すた……すた……、と。
レミリア・スカーレットが廊下を歩く度、妖精メイド達が大袈裟に道を開けていく。
頭をくしゃくしゃと右手でかきながら、その内から滲み出る感情を隠そうともせず。静かに足を運ぶ度に膨大な紅の魔力を垂れ流していく。妖精が逃げていくのは、立ち昇る紅い陽炎によるものか、それとも瞳を怒りに燃える真紅の瞳に脅えてか。まともに頭を下げて挨拶をができたのは、メイド長の十六夜咲夜だけ。
「開けなさい」
だから、目的の場所についても。
妖精メイドたちは震えるだけ。命令に従おうとして近づいても、レミリアが顔を向けただけで体を震わせ、その場で腰を抜かしてしまう。そうやって床に座り込む妖精メイドの数が五人を越えてから、誰も近づかないようになってしまう。 廊下の角を利用し、怒れる主を覗いているだけ。
その様子を一瞥し、『開けろ』と命令しても。
「……ひぃっ!」
短い悲鳴を残して、蜘蛛の子を散らすように逃げていってしまう。
座り込んだヤツに無理やりやらせようと目を向ければ、今の威圧によって全員気絶してしまっていた。仕方なく、自分でドアノブを握れば、ミシっと音がしてドアから外れ、レミリアの手の中には金属製のノブとそこに付いた木片だけが残った。おそらく鍵がかかっていたんだろう。そんな状態から物凄い膂力でノブを引いたせいでその部分だけが破損し、手の中に残った。レミリアはそんな冷たい物質をしばらくじっと見つめていたが。
「……この!」
腕だけ振って、廊下に投げつけた。
普通なら硬い音がして跳ね上がるところであるが。
がづっ、という破砕音が無音の廊下に響き、ノブが廊下にめり込んだ。
しかも廊下に突き刺さったドアノブはレミリアが握った部分だけ、指の形に歪んでしまっている。しかし鍵ごとドアノブを引き抜いたおかげで、かかっていた鍵は強制的に排除され、後はその穴に手を入れて引くだけでいい。
はずなのだが……
めきっと。今度はちょうつがいごとドアが外れ。レミリアの身長とは不釣合いな板が右手に持ち上げられた。
「レミィ、引いても駄目なら押す、という言葉をご存知かしら?」
それすらも廊下へと投げつけようとするレミリアを、静かな言葉が止める。
ずらりと天井までそびえる本棚が並ぶ図書館で、比較的入り口に近い場所にぽつんっとおかれた端正な作りのテーブル。本やフラスコ、ビーカー、それに名前すらしない実験機材が散乱したその場所に、魔女は落ち着いた様子で本を開いていた。
「私が引き戸だと思ったら、すべて引き戸であるべきなのよ」
「小さなことに拘る暴君ね」
「うるさい、これを投げつけて欲しいのか?」
「そうね、別に投げても構わないわ」
ドアを右手に持ちながら図書館に入ってくるレミリアへと一度だけ顔を向けると、オイルランプに火を灯し、青い色の液体が入ったビーカーをその機材の上に置いた。
「あなたのために作っている薬品が台無しになってもいいのなら、いくらでもどうぞ?」
「……悪かったよ」
レミリアはばつが悪そうに頬を掻くと、ドアを入り口近くの壁に立て掛け、パチュリーの後ろへと回る。そしてパチュリーが覗き込んでいる本と同じ部分を目でなぞり、とんとんっとつま先を床に叩きつけながら尋ねた。
「小悪魔は?」
「このところ手伝いをずっと手伝ってくれたから、疲労困憊で休憩中」
「……ふん、悪魔の眷属の癖にだらしない」
「というのが建前で、あなたの気配が怖くて隠れてるみたいよ。あっちで」
そうやってパチュリーが奥の仮眠室指差すが早いか。
がちゃっと扉がいきなり開き、額に氷の入った袋を押し付けた小悪魔が、ふらつきながら出てきた。しかも衣服は司書の制服ではなく縦じまのパジャマ姿で、空いた左手をびしっとパチュリーに向けている。
「え、えぇぇぇぇぇぇぇっ!? パチュリー様! な、なんたる嘘をっ! ……げほっ……ごほっ!」
「はいはい、冗談だから、寝てなさいって」
「うー、パチュリー様のどS、へんたいっ、引き篭り、埃被った紫キノコ! げほっ……うぇっ……」
