Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

幻想武闘会

2005/03/03 20:56:04
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円形の闘技場はスポットライトに照らされた。
砂で敷きつめられた場は、幾多もの戦士の血と骨を飲み、底なし沼かアリジゴクの巣のようだ。
傷を幾重にも幾十にも刻まれた壁は、激戦の名残りを僅かに知らせる。
空気は、日常と隔絶した唸りを鳴らし、過去に、そして、これから起こる戦闘を連想させた。
周囲に陣取る観客もまた尋常ではない。
普通の人間はここにいない。
妖怪でさえも通常以上の力を持たねばここにない。
趣味、好みの問題などではなかった。
最低、それだけの力がなければ、『観客である』ことさえ難しいのである。
戦闘余波を防ぐのはもちろん、殺気だった観客同士での場外乱闘も日常茶飯なのだから。
自らを守る力が無ければ、生死不明のまま弾き出されるのがオチだ。
お陰で客席は、サファリパークを200m四方にまで圧縮した有様となっている。
現在は皆、戦いを見るという作業に集中しているから良いものの、いつ血で血を洗う乱闘が始まってもおかしくない。
ぴりぴりと、観客全員の肌は泡立ち、様々な情念が渦を巻いている。
興奮と緊張が、彼らの呼吸を自然と荒いものにしていた。

――ふっ、と。
唐突に、凶暴なライトがその輝きを停止させた。
四方から中央の闘技場へと集中させていた光が消え、怪砂の白が暗闇に沈む。
海のような、ざわめきに満ちた静けさの後、

「あー、テステス」

くもぐったマイク音が会場の緊張を低下させ、失望させた。
だが、次の一言にボルテージは反発し、天井知らずに激増した。

「これより、幻想武闘会、準決勝を始めます!」

割れんばかりの歓声。
アナウンスの後半部分をかき消してしまう。
踏み鳴らされる足音、突き上げられる手と手と手。
待ちくたびれたぜ、どこまで待たせる、さあとっとと見せろ、戦いを、死闘を、馬鹿らしいまでの殺戮を!
彼らはそう叫んでいた。
選手を賛える言葉と、それは同じだ。
それだけの期待を持たせるに足るのだ。
――そう、誰のせいだと思ってる。こんなにも震えてしまうのは彼らのせいだ。こんなにも苦しい鼓動は彼らのせいだ。
責任を取ってもわらなければ、この張り裂けそうな絶叫を尚越える、そんな戦いを見せてもらなければ割に合わない!

――観客の熱意に油を注ぐかのように、アナウンスが続けられた。

「先の十六夜咲夜との戦は、『今大会の事実上の決勝』とまで言われています! それほどまでに壮絶な戦いを制しました! 真剣は無くとも左右の拳があるといわんばかりの壮絶なラッシュに、魂魄によるトリッキーな攻撃も加わり、その攻撃圧力は他の追随を許しません! 素手でも強いぞ警護役! 顔と背に似合わぬ万能戦士――」

さっと手を示す。
その先にはスポットライト。

「魂魄妖夢っ!!」

円光の中、刀を差していない庭師が、両手のオープングローブを確かめながら入場した。
ヤジと歓声の合わさった、暴力的なまでの音が彼女を彩る。
照れ、おどおどしながらも『わたしが主人公!』と顔に描いてあった。
主人である西行寺幽々子がいないため、なんだか場違いに感じる部分もあるが、それでもこうしてスポットライトが妖夢だけを、そう魂魄妖夢のみを照らし、注目されているというのは決して嫌な気分ではない。
いつものように、『幽霊コンビのマジメな方』とか『百発百中の貧乏くじ』とか『イジられキャラナンバーワン』などという立場ではなく、己が技と力でここに立っている――

(幽々子さま、御免なさい。わたし今、最高ですっ)

感涙に咽びながらの歩みであった。
ああ、これぞ我が花道。ここまで正当に評価されたことなど、いままであっただろうか?
――どう考えても、反語表現にしかならないのが、とても悲しい。

滂沱の涙を流したまま闘技場中央まで行き、次のアナウンスが流される。

「さて、続きましては――」

息を溜め、

「誰が彼女の勝ち抜きを予想できたでしょう! まさにミラクル、まさに万馬券! 強さだけなら順当ではあるものの、何故か『初戦で負ける』と誰もが考えたこの人物! ここまで来れば人徳でしょう! 日の当たる道は彼女に相応しくないっ!
武術の本場、4000年に及ぶ歴史は、しかし伊達ではないのか! なめるな人民の力と言わんばかりの準決勝進出!」

しょぼいスポットライトが、なんとか人物判定できる光量で照らす。

「中国っ!」

アナウンスの声に、迷いは何ひとつ無かった。
だって用紙にそう書いてある。
他の名前なんてありはしない。
本人が如何に身振り手振りで文句を言おうとも、だから、否定する論拠は何ひとつありはしないのだ。

しばらくのパントマイム抗議の後、なんだか『とほほ……』という雰囲気をまといながら、がっくり肩を落として入場する。
チラチラと左右を見渡す様子は、中国自身、「ホントに、ここにいていいのかなあ」という疑心暗鬼に囚われているからに他ならない。
武術の達人であり、『弾幕なし』という基準内の戦いで準決勝進出できたことは順当なのだが、何故だか彼女の場合は『意外』という言葉がつきまとう。

