Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

Forget-Me-Not ~勿忘草をおまう等に~

2008/10/11 23:45:38
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※根本的に俺設定まんさーい。
※プチ30『悪魔って言ったらやっぱアレだろ? ゲーム脳的に考えて』と微妙にリンクしてます。













 新しい朝が来た 絶望の朝だ 悲しみに胸を痛め 大空呪っちゃえ(はぁと)
 ロリィな声と なだらかな胸と この紅い霧を讃えよ それ 『れみ りあ ☆ うー♪』

                                 『紅魔館ラジヲ体操の歌』より







 皆さん、おはようございます。紅魔館門番の美鈴です。
 さて、世間一般では爽やかなイメージの朝もウチのお嬢様達にとっては忌まわしいものでしかありません。そして、その日の朝は私にとっても悪い形で訪れたのです――。








 東方幻想狂 【Forget-Me-Not ~勿忘草をおまう等に~】







 その日、いつも通り職務に励んでおりますと、白黒魔法使いも吃驚する勢いで紅白巫女がカッ飛んで来ました。

「あ、霊夢さん。おはようござ――いっ!?」
「陰陽玉を喰らえっ!」

 ガォンッと、霊力で加速された人頭大の陰陽玉が、直前まで私の頭のあった箇所の門柱を抉ります。魔理沙さんの不意打ちスパークに慣らされて無かったら今頃は……。

「ちょっとォ、いきなり何しますかぁ!!」
「うっさい黙れ。夜中に神社荒らしてったのはあんたらでしょーに!!」

 霊夢さんは大声で怒鳴り散らしながら1枚のカードを突き付けてきます。


 『湖の吸血鬼 参☆上(はぁと)』


「……何ですか、この落書きは?」
「犯行現場に残された動かぬ証拠に決まってるでしょ。さあ、レミリアを出しなさい、レミリアをっ!!」

 何事かと思えばこの赤貧巫女め。最近、カリスマ漏れとれみりゃ化が著しいとはいえ、こんな間抜けなカード1枚でお嬢様を犯人扱いとは不届き千万。お腹が空くと怒りっぽくなるって話は本当ですね。

「濡れ衣です。そもそもお嬢様は『夏休みのバカンスといえばナンゴクよね』と仰って1週間ほど不在ですから。それに誇り高き紅魔館はそんなチンピラみたいな真似しませんよ。やるなら正々堂々真っ正面から喧嘩売ります」
「じゃあ他に誰がやるってのよ? ウチの居候共がメイドも一緒に見たって証言してんのよ! だいたい吸血鬼が南国バカンスって何様? そんな無駄なことする銭があるんなら、素敵な賽銭箱に寄進すべきでしょうに。それと勝手に結界抜けすんなっ!」

 とまぁ、論点や優先順位がおかしい気もしますが、話は平行線を辿って二進も三進もいかないので、ここは霊夢さんの顔を立てつつ紅魔館の名誉を守るため、一緒に真犯人をぶちのめそうという運びになりました。
 ま、お嬢様達もパチュリー様も咲夜サンも居ませんから、留守番は小悪魔ちゃんにお願いしときましょう。




 ~ 少女移動中 ~




「ふーむ、これは手酷くやられてますねぇ……」
「まったくよ。掃除するこっちの身にもなれってんの」

 博麗神社に着いての第一印象はコレ。鳥居から社殿の至る箇所に『タクランケ』だとか『メイドさん萌え~』だの『わたしゃここにいるよ』だの『私の夢と出番はどこー?』等、どうにも統一性を欠いた罵詈雑言(なのかなぁ?)が落書きしてあります。内容は兎も角、数で勝負といった類の嫌がらせですかね。
 心底面倒そうに溜息をつく霊夢さんに同情を禁じ得ません。紅魔館庭園も神社同様無駄に広いですから。

「ところで居候さん達が犯人を見ているんですよね?」
「ああ、アイツ等ならこっち……」

 何処から手をつけて良いかわからない場合、どんな些細なことでも目撃証言を得ることが大切です。霊夢さんに招かれるまま社務所裏まで行くと、『やくたたずここにねむる』と刻まれた墓石が1つ――って、ええっ!?

