Coolier - 新生・東方創想話

スッポンの一分

2011/02/13 19:16:43
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 霊夢がん~、と小さな呻き声をあげながら起きた。
 しばらく目をショボショボさせた後、猫のように全身を使って伸びをする。

 時刻は昼。場所は神社の客間だが、そこらじゅうに転がる一升瓶と人間半霊式神から、昨夜は宴会場として利用されていたことが伺える。
 記憶が曖昧だが、かなり深酒したらしい。めいめいが飲みながらダウンするようにここで力尽きて爆睡しているようだ。
 霊夢は鉛のような頭をもたげて、散らかり放題のちゃぶ台から水差しの水を飲もうとしたその時。


「ええええぇぇぇぇっ!!」


 絹を裂くような女の悲鳴。
 霊夢はびくっと肩を竦ませるが、すぐに冷静さを取り戻す。

「皆、起きて!」

 まずは全員叩き起こす。
 魔理沙が帽子を探しながら機嫌悪そうに起きる。
 半霊を抱き枕のように抱えて眠っていた妖夢も、緊急事態を察したその枕に揺り起こされる。
 そして、式神の藍も騒ぎに意識を覚醒させる。

 皆何事だと霊夢を睨むが、次の瞬間空気が一変する。


「なっ、なんじゃこりゃあああぁぁぁぁ!!?」


 一瞬大声に自失するも、この面子は幻想郷にて死線をかいくぐる猛者がそろっている。
 素早く戦闘態勢を整えると、音源に向けて部屋を飛び出した。

「今の声!?」
「ああ、間違いない。紫様だ」

 藍は焦燥感を滲ませながら答える。
 紫も宴会に来ていた。そして酔いが回ると、何故か霊夢の布団に潜り込むクセがあるのだ。
 昨晩も「霊夢ぅ~」とうわ言のように繰り返しながらフラフラと宴席を出て行ってしまったのを確認している。
 藍はしょうがない主だ、とさして気にも留めず酒宴に参加し続けていたのだが、その迂闊さを後悔した。

 ここは幻想郷。何時妖怪が襲ってきてもおかしくないのだ。
 紫様なら大丈夫と高を括って一人きりにさせた自分を叱責する。

 ともかく、一行は一路霊夢の寝室に向けて廊下を走る。
 そして障子がぴったり閉まった一室の前に辿り着く。

「藍、気配は?」
「これといって無い」

 霊夢は報告に小さく頷くと、部屋の前にフォーメーションを組む。
 障子戸の横に札を持った霊夢、反対側には居合い体勢の妖夢が張り付く。後方で魔理沙が八卦炉を構えた。
 互いに目配せしあい、霊夢は藍に突入の糸口を作るよう視線で訴える。
 その意味を汲み、藍は戸の正面に立たないよう気をつけながら室内に問いかける。

「紫様! 何かありましたか!?」

 静寂が辺りを包む。
 もはや一刻の猶予もない。そう判断し突入しようと体に力を入れる。
 その時、中から声が聞こえた。

「あの……藍よね? べ、別に何でもないから……」

 確かに紫の声だった。しかし、いつもの胡散臭いが自信満々の口調ではなく、弱々しくて何か狼狽しているようにとれる。

 もしかしたら、魔族クラスの大妖が紫を人質にしているのかもしれない。
 急所に凶器を突きつけられ、皆を追い返すよう侵入者に迫られる紫。

 そんな図を想起して、藍はモタモタ対応を考えるほど気は長くない。
 障子に手をかけ一気に開け放つ。それと同時に部屋の中にゴロゴロと前転しながら躍り出る。
 どんな化け物だろうがこの少女達にかかれば太刀打ちできまい。
 それでも敵わなければ単身突貫してでも紫様を救出する。
 紫の式はいじらしいまでに己の役目に忠実であった。
 藍は敵の正体を見極めるべく、目を見開いて前方を注視する。

