Coolier - 新生・東方創想話

氷精の舞う空

2014/07/21 19:10:28
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『氷精の舞う空』

 あたいがほんとうの意味ではじめて誰かにぎゅってされたのは、暑くて暑くてうっとうしい夏がやっと終わって、心地いい冷たい風がふきはじめる秋のはじめのことだった。
 夏はきらい。暑くて体が溶けてしまいそうになるし、みんなあたいをべんりな氷入りの抱き枕みたいに扱う。だから今年は絶対そんなふうにされてたまるかって、家から一歩も外に出なかった。秋や冬が近づいてくると、夏での扱いがうそみたいに、みんなあたいに近づこうとしなくなる。いやがるあたいをさんざんひっぱりまわしておいて、季節がかわるとそんなふうになるんだから、みんな自分勝手だ。ほんと、だいきらい。
 ひとりぼっちの夏はたいくつだったけど、まぁ、あたいは最強の妖精だから、ひとりぼっちでいるなんてぜんぜん寂しくない。最強は孤高で、こどくなものだもん。
 秋の初め、あたいは久々におうちの外へでて、のびのびと深呼吸した。もうすぐあたいの季節だ。思う存分あばれまくって、みんなをこまらせてやる。あたいがいないあいだに平和ボケした幻想郷を恐怖のうずに叩き落としてやるわ!
 そうとなったら獲物さがしね。あたいは幻想郷の空へ飛び出した。さて、どいつから痛い目に合わせてやろうかしら。おもいながら、あてもなく空を飛んでいたとき、遠くの方から、びゅーん、っていうか、きーん、っていうか、そういうふしぎな音が聞こえてくるのに気がついた。その音はあっというまにあたいのほうへ近づいてきて、あたいが「ん?」とそっちを向いたときにはもう、そいつはすでに目の前にいて、
「ぎゃー!」
 ひかれた。それはもうおもいっきり、ひかれた。あたいは簡単にぶっとばされて目の前がぐるぐるぐるぐる回った。そして落ちているのがわかって、すぐに「あややや」とか「大丈夫ですか?」とかが聞こえてきたのと、誰かがあたいを抱きとめたところまでは覚えているけれど、すぐに目の前がまっくらになった。
 どれくらい気をうしなっていたのかわからない。はっと気がついて、がんがんする頭をおさえながら体をおこし、
「うー、誰よいったい」
 呟いたとき、すくそばのほうから、
「いやぁ、失礼しました。大丈夫ですか?」
 なんて声がきこえてきたものだから、あたいはもう、飛び上がるくらいびっくりした。ひゃあ! と叫んでそちらをみると、そこにはよく知っている顔がいた。
「あ! あんたいつかの新聞屋! たしか、ひどくやらしい……」
「清く正しい射命丸です。ともあれ、覚えていてくださって光栄ですよ」
 ああ、そう、そうだった。きよくただしいしゃめいまる。しゃめいまる……、あれ? 下の名前はなんだったっけ。忘れちゃった。って、そんなことよりも、
「よくもあたいのことひいたなー!」
「それに関しては、どうもすみませんでした。あ、わざとじゃないんですよ? ちょっと前の方に意識がいってなくて」
「ふふん、ぜんぽうふちゅういを白状したわね。これはギル……ギル……えーっと、ギルビ? ギルマン?」
「ギルティのことですか?」
「それそれ! いしゃりょうをたっぷりふんだくってやるんだから」
「あやや、い、慰謝料ですか?」
 射命丸が困った顔をする。いいきみね。いつも新聞でみっともないところばっかり記事にされてるうらみをこれで少しは晴らせるわ。
「そう、いしゃりょうよ! いーっぱい払ってもらうから! みてなさい、いまにパンツ一丁でそこらへんを飛び回るようにしてやるわ」
「な、ななな、なんて破廉恥な! 清く正しい伝統の幻想ブン屋の名に傷がついてしまいます。それだけはご勘弁をー!」
 ふん、とあたいは射命丸に背を向ける。悪いのは向こうだもの、何もききいれてやるものか。
「ああ、待ってくださいチルノさん! パンツ一丁は、パンツ一丁だけはどうか!」
「ひゃああっ!?」
 ふいに射命丸に後ろから抱きつかれて、思わずへんな声が出た。そのままふわっと体が浮き上がり、あたいは射命丸に抱き上げられていた。いっしょうけんめい体をじたばたさせるけれど、射命丸の腕の力はちっともゆるまない。
「ぬおお、はーなーせー!」
「ぜったいに離しませんよ! 伝統の幻想ブン屋の名にかけて!」
「ぎゃー! ちかん! へんたい! ロリコンやろう!」
「野郎? 私は女性です。それをいうならロリコン女郎では?」
「そんなこと知るかー! はなせー!」
「いいえ離しません! 痴漢やら変態やらロリコン女郎やら好き放題言われた挙句パンツ一丁にされてたまるものですか! こっちも命がかかっていますからね! 記者生命という命が!」
「終わってしまえ、そんなもの!」
