Coolier - 新生・東方創想話

小さな、とても小さな命蓮寺の賢将

2011/02/17 22:49:31
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あら、こんばんわ。
私の名前は『雲居一輪』。
相棒である入道『雲山』と意志の疎通が可能であり、飛行型変形幽霊船『聖輦船』のメンバーでもあり、そして人里に建つ『命蓮寺』の代表である『聖白蓮』のサポートなどもこなしているわ。

つまり、私は尼僧なのよ。
肩書きが多いので鬱陶しいかもしれないけど、事実なので勘弁してね。



で、夜の命蓮寺。
今は夕飯の時間なので、皆モソモソと食事を口に運んでいる。
姐さんは黙って食事を口にしている。
星は黙って食事を口にしている。
水蜜は黙って食事を口にしている。
ぬえは黙って食事を口にしている。
そして私は。
やっぱし黙って食事を口にしている。
5人とも何事も発せず淡々と食事をしている。

ちょっと、そこの貴方。
行儀がいいわね、だなんて言うつもり?

まぁ、客観的に見たらそうかもね。
でもね。
私個人としては、胃に穴が開きそうよ。
普段なら、もう少し賑やかなのよ。
主に、水蜜とぬえが喋るから。
なのに、この沈黙。
いや、空気が重い、と言った方がいいかもね。
皆の表情は何処か浮かない。
星に至っては、死んだ魚のような目をしている。
原因は分かっている。
どれもこれも、全部アイツの所為だ。
もう貴方たちも気付いているかもね。

そう。
ナズーリンが、いない。



◇ ◇ ◇



夕飯が終わった。
いつもなら後片付けをして、それぞれが思い思いの時間を過ごすのだが。
流石に今日は、誰一人としてその場を立ち上がらない。

数分の沈黙。

それを破ったのは。
「・・・う、うぇえ、ぐすっ」
嗚咽の混じった、星の声だった。
グスグスと泣き始める星。
「ふぇえん、なず・・・なずー、りん・・・」
ちょっと。
みっともない声出さないの。
貴方、仮にも毘沙門天代理でしょ。
しっかりした態度でいないと、他の者に示しがつかないでしょうが。
「・・・、・・うぅ」
あぁ、ほら。
今度はぬえまで泣き始めたじゃない。
全く、この2人はナズーリンのことになると余裕が無くなるんだから。
「・・・なず、なず、なずぅ」
って、水蜜!?
貴方までなんて顔してるのよ!
「・・・ナズちゃん」
ね、姐さんまで!?
あぁ、もう!
ここは葬式場か何かか!

ちょ、ちょっと。
やめなさいよ、みんな。
「あぁ、もう!みんなして沈痛な表情しないの!」

全く。
こんな事態になるだなんて話に無かったわよ、あのネズミは。

え?
ナズーリン、死んじゃったのって?
言っとくけど、次そんな不吉な事言ったら雲山と一緒にボコるわよ?
そうね。
まずは、事の成り行きから話さないといけないわね。




◇ ◇ ◇




朝の命蓮寺。
いつものように皆で朝食をいただいていた。
姐さんはにこやかに食事を口にしている。
星はおいしそうに食事を口にしている。
水蜜は朝から元気よく食事を口にしている。
ぬえは今日は何処其処に行くなどと言いながら食事を口にしている。
そして私は。
いつも通りにゆっくりと行儀よく食事を口にしている。