 そして、紫の姿を見て全身の力が抜けた。

「藍! どうしたの……」
「敵の攻撃か……」
「おのれこの刀のサビに……」

 急にへたりこんだ藍を援護するように雪崩れ込んだ3人も、紫の姿に等しく黙り込む。
 と言うか、呆気にとられて開いた口が塞がらない。


 紫は下半身が下着一枚の他何も身に着けない、俗に言うおパンツ一丁状態で立ち尽くしていた。

 紫の寝巻きは意外なことにフリルが沢山あしらわれたパジャマなのだが、今はそのズボンが布団の隅に脱ぎ捨てられている。
 そしてそのせいで丸出されているのが、ガーターベルト付きの黒いパンティである。
 ガールなのかアダルトなのか判然としない取り合わせだが、そんな紫の趣味なんぞどーでもいい。

「紫様……何をしておられるのですか?」

 とりあえず、従者たる藍が代表して場を進める。
 当然だが先程の警戒モードは、MAXからゼロにまで霧散している。
 対する紫もさっと正面を向き、冷や汗をダラダラ流しながら慌てて口を開く。

「や、やあねぇ雁首揃えて。別に何も無いってば~」

 取り繕ったような笑みを貼り付けてはいるが、まるっきり挙動不審だ。
 具体的に言うと、さっきから手を後ろに回して何かを隠しているようだ。

「ん~? んんん~?」
「ホラ、私は全然平気だから全然……霊夢、何でこっち来るの?
 イヤ! ホントに何もないからってこら! 皆後ろに回りこむのやめい!! だからこっち来るの禁止!!」

 これではまるっきり自白と同じだ。
 霊夢達はなおも真っ赤な顔で後ずさる様に逃げ続ける紫を、部屋の隅っこに追い詰める。

「さぁ、もう逃げられないんだぜ」
「事情を話してもらいましょうか」
「スキマに逃げ込むのは無しですよ。私は従者として心配なんです」
「正直に話せば、お上にも慈悲はあります」

 4人に詰め寄られ、ついに紫は観念したようにうつむきながら、自身の身に起こっていることを説明する。

「……憑かれちゃった」
「はぁ? 何に?」

 か細い声で答えてから、紫は覚悟を決めてゆっくりと振り向く。

 彼女の美しいラインを描く良く熟れた臀部に、丸い塊が張り付いている。
 いや、塊には首と四本の足と尻尾が生えている。
 それは普段その身に計り知れぬポテンシャルを秘め、泥濘の中を這い回る珍獣。

「スッポン、ね」
「スッポンだぜ」
「紛うことなきスッポン」
「何故スッポン?」

 鼈である。
 爬虫網カメ目スッポン科に属する亀だが、生物としてより鍋の材料で滋養強壮に効くと知る者の方が多い。
 ここ幻想郷においてもその食文化は受け入れられているが、その希少性と見た目のグロテスクさからあまり大衆的ではない。
 ちなみに一度何かに喰らいついたらテコでも離さないことでも有名で、執念深い性格の人間をスッポンとあだ名するくらいなのだ。

 ともかく、そのスッポンが尖った口で紫の尻、具体的には割れ目のちょい上でパンティとの境あたりにがっぷり噛み付いているのだ。
 しかしよくよく見ると、スッポンの体は向こうが透けて見えていて、霊体であることがわかる。
 だがそれ以上に酷いのは、紫が壁に手をつき屈辱に耐えながら尻を持ち上げているのを全員で眺め倒す、という絵ヅラである。

「しかし、どーしてこんなスッポンに怨まれているんだぜ?」

 魔理沙がまじまじと見つめながら、呆れを通り越して感動したように尋ねる。
 確かに紫は「憑かれた」と言っていた。これはこのスッポンに対し、相当なことをしでかしたのを暗示している。
 すると紫はゆっくり肩を落とす。

「心当たりが、あるんですね?」
「…………はい」

 藍の有無を言わせぬ問いかけに紫が堕ちた。ついにこの騒動の顛末が紡ぎ出される。



「で、結論から言えば、アンタは昨日の晩内緒でスッポンを食べたと」

「へぇ~……スッポンって美味いらしいな」
「私は食べたことありません……私にも黙ってどこに隠していたのですか」
「こういうの、あれですよね。意地汚いって言うのですか」

