Coolier - 新生・東方創想話

『ハクレイレイム』

2010/08/17 02:03:46
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Q:りんごはなぜあかいのですか?

A:それは、りんごとはあかいものだからにほかなりません。













それは夏真っ盛りの、とある満月の晩のこと。
レミリア・スカーレットは友人の博麗霊夢と共に食事をしていました。
気の知れた友人との1対1の、談笑を交えた素敵な晩餐。
彼女にとって『博麗霊夢』とは、自分と仲良くしてくれるちょっと変わりものな人間であり、友人の一人であった。

「それでね、その時の咲夜ったら――」
カチャ――

今も他愛のない話をしながら、ワインの入ったグラスを傾けたりしていたのだ。
『レミリア・スカーレット』にとってはとても幸福な、それでいてなんてことのない日常の風景だった。
――それだけのはずだったのだが…

「霊夢?どこ…いったの……?」

誰かが持っていたナイフの落ちる音。
ほんの一瞬前まで視界にあった紅白の衣装が見当たらない。いや、大切な友人の姿が一瞬で目の前から掻き消えたのだ。
こんな芸当ができる生き物は、彼女が知る限り二人ぐらいしか思いつかなかった。
一人は自身の従える瀟洒なメイド、もう一人は『胡散臭い奴』と評判のスキマ妖怪である。

「咲夜…ではないわね、私に無断で霊夢を持ち出したりしないもの。ということは、あんたなんでしょう?」
「まぁ、私まで夕飯をご馳走してもらえるとは思っていませんでしたわ」

いつの間にやら霊夢の座っていたところには、件のスキマ妖怪が座っていた。
…しかも右手にはナイフを、左手にはフォークを持って目の前の料理に目を輝かせている。
せっかくの楽しい時間を邪魔され、話し相手も取り上げられ、挙句こんなふざけた態度をとるとは。

「とても不快な奴ね、あなたって妖怪は」
「そうでもありませんわ。霊夢消失の第1発見者であるあなたに、わざわざ今起きた現象を説明しに来てあげたのだから」

はて?これはおかしなことを言うものではないだろうか。
霊夢の姿の消し方、そしてスキマ妖怪の出てきたタイミング。
これらの材料から推測するに、霊夢を消したのは彼女ではなかったのか?

「なんでそんなことを言うのかがわからない、ってところかしら?」
「…そんな言い回しをするからには犯人は八雲紫…お前じゃないんだな。しかし事情は知っている、ということか」

正解よ、と言うと彼女は私の帽子を取り、頭をなでた。正解のご褒美らしい。
これは褒美のつもりか?と直接聞くと、キスまでしてきそうになったので顔をぶん殴ってやった。

「ひどいですわ、乙女の顔に傷がついたら、傷をつけたものが責任を取って嫁にもらってくださいな」
「今度はもっと痛いのをくれてやろうか?それより早く、霊夢の身に起こった事を説明なさい!」
「それもそうですわ。では、驚かないで聞きなさい」

嫌な予感がしていた。
私の心は少し、出所不明の焦りに支配されそうになっていた。

「博麗霊夢はこの幻想郷…いえ、世界中のどこを探しても、どの世界を探してももう見つからない。会うことはできない」

嫌な話だ、聞きたくない…だが、これが現実なのか。

「博麗霊夢は消滅したのよ。この世界から」
「…理由も説明してもらえるのかしら?」

ええ、もちろんよ。そういってコイツは、八雲 紫は語りだした。
霊夢の身に、何が起こったのか。










―――――――――――――――――――――――――――――――――


博麗霊夢という名前の意味――


博麗霊夢の博、いやハクとは、白をさしている。
白とは色のない、無を表しているのだ。

ハクは、存在しない――



博麗霊夢の麗、いやレイとは、冷をさしている。
冷とは冷たい、熱のない状態を表しているのだ。

レイは、存在しない――



博麗霊夢の霊、いやレイとは、零をさしている。
零とは空っぽ、量がない状態を表しているのだ。

レイは、存在しない――



博麗霊夢の夢、いやムとは、無をさしている。
無とは有無の無、ないことを表しているのだ。

ムは、存在しない――





ハク、レイ、レイ、ムは、存在しない。


ハクレイレイムは、存在しない。


博麗霊夢は、存在しない。


よって、『博麗霊夢』と言う名の巫女は、実在しない者なのである。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


