ここは鬱蒼とした竹林。迷ったら最後、因幡の兎でも見つけない限り出られなさそうな所です。
でも、どんな辺鄙なところにも正月はやってきます。
たとえ、殺し合いをしている蓬莱人たちがいても。
「新年早々引き篭もりかしら!? 無職の輝夜さん?」
「うっさい! そっちこそ行くあてなくて寂しくなってここ来たんでしょうに!」
それは、まるで平安時代のお屋敷のような所。
けど、そんな辺鄙なところにだって正月は来ました。
たとえ、殺し合いを訝しげに見つめる蓬莱人がいても。
「姫……またですか…」
そこは、庵と呼ぶのがふさわしい建物。大きさは丁度人一人が快適に暮らせる程度。
それでも、こんな辺鄙なところにすら正月が来たのです。
たとえ、殺し合いを悲しげに見つめる半獣がいても。
「妹紅……」
正月の晩、永琳は考えました。
(このままあの二人がいがみ合って生きていくっていうのも、ちょっとね…)
正月の晩、慧音は思いました。
(あの二人には、永遠に生きるからこそ仲良くしてもらいたいものだが…)
そして、二人はある考えを思いつきました。
ここは、永遠亭と慧音の庵との丁度中間に位置する所。
『妹紅と輝夜の仲介連合』(会員二名)の集合場所です。
「あ、慧音さん」
「永琳殿」
「実は私、あの二人のことで妙案を思いついたんだけど」
「奇遇ですね。実は私も」
さらに奇遇だったのは、二人の案が同じだったことでした。
その名も――
「『てるもこ取替えっこキャンペーン』ってのはどうかしら」
「きゃ、キャンペーン…? い、いいと思いますよ?」
簡略に説明すれば、輝夜と妹紅を取替えっこしようというのです。
相手を取り巻く環境を知れば、自ずと殺し合いにはならないはず。
幻想郷の三賢者に数えられる二人の自信の策でした。
「それじゃあ、妹紅さんを説得しておいてね」
「はい。そちらも、よろしく」
キャンペーンが開始されました。
~ケース1・蓬莱山 輝夜~
「永琳はどういうつもりなのかしら? 私をこんなところに連れてきて…」
「輝夜殿にはここで三日ほど暮らしてもらう」
「私は別にいいけど」
毎日永遠亭の中をぶらぶらするしかなかった輝夜にとっては、
妹紅(と慧音)の庵は興味をそそられる物ではあったようです。
「で? 私はここで何をしていればいいの?」
「む、何をすると言っても、特に義務のようなものはないのだが…」
「ふぅん」
「そうだな、里の子供達と一緒に遊んではくれまいか?」
「わ、私が!?」
「嫌ならいいのだが」
「い、いいわよ。やってやろうじゃないの」
「ただ、子供達は普通の人間だ。あまりムキになってしまわないように頼むぞ」
慧音は微笑みながら輝夜をつれて人里へ下りて行きました。
少女遊戯中…
「ふぅー、疲れたわぁ」
「輝夜殿は体が鈍っていたのでは」
「失礼ね、これでもあいつとの死合いで鍛えられているほうよ」
「それなら、子供達はそれ以上ということか」
「むぅ」
庵に帰ってから、慧音の作る食事を食べつつ、輝夜は慧音の話を聞いていました。
「妹紅はな、昔はひ弱な部類に入っていたんだ」
「あの妹紅が?」
「うむ。それでな、輝夜殿を見つけたその日から急に特訓を始めて、
見事に今のような技を習得したんだ。その時の頑張り様と言ったら――」
「……」
「ただ、多少無理をする癖があって、いつも帰るなりすぐに寝てしまう。
私にも言いたい事があるというのにな」
「……」
そうして、三日が過ぎました。
~ケース2・藤原 妹紅~
「慧音ってばどうしちゃったのかしら。よりにもよって輝夜の家に行けだなんて」
「いらっしゃい、妹紅さん」
「あ、えーりん」
「(えーりんじゃなくてえいりんなんだけど…まあいいわ)貴方には、ここで三日間暮らしてもらいます」
「ここで? まあ、いいけど」
「何かあったら遠慮なく言ってね?」
「え? あ、ああ」
非常にワイルド(誉言葉)な生活を過ごしていた妹紅。
