Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ちょっとだけ未来の話

2009/01/17 10:49:40
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 見上げれば満天の星空。少し横を向けば主が去って久しい彼女の家。ざあざあと擦れて聞こえる木の葉の音。此処はいつだっていい風が吹く。少しずつ夏が終わり秋に近づく長月の頃。吹き抜ける風がちょっとばかり冷たくて。でもアルコールを摂取して火照った体にはそれが心地よかった。
 ああ、なんて綺麗なんだろう。ふと、私の横に腰掛ける彼女に目をやりそんなことを考える。久方ぶりに再会した彼女は、あの頃の面影を残しながらとても綺麗になっていた。少し強い風が吹いて、金色の髪が靡いて揺れる。
「ここは、昔と変わらないね」
 風に靡く髪を押さえ、ほう、と息を吐くと彼女は静かに私のほうを向いて、少女のように笑って見せた。
 私はそうね、とだけ言葉を返し彼女の横に腰掛けたまま空を見上げた。彼女の言うとおり、あの頃と同じだった。あの夜も綺麗な星が浮かんでいた。
「夜がこんなに綺麗だね」
 ロマンチックな彼女の台詞。そういえば昔から本当は乙女だったっけか。あなたのほうが綺麗だ、何て陳腐な言葉が頭を過ぎる。下らない。結局、何も言い返せないままに彼女を見つめた。彼女は、そんな私を暫しじっと眺めたあと、ふい、と目をそらしておもむろに立ち上がると、二三歩ほど歩いてからくるりと振り向いた。
「覚えてる? あの頃のこと。私がまだ空を飛んでいた頃のこと」
 彼女は笑って言う。忘れるわけがない。彼女がまだ私より背が低かった頃。私の人生が一番楽しかった頃。忘れたくても、忘れない。
「覚えてるわよ」
 私の答えに懐かしむように彼女はウフフ、と笑った。
「楽しかったわよね、あの頃は」
笑っているような、痛みを堪えているような、懐かしいような。そんな彼女の表情を何故か正視することが出来なくて。私はほんの少しだけ、彼女から目を逸らしてしまう。
「ねえ、知ってた?」
 そんな私から視線を外さずに、少しの間を置いてから彼女は問うてきた。
「何を?」
 最早そんな彼女をろくにも見られず、出来るだけそちらを見ないようにしながら私はそれに問い返す。彼女が何を言わんとしているのか、薄々と理解していながらも白々しくと。
「私ね、あの頃あなたのことが好きだったよ」
 知っていた。
 風は相も変わらず吹きすさび、その風に撫でられてざわざわと鳴り響く名も知らぬ雑草たち。理解していながらも理解したくなかった言葉を聞いて、少しばかりの沈黙の後に私はそう、と出来るだけそっけなく聞こえるように言った。
「冷たいのね」
少し失望したような彼女の声。それだけで胸が酷く痛み出す。
 違う、そうじゃないの。思わず叫びだしたくなる。出来れば応えたかった。そして伝えたかった。この引き裂かれるような胸の痛みを。彼女と別れてからただの一度も途絶えたことのないこの想いを。私が、そして彼女がまだ子供で居られたあの頃にどうしても言えなかった言葉を。「私はあなたのことが好き」、と。
 でも、彼女はもう。
 だから。私は、答えた。
「人も妖怪も、何時までも過去ばかりを見て生きてはいけない。あの頃とは違うから。私も、あなたも」
 彼女は少し悲しそうな目をして私を見る。本当に彼女が「普通」だったと分かったとき。何も言わない私を見て、確か彼女は同じような目をしていた気がする。
 うそつきで有名なのは彼女のほうだったけど、きっと私のほうがうそつきだった。
 本当に過去を引きずっているのは、一体どっちだというのだろう。
「あのね、私、もうすぐ結婚するの」
 唐突に彼女はそう告げた。
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。でも一瞬だけだ。
 心のどこかが軋んだ音がした。油の切れた歯車の音に似ていた。目の前がまっくらになった。せめてまっしろになって欲しいと願った。こみ上げてくるものを抑えるために目を閉じる。今の彼女の顔を見たくなかった。もしも彼女が幸せそうな顔をしていたら、どうしていいのか分からなくなってしまうからだ。いや、もしもそれ以外の表情を浮かべていたとして、だからといって私に何が出来るというのだろうか。女の、この私に。嫌だ。
