Coolier - 新生・東方創想話

ミタメドーリの幻想郷

2008/12/20 23:48:15
最終更新
サイズ
18.5KB
ページ数
1
閲覧数
2029
評価数
15/82
POINT
4450
Rate
10.78

分類タグ

 香霖堂。
 魔法の森の近くに建っている古道具屋である。古今東西の不思議なモノが集まっている、客の少ない古道具屋である。
 その古道具屋のカウンターで、店主、森近霖之助は一つの怪しげな小瓶を前にうんうんと唸っていた。
 どうにも怪しい意匠が施されており、どういう材質の瓶なのかもよくわからない。だが、てっぺんの透明な封をされた小穴から察するに、胡椒瓶に近いものではないかという類推くらいは、常人にも立てられるものであった。
 そしてこの、未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力を所有する店主のことである。この小瓶が何なのかはもちろんわかっているのであった。
「ううん、ううん。どうしようか。これは厄介なものが出てきてしまったぞ」
「どう厄介なんだ?」
「これは悪夢の粉末『ミタメドーリ』といって、これを振りかけた相手をしばらく見た目どおりの性格にすることができるんだ。ちなみに時間は振りかけた量に比例し……ってこの声は!?」
「面白そうだな。もらってくぜ」
 答えは魔理沙。ワカったときにはもう遅い。
 蒐集癖の魔女により、その危ない小瓶は華麗に掻っ攫われてしまったのだった。
「ま、待て! それは好奇心で使うものじゃなうわっ、ぺっぺっ! 僕に振りかけたってどうなるもんでもないだろう! どこからどう見ても立派な店主じゃないか!」
「なるほど、元々見た目どおり、もしくは外見に特徴がない奴には効かないのか。だったらこれはどうだ」
 魔理沙はどこからともなく布を取り出して、霖之助の頭の被せた。
「なっ……ムッ、これはパンツ! やめろ! 今それをかけられたら……フォオォォオオ……クロスアウッ!」
「じゃあな香霖……立派な変態仮面になれよ」
 脱衣して褌一丁になった霖之助を尻目に、霧雨魔理沙はミタメドーリを握り締めて飛び去っていった。


「さてとまぁ、余勢を駆って飛び出してきたはいいが、どこに行こうかねぇ」
 とっさの決断力はあるものの計画性に乏しい魔女は、とりあえず箒にまたがってのんべんだらりと飛んでいた。
「あ、いつぞやの魔女!」
 そこに飛んで出でたるは、湖に住む氷の妖精、チルノ。何か異変が起こるとチョイチョイと会うことのある、頭の弱い妖精である。
「おお、いつぞやの妖精か。丁度いい、お前も実験台にしてやる。ほーれぱさぱさぱさ」
「ぶわっ! ちょっと! 何をする……の?」
 魔理沙が遠慮なくミタメドーリを振り掛けると、チルノの雰囲気が妙に変わった。騒がしい雰囲気がなりを潜め、今はむしろ、静か過ぎるほど。
「……何を呆けているの? その小瓶で何をしたのか気になるのだけれど」
「お、おお、なんかいかにも青髪で氷属性っぽいキャラになったぜ」
 久しく忘れていたその感覚に、魔理沙は少し驚いた。そうだ。氷属性といえばクールというのが定説ではなかったか。
「ちなみに、いちたすいちの答えはわかるか?」
 ふと魔理沙は尋ねた。チルノは無表情のまま小首をかしげて答えた。
「何を言っているの? 私にはわからない」
「うーむ、バカというより単に知らないだけ感が漂うな。雰囲気って大切だ」
 雰囲気って大切。かけがえのない大切なことを学んだ魔理沙は、チルノに手を振って飛び去っていった。
 チルノはなんだかよくわからなくて小首をかしげまくっていたが、そのままとりあえず手を振っていた。
「おーいチルノー。あそぼうー」
 そこに飛んできたのはチルノの友人である虫の妖怪、リグル・ナイトバグだった。その姿を認めると、チルノはかしげまくっていた小首を元に戻して友人を迎えた。
「……やぁ、リグルか。遊ぶといってもこの陽気に日差しだ。お互いつらいところもあるだろう」
「な、何言ってんの!? 頭打った!? ねぇ頭打ったの!?」
「リグルこそ何を言っているの? デュラハンじゃあるまいし頭なんか売れるわけがないじゃないか」
「よかった! バカだ! さぁチルノ一緒にあそぼう!」
「あなたがいいというなら別にいいけれど」
 そうしてリグルは何の問題もなくチルノと遊んだのであった。