身の置き所のない様子のまま、中国は指定の位置へと歩いた。
第一試合の相手である魂魄妖夢の横へと陣取り、『中国』と書かれたプレートの前へ、凄まじく微妙な表情をしながら立った。

「続きまして準決勝第二試合――」

すう、っと会場の空気が冷たくなる。
一部の人が、剄烈な殺気を放出したのだ。
空間を歪ませる鬼気と黄色い歓声が入り混じる。

「目にもまぶしい紅白は本当に巫女服なのか!? 派手さは無いものの、合気道だか何だかよく分からない体術でバッタバッタと倒すさまは爽快の一言! というか敵の攻撃が何ひとつ当たらないというのは、もはや卑怯とかルール違反なんではないでしょうか! 絶対なんかズルしてると関係各所から非難轟々ですが、今のところ問題は発見されていません。すべては重力を操れる能力がゆえなのでしょう! 主人公の風格を漂わせ、当たり前のようにここにいます――」

光源が朧に照らし出す。
どこからか『シャン』という鈴の音がした。

「博麗霊夢っ!」

自然な、気負わない歩みで入場した。
『この戦いなど興味ない』という表層だが、その目が行き着く先が副賞の『最高級玉露、一年分』にあるのは明らかだ。
ごっくん、とつばを飲みこんで、霊夢はふわりと定位置へ着地した。
その鋭すぎる目は、『隙あらば強奪』と語っていた。
彼女にとってこんな戦いなど意味が無い、八雲紫が結界を張っていなければ、いますぐにでも盗んで逃げていた。
その迫力に満ち満ちた表情に、先に立った二人が引いていた。
それほどまでに、飢えて凶暴な顔だった。

「最後になります――」

しん、と会場が沈む。
何かを期待した顔がそこかしこから覗いていた。

「黒い帽子は魔女の証し、ルールは破るためにある! 華奢な体躯に似合わないパワーはどこから湧いて出てるのか! それは彼女が飲んでいる魔法薬だけが知っていることでしょう! 薬物違反の規定が無いことが、これほどまでに致命的な事態を起こしてしまいました! 彼女のバックについている薬士との取引が吉と出るのか凶とでるのか! もはや彼女に明日はない! 健康だけには注意しましょう!」

カッ! と膨大な光量が照らし出し、不景気な顔を明瞭にした。

「霧雨魔理沙っ!」

徹夜明けのような、どんよりとした表情だった。
うろんな目つきで、ちゅーちゅーとストローでドリンクを啜ってる。
青ざめた顔を見れば、それが決して美味ではないと分かる。
――何の気なしの、普通の第一歩で地面の砂が『じゅうッ』と焼けた。
ドーピング強化された、暴走寸前の魔力と反応したのだ。
一歩ごとに黒い足音を残し、煙が後を追っていた。
最後まで仏頂面のまま、定位置へとついた。
その顔は「生き残りてえなあ」という嘆きに満ちている。

「以上、四名によって争われます! 栄光を掴むのは、賞金と賞品を手にするのはただ一人! そう、たった一人なのです! 他の人は生贄の羊にすぎません!
なお、アナウンスは紅魔館のいち従業員、名も無きメイドがお送りします!」

喧騒が闘者を取り囲み、逃げられぬ結界を形成する。
四者四様の表情で、彼らは観客に応えた――



続きません。

というか、ごめんなさい。
海より深く反省します。
nonokosu
[email protected]
http://nonokosu.nobody.jp/index.html
コメント



1.名無し妖怪削除
ジャック・ハマリーサ。
2.七死削除
続けーーーーーーーーーっ!!
続くんだジョーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!

僕は! 作者様が続きを書いてくれるまで! 駄々を捏ねる事を止めない!!
3.名無し妖怪削除
ま、魔理沙が、凄すぎるッ!
腹筋が崩壊するッ!
4.名無し妖怪削除
芋版中国、楽しみですよのう
5.名無し妖怪削除
続きを希望! 一心不乱に続きを希望ー!

……しかし魔理沙は生きて帰って来られるのだろうか。そして霊夢よ。お茶に魂を惹かれるとは、貴公それでも博麗か! ええいこの、可愛いぞこんちくしょう!(←ヴァカ)
6.名無し妖怪削除
スッゴイ続きが読みたいんスけど…

魔理沙は生き延びることが出来るか…?(次回予告風)
7.削除
これで終わるのは反則だと思いマース!!!w
ガンバレ妖夢
負けるな中国
当たるな霊夢
死ぬなよ魔理沙
8.nanasi削除
た、頼むっ!
作者様!続きをおおおおおおおおおおおおお!!w
9.名無し妖怪削除
な、生殺しーっ!?
いや、ちょっと、ここで終わるのはあんまりにも……
10.名無し妖怪削除
対中国戦で鬼父・妖忌から受け継いだ「魂魄の血」に目覚めた妖夢が
霊夢の技をコピーした明日見ぬ魔理沙を倒して頂点に立つわけですね?wwwwwww
11.名前が無い程度の能力削除
続きが読みたいぞー!
12.名前が無い程度の能力削除
ここは続けるべきでしょう!