「クソッ、何故だ、何故できない!?」
悔し紛れに振り下ろされた拳が、古びたテーブルの天板を激しく叩く。
包丁、まな板、鍋、フライパン。使い古された調理器具と、これでもかと言うほど並べられた食材の数々。
それらを前にして、霧雨魔理沙は渋面を隠すことができずにいた。
「調理方法、器具、食材……真似られるところは全て真似たはず。なのに、どうしても早苗と同じ味が出せない……!」
唇を噛みながら、目の前に並べられた料理の山を睨みつける。
目玉焼き、野菜炒め、味噌汁、煮物、焼き魚などなど。
美味しそうな匂いを漂わせてはいるが、どれもこれも、魔理沙にとっては失敗作である。
震える手で箸をつかみ、一口つまんで歯軋りする。
「違うんだ、確かにそこそこいい出来ではあるし、実際美味でもある……でも、早苗の料理の深みには到底及ばない」
前に食べさせてもらった早苗の料理の味を思い出し、魔理沙は深く肩を落とす。
「わたしの負け、か……」
翌日、魔理沙の姿は守矢神社の境内にあった。
だがそこにいたのは彼女だけではなく、友人である少女たちの姿も多数見える。
「おう、霊夢……お前もダメだったか」
「……ええ。どうしても、早苗の料理のような味にならなくて……」
「わたしもよ、魔理沙」
「アリス。お前もダメだったのか」
「ええ。あなたたちと同じ理由でね」
「クソッ。いったいなんなんだろうな? 早苗の料理にだけ存在する、あの妙に深い味わいは……」
「それが信仰の力というものです」
穏やかな声音が響き渡る。少女たちが一斉にそちらを見ると、そこには現人神の少女の姿が。
「信仰……どういう意味だ、早苗」
「言葉通りですよ、魔理沙さん。日々八坂様に祈りと感謝を捧げているこの私の信仰心が、料理の味に深みを与えているのです」
「つまり、米粒一つ一つに神が宿っていると」
「じゃあ、あれが神の味だとでもいうのかよ」
「その通りです。皆様も自らの舌で味わったのではありませんか?」
少女たちが顔を見合わせ、ごくりと唾を飲み込む。
確かに、数日前にご馳走になった早苗の料理には、生まれて初めて体験した、と言えるほどに奇妙な味わいがあった。
どれだけ頑張っても、自分たちでは再現できなかったあの味。まさか、あれが神の味だとは。
「ですが、私はもちろん、あの味を独り占めするつもりはありません」
「……わたしたちに神奈子を信仰せよ、というのね?」
「はい。別段毎日祈りを捧げていただく必要はありませんけど」
「つまり?」
「素敵なお賽銭箱は、ここですよ?」
にっこり微笑みながら、早苗が賽銭箱を手で示してみせる。
少女たちはお互いの顔を見合わせたあと、無言で財布に手を伸ばした。
その夜。
静まり返った守矢神社の母屋の廊下を歩いていた諏訪子は、居間に明かりが灯っているのを発見した。
(神奈子が晩酌でもしてるのかな?)
はて、それにしては神らしき気配は全くない。
首を傾げつつ襖の隙間から部屋の中を覗き込んだ諏訪子は、吃驚仰天した。
なんと、ちゃぶ台の前にどっかり座った早苗が、泣きながら一升瓶をラッパ飲みしているではないか!
「ちょ、なにやってんの早苗!」
慌てて部屋に飛び込み、早苗から一升瓶を取り上げる。
抵抗するかと思ったが、早苗は糸の切れた操り人形のようにちゃぶ台に突っ伏してしまう。泥酔しているようだ。
「……ホントになにやってんの。お酒なんか飲んだこともないくせに……」
「諏訪子様……わたしはもうダメです」
ちゃぶ台にほっぺたをくっつけたまま、早苗が嗚咽混じりに呟く。
一升瓶を床に置き、早苗の背中を擦ってやりながらふとちゃぶ台の上を見ると、そこには最近すっかりおなじみとなった小瓶が一つ。
「……ああ。これのことで悩んでたのね」
「……こんな。こんなものを頼りに信仰を獲得してよいものなのでしょうか。よりにもよって、こんなものを神の味、だなんて。冒涜です」
「いやあ、でもその冒涜される神様本人が認可しちゃってるからねえ。こいつを使った早苗の料理がビックリするほど受けたからって、神奈子もえげつないこと考えるよホント」
「こんなものを神の味だなんて。わたしは、わたしは……!」
とうとう、早苗が声を上げて泣き出した。
不憫だなあ、と思いながら、諏訪子は無言で小瓶を見つめる。
この小瓶の中に詰まっている白い粉は、幻想郷ではともかく、外の世界ではおなじみの調味料である。
サッと一振りするだけで、料理の味を引き締めてくれる魔法の粉。
その名は無敵の、味の素である。
悔し紛れに振り下ろされた拳が、古びたテーブルの天板を激しく叩く。
包丁、まな板、鍋、フライパン。使い古された調理器具と、これでもかと言うほど並べられた食材の数々。
それらを前にして、霧雨魔理沙は渋面を隠すことができずにいた。
「調理方法、器具、食材……真似られるところは全て真似たはず。なのに、どうしても早苗と同じ味が出せない……!」
唇を噛みながら、目の前に並べられた料理の山を睨みつける。
