この世に生を受けたものは皆、死ぬまでその結末は決められている。
・・・いや、死のさらにその先まで決まっているのかもしれない。
人はそれを運命と呼ぶ。
その運命に人は振り回され、幸も不幸も全て運命で片付けようとする。
もしあなたの目の前に過酷な未来が待っているとしたら、あなたはどうしますか?
素直にその運命を受け入れますか?
最後まで運命に立ち向かい足掻き続けますか?
それとも・・・
【Side Reimu】
「・・・これで終わりかしら」
私は日課である神社の掃除を終えるとお茶を入れて縁側に腰掛けて一休みをした。
「今日もいい天気ね・・・こうもぽかぽかして暖かいと眠くて仕方ないわ」
山は紅く黄色く、色鮮やかに染まっている。もう秋も終わり冬が訪れようとしている。
そんな時期なのに今日は空が澄んでいて日もよく照らしとても温かい。
「本当にいい天気・・・」
私は空を仰いでボーっとしていた。
こうしているといつもの悪い癖が出てしまう。
どうして私は博麗の巫女なのだろう?
そんな答えのない問いかけを自分自身に訊いてしまう。
元々、物心ついた頃から博麗の巫女だった私は、それが当たり前のように生きてきた。
幻想郷を守るこの大結界の様子を監視して必要があれば修繕し、
何か異変が起きようものなら、その異変を解決するために出向く。
何もなければ神社を掃除してのんびりお茶を嗜む。
ただそれだけ。
別に私はこの生活を嫌だとは思わない。
弾幕勝負にルールを制定してからはそれほど危険なものではなくなったおかげで比較的異変の解決も楽になったし。
「・・・面倒なのは相変わらずなんだけどね」
そんな風に呟いて苦笑してみせる。
そう、私はそれほどこの暮らしに不満を抱いてはいない。むしろ楽しいくらいだ。
だからこそ・・・博麗の巫女である自分が恨めしく思う・・・
博麗の巫女である前に私は人間だ。
仙人でも天人でもない、完璧な人格なんか持っていない。
ここで天人の名を出しても私の中の天人のイメージはアレなわけだからあまり説得力はないが、普通の天人はきっと完璧なんだろう。
兎に角、私はただの人間なんだ。人を好きにもなれば嫌いにもなる。
そんな当たり前のことができない・・・それが私が博麗の巫女であることを嫌う理由。
博麗の巫女は常に中立の立場でなければいけない。
誰か一人に対してそういう強い感情を抱くこともできない。
例えそんな感情を抱いたとしても、巫女の役目がそれを妨げる。
もし、私が誰かに好意を持ったとしよう。もしその者が幻想郷にとって害悪な存在だと認識されれば、私は対峙し、敵にならなくてはいけない。
逆に、どんなに私が憎んだ相手であれ、幻想郷にとって有益な存在であれば、私はその者を許さなければいけない。
そんな理不尽な役目を死ぬまで頑なに守る。・・・それが博麗の巫女なんだ。
それなら、距離を置けばいい。
そう考えた私は『それなりに』人と付き合い、『それなりに』感情を表に出した。
だけどそれは間違いだった。この博麗の巫女の持つべき力なのだろうか、私の周りには人も人外のものも知らず知らず集まってきた。
すると、中には私に好意をよせてくれる人も出てきた。
私はどうすればいいの?自分を好きでいてくれる人の想いに答えてあげることすらできない。
いっそ、皆に嫌われて一人でいればいいのかな・・・でも一人は嫌・・・孤独は怖い・・・
こうしてまた結論はでないまま、私の思考はぐるりと一周したところで終わるのだ。
「・・・クシュン!!」
いくらいい天気といってもやはり初冬。いつの間にかすっかり寒くなっていた。
「こんなときは何か温かいものでも食べたいわねぇ」
そんなことを言っていると、上空から私を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい!霊夢ー!」
声の主は魔理沙。いつもみたいに箒に跨って降りてきた。
「これ見ろよ、慧音に手伝い頼まれてな、そのお礼にって貰ったんだ」
そう言って包みを拡げてみせると白菜やらネギやらと新鮮な野菜が姿を現した。
「さらにこれだ」
違う包みを開けるとこちらにはしめじやらえのきやらと食用の茸が入っていた。
