Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

お日様ぽかぽか

2008/09/28 01:04:00
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空には欠けた月がある。

半月ほど時間がたっているが、満月とは程遠い。しかし、その曖昧な形が淡い光で夜空を照らす。

月明かりによって、より白く見える雲は儚く。しかしその明かりが紅魔館の屋上にいる少女をハッキリと照らす。

「…」

その少女、レミリアは一人空を見上げていた。

レミリアは紅い瞳を憂いに濡らし、月を見上げ。秘めた悲哀を胸の中にこぼす。

(もうすぐ朝なのね…)

そして、深々と繰り返すため息と共に浮かぶ考えは同じことの繰り返し。

どうすれば朝と言う、太陽という憎憎しい奴を拝まずにすむのか?

毎夜考えてしまうこと。打開策はもちろんのことあるはずもない。

一度壊れたものは元には戻らないし、時間も戻ることも無い。ならば太陽が来なくなることなんてのも無い。

それでも、何度も考えてしまう。

「―――だめだ。マイナス思考になってるわね」

粘りつくような不快な思考を、頭を振って追い出すようにもう一度空を見上げる。

黒のキャンパスに描かれた夜空。その中央に欠けた月が、白と黒の絵の具でかかれたようだ。

「もうすぐ満月ね…」

月を見上げて言葉をこぼす。

月は彼女を傷つけず、そして彼女が傷つけることも無い相手だから。

そして、どれくらいの時がたったかのか。

ゆったりと、月が流れていく静寂の中。

―――リン、と。

不意に、静まり返っていた空気の中、場違いな程涼しげな音が響いた。

「……鈴?」

風が吹く音や、木がざわめく音かと思ったが、その音は余りに透き通った音だった。

疑問に首を傾げ、視線を月から降ろし、門近くの庭に視線を移す。

「…あ」

高い鉄の門を背に一人の少女がいた。

「誰だっけ…?」

暗闇を真昼のごとく捉える彼女の瞳に、自分の瞳と同じように紅い髪が映った。

そして、その少女は微動だにせず、立ち尽くしたまま動かない。

興味を引かれ、レミリアは近づき声をかける。

「こんばんは、なにをしてるのかしら?」

「ひゃあぁ!」

声をかけられた少女は、近くに人がいるとは思っていなかったようで、盛大に体を震わせ驚いた。

「そんなに驚かなくてもいいじゃない…」

「あ、その…ごめんなさい。まさか近くに誰かいるとは思わなくて…」

「そう、まあいいわ。で何をしてたの?」

「精神統一ですよ」

「精神統一?」

レミリアは、紅い髪の少女の顔を見上げ、物問いたげに首を傾げる。

そのしぐさが、幼く見えて紅い髪の少女の口元が緩む。

「簡単に言えば気を、魔力を練っていたといいますね」

「へー」

納得がいったのか、レミリアは頷く。

そしてふと気になったのか、紅い髪の少女が問う。

「それよりお嬢さん、こんな所にいたら危ないですよ?どうやって入ってきたのかは知りませんがここは吸血鬼が住む館です。見つかったら無事では済まないですよ?」

「あら、それなら大丈夫よ」

「?」

「私がその吸血鬼だもの」

「…へ?」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「本当にすみませんでした…」

「もういいから」

先ほどから、紅い髪の少女は謝り続けていた。

主人の顔を忘れたことに悔やんでいるらしい。

「それより…、紅美鈴だったっけ?」

「あ、はい」

「私は貴方を初めてみるわ」

「あ、そうだと思います。私今日から門番を勤めさせて頂きましたので」

「あ、やっぱりそうなんだ。道理で見たこと無いと思ったわ」

人気の無い夜に、二人の少女の話し声が響く。

庭にあった石に腰掛けながら、美鈴とレミリアは並んで会話を続ける。

「でも、本当は私門番になる前はメイドやってましたよ?お嬢様」

「あれ、そうなんだ」

「はい、一度もお嬢様をお世話したことも、あったこともなかったですけど」

