Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

はいてね☆

2008/12/02 00:07:51
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 お世辞にもさわやかとは言えない目覚め。

 朝霧漂う妖怪の山、その湖のほとり。
 守矢神社脇の社務所兼住居の自室で、早苗はぐらぐら揺れる頭を抱えていた。

 「あううう……」
 ―――飲みすぎた。久々の二日酔いである。

 昨日は博麗神社で宴会だったのだが、つい柄にもなく飲み過ぎた。
にとりに支えられながらふらふらと、守矢神社に帰還したのは日付が変わった後のことだ。

なんで飲み過ぎたんだっけ。

 記憶を必死に掘り起こしてみるけれど、ぼんやりと霞がかかったように形がまとまらない。
誰かと何かをずいぶんと熱く語っていたことだけは覚えている。けれどその内容が思い出せない。

「うーん……?」
 なるべく振動が響かないようにそろそろと洗面所に向かう。
しかし気をつけてはいるのに、頭痛は容赦なく早苗を襲う。

―――大分お酒には慣れたと思ったんだけどなぁ。


 ぱしゃりぱしゃり、山特有のキンキンに冷えた水が顔にかかるたびに、少しづつ脳が覚醒していく。




ドロワーズ様をばかにするなぁっ!




「ひい!?]

突然脳裏に響いた叫び声に、思わず声が出てしまった。
ぽたぽたと、顔から水を垂らしながら鏡の前で硬直する。

昨日の…宴会の記憶…
その人物は涙目で早苗に向かって吠えていた。

だ、誰だっけ?

輪郭が段々はっきりしてくる。
黒いスカート、白いエプロン、金髪のおさげ…魔理沙!

「ああ…」
魔理沙の涙目と一緒に、昨日の宴会の記憶もはっきりと思い出されてくる。
 つい飲み過ぎるまでに熱く語ったその会話の内容も。
 その会話の内容を思い出し、早苗は顔が自分の顔が熱くなっていくのを感じる。
 かいつまんで大まかにまとめるならば、



ドロワーズVSハーフパンツ




である。
……自分はなんてアホな会話をしていたんだろう。



 昨晩の博麗神社。かがり火揺れる神社の境内、その端で。
 弾幕勝負その他普段の飛行活動時において、いったい何を着用すべきなのか。
 いったい何がきっかけでそんな会話になったのかは思い出せないが、とにかくそんな話題で場が盛り上がったのだ。 
 ぐでんぐでんに酔っぱらった魔法使いが、ドロワーズの素晴らしさを述べ続ける。
 ドロワーズの何がそこまで魔法使いを熱くさせるのか分からない。しかし一部の人妖の沈黙をよそに、魔理沙とそのほかのドロワ派の者達はその良さを語り、ヒートアップしていく。

「―――で、早苗。お前は何穿いてんだ?当然ドロワ様だよな?」

ドロワ様ってなんですか。

そう突っ込みを入れたかった。が、魔理沙の目が据わっていることを見てとった早苗は余計なことは言わなかった。たった一言、冷静に。



「ハーフパンツです」
「なんでだよおおおおおおおおおお!」

八の字眉の絶叫顔が迫る。


「やかましい」
「うげっ」
酒しぶきを早苗の顔にまき散らしながら絶叫した魔理沙は、霊夢の振るった一升瓶で沈黙させられた。
 顔をぬぐいながらふと振り返ると早苗の隣で文と椛が嬉しそうな顔をしていた。聞くと天狗はスパッツらしい。
 ドロワ以外の派閥がちゃんといたことが嬉しかったようだ。


 ぷるぷる後頭部を抑えて震える魔理沙に向き直る。
 そしてそんな魔理沙を見下ろし、あくまでも冷静に言い放った。

「運動着と言えばこれでしたし」
学校の運動着と言えばこれ。袴の裾をちょいとめくって若草色に紺のラインの入ったハーフパンツをチラ見させる。にとりがきゃっと言って姿を消した。案外初心ですね。にとりさん。横では雛が早苗をじっと見ていた。

「お前!おっ、お前、聞いてなかったのかよ!今までどれだけドロワ様の素晴らしさについて語ったのか!えっ?それなのに、それなのにおまえはっ、なんで、はいてねえんだよぉ!」

「聞いたのは今ですからね。いくら魔理沙さんがドロワの素晴らしさを説かれてもそれは今。私は前からハーフパンツだったのですからそんな無茶を言われる筋合いはありません」

