Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

見上げた満月

2006/01/31 09:37:16
最終更新
サイズ
1.93KB
ページ数
1





 永遠亭から少し離れた、竹林の開けた場所。
 そこで、誰かが寝転がっていた。
 鈴仙・U・イナバ。
 ただ一人月から逃げ出した、月の兎。
 彼女はそこで、開けた空に浮かぶ満月を眺めていた。

 丁度日付が変わる時間。
 月は鈴仙の真上を照らしている。
 鈴仙の口から、幾つか溜息が漏れる。
 その紅い瞳は、虚ろな眼差し。
 月兎はぼんやりと、故郷の月を眺め続けた。





 そんな彼女を遠くから見る者が、ひとり。





 (…………いた)
 竹林の陰から、地上の兎――因幡てゐが鈴仙を観察していた。
 鈴仙は月に一度、永遠亭をこっそり抜け出す。
 そのことに不審を抱いたてゐは、鈴仙の後をつけることにした。
 予想していた程面白い事でなく、正直がっかりだったが。

 (どう、驚かせてやるかな)

 鈴仙は無防備だった。
 武装はしていない。全く集中もしていない。
 驚かすには絶好のチャンスだった。
 てゐは竹林から少し顔を出し、





 「てゐ」





 「!?」
 てゐは逆に驚いた。
 今足音を立てた?いや、そんな大きな音は立てていない。
 上を向いていても、この竹林までは視界に入らないはず。
 あるいは、最初から尾行に気付いていた?――





 「こっちに来て」
 「……………………」

 黙って鈴仙の方へ歩く。
 一体何を言われるのだろう――

 「座って、空を見て」

 てゐはそれに従い、鈴仙の隣に仰向けになった。

 「地球から見るとさ」
 「…………」
 「月って、綺麗だよね」
 「…………そうだね」
 「月にいた時は、自分の星がこんなに綺麗だなんて、意識もしなかった。
  離れて見て、やっとそれに気付いた」
 「…………月に、戻りたいと思う?」
 「そりゃ、多少はあるよ。
  家族や友人もいるし、生まれ育った故郷だもん。
  でも……」
 「でも?」
 「それでも、ここにいたい。
  こんなに綺麗な月が見れるから。
  地球に、幻想郷に、永遠亭に来て、本当によかった。
  師匠や、姫様や、てゐがいるから」
 「そう、じゃ今度からは罠三割増しにしとく」
 「それは勘弁。
  ってか、私に月に帰ってほしいわけ?」

 二人とも、笑った。
 月の兎と地上の兎を照らす満月も、笑っているように見えた。





 〈終〉
初投稿です。
色々とキャラの性格が違うかもしれません。特にてゐ。
ともかく読んでいただいてありがとうございました。
おかしな表現や誤字脱字があったら教えてください……
狂月
コメント



0. コメントなし