Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

灼熱地獄でつかまえて

2009/02/09 01:46:22
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 霊烏路空の頭のしくみの単純さといったら、いまや幻想郷でも知らないものはない。
 力を得れば振り回したがり、卵を見れば茹でたがり、誰かの鼻毛が飛び出しているのを見れば迷いも遠慮もなくひっこ抜こうとする。
 ある時など、たまたま遭遇した竜宮の使いの長いスカートの中身が気になったからといって、会って五分も経たない内にスカートめくりを敢行して雷属性のドリルをくらいかけた。
 その自由という言葉に手足と羽と制御棒がくっついているような空ではあるが、たまには一端の乙女のように思い悩むこともある。

「イイイイヤッホオオオオ! こんなファンキーな気分生まれて初めて!」
「そうだろうね! でもこのままじゃそれが人生最後になっちゃうよ! いいから早く降りるんだよォ――ッ!」

 ただひとつ問題なのは、悩むのは本人ではなく周りということである。
 きっかけは本当に些細なことだった。
 燐が愛用している押し車に目をつけた空は、先の異変を通じて知り合った河童に同じものを作ってもらった。なんとなく、小さな子どものように、友達が持っているおもちゃを自分も欲しくなったからだ。
 しかしその河童、腕は良いのだが何を作るにしても発想重視で、実用性は二の次なのである。
 空に頼まれた押し車にも、溢れるアイディアとテンションに任せて「ロケットエンジン」なるものをつけてしまった。
 それは空の核融合能力によって生み出されるエネルギーを推進力に変える画期的かつ革命的な装置であり、そんな「力」を与えられた空が自重できるはずもなく、友人である火焔猫燐の前で得意気に乗り回していたらいきなりマジぱねぇスピードで走り出し、そして今に至る。

「お燐もこっちに乗りなよ! すっごい速いよ!」
「速すぎるんだってば! それより前見て! 前!」
「あら失礼しちゃう、私はいつだって前しか見ていませんわ」
「生き方じゃなくて視線の話をしてるんだよ! ちったぁ自分の行いを省みろよな!」

 無邪気にかっ飛んでいく空を、自分の押し車に乗った燐が追いかける。運悪く二匹の軌道上にいた怨霊が片っ端から跳ね飛ばされていく。
 何の細工もしていない押し車が核動力のエンジンと追いかけっこできるのは、空が向かう先に超高温で超高圧な灼熱地獄の中心部があるからだ。いくら空が熱に強いといっても、限度および万が一というものがある。
 落ちたらきっと只ではすまない。そして、こんなバカバカしいことで友人を失いたくはない。
 つまり今の燐は当事者である空以上のバーニングヒップ状態であり、押し車も地面との摩擦熱で火を噴くくらいに加速しており、真赤な焔の尾を引いて灼熱地獄を疾走するその勇姿はまさしく火車。
 まさしくバーニング一匹ニャンコ。
 まさしくおりんりんランドの人気アトラクションビッグファイアーマウンテン。

「もう追いついたのか!」
「はやい!」
「きた!逆転きた!」
「エンジン噴射きた!」
「これで勝つる!」

 物理的にもテンション的にも限界知らずで加速していく熾烈なデットヒートを目の当たりにし、六面開始直後に中玉とクナイ弾をばらまいていくことに定評のある空直属の地獄烏軍団「レイヴンズ・ネスト」の面々が熱狂の歓声をあげる。しかし彼女らのそばを空と燐が駆け抜けていった次の瞬間、ものすごい熱気を伴ったソニックブームが巻き起こり、文字通り無残に一匹残らず吹き飛ばされた。

「じょ、冗談じゃ……ケキャアアアアアアアアアアアア!」

 闇の彼方へ消えていく烏達。しかし空は気にも留めない。

「あっはははは! 気持ちいいー!」
「仲間を轢いといて笑うなんて……! お空、あんた! 鳥肉らしい心はもうなくしちまったのかよー!」

 燐が悲しみを抑えきれずに慟哭する。悲痛なその叫びは、洞穴の天井で山彦となって跳ね返った。
 ただでさえ殺風景な灼熱地獄は空と燐の破壊的な追いかけっこによって完膚なきまでに荒れ果てており、遮るものなどもはや何もない焦土で抜いた抜かれたの大立ち回りを演じる二匹の姿は、力だけを求めた愚者の末路を暗示しているようで、勇ましくも物悲しい。
 それでも空は加速を続ける。そして空が止まらない以上、燐も走り続けるしかない。
 この血を吐きながら続ける悲しいマラソンは、どちらかが死ぬまで終わらないのである。
 そんなことをしているうちに、灼熱地獄の炉心とでもいうべき火溜りが二匹の目前まで迫ってきていた。ねっとりした泥のような炎が、怖いくらいに赤く輝きながら揺らめいている。