 だんだん悪化する旗色に、紫は顔色も悪くなる。

 夜中、誰も居ない寝室で中途半端な時間に起きた紫は空腹を感じた。
 その時フト思い出したのはスッポンの缶詰があったこと。
 それで、スキマをちょいと飛ばして持ってきた缶を開けたらしい。

「だって、だって手に入ったの缶詰一缶しか無かったんだもん!」

「それでもこっそり食べるかねぇ」
「幽々子様はこういった場合、たとえ料理が半人前だろうと一口は食べさせてくださります。
 そして妖夢と一緒に食べると一層美味しいわ、とおっしゃる素晴らしい主です」
「いいなー、度量の広い主っていいなー」

「ううう……」

 どんどん小さくなる紫を見かねたのか、霊夢が仲裁に入る。

「はぁ、でも何でここまで強烈にとり憑かれているのよ?」
「それは……一口食べたんだけど、口に合わなくて……それでそこの窓からポイってあぁんっ!!」

 言葉の途中で嬌声をあげてのたうつ紫。
 我慢ならない一言に、尻のスッポンが噛み付く口に力を込めたらしい。
 この反応を見て、妖夢には原因がわかった。

「つまりこのスッポンは、まともに賞味されず無下に捨てられたことを怨みに顕界に留まっているのですね?」
「ああっ! やぁん!」

 スッポンがコクコクと頷く度に、紫には耐え難い痛みが走っているようだ。
 たしかに気の毒ではあるが、皆の心はスッポンへの同情に傾きつつあった。
 基本的に里の人々は食べ物を粗末にしない。ましてマズイからって窓からポイ捨てなんてもっての外だ。
 どう考えても、スッポンの方が正しい行いをしている気がしてならない。

 それに、妖夢は何となくこのスッポンにシンパシーを感じていた。
 缶詰に加工されているということは、おそらく出自は養殖池だろう。
 スッポンとて薄々自分の末路を感じ取っていたが、色々希望を持って暮らしていたに違いない。
 しかし、スッポンは缶詰にされて、世の人々に精を与えることを選んだのだ。
 たまたま生まれたのが養殖池だからという残酷な運命にも屈せず、しかしこれが我が務めと前向きに受け入れたのだ。
 この亀生に、一片の悔いなど無い。

 しかし、紫はそんなスッポンの決意までをもあっさり踏みにじった。
 誇り高きスッポンに対してなんたる所業。なんたる侮辱。
 無念極まりない。なら、この無念をたとえ我が身を霊にやつそうとも晴らさなければ、幾万の缶詰となった同胞に申し訳が立たぬ。

 一度命を賭したなら、御下命いかにしても果たすべし
 さりとて、スッポンには譲れぬ一分が御座います――

 まさに武士、スッポン界のもののふである。

「はぁ、はぁ……ねぇお願い。反省してるからコレ取ってよぉ……」

 とうとう紫は四つんばいになり、尻を高々と掲げて涙目で懇願する。
 恥かしいやら情けないやらで、賢者と名高い究極の大妖怪の面影はどこにもない。

 だが、周りの温度はいたって平温。むしろ冷めている。
 どうもやる気が出ない。
 魔理沙は位置が気に入らないのか神経質に帽子をいじっているし、霊夢や藍は反省を促すためこのままにしときたい感さえある。
 妖夢に至っては、スッポンに畏敬の念を送る始末。

「アンタ、自分でどうにかしたら? 自分のケツとスッポンの口との境界を操るとかさぁ」
「無理! そんなの絶対無理! できないよぉ……」
「駄目だ。完全に錯乱しておられる。この状態であんな繊細な能力を使えるとは思えない」

 藍が面倒クセ~、と嘆息する。
 確かに朝起きたら尻に亀、皆に見つかり散々下半身を嘗め回すように観察され、心の狭さを露呈し四面楚歌になった上、ケツが痛い。
 この精神状態なら私だって空を飛べるか怪しいもんだ、と霊夢は一応納得する。
 だいたいケツとスッポンの境界を意識して能力を駆使するなんぞ、素面のときだって御免こうむりたいだろう。

