Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

吸血鬼のすべらない話

2008/10/16 23:22:14
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※ カリスマや真面目さは途中までです。予め告知させていただきます。








『ねぇ。』

彼女はテーブルの上のワイングラスを手に取り唐突に切り出した。

テラスのテーブルに面した椅子に2人が座っていた。
片方は小さな吸血鬼。

美しい月夜だった。
満月とまでは言わないが、丸く大きな月が霞がかって見えている。
きっと湖の影響なのだろう。

その月に照らされて彼女が語り出している。
けらけらと無邪気な笑い声をたてながら。
軽やかにワインを飲み干しながら。

『何故、吸血鬼が血を飲むのか、知ってる?』

空になった彼女のワイングラスは、大きな音をたてて強引に机へ叩き落された。
割れるのではないかとも思ったが、別段ヒビも入っていない。

「吸血鬼だから、という回答では不満かな?」

冷えた秋風が薄着の服に突き刺さる。
寒さを紛らわすように、あのメイドに出された紅い紅いワインに手を伸ばす。

眼鏡の奥で真意を窺いながら尋ねた。
彼女の事だ、きっと気紛れなのだろうが・・・と一抹の不安を隠せない自分が居た。

不安を見せないようにも少しずつワインを飲む。

『不満も不満。私たち夜の王が虫けらと同じ扱いとは巫山戯てるわ。』

不意にあのメイドが現れ、彼女のグラスにワインを注ぐ。
心なしか自分に出されたワインより紅く見えた。

彼女は変わらず無邪気な笑いを保っていた。
吸血鬼は何時もこう傲慢なのかと思うと頭が痛くなる。

「だったら・・・どう答えれば満足なのかい?」

空になったワイングラスを手持ち無沙汰にしていた自分に、彼女はこう答えた。

『そうね、吸血鬼だからと答えてくれれば満足よ。』

巫山戯ているのはどっちだと言いたくなる。
しかし現に彼女は満足しているようだった。
事実、苛々するように乱暴に飲んでいた葡萄酒に手を出していなかった。

『私達が人の血を欲するのは本能。』

彼女は足を組み替えて語り出した。

辟易しながらグラスを手元に置く。
どちらかというと自分は日本酒派なのだが。

「だとしたら、あの虫となんら変わらないな。」

軽くあざ笑った自分に彼女も笑い返す。

すでに自分のワイングラスにはなみなみと葡萄酒が注がれていた。
あのメイドの姿は見えなかったが、代わりにトランプが1枚落ちていた。

『だから私は蚊が嫌いなの。』

椅子にもたれかかっていた彼女は身を乗り出すようにして笑った。

最良の遊び相手を見つけたように、片頬を吊り上げた笑い方を彼女はした。
長い夜になりそうだ。

『ねぇ』

霞がかっていた月が紅く染まる。
肩肘をついて、頬に手を当て、ワインで微かに塗れた唇で、彼女は問いかけた。

『あなたは、昼と夜で感覚が違う事って無い?』

威圧感で息が詰まるような感触を覚えた。
なんとも形容しがたい存在が目の前に居た。

彼女は500年生き続けた吸血鬼だという。
容姿や素っ頓狂な行動からは想像がつかないが、やはり吸血鬼なのだ。

「昼は退屈で、夜は眠くなる。」

あくまで平静を装う。
彼女は退屈を紛らわすための相手が欲しいだけなはずだ。

こんな簡潔な回答でよかったのだろうかと、一瞬脳裏を不安がよぎったが、それもすぐ解消された。

『そう、その通り。』

紅く染まっていた月が元通りになっていた。