「はいはい、悪かったって言ってるでしょう? 私の布団で吐かないようにね」
見るからに、何かの病に冒されている。
そんな小悪魔を下がらせてから、パチュリーは再び本へと目を落とす。
「ま、ご覧の通りね」
「……悪化しているということ?」
「ええ、どうやらね」
すると、ふっと苦笑しながらレミリアが目を伏せた。
「すべての生き物の頂点であるはずの私達が、ここまで追い詰められるとはね」
そして、ばんっと。近くにあった本棚を殴りつける。
吸血鬼の馬鹿力をぶつけられれば、単なる木製の棚など崩れ去るはず。しかし魔力で保護されたソレは多少前後に揺れるだけで、無事に立ち尽くしていた。
「その様子だと、フランは?」
「……今日、自分一人で立ち上がれなくなったわ」
「そう、運命は見たの?」
「……運命はもう信じないことにした」
「なんでよ?」
「何故、だと? ふふ、はははははっ パチェ、教えてあげるよ」
もう一度、魔力を込めてレミリアが本棚を叩くと。
ぴしっと棚を囲う結界にヒビが走り、本棚ごと砕けた。
「あの子の容態を回復させるために何をしたらいいか、私は見たよ、運命を。何度も見た!」
ばらばら、と。
本と本棚の破片が降り注ぐ中、逃げることなく。
瓦礫の山を見ることなく、顔を右手で押さえ狂気染みた笑い声を漏らし続ける。
「そしたら、なんて答えたと思う? 運命という名の愚か者は。『フランドールに誰も会わせるな』と、言うんだ。ははっ、傑作じゃないか。あの子を隔離しろという。あの状態のあの子が隔離されたらどうなるか。決まりきっているというのにね!」
それが、朝から不機嫌だった本当の理由だ。
ぶつけようもない、怒り。
どうしようもない、自分の能力への怒り。
いままではすべて望む者を見せてくれた運命が、自分を裏切り。
妹を、殺せ。
まるでそう訴えるように。
何度も、一人でベッドに寝たきりになったフランドールの姿を見せるのだという。
「あの子も知り合いが出来て、段々と外へ目を向けるようになった。地下の中だけで暮らすことがなくなってきたというのに。最期に私に、閉じ込めろというのよ。そんなことできるはずないじゃない……」
ぎゅっと帽子を握り、顔を隠すように前へと持ってくる。
それでも頬を伝う暖かい液体は、顎から零れ、足元にいくつもの染みを作っていった。
「レミィ、落ち着いて。なんとかなるわ、私がもうすぐ。魔法薬を作り出して」
パチュリーは椅子から立ち上がると、固く握られたレミリアの手に華奢な白い手を重ねて。
はっとした。
熱いのだ、驚くほど。
いつもの体温とはまるで違う。
この状況はまるで……
「そうよ、パチェ。私も発症した、きっと。後二日もすれば小悪魔と同じ状態になる」
「そんな、たった……たった、五日よ? こんなの、過去の症例には存在しないわ!」
そう、たった、五日間。
珍しく外で遊んでいたフランドールが、地霊殿から戻って咳き込んだことが始まりだった。小悪魔を調査に向かわせたところ、ヤマメという土蜘蛛の妖怪が操る病原菌の一つに誤って感染してしまったということが判明した。
その病原菌は過去に悪魔を苦しませた、風邪のようなウィルスで。人間で言えばインフルエンザと呼ばれるものらしい。しかし、悪魔の生命力を完全に奪うような代物ではなく。一週間ほど症状が続いた後は免疫によって消えてしまうという。しかも感染力はそこまで強くないそうだ。
そのため、その情報を知った後は、特に気にせず紅魔館の全員で看病をしていたというのに。
いきなり小悪魔が、熱を出した。
明らかにフランドールの部屋へ行った後に、である。
文献から調べてもこれは不自然で、慌てて永遠亭に調査を依頼したが。
『病原菌は変異しているわけではないが、何故か病原菌が活性化している』
そんな結論だった。
だから、悪魔を殺しきるようなものではない。
しかしそんな結論をあざ笑うかのように、フランドールの症状は過去の文献ではありえないほど悪化の一途を辿っている。
そんな妹を咲夜すら押しのける勢いで看病してきた。
