Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

博麗霊夢対妖怪の敵

2006/10/04 21:48:42
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幻想郷で妖怪の姿を見つけられなくなってもう二週間以上が経過した。

博麗神社。
普段ならば妖怪で賑わうこの神社にもここ最近は巫女の博麗霊夢の姿以外見つけることが出来ない。
その霊夢も、ただ普段のように縁側で掃除をサボりつつ、お茶を飲んでいるだけである。
「よう、霊夢」
そこに友人と言えなくも無いような知人、霧雨魔理沙が現れた。
「相変わらず暇そうな奴だな」
「あんたもね。たしか一昨日も来たじゃない」
「ああ、昨日は紅魔館に行ってきた」
「咲夜の様子はどうだったかしら?」
「あいつは相変わらずだ。主人の留守中館の守備管理をするのがメイドの役目だそうだ」
「ふぅん」
霊夢は自分から聞いておきながら特に興味が無い風に応じる。
「ご苦労な話だ」
魔理沙はそういうと霊夢の横にごろりと寝転がった。
二人の間に妙な沈黙が訪れる。
どれぐらいの時間が経ったかも定かでなくなった時、
「ちっ」
魔理沙が舌打ちをしながら体を起こした。
そしてイラついたように頭を掻く。
「なによ魔理沙。お茶飲んでくつろごうとしている人の隣でそういうの止めてくれない」
「霊夢、本来はこんなこと私は言いたくはないんだ。あまりにも野暮ったすぎて口にすることすら憚られるぐらいのことだ」
「なら言わないでよ」
「だがあえて言うぜ、霊夢」
「……」
「お前はどうして何もしないんだ?」


二週間とちょっと前。
博麗神社。
八雲紫の来訪は(いつものことだが)突然だった。
「霊夢、私たちはしばらく姿を消すことになると思うわ」
突然の言葉に霊夢は紫の真意を測りかねた。
紫はいつも通りの不敵な笑みで、何を考えているかを読み当てることなど到底出来ない。
「はぁ?突然やってきて何を言ってるの?」
それだけに霊夢の反応はひどく人間らしい反応だったと言える。
紫はくすくすと笑う。
「そのままの意味よ。私たち妖怪、悪魔、妖精、その他の人ではないもの達はしばらくの間幻想郷から姿を消さざるを得ないの」
「だから意味が解らないって…」
紫は目を細める。
「あなた達は感じないでしょうね。妖怪の敵が現れる予感。妖怪の敵は人の味方だから」
「妖怪の敵?」
「あれには妖怪は絶対に敵わない。そういうルールなのよ」
「よく解らないけど…」
「あらゆる妖術、呪殺、魔法も利きはしない。あれに直接かかわる妖怪はその存在すらも無効化されてしまうから誰も見つかりたくは無いの。私を含めてね」
「それはすごい奴ね」
「しかしそれは妖怪の脅威というわけではないのよ。私も別にあれを恐れはしない」
「はぁ?」
「あれの寿命は私たちに比すればほんの瞬き。ほんの少しの間身を隠さざるを得なくさせられるだけのこと」
「ただの強がりね」
「ふふ、そういう考えは人間ね。さそり座が現れればオリオン座が姿を隠すのと同じことなの。それが自然」
「まぁ何でも良いけど…それで何が言いたいわけなの?」
「あれの寿命は人間と同じ。だからあなたが生きている間にもう一度私たちが戻ってくる可能性はきわめて低いのよ。だから…」
「だから何よ」
紫は霊夢に近づきささやくように言う。
「お別れを言いにきたの。皆を代表したつもりでね」

次の日から幻想郷で妖怪の姿を見かけることは無くなった。

「おい、霊夢。どうなってんだ?アリスの家も香霖堂も空っぽだぜ?」
「…」
「それにここに来るまで一体も妖怪を見かけなかった。どう考えても変だろ」
「…」
「おい霊夢!」


そして今。
「どうして何もしないかって?あんたは私に何を期待しているのよ、魔理沙」
「別に何かを期待しているわけじゃないさ。どうして何もしないのか。それだけの話だ」
「こうしてお茶も飲んでいるし掃除だってしているわ。それで何もしていないという以上何かを期待しているとしか思えないのよ」
「別に期待はしていないといっているだろう。ただこの二週間、逆に言えばお前は茶を飲んでは掃除をしていただけだ」
「それが何?それ以上なにをしろと言うの?」
「だから何かをしろとは言わないさ。ただお前はあれを放っておくのか?」
「……」
霊夢は答えない。
「おい」
「……」
「霊夢」
「あれは…」
「ん?」
「あれは人のためにあるものだわ…。人が生み出したもの…」
「それがどうした?」
「私は…」
「歯切れが悪い」
霊夢は少し魔理沙を睨む。
「そんなに言うなら魔理沙がどうにかすればいいわ」
「私には無理だった」
「え?」
霊夢にしては珍しい素っ頓狂な声だった。
「あんたもう…」
「あぁ、あれには私の魔法も無効だった」
「……」
「だからお前だ」
「…」
「あれは私が人間だから攻撃されても何もしなかった」
「…でしょうね」
「お前は…」
「あぁもう、うるさいわよ魔理沙!」
「それがお前の答えか?」
「…」
「なぁ、どうしてお前は動きたくないんだ?」
「…」
「あれが人のためにあるものだからか?」
「…」
「あれは本当に人のためにあると思っているのか?」
「…」
「違うだろ」
「…」
「楽にしてやれ」
「…」
「まぁ、別にどうでもいいけどな」
「…勝手な奴だわ…」
「言うだけ言ったぜ。私はそろそろ帰るからな」
「忙しい奴…」
「まぁな。今日中にアリスの家とか香霖堂とかに行かなきゃならないからな」
「空き巣?」
「違う違う」
魔理沙はそう言うと帰っていった。
そして一人になった霊夢はゆっくりとため息を吐く。