はは…っと、苦笑いをこぼす。

「う~ん、あまり部屋から出なかったからかなあ」

「え?」

「貴方は吸血鬼の苦手なものって知ってる?」

「苦手なもの…ですか?」

「そう、天敵といってもいいわ」

暫く美鈴は、顎に指を当て、ぼそりと呟いた。

「にんにく…でしょうか?」

「あまり好きじゃないけど違う」

「えっと…、心臓に杭を打つとか…」

「確かに痛いだろうけど違う」

「親からの説教とか」

「怖いけど違~う」

「……う~ん。降参です」

手を上に挙げて、降参のポーズをとる。

それを見たレミリアは、夜空の月に視線を移す。

そして、暫く月を眺めてぽつりと言った。

「太陽の光」

「太陽…ですか?」

「そ。私も親から聞いたんだけど、私たち吸血鬼は日の光を浴びると灰になって死んじゃうんだって」

「…そうなんですか」

「うん、だからあまり外には出ないで部屋にいるの。あそこにいれば日の光は届かないわ」

「なるほど」

「私が唯一外に出れる時間、それが月の出てる今。夜なのよ」

そしてレミリアは立ち上がり、美鈴の正面に立つ。

そして月を指差し、彼女は美鈴に問う。

「ほら、綺麗でしょ?」

美鈴はレミリアの指した方に視線を送り、夜を振り仰ぐ。

そこに浮かぶ月は、暗い暗い夜の世界でさえ綺麗だと思えるものではあった。

暫く見つめていると、レミリアが呟くように問いを零した。

「貴方は…、月が、好き?」

唐突なその問い掛けに美鈴は、素直に首を縦に振った。

「綺麗だと、思います」

ただ、やはりお日様のほうが好きですけど。

と。

「…そっか」

美鈴の問いに、レミリア笑った。

同意を得たことに嬉しそうに、そして、告げられた別の答えに悲しげに。

「そう。うん。正直言ってね、私も本当はお日様に興味があるんだ」

空から降り注ぐ月の光に、僅かに目を細めながら。

「私を世話してくれた、あるメイドがね。太陽のことについて教えてくれたんだ」

「どれも私じゃかなわない事。日向ぼっことかね。」

あーあー、っと自棄する思いを冗談めかした口調を混ぜながら、レミリアはその手を月にかざす。

「…あの」

困惑した声がして、レミリアは美鈴の顔を見上げた。

見つめるその瞳が揺れているのは、自分の言葉でレミリアを傷つけたのではないかと危惧しているせいか。

その表情にレミリアは静かに微笑みを浮かべて首を振った。

「でもね、いい事もあったりするわよ?」

「?」

「今日面白い妖怪に会えたわ」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「なにをしてるんですか?隊長」

次のよく晴れた日の昼下がり。

美鈴の部下が物難しそうに顔をゆがめている美鈴を見つけて思わず声をかけた。

晴れ渡った空。

気持ちのいい風に、干してある洗濯物が勢い良く揺れている。

そして、その洗濯物を手に握った状態で、美鈴は立ち尽くしていた。

「隊長、隊長!!」

「わぁひゃい!?」

「もー、何をぼーっとしてるんですか隊長」

「な、なんでもないよ」

「……わかりました。それより早く干しましょうよ。お布団とか早くしないと間に合いませんから」

「あー、うん」

「…本当に大丈夫ですか?隊長」

「え?なんで?」

「いえ、なんか朝から思い悩んでるみたいに見えましたから」

「そう、見えた?」

「ええ」

部下は確信を持ってコクリと頷く。

「あ~…。う~ん」

なんといったら良いもんか、美鈴は思わず口を濁したが

「隊長が言い難いことなら無理して言わなくても大丈夫ですよ」

部下が先に折れてくれたので、それに乗ることにした。

「そ、そう」

「とりあえず、もし今日お疲れとかならばお日様をたっぷり浴びたお布団でゆっくり寝てくださいね?」

そういって部下は他の洗濯物を取りにいった。

「お日様がをたっぷり浴びた…、か」

そう、呟いた美鈴は何かを思いついたような顔をし、その場で横になった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




