Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幽香と紫

2006/02/04 12:01:07
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緑髪より背の高い向日葵達が立ち並ぶ。夏の日差しを惜しみなく浴び、花びらを思いっきり伸ばしているようにみえる。風見幽香は向日葵畑の中に人一人寝転べる程度の場所を見つけ横になった。向日葵達が日を遮り、そこには涼やかな風が流れていた。
 (ここが一番気持ち良いわ。)
 耳をすませば風の音と蝉の声。空を見上げれば青い空に白い雲。
 雲というのは面白いもので、時間が経てば姿を変えてしまうだけでなく、見方を変えただけで違うものになってしまう。そして二度と同じものは見つからない。
 やがて幽香の目に、やたら人の形をした雲が流れ込んできた。人の形でまず最初に彼女が思い浮かべたのは紅白の人間。
 (そういえばあなたって雲っぽい人間ね。)
 と、幽香は笑った。
 「あの雲って、霊夢みたいね。」
 突然の声。幽香は咄嗟に上半身を起こした。すると、そこには向日葵より背の高い、逆さに咲いた花。金髪の妖怪が日傘をさして立っていた。
 「紫・・・どうしたの?」
 「散歩よ。」
 「違う。式も連れず、自分の足で歩くなんて。」
 「だから散歩でしょ。」
 親密な付き合いがあったわけではないが、幽香は紫が自分の足で歩く姿を初めて見た。
 「隣、よろしいかしら?」
 紫は幽香の隣に腰を下ろす。そして妙に楽しそうに空を眺めた。幽香はそんな紫の姿をじっと見つめていた。
 「何?」
 視線に気付いた紫が言った。
 「驚いたのよ。今までこんな事があったかしら。」
 「私だって驚いたわ。私が声かけるまで全然気が付かないんだもん。昔のあなただったら、この向日葵畑に入った瞬間に飛び掛って来たわ。」
 「ここの雰囲気がまったりし過ぎているのよ。」
 「そうね。私も何だか散歩したい雰囲気だったのよ。」
 雲が流れる。風が流れる。時が流れる。そんなのは当たり前の事であるが、それを感じられた時、本当に全てが流れ始める。溜まっていた汚水は流しだされ、清純な水が底から湧き出る。そしていつも間にか、そこにある水は突き抜ける透明になってしまうのだ。
 「幻想郷は変わったわ。いや、今までにない変わり方をしたと言ったほうが良いわね。何者にも決して心を開かなかった吸血鬼、狂った冥界の者、ひたすら隠れ続けた蓬莱人、鬼。それに私やあなた。霊夢に関わった全ての人妖が変わったのよ。」
 妖怪二匹が空を見上げる。とても奇妙な光景である。

 時を忘れるとはこの事。気が付けば日は傾き、辺りは朱色。
 「それそろ私は帰るわ。それじゃあね。」
 紫は手をひらひらと振りながら歩きだした。幽香は無言で手を振って答える。
 霊夢は人間だ。妖怪と違って寿命がある。だから霊夢が死んだ時、この幻想郷はどうなってしまうのだろう。恐らく、いや確実に今の姿は失われるだろう。しかし、人間は子孫を残し、次の世代に希望を託す事が出来る。そしてきっとその者が、また新たな幻想郷をつくっていくのだろう。幻想郷はまさに雲なのだ。形を変えながら流れていく。もちろんそれがどのようなものになるかを知る術は無い。良かれ悪かれ、幻想郷でしか生きられぬ妖怪達に出来る事といえば・・・
 
 「あら、大きな雲。」
 二、三歩進んで紫は足を止めた。幽香は空を見上げると、もはや霊夢にしか見えなくなってしまった雲が、まるで本物のようにふよふよと浮いているのが目に映った。

 ・・・『今』の幻想郷を思う存分楽しむ事ぐらいだろうか。
無常観をポジティブに考えたらこうなるのでしょうかね。
ぐーん
http://www.geocities.jp/kitakantougunma/
コメント



1.名無し妖怪削除
良い話です
良い話なんですが……
Storyの映姫へのセリフを考えると
幽香はあまり変わってないようなw