ただ。
浮かない顔をして食事を口にしているのが一人。

「ん?どうかしたのですか、ナズーリン。あまり食が進んでいないように思えるのですが」
ナズーリンの隣に座っていた星が、動かしていた箸を置き心配そうに顔を覗かせる。
その一言に、皆が一斉にナズーリンに目を向ける。
確かにおかしいわね。
このネズミ、体格の割には結構な量を食べる。
普段の寺での食事は普通くらいだが。
以前に一緒に大食いに参加したときに、その食べっぷりは目の当たりにしている。
当然、朝だからといってその食欲が衰えるところを見たことはないのに。
「あ、あれ?もしかして味付けに失敗した?」
「そんなことないよ。これ、いつものムラムラの味付けだもん」
不安そうに尋ねてくる今日の食事当番の水蜜。
そんなちょっと不安そうな顔をしている水蜜に対して答えるのはぬえ。
ぬえの言う通り。
別にいつも通りの美味しさよ、水蜜。
そんな水蜜の声にハッとするように反応したナズーリンは。
「い、いや。ぬえの言う通りだ。美味しいよ、船長」
言葉に嘘は見られない。
でも、表情はどこかぎこちない。
そんなナズーリンに皆が心配そうに見つめるなか。
「ナズちゃん。何か悩み事でもあるの?」
その一言にピクッと一瞬動きを止める。
だが、すぐに。
「大丈夫だよ、聖。私はなんとも・・・」
「も、もしかして何処か体調が優れないとか!?それなら直ぐにでも医者に」
「様子が変よ、ナズーリン」
「もしかして、お腹壊しちゃった?」
星、水蜜、ぬえが続くように話しかける。
「だ、大丈夫だよ。実は昨晩遅くまで書物を読んでいてね。その所為か眠くて眠くて」
「ナズーリン」
皆に心配かけまいとする態度は立派なのか、そうでないのか。
ただ、このネズミが何かしら迷っているのは事実。
「やめなさい、隠し事は。言いたいことがあるのなら言うべきよ」
私の発言に、顔を伏せるナズーリン。
ほら、やっぱり。
普段のクールな貴方でさえ隠し通せないくらい思い込んだ顔してるわよ?
そんな事を考えながら普段通りに箸を動かす私。

しかし。
次に発したナズーリンの言葉は、流石の私も箸を止めざるを得なかった。



「・・・寺を、出ようかと思っているんだ」



全員が、箸と茶碗を落とした。
腹立たしいけど、私自身も含めて。

全員が唖然とする中。
流石に自分の発言に慌てたナズーリンが弁解をし始めた。
「い、いや、違う!皆が思っているようなことじゃなくて・・・!」
だが、もう遅い。
「で、で、出ていくって!?何か、何か私に至らないことがありましたか!?もしかして、私が毎回うっかりミスをすることですか!?それなら直します!頑張って直しますから考え直してください!ナズーリンが・・・、ナズーリンがいなくなってしまったら私はどうやって生きていけばいいんですか!?」
「な、何?ナズーリン、そこまで思い詰めていたことがあったの?・・・待ってよ、それなら真っ先に私に相談しなさいよ!出ていくって・・・。寺を出ていくって・・・!」
「な、な、な、ナズナズ?え、私ナズナズに迷惑かけた?わた、私、そんなつもりこれっぽっちも・・・!」
「な、ナズちゃん。何か私たちに不満があったの?それなら言って。ナズちゃんのためなら私たちはいくらでも努力するから・・・!」
もはや全員がパニック状態。
突然のナズーリンの衝撃発言に真っ青になっている。
私だって、一瞬思考が停止した。
だが。
「お、落ち着きなさい皆。ナズーリンの発言にはまだ続きがあるみたいよ」
あぁ、もう!
ちょっとどもったじゃないのよ!
直ぐに冷静になった私の発言に、皆がピタリと動きを止める。

ナズーリンによる説明を要約すると、こうだ。
最近、ダウザーとしての能力が低下していると感じているとのこと。
自分の最大の長所である探し物稼業に支障が出たら寺の皆にも迷惑がかかると。
だから、暫く寺を離れて修行をしたいと。
なんでも、感覚を研ぎ澄ますには自然に囲まれた場所で集中したいと。