「いい食材が揃ったからな、霊夢のとこで鍋でもやろうと思って持ってきたんだぜ」
「全く・・・調子がいいんだから。まぁ、食材を持ち込んでくれるならこっちは大歓迎よ」
こうして私達は鍋を作る準備を始めた。
【Side Remilia】
「くしゅん!!」
不意にくしゃみが出た。部屋の中が少し冷えていたんだろう。
「お嬢様・・・鼻水が出てますよ」
そう言って咲夜はハンカチで私の鼻を拭った。
「ん、ありがと。それにしても最近すっかり冷えてきたわねぇ」
「もうすぐ冬ですからね。暖炉に薪をくべましょうか」
「いや、あれがいいな、炬燵」
私がそういって人差し指をピンっと指してみせると咲夜は苦笑した。
「流石にこの洋館に炬燵というのは・・・」
「別にいいじゃない、ついでに畳なんかも敷こうよ」
「お嬢様・・・それではこの紅魔舘の概観を損ねてしまいますわ」
「いいじゃない、別に。見た目なんかを気にするのは器の小さい奴よ」
「ですが・・・少しは気にして頂かないと。あまりに滑稽過ぎるとカリスマがだだ下がりです」
むぅ、流石にカリスマだだ下がりは嫌ね。
「わかった、それじゃ神社にいって炬燵を楽しむわ」
「わかりました、外はここよりももっと寒いのですから行くときには防寒具を身につけてくださいね」
どういう心境の変化だろう?以前は神社に行くというと嫌な顔をしていた咲夜が、ここ最近は妙に物分かりがいい。
まぁ、そのほうが都合はいいのだけど。
「ん、分かってるよ、あとで食材を持って貴女も来なさい。夜は霊夢のところで頂くわ」
「かしこまりました。どのような料理に致しますか?」
「肉、豆腐、あとは魚も欲しいわね」
「・・・鍋、ですか?」
「炬燵といったらそれしかないでしょう?」
「野菜はよろしいのですか?」
「魔理沙が持って行くだろうさ」
「運命、ですか?」
「いや、ただの勘」
そんなやりとりをして、私は館を出た。
一人、傘を差して神社へと飛んでいる最中。私は霊夢のことを考えていた。
私を初めて負かした人間・・・それが博麗霊夢。
今まで私に勝負を挑み愚かにも死んでいった人間は数知れず、興味を持って生かしてやったのも精々咲夜一人だ。
霊夢に負けるまで、私は人間は単なる食料、咲夜のことも生活するのに都合のいい道具程度に考えていた。
それが今ではどうだ、咲夜を含め紅魔舘に住む者達との間に家族のような関係を築き、こうして霊夢のところへ自ら押しかけている始末。
紅い悪魔と呼ばれ人々に恐れられていた誇り高き吸血鬼がとんだお笑い種だ。
私が霊夢に執着しているのはそれだけじゃない。
・・・運命が視えなかった。
私は以前、スキマ妖怪とも戦ったことがあった。結果は敗北。認めたくはないが『強さ』では奴の方が一枚上手だ。
本気で戦ったことはないが、鬼や亡霊の嬢、月の民、最近では山に住み着いた神。奴らも対峙すれば勝てるかどうかは正直怪しいところだ。
それでも私はそいつ等を怖いとは思わない、私はそいつ等の運命を視ることができるのだから。
運命・・・どんな者も逃れることのできない絶対の未来・・・或は誰もが無意識のうちに過ごしてきた過去・・・
それは全て最初から最期まで、一冊の本に綴られた物語のように決められている。
そして私がその運命という本を綴っている筆者なのだ。
誰も変えることのできない運命を、私はこの手、この指一本で容易く変えることができる。
勿論、運命の重さだって知っている。
私は普段からよくこの能力を使っている。だけどそれは本当にささいなことだけ・・・
食事に自分の好きなものがでるようにしたり、会いたい相手を無意識に会いに来させたり、精々その程度だ。
争い事の勝敗や生物の生死なんかに関わる運命は滅多に操らない。
人一人の生死を操っただけでその人物、もしくは操った私自身の未来は大きく捻じ曲がる。
それも大部分は悪い方向へ・・・運命ってものはそのくらいデリケートなものである。
ともかく、そんな運命を操ることができる私はその気になればどんな相手にだって勝つことができるのだ。・・・その先の未来を犠牲にすることで。
