Coolier - 新生・東方創想話

風祝と紅魔館・序章 ~風祝と白狼天狗とか⑨とか~

2008/03/13 02:53:14
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※この話は「風祝の星」(作品集48)と「風祝と香霖堂」(作品集49)の続編に当たります。
※一応「以前早苗のバイトフラグが立った」「早苗は(文の)大変なものを盗んでいきました」と言う事を理解していただければ読めなくはないですが、今回は前作「風祝と香霖堂」を読んでいない方は、多分見た方が話が繋がると思います。お手数ですがよろしくお願いします。





































ぐううぅぅぅぅぅぅぅ~……。





…なに、コレ。なにこの出だしは。タチ悪いなぁ…。
自分の部屋で畳に突っ伏しながら、私はため息をついた。
…でも、分かって欲しい。今私こと東風谷早苗は…。

「お腹すいたぁ~…。」

ここ3日間、殆ど食べ物を口にしていないのだから。

思えばもう1ヶ月ほど前、リアルはもう春だというツッコミは止めて欲しいが、幻想郷に守矢神社ごと移り住んでから、博麗の巫女を押さえようとして…。
…返り討ちにあって、別にそこまでは良かったんだけど…。…いや、良くないけど。
…そもそも、何だって八坂様はこんな山奥に神社を…。
あの事件以降、何とか妖怪達の信仰序にある程度の信頼を集める事は出来たけど、なんと言っても…。
私は力の入らない身体を何とか起き上がらせ、のたのたとふらつく足で、神社のある場所へ向かう。
目的地を隠したって仕方がない。行くべき場所は神社の正面、お賽銭箱だ。
別にたいした距離ではないので、お賽銭箱の前にはすぐに着く。しかし次の行動がなかなか起こせない。
…何となく、どうせ落ち込む破目になるんだから、と分かってはいるのだが…。
…やっぱり恐い。中を見たくない。でももしかして…、…いや、考えちゃいけない。どうせ希望は儚く砕け散る。人間は儚い。信仰は儚き人間の為に。
気を引き締めて、私はお賽銭箱の中を覗く。一々中を覗くだけなのに気を引き締めないといけないのは、はっきり言って疲れるけど…。
そして、予想通り中は空っぽだ。いや、枯葉が数枚入っていた…。

「はぁ…。」

気を引き締めていたとは言え、やっぱりげんなりする。
お賽銭箱の中身は今日も空。要するに今日の…いや、正確には昨日の同時刻から今までの収入はゼロ。
力なくうなだれ、そのままばたりと仰向けに倒れる。頭を打った。痛い。心も頭も懐も。
あの事件以降…、というか、幻想郷に来てからというもの、お賽銭箱の中にお金が入っていた事は皆無。
今までは元々の蓄えで何とかしていたが…、…限界だ。
冷静に考えれば…、いや、冷静になるまでもなく、こんな妖怪の山の奥にある神社に、人間の参拝客が来るはずもない。
いやまあ、人間でも霊夢さんや魔理沙さんなら此処まで来るかもしれない…。
…まあ、彼女らに神社にお賽銭を入れるという習慣があるとも思えない。寧ろ片方は私と同じで受ける側だ。
そうと分かってはいるのだが、やっぱりショックなものはショックだ、今日も何も食べられない恐れがある。

「ううっ…、…霊夢さんは、こんな時どうするのかしら…。」

…信仰がないのだから、きっと同じような状況になる事もあったと思う。しかし彼女は生きている。
ああ、この状況を生き延びるコツでも聞いてこようかな…。…でも、出来れば動きたくない…。
このまま餓死したらどうしよう…。…誰を呪えばいいんだろう…。…八坂様?

「こんにちは~、文々。新聞の配達に…、…って、あれ?どうしたんです?」

私がお賽銭箱の傍で彼岸へと渡りかけていると、そんな声が耳に届いた。
ああ、今は八坂様や洩矢様の声よりも神の助けに聞こえる第三者という存在の声。
寝たまま顔だけを声の方へ向ければ、白い狼耳と白い狼尻尾の天狗が、新聞を持って佇んでいる。

「椛さん…。」

白狼天狗の犬走椛さん。2週間ほど前に香霖堂へ行った時以降、守矢神社の顔馴染みとなった天狗だ。
それまでは射命丸さんが新聞を持ってきていたのだが、あれ以降は何故か新聞を彼女が持ってくるようになった。
因みにあれ以降射命丸さんには逢っていない。

「そんな所で寝てると風邪ひきますよ、それじゃ他にも新聞を配らなくてはいけないのでこれで…。」

「わーっ!!待ってください待ってください!!お願いですから助けてください!!」

新聞を置いて即踵を返す椛さんの背中に、あらん限りの制止の声をかける。
すぐに飛び立とうとしていた椛さんも気付いてくれたらしく、また私へと顔を向ける。間に合った…。
やっぱり、こういう時の運というのは、神への信仰を怠らなかった賜物なのかな…。


ああ…、お米ってこんなに美味しい物だったんだ…、私は今、人生最高の幸福を味わっている…。

「そ、そんな泣きながら食べなくても…。」

卓袱台を挟んで正面の椛さんが、何だか哀れむような声をかける。
あ、あれ、私泣いてます?あ、ほんとだ、目から雫が…。
でも、3日間ご飯を食べられなかった状況は、はっきり言って辛いにもほどがあった。
あ、まあ、きっと世の中にはもっと過酷な状況で生きている人も…。
…ああ、でも今は考えないでおこう。この幸福を、今だけはしっかり味わっておこう…。


あれから私は最後の気力で起き上がり、椛さんを普段使っている寝室兼客間へと案内し、そこで率直に聞いた。

「何か食べ物持ってませんか!?」

3秒ほど彼女は沈黙、そして3秒間哀れみに満ちた目線を私へと送る。
無駄に喋ってもカロリーを消費するので、私は出来る限り簡潔に事情を説明した。
すると、「お昼に食べる心算でしたが…」と、すこし渋々といった表情だったが、おにぎりを3つ差し出してくれた。
心なしかげんなりしている彼女には悪いとは思いつつ、しかし今は自分の命も危うい。ありがたく頂く事にした。
本当にごめんなさい、元気になったら必ず何らかの形でお返しします。これじゃなんか病人だなぁ、私。

自分でも驚くようなスピードでおにぎり三つを食べ終わる私。明後日の方向を見続ける椛さん。
…ごめんなさい、椛さん。射命丸さんには絶対に伝えないで下さい。何されるか分かったもんじゃない。

「…それで、何でご飯も食べられないような状況なのか、聞いてもよろしいですか?」

ありがとうございます椛さん。その言葉を待っていました。

「…八坂様が…、…八坂様がぁ!!」

「死んだんですか?ご愁傷様です。」

さらりとひどい事を言う。…う~ん、人は見かけによらないなぁ。

「神は一応死なないから大丈夫です。…八坂様が此処一週間ほど帰らないんですよ!!」

「家出ですか。彼女が一番性格的にはしっかりしていると思っていましたが。」

椛さんが一人で暴走し始めている。止めておかないと拙いかもしれない。
…此処までストレートに物を言ってくるとは思わなかった…。…真っ直ぐですね、椛さん。弾幕はぐにゃぐにゃなのに。

「違いますってば。八坂様は今、妖怪の山に限らず、幻想郷全土に信仰を広めようとしているんですよ。布教活動中なんです。
…それは一向に構わないんですが…。…構わないんですがぁ!!」

出来れば冷静に済ませたかったのだが、私の中で何かが爆発してしまった。

「私の事を放って置きすぎなんですよぉあの年増あぁぁぁ!!もうちょっと人間の私の事を考えてくださいぃぃ!!
私1人で妖怪の山を降りるなんて無謀なチャレンジなんですよ!!見境無く襲われる可能性だって充分にあります!!
幾ら私が秘術なんかを使えるからって!!そんなリアルバトロワの世界に飛び込めますか!!否、飛び込めません!!」