そのレミリアにとうとう、病原菌は牙を剥いたのだ。
「吸血鬼に特別な症状を生み出す。そんな記載はどこにもない……弱気になっては駄目よ! レミィ!」
「パチェ、そんな大声を出すなんてらしくないわ。当然よ、私もことの程度のことで負けるつもりはない。私はこの館の主、偉大なる血族のレミリア・スカーレットなのだから」
胸に手を当て、仁王立ちする。
そんないつもの自信に溢れる姿も、わずかに赤みを帯び始めた顔色のせいで妙に弱々しく見える。
「ごめんなさい、パチェ。本棚、後で妖精メイドたちに直すように言っておくわ」
「いいのよ、そこにある本は今回の事件に役に立ちそうなものは置いてないから。今はとにかく、小悪魔とあなたの妹の症状が何故ここまで違うかを考える方が大切だわ。そうでなかったら今調合している薬も無駄になるかもしれないし」
「そうね、冷静に一つずつ潰す、それが大事ね」
そしてレミリアはパチュリーの正面に座り。
初日からあったことを思い出す。
…………
最初は熱があるだけで。
しばらくすると咳をするようになり。
部屋で休みなさいと指示し、レミリアが一緒に地下まで行って。
パジャマに着替えさせ、ベッドに寝かせた。
そのときは病気なんて全然気にせず、レミリアと一緒にいられることを喜んでいるだけ。
何も異変なんてなかった。
次に、パチュリーが入って。
レミリアと一緒に、どんな症状があるかと質問した。
フランドールは面倒そうに口を尖らせていたが。
二人が心配していることを感じたのか、素直に一つ一つ答え続ける。
そのときも、先にあった証言と同じで、地下の妖怪たちと遊んだとしか言っていない。その中にヤマメの名も挙がったので整合性は取れていた。
その後、パチュリーは出て行き。
レミリアも少し名残惜しそうにその場を後にした。
その後は咲夜が世話をした。
報告によれば、汗をかいた後に体を拭いたり。
服を着替えさせたり。
喉が渇かないように血を混ぜたジュースを飲ませたという。
ただ汗を拭いた回数が多いことと。
妹様はやはり可愛いですね。
という発言が少々気になったが、特に異常のある行動はなかった。
そのジュースに何か原因があるかとも思ったのだが、極ありふれた果物で、過去から存在するもの。異常反応するとは考えにくい。
そして咲夜が世話をしている時に、こっそり美鈴が様子を見に来たという。
咲夜は門番をサボったことを攻め、追い出そうとしたそうだが。
『だめ、美鈴とお話しする。咲夜同じことしか言わないから』
と、フランドールに言われて仕方なく中に入れたという。
そこで、美鈴は咲夜も聞いたことのない物語をフランドールに自慢気に聞かせたり。
フランドールにマッサージしたりしたという。
それだけして、また門番の業務へと戻っていった。
咲夜が世話をしていた中で、最後にやってきたのは小悪魔だという。
部屋の中にお花でも飾りましょうか、と言いながら。
その質問にフランドールは、お花はいいから弾幕で遊びましょうと言い、小悪魔を困らせていたが。
くすくす、と笑っていた顔から。
急に笑顔が消えたと言う。
苦しそうに胸を押さえて、息を荒く。
布団の中で暴れ始めた。
それを押さえるためにフランドールに接近したとき。
たぶん、そのときに小悪魔に感染したのだろう。
「この中に小悪魔に当てはまらないことと言えば……咲夜の看病と、血の入ったジュース。それと美鈴の訪問ってところね」
「……全然関係なさそうね」
「ええ、本当に。看病、食事、マッサージ……そんなことで悪化するなんて……」
パチュリーは唸り、導き出された結果に頭を抱えた。
それはどれも生活の中にある行動。
過去の歴史の中になかったような、特別な行動であるはずがない。
「血を飲んだから病原菌が元気になった。その可能性は?」
「ゼロよ、過去に吸血鬼がこの病気にかかったときのことが書かれている文献でも、特に食事を制限した記録はなかった」
「……フランの強すぎる破壊衝動が干渉した、とか」