だから運命を視ることのできる相手ならどんなに強さで劣っていようと何も恐れることはなかった。
だけど・・・霊夢を相手にその運命を視ることができなかった。
視ることができなければ、勿論操作することなどできるはずがなかった。
霊夢に会おうと思い、運命を操って呼ぼうとしても、霊夢には一切効かなかった。だから今もこうして会いたいときには自ら出向いているわけだ。
自分の思い通りにならない存在、そんな霊夢を私は意識し、欲するようになった。
「・・・見えてきたわね、博麗神社」
私はそう呟くと神社へと降りていった。
【Side Reimu】
「・・・納得いかないわ」
私はそう愚痴りながら野菜を洗っていた。
この寒い季節、冷たい水で野菜についている泥を洗い流すのはかなり辛い。
ちなみに魔理沙は「私は鍋をかける火を準備しておくぜ」と言っていたけど・・・
炬燵の台の中央にミニ八卦炉をちょこんと置いて今は炬燵に入ってぬくぬくと横になっている。
「ちょっと魔理沙!!サボってないで手伝いなさいよ!」
そう怒鳴って魔理沙を炬燵から引きずり出そうと部屋に戻ると・・・
「・・・何か猫が一匹増えてるんですけど」
レミリアが炬燵に入ってくつろいでいた。
「あら霊夢、お邪魔してるわよ」
「珍しいわね、アンタの方がご飯をたかりに来るなんて」
「食事は二の次、やっぱり冬はこれに限るわねぇ」
そう言って幸せそうに炬燵の台に顔を乗っけて細目になって微笑んだ。
こんな状態のレミリアを見て誰が吸血鬼だと思うだろうか。
「あーあ、どうせなら咲夜も連れて来てくれたらいいのに。そうしたら料理は全部任せて私もゆっくりできたのに」
「呼んだかしら?」
「うわっ!?」
いきなり後ろから声がした。見ると咲夜が両手に荷物を抱えて立っていた。
「お嬢様、頼まれた食材を買ってきました。・・・霊夢、台所借りるわね、料理は私が全部任せてもらいますわ」
と、にっこりと微笑む咲夜、ものすごく皮肉に聞こえる。
「咲夜ー、私も手伝うぜ」
魔理沙がもそもそと炬燵から出て起き上がった。
「そう?それじゃあお願いしようかしら」
そう言って二人は台所の方へ行ってしまった。
「何よ、魔理沙ったら、私が手伝ってって言っても全然起き上がらなかったのに」
「あら、咲夜に魔理沙を取られて妬いてるのかしら?」
レミリアがそう言って面白そうにニヤニヤと笑った。
「別にそんなんじゃないわ」
「でも案外、咲夜の方もまんざらじゃないのよねぇ、前から魔理沙には甘かったけど、最近はさらに溺愛してる気がするわ」
「全く・・・これ以上魔理沙を甘やかしたらロクなことにならないわよ?」
「私は別に構わないわ。あの二人がくっつけば邪魔者が一人脱落するもの。・・・霊夢争奪戦のね」
そう言ってレミリアはわざとらしく私に身を摺り寄せてきた。
「・・・馬鹿馬鹿しい。私は誰か一人に現を抜かすわけにはいかないのよ」
「ふぅん・・・博麗の巫女の宿命ってやつかしら?」
「――っ!?」
私は言い返そうとレミリアの方を向いた・・・が思わず言葉を失った。
ただ、私のことをレミリアが見つめていただけなのに、私は金縛りにあったように視線を合わせたまま固まってしまった。
まるで私の全てを見透かしているような・・・そんな不思議な眼・・・
「おーい、鍋の準備ができたぞ!」
そう言って魔理沙と咲夜が食材の乗った皿や鍋を持って部屋に入ってきた。
それと同時にレミリアの視線が外れ、私も慌てて顔を戻した。
「・・・?どうかなさいましたか?」
「い、いや、なんでもないわ」
「ええ、早く頂きましょう」
そんなわけで私達四人は炬燵に入り鍋を囲んだ。
咲夜が持ってきてくれた食材のおかげで当初予定していた野菜と茸だけの鍋がやたら豪華になった。
「くぅ~・・・やっぱり寒いときは鍋に限るよなぁ」
「だからってそんなにがっつかないの・・・ほら、魔理沙、口元についてるわよ」
そう言って咲夜が魔理沙の口元をナプキンで拭いた。
「全く、だらしないわね魔理沙」
「そういうアンタも口についてるわよ」
そう言うとレミリアがこっちをジーっと見つめてきた。
「霊夢ー口拭いてー」
「なんで私があんたの口を拭かなきゃいけないのよ」