「様をつけろよ早苗ちゃんよおお!」

酔っ払いのトンでも論理に冷静に突っ込むあたり、自分も相当に酔っぱらっていたようである。

よーしいけ!頑張れ!
 後ろから天狗コンビがはやし立ててくる。
 煽られた早苗はニヤリと不敵にほほ笑むと、手に持った盃の中身をぐいと飲み干し、勝負を開始したのだった。

「それでは、申し上げますが、私がハーフパンツを愛用する理由といたしましてはですね……」






時間は朝に戻る。

「……うあうあ」
なんでどうして酒の席ではあんなアホな話を恥ずかしげもなく話せるんだろう。
 忘れてしまえれば楽なのに。酒の席での記憶を、早苗は覚えている方だった。
 結局あのあと、ドロワ様VSハーフパンツ論争はうやむやのうちに双方へべれけとなって終わった。去り際、アリスに支えられた魔理沙が悔しそうにこちらに向かって叫んでいた。



ドロワ様を馬鹿にするな!お前には絶対、ドロワ様の祟りがある!おぼえてろよ!

そう言われた早苗はふふん、と鼻を鳴らしてのたまったのだ。


「いいでしょう。ドロワの祟り、見せてもらいましょうか!」
「様をつけろおおおおお!」



…アホだなあ。私たち。





「早苗ー?いつまで顔洗ってんの?ごはん食べるよー。早くおいでー」
 諏訪子が呼んでいる。おみおつけのいい匂いに、早苗のお腹がぐぅ、と鳴った。
「今行きますー!」
 ズブ濡れのまま放置していた顔を改めて一回洗うと、そばにあったタオルに手を掛け、顔を拭う。


…タオルの肌ざわりではない。

「ふえっ?!」


驚いて顔を放し、今まで手に持っていたものを確認する――――ドロワだ!―――――

「なぜっ!?」

見まごうこと無きまっさらなドロワーズ。なんでどうして。この神社でドロワをはいている者はいないはずなのに。
 よく見ると端っこに何か刺繍してある。


"はいてね☆ドロワ様より"



 早苗は無言で洗濯かごの中にドロワを投げ込んだ。
 そしてなにも見なかったことにして居間へ向かった。

 捨てはしない。だっていい子だから。
 
 
 

*****

 
「くう……」
見なかったことにしようとした早苗の努力は無駄に終わった。

その日一日中、「ドロワ様の祟り」が次から次へと早苗に襲いかかったのである。


台所の暖簾がドロワに。
電気スタンドカバーがドロワに。
玄関の花瓶敷きがドロワに。
玄関マットがドロワ柄に。
新聞の折り込みがドロワに。

まさかと思って駆け込んだ洗面所のタオルはやっぱりドロワに。
朝に洗濯かごへ投げ込んだものとは別物だった。
慌てて確かめに戻った自室。
ハーフパンツがすべて部屋の中にぶちまけられ、タンスの中にはぎっしりドロワ。

「な、なんですか?何なんですか!?これぇ!?」


叫んだらタライの如くドロワが降ってきた。
「あぶべぼ」
ドロワの山に埋もれた早苗が何とか顔を出して天井を見上げたとき、そこには見慣れた天井があるだけだった。




「…あんたそんなにドロワ持ってたっけ?」

放心状態でドロワに埋もれる早苗。
何事かと様子を見に来た冷静な神奈子の言葉が、どこか遠い所から聞こえるようだった。



 夕方。

 片付け終えた部屋の隅っ子で膝を抱えながら、早苗は考え込んでいた。
おかしい。どう考えても人間業じゃない。
痕跡を全く残さずに神社の中で好き放題やれるなんて。
だいいち、神奈子と諏訪子はまったく気が付いていないのだ。仮にも神様である。何者かが居れば気づくはず。

「紫さん…?」

魔理沙が紫さんとつるんで…いや、ない。
あの魔理沙が紫さんに頭を下げるだろうか。たかがドロワごときで。

にとりさんから光学迷彩を借りて?
それなら気配で分かるはず。


「じゃあ……」
言い掛けた早苗の目の前で自室のドアが突然開く。
開け放たれたドアから、白い稲妻が一直線に廊下から早苗に向って飛び込んできた。

「ひいいっ!?」
ドアのあいた音に驚く早苗。しかし弾幕勝負で鍛えた反射神経は、その白い稲妻を手に持った大幣で撃墜してくれた。


 
「っ…またっ…!」
床に伸びるドロワーズ。その隅っ子にはまた刺繍がしてあった。


"どうしてはいてくれないのかな?かな?"



