Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ちいさなかあさま

2007/02/18 10:51:30
最終更新
サイズ
8.29KB
ページ数
1

警告
 劇中に書き手の《趣味的独自設定》が登場します。
 その手の独自設定が許せない性質の方は、これ以上ご覧にならない様お願い申し上げます。










































神社仏閣神域聖域、こと神仏に携る施設の朝は早い。
博麗神社は神社であり神域であり、キッチリと神道的拠点だった。

つまり普段からボケてるだの暢気だのと言われている巫女さんもまた、朝は早い。一応。



「れいむー、おきなさーい」



起こしてくれる人も居る事だし。







……あれ?

「今の声……」

強烈な不信感に煽られた巫女は、取り敢えず布団と言う名の捕縛結界から抜け出した。
抜け出すまでに神道の巫女をして30秒もかかっている事から、この結界の恐ろしさが良く解る。


とは言え一度目が覚めてしまえば暢気で腋で適当でも巫女は巫女。
感覚が飛びそうなほど冷たい水で強制的に意識を覚醒させ、いつもの寒そうな巫女服に装備変更。
……寝間着より露出が多いのはどう言う事なのやら。


「今の声は紫よね。ちょっと高かった気もするけど。でも今時分なら冬眠してる筈だし……」

ぺたぺたぽりぽり

「聞き間違いにしては鮮明よね。まあ紫が起こしてくれるなんてここ数年無い事だけど……」

ぺたしぺたし、がりがり

「考えても仕方ないわね。もし紫ならそれはそれで嬉しいし」

何やら本音を駄々漏れにしながらぺたしぺたしと板張りの廊下を歩く巫女。
纏めずに流した黒髪が妙に色っぽく、微妙にお姉さんな空気を纏っているのが少しだけ素敵。


ぺたしぺたし、ぽりぽり

……歩きながら後ろ頭やなにやらを掻いてさえいなければ。














そこには一人の妖怪が居た。
否。妖怪と一括りで味気なく呼んでしまうには、それはあまりにも幻想であった。

家事には不向き極まりないロリィタな服の上から渋いデザインの割烹着を着込んだ、
部屋の中でも帽子を取らない金髪の――――。







「――――紫?」






――――幼女が。






そこには少女を通り越して幼女が居た。
衣装やオプションパーツ、髪や瞳、全体のイメージ、何より漂う胡散臭さと甚大無比な妖気。
それらの殆どが 『彼女は八雲紫だ』 と主張している。


だけど。


その背は低い。八雲紫はお姉さま的な印象漂うすらりとした美女の筈。
その胸は薄い。八雲紫は母性の象徴のような豊かな―――霊夢の一番身近な嫉妬対象の―――胸を持っていた筈。
その顔は幼い。八雲紫は胡散臭さ漂う妖艶で謎めいた美女であって、こんなちまっとした幼女ではない筈。



「しつれいな。れいむはははおやのかおをみわすれるようなこだったの?」
「平仮名で喋るな。あと誰が母親よ」

ぺち、と座布団で引っ叩く。
止まっていたのは一瞬の事。身に染み付いたツッコミ精神が反射的に手を出させた。

「いたぁ……もう、いいじゃないひらがなでしゃべっても」
「読み辛いって言ってるの」

ぺち、ともう一度座布団を投げる。
座布団と言っても座る為の物ではなくて、博麗の巫女の袖に隠された小道具の方。
愉快な形状とは裏腹に当たると結構痛い。
視覚的にも痛い針と並んで、霊夢の大事な商売ツッコミ道具である。

「大体なんで起きてるのよ。今は新暦二月十八日、まだ冬じゃない」

八雲紫は普段から寝惚けていると言うのに、冬になると冬眠する。
眠っている彼女を起こすのは死を意味すると言われる程度の禁忌であるとされる。
ただし眠っている彼女の艶姿を拝める幸運が付随する為、諸刃の誘惑としても有名。

二月と言っても当然寒く、レティばあ様の猛威は結構凶悪に里に打撃を与えていた。
つまりはまだ寒く、寝惚すけ妖怪が起き出すのは明らかに奇妙な時期。
……なの、だけど。

「きょうはきゅうれきいちがつついたち。きゅうれきのはるはいちがつからさんがつよ?
 それから、しんれきならにがつよっかからはるね。こよみのうえは、だけど」
(今日は旧暦一月一日。旧暦の春は一月から三月よ?
 それから、新暦なら二月四日から春ね。暦の上は、だけど)
「……うあ」

基本的に幻想郷では新暦を使ってはいるものの、古い種の妖怪は未だ旧暦で活動中。
感覚が古いのか歴史が在るのか年寄り臭いのかはさて置いても、その差が出る事は時々あった。
実際のところ、今の霊夢の反応がその一つと言っても良い。

「つまり、なに。紫はわざわざ『旧暦の春第一日目』から起きてきたの?」
「なによ、そのめずらしいものをみるようなかおは」

珍しいも何も、八雲紫と言えば一日の半分は寝ていると言われる寝惚け妖怪。
本人は『さあ如何かしら?』等と空惚けた事を言うものの、
知人友人に聞いてみても殆どが肯定する程に寝惚けた女性と認識されている。
それが春一日目から目を覚ましているのは……。

