Coolier - 新生・東方創想話

緋想は天地を伝わらず

2013/02/18 19:15:58
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 幻想郷から遥か高く浮かんだ処にある、天界。
 そこに佇む青い髪の少女――比那名居天子は退屈そうに、岩に腰掛けていた。
「おや、どうしたのですか総領娘様。既にほとんどの方が、奥に集まりましたが」
 天子を見かねて、羽織の様な衣服を着ているやや長身の女性――永江衣玖が声を掛ける。
「霊夢がまだ来てないのよ。今回の副主役だっていうのに」
「副主役? では、主役は一体……」
「それは当然、私に決まっているでしょう。ここは天界なんだし」
 今日は天界で、倒壊した博麗神社の起工記念祭が行われようとしている。
 そこで天子は、恐ろしく早く来た亡霊の西行寺幽々子から、魔法使いの霧雨魔理沙まで丁重に持て成し、最後の来客者である博麗霊夢を待ち続けているのだ。
「霊夢が来るまで暇ね。せっかくだから衣玖。話にでも付き合いなさい」
「仕方ありませんね」
 そう言って衣玖は、天子の腰掛けている岩の、隣にある大岩に背を預けた。
「私が起こした異変、どうだったかしら。あなたの所にも何人か来て、楽しかったんじゃない?」
「否定はしませんが、駆け付けた方々の人数が少々多かったですね」
「だから、『退屈しなかった』って事じゃない。しかもその内数人は、ただの人間。暇潰しを通り越して、驚いたわ」
 楽しそうに、やや威張っているような態度の天子に、衣玖は一度、息を吐く。
「総領娘様。お言葉ですが、私には少々やり過ぎたという感が否めないのですが」
「やり過ぎた……どこが?」
「私も、ここ最近の異変は知っています。レミリア・スカーレット、西行寺幽々子。あと、月から来た者。それに加え、六十年周期に起こる異変。あとは、異変と言うべきか判りませんが、山の上に神社が建てられた騒動」
「そうね。それを見て、私も面白そうと思ったわけだし」
「しかし、総領娘様の異変は、危うく下界に深刻な被害をもたらすところでした」
「まぁ、それくらいして『異変』なんだし」
「……やはり。博麗霊夢や八雲紫が此処に来なかった場合、本気で大地震を引き起こすおつもりでしたね」
「だから、それでこその『異変』になるって言ってるでしょう?」
「ふむ。これでは八雲紫に、『総領娘様を亡き者にする』と言われても仕方ないですね」
「なによ。私が作った異変に、けちをつけるのかしら?」
「失礼ですが総領娘様。『異変』を芸術の類か何かと勘違いしていませんか?」
「何よ、似たようなものでしょう? 下界で生まれた『スペルカードルール』は、妖怪が反則的な力を持つ巫女に勝てるように作ったもの。そしてそれを口実に、妖怪は暴れる事ができる。それが『異変』だと私は感じたわ。違うのかしら」
「あながち間違ってはいません。しかし総領娘様、あなたは二つ程勘違いをしています。一つは、異変には度を越してはいけない境界線はないと思ってる事。もう一つは、下界にいる『異変を起こされた者』も異変を楽しんでいると思っている事」
「あら、違うのかしら。正直言って私からは、異変のない幻想郷は退屈に見えるわ」
「だからといって、何も関係のない人々を巻き込んでいい理由にはなりません」
「そうかしら。そもそも、あの妖怪達にそんな境界線が引ける事自体、信じられないんだけど」
「いえ、妖怪はそういった掟や決まりごとは、共通して強く破らない傾向にあるようです。先程、奥にいる鬼が教えてくれました」
「ふーん。よくわからないわね、地上の者の考えていることは。そういえば私、霧雨魔理沙に腹を立てられたけど、あいつは他の異変の時、ただ楽しそうに霊夢の後ろを着いて行ってたわね。私の異変と比べて、何がいいのかしら」
「失礼を承知で言わせてもらいますと。総領娘様の異変がよろしくなかったのかと」
「……回りくどいわね。言いたいことがあるなら、早く言ってよ」
「総領娘様が楽しいと感じる事は、必ずしも、他の者が楽しいと感じるとは限らない。ということです」

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