「しょっちゅう1人で山を降りてるじゃないですか、少なくとも3回は。」

「黙れ!!異論は認めないッ!!それにあれは射命丸さんが私の後を憑けてたから…!!
…そうだ!!射命丸さんですよ!!椛さん、射命丸さんに里までの護衛の依頼を出してください!!」

バアァンッ!!卓袱台をひっくり返さん勢いで叩きつけ、椛さんを見据える。

「ひぃっ!!び、びっくりさせないで下さい!!そ、それなんですが多分無理ですよ。
文さんは2週間前から寝込んでるんです、新聞を発行したら後は家に引き篭ってます。だから私が代わりに新聞配達をしてるんですよ。」

「引っ張り出してください!!」

「出来るならやってますってば!!第一文さんが引き篭ってるのはあなたに原因があるみたいなんですが!?」

そう言われたところで、私の脳ミソは急速冷凍した。
…原因?私に?何のことだろう。

「2週間前、ですよね…。その位だったら射命丸さんには香霖堂に行った時に逢いましたが…。
…う~ん、正直草むらに潜んでいた射命丸さんを引っ張り出したあたりから、記憶が殆ど無いんですよ。
気付いた時にはマジ泣きしながら飛んでいく射命丸さんが見えましたけど、何があったかなんて覚えてません。」

私的には、何らかの理由で私が気を失っている間に、射命丸さんすら怯える何かがあったのかと思っていたけれど…。
…う~ん、なんだったんだろう。私の想像通りなら、私が射命丸さんが寝込む理由を作った事にはならないし…。
…それにしても、あの人は私がそんな事をするとでも思っているのだろうか。全く失礼な話だ。

「そうなんですか?多分その日の話だと思うのですが、ボロボロになって飛んで来た文さんに泣き付かれましたよ?確か…。


 * * *  椛の記憶回想(以下椛視点)  * * *


その日、私は何時もの通り妖怪の山の警備で滝の辺りを飛んでいた。
とは言っても大分暗くなってきていたので、そろそろ切り上げて、家に戻ろうかと思っていた時…。
私は、ふらふらと力なく飛んでくる黒い影を見つけた。
千里先をも見通す私は、それが文さんである事はすぐに分かった。

「文さん…?何時もならスピード違反で捕まりそうなほどのスピードなのに…。それに随分とボロボロで…。」

そんな独り言を呟いた私に文さんも気付いたらしく、瞬きをした瞬間に尻尾に抱きつかれた。

「うわあぁぁぁぁん!!!!も~み~じぃ~!!!!」

「な、なんですか文さん!!いきなり泣きついてきたわりに尻尾に抱きつくなんて余裕ありますね!!
うわっ!!ちょっ!!離してください!!も、もふもふしないでぇえええぇぇぇ!!!!」

「私はもう駄目ぇ!!あんな…あんな事されたらもう死ぬしかないぃ!!」

「落ち着いてください文さん!!窮地のわりに耳を触るなんて余裕ありますね!!
きゃあぁっ!!ちょっ!!ぴこぴこしないでください!!耳の中に指入れちゃらめえええぇぇぇぇぇ!!」

「あんな鬼畜な人間は初めてよぉ!!反逆だわ!!これは人間のクレーターよ!!」

「クーデターだと思います文さん!!パニックしているわりに抱きついてくるなんて余裕ありますね!!
いやあぁ!!ちょっ!!そんなとこ触っちゃ駄目です!!くすぐった…あ、あははははは!!!わ、わき腹はだめええぇぇぇぇぇ!!!!」

「私の窮地にいきなり笑い始めるなんて!!部下にも見捨てられた私は本当に死ぬしかないのね!!」

「強引に笑わせておきながらなに言ってるんですか文さん!!死ぬとか言ってるわりに身体ゆするなんて余裕ありますね!!
あああぁぁぁぁ!!ちょっ!!そんなにゆすらないでぇ!!気持ち悪いです!!色々戻しそうです!!」

「戻して!!出来るなら私を今朝の私に戻してええぇぇぇ!!」

「マジで戻しそうですから戻してとか言わないでくださいいいぃぃぃぃ!!!!」

文さんが本気で泣き崩れてしゃがみ込むまで、マグニチュード10(推定)くらいの超激しい揺れに私は必死で耐えた。
あと1分続けられたら間違いなく大変な事になっていたが、よく耐えた私。自分にノーベル賞をプレゼント。多分平和賞かな?

「はぁ、はぁ、い、いったいどうしたんですか文さん、こんなに取り乱すなんてらしくないですよ。」

呼吸を整えながら、泣き続ける文さんに尋ねてみる。
文さんとは同じ天狗である以上、結構昔からの付き合いなのだが、此処まで取り乱した姿は始めてみた。
…と、文さんは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。あ、ちょっと可愛い…?

「あ、ありのままさっき起こったことを話すわ!!
『私は人間に(以下省略)された。』
何の事を言ってるのか分からないと思うけど…。私にも何がなんだか分からなかった…。」

「そりゃ分かりませんよ。(以下省略)ってなんですか。話してないのに分かるわけ無いじゃないですか。」

「想像に任せるって意味よ!!ああ思い出したくもない…!!あれは人間じゃないわ!!
まさにラストワード『闇朧風睨(サナエティックダークネスアイズ)』!!!!妖怪をも殺しうる究極のスペルよ!!
幻想郷は終わりだわ!!妖怪よりも人間の方が恐ろしい存在となってしまった!!幻想郷のバランスが遂に崩れてしまったのよぉ!!」

「落ち着いてください文さん!!意味が全く分かりませんよ!!サナエってあの守矢神社の巫女ですか!?」

「いやあぁぁぁ!!!!やめてやめて聞きたくない聞きたくない!!せめてゆっくり落ち着いた最期を迎えさせて!!」

「あなたが一番落ち着いてません!!もうちょっと分かりやすく話してください!!」

「駄目よ椛!!あなたは関わっては駄目!!私ですら敵わないのに!!死ぬのは私一人でいいわ!!」

「だから死ぬとかどうとかいう発想をまず止めてください!!あと遠まわしに馬鹿にしないでください!!」

「だってあなたスペルカードも持ってないじゃない!!」

「突っ込まれた!?話が続かずに突っ込まれたよ!?気にしてるんだから言わないでください!!」

「大丈夫よ椛!!一応作者のオリジナルスペルにあなたのはあるから!!使う機会は絶対ないけど!!」

「何に安心しろと!?寧ろ絶望的じゃないですか!!あと楽屋話はナシにしてください!!」

「絶望しては駄目よ椛!!希望を捨てては駄目!!」

「アイエヌジー形で生きる希望を失ってる人が何を言ってるんですか!!守矢神社に連行しますよ!?」

「いやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!やめてええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

そうこうしている間に、他の天狗仲間も集まってきて、大騒ぎになった。
と言うのも、私が文さんを泣かせたと勘違いされたからだ。他の天狗仲間たちの非難の白い眼といったら、もう…。
必死に誤解を解いてから、私は文さんを彼女の住処まで連れて帰り、ようやく事体は落ち着いたのだ。


 * * *  回想終了(以下早苗視点)  * * *


…と、そんな感じでしたが…。」

椛さんの話を聞いて、私は肩をすくめた。
そうは言われても、分からない物は分からない。そもそも私に関係ありそうな事なんて一箇所しかないじゃないか。

「大変ですね椛さんも。それで本業の方はお休みしてるんですか?」

手元の御茶を啜る。う~ん、ちょっとぬるくなってるけどまあいいか、飲みやすいし。
…あれ?そう言えばお茶なんか淹れたっけ?

