視線が私を包む。
固まったままの店主にオーダーを出し、慌てて動き出した店主から受け取ったコップを隣に置く。
あくまで気楽を装い、ゆっくりと私は喋る。
「この水道水はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい」
恐ろしいほどに冷たいその気配は、それでも私の隣に移動してきた。
店主が震える手で注いだそれを、手に取りゆっくりと口につける。
静まり返った場に響く、水道水の飲み下される音。
一瞬の、永遠とも思えた時は、静かに下ろされたコップの、こつんという音で終焉を迎えた。
後に来るのは、圧倒的とすら言える威圧感、身を貫かれるような視線、壮絶な恐怖。
押し飛ばされそうな雰囲気を受けながら、私は、震えあがりそうな心を押さえ、それに答える。
「うん。また、なんだ。済まない」
突き刺さる視線。私はさらに答える。
「仏の顔もって言うしね」
私は、続ける。
「謝って許してもらおうとも思っていない」
ざわめく周囲、威圧感は弾け、凍った空気は次第に烈火の如く熱を帯びだす。
炸裂間近の熱は、しかし。
・・・私の心をも沸騰させていた。
立ち上がる気配、蹴り倒される椅子、振り下ろされる何か。
私は、その気配を正面から見据え、口を開いた。
「でも、この屋台を見たとき、君は」
私の目の前で、何かがぴたりと止まる。
「きっと言葉では言い表せない・・・ ときめき、みたいなものを感じてくれたと思う」
気配が揺らいだ。
ゆっくりと目の前のそれを払い、私は立ち上がる。
「殺伐としたあの世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい」
懐から勘定を取り出し、カウンターに置く。
「そう思って・・・ この屋台で待ってたんだ」
手間をかけた、と。
店主に、周りの皆に告げ、得物を手に私は外へと出る。
「彼女」は、私に視線を向けたまま呆然と立ち尽くしていた。
・・・視界が揺れる。
そう酒に弱い方では無いと思っていたが、これからは気をつけなければなるまい。
これからがあるのならば、だが。
暗い森の中、空を見上げれば、煌々と輝く満月。
もしかすれば、この月にこそ酔わされたのかもしれない。
或いは、延ばし続けていた現実に揺さぶられたのか。
ふと、振り向けば、彼女。
満月に照らされ、じっとこちらを見据える彼女は。
私の知っている、最高の彼女だった。
さあ、ならば聞くしかあるまい。
さて、ならば聞かざるを得まい。
ささ、ならば聞かせてもらうか。
「じゃあ、判決を聞こうか」
楽しげな喧騒に包まれ、気安くなった心は日々の不満を高らかに謳い上げる。
誰かが主の怠慢に憤れば、それに呼応した誰かが主の威厳の無さを嘆く。
友の殺伐さに苦笑いしつつ酒を煽る誰かの前では、達観とも諦観とも言える表情を浮かべた誰かが、緩やかに酒を進める。
店主の静かな、それでいて落ち着かなさげな歌声は、そんな彼らの心を躍らせる。
自らの存在を肯定しきれない誰かが号泣すれば、目の前にある存在感溢れるそれに絶望していた誰かが煌く何かを放って喚く。
虚ろな目をした誰かは在らぬ方向を見つめ、何かをつぶやき続けながら手に持つ撮影機のフィルムをひたすらに巻き続ける。
場が、静まる。
冷めあがった空気、後ろに感じる気配。
私は隣の椅子を引き、振り向きもしないまま気安げにその気配に語りかけた。
「やあ、ようこそ、八目鰻屋へ」
・・・微動だにしない気配、凍った視線が私を包む。
固まったままの店主にオーダーを出し、慌てて動き出した店主から受け取ったコップを隣に置く。
あくまで気楽を装い、ゆっくりと私は喋る。
「この水道水はサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい」
恐ろしいほどに冷たいその気配は、それでも私の隣に移動してきた。
店主が震える手で注いだそれを、手に取りゆっくりと口につける。
静まり返った場に響く、水道水の飲み下される音。
一瞬の、永遠とも思えた時は、静かに下ろされたコップの、こつんという音で終焉を迎えた。
後に来るのは、圧倒的とすら言える威圧感、身を貫かれるような視線、壮絶な恐怖。
押し飛ばされそうな雰囲気を受けながら、私は、震えあがりそうな心を押さえ、それに答える。
「うん。また、なんだ。済まない」
突き刺さる視線。私はさらに答える。
「仏の顔もって言うしね」
私は、続ける。
「謝って許してもらおうとも思っていない」
ざわめく周囲、威圧感は弾け、凍った空気は次第に烈火の如く熱を帯びだす。
炸裂間近の熱は、しかし。
・・・私の心をも沸騰させていた。
立ち上がる気配、蹴り倒される椅子、振り下ろされる何か。
私は、その気配を正面から見据え、口を開いた。
「でも、この屋台を見たとき、君は」
私の目の前で、何かがぴたりと止まる。
「きっと言葉では言い表せない・・・ ときめき、みたいなものを感じてくれたと思う」
気配が揺らいだ。
ゆっくりと目の前のそれを払い、私は立ち上がる。
「殺伐としたあの世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい」
懐から勘定を取り出し、カウンターに置く。
「そう思って・・・ この屋台で待ってたんだ」
手間をかけた、と。
店主に、周りの皆に告げ、得物を手に私は外へと出る。
「彼女」は、私に視線を向けたまま呆然と立ち尽くしていた。
・・・視界が揺れる。
そう酒に弱い方では無いと思っていたが、これからは気をつけなければなるまい。
これからがあるのならば、だが。
暗い森の中、空を見上げれば、煌々と輝く満月。
もしかすれば、この月にこそ酔わされたのかもしれない。
或いは、延ばし続けていた現実に揺さぶられたのか。
ふと、振り向けば、彼女。
満月に照らされ、じっとこちらを見据える彼女は。
私の知っている、最高の彼女だった。
さあ、ならば聞くしかあるまい。
さて、ならば聞かざるを得まい。
ささ、ならば聞かせてもらうか。
「じゃあ、判決を聞こうか」
|ヽ_興ンi
|.~=~=<,
|'ノリノレノ!〉)
|i ゚ ヮ゚ノリij
|7";"_]つ=∝
|==ixi=ゝ
|.7~ト7´
こまっちゃんの落ち着きっぷりがすげぇ!
ええマサニソノトオリデス。鯛ってなんだ鯛って。
・・・ご指摘アリガトウゴザイマシタ orz
>皆々様
こんな微妙なのにレス戴きありがとうございます。
最初は、判決を聞こうk(ジャッジメント 、なノリのはずだったんですが。
なんかバーボンそのままのくせに妙にしっくり来てしまいまして。
なのでちょっとだけ修正して雰囲気を足させて頂きました。
読み難いのは直せませんでした。 ・・・ウワーン。