「そう、おめでとう、って言うべきなのかしら」
 少し長い瞬き程度で目を開く。そして感情を殺して彼女に祝福の言葉を。表面は取り繕えたと思う。彼女の表情は暗さと俯くように顔を伏せている性で、あまり良くは見えない。ほっとした。
「ありがとう。この冬なんだけどあなたも結婚式には」
「いかない」
 遮るように衝動的に言葉を放つ。彼女が驚いたようにしているのを見て、私は失敗してしまったのを悟る。都会派を名乗ってはいても冷静さを保ちきれない。悪い癖だ。
 「悪いけど、ちょうど今研究が調子よく進んでるの。だからきっと冬には時間を作れないと思うから」
 そんな私の言い訳を彼女はどう思ったのだろうか。そう、残念だわ、と小さく呟いただけだった。
 少しの間会話が途切れて、ただ風の音だけが響いた。私たち以外には誰もいない二人ぼっちの純粋な空間。私と彼女と、世界に二人だけなら良かったのに。そんな馬鹿なことを考えた。
「冷えてきたね、そろそろ戻らない?」
 宴会も勝手に抜け出してきちゃったし。立ち上がった彼女が語りかけてくる。そんな彼女を見上げて、そういえば昔は何も言わなくても目を合わせれば少しぐらいのことは伝わったな、と他人事のように思い出した。寂しい。
「私は、もう少し此処にいることにする」
 私がそう言うと、彼女は困ったような顔で暫く私の顔を見た。どこか新鮮な表情だった。でも、結局諦めたのか微笑んで言った。
「そういう自分勝手なところは相変わらずね」
 何だろう。言い返してやろうと思ったのに、何も答えられない。泣いてしまいそうだった。どうしてか。
 その言葉の後、彼女は背を向けて「じゃあ、またいつか」とだけ声をかけてから歩いていった。
「さようなら」
 何とかそれに一言だけ返す。あの頃みたいな反撃の言葉は思い浮かばなかった。
 森の木々にその姿が飲み込まれて消えていくまで見送ってから思う。もう夜も遅い。送っていくべき、だっただろうか。彼女はもう魔女ではないのだし。
 いや、やはりその必要はないだろう。彼女とて無策で一人帰ったわけはない。それに、もう彼女の相棒は私ではない。隣に立って共に歩むのは、私ではない見知らぬ誰かなのだから。
 私はもう一度空を見上げた。そこにはあの頃と変わらぬ並びで星が瞬いていた。私はどこかで期待していたのだろうか。彼女は魔女を辞めてもずっと私のことを好いてくれていると。私が、想いを伝えなくてもきっと彼女は分かってくれている、と。そんなわけが無いと分かっていたつもりだったのだけれども。
「まあ、仕方ない、か」
 震える声で独り強がった後、私はこてんと草むらに体を倒す。寝転がったままの姿勢で星に向かって手を伸ばした。全然届かない。当たり前だ。一度無視したのは私なのだから。
 ほろほろと目から零れ落ちるのはきっと水より寂しい何か。届かなかった利き腕をそのまま下ろして袖で目を押さえる。久しぶりに彼女に会うからと選んだ服が濡れていくのがまた悲しくて、子供のように私は泣くのをやめることが出来なかった。
 どうか彼女が幸せになりますように。どうか彼女が幸せになりますように。
 実家に帰ると言い出した彼女を無言で見送ったときに、頭の中で唱え続けた言葉が再生される。未練がましく彼女の思い出に浸りながら、私は初めて彼女と一緒に空を飛んだときのことを思う。
 そう、あの日もこんな綺麗な夜だった。
やまなし、おちなし、いみなし。
……うーん、初投稿がこれでいいのか自分。
朱鷺未
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
斬新で良いと思いますよ。
2.名前が無い程度の能力削除
「都会派」という言葉が無かったら、パチュリーと間違える人がいたかもしれない。
自分は最初っからアリスだって信じてたけどな!


間違えてはないと思いますが、魔理沙とアリスであってますよね?セリフからのヒントのみでわかりますが、こういった作品はたまに予想外なとこ行くときがありますので。

EXルーミア「ウフフなのか~」
都会派パルスィ「ルーミア結婚するのね・・・妬ましい」

魔理沙「おまえらかよ!」
3.名前が無い程度の能力削除
最初は霊夢と魔理沙かと思ったけど、こういうマリアリもたまにはいい。