「ほらお空! あれ見てよ! 危ないんだって! 熱くて熱くて熱くて死ぬんだって!」
「イエーイ! アイアム霊烏路空ハイスピードエディション! シェケナベイベー!」

 空は興奮のあまりランナーズハイに陥っていた。激しく揺れる押し車の上に立って、歓喜の舞を踊っている。

「こっ、この野郎……!」

 その心配されていることにまったく気づいていない物言いが、燐のハートに火をつけた。

「あたいもう怒ったよ! お空がその気なら、こっちも遠慮なくやっちゃうからね!」

 燐は背を丸めて、跳躍の姿勢をとった。口で言っても聞かないのなら、強引に引きずり下ろすしかない。そもそも動物同士の戦いは言葉じゃケリがつかないのだ。最後に勝敗を決するのは強靭な肉体と生きようとする意志。それが遥か原始の時代から続く、野性の世界の不文律なのである。
 尻尾を取っ手に絡ませて、巧みに押し車の角度を調整する。
 そうして前すら見ずに突き進む空に照準を合わせ、弾丸となって燐は跳んだ。

「ちょいなぁぁぁぁぁぁぁ!」
「へっ……のわぁぁぁぁぁ!?」

 スペースシャトルおりんりん号が空の胸に飛び込んだ。すかさず背中に手を回し、顔をふくよかな二連装人工太陽の間に挟んでしっかりと固定する。そのまま跳躍の勢いで空を押し倒し、爆走する押し車から引き剥がす。
 押し車は操縦者を失って蛇行をはじめ、たまたま地面から突き出ていた地獄ドリアンにぶつかって大破した。
 作戦は成功である。燐は今、かけがえのない親友の命をその手で見事に救ったのだ。

「んむぐぐぐ……ぷはっ! さあ捕まえたよお空! またこんなバカやって、さとり様に言いつけちゃうからね!」
「ええっ!? なんで!? 私なんか悪いことした!?」
「わかってないのがなお悪い! 覚悟しときなよ、たっぷりしぼっても……げっ!?」
「どしたの燐……って、何これー!?」

 だが、こういう状況において一番失敗しやすいのは、他でもない成功の瞬間だと相場が決まっている。
 此度もそれは例外ではなく、燐と空が飛び出した先はよりにもよって中心部につながる崖の上だった。

「にゃああああああああああああ!」
「うっひょおおおおおおおおおお!」

 まさしく急転直下の事態に、飛べば解決するという事も忘れて悲鳴を上げる二匹。
 特に空の上になっているせいで、赤く脈打つ火の玉がぐんぐん近付いてくるのを見ねばならない燐の悲しみは想像を絶していた。
 仮にも神様が憑いている空と違って、燐はごく平凡な死体マニアの美少女である。相手が太陽では万が一にも助かるまい。
 こんにちは超高温と超高圧の世界。さよならイケてる死体と愛すべき主と最高のマブダチに囲まれた幸せな日々。

(さとり様、ごめんなさい……あたいはまた、お空を止められませんでした……)

 ──主の笑顔が脳裏を掠める。死ぬ前にもう一度、あの柔らかな微笑みが見たかった。
 それでも、親友の胸の中で死ねるだけ幸せかもしれない。喜びのような諦めが、苦笑となって零れ出た。

(あたいの死体、強くなれるかなぁ)

