Coolier - 新生・東方創想話

拷問病――バッドエンドストーリー

2009/05/01 22:47:30
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「ぐはあっ!」

 とつぜん胸を押さえて苦しみだした妹紅に、私は思わず攻撃の手を止めた。
 聞いたことのないほど低く、思わず体が震えてしまうような声を絞り出している。

「な、何、どうしたの!?」

 今の言葉が、私の攻撃を受けての断末魔なら気にすることはない。

 だけど、私はまだ何もしていない。ただ、しようとしただけだ。なのに何だこの苦しみようは。
 まるで、万力で喉を挟まれているかのような声だ。
 ギリギリ、という音さえ聞こえてくるような気がした。

 殺し合いの最中だということも忘れて、思わずうずくまる妹紅に駆け寄る。胸を押さえて苦しむ妹紅。
 その肩に手を置こうとしたのに、妹紅は私の手を乱暴に振り払った。

「さわるなっ! 大したことない!」

 払われた手が痛かったけど、思っていたよりも元気そうな声で安心する。
 「大丈夫なのね?」と念を押すと、ゆっくりだけど妹紅も立ち上がった。

「ぐ……!」

 だけど崩れて、またうずくまる。
 血でも吐きそうな声を出しながら、胸を押さえる。その口から出るのは荒い息。どこからどう見てもただごとじゃない。

「今永琳呼んでくるから!」
「いい! これはただの病気じゃ――ぐうっ!」

 病気? 病気なのか!?
 そんなの聞いたことない!

「妹紅、病気って何、どういうことなの!?」
「うるさい! お前たちはあの薬を飲んでも平気だったろう、だけどな!」
「だけど!?」
「私は地球人だぞ、お前たちの作った月のものが――」

 最後まで言うことも叶わず、妹紅は左手を地面についた。相変わらず妹紅の声は私への憎しみのせいか死にそうな人とは離れているけど、さっきとはちがい額には汗が浮かんでいる。顔も真っ赤だ。

 月のもの? 月のものがダメだったのか!
 そうか……妹紅は私たちとはちがう。月の人が大丈夫で、地球人には合わない成分が蓬莱の薬に含まれていたんだ。
 何てことだ、妹紅は――!
 よくない想像がいくつも頭を過ぎったけれど、どうなるのか、それは私にはわからない。
 おそらく、永琳でさえも。

「ぐ……うう……」

 体がうずくのか、男のように低い声でうなっている。地面に転がり、体を抱きかかえるかのようにしてうめく。乱れた服から、肌を覆う包帯が見えた。
 まるでミイラのようで、ぞおっと寒いものが走った。

 しかし、そっちに注意なんて払ってられない。
 妹紅の苦しみかたが、溺れている人のようだ。生きようと、でも死にそうな姿。
 でも、でも――私は浮き輪なんて持っていない。妹紅を助けることが出来ない。
 歯がゆいけど、永琳しか助けられる人はいないのだ。

「永琳を呼ぶからね!」
「邪魔だ、どけッ!」
「あっ!」

 妹紅は私を突き飛ばし、自分の家の方角へと向かっていった。何度か、空から落ちてしまいそうになって。

 私はそんな彼女を、追うことはできなかった。

「妹紅……」

 拒絶された、という気持ちが私の中にいつまでも座っていた。

 ◆

 あれから何年も経った。
 それまでに何度か妹紅に会ったけど、いつでも元気そうだったのを覚えている。
 でも私は、それがどうしてか、あの病気はいったい何だったのか、聞くことが出来なかった。
 聞こうとするといつも、拒絶されたあの日のことがよみがえったのだ。

「輝夜、勝負だ!」

 ふすまを蹴破り、私の部屋へと飛び込む妹紅。
 よかった、今日も元気そうだ。

 だけど、この怒りの表情の裏には、どれほどの苦しみが隠されていることだろう。私の知らない痛みを、どれほど経験しているのだろう。

 あの日の妹紅が、常に頭から離れない。またあんなことになってしまうのではないか、と考えると胸が潰れそうだった。

 永琳に一度、妹紅のことに付いて相談したことがある。永琳は、黙って首を横に振った。
 私は永琳につかみかかり、「何とかしてよ!」と叫んだ。だけど永琳は、黙ったまま。