「それはわからないわ、能力は個性だからその線で調べているところだし」
「ふふ、それなら原因は私ね。あの子をあの性格にしてしまったのは……」
「もう、だからそうやって気を弱く持ってはいけないといっているでしょう? さっきも言ったけど病は気から……、ん?」
パチュリーはあることを思い出し、悪魔の病気に関係した文献を目にも止まらぬ速度で捲り始め。あるページでぴたり、と止める。
「あのね、レミィ。その美鈴のマッサージってどんなことをしたのかしら?」
「咲夜から聞いた話だと、相手を健康にするために気を全身に送るマッサージだって。そうやって肉体を強め元気にするらしいわ」
「そう……なるほど……うん、わかった。やっとわかった」
本をぱたんっと閉じて、テーブルの上に肘をつき。
頬杖を右腕で頬杖をしながら、自分で入れた紅茶を口に運ぶ。
ただ、その頬にはうっすらと汗が浮かんでいて。
「パチェ、今の話で何かわかったの!」
レミリアはそんな小さな変化に気がづかず。
身を乗り出して尋ねるその姿に。
パチュリーは複雑な表情をしたまま、こんこんっと本の表紙を叩く。
「えっとね、レミィ。落ち着いて聞いてね。どんな結論が出ても妙な行動は取ってはいけないわ。これから説明するのはあくまでも可能性の問題なのだから」
「何のことよ、私は常に冷静沈着な主だもの。多少のことでは驚かないわ」
冷静沈着。
その言葉を聞きながら、パチュリーは壊されたドアと、後ろの瓦礫と化した本棚を振り返り。
はぁっとため息を吐きながら、観念したように説明を始めた。
「昔、この病気ではないのだけれど。魔法で病原性の風邪を治そうとした人がいたの。生命力を高めるタイプの魔法でね」
「へぇ、当然、回復したんでしょう、その人」
「いえ、肺炎に悪化した」
「え?」
そしてパチュリーは、大きな球体と。
小さな球体をテーブルの上に置く。
「これが、その人の体だとする。そして小さい方が病原菌ね。生命力を高める魔法はこの大きな球体全部に作用するわけよ。するとね、時々起こることなのだけれど……生命力を高める魔法がね。この小さい方にも作用するのよ」
「……へ?」
「えっとね、わかりやすく言うと。回復魔法に波長が合った病原菌がね、凄く元気になるの。それを知っていたから私は小悪魔や妹様に下手に魔法を使わなかったわけだけれどね」
「……ふーん、ははーん」
「美鈴の気の力が似たような効果を及ぼすのなら可能性として考えられるのかなって思ったりしてね、あのね、レミィ、可能性の問題だから、うん、可能性の。レミリアの運命は、美鈴をあの部屋に入れなければ治るっていうのを示しているのかなと思ったりもしたけど、うん、大丈夫、ちゃんと私が魔法薬作るからね?」
「ええ、大丈夫。私は冷静よパチェ。大丈夫、大丈夫」
がた、と椅子を鳴らして立ち上がり。
レミリアはパチュリーに背を向ける。
そして、熱に犯された体をゆっくり壊れた入り口へと進めていく。
「レミィ? どこいくの?」
心配そうに尋ねると、レミリアはにっこりと微笑んで。
右手に、紅の魔力を集める。
「ちょっとね、気晴らしに。久しぶりにグングニルの試し撃ちでもしようかと思って、門まで♪」
「ちょ、待ちなさいってっ! うわっ! もういないしっ! 咲夜! さくやぁぁぁああああ!」
その日、割と本気の爆発音が、門の辺りで響いたという。
○月×日
今日、いつもと同じように、気持ちよい気分――
じゃなくて、真剣に門番をしておりましたら。
いきなりお嬢様がやっていらっしゃいました。
日傘を持って優雅に微笑みかけてくださいましたので。
『雨が降っても、槍が降ってもここは死守する所存です』
と改めて意気込みを説明したところ。
いきなり、グングニルの雨が降ってきました。
死ぬかと思いました。
その後は、慌てて咲夜さんがお嬢様を羽交い絞めにして止めてくださいましたが、一体私が何をしたというのでしょう……
パチュリー様はパチュリー様で、後で気晴らしでもしていらっしゃいと多少の臨時給与をくださいますし。
でも、ですね。