こんな貴族じみた暮らしは1000年ぶりです。
「うわぁ…懐かしい…」
「気に入ってもらえました?」
「うん! 食事は美味いし、兎もいっぱいいるし」
「(あの子達は貴方がしょっちゅう撃墜してる子達なんだけど…)それなら良かったわ」
「ところで私は何かしたほうがいいのかな?」
「そうねぇ…特にこれといってないけど、暇なら兎たちの相手をしてくれる?」
「わかった」
「焼かない程度にね」
兎たちも普段とは違った妹紅の様子に興味津々。
丁度正月なので、羽子板やら独楽やらと色々遊びました。
「楽しかったぁ~」
「ふふ、良かったわね」
「輝夜は毎日こんなに楽しいのかぁ…いいなあ」
「昔はそうでもなかったわよ?」
「え?」
「実はね、姫はずっと何もしていなかったの。それこそ、食事すら億劫そうで。
でも、貴方と出会って姫は変わったわ。毎日を精一杯生きようとしてるって言うのかしら。
なんだか子供の頃に戻ってしまったみたいに、毎日貴方との戦歴を報告するのよ」
「……」
「ただまあ、毎日死んでいるって言うのは眉を顰める所だけど」
「……」
こうして、三日が過ぎました。
そして、キャンペーンが終了、二つの組が例の集合場所に来ました。
「それでは輝夜殿、あちらへ」
「楽しかったわ。子供達によろしく言っといてね」
「承知した」
「それじゃ妹紅さん、あちらへ」
「悪くなかったよ。うさぎ達によろしくね」
「わかったわ」
永琳と慧音は密かに視線を交錯させます。
(こちらはなかなか効果があったようです)
(こっちもばっちりよ)
そして、蓬莱人二人が互いの家に戻るためにすれ違って――
「妹紅ゥゥーーッ! あんた、あんないい友人を心配させてッ!」
「なんだと輝夜ァァーーッ! お前こそあんないい臣下に恵まれながらッ!」
殺し合いになりました。
「あら~…?」
「むぅ…」
「輝夜ァッ!」
「妹紅ゥッ!」
「おかしいわねぇ…」
「何故…?」
二人はいつも以上に壮絶な戦いになったとか。
でも、どんな辺鄙なところにも正月はやってきます。
たとえ、殺し合いをしている蓬莱人たちがいても。
「新年早々引き篭もりかしら!? 無職の輝夜さん?」
「うっさい! そっちこそ行くあてなくて寂しくなってここ来たんでしょうに!」
それは、まるで平安時代のお屋敷のような所。
けど、そんな辺鄙なところにだって正月は来ました。
たとえ、殺し合いを訝しげに見つめる蓬莱人がいても。
「姫……またですか…」
そこは、庵と呼ぶのがふさわしい建物。大きさは丁度人一人が快適に暮らせる程度。
それでも、こんな辺鄙なところにすら正月が来たのです。
たとえ、殺し合いを悲しげに見つめる半獣がいても。
「妹紅……」
正月の晩、永琳は考えました。
(このままあの二人がいがみ合って生きていくっていうのも、ちょっとね…)
正月の晩、慧音は思いました。
(あの二人には、永遠に生きるからこそ仲良くしてもらいたいものだが…)
そして、二人はある考えを思いつきました。
ここは、永遠亭と慧音の庵との丁度中間に位置する所。
『妹紅と輝夜の仲介連合』(会員二名)の集合場所です。
「あ、慧音さん」
「永琳殿」
「実は私、あの二人のことで妙案を思いついたんだけど」
「奇遇ですね。実は私も」
さらに奇遇だったのは、二人の案が同じだったことでした。
その名も――
「『てるもこ取替えっこキャンペーン』ってのはどうかしら」
「きゃ、キャンペーン…? い、いいと思いますよ?」
簡略に説明すれば、輝夜と妹紅を取替えっこしようというのです。
相手を取り巻く環境を知れば、自ずと殺し合いにはならないはず。
幻想郷の三賢者に数えられる二人の自信の策でした。
「それじゃあ、妹紅さんを説得しておいてね」
「はい。そちらも、よろしく」
キャンペーンが開始されました。
~ケース1・蓬莱山 輝夜~
「永琳はどういうつもりなのかしら? 私をこんなところに連れてきて…」
