Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

Where I am?

2007/11/28 11:06:15
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俗に完成された世界ほど閉じていると言える。
内側で完結している世界に外側というものはまず必要が無いから。
更に言うと、この幻想郷という世界は限りなく閉じていた。
少なくとも東風谷早苗にはそう思えた。

冬がもうすぐ来ようとしている。
秋の落葉も、もはやピークを過ぎ、後は枯れ枝となるのを待つばかり。
雪が降るのもそう遠くは無いはずだ。

秋風吹く山の道を、東風谷早苗は歩いていく。

麓の神社を目指して。










――where I am?









東風谷早苗は外から来た存在。
この幻想郷という閉じられた中では、存在そのものが異分子。
最初はどうなることかと思った八坂神奈子の信仰集めも、今は順調だ。
それに、なんだかんだといって早苗が信仰している神である八坂神奈子と洩矢諏訪子の二人の神の仲は良い。
伊達に千年という時間のレベルで付き合いをしていない。
だからこそ、人間の早苗は自分が神ではないことに、あの二人と同等の立場に在れないことに言い知れないものを感じていた。
軽口を叩きあい、お互いに喧嘩しながらも話ができる存在というものはとても重要だ。
自身の力のせいで、打ち解け合うどころか周りに溶け込めなかった早苗が、孤独感、疎外感にさいなまれるのは日常茶飯事であり、どこでも、いつでも、それが消えることはまず無いと言って良かった。
家族のように親しんでいる二人の間にすら溝を感じる早苗にとって、幻想郷に来たときの感慨は本当に何も無かった。それまでいた外の世界に未練など無かったからだ。
そして、結局新たに訪れた世界でも自分は異分子以外の何者でもなかったことを思い知っただけ。
ふと、思う。
自分はこの世界の一要素として溶け込めるのか。
疎外感無く、孤独感無く、受け入れてもらえるのか。
かじかんだ両の手に息を吐きつけて早苗は秋も末のうろこ雲を見上げた。


「良く見るようになった顔が来たわね。またお茶でも飲みに来たのかしら?」
思案に暮れていた早苗の顔があがる。
顔をあげて、自分にかけられた声の主を見るのと同時に自然に表情を取り繕う。
早苗にとっては慣れた処世術だ。
こと互いに関わりの浅かった外ではこの処世術は生きていくのに便利だった。
「つまり、霊夢はお茶を出してくれるっていうのね、ごちそうさま」
別に霊夢という少女はお茶を飲みに来たのかと聞いてきただけ。
それをわざと好意的に解釈して応える。
霊夢が額に手をやっている。心なしか黒い渦巻きが頭から立ち昇っているように見えた。
「どいつも、こいつも・・・・・・」
その豊かな表情を早苗は眩しいものでも見るかのように目を細める。
到底自分には目の前の少女のように感情の生き字引などなれはしない。
更に言えばこの少女は強い。自分とは根本から違って存在そのものが強かった。
稀代の才を受けていると祀る神の神奈子に言わしめたほどの実力者の自分が完膚なきまでに叩きのめされた。

それまでの早苗のささやかなりに確固たるものだったプライドを壊したこの少女は平気な顔をして自分の限界を超えていき、神奈子までもこらしめた。
自分が負けた相手に神奈子が負けて安心した節があったので早苗としてはどうも苦々しさを感じるが、ならば何故、この自分を、自分と自分のプライドをやりたい放題に壊していった目の前の少女の神社に足しげく会いに来ているのか。
……分らない。