見上げた夜空に浮かぶ月。

太陽は沈んだばかりで、空のずっと向こうはほのかに赤く、夜が始まったばかりだと告げている。

―――リン

そんな冷たい夜の始まりにいつか響いた鈴の音が鳴る。

「あ…、美鈴」

紅魔館の屋上。

その上に座っていたレミリアの前に、美鈴は飛んできた。

その姿を見つけたレミリアは、にこやかに笑みを浮かべて足取り軽く美鈴に駆け寄り、挨拶をひとつ。

「こんばんは、美鈴。今日は早いのね?まだ日が落ちて間もないわよ?」

「こんばんは、お嬢様。えっと…迷惑だったでしょうか?」

「そんなこと無いわ。ま、それよりどうしましょうか。また庭に下りてお話でも―――」

「お嬢様、失礼します」

そんなレミリアの言葉を。

小さな衝撃と、言葉が遮った。

「……え?」

レミリアが一瞬、驚きの声をあげる間に美鈴がレミリアをやさしく抱きしめた。

「…え?え?」

「お嬢様」

「…美鈴…?」

思わず、ぎゅっと抱きしめ返してしまったレミリアの腕の中はとても暖かかった。

そして。

ふわり、と。

暖かな、美鈴の匂いともう一つの別の香りが、レミリアの鼻腔をくすぐった。

「お嬢様」

「何…?」

「これが、お日様の香りですよ」

「…これが」

それはとても、暖かく、やさしい。

けど、なぜか悲しくて。

「これがお日様の…匂い?」

「…はい」

触れられないと。

見上げることすら叶わないと思ったものに。

そして、美鈴の体によって運ばれた日の名残を、今此処に・

わざわざ運んでくれた、紅い髪の少女に。

レミリアは震える。

「…私のために?」

問いかける声も。

抱きしめる腕も。

堪えきれずにいる思いに、微かに揺れて。

そんな小さな震えを包み込むように、美鈴はコクリと頷き。

再び、自分の胸の中にレミリアの身を埋めた。

「そっか…」

夜の中、日の名残を運ぶ。

それは、日が恋しいと、思わずもらした主人へ運んでくれた、宝石のような想い。

それが信じられないように暖かくて。

うまく、言葉にできなくて。

だから、一つだけ訊いた。

「美鈴。ぎゅってしていい?」

震えたその声は、祈るように問う声。

「はい」

美鈴は、そうただ一言だけ言って。身を寄せた。
まだ幻想郷に来る前の、小さいころのレミリアを幻視。
誤字等があったらご報告よろしくお願いします。

「お嬢様お嬢様!」

「どうしたの美鈴?そんなにあわてて」

「面白いものを作ってみましたよ!」

「なに?傘?」

「いえいえ、これは日傘といってですね―――――――――」

それから昼間でも平気に外出する吸血鬼の姿が頻繁に発見されたそうな。
ミヤギ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
前からずっと疑問に思っていたことがあった。

よく日傘だけで外に出れるな。

美鈴のお手製なのですね!?そうなんですね!?ならば日光なんて愛の名の元に遮られるので安心ですね。

誤字報告
>私は貴方を始めてみるわ
「初めて」ですね?
別に
レミリア「私、美鈴を始めました☆」
でも、色んな意味でOKですが
2.名前が無い程度の能力削除
>にかやかに笑みを浮かべて足取り軽く美鈴に駆け寄り

にこやかですかね?

>私は貴方を始めてみるわ

ただの変換ミスなら
「私は貴方を恥じめてみるわ」
でもw
3.ミヤギ削除
1さん
誤字修正いたしました。
本当にありがとうございました。
レミリアが美鈴コスプレ…
すばらしい…

2さん
誤字修正しました。
本当にありがとうございました。
「恥めました」
さ、さらに私の妄想が…
4.名前が無い程度の能力削除
布団を干した時の匂いがダニの死骸の匂いってのは本当なんですかね?

すいません、ふいんきぶち壊したこと言って…
5.名前が無い程度の能力削除
そして今に至っても夜な夜な隠れてお嬢様は美鈴との逢瀬に心躍らす、と。
但し『七曜の嫉妬』、『凍れる時の歪な愛』、『名も無き大魔の淫らな誘惑』、『狂いし妹君の禁じられた想い』を毎晩毎晩撥ね除け貫きブっ飛ばさないと行けなかったり。
あぁ美レミって素晴らしい。