博麗神社、深夜。
霊夢は疲れた表情で鳥居を潜った。
「あら、お疲れの様子ね」
霊夢が声のした方へ顔を向けると、そこには紫の姿があった。
「…たしかあんたからは別れの挨拶を聞いたと思ったけど?」
「それじゃあ出会いの挨拶をしましょうか?お久しぶり」
「…」
霊夢は紫を無視して進む。
「あら、つれないわね。これでも感謝はしているのよ?あれを殺してくれて」
「…うるさいわね…」
「ふふ、ごめんなさい。でもこれで妖怪たちは戻ることが出来る」
「妖怪に感謝されたくてしたことじゃないわ…」
「でしょうね」
「…で、何なのよ…こんなところで待ち伏せて」
「さぁ?あなたの方が何か言いたいんじゃないかしら?」
「…」
霊夢はしばらく紫を睨む。そして…
「あれは、私だったわ」
と、言った。
紫は軽く笑う。
「違うわ。あれはあれ。あなたはあなた。混同しちゃ駄目よ」
「…そうね…」
霊夢はわりとあっさりと紫の言葉を受け入れる。
「でも、もう少し時代が変われば私があれになるかもしれない。そして私に代わる何かが現れて今日を繰り返すかもしれない」
「その可能性は誰にも否定できないわ。…でも」
紫は微笑みながら言う。
「その時には幻想郷は幻想郷としての資格を失っている。そんな時が来ないのが幻想郷なのよ」
霊夢も薄っすらと笑う。
「とりあえず、あんたの言葉でも信じてみるわ」
そして再び歩き出した。
「もう随分とお疲れのようだから、私はお暇しようかしら」
「そうして頂戴」
帰ろうとした紫がふと、立ち止まる。
「あぁ、最後に一言いいかしら?」
「なに?別にあんたからのねぎらいの言葉なんて期待してないわよ」
「ふふ、少し違うけど…皆を代表したつもりで言うわ」
紫は霊夢にすっと近づき、耳元でささやく。
「ありがとう」


その後の幻想郷。
妖怪が戻れば、妖怪が跋扈していたときの状況に戻るのはすぐのことだった。
妖怪の中には何故自分が姿を眩ませていたのか、自覚していないものもあった。そういう連中は、ただただ理由の無い本能的な焦りが生まれたから姿を消していたらしい。
高等な妖怪でなければ事態を把握できていなかったようだ。
妖怪が居なかった以上実害は無かったわけだが、副害とでも言うべき被害が各所から挙げられている。留守中何者かによって家に置いていったアイテムなどが持っていかれているというのだが…犯人は目下捜索中である。
博麗神社。
霊夢は普段通り掃除をサボりつつお茶を飲んでいる。
霊夢は思う。
今、戻ってきた妖精にいたずらされている人間がいるかもしれない。
今夜、戻ってきた妖怪に襲われる人間が出るかもしれない。
自分がしたことはそういうことだということを、思う。
「よう、霊夢!」
そこに魔理沙があらわれる。
次に妖怪たちがやってくる。
霊夢はそれを不機嫌そうに、ただし、少しだけ楽しそうに迎えた。

                             《了》
あらゆる意味で初めての投稿です。きっと親切な世界だと信じます。

幻想郷にヒ一族が来たら面白いなぁ、という発想から書いた小説です。…が、さすがにそのまま使うのも憚られたので謎の存在として伏せました。…というか完全にヒ一族ではないです。
ヒ一族が何か解らない人は鬼太郎を読もう!
紫がただの良い人になっているなぁ…。

…マジでこんな調子でいいですか?不慣れを通り越してもはや無知ですが僕はマナー違反していませんか?
我ながら恐れすぎ。

って、さっそく至ってねぇ!あるまじき誤植!ゲーメスト並!
一括修正最後にかけようと思いつつ忘れていました。ご指摘、恐縮です。
折角なので恥を忍んで修正させて頂きました。落ち込んだ…
aba
コメント



1.名無し妖怪削除
博霊→博麗かと
2.削除
さそり座とオリオン座を例にしてるのが、妖怪的認識っぽいですよね。
ところで、やはり猫娘な橙は捕まってしまうのでしょうか?
3.名無し妖怪削除
クロス物だったのですか?
前面に出てなかったので、全く気付きませんでした。
違和感なく読めたから、良し!