 魔理沙は次の目的地を神社に定めていた。
 神社には行っておくべきだろうというある種の観念が存在した。神社といったら基本だろう。自分がよく行く場所でもある。
 魔理沙は、速度を上げて神社へまっしぐら。ついてみれば、縁側で……いや、正確に言えば縁側からもう少し奥に入った部屋の中で、霊夢とレミリアが将棋に興じていた。
「ふふ、どう? 王手飛車取りよ」
「……それはすごいわね。直前の私の王手を鑑みてくれれば完璧だったのだけれど」
「うー」
 縁側でやらないのはもちろん吸血鬼たるレミリアが関係しているのだろう。魔理沙は「よう」と片手を上げて、縁側からずかずかと上がりこむ。
 勝手知ったる人の神社である。
「あら、魔理沙じゃない。また何かたかりに来たの?」
「ひどいぜ。私を見るなり第一声がそれか?」
 苦笑する魔理沙に、レミリアが笑んで霊夢の援護をする。
「あら、私のところでもケーキをたかられたり本をたかられたりといった苦情が後をたたないのだけれど」
「だから王手を無視して局面を進めないでってば」
 レミリアは悠々と王将を取り、持ち駒に加えた。その様を見ながら、魔理沙は色々な意味で苦笑いを浮かべる。
「お前たちが私をどう思っているのかはよーっくわかった。だが今日の私は一味違うぜ。何かを持ち込んできたんだ」
 負けじとレミリアの玉将を持ち駒に加えながら、霊夢は怪訝そうな顔を浮かべた。
「何かって何よ」
「これだぜ」
 と魔理沙はにわかにミタメドーリを取り出し、霊夢に振り掛ける。
「ぷあっ! 何これ……何……な、何で物の怪が神社の中に!?」
「うー?」
「くっ、面妖な唸り声を上げおって! 退治してくれようぞ!」
「おお、いかにもな巫女になったぜ」
 巫女とは怪異を退治するものであり、妖怪などとは決して相容れないものである。これもまた、久しく忘れていた感覚だった。
「ちょ、ちょ、ちょっと霊夢! ちょおっと強引過ぎるんじゃあないかしら!? ま、まだ日も高いのに……」
 今まで見たことのない霊夢の剣幕に、レミリアは動揺してたじろぐ。
「問答無用! 神域をその汚い足で踏みにじった罪、許されるものではない!」
「まぁ! 私の足が汚いですって!? これでも念入りに洗っているのよ! 水を流せないから苦労してるんだから!」
「い、いや……そういうことじゃないわ! この戯けが!」
「何よ、私の苦労があなたにわかるっていうの!?」
「わからないしわかりたくもない! そしてそもそもそういう問題じゃない! そしてそこの邪教の者! 貴様も関係ないという風な顔をしているんじゃない!」
「お、私か?」
 レミリアが予想外にズレていたので会話を続けづらくなったのか、霊夢は魔理沙のほうに話を振ってきた。
「厄介ごとはごめんだからな。馬に蹴られる前に退散するぜ」
 またもやもめる二人を尻目に、魔理沙は箒にまたがり飛び出していく。
「あっ、待たんか!」
 慌てて追いかけようとした霊夢の袖ががっしと掴まれる。びくっとして霊夢が振り向くと、レミリアが必死な形相で睨みつけていた。
「そういう貴女の足は汚くないっていうの!? どうせろくでもない石鹸しか使ってないくせに! 嗅がせてよ! 嗅がせてみなさいよ!」
「なんであんたはそんなに足に過剰反応するの!? もういい! お前からとっとと退治してくれるわ!」
 霊夢はレミリアの手を振り払い、お払い棒を振りかざす。それを見てレミリアは、その顔から足にこだわる表情を消した。後に残ったのは不敵な笑み。
 その不気味さに純粋巫女の霊夢は奇妙な怖気を感じ、ひるむ。
「そう。では、決着をつけましょうか」
 そう唇を震わせると、レミリアは対峙する者にプレッシャーを与える緩慢な動作で、ゆらりと腰を落とし――座布団の上に正座した。
「……何のつもり?」
 怪訝そうに巫女が問う。
「言ったじゃない。決着を付けましょう。勝負を途中で投げ出すのは好きじゃないのよ」
「いや、将棋で決着をつけても……」
「やるの!? やらないの!?」
 レミリアのあまりの形相に負けて、霊夢は結局座布団に座っていた。
 それを見て取ったレミリアは、にやりと笑む。
「ふふふ……じゃあ私のターンね。私はさっき取ったこの王将を使うわ!」
「な……! ならばこちらも玉将を使わざるを得ない!」
「ふふふふふ……!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
 無論、決着はつかなかった。