目玉焼き、野菜炒め、味噌汁、煮物、焼き魚などなど。
美味しそうな匂いを漂わせてはいるが、どれもこれも、魔理沙にとっては失敗作である。
震える手で箸をつかみ、一口つまんで歯軋りする。
「違うんだ、確かにそこそこいい出来ではあるし、実際美味でもある……でも、早苗の料理の深みには到底及ばない」
前に食べさせてもらった早苗の料理の味を思い出し、魔理沙は深く肩を落とす。
「わたしの負け、か……」
翌日、魔理沙の姿は守矢神社の境内にあった。
だがそこにいたのは彼女だけではなく、友人である少女たちの姿も多数見える。
「おう、霊夢……お前もダメだったか」
「……ええ。どうしても、早苗の料理のような味にならなくて……」
「わたしもよ、魔理沙」
「アリス。お前もダメだったのか」
「ええ。あなたたちと同じ理由でね」
「クソッ。いったいなんなんだろうな? 早苗の料理にだけ存在する、あの妙に深い味わいは……」
「それが信仰の力というものです」
穏やかな声音が響き渡る。少女たちが一斉にそちらを見ると、そこには現人神の少女の姿が。
「信仰……どういう意味だ、早苗」
「言葉通りですよ、魔理沙さん。日々八坂様に祈りと感謝を捧げているこの私の信仰心が、料理の味に深みを与えているのです」
「つまり、米粒一つ一つに神が宿っていると」
「じゃあ、あれが神の味だとでもいうのかよ」
「その通りです。皆様も自らの舌で味わったのではありませんか?」
少女たちが顔を見合わせ、ごくりと唾を飲み込む。
確かに、数日前にご馳走になった早苗の料理には、生まれて初めて体験した、と言えるほどに奇妙な味わいがあった。
どれだけ頑張っても、自分たちでは再現できなかったあの味。まさか、あれが神の味だとは。
「ですが、私はもちろん、あの味を独り占めするつもりはありません」
「……わたしたちに神奈子を信仰せよ、というのね?」
「はい。別段毎日祈りを捧げていただく必要はありませんけど」
「つまり?」
「素敵なお賽銭箱は、ここですよ?」
にっこり微笑みながら、早苗が賽銭箱を手で示してみせる。
少女たちはお互いの顔を見合わせたあと、無言で財布に手を伸ばした。
その夜。
静まり返った守矢神社の母屋の廊下を歩いていた諏訪子は、居間に明かりが灯っているのを発見した。
(神奈子が晩酌でもしてるのかな?)
はて、それにしては神らしき気配は全くない。
首を傾げつつ襖の隙間から部屋の中を覗き込んだ諏訪子は、吃驚仰天した。
なんと、ちゃぶ台の前にどっかり座った早苗が、泣きながら一升瓶をラッパ飲みしているではないか!
「ちょ、なにやってんの早苗!」
慌てて部屋に飛び込み、早苗から一升瓶を取り上げる。
抵抗するかと思ったが、早苗は糸の切れた操り人形のようにちゃぶ台に突っ伏してしまう。泥酔しているようだ。
「……ホントになにやってんの。お酒なんか飲んだこともないくせに……」
「諏訪子様……わたしはもうダメです」
ちゃぶ台にほっぺたをくっつけたまま、早苗が嗚咽混じりに呟く。
一升瓶を床に置き、早苗の背中を擦ってやりながらふとちゃぶ台の上を見ると、そこには最近すっかりおなじみとなった小瓶が一つ。
「……ああ。これのことで悩んでたのね」
「……こんな。こんなものを頼りに信仰を獲得してよいものなのでしょうか。よりにもよって、こんなものを神の味、だなんて。冒涜です」
「いやあ、でもその冒涜される神様本人が認可しちゃってるからねえ。こいつを使った早苗の料理がビックリするほど受けたからって、神奈子もえげつないこと考えるよホント」
「こんなものを神の味だなんて。わたしは、わたしは……!」
とうとう、早苗が声を上げて泣き出した。
不憫だなあ、と思いながら、諏訪子は無言で小瓶を見つめる。
この小瓶の中に詰まっている白い粉は、幻想郷ではともかく、外の世界ではおなじみの調味料である。
サッと一振りするだけで、料理の味を引き締めてくれる魔法の粉。
その名は無敵の、味の素である。
今日は早苗さんの味の素か
確かにあれは美味いよね。出汁をとる手間もいらないし
それにしても早苗さんは可愛いなぁ
それほど高いモノじゃ無いだろうし、試しに買ってみるかなぁ
詐欺だよ早苗さん!
ってーか神奈子サマなにしてんの!
というかおまいらwwwww料理のためだけに賽銭入れんなwww
とかいいつつ
つ十円
料理上手な咲夜さんあたりはどう評価するんでしょうね、味の素。
万能調味料の名は伊達じゃないのね。CMで卵かけご飯にもかけてたし。
ちょっと味の素買ってきます。
でも味の素ってただのL-グルでしょう。永琳に限らず製薬に通じた魔女とかあたりなら簡単に精製できると思うけれど・・・。魔理沙だって独学で丹を作れるぐらいには精通してるし。
まあその辺は、そもそもそういうものがあるという発想がなかったってことで勘弁してやっていただければ。
理屈さえ理解すれば、あなたの仰る通り精製するのは簡単であると思われます。