Coolier - 新生・東方創想話

祟らぬ小傘

2010/05/11 13:09:11
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幻想郷には沢山の妖怪が居る。そして、比例するかのように、色々な人間も居る。
人の輪で生きる者。人としての規格を超えた者。
妖怪を疎んじる者。人でありながら妖怪と親しき者。

とある里の外れに、小さな家があった。
数十年の時の重さに腰を曲げた老婆が一人。彼女は傘を作っていた。
年のせいでもあろう。
彼女の傘を作る速度は、とても遅い。一日に三本が限度になっていた。しかし、その代わりに傘の一本一本を丁寧に作っていた。
老婆には昔、一人娘が居た。今はもう、居ない。この世には居ない。
つい、この最近の事だった。崖から落ちて死んだのだ。その後、火車の猫に死体を奪われたらしい。今はどうなっているのだろう?老婆は答えを知らない。

そんな経歴を持ちながら、彼女は人妖問わずに傘を作っていた。

腕が良いのだ。強大な妖怪でさえ、彼女に傘の注文をするぐらいに。

――――結界を塗りこんだ絹布で傘を作って欲しい。
――――この世界で最も強固な”花”で傘を作って欲しい。

断れば殺されるかもしれない。作った傘が気に入られなければ、酷い目に合うかもしれない。
そんな邪念さえ抱かずに、ただ丹念に傘を作る。
誰も彼もが彼女の傘を気に入った。それが、老婆にはとても嬉しかった。
ただ、老婆を嫌う人間も居た。妖怪を疎んじている人間だ。

巫女に頼らず、自分達で妖怪の退治を生業とする人間達。
その集団の中で一人、狐のような目の、体が細い少年がいた。集団に属する人間の殆どには、妖怪と敵対する理由があった。
親を殺され、妻を食われ、子を嬲られ、己の体を千切られ――――。
様々な理由はあれど、何かしらの恨みがあった。

ただ、狐目の少年には理由がなかった。
それは彼が孤児という要因があるのかもしれないけれど。少年は、妖怪を殺すのが好きだった。
自分よりも強い者の悔しがる顔が、好きだったのだ。

しかし、妖怪の賢者が顔を表に出すにつれ、幻想郷にルールが増えていった。
妖怪が人を襲わなくなったのだ。

どこか、幻想郷の仄暗く赤い空気が薄れていった。

そんな時代に生れた少年は、つまらない、と感じていた。
これも全て妖怪の賢者の所為だ。どうすれば良い?何をすれば良い?
一体全体、何をどうすれば、あの血が見れる幻想郷に戻れるのだろう?

考えて考えて考えて――――、悪意を持って、害意を秘めて、殺意を宿して、考えて。
ある日。
人里でとある話を聞いた。少年は歓喜した。人里離れた傘の職人の元に、妖怪の賢者が訪れたのだ。なんでも、絹布に結界を織り込んだ大事な大事な傘らしい。
少年はどうすれば良いのか、答えを見つけた。
そして望み通り、確かに一晩だけ、少年は血で染まる幻想郷に回帰した。
















人里での買出しの帰路だった。
博麗 霊夢はふわふわと空を飛んでいた。右手には大根を覗かせた手提げ鞄を持っている。
空は憂鬱そうに曇っていた。灰色の曇天の所為か、どうにも空気が湿っていた。
これは一雨降りそうね、と霊夢は呟く。
ただ、なんとなくまだ雨が降るとは思ってもなかった。割かし、自分の勘というものを信じていた霊夢は、飛行速度を変えることなく悠々と帰宅していく。
緩やかな風が髪を撫でる。静かな空だった。地上の草木が触れ合い、擦れる音までも聞こえてきそうだった。
そんな中、不意に濁った音が生まれる。わー、とか、きゃー、とか。姦しい声だ。
なんとはなしに面を上げると、あまりにも信じられない光景があった。

「はぁ?」

茄子色の傘を差した少女が居た。少女の事は知っていた。先の星蓮船を追っていた時に遭遇した付喪神だ。
付喪神と言っても妖怪の端くれだ。そんな傘の妖怪が無数の鴉に囲まれ、苛められていた。
蒼天色の髪を鴉に啄ばまれ、寝起きのようにボサボサになっている。
しかも、何故か少女は目を閉じている。あれじゃあ、撃退しようにも出来ないだろう。
馬鹿だと思いながら、霊夢は見てみない振りをする。
一々関わるのが面倒なのだから。加え、霊夢は妖怪退治の巫女だ。退治すべき対象を助ける訳もない。