「ええ、まあ警備の仕事も嫌いではないんですけど、基本的に将棋ばかりしてましたからね。丁度いい気分転換にはなってます。」

朗らかな笑みを浮かべる椛さん。どうやら本気でそう思っているようだ。
仕事中に将棋と言う言葉がどうも引っ掛かるが、まあ止まっているよりは動いている方が、彼女の性に合っているのだろう。
結局のところ、射命丸さんは何らかの理由により再起不能という事か。使えないなぁ。
…あれ?でもそれだと一つ疑問が…。

「…寝込んでる割には新聞は書いてるんですね、射命丸さん。」

先ほど受け取った文々。新聞を手に取る。『文々。』って単語を文中にそのまま書くとややこしいなぁ。
そんな事はどうでもいいのだが、椛さんの話のように暴れていたと言うのであれば、どうして新聞だけは書いているのだろうか。

「ああ、それはそうですよ。あの人新聞書くのやめたらそれこそ死んじゃいますから。」

納得。新聞書くために生きてるような人だからなぁ。どうりて内容も天狗同士の色恋沙汰に限定されてる訳だ。
寧ろ今の射命丸さんはそれだけを希望に生きているのではないのだろうか。
…今度腕の骨折ってみようかな、絶望して本当に自殺するかも…。うふ、うふふふふふ…。

「…早苗さん?どうしたんです?顔が怖いですよ?」

…はっ、わ、私は今何を考えていたんですか?数秒前の記憶が…。
これで3回目か…。霖之助さんの時と射命丸さんの時と…。
う~ん、幻想郷に来てから色々あったからなぁ…。疲れてるのかも…。

「何か自分に都合のいい事考えてません?」

「何の事でしょうか?」

私は首を傾げた。



「それにしても、人間からは分かりますが、どうして妖怪からも賽銭が入らないんでしょう…。信仰はある程度深まったはずなんですが…。」

空っぽのお賽銭箱の事を思い出し、私はため息をつく。
信仰が広まってるなら、妖怪の数なら物凄い事になっている妖怪の山だ、幾らなんでも0って事はないと思ってたのに…。

「…あなたは妖怪がお金を使ってると思っているんですか?」

椛さんのその一言に、私は物凄く不吉な予感を感じる。

「…使って…ないんですか…?」

「いえ、流石に全員が全員使ってない、と言う事はありません。私は時々人間の里で買い物もしますので。
でもですね、人間に友好的な妖怪ならともかく、そうでない妖怪はお金を使う機会なんて殆どないんですよ、実際は。
食べる物は山に野生している物か人間ですし、大概の妖怪は長生きしてますから、必要な物は自分で作れますし…。
そもそも何かお店のような物を開いている妖怪なんて、私は八目鰻屋のミスティアさんくらいしか知りません。
その彼女も、店は営利目的ではなく「鳥が食べられないように」と言う事で、それに取って代わる物を作りたかっただけですし。
要するに、妖怪の文化に金銭はあまり浸透していないんですよ。必要が無いもの、と言った方が正しいでしょうか?」

…言われてみて、私は物凄く納得してしまった。
確かに「妖怪がお金を使う場面を想像してください」と言われると、出てくるまでに物凄く時間が掛かる。
やっと出てきた答えも、射命丸さんあたりが屋台で酒代を払っているところだし…。
…妖怪がお金を使ってる姿が全然想像できない。妖怪にとってお金は必要ないものなのか…。

「…で、でも、必要ないならお賽銭にしてくれたって…!!」

そこで私はそんな事を思いつく。
何となく感じる、この後の椛さんの言葉で号泣しそうな不安を押しのけて…!

「…だから、基本的にお金を所持してないんですよ。買い物以外で持ち歩く習慣がないんでしょう。」

オワタorz…、
…お賽銭に期待していた私が愚かだったと言う事か…。
幻想郷に来てから色々大変な事もあったけれど、此処まで凹んだのは初めてかもしれない…。





「さて、私は他に新聞を配らなくてはいけないのでこれで失礼します。」

少し世間話をした後、ふと椛さんが立ち上がる。
そう言えば新聞配達の途中に引き止めたんだっけ…。
これ以上引き止めても悪いので、私も素直に見送るために立ち上がる。
とは言っても、そんな対した距離ではないので、すぐにお賽銭箱の前(=神社正面)まで来てしまったが。

「ではこれで…。神奈子さんは天狗仲間に、見かけたら「早苗さんが探している」と伝えるようお願いしておきますね。
それと、お金に困ってるんでしたら、アルバイトでも探してはどうでしょうか?
最近まで外の世界に住んでいたんですし、場所によってはその知識が重宝されるかもしれませんよ?」

椛さんはそれだけ言い残して、さっさと飛び立ってしまった。
彼女は言わなかったけれど、きっと時間を取りすぎてしまったのだろう。今度あったら改めて感謝と謝罪しておこう。
それにしても、アルバイトか…。いいかもしれない。
私はまだまだ幻想郷では新参者。これを期に、色々な人との交流を持つのもいいかもしれない。
…それに、アルバイトのツテは一つだけだがある。よし、今日はちょっと時間を取ってしまったから、明日は香霖堂へ行こう。
霖之助さんなら、きっと快くOKしてくれるだろう。よし、がんばろーっ!



 * * * * * *



日が赤く染まる。
結局あれから誰も来なかったし、参拝客も当然ゼロ。よってお賽銭もゼロ。
ああ、またお腹が空いてきた…。一度物を食べただけに、心なしか反動も大きい気がする…。
私は守矢神社の本堂で倒れていた。

「はぁ…。…どうしようかな…。」

どうしようもこうしようも、はっきり言って何もする事がないのは分かっている。バイト探しは明日だ。
寝るのにはまだ流石に早い。何時もよりは早いけどお風呂にでも入ろうかな…。
とにかく何か行動を起こそう、そう思って立ち上がった、その時だった。
一週間ぶりに感じる、この気配。間違いない、私は本堂の祭壇へと目をやる。
祭壇は光り輝いていた。何時かあの方は仰っていた、自分は守矢神社、その分社の祭壇から祭壇へと移動できると。
久々の光で目が一瞬眩み、目を閉じる。そして光が止んだと思って目を開けると、そこにあのお方はいらっしゃった。

「あら、早苗。私を探してるって天狗から聞いて帰ってきたから、丁度良かったわ。」

紫色の無駄に広がる髪、紅色のローブ、胸を飾る鏡、背負う蛇を模した綱。

「八坂様…!お帰りなさいませ!!」

椛さん!何から何まで本当にありがとうございます!

「それで、どうしたのかしら?出来れば早めに布教の続きをしたいから、手短にお願いね。」

憮然とした態度で話しかけられると、少しだけ腹が立つ…。私がどれだけ苦労していたと…!
…っと、自分の崇める神を悪く言うのは、巫女にあってはならない。落ち着け、私。
今此処で八坂様に里まで送ってもらえれば、アルバイトをしなくて済むかもしれないんだ。
…まあそのうちしなくてはならないんだろうけど。

「八坂様、お願いです。今からでも一向に構いませんから、私を里まで護衛してください。」

今からでも急げば、まだ里のお店が閉まる前に辿り着けるだろう。
とにかく私の貧困はもう限界だ。せめて数日間持つぐらいは食料を確保したい。
…でも、お金がないから物々交換か…。…ちょっと面倒になりそうだけど…。

「嫌よ、一人で行ってきなさい。」

「ありがとうございます、では早速支度を…、…って、ええっ!?」

い、今嫌って言いました!?い、いや、聞き違いですよね?
揖屋ですか?揖屋に一人で行けって事ですか?別に山陰地方にまで行かなくても食料は手に入りますよ?

