Coolier - 新生・東方創想話

蛍火

2009/05/07 05:31:39
最終更新
サイズ
3.19KB
ページ数
1
閲覧数
1028
評価数
2/15
POINT
750
Rate
9.69

分類タグ


歌が、聞こえる。


私は目を覚ます。湿気がじとりと肌にまとわり着く、夏の夜である。


それは、鎮魂歌のようであった。けれど、西洋式の壮大なそれではなく、郷土的な、子守唄の感がある、寂しくも美しい音だった。


蛍の火が、ゆらゆらと揺れる。合わせるように、歌もゆらゆらと、まるで空に音源があるかのように、遠くなり、近くなり、けれど絶える事はなく続く。


あやかしの仕業だろう、と私は判断した。何の力も持たぬ、ただの人間である私は、その時まで、あやかしは恐るべきものと規定していた。


なのに、何故だろうか。


ふと気がつくと、私は寝巻きのまま、草履を履き、歌が聞こえる方へと歩き出していた。歌は家屋から程近い沼から聞こえてくる。


歌の効果、ではない。歌で人を惑わせ、襲い、喰らうあやかしも居ると聞くが、私は全く正気で居るのだから、これは違うのだと断ぜられる。


私は何故か、歌っているあやかしを見てみたいと思ったのだ。


やがて歌の意味が判然としてくる。


蛍へ向けた、鎮魂歌であった。


まるで、歌い手自身が蛍であるかの如く、万感の思いが込められているのが分かる。哀しみと優しさが同居した歌だった。


そして私は、歌い手である彼女の姿を目にすると、その意味を理解した。


彼女は、蛍の妖怪であったのだ。


一つ、光り、一つ、消え、その蛍の光を、優しい目で見つめながら、彼女は歌っている。


空には五分の月が、やや西の方へと傾きつつあり、薄い雲がその光を朧としている。けれど、私は彼女の姿をはっきりと見る事が出来る。


蛍の火が彼女を照らしているのだ。


-幻想、と。


言わずして、何と言おうか。舞うように、ゆらゆらと、彼女は歌う。蛍たちへの鎮魂歌を。


蛍たちは、そんな彼女の周りに集まり、彼女を照らす。ゆらゆら、ゆらゆらと、光が踊り、消え、空へと昇り、降り、それを繰り返す。


歌は区切りがついたようで、彼女は蛍の火から離れ、私の方へと飛んできた。


あやかしは、恐るべきものである。つい先刻、目が覚めるまではそう思っていたのに、私は彼女を待った。


「蛍はね」


と、私の隣に腰を下ろした彼女は口を開いた。


「すごく、弱いんだ」


自嘲するように、寂しそうな笑みでそう言った。


「なのにね、自分の命を燃やして、火を出すの」


だから、あれほど美しいのだろう、と私のような人間は思う。だが、蛍のあやかしである彼女は違う思いを抱いているようであった。


「…馬鹿、みたいだよね。私みたいに長生きして、力を持てば、もっとずっと生きられるのに。でも、それでも」


それでも、と言葉を詰まらせる。


「あの子たちは、それで良いと思ってる。…ごめん、自分でも何が言いたいのか分からない」


なんとなく、彼女がどんな気持ちなのか、私には理解出来た。


彼女も、そうしてしまいたかったのかも知れない。命を燃やして、たった数週間の命を生きて、それで御仕舞にしてしまいたかったのかも知れない。


だから、こんなに哀しそうなのだろう。


それでも、と私は口を開く。


君は、歌っていたじゃないか、と。


-彼女がもし、あやかしとならなかったなら。


誰が彼らを弔うのだろう。鳥も獣も、人間も、誰も弔いはしない。人間は感傷を抱くが、それで終わりだ。


だから、もし自分が居る理由が曖昧となって、不安になっているなら。


それが理由だと思えば良い、と私は告げた。


そっか、と蛍のあやかしは、小さく呟いた。


そして彼女は、立ち上がると、静かに浮かび、空へと飛び上がって行った。


歌が再び始まる。蛍を弔う歌が、先刻よりも少しだけ明瞭となった歌声で。


私はしばらくその光景を眺め、やがて月が更に西に傾いたのを見つけると、これ以上彼女たちの邪魔をせぬよう、静かに、幻想へと背を向け、歩き始めた。
伊鳥、伊鳥、ああ、伊鳥!最高だ、お前は最高だ!(三○由紀夫(cv北都南様)が治めた東京の方言でこんにちはの意味)

最後までお付き合い下さり有難う御座いました。
初めましての方は初めまして、そうでない方は東方急行に乗ってイングランドの方へ向かう自分のSSをまた手にとって下さり有難う御座います。

今度は幻想にちょっと触れて帰ってくる人のお話でした。リグルって光らないんですよね、と言うわけで理由付けをしてみました。まるで健康に気を配って長生きしたら妖怪になってたと言う何処ぞの詐欺兎みたいな理由。
あと作中に出てくる人物の性別は想像にお任せします。やめてやめておい婆さんその水飲んでみろとか無理強いしないで。


今回は改行で読みやすくする試みも。ちょっと読みやすくなった気がします。


紅魔アローン2構想中でアホアホワールドに浸りっぱなしの反動か、シリアス物が急に書きたくなったので、珍しく二作連続でシリアス短編でした。しかも妙にシリアス物書いてる時だけ効率がよかったり。これはきっと逃避エネルギーが関係しているに違いないです。

タイトルの蛍火は、刃鳴散らすのEDから。歌のイメージも勿論それ。知っている方が居ましたら同時再生でリグルが歌ってると脳内変換してくれるとちょっと嬉しいです。

という訳で、また機会がありましたら次も読んでいただけると嬉しいです。
そして気がついたらこんな時間。ゆっくりした結果がry

※一箇所頭痛が痛かったので修正しました。


なんとなくブログ始めました。リンクにぺたり。
目玉紳士
[email protected]
http://medamasinsi.blog58.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.570簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
本文と後書きのギャップがww
何このヒラコー節ww
6.100名前が無い程度の能力削除
>紅魔アローン2構想中
その話詳しくッ!!