 ――永遠亭。
「永琳」
 竹林の中にたたずむ兎たちの隠れ家。ここにも、魔理沙の魔の手が――
「わらわは退屈じゃ」
「!?」
 既に伸びていた。
 永遠の無職姫、蓬莱山輝夜の口調の変化に、その従者、八意永琳は腰を抜かした。
「何か面白いことはないものかのう」
「ひ、姫が、姫がいかにもな姫に! こ、これはまさや、悪夢の粉末ミタメドーリ!」
 まさやとは『まさか』と『もしや』を組み合わせた永琳謹製のまったく新しい造語である。さぁ、皆もレッツまさや。
 ……ではなく、さすがに蓬莱の薬屋さん。ミタメドーリの効能を一発で看過した。
「ミタメドーリ? メタミドホスの仲間ですか? 響き的に似てる気がしますけど」
 だが、そばにいた永琳の助手、鈴仙・優曇華院・イナバはその意を理解することはかなわず、その問いを口にする。
「確かになんか似てる気もするけど全然違うわ。これはミタメドーリ。振り掛けられたものを見た目どおりに変えてしまう恐ろしい粉末よ。たとえば貴女がかけられたら、いかにもウサ耳女子高生みたいな性格にされてしまうわ」
「どんな性格ですかそれ」
 鈴仙は苦笑した。
「まぁ、ミタメドーリは効果がきつい割に効果時間は短いから、あまり気にすることはないのかもしれないけど、一体何回振りかけられたのか……そして犯人は誰なのか……」
 考える永琳の服のすそを、輝夜がちょいちょいと引っ張る。
「のう永琳や。わらわは合戦が見たいぞえ」
「合戦が見たいってどこの暗君ですか! そんな殺伐とした目的に永遠亭の兎たちは――」
「合戦を見せてくれたら好きな褒美をとらせるぞよ」
 その言葉に永琳の耳がピクリと動く。そして、おずおずと聞きだした。
「そ、その褒美というのは、姫から何かしてもらえるというのでも良いのでしょうか……」
「おお、よいぞよいぞ」
「お任せください姫。不肖、八意永琳、姫のためなら『海道一の弓取り』と呼ばれるほどの腕前を振るって見せましょうぞ」
「何言ってんですか! 何が目的なんですか師匠!? それに海道一の弓取りじゃ死亡フラグですよ!」
 どこから取り出したのか日本鎧を着込もうとする永琳を、鈴仙は必死で諌めとどめる。輝夜だけならともかく永琳までグルになられたら本当に洒落にならない。
「離しなさいウドンゲ! 女には、やらなきゃならない時があるのよ!」
「それは確実に今じゃありませんって! ミタメドーリを撒いた犯人を捜すのが先決なんじゃないんですか!?」
 はたと気づいたときには、永琳はもう武者姿。
 月の頭脳は考える。仮に自分にミタメドーリを使用したとすれば、以前のナース姿では大した変化は望めないだろう。
 だとすれば、犯人が考えることがあるとすれば。それは――
「自分を、着替えさせるだろう――!」
「その通りだ」
 突如、天井から降ってくる声。上を向いて見たのは、天井裏に潜みながら怪しげな小瓶を振り、今にも粉末をこちらにふりかけんとする魔理沙だった。
「し、しまっ……!」
 降り注ぐ悪夢の粉末。これまでかと覚悟を決める永琳を、黒い影が覆った。
「ウ、ウドンゲ!」
 鈴仙は永琳の頭上に飛び上がり、悪夢の粉末をすべてその身に受け切った。そして、ドウっと力なく廊下に落ちる。
「……命拾いしたな」
 魔理沙は天井裏を閉め、いずこかへと気配を消した。しかし今は追っている場合ではない。
「ウドンゲ! あなたなんて無茶を……」
「ふふ、師匠、大丈夫ですか……ううっ!」
「ウドンゲ!」
 鈴仙は突如体を震わせ、数秒静かに横たわっていたが、にわかにすっくと体を起こし、立つ。
「いやー、意外と大丈夫って感じ~みたいな~だぴょん♪」
「うっわ、ウザッ!」
 鈴仙はあえなく『いかにもウサ耳女子高生みたいな性格』にされてしまった。しかも幻想入りした言語しか使えないため、古い。
「あー、身を挺して守った弟子にそんなこと言う~? チョベリバ~だぴょん♪」
「ああ、もう! 取って付けたような『だぴょん』がムカつくわ!」
「のう永琳。合戦はどうなったのじゃ?」
「あぁ、忘れてた! もう、姫はこんなだしウドンゲもこんなだし、私はいったいどうすれば……ええい考えるのよ月の頭脳――」
 永琳が頭を抱えたそのとき、玄関が叩かれる音がした。こんなときになんだ――と永琳は愚痴りながら、心のどこかでは答えの出ない思考から逃れられたことを喜んでもいた。
「どちらさまでしょうか」
 と永琳が戸を開けると。
「あら……」
「あやや……」
「うーむ……」
 そこに立っていたのは、香霖堂の店主、森近霖之助と、天狗の新聞記者、射命丸文であった。文はともかく、霖之助にいたってはフンドシ一丁だ。何があったの言うのだろう。
「永琳さんも鎧武者になっちゃってますね……」
「一足遅かったか……」
「あ、いや、これはね!」
 そして、それが人事ではなかったことを今更気づく月の頭脳なのであった。