そんな馬鹿な話があるだろうか。
そんなくだらない、親父ギャグレベルのこじ付けみたいな理由であの巫女が消えてしまうものか。
まったく馬鹿馬鹿しい…

「こんな場面でくだらない冗談を言うなんて感心しないわね。事実だけを述べなさい」
「これが事実よ、紛れもなくね。どこの誰かは知らないけど、誰かがこう思ってしまったのよ」

八雲 紫の表情はいたって真面目そのものだった。
彼女曰く、博麗霊夢を知る何者かが前述の通りに霊夢の名前を解釈し、それが原因で霊夢は消えたと言う。
一瞬にして。目の前に食べかけのしいたけステーキと、飲みかけのワインを残したまま。

「おふざけが過ぎるぞ、スキマ女」
「あの娘は少し反抗的だったしね。今度はもっと、見るからに素直で優しそうな…ついでに夜這いかけても怒らない巫女がいいわね」
「ふざけるなと言っている!」

気付けば私は八雲 紫に掴み掛かり、その少しニヤついている顔を睨みつけていた。

「あなたも経験があるはずよ。誰かも分からぬ何者かがそう認識したがため、自分の身にそれが反映された事が」
「!…いや、そんなのと一緒にできるものか!私に起こった事と人一人が消えてしまう事件とでは事のレベルが違う!」
「いいえ、同じよ。世界は認識と、認識による影響力で成り立っている。その認識、影響力しだいでは、一人がそう考えただけで世界が変わる事もありうるわ」

認識の生む世界に働きかける影響力とは、その認識(ここでの認識とは考え方のことである)の説得力にある。
例を挙げれば、りんごは赤いと言う話である。
りんごはなぜ赤いと言えるのか?それは、りんごと同じ色をしたものたちが赤色のものと呼ばれ、その色は赤と呼ばれる色だからである。
りんごはその赤の色をしている、よってりんごは赤い。
この程度の屁理屈のような理屈でも、ある程度の説得力はあり、まして多くの者がそう認識するのなら、その認識の影響力は増す。
八雲 紫は、そんなくだらないことで霊夢が消えたと主張しているのだ。

「今に霊夢を知る者たちの記憶からも、徐々に彼女のことが消えていくわ」
「そんなことがあっていいものか!…だいたい、さっきの話には到底霊夢を消すほどの影響力があるとは思えない!」
「あら、世界に反映される認識の基準なんて誰にも測れはしないものよ?現にあなたも、あんな認識が浸透するとはかつて思わなかったでしょう?」
「くっ……」

八雲 紫の言う私に起きた影響…それはおそらく『カリスマブレイク』と『れみりあ☆うー』のことを言っているのだろう。
私もあんな認識が周りに広まるとは思っていなかった、そしてそれが実際の私に反映されるとも…



『カリスマブレイク』は…いつだったかの紅茶の席でのことだった。パチェ、フラン、私の三人でお茶してる時だったわ…
いつも通り瀟洒な彼女の淹れた紅茶で喉を潤し、瀟洒な彼女が焼いたクッキーを口にし、これからの時代の吸血鬼の在り方について話していたのよ。
それで三時間ほど語り尽くした頃、皿の上のクッキーが残り一枚になったとき。
フランの手がクッキーに触れる寸前…私がそれを取って食べてしまったのよね…
いや、わざとじゃないのよ?たまたまその時はそうなっちゃったんだけど、それでフランが百年振りくらいの大泣きを始めちゃって…
それで慌てふためきながらあやしていた時パチェに言われたのが私の人生最初の『カリスマブレイク』だったわ…

それからというもの、毎度ちょっとしたことで『カリスマブレイク』とか『カリスマ(笑)』とか言われてくようになって
いつの間にか本当にカリスマがブレイクされてしまっていたんだっけ…