私が拒否するとレミリアは子供のように頬を膨らませた。
「いいじゃない!霊夢のケチ!」
「咲夜にやってもらえばいいでしょ!アンタの従者なんだから!」
「そうしたいのはやまやまですが、生憎私の位置ではお嬢様に届きませんわ」
ちなみにそれぞれの炬燵に入っている位置は時計回りに私、レミリア、魔理沙、咲夜の順。
確かに丁度向こう側に座っている咲夜の位置でレミリアの口を拭くのは少し難しい。
「だ、だったら炬燵から出て・・・」
「炬燵って一度入ったらなかなか抜け出せない魔力を秘めてますわねー」
と、軽くあしらわれてしまった。従者がそれでいいのか・・・いや、どう考えてもレミリアが「するな」って言ってるようなもんだけどさ・・・
「わ、わかったわよ!」
私は仕方なく、近くにあったナプキンでレミリアの口元を拭ってやった。
「~♪」
まるで無垢な子供のような無邪気な笑顔を見せた。どうやら満足してくれたようだ。
「そうだ、咲夜、そろそろあれ出してよ」
「かしこまりました」
そういうと咲夜はなにやら小さめの瓶を取り出した。
「・・・お酒?」
「えぇ、そろそろお酒がほしいところでしょ?」
咲夜がてきぱきとグラスを用意してお酒を注いだ。
「咲夜、自分の分も注ぎなさい」
「ですが、私まで酔ってしまっては後片付けが・・・」
「いいから飲みなさい、これは命令よ」
レミリアにそう言われ、咲夜は素直に自分の分のお酒も用意した。
こうして酒も入りにぎやかな宴に・・・
~数分後~
ならなかった。
「あんた・・・一体どんな酒を用意したのよ・・・」
酒を一杯口にして一刻も経たないうちに魔理沙と咲夜はすっかり酔い潰れて眠ってしまった。
私もかなり酔いがまわっている。顔が火照ってものすごく体がぽかぽかしている。
「やっぱり人間にはちょっと強すぎたかしら」
何事もないようにレミリアはその酒を美味しそうに飲んでいる。
「これは妖怪の間で飲まれている酒だからねぇ、来るとき美鈴に頼んで一本分けてもらったのを持ってきたの」
「どうするのよこれ・・・」
「もう今日は神社に泊まるしかないわねぇ」
「こうなるとわかって酒を持ってきたわね・・・」
「えぇ、勿論。そして霊夢だけは酔い潰れないのも分かっていたわ。貴女は博麗の巫女だもの。酒にだって耐性があるわよね」
レミリアの言うとおりだ。恐らくどんな状況でも異変解決に努められるようにだろう。私の体は色んなものに耐性を持っていた。
毒や薬、呪術に妖術、魔法・・・そして酒。全く効かないというわけではないが、滅多なことがない限りほとんど無事でいられる。
「これで二人きり・・・フフッ霊夢、観念なさい」
そう言ってレミリアがにじり寄ってきた。身の危険を察知した私は立ち上がり、レミリアとの距離を取ろうとした・・・が、酔いが足にまわって縺れて転んでしまった。
「クッ・・・」
「さぁ、捕まえた・・・どうやらこの酒はかなり効いたみたいね、たまには美鈴も役に立つじゃない」
レミリアが私の上の覆いかぶさった。そして、互いの鼻が触れ合うくらい顔を近づけてきた。
「離しなさい・・・よ・・・」
「・・・」
レミリアは無言で、またあの眼で私を見つめてきた。
・・・一体何をしようというのか、しばらく沈黙した時間が流れる。
「・・・ハァ」
何故か、不意にレミリアがため息をついて私から離れた。
血を吸われるとか、それこそ貞操の危機とかを覚悟していた私はまるで肩透かしを食らったような気分だ。
「・・・お酒が強すぎたようね・・・私まで酔ってきちゃったわ。もう寝ましょう」
どうも納得がいかなかったが、とりあえず危機は去ったようだ。私は水を一杯飲み干し、少し酔いを醒ますと、寝床を作る準備にうつった。
【Side Remilia】
「・・・ハァ」
霊夢が寝床を準備するため部屋を出て行き、この場には私と酔い潰れて寝ている咲夜、魔理沙が残された。
「やっぱり・・・無理だった」
今日こそは霊夢の運命を視る・・・そう思いこの宴を画策したというのに・・・
酒に酔わせ油断させ、可能な限り近い距離で霊夢の運命を覗こうとした。それでも・・・霊夢の運命は視ることができなかった。
