Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

もちろんあなたのために

2007/11/23 15:55:40
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 ここは落ち着くなぁ、と彼女が言うので、私はその場所が一番お気に入りの場所になった。


 毎日のようにその場所は彼女の為の安らぎだった。
 なのに最近は彼女の顔を見てないなぁ、なんて思っている内に雲は雪を零し始めた。
 

 
 ゆらゆら零れてきた雪の一つが湯飲みの中へ落ちてきて、その神社へ冬を知らせた。
 もうそんな季節なのか。息を一つだけ、深く吸ってその冷たさと爽快さを心へ送る。
 すぐに冷めてしまいそうな喉を、淹れたてのお茶で温める。
 そうしてまた、深呼吸を一つ。
 気づけば縁側からぶらり提げた脚が冷えていて、傍らに置いておいた座布団を膝の上へ。
 用意してから一度も、誰も腰を下ろさぬ座布団は冷たくて、何だか寂しさを感じた。
「ああもう」
 ちょっとそれが悲しいようなイラつくような。一つ二つ手の平で座布団を叩く。
 誰かに駄々をこねるように、誰かを呼ぶように。




 ゆっくりとした雪の流れに合わせて、まったりと空を飛ぶ。
 人形使いに教わりながら、一緒に作ったマフラーはふわふわ暖かく風になびいていく。
 眼下に広がる幻想郷は、森も人里も真っ白に染まり始めていた。
 気づけば零れる吐息も白くて、それがまたどこか楽しくて何度も息を吐いて行くべき前を白く塗っていく。
「ああ寒い」
 しばらくする内に喉が冷えてきて、箒を掴む両手を離してマフラーを口元まで上げる。
 こんな事なら自宅の暖炉の前で本を読んでいれば良かったか、と感覚の消えかけた指先を縮こめて擦る。
 けれども地上、人里に溢れる暖かな煙、湯気を見て、
「こんな事なら手袋も編んでおくんだったなぁ」
 なんて言いながら、里を飛び越えてさらに先を行く。
 もう直ぐ。もう少しの辛抱だ。
 向かう場所にはとても素晴らしい雰囲気があって、そこでは最高の友人が暖かいお茶を飲んでいる。
 良いお茶が自分を待っている気がして、身を包む寒風が激しさを増そうともかまわずに、箒に力を込めた。
 待っているのはお茶だけじゃないような気もして。




 ぶら下げた脚を畳んで、座布団と太ももが大分温まり出した頃に風が起こった。
 それはそれは乱暴で傍若無人な風で、積もった雪がぶわり爽快に散る。
 盛大に雪を被った巫女はお茶も無くなったし丁度良い、と雪煙の向こうに見える影をよそに立ち上がる。
「おいおい折角この寒さの中来てやったのに、歓迎の言葉とお茶はなしか?」
 言葉と雪を踏む音が聞こえた頃には、もう霊夢は振り返り部屋の奥に歩みだしていて、片手を振って答える。
「歓迎のお茶を淹れに行く所よ。あと濡れたからね?誰かさんのせいで」
 そりゃ有難い、何て悪びれない声を後に、霊夢は台所へ向かう。
 寒くなってきたから戻りには火鉢でも持ってこよう。


 