「大丈夫かしら…?とにかく、私は布教活動で忙しいの。悪いけど何とか自炊してくれない?
そうそう、妖怪の山は食べられるものも結構あるそうだから、採ってきたらどうかしら?所有権なんてないでしょうし。」




プツッ…。




あれ?今何か切れた音がしたような…。

「そ、そんな!無理です!私は人間です!そりゃ確かに少しは秘術やスペルカードは使えますけど!
どう考えたって妖怪の山の山頂から単身で外出して、生きて帰ってこれるわけないじゃないですか!」

さっきも言ったと思うが、確かに私は個人としての実力には、少しは自信を持っている。
だがそれは先の事件の時の弾幕合戦のような、一対一においての場合においてのみだ。
しかも今は夕暮れ、逢魔ヶ時だ。
幾らなんでも、常時死と隣り合わせの状況、下手すれば数十対一なんて場合も想定できる所に無闇に走るほど、私はおろかじゃない。

「あらそう、だったら暫く我慢して欲しいわ。そうね…今大体半分くらい終わったから、あと一週間は…。」








ブツッ…!!








あれ?なんかまた…、しかもさっきより大きな音が…。

…ああ…、…しかいが…しろく…。…あたまが…まっしろ…に…。

「無理です!私は人間なんですよ!そもそも採取生活を、この時代においてやりたいなんて思いません!!
平成の食生活までは望みませんが!!せめて明治初期くらいの食生活くらいはさせてください!!」

「あなた…明治初期って肉鍋とかすき焼きとかそう言う物が多かったけど…。」

「いいじゃないですか!!肉上等です!!どうせここ数日何も食べなかったから体重は鰻下がりしてるんですよ!!」

「鰻下がりなんて言葉ないわよ!?ちょっと早苗!落ち着きなさい!巫女は肉食べては駄目なのよ!!」

「落ち着いてます!√2は一夜一夜と皆殺しに!!」

「全然違うわよ!!なにその人の道から外れた覚え方は!!確かに忘れないでしょうけど!!」

「√3は人並みに殺せや!!」

「分かりやすい間違いをしないでよ!!「せ」は何の数字!?」

「√5は富士山麓でオーム狩り!!」

「私の疑問は無視!?最早意味分からないわよ!富士山麓にオームが居てたまりますか!ああそれは普通の覚え方でも言えるけど!」

「わがままですね八坂様!!ああそうですね!!神様はお腹空きませんからね!!序に死にませんからね!!」

「えっ!?それとわがままと何の関係があるの!?しかも別にわがままじゃなくない!?」

「そうですか!!分かりました!!私も神になればいいんですね!!現人神と呼ばれた一族です!!神になってもおかしくない!!」

「おかしいわよ!!現人神は人であってこその神よ!?早苗!正気に戻りなさい!!」

「ひゃははははははははッ!!私は新世界の神になる!!」

「ちょっと!!死神が来そうだから止めなさい!!ああでも幻想郷の死神は仕事しないらしいわね!!」

「邪魔をするんですか八坂様!!では手始めに貴方から倒させてもらいます!!」

「何が手始め!?思いっきり風神録ラスボスじゃない私!!」

「開海『海が割れた日』!!」

「いきなりスペルカード!?容赦の欠片もなし!?」

「準備『サモンタケミナカタ』!!」

「二段スペルカード!?それは花映塚限定の技よ!?私達は風神録よ!?
ちょっと!!避ける範囲を狭められた状態でそのスペルはかわせるはずが…!!きゃああぁぁぁぁぁ!!!!」






…はっ!?わ、私は今まで何を!?な、何だか八坂様が「あと一週間…」って仰った辺りから記憶が…。
慌てて辺りを見回す。何だか記憶の端っこに八坂様の悲鳴が聞こえた気がして…。
…目の前に、全身をあちこち焦がした八坂様が倒れていた…。

「や、八坂様!!何時の間にそんなお怪我を!!一体誰が!!」

急いで八坂様を抱き起こす。ああ、私が抱えただけでそんな辛そうな顔を!傷が深いのですか!?

「…早苗…あなた…、…ああ、もういいわ…。…ごめんなさい…私が悪かったわ…。」

ああ!何で目線を逸らすんですか!確かに私は今までの記憶がありませんが!一体何があったんですか!
それよりも誰だか知らないけれど、よくも八坂様を!霊夢さん!?それとも魔理沙さんか!?それとも第三者か!?

「…私は…あなたの事を全然知らなかったみたいね…。…がくっ…。」

「ああ!八坂様!しっかりしてください!なんで「がくっ」って口頭で言うんですか!目を開けてください!」

ああもう自分でも何を言ってるのかよく分からない!
神様だから死ぬ事はないだろうけど!そんなRPGゲームのやられ役みたいな言葉を残して死なないでください!死なないけど!

「あーうー…。…早苗…五月蝿い…。」

ふと私の頭は、その言葉によって急速冷却。急に冷やしすぎたから皹が入ったかもしれない。
見れば今まで何処にいたのか、何故か柱の向こうに寄りかかってこっちを見ている蛙…、ああ、顔はそっちじゃない。
少し目線を落とすと、やたらと眠そうな表情をしている洩矢様の御姿が…。

「洩矢様!丁度いいところに!八坂様が!八坂様が何者かに襲撃を!」

「…ええ、そうね…。…本当に…誰にやられたのかしらね…私…。」

ええっ!?八坂様が姿を見れなかったほどの相手なんですか!?ほ、ホントに一体誰が…!

「…よく分からないけど、とりあえず神奈子の怪我を治す事から始めようか…?」



ふぅ…。…ようやく一息つけた…。
卓袱台を挟んで正面の洩矢様も、落ち着いた表情で御茶を飲んでいる。だけど物凄く違和感を感じる。
違和感の正体は単純明快。洩矢様の服装が…。

「洩矢様…、…一体何処からそんなお召し物を…?」

「ん、この間倉庫の中を見回ってたら見つけたの。似合うかしら?」

はっきり言いますが全然似合ってません。言葉には出さないけど。
首から上は何時も通りの洩矢様。蛙を模した帽子もそのままだ。だが洋服はどうだろう。
染み一つない純白の洋服、膝ぐらいまでの長さのスカート、序にふわふわしそうにない。
手っ取り早く言うなら、病院でよく見かける、いわゆるナース服だ。
何でそんな物が神社の蔵に…?
…ああ、ひょっとして父上か母上…、…いや、母上が誰かから貰ったのだろうか?それともそんな仕事をした事があったのだろうか?
…父上ルートで蔵に入った物ならば危険だ。考えないで置こう。

「神奈子の方は安静にしてればすぐに良くなると思うわ。まあ、それでも3日4日掛かるでしょうけど。」

「それはありがたいんですが、要するに八坂様の身体を祭壇に一時封印しただけですよね。服装何の関係もありませんよね。」

「早苗、それは場の空気と言う物よ。」

「空気がどうこう言うのであれば、最初から八坂様に助勢してください。」

「…良かったの?」

「何がです?」

何か話がかみ合っていないような気がする。いや、私の方にピースが足りないのか?
…もういいや、深く考えるのは止めよう。八坂様の御怪我が治るのであればそれでいい。

「はぁ…、それにしても、八坂様が戻られるまで、私はどうすれば…。」

そう言って、タイミングを計っていたかのようにまたお腹が鳴る。
少なくとも買出しはそれまで先延ばし…、ああ、私はそれまで生きて…。
…あれ?そうだ、そういう事か、何でこんな簡単な事に気付かなかったんだ私。馬鹿、私の馬鹿。
ああでも、これで長年の謎が解けた。どうして守矢神社には神様が2人いるのか、それはこういう時のためだったのか!

「早苗?どうしたの?顔が夜道で女性に付きまとうストーカーみたいな表情よ?」

ええ、私は今、洩矢様を付けねらうストーカーですとも!自動給炭機上等です!目的のためなら火夫にでも何でもなります!
意味が分からなかった人は「火夫」を英訳してみよう。

「洩矢様!バイト探しを手伝ってください!!」
守矢神社に神様が2人いるのは、要するに片方の神様が駄目でももう一人が何とかしてくれる、という事だったんですね!
ああ!私の頭脳、いい所で素晴らしい答えを!きっと今の私はIQ200越えしてるに違いない!
ただ何故此処で八坂様に頼んだ「護衛」ではなく「バイト探し」になったのかはよく分からない。

「何だかひどい誤解をしているみたいだけど…、…何があったのかしら?私が起きたのは1時間前だから、詳しく話して。」

洩矢様…!八坂様とは大違いです…!