「にしても、あの鴉ってアイツじゃないでしょうね」

不意に霊夢は何処からか、視線を感じた。
鴉を使役するのは鴉天狗と相場が決まっている。写真を取られれば厄介だろう。
『博麗の巫女、弱き者を見捨てる』
そんな見出しの新聞が脳裏に浮かぶ。霊夢の予想した人物ならば、捏造など躊躇なく行うはずだ。
はぁ、とため息を付ながら霊夢は振り返る。
瞬間。
耐え切れないとばかりに小傘が全身を暴れさせた。左手を振り回し、肩を左右に揺さぶり、上半身を屈めて戻した。
慌てて鴉たちは翼をはためかせ、一斉に距離を取る。数瞬とはいえ、小傘はその隙を逃さなかった。

「”驚雨”ゲリラ台風!」

傘をくるり、と大鎌のように振るって水飛沫を散らした。強い風が吹き、雨のような水弾が縦横無尽に駆ける。
翼を濡らした為か、鴉たちは孤を描くように下降していった。
至近距離で避けられる密度ではなかった。それに。雨は等しく降り注ぐ。雨を模した弾幕も、その例外ではなかった。
だから、霊夢は頬を引きつらせた。水滴が肌を打つ感触。ぼとぼと、と手提げ鞄に水滴が溜まっていく。

「あっは! 鴉ごときが相手になるわけないじゃない!」

雨が止んでいく。鴉の姿はない。遠くへ逃げていったのだ。
小傘は楽しげに胸を張って、誇っていた。その様は自分を讃えているようでもある。自分の発言が誰かの逆鱗に触れたことも知らずに。

「じゃあ、私が相手なら不足はないわね?」
「ふぇ?」

突然、小傘の背後から身の毛もよだつ声が発せられた。
空間移動した霊夢がそこにはいた。ぽたぽたと、前髪から雫をたらしている。
何故、霊夢がびしょ濡れになっているのか?
小傘は瞬時に理解した。理解して、しまった。季節は春だけど、小傘は雪に覆われたような圧力と寒さを感じ、背筋を震わせ始める。

「この落とし前はどうつけてくれるのかしら?」

霊夢はニッコリ笑って首を傾けたのだった。























博麗の巫女といえば凶暴さで有名だった。
現に小傘自身も二度ほど、撃退されている。ただ、それはあくでも弾幕ごっこでの話。
実際にゆっくりと言葉を交わす機会がなかっただけの話なのだ。本当はもっと――鬼のようだった。

「うぅ、私もう握れないよぉ」
「はぁ?五月蝿いわね。私は今すぐにでもお風呂に入りたいの」

そう告げて、霊夢は巫女服の袖口から御札を取り出した。退魔符だ。
小傘は付喪神という妖怪である。妖怪がその符に触れるだけで、火で炙られるような痛みが生まれる。
ひぃ、と子馬のように鳴きながら小傘は手に力を込める。そして斧を振り上げ、前方の薪へと振り下ろした。
小気味良い音が曇天に響いていく。小傘にしてみれば、とても空虚な音なのだけど。
綺麗に両断された薪が転がり、嫌々ながらも、その片方を平らな石の上に置く。

「ほら、さっさとする。服まだ濡れてるのよ?これで風邪引いたらアンタに看てもらうからね」
「えぇ~ん、もう嫌だよぉ、マメできちゃったもん。スレて掌が紅くなってるもん」
「全身を血で紅くするよりは良いでしょ? ほら、さっさとする!」

霊夢の鋭い恫喝が飛ぶ。再度、小気味良い音が生まれた。
二つに分かれた薪を霊夢は手に取り、さきほど両断した薪を設置する。
小傘は泣きそうに目じりを下げる。でも、どうしようもないのだ。弾幕ごっこで霊夢に勝てる気がしないのだから。
もう一回、自棄になって斧を振り下ろし、嘆く代わりに薪が小気味良い声で叫んだ。
勢いが良かったのだろう。竹を裂くように薪は割れ、斧の刃が土台に弾かれた。
柄を通じて、強い衝撃が雷のように手のひらまで上った。
痺れた手を振りながら、小傘は一滴だけ涙を溢す。