『れみりあ☆うー』は…ちょっと待った、これなんて『カリブレ』なんかよりよっぽど事故だったじゃない!
パチェが読書してるときに色々ちょっかい出してたら、怒ったパチェが私にスペカを使って…
『ロイヤルフレア』しようとして『ロリナルナレヤ』使っちゃって私の精神が一時的に幼児に戻っちゃって…
腹抱えて笑い転げてるパチェに色々遊ばれたのよね。それで『れみりあ☆うー』とかやらされたり…

それからというもの、本来対魔理沙用決戦兵器だった『ロリナルナレヤ』はパチェが宴会のたびに私に使う一発芸アイテムになったのよね
そして私は幻想郷中の人妖に『れみりあ☆うー』と認識されて…



「あとはほら、『そーなのかールーミア』とか『⑨チルノ』とかあるじゃない」
「『ゆかりんは17歳☆』とかな…ついどうでもいい記憶に振り回されてしまうところだったわ」
「あらそう、それじゃあ私は一応皆に霊夢が消えたことでも知らせてこようかしら。今回のケースなら存在自体の否定だから霊夢に関する記憶もいずれ消えるけど一応ね」

そう言うと八雲 紫(17)は姿を消した。霊夢の死、いや、消滅した事とその理由を一応説明して回るのだろう。
だが、そんなことは無意味になるのだ。
いや、私が無意味にしてやる。

「何もこの緊急事態に、ただ単に『カリブレ』と『うー☆』の歴史をゆったり振り返る私じゃないさ」

『カリブレ』も『うー☆』も、その認識は確かに周りに浸透しているし、私の体にさえ今では染み付いている。
だがな、私は普段の振る舞い(カリスマ100%使用)でそのイメージを少しずつだが解消しているんだ。
これこそが、振り返ることで見出せた活路だ!
認識は『補足』を加えることで変化させることができる。一度認められた『認識』と真っ向から戦うのはキツい、だが!

「認識を補足で補い、路線を修正することはできる!まして私は…」

そう、大事な友人を、誰かの言葉遊びなんかで消させてなるものか!それに霊夢はいずれ私の嫁にもならなきゃいけない女だぞ。
絶対に、消させてなるものか。

「私は運命を操る吸血鬼、レミリア・スカーレット!清く美しく気高く優しく強くて格好良い金持ちお嬢様のレミリア様だ!」

一度生まれた『博麗霊夢』=『存在しないもの』の式をすぐに打ち壊すことはできない。
だったら補足を加えて彼女の存在をつなぎとめればいい。私の運命を操る力を最大限に行使しながら。
方法は簡単、消費する精神力は莫大。でもやるしかない、彼女がどういう人間かを思い出して言葉にする。

「霊夢は我が紅魔館の門番を破り、館に侵入して見せた!そんな奴はこれまでに存在しない!」

美鈴が初めて突破されたときの動揺、そしてドキドキワクワクした気持ちは今も忘れない。

「霊夢はパチェに図書館中の本全て、ろくな価値がないと言わせた!そんな奴は今まで存在していない!」

あの神社の賽銭箱ほど中身が貧相な賽銭箱もそうそうないでしょうね。

「霊夢は咲夜のあんなにも汗臭いメイド服を一度だけ着たことがある!そんな勇者、霊夢を除き存在しない!」
「お嬢様、それは一体どういうことd」

はじめて咲夜をベッドに誘ったときはマジでびっくりした。その咲夜と過去一度だけ衣装交換してた霊夢ホントすげぇ。巫女服咲夜の腋臭もすげぇ。
まぁ宴会の席の罰ゲームじゃあ仕方ないけどさ。

「霊夢はフランの友達になってくれた初めての相手!こんな素敵な巫女、他に存在しない!」

霊夢、その件では本当に感謝しているわ…魔理沙もその後仲良くしてくれたけど、フランが今ほど素直に笑うのはきっとあなたのおかげよ。


「霊夢は私に初めて恋心を抱かせた存在!彼女の代わりなど、絶対に存在しない!」


魔力を込め、運命に働きかけ、『博麗霊夢』=『存在しないもの』であったところだが、
『博麗霊夢』=『代えがたい、他には存在しないもの』に置き換えてやった。たぶん、これで大丈夫。霊夢は、私が守るから。