「え、あの、ちょっと、れ、霊夢さん? これって、もしかして……」
「ああ、大丈夫よ。悪霊と騒霊、殺そうったって最初から死んでるような連中だし」

 そう言いながら巻き付けられた注連縄を解いた瞬間、墓石は粉々に吹き飛んでその下からとんでもない邪気をまとった緑髪の女性と金髪の少女が這いずり出てきました。

「れーいーむー! お前って奴は加減ってものを知らないの――」
「もう、非道いじゃないの! お気に入りの洋服が泥だらけ――」
「「――あーっ! てめこの、此処で会ったが百年目っ!!」」

 2人は霊夢さんに詰め寄ったかと思うと、今度は凄い剣幕で私に食って掛かってきました。

「うわわ、何のことですかぁっ!?」
「とぼけるんでないよ。オマエ等がさんざっぱら暴れた所為で、霊夢の莫迦がぶち切れちまったじゃないか!」
「そうよそうよ。おかげで伸されて埋められたあげくに石のっけられるわで散々よっ!」

 身に覚えのないことを捲し立てる2人組に辟易していると、横合いから怒気をはらんだ御幣が一閃します。

「便乗で荒らしてたくせに偉そうなことを言うなっ!!」
「「っきゃー!?」」

 強烈な一撃を受けて昏倒する女性と少女。ところが霊夢さんの怒気は収まるばかりか、矛先を私に向けて大きくなる一方です。これって、もしかしなくても『貴方を犯人です』って状況ですか?

「さて、美鈴。どうやら貴方も現場にいたという証言が得られたわ。紅魔館の名誉だの何だのって、結局は事件を誤魔化す方便だったわけね……」
「お、落ち着いてくださいって。天地神明に誓ってまったくさっぱり身に覚えが有りませんから!」
「問答無用! 喰らえ、アーマード陰陽玉フルバーニア――ん?」
「ちょっと待ったぁぁぁっ!!」

 ドゲシッ

 霊夢さんが巨大装甲陰陽玉(ボルボックスのようなアレ)を放とうとしたその瞬間、さらに横合いから現れた何者かに蹴り倒されてしまいました。
 現れたのは蒼の衣にサラサラと流れる銀の髪、そして弁当箱としか思えない重厚な帽子――

「か、上白沢慧音!? あんたいったいどういうつもりよっ!」

 そう、霊夢さんに豪快なヤクザキックをかましたのは人里の守護者、3ボス同盟盟主にしてキーパー組合の同志、知識と歴史のワーハクタク慧音さんだ。
 彼女は睨み付ける霊夢さんを無視して私の方に歩み寄ると、流れるように自然な動作で大きく仰け反ると――

「た、助かりまs」
「こんの、クソッタワケ――がっ!」

 ガツーンっと目から火花の出るくらい強烈な頭突きをかましてくれました。

「痛ぁーっ……な、なにひゅるんレすかっ!?」
「見損なったぞ紅美鈴。里だけでは飽きたらず、今度は神社でも一暴れか? 貴様のようなキーパーの名折れは修正してやるぅぅぅっ!!!!」
「ひぎゃぁっ!」

 今度は私の肩を押さえつけると上体を弓のように反らせて、ガチーンッ、ゴチーンッとまるで掛け矢のような重たい一撃を、鞭のようなしなやかさでもって何度も何度も何度も何度も連発します。




 ~ 少女連続頭突き中 ~




 約10分後、ようやく地獄の責め苦から解放されました。うう、頭蓋が陥没してる。妖怪でなかったら死じゃってますよ、この牛女めっ!

「ふう、すまなかったな霊夢殿。なんせ朝っぱらから追いかけ回してたから巫女が義務を果たす前にこれ位やっておかんと気が済まん。さてっと、残るは2人……」
「いやまあ、別にいいんだけどね。充分退治されまくってた気もするし。ところで朝から追いかけてるって本当? 私も朝から美鈴と一緒だったんだけど……」
「何だとっ!? すると霊夢、貴様も犯人の1人だったか! 里での狼藉は毎度のことだが、自棄になって自分の神社を汚すとは嘆かわしい。そんな巫女、修正してやる!」
「へっ?」

 再び流れるようなモーションで霊夢さんをホールドすると、素早く頭突きの体勢に――って、ヤヴァイです。頑丈さに定評の有る妖怪を文字通り凹ませる一撃です。人間が喰らったら、きっとひとたまりもありません!
 私は落ちていた装甲陰陽玉を拾い上げると、慧音さんめがけて振り下ろします。

