Coolier - 新生・東方創想話

守るモノ 3rd

2010/07/07 00:43:40
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この作品は作品集117「守るモノ 1st」、この作品と同じ作品集の「守るモノ 2nd」の続きとなっております。より今作品を楽しんでいただくために、まだの方はそちらを先に読まれることをお勧めいたします。
 また、この作品は原作について完璧な知識を持っていない者が書いた駄文です。勝手な設定や、口調が違うといった部分が見受けられます。それでもかまわないという方のみ読み進めてください。


 魔法の森には道と言うものは基本的に無い。鬱蒼とした木々の中では下草はほとんど生えないから、いわゆる獣道も存在しない。比較的歩きやすい沢の側や平らに近いところを選んで歩くのが普通だ。だが、今は違う。最短ルートを通る為に足元を気にせずコンパスと地図を頼りにずんずん歩く。
「香霖、疲れたぁー」
「そう言ったって、さっき半分で休憩を取ったじゃないか。やっぱり霊夢に残って貰って、僕一人で来た方がよかっただろう?」
「そんな事言って無いぜ。私は香霖に守って貰うんだから、香霖と一緒じゃなきゃダメなんだぜ?」
やれやれ、ため息が出てしまうね。とりあえず、水でも飲ませようか。背中の大きな鞄から外の世界の【魔法瓶】とやらを出す。何でも、保温能力が高いらしい。だが名前と裏腹に魔力がかかっている訳では無い。外の世界の人々のネーミングセンスを疑う一品だ。中には氷の妖精に作って貰った氷で冷やした麦茶が入っている。器に出して差し出すと魔理沙は美味しそうに飲んだ。器を受けとって僕も一口。鞄に直して、鞄ごと魔理沙に差し出す。
「何だよ、疲れてるのに荷物持てって言うのかよ!」
僕は憤慨する魔理沙に背を向けて膝をついた。
「荷物ごと君を背負うんだよ。そっちの方がきっと早く着くからね」
表情は見えないが魔理沙があーとかうーとか言うのが聞こえる。
「後で重いだの疲れただの言ったらひっぱたくからな!」
「半妖を舐めないでもらいたいね」
そう言うと魔理沙は背中に乗っかった。膝の裏辺りを目指して後ろで組んだ手を上げる。それと同時に魔理沙の腕が肩越しに前にやって来る。
「後、変なとこ触ったりしたらスペルカード三つの刑だ」
「肝に命じておくよ」
そうやって先程よりも速いペースで魔理沙の家に向かった。耳元で魔理沙が何か呪詛じみた事をぶつぶつ言っていたが気にしない事にした。
 それから半刻程で目的地についた。流石に疲れたが声に出す程ではない。きっと表情には出ているだろうが。
「おぉ!懐かしの我が家!!」
魔理沙は僕から降りると家の中へと走って行った。
「やれやれ、まったく………?」
風に揺られて木々がざわめく。僕はその中に一瞬ではあるがはっきりと不穏な気配を感じ取った。即座に腰の天叢雲剣に手が伸びる。対処を誤らないよう、感覚神経が研ぎ澄ます。
「香霖?何やってんだ、早く入れよ。茶ぐらい出すぜ」
家の中から魔理沙の声が聞こえたので構えを解く。警戒は怠らない方がいい。魔法の森では何が起こっても不思議ではないのだから。
「香、霖?」
 少し不安そうな顔をしながら魔理沙が玄関から顔を出した。それに対して僕は笑顔で振り返る。
「いや、何でもないよ。それよりお茶はいいから、早く荷物をまとめた方がいい。もたもたしてるとウチに戻る頃には日が暮れてしまう」
魔理沙はちょっと考える様なそぶりをしてから「それもそうだな」と言って自室へと歩き出した。僕も手伝う為に後ろをついて行く。部屋に入ろうとした所で、魔理沙に制止をくらった。
「手伝わなくても大丈夫なのかい?」
「あぁ、大丈夫だぜ」
「でも、君の場合要らないものを詰め込んで荷物が多くなると…」
そこで魔理沙はため息をついた。む、僕がどうしたと言うのだろう。
「香霖、お前はデリカシーってもんが足らないぜ」
「?」
「乙女の荷造りをお前は手伝う気かって言ってるんだよ!後は自分で考えやがれっ!!」
言い切ってから魔理沙は僕を廊下に残して部屋のドアを閉めた。
「そうか、そうだな。済まない」
僕の声が魔理沙に届いたかは不明だ。ただ、持っていく荷物の中には下着も含まれている訳だ。そこに異性が同席するのは些か問題だろう。以後、こういう失敗はしないようにせねば。
 ガタッ
 緊張の糸が張り詰める。まただ、今度は確実な物音。腰の剣に手が伸びる。と、足元を小鼠が走って行った。
「…気にし過ぎか」
いくらなんでもこうピリピリしていては身が持たない。もう少し、気を楽に持とう。小鼠といえば、以前きた鼠の妖怪は上客だった。少々酷い事をしてしまったが、こちらとて死活問題なのだ。稼げる相手から稼がせて貰わないと。しかし、彼女の主が持つ【財宝を集める程度の能力】はかなり魅力的だ。流石、毘沙門天だ。うちにも来ないかな、宝船。