「さて、つまり、この事件の発端はあなたが発見したミタメドーリを魔理沙が持ち去ったことなのね?」
 輝夜には鈴仙と遊んでもらっていて、今だミタメドーリの影響を受けていない三人が、事件を整理し始めた。
 霖之助は永琳から服を貸与してもらっていたが、永琳はなぜかいまだ武者姿のままであった。
「ああ、それで僕は取り戻そうとしたんだが、不意を突かれて変態仮面にされてしまった……」
 ガックシとうなだれる霖之助の言葉を、文が継ぐ。
「そこで私と会ったのですよ。なんだか変質者だったのでつい打ち倒したら、霖之助さんだったのです。つい写真を連写してしまいました」
「それは公表しないと言う約束だからね……? それと引き換えにミタメドーリのことを話したんだから」
 霖之助は不安げに釘を刺した。
「あやややや、この清く正しい射命丸。誓ってこの写真は公表しませんよ。何せウチは超健全新聞ですから、こんな見苦しいものは載せられないのです」
「悪かったね見苦しくて」
 ともかく話を総合すると、文の発案で薬品に詳しい永琳のもとに避難してきたと言うことである。
 もっとも、元々効果時間の短いミタメドーリに特効薬などあるはずもなく、永琳に相談に来た最も大きい理由といえば。
「できればこれ以上無茶をやる前に魔理沙を捕まえたいんだが……」
 これに尽きるのである。
 しかし、これには永琳も渋い顔。
「うーん、倒すと言うならともかく、あのすばしこいのを捕まえると言うのは骨が折れそうね……」
 考え込む三人。
 だが、その時。ザッと背後のふすまが開き、声が響き渡った。