若しかしたら気のせいだったのかもしれない。

少し拍子抜けしたのが顔に出たのだろうか、至極愉快そうに微笑み、続けた。

『昼は退屈でつまらないのに、夜は退屈を欲しがる。何故だか分かる?』

テーブルから肘を話し、子供に問いかけるようにして彼女は問う。
少しずつ彼女の真意が見えてきたような気がした。

「さぁ、皆目見当もつかないね。」

憎たらしい微笑みで嫌味のように答えた。
自分には彼女は本当に話がしたいだけに思えた。
もう恐れる必要など無いだろう。

『それは太陽の力。大きく、紅く燃える太陽の力。』

そうなれば聞き手に徹するだけだ。
彼女が不満を覚えないように、最小限の相槌を打つように心がける。

『私達吸血鬼は力を求めた。体力、魔力、能力。果ては権力まで。』

違和感の有る文字が混ざっていた。
この際だ。問いかけてみるのも一興かもしれない。

「権力?」

そんな事を考えている間に思わず口に出てしまっていた。
まだ威圧感を感じていたのかもしれないな、と自嘲する。

『ええ。昔には権力を求めたヴァンパイアも居たわ。もう消えてしまっているでしょうけど。』

あまり満足のいく回答が得られなかったが、彼女は満足しているようだった。
暇つぶしの時間が延びたから。

『そこで吸血鬼は求めるようになった。
 人や妖を活動的にさせる圧倒的な太陽の力を最大限に。
 しかし、イカロスのように、吸血鬼自身も羽をもがれてしまった。』

彼女はすっとワイングラスへ手を伸ばした。
場に張り詰めた緊張の糸がふいに切れたように感じた。

机の傍を見やるとトランプが消えていた。
そしていつのまにか彼女の目の前にはチーズと納豆が置かれている。
チーズは、ワインのあてなのだろうか。
しかし、納豆に関しては単に食べたいだけなのだろう。

発酵食品フリークスの吸血鬼・・・正直言ってあまり良い物には思えない。
しかしあのメイドの能力はこの吸血鬼に、最大限生かされているのだろう。

チーズを一切れ手に取った彼女に問いかける。

「有るじゃないか」

チーズを租借していた彼女はそっとワインを口に含んでから答える。
最初の粗暴だったあの態度が嘘のような、紳士的な振る舞いをしていた。

『例え話よ。実際にもがれたわけじゃない。
 私達が失ったのは蝋の羽じゃなく、日光の下に居られる権利。』

不意に椅子から立ち上がり、指を鳴らし、空を仰いだ彼女はこう付け加える。

『そう、吸血鬼は光を力に変える呪いを血に刻んだ。
 しかし、呪いは生まれた自らの力で身を焦がすようなものだった。』

片手をテラスの柵に乗せ、湖を見やる吸血鬼の姿は見とれるほど美しかった。
絵になるのではないだろうかとも思える光景だった。






後方であのメイドが納豆を混ぜてなければ。

『私達は月のほどよい光の加護が無ければ生きていけない。』

お構いなしに続ける吸血鬼とメイド。

メイドの方を見ていた自分に、メイドは小声で問いかけてきた。
『いりますか?』と。小声で丁重に断った。

『だから、私達はこの呪われた血を清めるため、人の血を欲しがるのよ。』

吸血鬼自身は決めたつもりなのだろうが、メイドで台無しだった。

これがこの吸血鬼のやり方なのだろう、と痛くなる頭を必死に納得させた。
そういえば、立ち上がるときに指を鳴らしていたが、あれが合図なのだろうか。

『さて』

そう考えていた自分に声がかかった。
柵から手、湖から目を離し、音も無く椅子に座った彼女は私の方を見やると、話しかけた。
彼女の目の前には良くかき混ぜられた納豆が置かれていた。