「終わったぜ、香霖」
 荷物をまとめた魔理沙が部屋から出てきた。思った程荷物は多くなさそうだ。
「そうか、じゃあ予定通りこのまま里まで下りよう」
「ならいいものがあるぜ。ちょっと待ってろ」
そう言うと魔理沙は家の奥へ姿を消した。本か何かが雪崩を起こした音と「のわー!」と言う悲鳴の後、魔理沙はあるものを出してきた。
「それは!」
「いい機会だ、ついでに返すぜ」
魔理沙が出してきたのは【自転車】だった。正確には、無縁塚で手に入れた自転車を僕が使いやすいように改造したものだ。倉庫に直して見つからないと思っていたらこんな所にあったとは。
「里までは平坦な道があるからこれに乗って行こうぜ!歩くよりも格段に速いだろ?」
「そうだが魔理沙…、その前に言うべき事はないかい?」
「えっと…、香霖借りてたぜ!」
今の僕にはうなだれる事しか出来ないが、比較的早く戻ってきた便利な道具に感謝しなければならないだろう。軽くタイヤの空気やブレーキ等の点検をする。
「問題ないだろう。君の家にあったにしては状態がいい」
「どういう意味だぜ、香霖?」
「さて、モタモタしている暇はない。日が暮れる前にウチに着きたいしね」
自転車を外に出して、腰の剣を背中に移す。荷物は自転車の前籠に収まった。自転車に跨がると、魔理沙は後ろの荷台部分へ横向きに座った。
「危ないからしっかり捕まってるんだよ」
「おう」
魔理沙が僕の腰に腕を回す。軽く立って、ペダルに全体重を乗せる。チェーンを伝って力が後輪へ。ゆっくりとふらつきながら自転車は走り出した。速く走れば安定するのはわかっているから、次々にペダルを踏む。踏み固められた土の上を自転車が駆けて行く。
「香霖!」
「なんだい魔理沙?」
風に吹かれないが、前へと進む。少女達が空を飛ぶのはこんな感覚なのだろう。
「へへへっ、何でもないぜ!!」
何でもないなら話し掛けないで欲しい。自転車に乗るのも久しぶりだし、後ろに人間を乗せたのは初めてで、こけない事に必死なのだ。
 人里には歩きの半分程の時間で行けた。やはり自転車は便利だ。人里の入口で慧音に会った時、「里の中では乗るなと」釘を刺されはしたが。それよりも慧音が魔理沙を見て「この娘さんは誰だ?」と耳打ちされたので、魔理沙だと説明した時の慧音の驚きようと言ったら無かった。慧音とは長い付き合いだが、あんなに驚いた顔を見た事はない。また、同じく買い物中に出会った稗田阿求は「縁起に書き加える必要がありますね」と言いながらまじまじと魔理沙を見ていた。僕自身、あまり里に顔を出す訳ではないが、修業時代からの顔なじみの店主達は揃って「霖ちゃんのコレかい?隅に置けないねぇ」等と小指を立てながら小声で言って、一つ二つおまけをしてくれた。彼らに魔理沙だと告げたらどうなっていただろうか?因みに、里に入ってからずっと霧雨の親父さんが後をつけていた事は魔理沙には秘密だ。気づいている可能性もあるが。
 とにかく、買い出しは無事完了した。後はウチに戻るだけだ。いつの間にか空は茜に染まり、自転車は荷物満載で魔理沙を乗せる余裕がなかった。仕方がないから自転車を押して帰るか。里の出入口には慧音が立っていた。
「おや、霖之助に魔理沙。もうお帰りかい?急いだ方がいいぞ。今時は日が暮れはじめると速い」
「わかってるよ、慧音。忠告ありがとう。所で、何で君は里の外にいるんだい?」
「香霖」
魔理沙が僕の袖を引く。魔理沙はこっちを見て、首を横に振っている。あぁ、そうか。
「何でもない。忘れてくれ」
「いや、いいんだ。今日は晴れているからな。いい満月が見られるだろう」
里の守護者は半獣なのだ。彼女は自らの獣を里の人間には見せたがらない。彼女なりの配慮と美学なのだそうだ。
「んじゃな、慧音」
「あぁ、気をつけて」
そう言うと魔理沙は駆け出した。
「待ちなさい、魔理沙」
「へへへっ、追いついてみろよ香霖!」
 五秒もあれば零に出来る距離だった。こっちを向いて手を腰の後ろに回して、少しこっちに上体を傾けている。西日より眩しく感じる笑顔だった。自然と顔が綻んだ。
 ビュオウッ
 突然の疾風。思わず目を閉じた。次に目を開くと、そこに魔理沙はいなかった。
「魔理沙?」
何が起こったか理解出来なかった。後ろから慧音の叫び声を聞くまでは。
「上だ、霖之助!!」
上を向くと巨大な蝙蝠の翼を持った何者かが魔理沙をさらっていた。少し離れていても魔理沙の不安と恐怖に満ちた目がこっちを見ている事はわかった。
「魔理沙ぁっ!」
自転車を放り出して僕は空飛ぶ魔理沙を必死で追いかけた。だが、差は縮まるどころか広がる一方。ついに妖怪の山のどこかへ姿が消えた。
「魔理沙ぁーーーーー!」
空はもう紫に染まった。もう何もわからなくなった。慧音が肩を揺すってかけてくる声も聞こえなかった。