 目を閉じる。風の音さえ聞こえない。
 そして燐は静かに、ただ静かに火の海に沈んだ。


「……あ、あれ?」

 しかし、人生いや猫生の終焉はいつまで経っても訪れなかった。せっかく悲しみに浸ってたのに、放置プレイかこの野郎。
 燐は恐る恐る目を開けてみた。

「い、生きてる……?」

 手も足も服も、傷一つなく残っている。一応炎の中にはいるようだが、高温でもないし高圧でもない。
 温泉という言葉が思い浮かぶ。これでは地獄どころか極楽だ。

「じょわぁぁぁぁぁぁ! 熱い! とけるー!」
「落ち着いてお空! 熱くないし溶けてもないよ! 脳みそはすでに溶けてるようなもんだけど!」
「ぐああああ……あん? な、何このぬるぬるたぷたぷしてるの? 半熟卵?」
「灼熱地獄の中心部だよ」
「え? 嘘でしょう? 私の管理してるところがこんなにぬるいわけ……」
「そりゃあ、いつもなら熱々だろうさ。でも今日は全然仕事してないでしょ」
「あ……」

 烏が豆鉄砲を食らったような顔になる空。
 よくよく考えれば当たり前のことだった。さっきからずっと仕事をサボってレースに興じていたのだから、この炉心が動いているわけがないのだ。
 そして地獄烏と火車なら、このくらいの温度には苦もなく耐えられる。

「ってことは……」
「そう、ぜーんぶあたいの取り越し苦労だったってわけ」

 自分の心配が無駄だったことを悟らされた燐は、大の字になって炎へと倒れこんだ。
 その顔には疲労と安堵と呆れと喜びをない交ぜにしたような、複雑な表情が浮かんでいる。

「もうやんなっちゃう。お空が強くなってからこっち、悪戯が大げさになりすぎなんだもん」
「お燐こそややこしく考えすぎなのよ。こないだのアレだって、最初からさとり様に言えばよかったのに」
「あれはー、あたいなりにお空のことを思ってだね……」
「どんなふうに思ってたの?」
「どんなって……言わなきゃダメ?」
「ふふふ、嫌でも無理矢理言わせちゃうわよー! それーい!」
「うにゃっ!? やったな、このー!」

 炎をかけ合って遊ぶ二匹。
 幼い子どものように純真無垢なその姿はまさしく地獄の人工太陽。
 心で燃える友情が炎となってほとばしり、楽しそうにじゃれ合う二匹を情熱的な赤で彩った。
 それは地獄の底とは思えない、どこまでも優しくて美しい光景。明るい笑顔が零れ落ち、熱い友情があふれ出し、深い愛情がまろび出て──

「ケキャアアアアアアアアアアア!」
「あ──」
「え──」

 ──ついでにレース中に跳ね飛ばした、燃料にはおあつらえ向きな地獄烏や怨霊達が落っこちてきて。

『うっ……うおおおおおおおおお! あっちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!』

 二匹の蜜月は、おわってしまった。
もっと熱くなれよおおお!
下っぱ
http://www7a.biglobe.ne.jp/~snmh/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
色々と熱い話だぜ・・・
2.謳魚削除
疾走アンサンブルと初代レザマリがBGMですねわか(ry
お燐ちゃんもお空ちゃんも『レイヴンズ・ネスト』の連中ものっけからケツまで最高だぜベイベー!
ただラストのシャウトは「熱い」をぶち抜けて「暑苦しい」だと思うのですがwriter!!
3.名前が無い程度の能力削除
腹筋が…ふっきんがぁぁぁぁぁ・・・
4.名前が無い程度の能力削除
疾走感が凄いw
5.はむすた削除
なにがどうなってるのと思ってるうちにラブコメになりかけて見事に落ちた。二つの意味で。
なんてこと!
6.名前が無い程度の能力削除
もう最初の会話文から無理でした 腹筋が限界でございます
7.名前が無い程度の能力削除
スピキュール!
8.名前が無い程度の能力削除
これなんてオリオン計画(水爆の爆圧利用してロケット飛ばそう計画)?
つかお空のお馬鹿っぷりってリアルの核計画を皮肉っている、わけないかwwww
9.名前が無い程度の能力削除
なんというスピード感www
そして「レイヴンズ・ネスト」の中にズベンを名乗るレイヴンがいるとみた。
10.名前が無い程度の能力削除
なんだこれwww面白すぎるwwww
>たまたま地面から突き出ていた地獄ドリアン
イミフすぎて素で一瞬スルーしてしまったwww
11.名前が無い程度の能力削除
スピード感あって面白かったです。