 妹紅を助けることが出来ないという絶望感が、私の中を満たした。

「何してる、はやく立て」

 動かない私の肩をつかんだ妹紅が、無理やり立たせようとする。

「……あ、何?」

 その手を、思わずつかんだ。すると、妹紅が引っぱるのを止めた。

「妹紅」
「何だよ」
「あの病気、治ったの?」
「は?」

 妹紅は「何だそれ」と言いたそうな顔をしている。

「治ったのね!」

 じわりと心にあたたかいものが広がり、胸をほうっとなでおろす。
 よかった、治ってたんだ……。

「何だよ病気って」
「妹紅昔よく言ってたじゃない、『ぐ……静まれ、静まれ私の腕よ!』とか『くそっ、こんなときまでヤツらが……!』って! それに、たしか包帯もいっぱい巻いてたよね。
 永琳に聞いたんだけどあれってちゅ――」

 その言葉を言い終わる前に、目の前に妹紅の拳が飛んできた。拳の向こうに見える妹紅は、なぜか真っ赤になっている。
 拳が当たる直前、なぜか時間の流れがスローモーションのように感じられて、あれ、どうしたんだろう――とぼうっと考えていた。

 その答えを出すよりはやくに骨が砕ける音がして、それっきり何も聞こえなくなった。

 私はいったい何をまちがえたんだろう。
 そんなことを考えながら、私の意識は闇に溺れていった。
 死にたい、でも死ねない。
===========================================================
 ……あ、「キャラ死にます」って注意書き忘れてました。
 ごめんなさい。
 ただ、BAD ENDを書いてみたかったんです。

○ついき
 さてこれはいったい。1000点とれるかきわどいなーと思って投稿したんですがわたし。翌朝起きた時点で目標の倍になって、その次には目標の四倍になって……なぜか最高傑作の(はずだった)『幻想郷が生まれた日』をぬいちゃいました、あははは。
 みなさんありがとうございます。ちょくちょくサイトのブログで感想返信してますので、よければお立ちよりください。
 さてもう一度、みなさんどうもありがとうございました。
ほたるゆき
http://kusuri.iza-yoi.net/
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コメント



0.3970簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
ああああ、少しでもシリアスだと思った自分が悔しい
3.70名前が無い程度の能力削除
まさに「死に至る病」。
だけど死ねない!
残酷!
4.90名前が無い程度の能力削除
誰でもな、そんな時期はあるんだ、だから気にすることはない
なぁ、妹紅(ニヤニヤ
5.90名前ガの兎削除
YARARETA!
期待した俺が馬鹿だったwww
6.100名前が無い程度の能力削除
前半読んでる最中全力で先を予想しようとしてた自分がはずかすいぃ
こういう勢いのある作品好きです
8.100名前が無い程度の能力削除
騙された…!
9.70名前が無い程度の能力削除
www
11.100RAINBOW削除
題名辺りで黒々とした展開を予想したけどやられたwww
12.100名前が無い程度の能力削除
シリアスじゃないwww
14.100名前が無い程度の能力削除
題名とタグに釣られました。でも後悔はしていません。一切ッッ
15.100奇声を発する程度の能力削除
だwwまwwさwwれwwたww
16.100名前が無い程度の能力削除
永遠に忘れてくれないんだろうなぁ…
18.90名前が無い程度の能力削除
生理かと思った
20.80名前が無い程度の能力削除
ふざけやがってwwwww
23.100名前が無い程度の能力削除
昔のおれがいるwwwwww
というかあれか、おれの精神の中にもこたんINしたお!
って状態だったのか。そう考えるとあの黒歴史もなんか誇らしいな。
25.100名前が無い程度の能力削除
昔の自分を思い出して俺も顔から火が噴きそうになったww
30.70名前が無い程度の能力削除
読み出してすぐにオチが読めてしまった…
だがそれでも面白いwww