「もう無理! 絶対無理! 手ぇ痛いもん。退治したければすれば良いじゃない! 私、逃げるから」

斧の刃先が地面に落ちる。
小傘は両腕を組んで、そっぽを向いた。

「あ、そう。じゃあ、もう良いわ」
「ふぇ?」

本当に退治するつもりなのか?
小傘は呆然と霊夢を見やる。

「こっちに来なさい」

割った薪も放ったまま、霊夢は小傘の右手を掴む。
慌てて、小傘は腰を屈めた。地面に置いておいた傘を手に取るためだ。
何処へいくのだろうか?
薪を割っていた裏庭から、大きく神社を迂回して境内へと連れられた。
そして、「ここで待ってなさい」と霊夢は一言だけ、残して消える。瞬きする間もなく、空間移動したのだ。
小傘はますます、本当に霊夢が人間なのか? と首を傾げそうになった。

「はい。これ持って」
「うひゃぁあ!」
「アンタが驚いてどうすんのよ」

これまた唐突に小傘の背後から、霊夢が声を掛けた。振り返ると、霊夢は鼻で笑いながら竹箒を手渡した。
理解ができないままに、小傘は素直に受け取る。傘右手に、左手に箒。

「え? これって何?」
「私、夕飯の仕込みとお風呂焚いてくるから掃除よろしくね」
「ごめん、霊夢? 意味が分からない――って、待ってよぉ!」

小傘が言い終わる前に、霊夢の姿が消える。
そうホイホイと瞬間移動ばっかり多用しないで欲しい!と、小傘は叫ぶ。

「まったく、その通りね」
「うひゃぁあっ!」

ふー、と耳元に息が吹きかけられる。
小傘は慌てて飛び跳ね、距離を取った。

「ハロー。お元気かしら? 小傘ちゃん」

そこに居たのは、上半身だけの少女だった。空間の裂け目から、体を覗かせているのだ。
少女こと、八雲 紫は楽しげにひらひらと掌を泳がせている。

「お久しぶりね」
「きゃ、きゃあ! お化けーー!」
「何言ってるのよ。覚えてないの……?」

小傘は慌てて逃げ出す。カラン、と放り投げられた竹箒が鳴いた。
さしもの紫でさえも、悠然とした笑みを転じさせ、眼を丸くしている。

「ちょっと、待ちなさい、貴女妖怪でしょうにお化けに驚かないで頂戴」
「霊夢ー! 変なのが居るよー!」
「変なのって!」

若干傷つきながらも、紫は届くはずもない手を伸ばす。
面倒な事になるまえに帰ろうかしら? と、紫は憂鬱に覆われた。
ふと、小傘は自分の右足の踵に左足を躓かせた。盛大に境内の敷石の上を滑っていく。
あれは痛そうだ、と紫は顔を顰めてしまう。「やれやれ。仕方ないわね」 と、紫は呟きながら、隙間の中に体を落とす。
そして、滑り落ちるように小傘の眼前に着地した。

「大丈夫かしら?」
「うぅっ、もう無理よぉ。今日は踏んだり蹴ったりだわ」
「それは同情するわねぇ。ほら、立ちなさい」

差し出される手を借りて、小傘は立ち上がる。
膝頭の皮はずるりと、大きく剥けていた。敷石に砂利や土が少ない分、はっきりと真っ赤な肉が覗いていた。
妖怪だからすぐに治るとはいえ、見るからに痛々しい。
ただ、痛みを感じていないのだろう。小傘は差し出された手の張本人を見つめ、ころりと、珠のように言葉を滑らせた。

「あ。紫のおばちゃん」

素知らぬ顔で告げられた言葉だった。
紫の全身に電流が走った。くぅ、と歯噛みして、喉から出そうになった憤りを飲み込んだ。
つい本当にもう家に帰ろうかと、頭を抱えたい衝動に駆られてしまう。
しかし、それでは赴いた意味がない。仕方ないと、紫は微笑を顔面に貼り付けた。