 火鉢を、と思ったは良いけれど、急須に湯飲み二つ、ついでの茶菓子を載せた盆を持つには少々邪魔で。
「そっちに置いてあるから、持ってきなさい」
「面倒だぜ」
 結局霊夢は二往復してからようやく腰を下ろした。
 手炙り火鉢を二人挟んで温まりながら外の景色を見る。
 風の少ない冬の世界は静かで、雪の動きも人の心もただひたすら静かで。
 寒いはずなのに何故だろうか、心地よい温度があった。
「ところで」
 魔法使いがお茶を一口、言葉を一声出してからまたお茶を飲んで、続けた。
「あったかいな」
 巫女が一呼吸の後に、湯飲みを傾けて唇と喉を潤して応える。
「こんなに寒いのに、どこが?」
「お尻が」
 ちょっと笑うように魔理沙は言った。
「座布団があるからでしょ。感謝しなさい?」
「冷たい布団はしばらく冷たいままだぜ?」
 外を向いた自分の横顔に視線が届くのを霊夢は感じて、けれどそちらは見ないまま口を開く。
「そうね」
 だから?なんてニュアンスを込めて返すけれど、視線は動かない。目が合ってしまいそうで。
 小さな火鉢を乗り越える気配と衣擦れの音。吐息はかからないけれど、温もりは充分に届く。そんな微妙な距離。
「誰か待ってたのか?」
 ちょっとどころではないからかいを含んだ声。笑うようなそれは意地が悪くて、それはいつもながらの彼女だった。
「そうねぇ……」
 いつも通り。けれど人の内面は一つだけではなくて、楽しんだり戸惑ったり、その様々な感情の表現が人によって違っていて。
 そんな色々を全て見たい、と霊夢は思った。昔から一緒の彼女にもまだ見ぬ一面があったりするのだろうかと。
 新しい発見は嬉しくて、既に知っている所を見せてくれるのもまた楽しくて、博麗霊夢は微笑んで横を向く。
 他人にあんまり興味はないはずなのにどうしてだろうか。
 多分この魔法使いとはこれからもずっと一緒に居る。この色々な意味で厄介な魔法使いと。
 毎年こうして雪が降るように、毎日のように会うだろう。
 それなら少しでも仲良くなっておこうとかそんな感じだろうかと思って、それは違うような気がした。
 しっかり目を合わせて心を繋ごうとお互いの瞳を確かめる。
 真っ直ぐな瞳に映る自分も予想外に真っ直ぐで、やっぱり違うと確信する。


「貴女を待ってたわ」

 
 答えが出そうに無いので言葉を出す。考えていた事とは違うけれど、嘘は無い。
 からから笑って茶化すのか。
 視線を泳がせて戸惑うのか。
 ああ楽しみだなんて笑う自分もきっと意地が悪いと、しかし霊夢はしっかり恋色少女の瞳を捕らえて離さない。


「そりゃあ有り難い」


 捕らえられた魔理沙は乗り出した身体はそのまま、じっと見つめるその表情だけ真剣なものに変えて、有り難いと言った。
「まぁ、こんな季節の始まりを、たった一人で眺めるっていうのは、ちょっと寂しいもんな」
 これは演技なのか本気なのか、と巫女は内心戸惑う。こうも真面目に、真摯に返されるなんて。
「寂しかった訳じゃあ、ないけどね」
 もしかしたら魔理沙も一緒で、自分の「いつも通り」と「意外な一面」を楽しんでいたのかも知れない。
 ちょっとひねくれた自分を感じつつも疑惑を消せずに、息を吸う魔理沙を見る。
 どうしてか、疑いは少なかった。
 そういえばやけに膝元が冷える。かける物のない脚は寂しく凍えていた。
「私はちょっと寂しかったぜ?」
 少し俯き気味、上目遣いで伺う魔理沙にからかう様子は無かった。
 演技かもしれないけれど、どうなんだろうか。
 彼女ならこんな調子で人の心と触れ合うのかもしれない。
 予想外で、どこまでも真面目に、けれどどこか控えめに。
 だとしたら。
 だとしても。
「魔理沙でも寂しい、なんてことあるのね?」
 そう簡単には見せてやらない。
 長い付き合いを経た二人が今更晒す新鮮な気持ちとか心とか、それは大概恥ずかしいものばかりだろうから。
 心の内でちょっとしたゲームを思いつく。
 賭けるのは相手のちょっとした心の一面と、自分のちょっとした恥。
 内容もそれらをいかに隠して出させるか。
 突然ニヤリと笑う霊夢をよそに魔理沙は身を座布団の上と湯飲みの元へ戻して、
 首に巻いたままのマフラーを指先でちょい、とつまんだ。
「ずっとアリスと一緒に編んでたんだ。ほとんど毎日アイツと一緒でさ、完成して突然会わなくなったら、何か寂しいんだ」
 どうしてか、勝手にゲームを始めておきながら霊夢はいきなり負けそうになった。
 膝の上に乗せた、一向に暖かくならない座布団が嫌で、胸元に抱き寄せながら冬空を見上げていた先刻を思い出す。
「…………」
「…………」
 黙りこむ霊夢と、ニヤニヤ笑う魔理沙。
 これではどう答えても自分の負けだ。きっとこいつも似たようなゲームを楽しんでいるのだ。絶対に。
 紅白少女は沈黙を盾に、打開策や魔理沙が今考えている事や、私と会わなくて寂しくなかったのかとか、それなら家も近いアリスの所へ行けば良いとか、訳も分からぬ苛立ちに心を沈めた。
「…………」
「…………」
 黙りこむ霊夢と、いつの間にか湯気を失っていく湯呑み。
 苛立ちを視線に込めて横を見た霊夢の目に、笑みを引っ込めた魔理沙が映る。
 もう少し黙ってみようか。きっと独りで暮らす割りに寂しがり屋な魔法使いは、ボロを出すかもしれない。
 そうきっとこれは陽動だ。マフラー云々はどうせ嘘で、こっちがあたふたするのを笑うつもりなのだ。
「…………」
「………………れ、霊夢?」
 黙りこむ霊夢と、苛立ちから楽しさに変わっていく彼女の心。
 冷たくなったお茶を一口、好奇心を抑えて雪景色だけを見渡していく。
 逆襲の一言は何にしようか、と今度はうつむいて手元を見つめる。
 いつも通りそっけなく切り捨てようか。きっと魔理沙もつまらなそうにしながら話題を変えるだろう。
「………………」
「いや……あの、さ?え~っと」
 唇を動かす魔理沙とそれでも黙る霊夢と、時間を稼ぐ沈黙と言葉。
 こうなったら考えるより勢いで、と息を吸う少女。
 こうなったら考えるより適当に、と顔をあげる少女。