「落ち着いてくださいっ!」

 グシャリッ

「……う……ぐ、美鈴、貴様ぁ」

 何という石頭!? 鈍い音を響かせて砕け散ったのは陰陽玉の方でした。しかし、とりあえず慧音さんの注意を逸らすことはできました。さあ、ここからが正念場です。

「慧音さんいいですか、よぉーっく思い出してください。身に覚えなんかありませんが、私と一緒にいたという共犯者はどういう輩でしたか?」
「ん……。見るからに吸血鬼っぽい奴とメイド服の女――おぉっ、巫女なんて居ないじゃないか!?」

 ……大丈夫かなこの人? まぁ、兎にも角にも落ち着きは取り戻したようです。――しかし、3人組とやらが釈明できないくらい紅魔館メンバーと合致してるのがなんともなぁ。

「あのさぁ。見た感じ吸血鬼やメイドってだけじゃ漠然としすぎててアレなんだけど、慧音が追いかけてたってのはズバリ、レミリアと咲夜だったわけ?」

 ナイスな物言いです霊夢さん。そうなんです、そこが焦点なんです。さっきの居候さん達と私とは面識がありません。だからこそ要らぬ誤解を生んだのでしょうが、慧音さんは永夜異変の一件もあって、お嬢様や咲夜サンと顔見知りです。
 加えて慧音さんは幻想郷では数少ない常識人として有名です。まぁ、頭の固いところや思いこみが激しい面もありますが、その慧音さんから否定の証言が得られれば我が紅魔館の潔白は証明されたも同然でしょう。

「いや、全くの別人だな。まぁ、見たのは夜明け前の薄暗い時間帯で、如何にも吸血鬼らしい姿格好の奴とあからさまにメイド服の奴だったので先入観が働いてしまったようだな。言われてみれば吸血鬼とメイドが同じぐらいの背丈だったし、美鈴っぽい奴も頭髪や服装は似ていたが背丈は霊夢殿くらいだったか……」

 言われてチラッと霊夢さんを見る。背丈は私の肩くらい、体型は女性として色々と足りてな……いや、関係ないですね。しかし、それ以外は私に似ているって、いったいどんな奴なんでしょうか?

「いずれにせよ美鈴はシロってことになるわね。まあその、疑って悪かったわ。ごめんなさい」

 さっきまでの剣幕が嘘のようにあっさりと自分の非を認める霊夢さん。同様に慧音さんも誠心誠意謝罪してくれた。なんか釈然としない部分はありますが、誤解が解けたのでよしとしましょう。
 しっかし、ウチのお偉方にも見習って欲しい潔さですね。特にレミリアお嬢様とパチュリー様は超が5つ付くぐらいお互い意地っ張りなんですから。




 ――まぁ、それはそれとして。




「そうすると犯人は何者でどこに行ったんでしょうね?」
「ふむ。神社が荒らされたのは夜中と言ったか? 里に現れたのがさっきも言ったとおり夜明け前だ。配達中の牛乳をひっくり返されてしまってな、子供達の健やかな成長を願って毎朝頑張っているというのに……。急いで追いかけたんだが途中で見失ってしまってな。そのまま神社まで来てしまったというわけだ」
「一晩中騒いでたなら、今頃は住処にでも引っ込んでるんじゃないの? 私が紅魔館に怒鳴り込んでる間に戻ってきた可能性もあるし……」

 ふむ、霊夢さんお言うことにも一理あります。しかし、何か引っかかる言い回しですね。そう、まるで犯人が戻ってくることを判っていたような。

「霊夢さん。犯人が戻ってきた可能性というのは勘ですか? それとも……」
「うーん。実はあんたんとこ以外で湖の吸血鬼とかメイドってのに心当たりがあるのよ。ここんとこ全然見かけなかったからサッパリ忘れてたんだけど、レミリア達が犯人じゃないならアイツ等なんじゃないかなーって」
「スカーレット以外で吸血鬼となると――彼女か?」
「たぶん」

 へぇ、お嬢様達以外にも吸血鬼って居るんですねぇ。慧音さんも知ってるみたいだし、やっぱり手強い相手なんでしょうか。

「だが、彼女――くるみはこんな大それた真似のできるたまじゃないだろう?」
「その通りね。だから問題は一緒にいたっていうメイドの方。考えてみると幻想郷でメイドと言えば、実に厄介な連中しかいないのよ。例えば咲夜。実力及び知名度共に言うまでもなくメイドofメイドね。お次は夢子。最強の魔界メイドとしてその剣捌きには定評があるわ。ついでにアリス。そこで目を回してる悪霊がメイドとしてのイロハを叩き込んだって話はその筋では有名よ。そして最後が夢月。間違ったメイドのイメージを流布する格好だけの偽メイド。本職のメイド達からも煙たがられる名実共に悪魔のメイド。今回の事件はコイツが首謀者に違いないわっ!」

 なるほど、吸血鬼よりメイドの方が厄介なんですか。まぁ、ウチにも厄介な誰かさんが……ってこれはメイド云々より個人の問題ですね。
 それにしても霊夢さん。やけに熱が入ってましたけど、メイドに何か恨みでもあるんでしょうかね?