「ねぇ、小傘?」

紫の右手が流れるように小傘の頭へ置かれる。存外強い力だった。
ぐい、と上からの圧力に首の骨が軋んだ。

「言葉って難しいわよねぇ? 少し間違えるだけで相手を傷つけたり、怒らせたり、四重結界を撃たせたり、本当に大変よね? 私の言ってること、分 かってくれるかしら?よく理解して欲しいわ。私の手を汚したくないもの」
「ぅ、うん。紫さん、お久しぶりです、はい」
「それで良いのよ。名付け親に対し、あんまり酷い事は言っちゃいけないものよ」
「でも、なんでおばあちゃんって言ったらいけないの?」
「時間を重ねた妖怪には色々あるのよ」
「ホント? さすが紫! 年増ね!」

純真無垢な瞳には悪意がない。
こういうのを無邪気と呼ぶのねぇ、と紫は内心でため息を付いた。ついでに四重結界も撃った。
きゃー、と慌てて小傘が脱兎のように逃げる。
裁断するかのように結界が回り、辺りに引力を帯びさせた。その力は強く、飛び跳ねた小傘も引き寄せる程だった。

「待って待ってよ! ごめんなさいー! 悪ふざけが過ぎましたー!」
「貴女って本当に身内には強気ねぇ。親近感の所為かしら?彼我の差を見極める目を濁らせてしまったわね。私の責任になるのかしら?しっかりくっきりはっきりキッチリとその体に叩き込んでおきましょうね」

結界の回転が加速していく。
小傘が泣き叫び、いよいよ膝をつく。敷石の隙間に指を這わせて体を支えているのだ。
ふふふ、と恍惚な表情で紫は頬を綻ばす。なんだか楽しくなってきたのだ。自分がサデズムだと薄っすら自覚はしていた。けれども、式神である藍の反応は薄く、霊夢に関しては聞き流すこともしばしば。だから、打てば鳴る鐘のような小傘の反応は理想的とも言える。

「こら。なに小傘虐めてんのよ」

ガン、と紫の頭部から鈍い音が生まれた。
背後から霊夢が殴ったのだ。霊夢は呆れた風に両手を腰に当て、嘆息している。

「アンタねぇ、趣味が悪いわよ」
「あら? 今日の夕飯は何かしら?」
「おでんよ」
「おでんになら、これが丁度良いわね」

結界を閉じて、紫は手元に隙間を開いた。そして、そこから這い出てきた一升瓶を取り出した。
琥珀色の瓶を颯爽と、霊夢は奪い取る。

「これ私の家のじゃない。アンタもう帰れ」
「まぁまぁちょっとぐらい良いじゃないの」
「はぁ、じゃあこれ」

先ほど、小傘が放り投げたであろう竹箒を、霊夢は紫の胸に倒す。
呆然としている紫の隙を見たのだろう。地面に伏せていた小傘は駆けた。紫を迂回しながら、霊夢の背後についた。
そして、かくれんぼをする子供のように、霊夢の背後で肩を縮めながらも、紫の顔色を伺い始める。

「今日は体が重いのよ。だからアンタが掃除してくれれば助かるわ」

飄々とした霊夢は誰が相手だろうと、自分の姿勢を崩さない。
紫は大妖だと、小傘でさえも知ってはいた。まさか、紫にまで掃除を強要するとは誰が予想できただろうか?
小傘は内心で怯えながら、事の推移を見守ってしまう。

「……ふぅ。なんて酷い話なのかしら」

疲れたのか、紫は重たげな息を吐いた。

「少し、タイミングを見間違えたみたいね。また出直すことにするわ」

やんわりと微笑を浮かべ、紫は背後の空間を裂く。
不意に、小傘は言葉を投げかける。

「あ。待って」
「まだ何かあるの?」

ぴょこん、と小傘は飛んで、紫に姿を見せる。そして、嬉しそうに口を開いた。

「私、今楽しいよ。ありがとね」
「そう。それは、良かったわね」

一言だけ残して、紫は隙間の向こうに消えていった。
ただ、その様子を霊夢は信じられないとばかりに、見つめていた。
紫が人間のようだったからだ。一瞬だけ、哀れむような、慰めるような笑みを浮かべたのだ。
いつも、紫は悠然と嘲笑っていた。だから、それは霊夢の知らない表情だった。