「魔理沙の為よ」
「最近霊夢の顔見てなくて、いつの間にか雪降って、無性に寂しくなったん……だ?」


 冷えたお茶に白い結晶がひらりひと欠片、ちょっと時間をかけて溶けたその雪は、本日最後の雪になった。
 ゆっくりと顔を見せ始めた優しい光は昼過ぎの太陽で、零れるものが途切れた世界を照らしていく。
「そ、そっか」
 それはどちらの言葉だったのか、とりあえず二人は納得したように首を縦に振って、それは丁度一番落ち込んだ所で止まった。
「別に、ただ適当に言っただけだからね?」
 自分一人でゲームだなんて笑っていた分、気恥ずかしくて悔しくて、霊夢は先に言葉を紡いだ。
「別に、私だってただ勢いで言ってみただけだぜ」
 言い訳を阻止するべく魔理沙も舌を動かした。
 が、そこで霊夢はハッと顔をあげる。
 勢いというのは果たして「勢いで嘘を吐く」のと「勢いで本音を出す」のとどちらだろうか。
「勢いで?」
 ゲームとかいつも通りとか意外な一面とか、魔理沙の言葉が嘘や本音かどうかでさえ心に無いまま問いが出た。
 さっきまでごちゃごちゃ考えながら黙っていたのに、これもまた勢いとやらが作る言葉だろうか。
「あ~、いや……っていうかお前の『適当』だって何も考えずに言ったって事じゃないのか?」
 降雪も途切れて風も無い外の世界、ただただ静かな白銀色は無心でいることを強要しているかのようで。
 指先にも余計で複雑な暖かさはなく、誰かや自分を示すためにまっすぐに伸びそうだった。
 寒さに縮むはずなのに、何故かしっかりと。
「ああそうね、私も勢いで言ってみたわ」
「へ?」
「どう喋ったらいいか迷って、つい本音がでちゃったみたいね。お互いに」
「うん、ああ、そうだな」
 納得した風に言いながら視線を泳がせる魔理沙に向かって身を乗り出す霊夢。
 今自分は馬鹿みたいな頭をしていると思いつつ火鉢の上を越える。
 本能的にというべきか感情的にというべきか、ただ知りたい。
 聞いてみたい。
 そんな思いが視線にひたすら動く魔法使いの目を追わせる。まだ捕らえられないけれど。
「で?」
「で?って何だよ?」
 問う魔理沙の瞳が霊夢を見る。捕らえてしまった。
「私の本音を聞いてどう思った?魔理沙は」
「それを言うなら霊夢はどう思ったんだよ?」
「どんな風に思った?」
 本能というか才能というか、霊夢は主導権の在り処を探り、手繰り寄せて、それを悟る。
「ああもう――」
 魔理沙も似たようなもので、けれどそれを手にする事は出来なくて諦めたように、何やら頬を薄く染めて、