「ちょっと…!」
ふと気になってさっき片したドロワーズの山をかき分ける。

はたして、すべてのドロワに刺繍がしてあった。


"はやく☆はいてほしいな"
"さみしいな"
"早苗ちゃんをあっためたいのに"
"私はたぶん30まいめだから"

etcetc…


「ちょ…なによ…何なのよ…っ!何なんですかぁ!?」

震えが止まらない。
まかり間違えば、いや、これはすでにストーカーの手紙レベル。
一体誰が。魔理沙さん? いったいどうやって、何のために。
怖い。
怖いけどどう助けを求めたらいいか分からない。
「ドロワ様の祟り」をどうやって二柱に説明する?
からかわれてると思われるのが落ちではないのか?
怖い。
怖い…!


「早苗ー!」
「はひゅっ」

階下からの突然の呼びかけに思わず変な声が出た。
階段の下からは諏訪子の帽子の目玉が覗いている。

「な、なんですかぁ?」
「お届け物。あんたに」

そう言うとタオルを肩にかけ、諏訪子は風呂場に歩いて行った。
果てしなく嫌な予感がする。できれば受け取り拒否したい。
しかし「それ」と分からない以上、一応受け取らなければなるまい。

恐る恐る階段を降りて玄関に向かった早苗を待っていたのは、椛だった。

「あ、椛さんでしたか」
「…?早苗さん、どうかしました?なんだか疲れたような顔ですが」
「いえ、すこし…」

よかった。椛さんなら「祟り」とは無関係であろう。だって椛さんはスパッツ派だもの。
心の中で早苗は額の汗を拭う。

「ところで、お届け物だそうですが…」
「ああ、はい、これです」

そう言って椛が手渡してきたのはきれいにリボンでラッピングされた箱だった。
嫌な予感が全身を駆け巡る。

「こ、これ…は?私、誕生日今日じゃないですけど…」
「いえ、私にもちょっと分からないんですよね。滝の詰め所にいつの間にか届けられていたんです。『早苗さんへ』ってメモと一緒に」

二の腕に鳥肌が立つ。冷たい汗が首をつたう。

「ちょ、ちょっとそれって…」
「ええ、私達もちょっと疑ったんですけど。危ないものじゃないかって。でも私含め何名か鼻に自信のある者で嗅いでみたんですけど、特に危険なにおいはしませんでしたね」

あれだったら危険な匂いなんてするわけもない。

「という訳で、はい。確かにお届けしました」
「は、ひ、ひえっ」

椛に箱を渡されたが、思わず手を引っ込めてしまった早苗は箱を取り落とす。玄関マット―――すでに元に戻してある―――の上で箱が跳ねた。

椛が怪訝な顔をしている。
「……早苗さん?」
「は、いえ、ちょ、ちょっとびっくりして…!」

あはは、はは、と無理して笑う早苗。

「…まだ昨日のお酒が残ってますか?今日は早く休まれた方がいいですよ」
「そ、そうします…」
「じゃあ、私はこれで。あ、来週の非番の日、一緒に飲みましょう。私の同僚が早苗さんと飲みたいそうですよ。予定、あけといてくださいね。それでは!」

そう言って踵を返す椛の尻尾を、いつの間にか早苗は握りしめていた。

「あふううううううう!?」
「ま、待ってください!」

剣と楯を取り落とし、玄関で四つん這いになって震える椛に向かって、早苗は何とか言葉を絞り出す。
「ご、ごめんなさい…!箱、一緒に開けてもらえませんかっ!」
「し、しっぽぉぉぉぅぅ!」