できれば、ですね。
そんなことより、ですね。
紅魔館に七日間ほど出入り禁止処分になった理由を誰か教えてください……
★ ★ ★
橙色のランプの光が柔らかく周囲を照らす図書館の中で、パチュリーはある人物を連れて来る様に妖精メイドに指示を出し、読書を続けていると。コンコンっと控えめなノックの音が響いてくる。深夜であることを意識してのものだろうが、残念ながら魔女である彼女にとって朝も夜も関係ない。
それでも彼女の立場、メイド長という職からして彼女は譲れないという。
「入っていいわよ、咲夜」
「はい、お邪魔致します、パチュリー様」
時間を止めずに、ゆっくりとテーブルに近づくと。
パチュリーは分厚い本とパタンッと閉じて、顔を上げた。
「レミィの様子はどうかしら?」
「今は落ち着いておられるようです。お食事も済ませて、今はゆっくりご自分の部屋で過ごされております」
「そう、ご苦労様。レミィを止めるのは大変だったかしら?」
「ええ、そうですね。なんとか後ろから羽交い絞めにして」
「……ふーん、本当にそれだけで止まったの?」
「はい、間違いありませんが、何か?」
その答えに、パチュリーは言葉に何かを含ませながら。
じっと咲夜を見つめた。
「人間の、あなたが。吸血鬼であるレミィを羽交い絞めにしただけで止まったのね?」
「あっ! ……なるほど。そういう意図の質問でしたか。間違いございません。私如きの力で、あのレミリアお嬢様の恐るべき力を止めてごらんにいれましたわ」
大袈裟に手を広げて、まるでオペラの役者のように演じる。
ただし、観客は目の前の魔女一人。
しかし大層その演技を気に入ったようで、パチパチッと手を叩いて賞賛した。
「まったく、手加減するなら最初から攻撃するなって言いたいのだけれど。家族のあんな姿を見せられた後じゃ、攻撃衝動を抑えられなかったんでしょうね。不器用ここに極まれり」
「普段はレミリアお嬢様も、フランドールお嬢様もお互い素っ気無い態度なのですけれど」
「それでもやっぱり家族っていうつながりは特別なんでしょうね、私は忘れたけれど」
「そういうものなのでしょうか、私も忘れましたけど」
淡いランプの暖かい光の中で、魔女とメイドは笑い合う。
だって、この世界は毎日が特別すぎるから。
毎日どこかで当たり前のように事件が起きて、当たり前のように解決される。
過去の暖かい思い出を忘れるほど、吸血鬼の館は忙しすぎるのだ。
「さて、それであなたは聞いている? 美鈴が出入り禁止になったのを」
「はい、存じ上げております。それでテントの準備をしていたところだったので」
「なら丁度良かったかしら」
パチュリーはごそごそっと服の中から麻袋を取り出すと、魔法を使って浮遊させ咲夜の胸の前へと運ぶ。それを受け取った咲夜は中のものを探るように手を動かした。
「お金、ですか?」
「そうよ。一応さっきも上げたけどね、多少豪華な料理をあの子に振舞ってあげなさい。それで足りなければ追加を要求しても構わないわ」
「いえ、しかし」
咲夜は手に乗せた麻袋から、パチュリーへと視線を向け、疑問の声を上げようとするが。
「そんなことより、美鈴に真実を伝えた方がいい。あなたはそう思っている。違うかしら?」
「……はい、そのとおりでございます」
「素直でよろしい。確かにそれも考えたのだけれど、私はもう一方を取るわ。今回のことは、いつものレミィの気紛れ。単なる八つ当たり。それでレミィの機嫌が直るまで私が出入り禁止にした、とか適当な理由を考えておいて頂戴」
「嘘を貫く、ということですか?」
「そのとおり。だって美鈴の行動を考えて御覧なさいな。あの子、妹様が病気になってそのお見舞いに部屋までいったのよね。門番をしなければいけない時間帯に」
「それが、何か?」
「わからないかしら? あの子は気を使えるのよ。だから、あなたが部屋にいることも大体わかったはず」
「そういうことですか、理解いたしました」
美鈴が職務から外れたことをしようとすると、それを見つけた咲夜に激しく叱咤されのが当たり前。