――神に愛され、人に愛されなかった少女の行く先を誰が知るというのだろうか。


「復讐の機会をさぐっているのかしら」
霊夢が横でお茶を飲んでいた。
山の神社では落葉すらもう終わろうというのに、麓の神社ではまだ紅葉が多くの木で残っている。
いずれ霊夢はめくるめく落葉の掃除にてんてこ舞いになることだろう。
「復讐したところで私が霊夢に負けた事実は変わりませんよ。
どうせやるなら……正々堂々正面切って再戦を申し込みますとも」
正面切って自分を倒していった少女には、どうせやるならそれくらいのことはしてやらないと、と早苗は思った。
「マジメねぇ」
秋の夕空に日が落ちるのを見届ける霊夢の顔は憂いげだ。
霊夢につられ、夕空に日が落ちるのを見て、早苗ははっと息を呑む。
「あ、そろそろ帰らないと」
放っておいたら、あの二人が何をしでかすか分らない。
夜な夜な酒によって二人で観客も無く野球拳をしていた時は卒倒しかけた。
こんな神を誰が信仰するというのか。
早苗なら三行半を押し付けるだろう。
実際のところ、早苗は身内の情けで三行半を出すのは我慢した。
とにもかくにもあの二人は油断なら無い。
もはや自分が最後の砦なのだと、早苗は肩に力を入れる。
「そう、あんたも忙しいのね。いっそ一晩放っておいた方が面白いことになりそうだわ」
いつのまにか霊夢が早苗の思考をリードしている。
それも早苗にとってとてもじゃないが外には漏らしたくない事実がリードされたらしい。
「霊夢、簡単に人の思考を読まないでください。プライバシー保護で引っかかりますよ」
肩に力を入れるばかりか両の手を胸に押し当ててぐっと霊夢を見据える。
並の人間ならそのただならぬ様に臆して口をつぐむというのに、霊夢は全く動じなかった。
「ぷらいばしー?なにそれ」
早苗はさっきまで力んでいた肩をがっくりと落とした。
「貴方っていう人はぁ・・・・・・」
いつものことだが話していて力が抜ける相手だ。
「そうそう、今みたいに早苗はもっと力を抜けばいいのよ。
自分ひとりが躍起になったところで変わるものなんてタカが知れてるわ」
「あ……」
言われて見て初めて気づいた。
自分のいつも凝り固まっている肩がほぐれていることに。
足しげく通っていたのは、この為か。
「なんだ、そうだったのですか」
独りつぶやき腕を組む。
うんうん、なんて頷いている早苗を見やる霊夢の顔は目に見えて冷めていってはいたが、
彼女は気づいていないらしい。




それはある日の朝。
今日も今日とて日は昇り、学校なる場所に彼女は通う。
両手に手袋、セーラー服の上に暖かそうなコートを羽織った早苗はここに一人待ち人が来るのを待つ。
「遅いなぁ、霊夢」
呟いて、手袋ごとコートのポケットにつっこんだりもする。
「お待たせ」
走ることなく歩いて待ち人は来る。
まるでそれが自然なように。
そう、時間はいつも歩いて登校するにはギリギリの時間一歩手前。
そんな時に待ち人が来るのも慣れたもの。
「おそーい、今日もギリギリですよ、霊夢」
時計を目に早苗が霊夢の微妙なルーズさを指摘するのはいつものこと。
「それより、修行とかの調子どう?」
立ち止まることなく歩いていく霊夢。
もう少し、毎日十分は早く来て待っている自分に感謝とかして欲しいと、早苗は思う。
「うふふふ、昨日は神奈子様が稽古をつけてくれたんですよ。この調子でいけば霊夢に勝てるかもしれないって」
「へぇ、早苗のとこは神奈子や諏訪子が稽古をつけてくれるんだ。こっちなんか独学だから修行の効率が良くないわ」
いつもの話。
いつもの道。
ただ、在り来たりの話をするように、在り得ない話が出来たなら……

もし、外で霊夢に出会えていたら、という有り得ない仮想。
ifですらないifだ。




早苗はそっとその夢を置いて現実に思考を戻す。

「今日はどうするの?まさか泊まっていく気?」
霊夢が早苗に声をかける。
冬の太陽は早々と役目を終えて沈んでしまった。
山の神社までの道は覚えているし、途中で何者かに襲われたところで簡単に負ける早苗ではない。
「そうですね。今日は泊めてもらえますか」
「なにが、今日「は」よ。かれこれ早苗がウチに来て泊まらなかった日なんてもう、記憶に無いわ」
しれっと応える霊夢の顔に早苗は苦笑する。
今はまだ苦笑という表情しか彼女の前ではできない。
いつか心から感情をぶつけられるような仲になれば、いい――な、と早苗は暗くなった空に出てきた一番星に願いをかけた。

私はどこ?

私の居場所はどこ?