「幻想郷のメイドがどうあれ、とにかく霊夢さんは犯人達の居場所をおおよそ知ってるんですよね?」
「そうね。多分こっちよ……」

 再び、招かれるままに社務所裏から更に先へと進んでゆきます。10分ほど飛ぶと紅魔湖より二回りほど小さな湖があり、中央の水門から湖底の洞窟に潜ってゆくと、立派な門構えの御屋敷が見えてきました。
 ええっと、確かあそこは……

「あら珍しい。美鈴に慧音――って巫女までいるじゃないの!?」

 そう、3ボス同盟の盟友にしてキーパー組合同志の明日のナ○ジャ……もとい、エリーさんが門番を務める夢幻館だ。館主の幽香さんはフラフラと出歩いて殆ど帰って来ないらしいく、訪れる者も殆ど無いから悠々自適な門番ライフを送れるらしいです。
 まぁ、キーパーとして暇なのは嬉しい限りですが、来客すら無いとなると賑やか好きの私にはちょっと耐えられませんね。

「メイドと吸血鬼を探してるんだけど、確かこの辺りに居たわよね?」
「メイドと吸血鬼? 多分、夢月さんとくるみちゃんなんだろうなぁ。2人ならさっきオレンジちゃんと一緒に帰ってきたけど――なにをやらかしたの?」
「里と神社で少しばかりヤンチャをな。内容的には妖精の悪戯レベルだが当事者としては大打撃だ」
「紅魔館も謂われなく名誉を傷つけられたので、ちょっとばかりお灸を据えてやろうと思いまして」
「あー、そういうことね……」

 事情を知っているのか、エリーさんは苦笑いを浮かべつつ私達を館の一室へと案内してくれました。『忘レナ少女隊本部』と書き殴られたプレートが掲げられる扉の前で、彼女が立ち止まります。

「とりあえずこれだけは覚えておいて欲しいな。彼女達の取った行動は決して支持できることではない。しかし、当時の情勢(国民機の衰退や同人メディアの知名度の低さ)や時代の流れ(新たな情報媒体の爆発的普及)の中で、後進にその立場を譲らざるを得なかった私達という先駆者が存在していたってことを――ねっ!」

 ご静聴ありがとうと小さく会釈したエリーさんは、携えていた大鎌を振りかぶると扉めがけて投げつけました。大鎌は扉ごと部屋中にバラ撒いてあった弾幕をことごとく霧散させて、ブーメランのように戻ってきます。
 中にはメイド風少女と吸血鬼風少女ともう1人の妖怪少女が呆気にとられて立ちすくんでいます。

「ちょ、エリーちゃんの裏切り者ぉ! 折角のトラップが台無しじゃないっ!!」
「どっちが裏切り者よ。目立つからって騒ぎを起こせばいいってもんじゃないでしょ? 隊長のたくましいなwで無い分マシだと思いなさい! さてっと。立場上、私がしてあげられるのはここまで。あとは任せるわ」

 文字通り露払いしてくれたエリーと入れ替わるようにして私達は一気に部屋の中へと雪崩れ込みます。待ち伏せ攻撃は潰したものの、依然地の利は相手側。立て直す隙を与えずに叩き伏せるのがベストでしょう。

「私はあのメイドをやるわ! 美鈴と慧音は吸血鬼ともう1人をお願い」
「心得た」

 迷うことなく黒幕メイド(たぶん夢月さん)に突っ掛かってゆく霊夢さん。慧音さんは吸血鬼(くるみちゃんだと思う)に向かっていったので、残る1人(オレンジちゃんとやら)は私が引き受けます。
 当の相手はやっとのことで状況を把握して迎え撃とうと構えを取りますが今更手遅れです。部屋に飛び込んだままの勢いを活かして、天狗も墜とす神速の跳び蹴りを叩き込みます。