 だが、このまま放って置く訳にはいかないのも事実。
 野の妖怪とは違い、彼女には博霊大結界の管理という重大な仕事がある。
 いつまでもこんな腑抜けられていては、結界の維持に支障をきたす。
 第一、尻にスッポンを生やした妖怪に誰が結界を守って欲しいと思うだろう。

「仕方ないわね。私達で取るしかないでしょう」
「でもどうするんだぜ? 霊夢が祓うとか」
「今お札貼り付けたけど、微動だにしないわコイツ」
「わーぉ、何気にハイスペック」
「感心しないで! そうだ、あなた昔空飛ぶ亀とつるんでたでしょう。亀語とか喋れないの?」
「誰が丸眼鏡なのよ」
「霊夢、それは蛇語だぜ」
「じゃあ魔法つながりで、マスパでドーンとか」
「やってもいいが、壁と天井の修理費は誰持ちだ?」
「紫、表に出なさい。すぐ終わるから」
「嫌よ! 藍、助けて。あなたなら」
「どうもできませんよ」
「素っ気ない!?」
「んー……妖夢、その自慢の刀でスパンと昇天させてやってくれない?」
「私にこのスッポン……いえこのスッポンさんは斬れません。その代わり、この尻肉を少しだけスパンと」
「却下よ却下ァァァ!!」

 その後あーでもない、こーでもないと議論し、結局引っ張って取ることにした。
 その間、紫はマジで泣いちゃう5秒前まで追い込まれた。

 とりあえずスッポンを手でホールドした霊夢を先頭に、魔理沙、藍、妖夢と後ろに続く。
 まるっきり大きなカブを引っ張るお百姓さんのスタイルだが、ちっとも愉快な気分になれない。
 とっとと終わらせるために、皆が本気で力を込める。

「「「「オーエス オーエス」」」」
「いたっ! いたたた痛い痛い!! ストップスト~ップ!!」

 紫の本気の訴えに、珍妙な綱引きの手を止める。
 4人が渾身の力で引っ張ったのに、スッポンは不動。とにかくしぶとい。
 王者の風格さえ漂いそうな固い信念だ。

「その根性、さすがです。スッポンさん……いえスッポン殿。この魂魄妖夢、感服いたしました」

 妖夢の感嘆に答えるようにスッポンも鷹揚に頷き、結果紫があひんあひんとあられもない声をあげて痛みに耐えるという滑稽な連鎖。
 ついに、紫の乙女な部分が臨界を迎えた。

「ひっ、ひぐっ……ぐす……うええぇ」
「あらら、泣かないでください紫様」
「もー、どうすんだこれ」
「別の方法を探すしかないかも……」


「そんな時は、私におまかせあれ!」


 一同、一尺あまり飛び上がって驚きを表現する。

「どうも、清く正しい射命丸文です。姉さん、事件ですか?」
「いっ、いきなりどこから現れてんのよ!?」
「いやぁ、何やら紫さんがエライ事になってると聞きまして」
「アンタの耳どうなってんの!?」

 うわ~、さらにややこしいのが来ちゃったと現場は騒然とした。


「成程、スッポンが離れなくてお困りのようで」

 とりあえず状況確認が済み、文は平然とこう言う。
「そんなの簡単に解決ズバットです」
「ほ、ホント!?」

「はい、まず紫さんに全裸になっていただきます」
「ちょっと待てオーイ!」
「何をおっしゃる天狗さん!?」
「真面目な話です」

 文はムッとした表情を浮かべる。

「これにはれっきとした理由があります。
 皆さん、まずスッポンは神聖な生き物であったことをご存知ですか?」
「はぁ?」

 唐突な質問に眉をひそめるが、誰も答えを知らないことを沈黙で知らせる。
 文はしたり顔で続ける。

「時代は紀元前の大陸にまで遡ります。
 今でこそスッポンはごく一般的な生き物ですが、当時沼の底に潜み滅多に陸に上がらないスッポンは未知の生物でした。
 しかしその肉は滋養強壮、生き血は不老不死の妙薬として知られ、時の権力者やそのご夫人、果ては皇帝に献上されていたのです。
 その希少性と確かな効用。スッポンが神格化するには充分でした。