「ね、霊夢。掃除してないんだけど……?」

ふと、控えめに小傘は言うのだけど。不思議そうに霊夢は首を傾げる。

「あれ真に受けてたの?」
「どういうこと?」
「逃げれば良かったじゃない」

あっ、と小傘は納得した。
霊夢が何故、一人で掃除をさせようとしたのか。それはつまり、逃げ出すよと言った小傘の意思を尊重したのだろう。
しかし、もう一つだけ。自分の言葉を思い返し、小傘は尋ねる。

「でも、逃げたら退治するでしょ?」
「あのね。私がそんな面倒な事をするはずがないでしょ」

そこまで仕事熱心なわけじゃあ、ないわよ。と、言いながら霊夢は踵を返した。
理由は分からないけれど。小傘はなんだか嬉しいと思った。そして、笑みを溢しながら、霊夢の足取りを追従するように付いていく。

「ねぇ、ねぇ、霊夢ってさ」
「んー?なによ」
「霊夢って分かりづらいけど、優しいね」
「うっさいわ。馬鹿」

不意に、ぽつり、と地面が囁いた。
霊夢は空を仰ぎ見る。水滴が一つ、二つ、秒を追うごとに増えていく。細い雨に激しさが伴うのには、そう時間を要さなかった。
小傘は兎のように跳ねた。霊夢の隣に並び、持っていた傘を広げる。
えへへ、と小傘は霊夢に笑いかけた。霊夢は憂鬱そうにため息を溢す。面倒だと思っていた。自身の立場上、妖怪と距離を縮めても、虚しくなるだけなのだ。
弾幕ごっこなら、まだ良い。しかし、本格的に退治をする状況になれば、面倒事になるはずだ。
霊夢は小傘をじーっと見つめ、ふと視線を逸らす。

「はっ。付喪神がそんな大層な事、するわけないわね」

なんとなく浮かんだ考えを否定する。なんのことやら? と、小傘は首を傾げるのだけど。
ただ。
異変の時に霊夢は勘を頼りにする。そして、今。”なんとなく浮かんだ考え”を否定した。
ソレは、してはいけないことだった。否定しては不味い事だった。
雨の音が大きくなっていく。力強い雨は夜になっても降り続けるのだろう。
そう予感させるほどの雨音が、全てを覆いつくしていた。



















私は死んだ。崖から落ちて、あっさりと。
敬愛する祖母の為に、唐傘の塗料になる草を取りに行ったのだ。それが失敗だった。
せめて、里の中で死ねれば、あんな事にはならなかっただろう。

「お嬢さん。怨霊を作るのは存外、難しいのさ」

壊れかけ、軋んだ心に彼女は笑いかけた。
彼女はお燐と呼ばれていた。呼んでいた者はこいしという少女だった。
ここが何処なのか、名前は分からない。ただ、私は疲れていた。体は無いけれど、ぐちゃぐちゃと潰される何かを眺めていた。その何かは、見覚えのある少女の遺体だ。
こいしが重たげに鉈を振るう。
少女の体は既に息が無いけれど、陸に上がった魚のように体を跳ねらせた。同時に飛沫が上がる。血だ。おびただしい血の匂いが部屋の中に充満していった。
私は寺小屋で慧音先生のくれたチョコレートを思い出した。
口に入れると甘い匂いが広がり、とてもとても幸せな気持ちになれた。もし、この鼻を突く匂いがチョコレートだったら良かったのに、と思った。
だって。
私はその少女の体が元は自分のだと知っていたからだ。私の前で私の体を壊す。それは私を怨霊にする為に。
嗚呼、お家に帰りたい。
ぼんやりした頭で願っていた。そして、見透かされていたのだろう。こいしの傍に立っていたお燐は笑い出した。喉から搾り出したような、薄気味の悪い声で。

「良いさ、良いよ。連れてってあげようじゃないのさ」

不意打ちだった。私は耳を(無いけど)疑った。

「こっいし様ー。地上に行ってきます。その体はあげますよ」
「うん? いきなりどうしたの? まだ怨霊になってなかったの?」
「はいー。どうやら未練が強いみたいで。なので、こいし様が飽きたら他の奴らの餌にしちゃってください。あいつ等、ハンバーグ好きですから」
「うふふふ。そうだねぇ、お燐は大人だもんねぇ?」
「いやぁ、私は食い気より、趣味優先ですから」