「ちょいなーっ!」
「ちょえーいっ!」

 ガシンッ

「ぬぉ?」
「ぬぁ?」

 練り込んだ気を気で削がれるような感触。丹田(身体中の気が集う箇所。ここの気を乱せばヘロヘロになる)を狙った一撃は、フェイント無しとはいえスピードもタイミングもバッチリだった筈。しかし、攻撃がそこに来ると判っていたかのような絶妙さで完全にブロックされました。
 カウンターを警戒して急いで間合いを離しますが相手から反撃はなく、それどころか何でブロック出来たのかを訝しんでいる様子です。橙色の頭髪に緑を基調とした特徴的な衣装など確かに私に似ていますが、何より驚いたのは彼女の構え型が我流の私と同じ事と彼女に見覚えがある事です。

「ねぇ、貴方もしかして橙子(chengzi )?」
「へ? ……そう言う貴方はもしかして美鈴大姐!?」
「あー、やっぱり橙子じゃない。こんなところでなにやってんのよ?」
 
 橙子は私が大陸で徒党を組んでいた頃の妹分です。彼女に体術を教え込んだのは他ならぬ私であり、跳び蹴りを防がれたのも良くも悪くも型どおりだった故と言ったところでしょうか。
 遙か昔に党を抜けてからは彼女ともそれっきりだけど、まさか幻想郷に流れ着いてるとは思いませんでした。

「大姐が抜けてしばらく後に党は崩壊、みんな散り散りになっちゃいましたよ。私も名前を変えつつ泰、緬甸、老?と各地を転々として、気が付いたら此処にいました」
「ああ、それでオレンジってわけね。それで忘レナ少女隊ってのは何なの?」
「えっとですねぇ……」

 忘レナ少女隊。それは先駆的な存在でありながら、様々な事情で存在感が希薄な弾幕少女(?)達の互助団体。メンバー同士の親睦や投票順位向上を目指したりするらしいですが、神を筆頭にメイドさんや吸血鬼にエンジニア、果ては幻想of幻想とも言える眼鏡っ娘など、多彩なラインナップで幅広いニーズに応えるんだそうです。
 正直、なんのこっちゃか意味不明ですね。

「ところが先日の懇親会で隊長と副長とで一悶着ありまして……まぁ、神と悪魔で元々反りが合わなかったみたいだけど、副長が異変起こして手っ取り早く知名度上げようって強行策に出たんです」
「ふ~ん、それで方々で悪さしてるってわけだ?」
「ごめんなさい。副長とくるみちゃんには普段お世話になってるから頼まれると断れなくって……」

力なく項垂れる橙子。変に義理堅いところまで私にそっくりですねぇ。

「ま、今回の責は後で問うとして、そこで大人しくしてなさい。いいわね?」
「はい」




 さて、取りあえずこれ以上争う気はなさそうなので、他の2人の応援に向かうとしましょう。ざっと周囲を見渡すと、慧音さんと吸血鬼が決着の瞬間を迎えていました。
 例によって慧音さんが相手の抵抗をかいくぐって肉薄し、ごく自然に頭突きの体勢へと持ち込みます。寺子屋ってのは想像以上にハードな世界のようですね。幻想郷の人間がタフなのも頷けます。

「お前のようなハンパイアは、すっぱにマント羽織ってくるくる踊ってりゃいいんだ――よっ!」

 ガツーンッ

「うきゅ~」

 後で伺ったところ、ハンパイア(野球は関係ない)とはハーフヴァンパイアの蔑称なんだそうです。ハーフヴァンパイアは吸血鬼と人間、或いは他の妖怪とのハーフで、純粋種特有の強大さと不死性は損なわれるものの、弱点の緩和(日光や流水も平気等)や、何故か吸血鬼の天敵と化したりとメリット(?)もあるそうです。
 慧音さんの口ぶりから察してくるみさんもハーフヴァンパイアのようでが、引き合いに出したその御方は吸血鬼としての能力はともかく、魔界の元王子と結ばれた超セレブだったはず。敵に回すと色々と厄介そうなんで、滅多なことは言わないのが身のためですよー。