『その話、私たちも混ぜてもらおうか!』



 霧雨魔理沙は次はどこに行こうかと思案していた。
 そうだ、八雲家に行って藍や橙をいかにもな狐と猫にしてやってはどうだろうか。それは面白そうだ。
 その様を想像してほくそ笑むと、魔理沙はスピードを上げようとした。が、くわわーんというなんだか形容しがたい感覚が彼女を襲い――
「おお!?」
 霧雨魔理沙はバランスを崩した。
「波符『赤眼催眠(マインドシェイカー)』ってカンジーみたいなーだぴょん♪」
「くっ、イナバか!」
 特殊能力で姿を隠していたのか、やたら接尾語がうざい兎もといウザギがいきなり視界に入ってきた。
 一度崩したバランスを立て直すことは難しく、そのままキリモミ落下する。
 彼女にできたせめてものことは、落下の衝撃を和らげることだけだった。
「あいたたたた……ひどい目にあったぜ」
「そう、もっとひどい目にあいたくなければ、おとなしくミタメドーリを渡しなさい」
 びくっとして、魔理沙は視線を上げる。
 そこには、薙刀を持った武者永琳が至上の笑顔を浮かべて立っていた。その威圧感たるや、推して知るべし、である。
「す、すまなかった。もういたずらはやめる。だからさ、この場は見逃してくれないか?」
 魔理沙はいたずらをやめることはやぶさかではなかった。だが、このミタメドーリは自分の手元にどうしても置いておきたかったのである。
 理由はなんと言うこともない、蒐集家のサガだ。
「ダメよ。それはある意味危険なものだから、あなたの手に置いておきたくない」
「ちっ」
 魔理沙は舌打ちすると、隙をうかがって逃げ出そうと後ろを振り向いた。
「聞いたよ! チルノをあんなにしたのはあんたなんだってね!」
「私を謀るとは不遜な奴だ。成敗してくれようか」
「リグルに……霊夢か……」
 それだけではなかった。
「悪ふざけもそこまでにしてくれよ」
「合戦じゃー! 魔理沙を討ち取るのじゃー!」
 右に霖之助と輝夜が。
「あなたのせいで世にも恐ろしい千日手を味わったわ!」
「いやそれは私のせいじゃないだろ!」
 左にレミリアが。
「私としては別にどうでもいいんだけれど」
「スクープいただいちゃいますよー!」
 上空にチルノと文が。
 魔理沙包囲網が、完成していた。
「あなたは少しいたずらの報いを受ける義務がある。逃げることは出来ないわ」
 永琳の言葉に、魔理沙はがくりとひざをついた。
「観念するのね。……?」
 永琳は魔理沙の様子がおかしいことに気づいた。そう、魔理沙は自分の体を影にして、注射器を取り出していたのである。
「何をする気!?」
「数えきれないキノコ・薬物を精密なバランスで配合し、特殊な味付けを施して煮込むこと七日七晩! 血液や尿からは決して検出されず、なおかつ全てのキノコの効果も数倍、血管から注入(たべ)る事でさらに数倍!! これが!」
 そうして魔理沙は、注射器を自らの腕に尽き立てた。みるみる魔理沙に不思議な力がくわわるくわわる!!
 見る間に魔理沙は、世にも恐ろしい八頭身の体へと進化を遂げた……!
「ドーピングキノコスープだ……さぁ諸君、私が逃げるのを止められるかな……?」
 その圧倒的な威圧感に、一同圧倒され、呆然としていた。
「お、おのれ面妖なー!」
 だが、純粋巫女霊夢がいち早く立ち直り、封魔針を投げつける。
「遅いぜ」
 だが、その針をこともなげによける魔理沙。どうやら、体に似合わず強化されたのはスピードのようだ。
 はずれた封魔針は永琳をかすめていく。
「しまった、これでは包囲網は自分の首を絞めるだけ! 各自、なるべく近距離武器で戦うのよ!」
「といってもこのスピード相手じゃ弾幕でもないと!」
 レミリアがスピア・ザ・グングニルを手に攻撃を試みるも、やはり妙な動きでかわされてしまう。
「月眼『月兎遠隔催眠術(テレメスメリズム)』だっぴょーん♪ みたいな」
 幻覚の中から鈴仙が現れ、魔理沙に催眠による制止をかけようとする。が。
「既にハイになった私にッ! そんなものは効かないぜっ!」
 幻視をものともしない魔理沙のタックルを受け、ゴシカァンと妙な音を立てて跳ね飛ばされる鈴仙。
「なにをしておるのじゃー!」
「こっち側が非戦闘員すぎる……」
 魔理沙は守りの薄い輝夜、香霖コンビを狙おうとしていた。しかし、それを黙って見過ごすほど月の頭脳は暢気ではない。
「姫は私が守る!」
 甲冑に身を包んだ永琳が、魔理沙の眼前に立ちはだかる。その覚悟をすえた瞳と蓬莱の不死身さを考えれば、戦うのは分が悪いかもしれない。
 そう一瞬躊躇した魔理沙の周りに、氷の弾幕が降り注いだ。
「氷符『アイシクルフォール‐Easy‐』――」
 その言葉を聞き届け、魔理沙はにやっと笑う。
「ふふっ、バカがいて助かったぜ。私に道を作ってくれた!」
 アイシクルフォールの弾幕で、他の者は手が出せない。そしてこの氷の道は、出口のチルノまで一直線。おあつらえ向きの氷の道だ。
 躊躇なく魔理沙は地面を蹴り、強化した魔力で箒に乗る。そのままチルノを突っ切る!
 だが、チルノは、表情を変えなかった。
「……私を、バカといったか? わざわざ‐Easy‐の弾幕を張った意図にも気づけぬお前が?」
 その言葉に、魔理沙ははっとなる。だが、魔理沙は急に止まれない。
「アイシクルフォール‐Easy‐は完璧な弱点のある弾幕だ。誰もがその弱点を突かずにはいられないほどの。だからこそ。相手の動きは手に取るように制御できる。私の前に、あなたは来る」
 魔理沙がチルノの眼前まで来たとき、チルノは弾幕の放出をやめた。
 最後に来るのは、さらに上空。射命丸文の、一撃。
「『無双風神』!」
 幻想郷最速の体当たり直下を喰らい――
 霧雨魔理沙は、ついに沈黙した。