お燐は手を伸ばし、私を片手で掴んだ。今の私はそのぐらいの大きさらしい。
鏡で見てないから分からないけど。

「じゃっ、行ってきます!」

指を揃えた手を額に合わせ、お燐は元気よく飛び出した。
地霊殿を離れ、艶やかな光を放つ繁華街を駆けていき、洞窟を走っていく。

「お嬢さん。怨霊を作るのは存外、難しいのさ」

お燐はさっきと同じ言葉を繰り返した。続けて、「怨霊を作るには諦めさせるのが一番なのさ」と告げる。
とても弾んだ声だった。嬉々とした雰囲気が伝わってくる。
ふと、彼女に対し疑問を抱いた。出逢って間もないけれど。お燐はいつだって、楽しそうに笑っている。それ以外の表情は見たことが無い。
お燐が地を蹴り、一跳ねするだけで鳥が飛ぶような高さまで届いていた。空には大きく欠けた月が浮かんでいた。薄っすらと雲が流れている。
私はひっそりと彼女の様子を窺った。

「良ぃ夜だね。こんな日には誰か、死ぬべきだと思わないかい?」

お燐は黒瓦の屋根に着地し、また跳ねる。少女が呆然としている間に、人里を抜けていく。
とーん、と跳ねる。
その横顔には笑みが浮かんでいる。夜風が気持ち良いと目を細めていた。
嗚呼、と私は納得する。彼女に生死は関係ないのだと。
死体だろうが、心地よい月夜だろうが、お燐は楽しめるのだ。それが羨ましいと思った。
だから、少しだけ。私は怨霊になっても良いかもしれないと、馬鹿なことを思ったのだ。

「未練は祖母に会いたいだってね? 良いよ、良いさ、問題ないよ。会わせてあげようじゃない。それに怨霊になるのも、そう悪いことばかりじゃないよ。力が付くのさ。怨むだけで誰かを殺せるぐらいにね。それが強ければ強いほど良い。そうすれば、さとり様の助けにもなるしぃっねぇっっ!」

一際、大きく跳ねた。月に届くのではないかと、錯覚してしまうぐらいに円を描く。頂を過ぎ、重力に従って落ちていく。その先には人里外れの一軒家があった。
馴染み深い家だった。なにせ、私が生れて、ずっと時を過ごしていた場所だからだ。
お燐は音もなく着地した。そして、私に薄っすらと笑いかける。

「どうだい? これで気は済むだろ? うん、おや、ありゃりゃ?」

頭に生やした猫の耳を動かしながら、お燐は家の戸に耳を当てた。
同じように私も体を戸に当てる。誰か、来訪者が居るらしい。

『良いから賢者の傘を寄越せ。そうすれば命だけは助けてやる』

全身が凍りつく。
害意を含んだ若い男の声だった。嘘だと思った。しかし、恫喝はまた生まれ、お祖母ちゃんは静かに『そんなことはできない』 と頑なに抵抗していた。
やめて、殺されちゃうよ! 体があれば私は叫んでいただろう。
心が恐怖で震えだす。親の居ない私を大事に育ててくれたお祖母ちゃん。失いたくない、大事な人だった。

『ああ! いい加減しつこいなぁ! この傘みたいに壊され――』

何か嫌な音が生まれた。見えなくても私には不思議と理解ができた。
お祖母ちゃんは駆け出した。そして、何かで斬り裂さかれたのだ。何か置物が倒れたような音が生まれた。
「あぁ、なんでだよ……」と弱弱しい男の声が届いた。

聴きたくもないのに、私は耳を澄ませてしまう。お祖母ちゃんは荒い呼吸で言葉を紡ごうとしていた。

『これは……あの子の傘だか…ら…』

静かな夜だった。
お祖母ちゃんの呼吸音が小さくなって、消えていくのも分かってしまうぐらいに。
聞き耳を立てていたお燐は、全身の気配を逆立てて、戸を蹴破った。

「いやぁ、やっちゃったね! お兄さん!」

開けた戸から、私は惨状を見た。見て、しまった。
手に大振りな刀を持った少年と、倒れ付している祖母の体を。背中から泉のように血が溢れ出ていた。止まることはない。祖母は息絶えていた。