「あーうー、要するにお賽銭ゼロ、食料もゼロだから、神奈子が起きるまで待てないって事ね。」

ああ、分かってくださるのはいいんですが、なんかストレート過ぎて悲しいです。

「それで、お金を稼ぐためにアルバイト…。うん、まあ、妥当な線ね。」

幼い顔立ちの洩矢様に言われると、なんか物凄く腹が立つ…。
…自分で話したんだから文句は言えないけど…。それに私よりもずっと年上なんだし…。

「だから、私にアルバイトを探す時の護衛をして欲しいと…。ええ、構わない…、…あれ?何でそこで首を傾げるの?」

…護衛?何を言ってるんですか洩矢様。確かに護衛はして頂きますけど…。

「洩矢様も一緒に働いてください。」

貴方様にも働いてもらいます。2人ならお給料は2倍です。

「…あう?」

「洩矢様も一緒に働いてください。」

「えっと…。」

「洩矢様も一緒に働いてください。」

「何で私が…。」

「洩矢様も一緒に働いてください。」

「短期アルバイトなら一人で…。」

「洩矢様も一緒に働いてください。」

「えっと、私は一応神様だし…。」

「洩矢様も一緒に働け。」

「命令形!?」

「諏訪子も働け。」

「わ、分かった!分かった!一緒に働くから!その目はやめてその目は!」

…はっ!?わ、私また意識が一瞬遠のいて…。どうしよう、アルバイトする前にお医者様に見てもらった方がいいかな…。

「あーうー…、…前々から思ってたけど、普段が真面目だとその反動は凄いのね…。」

あれ?洩矢様?何でそんな涙目で俯いてるんです?
…あれ?私、何で「モーゼの奇跡」のスペルカードを持ってるんだろう…。


「…あれ?早苗、そう言えば何でそんなになるまで?」

「だから八坂様がいらっしゃらないから、って言ったじゃないですか。」

「いや、私はずっといたわよ?何も起きないからずっと寝てたけど…。」

「ああ、すみません、素で存在忘れてました。」

「…早苗?」

「さあ、明日は早いので、もう寝る支度をしますか。お風呂先使いますね。」

「えっ?ねえ、ちょっと早苗、忘れてたってどういう事?ねえちょっと教えてってばああぁぁぁぁ!!!!」



 * * * * * *



ぐうぅぅぅぅ…。

…ああ、やっぱりお腹すいた…。
朝日が眩しいと確認する前に、お腹の音が身体に響く。
最近はこんな事ばかりだったから、慣れたといえば慣れたけど…。…やっぱり虚しい。
でもまあ、お陰で早起きは出来た。不幸中の幸い、空腹のせいである程度覚醒している。
とりあえず顔を洗ってこよう。朝食はないけど歯も磨いておかないと…。
私は布団から起き上がり、とりあえず洗面所として使っている場所へ行こうとして…。

「ぎゃふぅっ!!!!」

盛大な悲鳴を足元に聞いた。何か柔らかい物を踏んだ感触と共に。
足元を見れば、そこには蓑虫の如く首から下全てを縄で縛られて身動きが取れない、洩矢様の御姿が…。
…って!!私洩矢様を踏んだ!?神様を足蹴に!?ああ!なんて事を!巫女にあるまじき行為を!!
だけど何か神よりも上に立っている気がする!神に近付いた気がする!!実際に立ってるからなのかなこれは!!

「何でもいいから足どけて!!お腹潰れる!!死ぬ!死んじゃう!!」

死にゃせんでしょあんたは。


顔を洗って歯を磨いて、そして何時もの巫女服に着替える。
再び寝室兼客間へと戻れば、洩矢様は卓袱台の前に正座していた。序に服は何時ものやつに戻っていた。

「…何でわざわざ縄で縛るの…?」

「それは勿論、洩矢様が逃げないようにするためです。」

昨夜、洩矢様が一緒にアルバイトしてくださると言う事を聞いた後、お風呂に入ってすぐ寝ようかと思ったのだけど…。
何だか嫌な予感がしたので洩矢様の寝室(?)である本堂へと行けば、案の定逃げようとしていた。

「逃げようとしてたんじゃないわよ!神奈子の代わりに見回りに行こうとしただけだってば!」

「そうは言われても、どうもそれからの記憶があやふやで…。」

気付いた時にはもう着替えて布団に入っていたので、洩矢様がどうなっていたかなんて…。

「…人間、極限を超えるとどんな行動でも起こせるのね…。
…あれ?ちょっと待って?記憶があやふやなのに、どうして逃げないように縛ったって断言したの?」

「…ちっ、気付かれましたか…。」

「えっ?何?」

「何でもありません。さあ、出かけますよ。」



私は足で、洩矢様は空中で、ゆっくりと歩を進めながら山を歩く。
香霖堂に行った時にも言ったと思うが、私も空を飛べるには飛べるが、実はあれ、結構体力を使う。
私の能力はあくまで「奇跡を起こす程度の能力」で、霊夢さんのように「空を飛べる程度の能力」を持っているわけではない。
要するに、空を飛ぶのには慣れっこ、と言う訳ではないのだ。歩いた方がまだお腹も減らない。元々ゼロに等しいけど。

「さて、何処に行きましょうかね。」

「考えてなかったの…?」

「当たり前です。何処でアルバイト募集をしているかなんて知りません。」

「私だって知らないわよ!!」

「貴女は神様でしょう?何とかならないんですか?」

「…え~っと、早苗?あなた普段神様を何だと思ってるの…?」

「何だと思います?」

…何故か、洩矢様はそこで口を噤んでしまった。
ああ、ちゃんと答えは用意していたのに…。…なんて答える気だったか?それは秘密です。
そのまま暫くは、また会話のない状態が続く。まあ、喋らない方が体力は使わないからいい。
とにかく、少なくとも妖怪の山でアルバイトが見つかるとは思えないし、まずは山を降りよう。全てはそれからだ。
…あ、そう言えば椛さん、今日は来なかったな…。

程なくして山を降りる。程なくといっても一時間近くは掛かったが。
基本的には下り坂を降りるだけだったから、然程体力は使っていない。今は元々少ない体力がさらに少ないのだ。出来るだけ温存しよう。

「さて、まずは…。」

「まずはも何も、行く場所はひとつでしょ?人里はどっちなのかしら?」

「人里へはまだ行きませんよ。その前に寄る所があります。」

「へっ?アルバイト探すんでしょ?」

「一応一つはツテがありますので。まずはそっちへ行きたいと思います。」

「…さっきと言ってる事180度違う気が…。…で、何処に行くの?」

「一々言わないと分かりませんか?神様なんだからテレパシーくらい使ってください。」

「いやいや無茶言わないでよ!!そんな能力持ってないから!!」

「黙れ蛙。…そうだ、神様は普通は死なないんですよね…。」

「えっ…?ま、まあ、身体的な障害で死ぬ事は…。それとテレパシーとどんな関係が…。」

「その程度のことも出来ない神様にはお仕置きが必要です。」

「ちょ、ちょっと早苗!?またその目!?止めて止めてごめんなさいごめんなさい何で謝ってるのか自分でも分からないけどとにかくごめんなさい!!」

…はっ!?ま、また…。そろそろ空腹が限界なのかな私…。記憶がたびたび飛ぶ…。
…あれ?洩矢様?何でそんな半泣き状態なんです?やっぱり見た目どおり子供っぽいですね。