「さて、ミタメドーリも取り返したし、この残り分量だと、みんなのミタメドーリの効果ももうすぐ切れるでしょう」
「さて、お次はどうお灸をすえてやるか、だが」
 永琳と香霖はミタメドーリをチェックすると、くるりと縛られている魔理沙に向き直った。
「だ、だから、な? 謝っているじゃないか。すまなかったって」
「口先だけの謝罪など、何の意味があるものか。私は言ったはずよ。あなたは少しいたずらの報いを受ける義務がある、とね。では最初の被害者である霖之助さん、どうぞ」
 八意永琳は笑んで言い、森近霖之助に判決を委譲した。……武者姿で。
「もちろん、君にもこのミタメドーリを味わってもらうよ。自分の嫌がることは人にやっちゃいけない。基本中の基本だな」
「や、やめろ、やめてくれ……」
 おびえる魔理沙。だが霖之助は情をはさまず、たっぷり一日分くらいはミタメドーリを振りかけた。
「う、うう……うああ……」
 魔理沙の縄を解くと、彼女はぐっと立ち上がった。
「魔法少女きりさめ☆まりさ! 華麗にさんじょーう!」
 永琳と香霖の色が抜け、アホウドリが鳴く中、魔理沙はミルキーウェイを背景にポーズを決めていた。
 射命丸のカメラの音が、ぱしゃっとむなしく鳴った。
「はっ、誰かが私を呼んでいる気がするわ! 助けにいかないと! それが魔法少女の使命だものね、うふふ☆ そーれ、ばっびゅーん!」
 そうしてきりさめ☆まりさはいずこかへと飛んでいった。またぱしゃっと射命丸のカメラの音がむなしく鳴った。
「何か……今時見ないタイプのいかにもな魔法使いだったな」
「ええ、何か……あの子が大人になったとき、このことを思い返してどう思うのか心配になってくるくらいの……」
 永琳と香霖は、ミタメドーリは本当に悪夢の粉末だったと深く心に刻み、それをフジヤマヴォルケイノに放り込んで、焼いた。