私の能力を持ってしても、博霊の巫女の宿命には敵わない・・・今日一日でそれを思い知らされたような気がした。
「あー・・・どうしようかしら・・・」
ふと、隣の部屋から霊夢の声が聞こえた。
「どうしたの?」
「布団が二組しかないのよ。いつも宴会のときは紫や萃香がどこかから持ってくるから人数分確保できてたんだけど、今日はいきなりだったから・・・」
「それなら簡単な話じゃない」
そう言って私は魔理沙と咲夜を抱えて片方の布団の上に寝かせた。
「ほら、これでこっちの布団は私と霊夢が寝ればちょうどいいわ」
「・・・なんで私とアンタなのよ。普通に考えれば私と魔理沙、アンタと咲夜でしょ?」
「あら、霊夢は私と一緒に寝るのは嫌なの?」
「別に嫌ってわけじゃないけど・・・」
「まぁ、霊夢が言うとおりにしてもいいんだけどね。その状態の二人をわざわざ離して寝かせたければの話だけど」
そう私が指差す先には気持ちよさそうな寝息をたてている咲夜と魔理沙がいる。
部屋が冷えているからだろう、魔理沙はぴったりと咲夜にくっつき、咲夜も魔理沙の背中に腕を回し抱きしめる形で眠っている。
「・・・わかったわよ。寝ているときに血を吸ったり変なことしたらすぐに外に放り投げるからね」
口先だけでなく本気でそうやってくるのが霊夢だ。今夜は大人しくしておくべきだろう。
「・・・私達もさっさと寝ましょう。冷えてきたわ」
「えぇ、そうね」
こうして私達も寝ることにした。
・・・・・・
・・・・・
・・・
「うぅ・・・流石に寒いわね・・・」
霊夢と一緒に布団で寝ていた私は、夜中にそっと抜け出し、屋根に上って星空を眺めていた。
さっきの一件で私は自信を無くしてしまった。
能力が効かなかったのがショックだったのも正解だけど・・・それ以上に・・・
「・・・霊夢の力になれなかった・・・」
それが一番ショックだった。私なら、私の能力なら霊夢を救ってやれると思っていた。
救ってやるなんてそんな善意なんかじゃないわね。
私はただ、霊夢が欲しかっただけ。博麗霊夢という人間を愛してしまった。
だから、その可能性をゼロにする博麗の巫女という宿命から彼女を解き放ちたいと思っていたのだ。
「・・・まったく、こんな寒いのにそんなとこにいるなんて馬鹿じゃないの?」
ふと、下の方から声がした。下に視線を送ると霊夢が呆れたような顔で私の方を見上げていた。
「それにそこは私の特等席よ」
そう言うと霊夢は私の隣に来て座った。
「・・・たまに星空が見たいときがあってね。そういうときはここに座って星空を眺めているのよ」
「・・・」
しばらく私達はただ星空を眺めていた。すると、霊夢が小さな声で尋ねるように口を開いた。
「・・・さっき。・・・あの時何を視てたの?」
「え・・・?」
「私を押し倒したとき、アンタは私の運命を覗こうとしてたんでしょ?」
「何で・・・!?」
それを知っているのか・・・そう問い詰めようとした瞬間、それは霊夢の仕掛けたハッタリだと気付いた。
だが、時すでに遅し、私の反応で霊夢は確信したようだ。
「・・・で、どうだったの?私の運命は」
私は返答に困った。それでも、今の私には事実を包み隠さず話すしかなかった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「・・・そう」
私が全てを告げると、霊夢はただ一言そう言って黙ってしまった。
「霊夢・・・」
「アンタが気にすることじゃないわ・・・相手が悪すぎるのよ。博麗の巫女・・・この幻想郷が相手なんだから」
「でも・・・それでも私は・・・貴女を・・・」
「どうして・・・?なんでアンタは私のためにそうするの?」
霊夢が強い口調で私に問いかけてきた。その声は怒りのような感情が含まれていた。
「私とアンタの関係なんてただの人間と吸血鬼じゃない、なんで私にそんなに構うのよ!」
「霊夢・・・」
「私は生まれたときからずっと博麗の巫女なの!これは過去も現在も未来もずっと変わらない・・・ずっとこの役目を果たさなくちゃいけないの!」
「だから・・・だから・・・」
霊夢が私の服の襟を強く掴んで手繰り寄せた。