「…何か今、物凄く嫌な事考えなかった…?」

「…いえ、別に。」

顔に出てたかな…。

「とにかく、目的地は魔法の森の『香霖堂』です。それくらい分かってください。」

「いや、だから神だからってそんな能力持ってないから!!」

「洩矢様の能力があまり高くない事が悲しいです。」

「本当に私の能力を何だと思ってるのあなたは!!」

「それでは行きますよ、魔法の森はこっちです。」

「無視!?無視なの!?お願い気になるから教えてえぇぇぇぇ!!」



 * * * * * *



「…それで、僕のところへ来た訳か…。」

場所は変わって、魔法の森の香霖堂。私は店主の霖之助さんに、今までの経緯を話した。
以前此処で品物の整理を(強制的に)手伝った事もあり、アルバイトが必要になったら此処でやろうかな、とも考えていた。
人のいい霖之助さんのことだ、事情さえ話せば二つ返事でOKして…。

「だが断る。」

…くれなかった。

「ちょっ!!霖之助さん空気読んでくださいよ!!前回私が香霖堂の看板娘になる事を期待した人がどれだけいると!!」

「いや、残念だけどそれはないと思う。魔理沙のマスタースパークを喰らうところを幻視した人が9割だと思うよ。
それはそうとしてだね、以前も言ったと思うけど…。…僕にアルバイト料を払うだけの売り上げがあると思うかい?」

…なんかもう納得するしかない一言。自分で言ってて虚しくないのかな霖之助さん。
人が来ないんだから、此処の店員ほど楽なバイトもないと思うが、此処以上に給料が少ないバイトもないと思う。
じゃあ私が店員になって客を…、…駄目だ、こんな場所まで人間の客は来ない。妖怪の客は椛さんの発言により狙うのは止めておこう。

「…そうですか…それなら仕方ありません…。じゃあせめて、アルバイトを雇ってくれそうな場所はありませんか?」

折角来たのだから、何の収穫もなしに帰るのは嫌だ。
序にさっきから私の後ろで店の品物を荒らしまわっている蛙も嫌だ。

「ね~ね~早苗~。これ面白いよ、買ってこうよ~。」

「洩矢様、身動き取れない状態で全長18メートルのアナコンダの前に突き出されたくなかったら黙っててください。」

どうも洩矢様にはまじめな神様としての顔と、子供っぽい顔との2つがあるようだ。
第一アルバイト探してるのに、そんな余計な事に使うお金があると思うのか…。
因みに今のところ最大のアナコンダの大きさは9メートルです。18メートルなんて巨大なのはまだ確認されていません。いるそうですけど。

「…そういう事は僕より霊夢の方が詳しいと思うな。人脈だけなら幻想郷の誰よりも広いと思うよ。」

霖之助さんからの返答。暗に自分は人脈が広くないと言っているのが少し悲しい。
しかしまあ、確かに霊夢さんなら何処で人手不足だとか、そういう話を知っていそうだ。

「そうですか、では霊夢さんをあたってみたいと思います。ありがとうございました。」

一礼する。いい話を聞いた、これで私のアルバイト作戦はまた一歩前進だ。
…そもそも霖之助さんの店がもっと繁盛していれば、ここでアルバイトをすることが出来たかもしれないのだが。
まあ、それは言いっこなしと言う事で。

「…あれ?でもそれだったら魔理沙さんでもいいかもしれませんね。あの人も人脈は広そうですし、家はそっちの方が近いですし。」

ふと私は魔理沙さんの事を思い出す。
魔法の森に住んでいる彼女もまた、身も蓋もない言い方をすればプレイヤーキャラなのだから、同じくらい人脈は広いはずだ。
家も近いのだし、霊夢さんより魔理沙さんのほうが…。

「…それはやめた方が良いと思うよ。霊夢と魔理沙でどっちの紹介の方がまともなバイトになるか、考えるまでもないだろう?」

納得。博霊神社へ行こう。
ありがとうございましたともう一度頭を下げてから、玩具と戯れる洩矢様の首根っこを掴んで引きずって、香霖堂を後にした。
外に出る際に「バイト探し頑張るんだよ。」との一言が心に響いた。持つべきはいい友人ですね。


…あ、電池の事聞くの忘れてた…。



 * * * * * *



場所は再び変わって博霊神社。
以前魔理沙さんの家の場所を聞いた時以来、久々に訪ねたような気が…、…いや、その後にも一度だけ訪ねたっけ。
霊夢さんとアリスさんにフルボッコにされた後、傷が癒えてから改めてお賽銭を入れたら、コロっと今までどおりの態度に戻った。
…うん、現金な人だなぁ…。
さて、以前は立ちながら寝ていると言う究極の睡眠奥義を使っていたけれど、果たして今日は…。
神社の鳥居をくぐると、霊夢さんは相変わらず境内の掃き掃除をしていた。今回はちゃんと動いている。

「あーうー、相変わらずオンボロだなぁ…。」

「洩矢様、聞こえたら拙いので自重してください。」

幸い聞こえていなかったようで、そのまませかせかと掃き掃除を続ける霊夢さん。
…ただ、今回は今回でまた様子が少し変だなぁ…。
なんだかぶつぶつと読経でもしているかのような、そんな声が…。

「お賽銭今日もゼロ 私の収入もゼロ♪
いったい何時まで貧乏でいればいいの♪」(少女奇想曲のメロディで)

…すみません、私はこの時どうやって突っ込めばよかったんでしょうか…。
ありえない歌詞の歌を、不気味な笑いを含んで歌う霊夢さん。
病んでるとかそういうレベルなのだろうか。

「消えて行く私の 心のともし火を♪
どうして誰も分かってくれないのかしら♪」

…これは止めた方がいいのだろうか。
でも止めたらまた面倒な事になりそうな気も…。

「今私 食べる物少ないのよ♪ みんな 私を殺す気♪
誰か 私を助けてよ♪ 異変 解決だけさせるな♪」

…ああ、ちょっと泣けてきた。苦労してますね霊夢さん…。

「魔理沙 たかるならお茶代を♪(払え!)
アリス お賽銭入れてよ♪(それだけでいい!)」

…なんか心の声が聞こえてくるんですが…。
…虚しいなぁアリスさん…。


「早苗 奇跡を起こしてよ♪(今すぐ!!)」


…満面の笑みで私の方へと振り向く霊夢さん。…気付いてたのか…?
しかも心の声で「今すぐ!!」と聞こえた気がしたんですが。
歌はそこで終わり、とにかくニコニコと某動画掲示板みたいな言葉が似合う笑みを浮かべて私を見続ける。
…どうしよう、この空気をどうやって乗り越えれば…。

「…奇跡を起こしてよ、早苗?」

霊夢さんの駄目出しの一言。今日ほどこの人が恐ろしいと思ったのはフルボッコにされて以来2度目だ。

「えっと…。…相談に乗ってくれましたら、成功報酬という事で…。」

「いますぐ♪」

「…すみません、八坂様が重症なので私の奇跡も今は大した力が出ません。」

とりあえずそう誤魔化しておいた。
因みに実際に奇跡が起こせなくなるかと言うと、まあ多少は弱くはなるが言うほどの事でもない。
…しかし、力が最高の状態だったとしても、霊夢さんの願いを叶える事は私には出来ない。
なにせ、博霊神社のお賽銭箱のお金が入ると言う事は、奇跡と言うレベルの話ではないからだ。