「っ、なんだお前は?」

狐目の少年が驚きを殺しながら、お燐に刀を向ける。
くくっ、と臆する事無くお燐は対峙した。

「私の手が汚れなくて助かったよ、嬉しいねぇ。ほら、どんどん恨みが強くなっていく。そりゃそうだねぇ。地上に残した身内が気になって、自分の体がバラバラにされても発狂しなかったぐらいだからね。そりゃ、キレるよね」

お燐が何かを言っている。私にはその声が粘土のようにグニャリと歪んでよく分からなかった。
ゆらゆらと視界が渦を巻く。とても気持ちが悪い。自分の中がひっくり返る。
体の感覚を覚えていたのだろう。頭の中が捻じ曲がったように。内臓が火で炙られたように。洪水のような、激しい何かが私を飲み込んでいく。
そして、私が最後に認識したのは、死んでしまったお祖母ちゃんではなく。

お祖母ちゃんが守ったであろう、――――紅い唐傘だった。

それから暗く重たい何かだけが私になった。
憎悪だろうか?怨念だろうか?意識が感情に引きずられる。殺そうと、酷く醜いざまにしてやろうと思った。
しばらくは業火のような衝動に突き動かされていく。このままでは不味いかも、と分かっていた。地獄に落ちる。とてもとても虚しくなるだろうと感じていた。
それでも私は止まらない。だって、お祖母ちゃんが殺されたんだから、殺し返してやらなきゃあ。

「がっ、あぐぅ?」

真っ暗闇の中で突如、私は頭上から押しつぶされた。

「名前を付けるわ。そうね、名前は、祟らぬ小傘。そして、一文字だけ隠して」

不意に闇が晴れ、視界が広がっていった。
聞き覚えのある声だった。暖かく、柔らかい。まるで陽射しのようだった。私の中の暗く重たい感情が薄れていく。
ふと、私は気づく。
この声の持ち主は紫だと。そして、私は私じゃないことに。

「多々良 小傘、と」

そうだ。私は――――。

ぱちり、と瞼の開いた音が聞こえた。
嗚呼と私は思い出す。これが夢なのだと、私は、霊夢は目を覚ます。
今のはなんだったのだろうか?
布団の中からもどりと、右腕を出す。額に触れると、油のような滑った汗が広がった。

「祟らぬ、小傘……?」

どうにも自分のイントネーションと夢の中で紫が告げたのとは違う気がした。ただ、それが何なのか想像もつかなかった。
同じ言葉を何度も口にしながら、ふと家の中を誰かが駆け回る。荒々しい足音は次第に近づいてきた。
嗚呼、そういえば小傘を泊めてたわね。と、霊夢は呟く。
昨晩は雨が酷く、風が激しかった。嵐と言っても過言はないだろう。さすがの霊夢も風雨の中、出て行けとは言えなかった。
ドタバタと騒がしい音と共に、寝室の襖が開かれる。

「霊夢、どうしたの!」

両手で襖を開け放ち、小傘は現れた。慌てた表情で、霊夢と同じように額に汗を浮かべている。

「五月蝿いわねぇ。まだ早いでしょうに。何かよう?」
「えっ? 霊夢が叫んでたから、何かあったのかなって」
「叫んでた? 私が……?」

夢のせい、だろうか?
霊夢は布団ごと、上半身を起こした。薄紅で染まった単色の寝巻きだった。少しだけ開いた胸元から、ひんやりと風を感じた。
全身に汗をかいてたのだ。それほどの悪夢だった。それほどの悪夢だったのに、霊夢は「あれ?」 と気づく。

「どうかしたの?」
「いえ、なんでもないわ」

額を押さえながら霊夢は首を振った。
何の夢を見ていたのか、思い出せないのだ。ただ一言だけを除いて。

「まぁ良いわ。ちょっとこっちに来なさい」
「ふぇ?」

小傘は眼を丸くした。
布団を捲くり、霊夢は体を覗かせたからだ。寝巻きは汗のせいで、ぴったりと霊夢の体型を表していた。
細い腰から段差のある膨らんだ胸。そして少しだけ見える肌色の胸元。同性だけど、小傘の心臓が早鐘を打ち出した。
花に誘われるように。小傘は唾液を飲み、喉を鳴らす。