もこたんにも若い頃があったんだな…
37.100名前が無い程度の能力削除
厨二病もこたんかわいいよ
38.100名前が無い程度の能力削除
やっと理解した
そういうことかwwwwwwwww
41.80名前が無い程度の能力削除
姫様純粋すぎるw
そりゃ妹紅も恥ずかしくなってくるわw
45.80名前が無い程度の能力削除
認めたくないものだな。
若さ故の過ちというものを。

もっと痛々しい記憶を披露してほしい。もこたんたん。
46.90名前が無い程度の能力削除
最初ちょっとわからなくて二回目で把握しました。
これはワロタw
たしかにタイトルは正しいwww
47.90名前が無い程度の能力削除
てっきり鬱話かと思って構えて読んでたら、なにこの一発ギャグwww
49.100名前が無い程度の能力削除
タイトルは間違ってないのにしてやられた感が強いのはなぜだw
51.100名前が無い程度の能力削除
我々はスクロールバーを見た時点で気付くべきだった
53.100名前が無い程度の能力削除
そ う き た か wwwwww
56.100名前が無い程度の能力削除
これは死ねるwwww
61.80名前が無い程度の能力削除
まあ、頑張れ…
しかし輝夜がやけに優しいなw
62.100名前が無い程度の能力削除
ぐあああああああああああああああああああああああああああああ
昔の古傷がうずくぜええええええええええええ
63.100名前が無い程度の能力削除
「月のもの」に過剰に反応した俺は別の病気です
64.100名前が無い程度の能力削除
姫様の優しい心に俺は泣いた
68.80与吉削除
数年前の闇歴史が頭の中に浮かんで来たんですが?
大昔の忌むべき記憶が復活したんですが?
黒歴史が脳内に展開されていくあの羞恥を久々に体感しました。
あれは、恥ずかしい。とても、恥ずかしいのです。
ですからキャラクターにとても感情移入することが出来ました。
無論、輝夜ではなく妹紅に。
素晴しい作品です。素晴しい!
あああ、古傷が疼く。疼く。
70.100名前が無い程度の能力削除
いやはや・・・
もこたんにもそんな時期があったんですねwww
71.100名前が無い程度の能力削除
たいした奴だ
73.100名前が無い程度の能力削除
痛い! 心が痛い! これが哀!?
こんなに痛いのなら! 苦しいのなら! 哀などいらぬ!
75.100名前が無い程度の能力削除
これ誰にとってのBADENDだったんだwww
80.80名前が無い程度の能力削除
これは医者も匙を投げるわ
81.100名前が無い程度の能力削除
お医者様でも草津の湯でも~治せない病がもう1つあったよ!
83.100名前が無い程度の能力削除
もう殺してやれよ……
85.100名前が無い程度の能力削除
人間としてはとっても希少な体験をしてるわけで
そんな自身の境遇に酔ってみるのも悪くないかも?w
いやいや、面白かったです。
86.100名前が無い程度の能力削除
もこたんはちゅーn(rywww
87.90名前が無い程度の能力削除
この痛みを永遠に背負わなければならんとは……
重いぜ
96.90名前が無い程度の能力削除
納得www
97.90名前が無い程度の能力削除
あああああ開きたくない何かの扉が開くwwwwwwwもこたんだけじゃなく読み手にも拷問wwwww
タグに騙されたけど悔いはない、しかし作者よあんたの罪は大きいwwwww
107.90名前が無い程度の能力削除
きっつーwww
109.100名前が無い程度の能力削除
やばいくらいに姫様がかわいいww
112.100名前が無い程度の能力削除
永琳が何もしなかったのは、同じ道を歩んだことがあったからかな……
114.90名前が無い程度の能力削除
これから妹紅はどうなっちゃうわけ……
とか思いながらスクロールしたらこれだよ! やられた!
あと輝夜かわいい
117.100名前が無い程度の能力削除
俺のトラウマがwww
122.90名前が無い程度の能力削除
あれ?
俺が出てるよ?
124.無評価ほたるゆき@ノ¨削除
>>2-117さま
たしかここまではブログで返したはず……合ってますように。

>>122さま
ごめんなさい、こっそり出演をお願いしてたのです。
自分の役に納得していただけたでしょうか。
134.90楽郷 陸削除
最初はシリアスだと思ったのに・・・
笑ったw
137.100名前が無い程度の能力削除
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