Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

式歴史

2005/04/18 18:45:51
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妖怪は、年経るごとに妖力を増す。
猫又しかり、九尾の狐しかり。
この変化は不可逆で、たまに人間に退治されるなどの『うっかり』が無い限り、変わることなく強くなる。

八雲家の面々とて、例外ではない。

八雲藍は、式としては強力であるため、その余力を使って橙を式の式とした。
式の式である八雲橙も、その当初こそ弱かったが、次第に『自分でも式を打てるほど』に強くなった。
彼女が打った式、鼠の化生である彼女は、式の式の式となった。
式の式の式である彼女もまた、橙に多量の迷惑を掛けるほど弱かったが、次第に『自分でも式を打てるほど』に強くなった。
彼女の式は牛の化身だった。

こうなると状況は転がりつづける。
鼠算式に増えないのが、まだ救いだが、それでも狭い家屋に家族が増えつづける事態が発生した。
ただ、ここまでくれば『最後まで行ってやる!』という、妙な意識が生じるのも確かなこと。
子→丑→寅→卯→辰と、上手い具合に続いているのだ。
途中で途切れさせるのは、拒否反応に近いものが生じる。
それは、まさに『間違った伝統が醸造される過程』そのままだった。

だからこそ、辰の化身が、「蛇なんてイヤ!」と駄々をこねた時、家族総出で説得(脅迫)にあたった。

「よーよー、おまえさ、自分の式、かわいいよな? かわいくて仕方ないよな? あーでも、可愛そうになあ、このままじゃそいつ、俺たちに……おっと何てもねえや、いや、おまえが良いなら、それで良いんだよ? ただ、不幸な事故ってのはどこでも起きるもんだよなあ」

……こんな会話があったかどうか定かではないが、『伝統』は途切れない。
ついには猪まで達してしまった。

式の式の式の式の式の式の式の式の式の式の式の式の式の式である猪の彼女は、生じた瞬間、スタンディングオベーションで迎えられた。
なんのことやらサッパリではあるのだが、そのまま狂喜乱舞の宴会に突入する面々を見るにつけ、彼女の中で早くも後悔が湧いた。
この先やっていけるかどうか不安になるのも、仕方の無いことだろう。

さて、十二支が達成すると、『次』を求めたくなるのもまた確か。
喧々諤々の論議が生じた。
辰の化身や亥の化身は、「もうこれ以上の被害を出したくない」と、式の増加に反対した。
「次は十二星座がいいな~」という意見も出たが。
「こっから先は自由でいいじゃないか、とてもじゃないがケンタウロスはいないぞ、というか水瓶なんかどうするんだ?」と常識論も出てくる。
だが、比較的初期の面々は「自分たちがこの式隊を作った」という自負があるため、あっさり引くわけにもいかない。
ひとつひとつと積み上げてきた実績、そこでの充実感は確かな手ごたえとして、彼女たちの胸に残っているのだ。
しかしながら、崩れかけた伝統は脆い。
「それならばどうするんだ、ブレーメンの音楽隊か? それとも聖書になぞらえるのか?」
と問い詰められれば答えることもできない。
子どもに理屈で論破された大人の心地である。

そして、理が破れれば力に訴えるというのも万国共通。
十二支を真っ二つに割った、弾幕戦争が開始された。
それぞれ個々の意見はあったものの、前半六支と後半六支の二つに、結局は分かれて争う。

『年経るごとに妖力は強くなる』という鉄則の元、当初は伝統保守派が圧倒的に有利ではあったが、「自由がいちばんっ!」と橙が伝統革新派に参加したことで、その状況は一挙に変化した。
いまだに彼女を猫かわいがりしてる式、八雲藍ももれなく付いて来たからだ。
戦況はシーソーの如く傾いた。

不利になった側は考える。
『眠れる始原』こと八雲紫は、冬眠に入って既に百年経つ。
「面白いのが増えたらまた起きるわ」と言った彼女の言葉を、伝統保持派の面々は憶えていた。
――面白いの。
この状況こそ、始原者たる彼女が楽しめる事態ではないだろうか?

七日に及ぶ大々的な起床行為――目覚まし百個の音波、クサヤ、納豆、チーズなどの匂い攻撃、太陽の五倍程度の光量、あと遠慮なしの弾幕攻撃――が行なわれ、遂には目を覚まさせることに成功した。

目覚めた彼女は話を聞き、不機嫌さ120%の顔で頷き、言った。


「それなら元に戻してあげるわ」


かくして十二支たちは元の動物へと戻り、式としての関係を解除された。
伝統を賭けた一戦は頭から抜け落ち、その野生のおもむくままに吠え、逃げ、炎を吐く。その様子はまさに幻想動物園の一言だ。
喰ったり喰われたりが無かったところがまだ救いだが、ともあれ、後に残ったのは、再び眠りについた寝ボスケと、それを呆然と見守る二人の式だけだった。



 ・ ・ ・



「分かるか、橙? このような事態を起こさないためにも、お前は式を増やしてはいけないのだ」
「えー」


以上、藍による『なぜ式神増加に反対なのか』の一節より。







橙の式って何になるんだろうなあ、とか想像してたらできました。
最初は一大弾幕戦記とかを夢想してましたが、5秒後には無理だと断念。
こんな形に……
いや、まあ、微妙に気に入ってはいるんですけどね。
nonokosu
コメント



1.七死削除
嘘はいかんなぁw
2.藤村流削除
卯の式が辰って地味に凄い気が。
チワワがレトリーバーの子を孕むみたいな(違
3.名無し妖怪削除
藍って中々に妄想逞しいですね(オ)
4.おやつ削除
さり気に本気なのか、それとも橙に対する独占欲なのか分からん狐様ですな。
5.名無し妖怪削除
この話を読んでいて『天使のしっぽ』を思い出しました……
12(プラス1)の可愛い動物少女たち。
うらやましいぞ、ゆあきん(ぇ
6.den削除
藍が子供のおねだりをかわすお母さんみたいだ(w
7.名無し妖怪削除
「えー」ってw
8.名無し妖怪削除
ナイス! 面白い
9.名前が無い程度の能力削除
この発想は新しいなぁ