「…ああそう、じゃあ神奈子が起きてからでいいわ。それで、相談事ってなに?」

途端に何時もの表情を取り戻す霊夢さん。
とりあえず彼女にとって、八坂様がどうして重症なのかと言う事はどうでもいい事のようだ。
私も今はどうでもいいけれど。

「えっと、霊夢さんの知り合いでアルバイトを探しているような場所はありませんか?」

とりあえず単刀直入に質問する。
話の意図を察してくれたのか、霊夢さんは顎に手を当てて考え込む。

「…そうね、地獄は人手不足らしいわよ。死んでみれば?」

「たいがい酷い事いいますね。死んだらそこでゲームセットじゃないですか。」

「ああ、知り合いの薬屋がモルモットを探してるって言ってたわね。実験用の兎が全員意識不明の重体らしいから。」

「そんな危ない薬の実験には付き合えません。」

「じゃあ此処で庭の掃き掃除やる?」

「問題外です。香霖堂以上にバイト料が期待できない仕事じゃないですか。」

「冥界の庭掃除は?訪ねた矢先に斬られる覚悟と、亡霊に食べられる覚悟があれば大丈夫よ。」

「随分危なっかしい所もあった物ですね。食べられるってなんですか食べられるって。」

真面目に考えてるのかこの人は。いやまあ、他人事であるのは確かなんだけど…。
…仕方ない、今回も最終奥義を使わせてもらうとしよう。

「…ちゃんとした場所があれば、バイト料からお賽銭はちゃんと出しますよ。」

「そうね、紅魔館は常時アルバイト募集中らしいわ。給料が出るかは分からないけど、メイド長に相談すれば大丈夫かもよ?」

一瞬でまともな回答が出てくるのだから不思議だ。霊夢さんの頭の中はお賽銭の事しかないのだろうか。

「そうですか、ありがとうございます。…それで、紅魔館というのは何処に?」

「幻想郷には湖なんて呼べる場所は一つしかないから大丈夫よ。それに目立つし。」

「すみません、今私は空を飛べないんです。出来れば道を教えてください。」

「…仕方ないわね。神社の階段を下りて…(少女説明中)…わかったかしら?」

大分大雑把な説明だったが、曰く「他に特に道もないから迷いようがない」らしい。
まあ、いざとなったら洩矢様に空から探してもらえばいい。これだけでも充分な情報だ。

「ありがとうございます、霊夢さん。」

「いいわよ別に…。…今度は、ちゃんとお賽銭入れてよ…?」

やたら凄みを含んだ口調で言われた。そんな事言われなくても、前回の事でもう懲りてますから大丈夫です。
私は一礼してから、穴を掘って冬眠しようとしていた洩矢様の首根っこを掴んで引きずって、博霊神社を後にした。

…あれ?紅魔館?メイド長?なんだか引っ掛かるキーワードが幾つかあった気が…。
何故か、私の頭の中を「串刺し」と言う単語が過ぎった…。



「…あ、そう言えば今日はレミリアのところへ行こうとしてたんだっけ…。
久々にいいお菓子が手に入ったから、魔理沙も誘っていこうかしら…。
…あれ?魔理沙?これなんて早苗と美鈴の死亡フラグ?」



 * * * * * *



場所はまたまた変わって、今度はとある森の中。
かれこれ守矢神社を出てから結構時間が経ったが、朝から行動していたお陰でまだまだ日が高い。
私は霊夢さんに言われた通りの道を通り、暫くの間何処かの森の中を歩いていた。
そして、特に障害もなくその森を抜けたと思ったら、広大な湖が視界一面に広がる。
絶景。私としてはそんな言葉が第一印象だ。これほど広大で澄んだ湖が、幻想郷にあったなんて…。
もう結構な時間を歩いたのに、人はおろか妖怪その他の生物に全く逢わなかったという疑問は、今や遥か彼方に飛んでいった。
…今回は射命丸さんには憑けられていないはずなんだけどなぁ…。

「あーうー、私、こういう湖好きだなぁ~♪蛙にとっては最高の環境ね~♪」

気付けば洩矢様は、蛙が座ったような…て言うかまんま蛙だ、のポーズで湖を眺めている。
まあ、元々は蛙の姿をしていたらしいし、今だって本当は蛙として暮らしたいのかもしれない。
ちょっと疲れたので、休憩がてら、この湖で遊ぶ…と言うより、遊ばせるのもいいかな…?無理言って付いて来て頂いたんだし。

「洩矢様…、…ん?」

ふと湖の方をもう一度見ると、よく見れば対岸の湖の畔には、大きな館が建っていた。
壁も屋根も何もかもが真っ赤であり、目立っているのに、どうして最初は眼に入らなかったんだろうと少し気になる。
…気にしてもしょうがないか、広大な風景は時に人を盲目にする。
あれが目的地の「紅魔館」なのだろう。となれば、ここで休憩してから訪ねても大丈夫だろう。
洩矢様はすでに湖に飛び込んでいた。…その服誰が洗濯すると…。
私はもう一度紅魔館に目を向けて、決意を新たにする。
まだアルバイトをすると決まったわけではないけれど、とにかくこれからもっと頑張らなくてはいけない。
頑張れ、私。貧乏に負けるな。
そしてもう一度、洩矢様に目を向け…。

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

…ようとした瞬間、耳を劈く悲鳴。思わず耳をふさぐ。

「いやああぁぁ!!お願い!!しっかりして!!死んじゃいやああぁぁぁぁぁ!!!!!」

な、何事?何が死んだら駄目なの?
耳を塞ぎつつ、急ぎ足で洩矢様の下へと駆けつける。そしてばしゃあぁん。湖に落ちた。洗濯物が増えた…。
間の過程は省いて、湖の中で泣き叫ぶ洩矢様の元にようやく辿り着く。
その手の内にあるものに目を移せば…、…氷の…塊…?
いや、よく見てみれば氷の中に何かがいる。緑色の…蛙だ。どう見ても蛙だ。もうちょっと言うなら極一般的なアマガエルだ。
要するに蛙が氷漬けになっている。なるほど、洩矢様ならこれは泣き叫ぶ。仲間が氷漬けになっているようなものだ。

「待ってて!!今すぐに助けるから!!!」

洩矢様はその氷の塊をぎゅっと胸に抱き、そして堅く目を閉じる。
…すると、洩矢様の身体が淡い光に包まれ、そう思った瞬間に今度は氷の塊から、目が眩むほどの閃光…。
直視する事を避けた私は、暫くの間は何も考えられなかった。まるでその光が、私が何かを考えるのを妨害するかのように…。
そうしている間に、光はだんだんと弱まっていき、ようやく目がまともに開けられるようになる。
再び洩矢様の方を見てみれば、その手の内にはすでに氷の塊はなく、代わりに一匹の蛙が、洩矢様の顔をじっと見ていた。どうやら生きていそうだ。

「ああ…!良かった…!本当に良かった…!!」

その蛙を抱きしめる洩矢様。ゲコゲコと声を上げる蛙。
…あの、ちょっと、蛙が苦しそうなんですけど。自らの手で締め殺す気ですか?
苦しそうな蛙の表情に気付いたのか、慌てて洩矢様は蛙を解放。ぽちゃんと音を立てて、水に落ちた。

「今の力は…。」

そんな言葉が私の口から漏れた。無意識のうちに。
氷の塊を一瞬で消し、蛙を何事とも無かったかような状態に戻してしまった…。
…なるほど、やっぱり洩矢様は神様だ。いや、きっと洩矢様にとっては、この程度の術など容易いのだろう。
となると、本気の洩矢様の力とは、一体どれほどのものなのだろうか…。
…そんな事、考えても仕方が…。

「あれ?何だか変わった蛙がいるなぁ。あんたも凍らせちゃっていいの?」

急にそんな声が聞こえ、私と洩矢様は同時にそっちへと振り返った。
そこに立っていた…、じゃない、浮いていたのは、水色の髪で、それと対を成すような真っ赤なリボンを付けた、背中から氷の羽根が生えた妖精。
言うなれば氷精と言ったところだろう。それにしても何か馬鹿っぽい。魔力はそこらの妖精に比べれば遥かに強い…。

「…あんたか…?…さっきの子を…あんな目に…遭わせたのは…。」

…強いけど…それ以上の力に、氷精の魔力の波動はあっさりと掻き消された。
身体が動かせない。すぐ傍から感じる力が強すぎて、硬直してしまっている。
何とか目だけをそっちへと向ければ…。…そこには、魔神がいた。
鬼のような…いや、鬼さえも生ぬるく感じられるほどの、この世のものとは思えない形相を浮かべる洩矢様。
私の自由を奪っている力は、間違いなく洩矢様の神力。何だか魔力と言った方がしっくりくるが。
これほど早くに、洩矢様の本気の力を体感できるとは…!