まぁ、そういうことなら仕方ないわね。
自分の長所が生かせなくなってしまったら、誰だって焦るだろう。
だが。
「そ、そんな幾らダウジングの能力が下がったって誰も迷惑だなんて思いませんよ!ちょっと疲れているだけですよ。休みましょう、そうです、休んだら気分だって切り替わって調子も良くなりますよ!なにも、私から離れることなんて」
「ご主人様、ありがとう。でもね、自身の長所で衰えている所があるとなれば時には厳しい選択も必要だろ?もし、ご主人様が私の立場だったら迷わずにこういう選択をしていたはずさ」
ぐっ、と押し黙ってしまう星。
ナズーリンが関わると突拍子もない態度に出るが、基本的に自分に厳しい真面目な性格をしているからだろう。
そんな風に言われると流石に言い返しづらいみたいね。
「それなら仕方ありませんね。ここはナズちゃんの好きなようにさせてあげましょう。皆さんもそれでいいわよね」
姐さんの一言に反対するものは無し。
当然、私だって反対する理由はない。
そんな皆を見渡したナズーリンは。
「ありがとう」
ようやく、小さな笑みを漏らした。



「で、どのくらいの期間寺を空ける予定にしているの?」
ようやく落ち着きを取り戻した居間で、私が尋ねてみた。
ナズーリンは少し悩んだ素振りを見せたあと。
「そうだね、1週間くらいはかかると思うよ」
いっ、と思わず声に出してしまいそうになったのは星。
だが、何かを耐えるかのように口を閉じる。
全く。
1週間くらい我慢してちょうだいよ、星?
「1週間ね。まあそのくらいなら寺の業務とかにも支障はでないわね」
「頑張ってね~、ナズナズ」
さっきとはうって変わってにこやかに喋りかけてきた水蜜とぬえに、礼と共に頭を下げるナズーリン。
そして。
「ナズちゃん。無理だけはしちゃダメよ?辛くなったらいつでも帰ってきたらいいんですからね」
「まぁ、悩みすぎないようにね」
姐さんと私が声を掛ける。
再び、礼と共に頭を下げるナズーリン。
ま、精々頑張りなさい。



こうして、ナズーリンは寺を出た。
当然のことながら、なずりんたちも全員連れていった。
定期的になずりんたちを使って連絡を入れるようにするらしい。
それなら、寺の皆も安心するでしょう。
寺の入り口まで見送りに来た私たちに対して、手を振りながら歩いていくナズーリン。



それが、1ヶ月前の話。



◇ ◇ ◇



おかしい。
流石にこれはおかしい。
最初の頃は「大丈夫だ、問題ない」という文面の手紙が2、3日に1回は送られてきた。
ただ。
1週間を過ぎた辺りから、送られてくるペースが減った。
相変わらず「大丈夫だ、問題ない」と、コピーでもしてるんじゃないかといった文面。
その時は、ちょっとくらい予定より遅くなることもあるわよね、と思っていた。
そして、3週間目に入ったころ。
ぱったりと連絡が途絶えた。
そして、今日でちょうど1ヶ月。
少し前から、もはや限界といった感じの星を筆頭にナズーリンの捜索を行っている寺の面々。
だが。
これといって、全く足取りがつかめなかった。
私たちはナズーリンと違って探し物が得意なわけではない。
手掛かりも何もない状態では探しようがない。
こんなことなら、拠点の正確な場所を聞いておけばよかったわ。
せめて、なずりんだけでも寺に戻ってくれれば場所を案内してもらえるのだけど。

で、寺はこの有様である。
寺の業務こそしっかりこなしているものの、その目にはほとんど生気がない姐さんと星。
連日捜索に行っては、しょんぼりとして帰ってくる水蜜とぬえ。
皆が集う食事の席には、いつもひとつだけ空席。
重たい空気。
これじゃあ、折角のご飯だって美味しいとは感じられない。
本当に、あの馬鹿ネズミは。
一体何様のつもりよ。
出発前に無理だけはするなと釘を刺しておいたっていうのに。
全部、あのネズミの所為だ。