顔に影入れて真剣に頼み込む早苗の握力は存外に強く、椛はただ悶えることしかできなかった。




「……」
「あけます…」


嫌に真剣な顔をしてリボンを解く早苗。見つめる椛。


「ううっ」
「何やってるんです」


気合いを入れて持ち上げたはずの箱の蓋は、マッハの速さで元に戻された。


「だっ、だめです…っ」
「ああもう!」

案外椛は短気なところもあるようだ。目を閉じて箱のふたを抑える早苗の手をむんずとつかむと、そのままふたごと持ち上げた。

「ちょっと椛さ…ひいいいいい!」

驚いた早苗は見てしまった。箱の中にまるで宝石のように詰め物の間に入れられている、真っ白なドロワ様を。

「メモが入ってますね。えーっと、『あなたのあしながドロワ様より』。
「いやあああああああっ!」

爆ぜる神風を身にまとい、気がつけば早苗は玄関と椛とドロワを吹き飛ばして夜の空へと飛び出していた。

「いやあああ!もういやあああ!」

泣きながら一直線に湖に向かって飛んでゆく。特にどこへ向かって飛ぼうとしてはいない。ただただ、あれから逃げたかった。


眼前に、浅瀬の御柱の林が迫ってくる。
その御柱の先端がすべて白く輝いているのを、早苗は見てしまった。

「ひっ!」


そう、それは月明かりを受けて白く光るドロワーズ。
すべての御柱の先端に、地蔵にかぶせた笠のように、ドロワーズがかぶせられていた。


「ぎっ!」

混乱して目測を誤った早苗は御柱に接触、浅瀬に墜落する。
足首程の深さの水だったため、湖底からの衝撃が大きく、すぐには飛び上がれない。

「あ、あああ…」

肩を押さえて空を見上げる早苗の視界で、ドロワーズがくるくると踊っていた。
空からあとからあとからドロワーズが降り、円を描いてぐるぐるまわりだす。
ドロワ曼荼羅だ。


ぴしゃっ。
水音ひとつ。
恐慌状態の早苗は気がつかなかった。後ろから迫る人影に。

「ひゃああ!?」

振り向いた早苗の視界が奪われる。
頭から何かをかぶせられた。
必死にもがいて振り払おうとするが押さえつけられた手は重く、びくともしない。

「さあ――――」

声が聞こえた。

「ドロワーズを穿かない子は、ドロワーズにしちゃおうねえ…」

「むぐーっ!」


布が押し付けられる。息ができない。
被せられているのはやっぱりドロワなのだろう。
なんで、なんでこんな目に!
もがけど叩けど、布は取り払えない。
だんだん意識がぼんやりしてくる。酸欠だ。


わたし、ドロワに、させられ、ちゃうの……?
諏訪子、様…

神奈子様…!




















「オンバシラ!殴打撲殺モード! ぶっ飛べえええええ!」

「んぐあ!?」




体の前を大質量の物体が通り過ぎる感覚。そして悲鳴。

悲鳴と同時に早苗の視界と呼吸が回復する。
「げほっ、げほっ!」
「早苗!大丈夫かい!」

割れる様に痛む頭をこらえて見上げれば、でっかい御柱を宙に浮かせた神奈子がこちらへ飛んでくるところだった。

「かな…こさま…」
「しっかりしな!なんだい、ありゃあ!」

あれは何か?

「どっ」

一瞬言い淀む。

「ドロワ様です…ドロワ様の祟りです…」
そういうなり早苗はぐったりと神奈子へ倒れ込んでしまった。



「ドロワ様…だって…?」
あまりにも不可解なその単語に神奈子は眉をひそめる。しかし、そのトンでもな言葉を信じないわけにはいかなかった。

神奈子の眼前では、バラバラと白鳥が飛び立つようにドロワーズが空へ向かって飛んでいく。
水面から、御柱の上から。
パタパタと羽ばたいているのがまた悪夢的な光景だった。


「な、なんだい、ありゃあ…」

神奈子の耳に半鐘が聞こえてくる。天狗の里の空襲警報だ。
飛んでいゆくドロワをアンノウンと認識したらしい。

「……」


オーマイガッ!と叫べないのが、なんとなく悔しい気がする神奈子だった。









*****

「だから、いったろ?祟りがあるって」
「ううう…」

あのあと、熱を出して寝込んだ早苗の所へ、魔理沙がお見舞いに来ていた。
早苗から事情を聞いた神奈子の厳しい尋問があったが、アリスその他のアリバイ証明によって何とか切り抜けられたそうだ。

 天狗の里の大騒動は麓からでも窺い知れるほど大規模なものだった。
 手すきの天狗はすべて空へと上がったのだが、その半数がドロワに顔へ取りつかれて、気絶しながら落ちてきた。
 妖怪の山の空戦力はガタガタになった。天魔様は非常事態宣言を出したらしい。

「いったい…何なんですか…ドロワ様って…ドロワーズって…」
「ドロワ様はドロワ様、ドロワーズはドロワーズなんだよ」
林檎を剥きながら魔理沙が答える。
「ずるいですよ、それ、いちばんずるい答え方ですよ…何も分からない…」
布団をかぶりながら、早苗がつぶやいた。

「まあ、そうだなぁ…」

頬をポリポリ掻く。

「突発的に湧き上がるパトス…」
「わかりませんよおおおおお!」







あんなことがあったけれども、早苗はハーフパンツをはいている。
次は負けない、と悲愴な面持ちでこぶしを握った早苗の姿に、つよくなったねと2柱は静かに涙を流すのだった。



こりゃあもう踊らにゃ損だと思ったんです。
コメント



1.脇役削除
もう踊りましょう!
ドロワと踊れ!が今回のプチの合言葉です!
2.名前が無い程度の能力削除
これもう普通に異変じゃね?wwww