Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

観月神楽

2005/02/25 02:29:42
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 ぽちゃり





 湖面に零れる、月のしずく。





 ぽちゃり  



 ぽちゃり




 ……ぽちゃ、り




 透明な雫がぽたぽたと零れ落ち、真紅の王冠が、赤い湖に幾つも生まれた。

 戻らぬ悲しみを宿した波紋は――重なり合い、打ち消しあい、ひしめき合い

 すぐに、消えた。

 深い深い闇夜に抱かれ彫像のように佇む孤影に投げかけられる、幻聴にも似た声。




「…………」

 許されることではない。


 
「…………」

 オマエは大きな罪を犯した。



「…………」

 そんなに「  」が大事か?



「…………」
 
 もう、後戻りは叶わぬ道ぞ



「…………」

 お前には期待していたのだがな……今更詮無きことよ



「…………」

 ならば、最期まで己の道……つらぬいてみせ




 ―――覚神「神代の記憶」


  

 少女は、頭上に掲げ両手に構えた上弦の月を解き放った。

 引き絞られ、天に向けて撃ち放たれた烈光に託された自身の覚悟。

 それは激しく――迷い、間違い、戸惑い、悔やみ、悩み、バラバラに引き裂かれながらも

 決して途中で停止すること無く天を衝き、故郷の白い天体へ確固たる反逆の狼煙を示さんと欲す。




「―――これで、もうあそこには戻れない」







 …………

 ……………………




 夜空で薄ぼんやりと丸い影絵を映し出していた黒雲が、風に流されて背後の光源を現出せしめる。

 白いライトからふんわりと投げかけられる、しろがねの光が照らす穢き地上には――――――完全なる惨殺空間。
 




 天には月

 煉獄の天井、黒い絶望にぽっかりと空いた、白い孔。

 大いなる慈悲のもと、迎えの糸は垂らされた。


 されど、撥ね退けられた救いは――

 もはや永遠に届くことは無いだろう。





 地には赤

 楽園の大地、地を覆う新緑の息吹に広がる、赤い湖。
 
 伏した目蓋に湛えられた水滴が、睫毛の堤防を決壊させて赤い大地にまばらな雨を降らす。

 
 けれども、いくら無色の雨を降らし、その真紅の罪を薄めようと願っても

 到底それは、叶わぬ戯言であろう。 


 
 …………

 ……………………


 幾ばくかの刻が過ぎた。


 悲嘆の雨が涸れ、慟哭の風が凪ぐ。

 波ひとつ無い、黒き屍の小島が点在する静かな湖面。


 合間に浮かぶ二足の小舟が数歩後ずさり、ぱちゃりと赤い水飛沫をその身に受けて、ガクガクと揺れた。




「――――――姫」



 途轍もない絶望に打ち震える銀髪の少女が囁いた、ひとつの希望の名。

 

「これ…が、私の貴女への贖罪。こんなことで貴女に赦されようなんて、思わない。
 けど、私は……もう、迷わない。姫、貴女が望むなら…共に、そう、永遠の無間地獄に堕ちようとも――」




 少女はありとあらゆる想いが秘められた表情を浮かべながら、すべてに挑みかかる決意に満ちた眼差しを天に向ける。




「―――我、ここに誓わん。蓬莱の咎人…八意永琳は、永遠に訪れることの無い永劫に賭けて誓う。
 我が無限に続く閉じた円環を城壁と為し、ありとあらゆる災厄から我が主君…蓬莱山輝夜を護り抜くことを。そう……」
 



 すぅ…と泣き腫らした目蓋を閉じて、真正面から差し込む月光を受けながら、永琳は最後の一言を、透き通る美声で月天に向け宣誓した。





「永遠に」





 …………

 ……………………

 
 時が経ち、無人となった竹林の処刑場跡を

 すべてを見通す真の満月は、ただ静かに見守っていた。












月まで届け
しん
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