 そして魔理沙は翌日の文々。新聞を見て、三日寝込んだ。

 ミタメドーリの幻想郷 ――fin
どうも、ナルスフです。
今回は前回で掴んだギャグの流れを生かしつつ幻想郷的な雰囲気との統合を目指しましたが、なんだか失敗して変なことになったような気がします。でもへこたれない。

角を矯めて牛を殺すということわざがあります。
わずかな欠点を直そうとして、すべてを駄目にしてしまうこと。という意味です。
幻想郷を見た目どおりに修正したらとんでもないことになるのですね。
幻想郷では常識にとらわれては(ry

単に魔理沙がのびたくんよろしく道具でいたずらするSSを書きたかったのですが、
オチつけるためになんだか魔理沙が悪役になっちゃったような気がします。魔理沙、ごめんね。

ともあれ、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
あと、霊夢、鈴仙、ほか色々とごめn(ry
ナルスフ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3050簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
よもやの武者えーりん復活に加えD.K.S.だとぉ!?
キーボードがゴシカァンだよっ!!
8.90名前が無い程度の能力削除
こ れ は 酷いw
9.100能力が無い程度の名前削除
ツッコミが追いつかないですね。とても良い作品でした。
ところで、香霖の被ったパンツは魔理沙のか?魔理沙のなのか!?
21.80名前が無い程度の能力削除
細かい部分ですが、こーりんの能力は物の使い方まではわからなかったはずかと…(「ふりかけて使う」)
しかし話の流れにのまれてしまって、気にせずに楽しめました。
24.100名前が無い程度の能力削除
>「よかった! バカだ! さぁチルノ一緒にあそぼう!」
不覚にもここでワロタ
29.100名前が無い程度の能力削除
これはいいwwwww
30.100名前が無い程度の能力削除
おもしろwwww
久々にまともなギャグ見たwwww
39.90名前が無い程度の能力削除
道具を悪用すると最後は自分が酷い目に遭うという、ドラ○もんのお約束的なオチは読めてたけど、
いろいろな小ネタで十分に楽しめました。
特に足の臭いを気にするレミリアがよかった
43.100名前が無い程度の能力削除
アンチこーりんが多い中、程よい感じでよかったです
話もとてもおもしろかった。
49.90名前が無い程度の能力削除
あ~。うん。
勢いに完全に打ち負かされたwww
ほんとに悪夢の粉末だな、ミタメドーリwww
50.90神谷削除
確かに氷精はクールなイメージかも。
鈴仙も予想外だけどぴょんですよね。
発想の勝利!
60.80名前が無い程度の能力削除
リグルひでえな~
62.100名前が無い程度の能力削除
どうしてこうなったwww
67.80Admiral削除
武者えーりんw
78.100名前が無い程度の能力削除
ドーピングwwwwキノコwwwwスープwwwww