「輝夜殿にはここで三日ほど暮らしてもらう」
「私は別にいいけど」
毎日永遠亭の中をぶらぶらするしかなかった輝夜にとっては、
妹紅(と慧音)の庵は興味をそそられる物ではあったようです。
「で? 私はここで何をしていればいいの?」
「む、何をすると言っても、特に義務のようなものはないのだが…」
「ふぅん」
「そうだな、里の子供達と一緒に遊んではくれまいか?」
「わ、私が!?」
「嫌ならいいのだが」
「い、いいわよ。やってやろうじゃないの」
「ただ、子供達は普通の人間だ。あまりムキになってしまわないように頼むぞ」
慧音は微笑みながら輝夜をつれて人里へ下りて行きました。
少女遊戯中…
「ふぅー、疲れたわぁ」
「輝夜殿は体が鈍っていたのでは」
「失礼ね、これでもあいつとの死合いで鍛えられているほうよ」
「それなら、子供達はそれ以上ということか」
「むぅ」
庵に帰ってから、慧音の作る食事を食べつつ、輝夜は慧音の話を聞いていました。
「妹紅はな、昔はひ弱な部類に入っていたんだ」
「あの妹紅が?」
「うむ。それでな、輝夜殿を見つけたその日から急に特訓を始めて、
見事に今のような技を習得したんだ。その時の頑張り様と言ったら――」
「……」
「ただ、多少無理をする癖があって、いつも帰るなりすぐに寝てしまう。
私にも言いたい事があるというのにな」
「……」
そうして、三日が過ぎました。
~ケース2・藤原 妹紅~
「慧音ってばどうしちゃったのかしら。よりにもよって輝夜の家に行けだなんて」
「いらっしゃい、妹紅さん」
「あ、えーりん」
「(えーりんじゃなくてえいりんなんだけど…まあいいわ)貴方には、ここで三日間暮らしてもらいます」
「ここで? まあ、いいけど」
「何かあったら遠慮なく言ってね?」
「え? あ、ああ」
非常にワイルド(誉言葉)な生活を過ごしていた妹紅。
こんな貴族じみた暮らしは1000年ぶりです。
「うわぁ…懐かしい…」
「気に入ってもらえました?」
「うん! 食事は美味いし、兎もいっぱいいるし」
「(あの子達は貴方がしょっちゅう撃墜してる子達なんだけど…)それなら良かったわ」
「ところで私は何かしたほうがいいのかな?」
「そうねぇ…特にこれといってないけど、暇なら兎たちの相手をしてくれる?」
「わかった」
「焼かない程度にね」
兎たちも普段とは違った妹紅の様子に興味津々。
丁度正月なので、羽子板やら独楽やらと色々遊びました。
「楽しかったぁ~」
「ふふ、良かったわね」
「輝夜は毎日こんなに楽しいのかぁ…いいなあ」
「昔はそうでもなかったわよ?」
「え?」
「実はね、姫はずっと何もしていなかったの。それこそ、食事すら億劫そうで。
でも、貴方と出会って姫は変わったわ。毎日を精一杯生きようとしてるって言うのかしら。
なんだか子供の頃に戻ってしまったみたいに、毎日貴方との戦歴を報告するのよ」
「……」
「ただまあ、毎日死んでいるって言うのは眉を顰める所だけど」
「……」
こうして、三日が過ぎました。
そして、キャンペーンが終了、二つの組が例の集合場所に来ました。
「それでは輝夜殿、あちらへ」
「楽しかったわ。子供達によろしく言っといてね」
「承知した」
「それじゃ妹紅さん、あちらへ」
「悪くなかったよ。うさぎ達によろしくね」
「わかったわ」
永琳と慧音は密かに視線を交錯させます。
(こちらはなかなか効果があったようです)
(こっちもばっちりよ)
そして、蓬莱人二人が互いの家に戻るためにすれ違って――
「妹紅ゥゥーーッ! あんた、あんないい友人を心配させてッ!」
「なんだと輝夜ァァーーッ! お前こそあんないい臣下に恵まれながらッ!」
殺し合いになりました。
「あら~…?」
「むぅ…」
「輝夜ァッ!」
「妹紅ゥッ!」
「おかしいわねぇ…」
「何故…?」
二人はいつも以上に壮絶な戦いになったとか。