結局。
なんだかんだ文句を連ねても、ナズーリンのことで頭がいっぱいになっている自分に対して一層腹立たしく感じているのは事実だった。



◇ ◇ ◇



夕食後、それぞれが自室に戻る。
いつもなら、読み物をするなどして就寝までの時間を過ごすのだが。
今日はもう寝よう。
こんな重たい気分では何もする気が起きない。
寝巻に着替えたあと、布団を敷き、明かりを消す。
目を瞑る。
すると、漆黒の闇に浮かんでくるのは、あのネズミの姿。
辛そうに、ただ一人たたずんでいる。
あぁ、もう!
なんで睡眠まで妨害してくるのよ、あのネズミは!
イライラしながらガバッと頭から布団を被り、なるべく何も考えないようにしようとする。
でも、そうすればするほど、鮮明に浮かんでくるネズミの姿。
私は、あーだのうーだの呻きながら中々寝つけずにいた。
何度も寝返りをうちながら、一向に落ち着かない。
そうやって必死に追いやっていた。
自分の頭の中の、嫌な考えを。

そんなことを繰り返しているうちに。
私は、いつのまにか眠りについていた。



◆ ◆ ◆



・・・。
・・。
今は、何時くらいかしら?
私は薄らと目を開けた。
あら?
布団の横に、誰かが立っている。
首を少し横に向ける。
よく見えない。
でも、そのぼんやりと浮かび上がってきたシルエットには見覚えがある。
小柄な体格。
ひょろっと長い細い尻尾。
特徴的な真ん丸な耳。
・・・この馬鹿ネズミ。
ようやく帰ってきたのね。
星の所には、皆の所にはもう行ったの?
散々心配かけておいて、弁明の一つでもあるんでしょうね。
口には出ない言葉を、その影に投げかける。
すると。
小さく、そして一言。
その影は口を動かした。

さ よ う な ら

少しずつ遠くに離れていく影。
ま、待ちなさい!
なによ、それ!?
散々皆に心配かけておいて今更何を言い出すのよ!
まるで、もう二度と帰ってこないみたいに。
ただでさえ寺の業務が忙しい上に、最近では皆元気が無いっていうのに。
必死に声を出そうと、必死に身体を起こそうとしても、全く動かない。
その間に、どんどん離れて行って小さくなっていく影。
待ちなさい・・・。
待って・・・。
お願い、待って・・・!
お願い、置いていかないで・・・!
いなくなっちゃ嫌だ!

な、ず------------------------



◆ ◆ ◆



覚醒する。
大きく目を開き、ガバッと急いで起き上がる。
体は汗でぐっしょりとなり、心臓がバクバクと音を立てている。
慌てて部屋中を見渡す。
誰もいない。
襖の隙間から、薄らと明かりが漏れる。
日が昇り始めたころの時間帯か。
それよりも。
私は着替えもせずに自分の部屋を出て、急ぎ足で向かう。
もちろん、ナズーリンの部屋へ。
まだ若干混乱しているのだろうか。
先ほどのが夢か現実かも区別がついていない。
ただ、一心に目的の部屋に向かった。
そして、ナズーリンの部屋の前。
私はノックも声も掛けずに急いで襖を開ける。

暗い部屋の中。
当然、誰もいなかった。
それでも、部屋の中に入り、辺りを見渡す。
やっぱし誰もいない。

体から力が抜ける。
その場に座り込み、顔も上げれずに俯く。
畳の上に着いた手の甲に何か冷たいものが落ちる。
それが一体何なのかも判断できないくらい、頭の中は真っ白になっていた。
徐々に、その量を増やしていく冷たい何か。
いま自分がどんな顔をしているのかも分からない。
ただ、目の前に突き付けられている現実を今更になって実感している自分の馬鹿さ加減だけは分かった。