それを承知の上で美鈴は門から離れ、フランドールの部屋に行った。
そして、中に咲夜がいると知りながらその姿を見せたということは。
それだけフランドールの身を案じたから。
気を使ったマッサージを施したのも、当然早く良くなって欲しいという願いによるもの。
「あなたに叱られるとわかりながら、部屋に入る。そんな優しいあの子に真実を伝えればどうなると思う? ずっと引き摺って紅魔館にいること事態が苦痛になってしまうかもしれない。それなら別の悪役がいたと思わせておいた方がいいでしょう? でもそう思わせるには絶対的な味方が必要となる」
「それを演じるのが私、ということですか?」
「話が早くて助かるわ。同じ従者というつながりのある存在で、自由に動けるのはあなたくらいしかいないから。本当なら小悪魔にやらせたいのだけれど、ダウンしてるし」
真実を覆い隠すための必要悪。
それをパチュリーは作り上げたいと提案した。
しかし咲夜は首を縦に振るでも、横に振るでもなくまっすぐパチュリーを見据えた。
「美鈴には、本当のことを伝える気はないのですか?」
「あら? 言うわよ?」
「え? 言うのですか?」
「そうよ、みんなで食事しながら笑って話し合えるくらいの時間が経ったらね。時の流れの偉大さはあなたが一番理解しているものとばかり思ったのだけれど」
時間が解決するとは良く言ったものだが。
人間がこの言葉を使ったときの重さと。
妖怪が使ったときの重さでは途方もない差がある。
「そのときは、私の腰が曲がっているかもしれませんわね。もしかしたらいないかも」
「あら、生き証人がいなくなるのは困るわね」
「それに美鈴、意外と怒るかもしれませんよ」
「怒るかしら?」
「ええ、怒って蹴りなんて仕掛けてきたり」
「それは痛そうね……、グングニル程度の痛みまでなら我慢してあげてもいいけれど」
「本当ですか?」
「実はかなり嫌。小悪魔に代わって欲しいくらいね」
「そこで好きと答えられても困りますが……、さて、と。それでは私は明日の支度を勧めますわ。パチュリー様のお心のままに」
一歩後ろに下がり、丁寧に頭を下げると、咲夜は再び半分だけになったドアを開けて出て行く。
その様子にパチュリーは思わず苦笑してしまった。
出入りくらい、壊れた方から入ってくればいいのに、と。
「でも、そんなに律儀で瀟洒なメイドでも。まだわからないかしらね? 追い詰められたら感情表現が恐ろしく下手になる、不器用な悪魔の心というのが」
あの麻袋の口を結ぶもの。
普通なら茶色の紐で結ばれているその小さな口が。
赤いリボンをよじって出来たもので縛られていることに気付いたとき、咲夜がどんな顔をするか。
そんなことを思い浮かべながら、パチュリーは小悪魔が寝込んでいるはずの自室へと向かったのだった。
あとがき、フォローになってないよ
スレイ○ーズも幻想入りか…
せめて原因ぐらい美鈴に話してやればいいのに。
しかし、やっぱりちゃんと原因を教えて、
二度と同じことが起こらないようにしたほうがいいんじゃ…
いい加減、美鈴いじめネタはウンザリだ
ギャグのオチで不幸な目に遭うのは美鈴に限らず自然な事なので挫けるな美鈴!
ただ意味もなく美鈴いじめとけばいいやーっていう従来の美鈴いじめとは違いますね
違いますね
作者もいじめ好きみたいだし
作品はまあおぜうの小物ぶりがおもしろかったけど
読後感が吹き飛ぶ類のあとがき
でも やはり今回は不幸な事故でした
善意とは言え妹の症状を悪化させた者への怒り
自らの境遇を理解できない不安
友人に真実を告げられない辛さ
皆の立場を知りながら何もできない歯痒さ
誰が悪いわけでも無い、誰もせめられない悲しい事故
パチュリー様がおっしゃる通り 時が解決してくれるのを待つしかなさそうですね
我々人間という時の限られた種族にとって何もできないのは辛いものですが……
でもきっと 明日は明日の風が吹きますよね
……それを本人が全く知らないってのは、ちょっと不自然じゃね?