「なに?なに怒ってんのよ。蛙はあたいの玩具なんだから、どうしようと勝手でしょ?」

…ああ、恐ろしい事をさらりと…。火に油どころか油田を丸々ぶち込むような真似をしなくても…。
それにしてもこの氷精、これだけの洩矢様の力の前でも平然と…。

「チ、チルノちゃん!!止めなよ!!幾らなんでも相手が悪いよ!!あの人の力が感じられないの!?」

と、慌てた様子の緑色の髪の妖精が彼女の横へと飛んでくる。

「なに?大妖精。心配しなくてもあたいはさいきょーだから大丈夫だって。」

「ああ、チルノちゃん…。遂にIQが臨界点を突破してマイナスになっちゃったのね…。」

「へっ?なに?」

…ああ、なるほど、要するに頭がよろしくないから、この力の差を理解できない…。
…そんなのありか。よく幻想郷で生きてられるなこの氷精。
確かに力はありそうだけど、相手の力を理解できないのは、戦いにおいては致命傷だ。
最も、私も人の事を言えないが。博麗の巫女達、幻想郷の人間の力を嘗めていた私には。
…そもそも幾ら頭悪いからって、相手の神力って感じられなくなる物なのかな…。

「…ケロちゃんの痛み…分からせてやろう…!神の怒りを受けるがいい…!!」

…ヤバい、氷精の事を考えてる場合じゃない。口調が変わってる。
一刻も早くこの場から逃げなければ!巻き添えを食らう可能性もある!

「も、洩矢様!私はあの赤い館に行っておりますので!!」

身体に活を入れるように、大声で洩矢様へと告げる。
身体を浮かせるのは体力を使うが、そんな事は言ってられない。気力で身体を動かし、フルスピードで私はその場を飛び立つ。
…最後に一瞬見えた洩矢様のスペルカードは…。…土着神『ケロちゃん風雨に負けず』か…。復讐心丸出しですね。
え~っと、確かチルノさん、死なないように気をつけてください。妖精もそう簡単には死なないらしいですけど。
…後ろから爆音と悲鳴が2人分…。…無視だ無視…。



 * * * * * *



多少の罪悪感に苛まれつつも、やっぱり自分の身は可愛い。
自分に言いわけをしつつ、私は先ほどの真っ赤な洋館へとたどり着く。
フルスピードで飛んだだけに、流石に早かった。序に服も乾いてしまった。ご都合主義って素敵。
と、紅魔館の前で私は急停止。と言うのも、門の前に誰かがいたからだ。
…いや、倒れていたからだ…。顔は向こうを向いていて見えない。
門の前にいるという事は、赤い髪の彼女(今の所は“だろう”)は門番であると考えるのが正しいだろうが…。
…何で倒れてるんだろう…。見た感じ誰かが侵入した形跡はなさそうだし、遠目ではあるが特に身体に怪我を負っている訳でもない。
よく分からない光景である。ここは慎重になった方がいいな…。
出来る限り離れた場所に降り、少しずつ、出来る限り気配を消して近付いていく。
…近づけども近づけども、あっちが私の気配に気付く様子がない。
私が気配を消すのが上手いのか、それともあっちに気配を感知する能力が少ないのか…。
…いや、後者はないか。でなければ門番が勤まるはずもない。
ならばと思い、もう少しだけ接近する。しかしそこで…。


ぐううぅぅぅぅ…。


…えっ、ちょ、なにこれ。枝を踏んで気付かれるよりタチ悪いネタですよこれ。
私の非常に恥ずかしい音にあちらも気づいてしまい、ごろんと身体を半回転させて私の方を見る。
まるで本気で寝ていたみたいだ。て言うかだったら気付かないでください。
…とまあ、気付かれたなら気付かれたならで、開き直って色々そこで突っ込みたかったのだが、彼女の姿を改めてみた瞬間、その気は遥か彼方へ飛んでいった。
きっと私の突っ込みは洩矢様の弾幕によって打ち落とされただろう。そんな事はどうでもいい。
倒れていた彼女の顔は、何日もご飯を抜いたかのように痩せこけていて、顔色も非常に悪い。あれ、何処かで見たことあるような…。
…ああ、昨日の椛さんが来る前の私だ。


「…霊夢…?…いや、霊夢は紅白だから…。…どちら様ですか…?」


…それが、私がこの後生涯の友と認定した人との、最初のコンタクトだった…。



今日は、酢烏賊楓です。それではあとがきみたいな物を。
皆様の早苗のイメージをぶっ壊す『闇朧風睨』な話の3つ目、とりあえずその最初1/4の部分です。
…つまり、今回の「風祝と紅魔館」は今回を含めて4つあります。
元々3つまでには分ける心算でしたが、これ以降の区切りまでが想像以上に長くなってしまったので、今回は「序章」と言う形で。
近日中に続きの話「風祝と紅魔館・1 ~風祝と門番~」を書き上げようと思います。

実はこの「風祝と紅魔館」は、ネタとしては最初の「風祝の星」よりも前に出来ていました。
しかしまあ、いきなりぶっ壊れた早苗を載せるのもどうかと思ったので、星と香霖堂を経由してようやく載せる事が出来ました。偏に読んでくださった皆様のお陰です、ありがとうございました。
…ただ、最初とは設定が少し違ってしまったので、色々設定変更しなくてはなりませんでしたが…。
…椛が出てきたところ、最初は全部文でしたとも。ええ。
若干残ってるかもしれない処女作感については容赦なく突っ込んでください。

とまあ、その文はなんか幼児化現象起こしてますね、はい。よっぽど早苗にされた事がショックだったようです。
…何をされたのかは、ご想像にお任せします。
あとチルノと大妖精がどうなったのかも。

なんだかレティの話のときに使った「少女貧乏曲」が気に入ってしまったので、いっそ歌詞全部作ってみたりしました。アホですね私は。
因みに早苗の後は「紫 食べる物持ってくな♪」と続きます。2番以降は使う機会があったら…。


毎度のことながら、少しでも楽しんでいただけたならば幸いです。
あと早苗と美鈴の話も少しでも期待していただけたらありがたいです。

…無論、美鈴の身の安全は保障できませんが…。
酢烏賊楓
[email protected]
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コメント



0.910簡易評価
1.100#15削除
苦労人同氏が、意気投合…。よくあるパターンですが、早苗と美鈴ですかw
全くの予想外で、この先の掛け合いが見当もつきません。
というか、最強タッグ結成?ww
5.80☆月柳☆削除
四部作!これは残りを期待せずにはいられない……。
風祝の星と風祝と香霖堂も読んできたけど、これは先に読んだほうがもっと楽しめる感じですね。
射命丸とか射命丸とか射命丸とか。
6.無評価酢烏賊楓削除
コメントありがとうございます。

>#15さん
>全く予想外で、この先の掛け合いが見当もつきません。
既に片方の苦労人が壊れています。
それに影響されて美鈴まで壊れるか、はたまた美鈴も巻き添えを喰らうか、それともそれ以外の展開かは…。…次回でお願いします。
>というか、最強タッグ結成?ww
とりあえず最強のタッグには確実になるでしょう。苦労人タッグと言う意味で。
…ここにウドンゲやら妖夢が混じったら…。(混ざりません、今の所は)

>☆月柳☆さん
わざわざ最初から通して感想入れてくださってありがとうございます。
>四部作!これは残りを期待せずにはいられない……。
ありがとうございます。その期待を裏切らぬよう努力します。
>射命丸とか射命丸とか射命丸とか。
さて、果たしていつ文は復活するのか…。
…寧ろ復活させるかどうかも考えて(強制終了)