その時。
部屋の隅で何かが動いた音がした。

頭を上げ、そちらを見た。
小さなシルエット。
大きさにして、ねんどろいどよりも少し大きいくらいか。
目を擦り、よく見てみたら。
それは、随分と長く見ていなかった姿だった。
背中に背負っているのはその体より少し大きいくらいのダウジングロッド。
アイツと全く同じ服装。
そして。
「なずっ!?」
こちらに気付かれたのに驚いたのだろう。
独特の鳴き声を上げる。
それはまさしく。
「な、なずりん!?」
そう。
つい1、2週間くらいから全く姿を現していなかったなずりんが一匹、そこにいたのであった。
私は急いでそちらへ駆け寄ると、なずりんをギュっと抱きしめた。
「全く・・・。今まで何処に行ってたのよ・・・」
当のなずりんは、少し困ったような表情と嬉しそうな表情を織り交ぜたかのような顔をしていた。
そして、その手には(なずりんにとっては)少し大き目な袋。
おそらく、こっそり何かを取りに帰って来てたのだろう。

何故コソコソしていたのか。
大方の理由は考えられる。
それでも。
「お願い。私を今すぐ貴方のご主人様の所に連れて行って」
それを聞いたなずりんは、自分でもどうしたらいいのか分からないといった表情をしていた。
「貴方が黙って戻ってきたのは、きっとご主人様の命令ね。理由は分からないけど、気付かれないようにって。それでも、お願いできないかしら。貴方だって、もしかしたら今のご主人様を放っておくことが出来ない状態だと思ってるんじゃないの?」
その言葉を聞いたなずりんは。
一瞬迷ったものの、私の目を見て。
「なずっ!」
コクリと頷いた。

私はなずりんを放すと、グッと立ち上がる。
急いで着替えてこよう。
待ってなさい、あの馬鹿ネズミ。
散々皆に心配かけたんだから、文句ぐらいは言わさせてもらうわよ。



◇ ◇ ◇



寺の皆に書置きすらせずに黙って出掛けてしまったことに気付いたのは、なずりんに案内された修行場所に着いてからだった。

す、少し焦りすぎたわね。

それはともかく。
目的地に着いた私は辺りを見渡す。
なんというか、これは凄い場所ね。
広大な敷地。
周りは木々に囲まれており、近くには川も流れている。
自給自足生活でもしていたのだろうか。
入口の近くには畑もあった。
奥に見えるのは滝。
・・・洞窟にトロッコ?
あの右の方に見える大きな看板みたいなのは何かしら?
何故だろうか。
どこかで見たことがある光景に首を傾げていると。
「なずっ!」
案内してくれたなずりんが一目散に駆け出す。
私も急いでその後を着いて行った。
その先にあったのは。
アレはキノコを栽培しているのかしら?
いや、それよりも。
そのすぐ前の惨状に唖然となる。
倒れているのは、大量のなずりんたち。
生きてはいるらしい。
ただ、体が思うように動かないのか、ピクピクと痙攣しているみたいだった。
そして、そのなずりんたちの中心。
同じように倒れている見覚えのある大きなネズミ。
「な、ナズーリン!?」
私は急いでその場に駆け寄る。
うつぶせになって倒れているナズーリンを抱き起す。
グッタリとしているその姿を見て全身の血の気が引くのを感じながら必死に揺さぶる。
「ちょっとナズーリン!一体どうしたっていうのよ!?」
私の叫び声にようやく気付いたのだろうか。
薄らと目を開けるナズーリン。
「い、ち・・・りん?な、なぜここに」
「それはともかく!一体どうしたっていうのよ!?」
まさか、強力な妖怪にでも襲撃にあったのだろうか。
すると、その弱々しい口から。
「ど・・・」
「ど?」
「ま、まちが、えて・・・、ど、毒キノ、コを」
「は?」
一瞬、コイツが何言ってるのか理解できなくなってたところに。
「なずっ!」
横にいた案内してくれたなずりんが抱えていた袋を差し出す。
中に入っていたのは、薬の類。
「い、いやぁ・・・。ま、さか、全員で、間違え、て、食べちゃったと・・・、ぐほぅっ!?」