魔女とはいえ100年前後しか生きていないパチュリーと、そこそこクラスとはいえ妖怪なんだからそれなりに長生きしているだろうめーりんで、経験則を積み上げているはずの本職がちっとも気づけていない事を門外漢が類察で気づくってのもちょっとおかしいし。
まぁ、作者の幻想郷感が「馬鹿なめーりんと賢いパチュリー様」で固まってるんだろうけど。
と、いうのもこの作品をギャグに分類されるものだと思ってたがちっとも笑えなかったから
キャラクター達が始終冷静で真剣に進んでいき、オチにあたるであろう美鈴がキレたお嬢様にぶっとばされる部分はなぜかぼやかして書いてある
美鈴が館に入れてもらえなくて咲夜さんに理由を教えてもらえないところも面白い要素はない
お嬢様が美鈴をグングニる時もお嬢様が冷静なせいで駄目な子に見える
真剣な流れでオチを際立たせようとしてテンションを上げきらずに失敗した、そう思っていました
しかし加筆のおかげでその考えが見事に的外れなのだと気づくことができました
そもそもギャグではなかった
ギャグだろうと思い込んでしまったせいで狙いである『書かれていない部分』を考えることができませんでした
お嬢様もパチュリーも咲夜さんも自分のするべきことをしていました
とてもあたたかい紅魔館だと思います
多少とって付けた感がありますけど……
だけど根本的な問題は、レミリアの主としての器の小ささです。
フランを本気で心配してた美鈴に、結果だけを見て、手加減したとはいえ暴力を振るうなんて最低です。
人の上に立つ資格は有りません。
真相を知って笑って許すくらいの器量を持ってもらいたいものです
話にして好印象を与えるか・・・やり口がうまいな
使い古されたネタが嫌いとか内容を見ずにいじめカコワルイとか言うのは作る側からとしても嫌な気持ちにになると思います。
読者の頭の中のキャラがどうなっているのかは誰にも分かりません。私の頭の中でもみなさんの嫁がえっふんえっふんされているかもしれませんし、その逆もありえることです。
幻想郷はすべてを受け入れる。
ならば私たちもすべて受け入れていけばよいのではと。
内容はパッチェさんの会話のセンスが個人的に好きです。
ただ少し設定的に弱いかな、と感じるところがありました。
パチュリーと咲夜が仲良さそうでいい
レミリアもフラン思いでよかったです。
いいぞもっとやれ!
私もコメント50の方と全くの同意見でした。読み違えをしてあまり良い印象を抱けなかった自分が恥ずかしい……!
何だかんだで酷い目に遭いながらも実は愛されてる、そんな美鈴が大好きです。
あーもう!本当に紅魔館は中の良い家族なんだから!
ただ、お話自体の内容は少々薄いかと。
いきなり美鈴の一人称が始まり、酷い目にあって終わり、というのがギャグの定番だったので。
別にそれで問題はないと思ってましたし、自分は加筆前の方が好きです。
現在の形だと、元々のオチ部分だけ浮いてしまっているように見えるのと、
今までギャグだと割り切れていた部分がどうしても気になってしまうからです。
主の作品はなかなか好きなのでこれからもめげずに頑張って下さい
薄い濃い等を抜いて、解りやすいし読みやすく、単純に楽しいなと思えた。
ただ、修正前の評価を見ると、テーマと言うか肝の部分が落ちてしまっていたのではと思います。
お仕事怖い超怖い
ついでに、ポスト求聞、ポスト風、ポスト儚の時代をしぶとく生き延びる美鈴が眩しいのですぅ
毎回相変わらず美鈴ファンはひどい暴れ方するなぁ……。
しかしおかげでストーリーがわかりやすくなりましたね。やはり皆が仲良し紅魔館ナイスb
個人的には面白い発想だと思ったけどもう少し練って欲しかったな
発想のみで終わっちゃってるからだから何?って言葉が先に浮かんできてしまう
もしくは同じ展開でも、キャラクターの心情描写がもっと緻密だったら良かった