「これ以上私に期待させないでよ!宿命だって諦めてるのに・・・アンタなら・・・レミリアなら私の運命だって変えてくれるって思っちゃうじゃない!!」
霊夢の瞳から涙が溢れる・・・私はこの時、初めて霊夢の涙を見た。
「それでも・・・それでも私は貴女の傍にいたい・・・何かしてあげたい・・・」
無意識のうちに、私も霊夢の襟首を掴んでいた。
「それでも私は貴女を救いたいの!!貴女が特別だから!大切だから!・・・好きだから!!」
そう悲鳴に近い甲高い声で私は叫んでいた。そして、自分も涙を流していることに気付いた。
「―――っ!?」
次の瞬間だった。私の身体を一瞬電撃のようなものが駆け巡った。
これは・・・
「フッ・・・フフッ・・・アハハハハ!!」
私は思わず大声で笑ってしまった。さっきまで互いにつかみ合って怒鳴りあってたのが嘘のように・・・
霊夢もきょとんとして不思議そうに私を見ていた。
「レミリア・・・?」
「・・・視えた」
「・・・え?」
「視えたのよ!貴女の運命が!ほんの一瞬だけだったけど!」
「そんな・・・嘘よ・・・」
「嘘なんかじゃない!本当よ!」
「本当・・・なの?」
「本当よ、吸血鬼のプライドにかけて嘘はつかないわ」
「本当なのね・・・」
どうやら霊夢も私の言葉を信じてくれたようだ。
「今はまた視えなくなってしまった。それでもさっき視た一瞬は本物だった・・・」
つまり・・・霊夢の運命を変えることも・・・
「ゼロじゃない・・・」
私の心の声が聞こえたように、霊夢がそう呟いた。
「私の未来の可能性は・・・ゼロじゃないのね」
「えぇ、そうよ」
そして私達は互いに笑いあった。
翌朝、朝日が顔を出す前に私は咲夜と共に帰途についた。
魔理沙はまだ寝ていたが、霊夢が見送りをしてくれた。
「それじゃ霊夢、お世話になったわね」
「いつものことでしょ」
そう言って苦笑する。いつもと変わらない霊夢だ。
「・・・またお茶が飲みたくなったらいらっしゃい、待ってるから」
「・・・えぇ」
いや、昨日までの霊夢とは違っていた。その顔は穏やかで清清しく、どこか晴れたような笑顔だった。
「面白くなりそうね」
「・・・?お嬢様?」
「いいえ、なんでもないわ」
不思議そうな顔をする咲夜に、私は笑顔でそう答えた。
運命を変える力・・・もしかしたらそれは誰でも持っているのかもしれません。
ほんの些細なことが、あなたの運命を変えてしまうかもしれません。
それが良い未来なのか悪い未来なのか・・・
それを決めるのもきっとあなた自身です。
それでは最後にもう一度だけ質問します。
もしあなたの目の前に過酷な未来が待っているとしたら、あなたはどうしますか?
博麗の巫女に関しては特に問題無いかなぁと思います
・・・レミリアが運命を変えようとしたら紫とかが黙っちゃいないような気がする
霊夢の博麗の巫女としての運命から解き放つということは幻想郷の崩壊に繋がりそうだし
公式設定が大まかなところが東方のいいところなのかもしれませんね。
それぞれが自分の思うように解釈することで色んな可能性が生まれてくると思います。
例えばこの話の続きを考えたとき
おっしゃるように紫が阻止してレミリアと対立したり
霊夢以外に博麗の巫女を務める人材を見つけてきたり
博麗の巫女の『中立でいる』という枷を取り除いたり
と、色んな展開が想像できました。
そう思うともっと色んな話を「書いてみたい」という創作意欲が沸いてきますね。
>鬼や亡霊の嬢、月の民、最近では山に住み着いた神。奴らも対峙すれば勝てるかどうかは正直怪しいところだ。
弱気な発言はお嬢様らしくない、と。
私の意図としては「たとえ強さで負けたとしても結局最後に勝つのは自分だ」という意味で書いたつもりだったのですが、確かに弱気な発言のように見えますね。次に書くときにはもっとキャラの性格に気をつけて書いていきたいと思います。
ただこれは霊レミじゃなくてレミ霊。
あと某公式漫画で博麗の巫女の代替わりはしょっちゅうみたいな設定が
出てきたから、次の代さえ探せば問題なさそう。血筋で選んでないのもわかりましたしね。
頑張れレミリア!!