私は、生まれて初めてこの大馬鹿ネズミをどついた。



◇ ◇ ◇



全員に薬を飲ませた。
幸い、大した毒ではなかったようだ。
なずりんたちも今ではぐっすりと眠っている。
そして。
「は、ははは・・・。すまない」
「すまない、の一言で済ますほど今の私は穏便じゃないわよ」
ジト目で目の前のネズミを睨み付ける。
ナズーリンも大分薬が効いてきたらしい。
今では、私の前で座って済まなそうにしている。
改めて、よくナズーリンを観察してみる。

憔悴しきった表情。
少しゲッソリしているみたいだ。
目の下にくまもできている。
若干虚ろな瞳。
耳が少しフニャっと垂れている。

これは、単に毒キノコに中っただけのものじゃなさそうね。
「酷い表情ね」
「そ、そうかい?そういう一輪。君もなんだか若干目が赤くなっているようn・・・、うぉうっ!?」
言い終わらないうちに、一発蹴りを入れる。
間一髪のところで避けるナズーリン。
「今の貴方に発言権は無いわ。大人しく私の質問に答えていればいいのよ」
「いや、発言権が無かったら質問にも答え・・・。いえ、何でもないです」
再び蹴りの体勢に入った私を見て、口を閉ざす。

さて、と。
「寺を出てから今までのこと。一から説明しなさい」
「あ、あぁ」
少し俯き加減になったナズーリンが、ボソボソと話し始める。
「一度修行に出たものの、やっぱし上手くいかなくてね。1週間経っても全く調子が上がらなくて。だからといって、寺を空けてまで出てきたのに成果がありませんでしたとも言いづらく。このままでは寺の皆にも合わす顔が無くて。それで少し延長して修行していたんだがね。やっぱし上手くいかなくて。お腹空いたから食料をダウジングで探してみたら金脈探り当てたり。チーズの木があるかもしれないと考えてダウジングしはじめたら巨大な大木の根元に突き刺さった剣を見つけたり。あと、迷子になってしまったから『星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる』という格言の元、夜空をダウジングしていたら銀色の円盤が飛んできてね。いきなり円盤から光が溢れたんだ。その光の中から3人のグレイ色の人物が現れたんだよ。初めは驚いたよ。だって、かっ○寿司が90え「はい、そこまで!」」
ダメだコイツ、早く何とかしないと。
ていうか、思いっきりスランプ状態を通り越して色々とダメになってしまっている。

ともかく、今のナズーリンにダウジングの類の話は避けた方がよいみたいだ。
「そ、それよりも。凄いわね、ここ。こんな立派な場所があったなんて」
私はとりあえず話題を変えることにした。
それを聞いたナズーリンは。
「ははっ、自分で作っておいて言うのもなんなんだが。結構な出来だろ?」
「作った!?」
作ったって。
この広大な場所を全部?
「いつ作ったのよ、こんな場所」
「ダウジングが一向に上手くいかなくてね。ちょっとムシャクシャし始めたから環境を変えてみようかと思ってね。多分2週間くらい前から」
なるほどね。
ムシャクシャしてやった、後悔はしていない、ってやつかしら。

いや、待てや。
2週間でここまでのものを作ったですって?
コイツ、ダウザーに行き詰って変な方向性の特技にでも目覚めたんじゃ。

色んな意味で心配している私をよそに、ナズーリンは説明を続ける。
「とりあえず『ナズーリン農場』と名付けてみたんだがね。畑で種とか色々植えたら収穫できるんだ。あと、そこの川に漁場も設けた。あ、畑の近くにあるのはハチミツやキノコを採れるように設置してね。そういや、初めて知ったよ。虫って調合したら色んなアイテムになるんだな。あ、そこの大きなボードかい?折角だからなずりんたちが修行できるスペースも作ったんだ。ネズミ拳法、ネズミ腹筋、ネズミ瞑想・・・。あ、他にも」
「全部まるパクリじゃないの!!?」