 ある国では、スッポンは神の化身として崇められていました。
 国教としてスッポン様の偶像崇拝を推奨。冠婚葬祭はほとんどスッポン様に祈祷。
 子供達にはスッポン様の素晴らしさを説き、週に1度スッポン様に祈りを捧げることを徹底させました。
 実に国民の9割がスッポン様を愛し信仰し、年2回スッポン様を讃える感謝祭、スッポンカーニバルが派手に開催された程です」

「ほ、本当なの?」

「ええ。そしてそれはその国の富裕層や統治者とて例外ではありません。
 彼らは自らの敷地に沼を造成し、そこに大量のスッポンを飼育していたのです。
 いえ、飼育というより神獣を保護することで、その力にあやかろうとしていたに近いですね。
 なにせ月の餌代だけでも、庶民は余裕で三ヶ月は食べられる程の額という厚遇ですから。

 しかし、それが仇となったある事件が起こりました」

 誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。

「領主の子息がスッポンに噛まれてしまったのです。
 子息は泣き喚き、家臣たちはオロオロするばかり。
 当然です。相手はスッポン様。殺して引き剥がせば、自分の首が比喩でなく飛ぶことになる。
 しかし、いくら押しても引っ張っても頼んでも拝んでも、スッポン様は離れない。
 ほとほと困り果てた家臣のもとに、一人の男が現れた!
 彼はスッポン様の飼育係の者でした。
 彼は言います。私はスッポン様を傷つけず口を離させることができる、と。
 家臣たちは藁にも縋る思いで、男に解決を委ねました」

 グッと力をこめた語りに、皆水を打ったかのように聞き入る。

「すると彼は、スッポン様の御前で一糸まとわぬ全裸になったのです。
 そして聖なる棒を立て、そこに絡みつくようにそれはそれは幻想的で淫靡な踊りを踊ったのです。
 それは神に捧げる儀式のようであり、人々を妖しく魅了する退廃的な舞だったと伝えられています。
 するとどうでしょう。スッポン様はパックリと口を開いて、子息を解放されたのです!
 家臣は拍手喝采。男は得意満面。
 領主は大変喜び、その飼育係に勲章とたんまり褒美を授け、男の子孫は末代まで誉れ高く幸せに暮らしたとさ」

「おおぉ!」と感動の声があちこちであがる。

「さてどーです? わかりましたか、紫さんが全裸になる意味が」

「「「「なるほど!」」」」
「なるほど……ってわかるかぁぁぁ!!!」

 文に詰め寄る紫。そのツッコミに、思わず雰囲気に呑まれかけた4人も目を覚ます。
 だが、起きて寝言を言うのがまだ1人。

「まだわからないのですか!? では紫さん、全裸の別称をご存知ですか?」
「……はっ!」
「お気づきのようですね。
 そう、『すっぽんぽん』です。
 この言葉の語源は、まさに前述した飼育係の男のことなのです。
 裸になってスッポンがポンと離れる様から『すっぽんぽん』という言葉が生まれたんです。
 これは全裸でポールダンスが、スッポン外しに効くという明確な証でしょう」
「嘘つけえぇぇ!!」
「ならば論より証拠です!
 さぁそのフリフリと色香で構成された下着を脱ぎ散らかしなさい!
 そしてそこの柱で踊るのです! ねっとりと! 誘うように! なまめかしく!
 私はスッポンが離れる様を、その肢体ごとこのカメラで記録します。
 そして新聞という媒体を用いて後世の人間に語り継ぎましょう」
「手前それが目的だろうがァァァ!!!」
「たわらばはあぁぁぁっ!!」

 紫は怒りの頂点に達し、必殺コークスクリューパンチで法螺吹き天狗を青空の彼方までぶっ飛ばした。
 哀れ文よ。最近不振の新聞売り上げ向上を狙って、下賎なエロ方面のネタ確保に走ったのが運の尽きだった。