『貴方はどんな面白い話を聞かせてくれるの?』









「そうだな・・・こんな話はどうかな?」

彼女は話し始めた自分を、先ほどの威圧の表情で見つめていた。

「僕の知り合いの話になってしまうが、構わないな。」

問いかけは、複数の回答があってこそ成り立つものだという。
だとしたらこの問いかけは問いかけですらなかったのだろう。

『ええ。』

予想通り、彼女はさも嬉しそうに答えた。

「僕の知り合いの、金髪の少女の話だ。」

彼女は静かに、ワインを口に含みながら話を聞いていた。
豪華な机には気ままに齧られたチーズと、依然として佇む納豆があった。

月はいつの間にか傾いていた。
不思議なものだ、最初あれだけ肌寒く感じていた秋風が身にしみなくなっていた。
きっとあのワインは特別なものだったのだろう。

「彼女は魔法使いを自称する人間だ。」
「黒い服を着て、魔法の森に一軒家を構え、そこに住んでいる。」

彼女はもうその少女の検討がついたのだろう。
少し残ったワイングラスをかすかに揺らしながら目をつむり、話を聞いていた。

「そんな少女の話だ。」

そこで一端間を置いて、自分は少しだけワインをすすった。
クスクス、と笑うのが聞こえた。

『それは、あの黒鼠の事かしら?』

はっきりと目を見開いて彼女は尋ねてきた。
困ったような顔をして自分は答えた。

「さぁ? ご想像にお任せするよ。」

わざとらしい演技に満足したのか、彼女は再び黙り込んだ。
手元にワインが少し残ったワイングラスを置いて。



「その彼女がレズだ。」









パリンというガラスが割れる音が響いた。
見やると彼女が手元に置いていたワイングラスが、机から零れ落ちていた。
テーブルクロスはかすかに紅色で染まり、彼女は帽子が取れそうなくらいうつむいていた。

刹那、メイドが飛んできて硝子の片付けとクロスの張替えを行った。
さらにワングラスを新たに準備し、ワインを新たに注いだ。

勿論、これらは気付けばそうなっていたということで、実際に見たわけではない。
しかし、ワインの染みや破片の消滅。
新たなワイングラスの出現や、さらにそこに注がれているワインから見て間違いないだろう。

さて、当の吸血鬼はうつむいたまま微かに肩を震わせていた。
随分とこの話が御気に召したらしい。

震いが止まったと思ったその時、平常を装った顔つきで此方を睨んだ。

『もう一度だけ、話をする機会を与えるわ』

しかし、その短い言葉と仕草が限界だったのだろう、再び吸血鬼はうつむいた。
先程の威圧感とは違い、そこには見た目相応の少女が居る気がした。

「こんな話はどうだろうか。」

平常を装った幼い吸血鬼は話を聞きながら、再び注がれたワインに手を伸ばす。
そして、少し混乱しているのか納豆にも手を伸ばした。
上手に箸を使って食べているが、間違いなくあれでは葡萄の芳醇な香りを楽しめないだろう。

しかし彼女には毛頭そのような考えは頭に無かったのだろう。
彼女は平常を装って、いじらしく咀嚼を続け、ワインを口に運んだ。

そこに私は話を続けた。



「知り合いがレズだ。」








吸血鬼は盛大に納豆と葡萄酒を噴出した。
なんというか、御免なさい。
紙細工
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
この会話を柱の裏で聞いていたパッチェさんがドン引きするんですね!!
わかります!!!
2.名前が無い程度の能力削除
例の番組もこの程度なんですかね?
スベリまくってますね。
3.名前が無い程度の能力削除
つーか咲夜さんの「いりますか?」でやられた。
貰います。貴女をテイクアウトで
中身は淡々とした会話なのに破壊力が!そして何故この二人?
4.名前が無い程度の能力削除
姉がレズ発言は言い方と状況で笑わせたから文章にすると笑いにくいかも
5.Unknown削除
この河本の姉貴ネタをフランドールで動画にした奴があったような
6.名前が無い程度の能力削除
元のシーンを知らないと笑いにくいかもしれん
盛大に笑いましたが
7.名前が無い程度の能力削除
元ネタがわからないが、咲夜さん(と納豆)で笑わざるを得ない。
8.名前が無い程度の能力削除
知らないけど笑ったわ