少なくとも、外で早苗に居場所は無かった。
それが、この幻想郷という閉じた世界で見つけられた。



「霊夢、お酌してもらえませんか」
早苗がいつの間にか酒の入った瓶を開けている。
「ああぁっ、隠してたのにどこから見つけてきたのよ!」
くわっ、と目を見開いて土間を探る霊夢。
「さぁ、どこで見つけたと言ったものでしょうか」
どこ吹く風といわんばかりに涼しく、明後日の方向を見やる早苗。
例え霊夢がどんなに知略をめぐらせようと、たった一つの奇跡で早苗には場所が分ってしまうのだが、このタネを早苗はこの先ずっと黙秘し続けるつもりらしい。
「神酒に手を出すなんて神への冒涜よ、冒涜!」
どうやら土間を探し終えた霊夢はドタドタと早苗の前に来て早苗を指差し、がなり立てる。
「私が信仰してるのは神奈子様、諏訪子様ですから。それにこの神酒、霊夢だって飲むんでしょ?」
最後の一言が効いたらしい。
霊夢はどかっと座ってあぐらをかいたかと思えば手を出した。
「なんですか?その手は」
霊夢の顔はぶすっとしてそっぽを向いている。
「お酌してあげるから出しなさいって言ってるのよ」
早苗には分りきっていた。だが、ここで一つつっぱねる。
「そんなこと、今始めて言いましたよ」
顔が笑っているような気がする。
「鉄の笑顔でよく言うわね。この鉄面皮」
鉄面皮か、でも今の自分はとても心が軽い鉄面皮のようだ。
重い仮面をつけていても、例えそれが外れないものでも。
こうして今を共に心から楽しめる相手は、居る。
受け入れてもらえる場所は、在る。










――I’m here.













――Where is here?














自分はここに居る。

受け入れてもらえる場所。
自分らしく在れる場所。

それはどこ?


私はどこに居る?


見つかりきらない答えに悩んでいた早苗の日々は終わる。
私はここに居て、笑っている。
それが全てだ、と。







俗に閉じた世界ほど外に対する順応は早いらしい。
それが早苗にとって良いか悪いかは、また別の話。
炊飯器で半熟タマゴを作ろうとしたら全部ゆで卵に進化してた。
ふかふかの黄身の切なさに我を忘れて書きあげた。

11/28 21:10
手を加えさせて頂きました。
キンカ
コメント



1.名無し妖怪削除
面白……かったんだけど
>早苗を見やる霊夢の顔は目に見えて冷めて
この点が気になりました。早苗一人が仲良くなったと思い込んで霊夢は早苗なんかどうでも良いと思ってるんですかね?
>足しげく会いに着ている
来て、だと思います
2.名無し妖怪削除
霊夢の事を特別意識するようになった早苗が
誰も特別扱いせず平坦した付き合いをする霊夢にヤキモキする未来を幻視しました
本当の笑顔で早苗が霊夢に笑い掛ける日が来ると信じて…
”また別の話”、期待してます
3.創製の魔法使い削除
良いお話でした。
読みやすかったし早苗の気持ちも判りやすかったです

次も楽しみにしていますね
4.名無し妖怪削除
幻想郷でセーラー服を着るんだ。
読点増やすと読みやすいと思うよ、思うよ。
5.三文字削除
流石霊夢!誰とでも隔てなく付き合えるって凄いことだよなぁ
幻想郷に馴染んだ早苗さんは一体どうなるんだろうなぁ
6.卯月由羽削除
とても面白かったのですが、それだけに誤字が気になりました。
>始めて来た
>同等足り得ない
>止まらなかった日
これらは恐らく誤字かと。
7.キンカ削除
好意のコメントを頂き本当に嬉しい限りです。

>卯月由羽様
指摘していただいた箇所を訂正させていただきました。
ご指摘感謝します。

>三文字様
誰とでも分け隔てないということは裏を返せば誰も特別扱いしないんですよね。もしかしたらそれで続編を書くかもしれません。

>名無し妖怪様
幻想郷というか、あれは早苗が想像した世界であって、幻想郷ではないです。
でも、早苗さんにセーラー服は我らがジャスティス。

>創製の魔法使い様
褒めていただき光栄です。次もそう言ってもらえるような作品にしたと思います。

>名無し妖怪様
その幻視した未来で続きを書いてみようと思います。

>名無し妖怪様
指摘箇所に手を加えさせてもらいました。感謝します。
早苗だけが霊夢と仲良くなった……というその指摘で次のストーリーを決める辺り自分は作家としてダメかもしれませんね。

それと、全体的に少しだけ手を加えさせていただきました。
では、失礼します。