「ダメですね。霊夢さんは地底に行ったらしく戻って来る気配がありません」
 火急の知らせを聞いて射命丸文が飛んできてくれた。知り合いの哨戒担当の天狗にも話を通して魔理沙の捜索を依頼したが、余り協力的ではない。頼みの霊夢も急な別件で出払っていて力を借りられない。絶望感が漂う寺子屋の道場で僕は目の前の天叢雲剣を見つめていた。
「先輩っ!」
息を切らせて駆け込んで来たのは白狼天狗の犬走椛だった。
「あやや、どうしたんですか椛?」
「魔、魔理沙さんの目撃情報が」
瞬間、身が強張る。
「同僚が異質な蝙蝠の影を見てました」
 報告を聞き終わり、僕は立ち上がった。
「椛君、報告ありがとう」
その場にいた全員が僕を見た。慧音、文、椛、少ない協力者達に僕は頭を下げた。
「君達の協力に心から感謝する。後もう少しだけ、僕に協力して欲しい」
顔を上げ、全員と向き合う。
「今の魔理沙は魔法が使えない。つまり、ただの人間何だ。最早一刻の猶予もない。天狗の二人は出来るその速度と千里眼を生かして魔理沙の捜索を願いたい。僕は慧音と一緒に来てくれ」
慧音が口を挟む。
「別に異論はないが、何かあてがあるのか霖之助?」
僕は天叢雲剣を抜いた。
「ヒヒイロカネだ。この天叢雲と魔理沙の八卦炉には両方共にヒヒイロカネが使われている。魔理沙には八卦炉を常に持たせている。ヒヒイロカネには共鳴する特性がある。それを利用する」
慧音はもう何も言わなかった。文と椛も頷いてくれた。
 もう迷う必要も時間もない。腹は決まった。大切な人を取り戻す為に、僕は全霊を尽くす。
「怖いものは何もない。僕は魔理沙を取り返す為に全てを賭ける。霧雨魔理沙を奪還するだけだ」
 月夜の中を僕らは翔けた。
 薄暗い。ここはどこだろう。何かで縛られてるのか、身動きが取れない…。そうか私は襲われて捕まったのか。参ったぜ。正直、助かる気がしない。
「ようやく目を覚ましやがったか、お嬢さんよぉ」
目の前にいる異形の者を見てもさして驚きはしなかった。蝙蝠見たいな羽根を体に纏わせて鋭い八重歯をぎらつかせる男。ただし、近くの木の枝にぶら下がりながら。パチュリーに借りた本にあった<ドラキュラ伯爵>とは多分こんな奴なんだろうな。伯爵と言うには服は腰布みたいなのしか見えないし、言葉も汚いみすぼらしい男だが。
「しっかし、こいつは上玉だぜぇ。これは楽しみ方が色々あるなぁ」
「ふんっ」
唾を顔に吐きかけてやった。そしたらすぐに殴られて、意識が遠のいた。
「クソガキが、まぁいい。後からゆっくり楽しませてもらおうか」
 薄れ行く意識の中で私は無意識にある名前を呼んでいた。
「香ぉ…り…」
投稿3本目になります、jazzです。

前作、前々作を読んでいただいた皆様、ありがとうございました。つたない文章ですが、続きが出来ました。

起承転結で言う転の部分へとやってまいりました。次にてこのシリーズは終了となる予定です。
後半は筆が止まりかけていたのでかなりひねり出した感があると思いますが、これが自分の力量です。
勘弁してやってください。

誤字・脱字等ありましたら、コメントにてお知らせくださいますようお願いいたします。

7/7 誤字を修正いたしました。

ここまで読んでいただいた貴方へ最大級の感謝を。
jazz
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コメント



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4.無評価名前が無い程度の能力削除
3nd?