「ふむ、そっちも済んだみたいだな。よし霊夢殿を援護するぞ!」
「はい!」

 目を回したくるみを放置して霊夢さんの元へと駆けつけます。橙子とくるみは1ボス2ボスでしたが、メイドさんはEX級。いくらパターン化ごっこのエキスパートといってもサポートは多いに越したことはないでしょう。
 主役級とEX級のバトルは手に汗握るスペクタル。メイドさんの放つ著しく間隔の狭い弾幕を霊夢さんがスルスル擦り抜けたかと思えば(流石は腋巫女。減った布地と亀の分だけ当たり判定が小さくなったという噂は本当だったんですね)、烈火の如きスペカ攻撃や霊撃をことごとく防いでしまうメイドさんバリアー等、お互い決め手を欠いたまま一進一退の攻防が続きます。
 こうなってしまうと後は気合いの問題で、先に心の折れた方が負けます。私達には立ち入る余地が無く、せいぜいエールを送ることぐらいしかできません。

「墜ちろ、メイドォォォ!」
「――っく、たかが落書きで偉い気の入れようよね?」
「うっさい。メイドのあんたが係わってることが気にくわないの!」

 このままでは埒が開かないと天性の勘が告げたのか、霊夢さんは肉弾戦に打って出ました。神仙力を乗せた御幣と金属トレー(メイドさんバリアーの正体?)が火花を散らします。

「いったいぜんたいメイドさんの何が気に入らないってのよ?」
「そんなの決まってるわ。メイドに萌えが流れた分だけ私の人気が落ちるのよ。この世界には巫女萌えだけあれば充分よ!」

 2人は激しく競り合いながら喚き合っています。なるほど。珍しく熱が入ってると思ったらそんな思惑があったんですか。
 まぁ、長いこと主役張ってきたのに人気投票では魔理沙さんや咲夜サンに出し抜かれ続け(面目躍如は最後の最後)、番外的な最萌でもやはり咲夜サン(と私)に負けちゃってますから、やさぐれちゃうのも仕方ないことなのかもしれません。
 でもそれって、完全に逆恨みじゃないですか?

「何かと思えばそんなことなの? バカね、あなたは本当に大バカだわ」
「なん……です……ってぇ!?」
「ある人がこう言ったわ、『巫女は神のメイド』であると。つまり、貴方は巫女萌えとメイド萌えの両方を体現できる選ばれた存在なのよ。ましてや人気の欲しい貴方がそのメイドさんを否定するなんて、それこそ⑨の骨頂だと思わない?」
「……」

 あれれ? 霊夢さんの攻撃の手が止まってしまいました。これはどうにも雲行きが怪しくな――

「もういっそのことメイド萌えを受け入れちゃいなさい。そうすれば貴方の萌え度は『腋』『巫女』『メイド』と通常の3倍。人気はもちろん、御賽銭だって望むがままよっ!」
「メイドさんサイコー!!」

 ――って、オィィイッ!

「ちょっ、霊夢さん気を確かに。それこそ文字通りに悪魔の誘惑ですって!」
「その通りだ。だいたいお前さんの神社には神が居ないだろう。それでその肩書きは詐欺だぞ!」
「神と聞いて歩いてk――」
「「競歩してお帰り!!」」

 なんということでしょう。あの霊夢さんがポッキリと折れてしまうなんて、悪魔のメイドは伊達じゃないってことですか。これは予想外(いや、ある意味予想通り?)の大どんでん返しです。
 巫女が敗れた以上、私と慧音さんであの悪魔を打ち負かすか、メイドさんへの嫉妬心を根拠の薄い自負へと昇華させてしまった霊夢さんをもう一度ポッキリ折るしかありません。
 だがしかし、私達にはそんな力量も巧みな話術もありませんし、なによりやる気が全く萎えました。それこそ神にでも縋り付くしか――

「神と聞いて競歩で来ました!」

 ――神、再臨ッ!

「貴方が神様ですか?」
「とんでもない。わたしゃ忘レナ少女隊の隊長だよ」
「そんじゃアレ、どーにかしといて下さい」
「はぁ~い」

 霊夢さんや特に慧音さんには悪いですが、神社の落書きや人里の牛乳は紅魔館にとってどうだってよいことです。館の名誉を穢した犯人も見つかったことですし(落とし前はいずれ付けるさせるとして)、余所様のゴタゴタにこれ以上首を突っ込むのは野暮ってもんです。

「ちょっと夢月ちゃん。独断専行は周りに大迷惑だから駄目だって言ったでしょう? ――めっ(滅)」
「うぐーっ!」
「あとそこの巫女。確かに巫女は神のメイドだけど、神の犬でもあるって言ったわよね? メイドさんも犬属性だから下手に重ねると、折角の無重力巫女って希少価値を大きく損なうことになるわよ」
「我が巫女道に一片の迷い無し!!」