「なーに言ってくれてるんだか。そんな恥ずかしいこと、よく大声でいえるわね」

どうやら私の頑張りは届いたらしい。私の霊夢への思いは、何処かの誰かのくだらない認識を捻じ曲げた。


「おかえり、霊夢」
「…ただいま」
「誰かが強くそう認識することで、私が消える…か」
「あら?私が考えてあげた『白冷零無』は気に入らなかったかしら?」
「くだらない話だけど…レミィがそれで誤魔化せてるみたいだから許すわ」
「そうね…ふふ、『私が消えたらレミィがどうするのか知りたい』だなんて、霊夢もかわいいわね」
「紫だって…演技とはいえ私なんてどうでも良いみたいなこと言ってたじゃない」
「そりゃねぇ、えっちなことしようとしたら『助けて…レミィ…』ってガチ泣きする巫女よりは他の子が巫女の方がいいわ」
「黙れ17歳」



―――――――――――――――――――――――――――――――――


はじめまして、初投稿になりますnormalAです。
こういったものを書くのは初めてで至らない部分がたくさんあると思いますが、せめて読んでいただいた方が不快に思わなければ幸いです。
晩飯食った後にぼーっとしてたら『白冷零無』が浮かんでついでに消えそうな霊夢さんを必死で取り戻そうとするお嬢様の映像が頭に流れてきたので。
結局は一時的にスキマで消えて隠れてたわけですが…認識が世界に影響したら面白そうじゃないですかね。

読んでいただき、ありがとうございました。

>1様
何分不慣れなもので、上手に文章に表現できませんでした。精進します…

>5様
まったくその通りでございます。今後表現力を伸ばして改善していこうと思います。

>山の賢者様
そちらの方がオチとして面白そうですね…ご意見感謝です。

>葉月ヴァンホーテン様
なんといいいますか、具体的で正確なアドバイスありがとうございます。
駆け出しの自分なんかにもったいないお言葉を沢山頂いてしまって頭が上がりません。
一日も早くご期待に添えることができるよう、より一層努力して行こうと思います。

>14様
がっかりさせてしまって申し訳ありません…今後はそのようなことがないようがんばります。

>15様
今見返しても、自分自身ですら『やりたい事しか伝わってこない』と感じる酷い出来栄えです。
もうこんなことがないように今後は気をつけます。
normalA
http://x62.peps.jp/normala/
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コメント



0.410簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
あれ、ギャグ?
話の発想は好きだけど、上手く調理できなかった感じかなぁ
5.80名前が無い程度の能力削除
着眼点が良かっただけに惜しいなぁ・・・
どうなるのかワクワクしてたら、尻切れトンボで残念だった。
7.60山の賢者削除
せっかくだからレミリアに「博麗霊夢」を改変してほしかった。
12.70葉月ヴァンホーテン削除
ふむう。なるほどです。
目の付けどころがシャープですね。
が、上記のコメントの通り、もったいないなあと感じました。
おそらく、展開が早すぎたのだと思います。
こちらの作品はどちらかというと序破急ですが、わかりやすくするために起承転結で言うと、承がすっぽり抜け落ちてしまっています。
例えば、
実際にレミリアが、みんなに霊夢の存在を聞きまわり、誰も知らないと答える。みんなはぐる。
(ここでレミリアの焦りや不安、絶望感といった心情描写)
もう諦めなさいと紫に諭されたところで、レミリアの運命操作が炸裂する。
(諦めない、という王道のキーワード)
のようにすれば、物語として、転につながる承、つまり山になります。
これは飽くまで一例ですので、ご参考までに。
もちろん、山だけでなく谷も必要です。
一つの発想を題材にしたSSですので、この場合、その発想を活かすために必要なのは表現力ではなく、構成力です。
ハリウッド映画を作るつもりで、起承転結を意識してみるといいかもしれないです。
じゃあお前がやってみろよ、という突っ込みは無しでお願いしますw
ずいぶんきついコメントとなってしまいましたが、その鋭い発想を、完成された実力で読んでみたいと思って書きこんだ次第です。
平にご容赦を。
長文失礼いたしました。
14.50名前が無い程度の能力削除
この題材からは実に俺得な長編シリアスが生まれそうな気がした。
15.50名前が無い程度の能力削除
発想は面白いと思います
が、ラストを急ぎ過ぎた感は否めませんね