「珍しいにも限度があるからよ。寝惚け度合いでも幻想郷一番手なのに」
「れいむがそれをいうの?」

尚その寝惚け度で良い勝負が出来るのは当の紫の親友である亡霊嬢と、
さっきから嬉しそうな笑顔の割につんけんした事を言っている巫女である。
特に巫女の寝惚け度は、その親友にして悪友に

『そんなに寝てばっかりいると、そのうちああスキマになるぜ』

と言わせる程。


閑話休題それはさておき

「取り敢えずちゃんと喋りなさいよ。聞き取り辛いったらないわ」

平仮名だらけの喋り方は拙さが溢れていてそれは可愛いものの、聞き取り辛いし読み辛い。
別に如何でも良い的なスタンスを取り続ける浮巫女も、一応程度には気になると言う物。

元より相手が紫でも霊夢は頓着しない。ましてこの外見では威厳の欠片も在りはしない。
それだけに言い方は自然、普段の物より適当度が増えている気がした。


その巫女に対する小さな大妖怪の返答は、酷く、単純だった。

「このしゃべりかた、いや?」

むー、と。今の容貌との相乗効果でそれはそれは可愛らしいむくれ顔。
いつもの紫と違って、どうにも可愛過ぎていけない。
ほんの僅かに浮かぶのは作り涙か本物か。どちらにしても可愛さを増幅する役にしか立っていない。

尋常な感覚の持ち主なら男女を問わず抱きしめて連れて帰りたくなるのは必定――――じゃなくて、犯罪です。

「普段なら奇妙だけど、今なら見た目相応だし、良いんじゃない」

霊夢には通じませんでした。
とは言っても霊夢は鬼でも悪魔でもなくて巫女で少女。小さい子供は嫌いではない。
連日のように吸血鬼に抱き付かれ鬼に登られ近所の妖怪・妖精に付き纏われている所為で、
『ちいさなおんなのこ』への耐性は高くなっている。

「……まあ色々と言いたい事はあるけど全部どうでも良いわ。紫に逢えただけで嬉しいし」
「そういってくれると、あたしもうれしいな」

えへへ、と紫―――外見と喋りに従って以降“ゆかり”と呼称―――は照れたように笑い、また俎板に向き直った。
とんとんと独特の、日本の朝のリズムを刻む小さな姿。

俎板を危なっかしく両手で抱え、その上の物を小さな鍋に移す。
紫の手際も腕前も、霊夢はとても良く知っている。
幼い頃は、紫がよく朝御飯を作ってくれていた。

よく覚えている。
巫女が妖怪に育てられるなんて笑い話にもならないけれど、それが当たり前だった事は。

だから不安は無い、だけどそれは“紫”の事。
いま台所にいるのは、何をするにも大きな台が必要な“ゆかり”。

中身が同じなら本質も同じ。
だけど外見が違えば中身だって変化する。

危なっかしい。
今にも手を切ったり湯を跳ねさせたり転んだりしそうに見える。
仮令そうなったとしても、ゆかりには天下無双の“隙間”があるから心配は無い。

ついでに紫がドジを踏む可能性なんて、本来なら、無い。
紫なら、本来なら。

勿論、理屈では全部割り切っている。
だから心配なんて……否、だからこそ心配は募る。

道理は二の次。
例え中身が何であれ、幼く稚い姿の誰かが怪我や火傷をする姿は見たくないもの。
それが外見に流された思い込みの産物でも、確と在り得ない未来でも。


「あ」
「貸しなさい、ゆかり。後はわたしがやるから」

ひょい、と手元の物を取り上げる。
これでも寂しくも優雅な一人暮らし。家事全般は身に付いたスキル。
朝食の準備の一つや二つ、手早く出来ない道理は無い。

「れいむ……」
「今のゆかりはそんな格好でしょう?」

微妙に恨みがましそうな視線で背後の紅白を見上げる幼い姿。
そのどこか拗ねた様な顔に、霊夢は珍しい笑顔を浮かべた。

「いまのれいむ、おねえさんみたい」
「そうよ。だから可愛いゆかりに朝食の支度を押し付けるわけには行かないの」

さっき拗ねた子供がもう笑った。
少しだけ眩しいものを見るようなゆかりと、殊更にお姉さん振る霊夢。

「ゆかり、器取ってくれる?」
「はぁい、れいむおねえちゃん」























黄昏、夕暮れ、茜空。
逢魔ヶ刻と人の言う。

「ひのそらくのちのあけのよる
  ふるしらみねにもはるぞくる
   みくものいろどるたまころも
    よのはてとおくもあかりさす
  いつぞやかえるとおにのいい
   むのとのよにこそはなぞさく
    ながよのつきにはかげもなく
     やくものちのうたいまむかし」