 結局事態は進展しない。
 スッポン健在、紫は半ベソ。手詰まりの様相に空気は重い。

「どうやっても取れないわね。もう諦めるしか……」
「そんなぁ……ううう……もう死にたい」
「落ち着いてください! 残された私たちはどうするのですか」

 あまりに不憫過ぎる会話だ。
 輪をかけて暗く沈んだ部屋の空気に耐えられなくなったのか、魔理沙が口を開く。

「何とゆーか、すごいタフだよな。さすがに一度喰らいついたら、雷が鳴るまで離れないって言うだけの事はあるんだぜ」

 その一言に、全員が弾かれたように顔を見合わせる。

「「「「「それだぁ!」」」」」



 かくして緊急招集された竜宮の使いによるフィーバー一発で、スッポンはあっさり口を離した。
 スッポンも満足だったのか、やり遂げたような清々しい顔つきで消えてしまった。

 最後に妖夢はスッポンに思いを馳せる。
 無事成仏し白玉楼に来た暁には、私の元を訪ねるとよい。
 その時は自ら剣術指南をしてやろう、と。


「もー今日は寝るっ!! 藍、起こさないでね!」

 尻が軽くなった紫は、そうプリプリ怒りながらスキマへと身を躍らせた。
 藍が申し訳なさそうに一同に頭を垂れて紫と共に帰った後、残された者達は盛大にため息をつき、ドッと出た疲れを噛み締めるのだった。



 それから数日たった朝。霊夢がん~、と小さな呻き声をあげながら起きた。
 しばらく目をショボショボさせた後、猫のように全身を使って伸びをする。

 寝巻きを着替えて布団をたたみ、ご飯と納豆の朝食にいそしもうとしたその時。

「霊夢ぅ~、助けて~!」

 ドンドン戸を叩き、ズカズカ乱入。
 にゅっ、と味噌汁の湯気の向こうに顔を出したのは、先日の泣いたスッポン妖怪の紫だ。
 あれ……なんか嫌なデジャヴ。

「憑かれちゃった……コレ取ってぇ~」

 すると後ろを向いて、霊夢に尻を見せつける。


 紫の尻には、馬鹿でかいシャコ貝が。


「はいはい、一個しか無かったのね」
「えっ、ちょ……」
「私は朝餉で忙しいの。また後でね」

「そんな冷た……ひゃうん! らめ……そんな、力入れたらあはぁっ!!」

 そんな泣き言を尻目に、霊夢は心底どうでもいいといった風情でアサリの味噌汁をすすったのだった。

          【終】
「今夜は、俺のスッポンが紫の尻にパックr「言わせないわよ!!!」

こんばんは、がま口です。
えー、先日薬局に行きました。そこにあったんです。すっぽんドリンクが。
そのみなぎる雄姿にパワーを頂いて、勢いで書きました。
……なんか脱線しまくったけど、ディーゼル機関車だからまぁいいや!

徐々に投稿頻度を上げたいと画策しているがま口でした。

2/26 追記

冒頭でいきなり時系列に齟齬が生じていたため、修正しました。
……何やってんだ、俺。
がま口
http://
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コメント



0.620簡易評価
4.100奇声を発する程度の能力削除
スッポンって本当に凄いらしいですね
8.100お嬢様・冥途蝶・超門番削除
久々に来てみたらがまさん大攻勢でびっくりだよ。
「朝、霊夢が目を覚ますと」からいきなり「時刻は昼」になってるよ??
いいのかな?いいのかもしんない・・。            お嬢様
紫さんエロスですわ。その描写につきます!          冥途蝶
紫さんの描写エロス!!ああ、すっぽんてそういう・・     超門番
9.80名前が無い程度の能力削除
ゆかりんエロいな!
11.無評価がま口削除
大変後れ馳せながら、お返事いたします。

奇声を発する程度の能力様
いつもご感想ありがとうございます。NHKでスッポンの番組を見て、印象が亀から生物兵器になる程すさまじかったです(震)

お嬢様・冥途蝶・超門番様
スッポンパワーでサクサク書いて、スッポンの様に首を縮めて修正いたしましたorz
熟れた女体に容赦がない亀。うーん、えっちっちー!(黙れ)

9番様
ええ、それが紫さんです。……背後に殺気を感じたのでこれにて失礼。

大きくなったらスッポンを食べてみたいがま口でした。