「――嬉しかったぜ」


 そう言った。
 単純で照れくさそうなその一言がこちらまでやたら嬉しく、恥ずかしく思わせて。
「えぇっと」
 これは不味いと直感した霊夢はちょっと不自然な速さで急須の温度を確かめると、自分と魔理沙の湯のみを盆に載せて立ち上がった。
「お茶、淹れなおしてくるわ」
 その途中でちらりと伺った魔理沙はまだ淡く染まる頬で何気なく外を見ていた。
 畳まで冷え切った室内を歩きながら、霊夢は思った。
 新鮮かもしれない。
 昔から立場の違いはあれどずっと親しかったこの仲で、こんなに照れくさいのは新鮮な事だ、と。
 すこしばかりこそばゆくて、冷たい畳を踏む足どりは軽くも緩やかだった。
「ついでにもう少し本音をいうとだな」
 そんな風に二人の仲を想っていたからだろうか、言葉は温いお茶に溶ける雪のように、するりと潜りこんでくる。
「お前が私の為に待ってるんじゃないかな~?なんて思ってた」
 やられた、そう思った瞬間それは言葉になっていたけれど、魔法使いには届かなかった。
「勝手かも知れないけどさ」
 けれど魔理沙のちょっと意地悪を含んだ言葉は直ぐに鳴りをひそめては、これまた照れくさそうなものに変わる。


「寂しそうな霊夢の為に、なんて事も思ってた」


 やられたとか、何かを思うよりも早く。
 やられたとか、何かを言うよりも早く。
 霊夢は振り返る。
 勢いあまって、中身の残る湯飲みが倒れる音が、白銀に囲まれ染まる神社に響いた。
「……ま、まぁ単に私が会いたかっただけなんだけどぉっ!?」 
「もっ、もう良いからやめてぇぇぇ!!!」
 止まらない魔法使いの、照れ隠しの為の言葉は反則的に恥ずかしい魔法の気がして、霊夢は盆を放り投げて彼女に飛び掛った。




 来るたび彼女は嬉しそうにお茶を淹れるので、私はその場所が自宅よりも最高に心地よい世界になった。


 毎日のようにその場所は私の為の安らぎだった。


 けれど最近来る事も少なくて、まぁ彼女の事だから独りでも飄々と……しているのだろうか。
 想像の中、彼女が独りでお茶を飲む姿はとても寂しそうで、誰かを待っているような気がした。
 勝手な思い込みかもしれないけれど。
 

 だからまぁ、私は決めた。
 彼女の寂しさを暴いてやろうと。







「いつまで居るのよ?」
「いやこれ、私の為の座布団だしなぁ」
 体温と炬燵から零れる熱で大分温まった座布団の上に魔理沙が座る。
 向かいあって緑茶をすするのは霊夢で、その視線は魔理沙の顔の横、金髪の向こうでもなく手前でもない何処かを見ている。
「私の為に来たんでしょ?もういいから。夕食も作ってもらったし」
「あぁそうかい?それじゃあそろそろ帰ってアリスと今度は手袋でも編もうかな」
 炬燵布団が大きくめくれて、のそりと黒白な少女が立ち上がろうとする、その途中で声がかかる。
「待て」
 日も落ちてしまった世界、ひんやりとした空気が開かれた布団から炬燵の中へ流れ込んでゆく。
「何の為に?」
 少しニヤリと笑う魔理沙の声は充分に意地悪で、霊夢はそっぽを向きながら答えた。
「座布団の為よ。あと人が居た方が部屋も暖かいし」
「お前の照れ隠しは可愛くないなぁ……」

何か書きたい→ネタがない→友人宅にお誘い→雪降ってる→雪の中友人外で待ってた→飯俺が作ったる
こんな流れで書き始めました。

コレに限らず、ほぼ勢いばかりで書いてしまうのは癖なのかもしれません。
唐突な展開と皆様の想うキャラとの違いがある事と思います。
そして誤字脱字も。
力不足な6弦の為にツッコミ、指摘、感想を宜しくお願いいたします。
6弦
コメント



1.創製の魔法使い削除
あぁ、なんかほのぼのだなぁ・・・・・

いいなぁ、この感じ。
素直じゃない霊夢可愛いね。


次も楽しみにしています

2.名無し妖怪削除
これはなんというか反則的な内面描写ですね。心の機微という言葉がよく似合います。というか読んでるこっちの心が擽られます。反則です。ところで、
>「魔理沙の為よ」
この台詞がちょっと違和感がありました。これは座布団を暖めていたのが魔理沙の為という意味ですか?その件は「貴女を待ってたわ」で告白済みだと思っていたんですが……。
3.nama-hane削除
この2人の関係は友情とも愛情とも取れますね。どちらにしてもニヤニヤが止まらない!!w
非常に上手いと思える文章の構成と表現・・・尊敬します。
また新しい作品ができたら是非読みたいです。