 さすがは神様。アホ毛から迸るへにょりDレーザーが悪魔メイドを黙らせると、有り難い説法で道を踏み外しかけた巫女を更に間違った軌道へと押し上げます。
 つーか、あの神。最初から一番美味しいタイミングを見計らってやがりましたね? おっとりしているように見えてとんだ食わせ者じゃねぇですか。
 その後、神社は忘レナ少女隊の面々が清掃奉仕することで、里の方は牛乳をひっくり返したくるみが謝って廻ることで手打ちとなった。霊夢さんは暫く楽ができるとホクホク顔でしたし、慧音さんも配達要員の確保につなげると意気込んでいました。
 我等が紅魔館も主犯の夢月さんを虜とし、特に行く宛のない橙子は使用人として働いて貰うことにしました。橙子は私の弟子みたいなものですから門番隊で即戦力になるでしょう。虜囚とはいえタダ飯を食わせるのもアレなので、夢月さんには妖精メイド隊にパーラーメイドの教導でもしてもらいましょう。




 ――そんなこんなで、私の慌ただしい1日が暮れたのです。お嬢様達早く帰ってこないかなぁ……。








 一方そのころ――




「お姉様、ここが南国なの? なんかもの凄っく寒いんだけど……」
「そうね。太陽が殆ど出ないのは嬉しいけど――ねぇ、パチェ。どーいうことか説明して貰えるかしら?」
「心外だわ。レミィがどうしても行きたいって言うからやくやく連れてきてあげたのに。そう、此処こそが『南極(ナンゴク)』。文字通り南を極めし場所! ご覧なさい、スコット隊の亡霊が手を振っているわよ?」
「あのー、パチュリー様。まことに申し上げ難いのですが、それは『南極(ナンキョク)』とはっしますわ」

 レミリア、フラン、咲夜、そしてパチュリー。4人の間を冷たいブリザードが吹き抜けてゆく。

「ふぅ。やれやれ、日本語ってのは本当に難しいわね」
「言い遺すことは そ れ だ け かぁっ!?」


 紅魔館のお偉方はステキでナイスなナンゴクバカンスを堪能していましたとさ。














おまけ



 橙子が門番隊に配属されました。

「はい注目ー。今日から門番隊の新戦力になる台湾ちゃん。みんな仲良くしてあげてねー」
「よろしくお願いしm――って、大姐! タイワンってどーいうことですか!?」
「あら、幻想郷本編での扱いに比べれば、渾名でも呼ばれるだけマシでしょ」
「何言ってるんですか! 紆余曲折あってやっとのことで広く名前を覚えて貰えたんですよっ!!」
「私ね、華人小娘って二つ名と服装の所為か何故だか中国って呼ばれてるの。だから似たよう格好の貴方が紛らわしい呼ばれ方する前に、相応しい呼び名を付けてあげようと思ってね」
「どーしてそんな非道いことするんですかぁ!?」
「夢幻館では有耶無耶になったけど、貴方に対するお仕置きがまだ済んでなかったのよねー」
「そ、そんなぁ~(泣」


 一方、夢月さんは……

「いいかしら? メイドさんの基本は壱に挨拶、弐に挨拶、参、四かっ飛ばして伍も挨拶なのよっ!」
「いえっさー」
「よし、私に続きなさい! 『お帰りなさいマセ、ご主人様♪』」
「『お帰りなさいませ、ご主人様♪』」
「はいそこぉ! 『ませ』が平仮名よ? カタカナ言葉を喋る熱帯魚みたいな女の子の気持ちで挑みなさい!!」
「サー、イエッサー!」

 ご姉妹の方が身元引受にやって来るまで、爆発的に駄メイドが増えましたとさ。




おしまい
メイド喫茶は好きではありません。でも月天は大好きです。
ぎゃあ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
オwwwwレwwwwンwwwwジwwww
美鈴、彼女を門番隊に引き込んじゃいかんよ。
それと、夢月はこの後ゆうかりんと幻月をセクハラするのは間違いなし。/(^o^)\
2.名前が無い程度の能力削除
旧作キャラ万歳!!とても面白かった。
珍しく強い神綺様とか、悪魔のささやきとか、神の導きとかがもうねw