「いいんですか? 終わらせてしまっていいんですか? 私、生活できなくなって、チルノさんに一生面倒見ていただきますよ? それでもいいんですか?」
 う、とあたいは暴れるのをやめた。だれかのめんどうを見るお金なんてあたいも持ってないし、そんなこと、最強の妖精がすることではない。
「それはちょっと……嫌かも」
「そうでしょう、そうでしょう。少しショックですが、どうです、考え直していただけます?」
「うー……」
 射命丸の腕の中でちょっと考え込んでいると、髪の毛になにかが触れるような感覚があった。鼻でなにかを嗅いでいるような音も聞こえる。なんだかむず痒くなって、
「な、なによ?」
「いえ、チルノさん、いきなりへんなことを言うようであれですが、あなた、やわっこくていい香りがするんですね」
「へ?」
「ちっこくてやわらかくて、ひんやりして、どこか涼しくなるいい香り……」
「え? え?」
「ああ、たまりません。ご迷惑でなければ、このまましばらくあなたのことをぎゅーさせていただきたいのですが」
「え? え? えええ?」
 いつしか、がっちりあたいを抱きしめていた腕の力が緩み、気づくと、射命丸はあたいを優しく抱きしめなおしていた。射命丸の胸の音と体温が伝わってくる。そして、首筋に射命丸の熱い吐息がかかって、妙にぞくぞくした。あ、やばい。顔があつくなってきた。おまけに変な汗もでてきたし、これはあれだ、ていそうの危機とかいうやつだ。そうに違いない。あたいは詳しいのだ。ちょっぴり黙ったあと、あたいはもう一度叫んだ。
「へ、へんたいだー!」
「変態だなんて人聞きの悪い。私はただ、かわいいものを愛でたいという乙女心とこの感触を堪能して追求し世の中に知らしめたいというジャーナリスト魂のもと……」
「やだやだやだ! はなせバカー!」
 こうなったら切り札だ。あたいは全身から吹雪よりも過酷な冷気を放った。
「あややや!」
 とっさに、射命丸が腕での拘束をとく。狙い通りだ。あたいはすぐさま距離をとって、深追いできないようにだめおしの弾幕を張った。
「バカ! バカ! バーカ! もう追ってくんなー!」
 わめくように言って、あたいは一目散に飛び出した。これは敵前逃亡じゃない。戦略的撤退だ。あたいの命とかていそうとかを守るための。
 射命丸が見えなくなるくらい遠くのほうまで飛んできて、あたいは大きくため息をつく。なんだったのだろう、あいつは。あんなにあぶない奴だったのか。これは要注意ね。思わぬところから強敵があらわれた感じだわ。気をつけないと……。
 もう一度ため息をつき、あたいは自分の胸をおさえた。まさか秋にもなって、誰かにぎゅーされるなんて思わなかったから、どきどきがまだおさまらない。びっくりしてじたばた暴れてしまったが、でも、最後にやさしくぎゅーってされたのはなんというか、ほんのちょっとだけ、
「あったかくて、きもちよかった……かな……」
「でしたら何度でも抱きしめてさしあげますよ?」
「ひゃっ!」
 真後ろから声がして、あたいは死ぬほど驚いた。振り向くとそこには先ほどの変態が。
「あんたいつの間に」
 ちっちっち、と射命丸は指をふり、
「私を誰だとお思いですか? 幻想郷最速の天狗が獲物を逃がすわけがないでしょう。と、言うわけで……」
 射命丸の目があやしく光って、あたいの背筋に冷たいものがはしった。たぶん死の予感だ。
「チルノさん、ぜひとも今一度のぎゅーを! ちょっとだけ、ちょっとだけでいいですから!」
「くーるーなー!」
 こうして始まった、あたいと射命丸のぎゅーされては逃げ出してを繰り返す追いかけっこは一日中続いたのだった。

『氷精の舞う空』了 
ぼくもチルノを後ろからぎゅーして生足で蹴り飛ばされたいです。
弥生雨
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コメント



0.860簡易評価
2.90名前が無い程度の能力削除
やっぱり文ちゃんは痴漢で変態でロリコンじゃないか!
これは翌日にでも記者生命が終わりますね…
3.90絶望を司る程度の能力削除
蹴り飛ばされたあとはゴミを見る目付きで見られるわけですね!
7.80奇声を発する程度の能力削除
なんという
8.90リペヤー削除
二人ともかわええwww
11.80名前が無い程度の能力削除
何故か天狗はロリコンが多いイメージがある…
17.100名前が無い程度の能力削除
へ、変態だー!
けど二人が可愛いからイノ...イノ...イノセ?イノセクト?だー!

あややが所々イケウーメンオーラ出してて良いですね
20.100名前が無い程度の能力削除
あややはロリコンですな。うん。
23.80名前が無い程度の能力削除
文チル好き
24.100名前が無い程度の能力削除
やっぱりひどくやらしいロリコンじゃないですかー!
チルノも「ちかん」だの「へんたい」だのけっこう耳年増ですねぇ