拙い。
修行に出た成果が全く違う次元のベクトルに進んでいる。
このまま放っておいたら、コイツはダウザーじゃなくてハンターになってしまう。
ダウジングロッドの代わりに背負うのは大剣。
あ、ここ幻想郷だから太刀のほうがいいのかしら?
って、そんなこと考えている場合じゃない。
私はナズーリンの腕を掴むとズリズリと引きずっていく。
「さ、帰るわよ。修行はおしまい。みんな心配しているわ」
それを聞いたナズーリンは真っ青な顔をして喚きはじめた。
「ま、待つんだ一輪!今日はこれからナズにゃん隊を編成して」
「だからヤメロと言ってるでしょうが!」
なによ、ネズミのくせして『にゃん』って。
ともかく。
今のナズーリンには休息が必要だ。
全く、今回ばかりは星の言うとおりにしておけば良かった。
このネズミに今必要なのは温かい食事と寝所だ。
「そ、そんな・・・。折角みんなで硬を使って採掘所まで作ったのに」
「そっちのハンター!?」
あぁ、もう頭が痛くなってきた。
ある意味寺で一番まともだったはずのナズーリンがおかしなキャラ作りに爆進中だ。
これ以上私のナズーリンが変になってしまう前に何としてでも寺に連れて帰らなくては。
それでも、必死に抵抗するナズーリン。
今にも泣きそうな顔で必死に訴える。



「私は、私は今帰っても役立たずだ!何の役にも立たない、ただの監視ネズミだ!それは嫌だ!それじゃあ私は寺の一員でなんていられない!ただ、皆の邪魔になるだけ・・・!」



そこで切れた。
私の中の『何か』がプッツリ切れた。
私はナズーリンに振り向くと、そのまま強く抱きしめた。

ギュっと、強く腕に力を込める。
このネズミが何を想ってそこまで寺の役に立ちたいと思っているかは知らない。
絶対離さないと言わんばかりに抱き寄せる。
何をそこまで怯えているのかも理解できない。
手をナズーリンの頭の後ろにまわし、自分の胸に押し付ける。
コイツが何か密かに重いものを背負わせているかもしれないとか、到底計り知れない。
そんな苦しみさえも気付いてあげられなくて、分かち合ってあげることもできない自分に今度こそ本気で腹が立つ。
それでも。
それでも私がしてあげれることはある。

「さぁ、帰りましょうナズーリン。皆が待っているわ」
抱きしめる力は強く。
でも、語りかける言葉は優しく。
ナズーリンから、力が抜けていくのが分かる。
きっと、どうしていいか分からないといった表情をしているんだろう。
だけど。
「・・・うん」
小さく、弱々しく頷いてくれた。



◇ ◇ ◇



後日談。

私は、勝手に何も言わずに一人でナズーリンの所に行ったということで、当分の間『ナズーリン禁止令』という良くわからない罰を受けることが『第219回命蓮寺ナズーリン会議』で決定された。

私なにか悪いことした!?
これ、ナズーリン支援になってないな(キリッ

第8回東方シリーズ人気投票。
まだ投票してない人もしている人も。
ぜひみんなでナズーリンに投票しましょう!
終わったら、引き続きナズーリンを応援しましょう!



※追記
若干、修正しました。
エクシア
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コメント



0.870簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
>『星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる』
それは蓮子くらいだ、ナズーリン…
5.100アン・シャーリー削除
支援お疲れ様です 他の方には内緒ですが、実は自分もナズーリンに入れました
全国民がこぞって隊長に入れれば良いと思います
6.100名前が無い程度の能力削除
ナズーリンが愛され過ぎてて、生きるのが辛い

……星を見ただけで何を無くしたか判る程度の能力(ボソッ
10.100名前が無い程度の能力削除
だいじょうぶだ、問題無い。すでに投票済みだ。
11.100名前が無い程度の能力削除
船長に入れてしまった
14.90奇声を発する程度の能力削除
がーんばれー
19.100名前も財産も無い程度の能力削除
ネガーリンかわいいよネガーリン。私も一票入れてきます!

それはそうと、オトモナズーリン…そういうのもあるのか!
22.100名前が無い程度の能力削除
これはいい愛されナズーリン
25.100名前が無い程度の能力削除
ナズーリン可愛い。