朱の色に染まる大禍時の境内に、一人の巫女と一人の女童が立っていた。

「そろそろ日も落ちるわね。ゆかり、中に入りましょう」
「うん」

紅白の衣を纏った巫女は古びた箒を、紫の着物を纏った女童は古びた鞠を。

「ねえ、れいむ」
「なあに?」

女童は言う、稚い笑顔に艶やかな声を乗せて。
女童は問う、妖しの笑顔に幼い声を乗せて。

「おかあさんなあたしといもうとなあたし、どっちがすき?」

だから巫女は言う、いつもの顔にいつもの声で。
故に巫女は答える、薄晴れの笑顔に揺籃の声で。

「どっちも」

黄金の髪に触れる掌。
くしゃりと撫でるとふわりと笑う。


毎日が悪くないけど、こんな日は特に悪くない。
生息地周辺はレティの一撃を貰いました、藤村たかのです。
……やっぱりばあ様呼ばわりがいけなかったのでしょうか。

通称『ゆかれいむ』と呼ばれる紫と霊夢の関係。
共通二次創作認識辺りでは母娘だったり血が繋がっていたり恋人だったり(!)するらしいのですが。
拡大解釈万歳。

結界組ファンを完全に敵に廻してる気が……(怯)。
……すみません、紫様は普段お姉様でお母様だけど、時々お子様な気がしたのです。


本人は『さあ如何かしら?』等と
 冬眠じゃなくて外の世界に行っていると言う噂もあるらしいです

紫の着物纏った女童
 手縫いの逸品(狐印)

手鞠歌
 人里でも時々聞かれる手鞠歌。
 『緋の空紅の地の朱の夜
  降る白峰にも春ぞ来る(別の資料には“古知ら身根にも春ぞ来る”と在る)
  三雲の彩る玉衣(みくもは“海雲”、たまごろもは“弾衣”とも)
  世の果て遠くも灯り差す(“夜の果て”でも通じる)
  何時ぞや歸ると鬼の言い
  六の十の世にこそ花ぞ咲く(或いは“六の十の夜”か)
  永夜の月には影も無く(“永世の月”とも)
  八雲の血の詩、今昔(“八雲の地の詩”?)』

 なお事件の順番よりも音を優先しました。


注:旧暦と新暦と季節の関係はうろ覚えなので外れている可能性があります。
藤村たかの
http://folklore.bufsiz.jp/
コメント



1.CACAO100%削除
うーん・・・カリスマが有るのかないのか・・・
だがね、之は新しい、そして良い
タップリ10分は楽しませてもらったよ
2.名無し妖怪削除
さて、ここで八雲一家と霊夢の霊夢の関係を考えるなれば、橙も霊夢のお姉さんということでよろしいですね?
……うん、いいかも。
3.名無し妖怪削除
敢えて言おう、「おねえさんな紫んが一番」であると!
>例えそうなったとしても
譬えです。
4.蝦蟇口咬平削除
紫さまは存在レベル高いぜ、ってことですね
5.名無し妖怪削除
私もおねえさんなゆかりんが好きですが、こんな結界組もたまにはいいと思います。
6.名無し妖怪削除
幼女ゆかりんよりも霊夢がゆかりんに対して素直、というかラブラブ光線(古)発しているのが珍しい。
7.思想の狼削除
手鞠歌がオリジナルというのに驚きました…! 素晴らしいです!!
8.藤村たかの削除
CACAO100%さん
 感想、有難う御座います。
 10分の幻想旅行を楽しんで頂けて何よりです。
 カリスマよりもらぶらぶさせたかった方に比率が寄ってしまいました。
名無し妖怪さん(一人目)
 感想、有難う御座います。
 一歳か二歳ぐらいの霊夢ともう少し上ぐらいの橙が、
 まだ少女っぽさの抜けていない藍様の尻尾の中に……とかでしょうか。
名無し妖怪さん(二人目)
 感想、有難う御座います。
 しまった、お姉さんな紫様をすっかり忘れていました。
 それと誤変換報告ですが、これは全部同じ意味で良いそうです。
蝦蟇口咬平さん
 感想、有難う御座います。
 紫様は特殊要素の塊みたいな人ですからねぇ……。
 最初は『小さいゆかりが見た物は紫様の夢になる』とか考えてました。
名無し妖怪さん(三人目)
 感想、有難う御座います。
 根強い『紫お姉さま』人気。紫薔薇さま?
 原作だと『ちょっと妖しいお姉さん』な感じでしたし。
名無し妖怪さん(四人目)
 感想、有難う御座います。
 柵知らずの霊夢って、意外に真っ直ぐ気持ちを発しそうな気がしまして。
 素直と言うか正直と言うか、えーっと……あれです、素直クール?(違う)
思想の狼さん
 感想、有難う御座います。
 手鞠歌とか数え歌には何かしらの暗示があるらしいので、思わず。
 どうも私には、この手の余計な部分に凝る悪い癖があるみたいです。
9.妖怪A削除
>『ちいさなおんなのこ』への耐性は高くなっている
u ra ya ma si i ☆
10.euclid削除
母子的ゆかれいむが更に逆転。
素敵すぎて困ります。