「……良いの?」
「ふざけたことしたら漬物石に封印するわよ。それにまだ朝じゃないんでしょ? よく分かんないけど、まだ眠いのよ」

仕方なく、小傘は誘われるままに布団へと入っていった。霊夢の真意が分からないから、恐る恐ると言った様子だった。
霊夢は平然とした表情で布団を被る。しかし、霊夢もまた、そんな自分の行動がよく理解出来ていなかった。
夢見が悪かったのだろうか? 酷く心が落ち着かなかった。
だから何故か、霊夢はそうしないと駄目な気がした。それだけの、ことだった。
















朝の光景だった。
朝食も終わり、霊夢と小傘はお茶を啜っていた。丸いテーブルを挟み、「ほぅ」 と息をついたのはどちらなのか。もしかしたら二人かもしれない。
肩を撫で下ろし、小傘は柔らかそうな頬を緩める。

「ねぇ、霊夢って料理美味いね」

褒められ、それでも霊夢は気にいらないと片眉を吊り上げた。
小傘の褒め言葉はこれが始めてじゃなかったからだ。朝食の最中、一口ご飯を入れるたびに「美味いよ」 と叫ぶように告げていたからだ。

「何回も言われると、あんまり嬉しくなくなってくるわね」
「それだけ美味かったってことだよ。料理と付喪神、その調味料と解きましてー」
「あーもう分かったわよ。食休みなんだから静かにしなさい」
「はーい」

弾んだ声で小傘は答えた。窘められても余韻は残っているらしい。満足げな表情は一向に変わらなかった。
ふと、何かを思い出したように小傘は両手を合わせる。

「私が食器洗おっか?」
「割りそうだから良いわよ。それより境内の掃除してちょうだい。その為に朝食まで用意したんだから」
「うっわぁ、素で言った?フツーそうい事まで言わないでしょ?」
「五月蝿いわねぇ。無償で妖怪が手助けなんて、私が落ち着かないのよ」
「はいはいっと。分かったよぉ」

飲み干して湯飲みを置き、小傘は立ち上がる。んー、と背筋を伸ばした。

「んじゃぁ、私掃除してくるよ」
「あ、ちょっと待って。小傘に聞きたいことがあるのよ」
「ふぇ? なにかあった?」

あどけない表情で小傘は首を傾げた。
夢の内容は忘れてしまったけれど。霊夢はとある言葉だけを覚えていた。なんとなく気になったのだ。

「ねぇ、アンタの名前って多々良 小傘よね?」
「うん? そうだけど、なんでそんな事を聞くの?」

いや、と霊夢は首を振って、なんとなく口にする。――祟らぬ 小傘、と。
霊夢からすれば特に意味もない言葉だった。ただし、小傘にとっては違った。小傘は苦笑いと冷や汗を浮かべ、右目を掌で覆いながら俯いた。寒くもないのに肩を震わせる。
「くっ、ふふ」 と、薄気味悪い声が生まれた。ソレが小傘の口から出たのだと、霊夢が理解するには数秒を要した。

「……小傘? どうかしたの?」

いつもの日常。緩やかな朝の時間。平和で暖かい雰囲気が崩れていく。代わりに、薄ら寒い空気が辺りを漂い始める。
霊夢は何か、嫌な予感が頭の中を過ぎった。ふと、自分が巫女服の袖へ、手を入れてる事に気がつく。中には退魔札が入っている。
小傘を、退治しようとした?
自身の問いに、思考では否定する。そんな訳がないと。しかし、体は実際に動いていた。無意識で退治しなければいけないと、感じたのだ。
俯いたまま、小傘は戸惑う霊夢を見上げた。下から舐め付けるような、ねっとりした視線で。

「っ、小傘? ちょっと。返事しないさいよ」
「うぅん? あ、お腹痛い!」

白々しく乾いた声で小傘は体を丸める。声をかける暇もなく駆け出した。居間から遠ざかっていく足音を聞きながら、霊夢は人差し指で頬を掻く。どうにも頭が回っていない気がした。
白昼夢というべきか、狐に騙されたというべきか。

「なんだったのよ……?」

霊夢は置いてきぼりを食らったように、呆然としていた。
しばらく経ってから、朝食の片づけを始める。自分と小傘のお椀を重ね、小鉢を乗せる。それに味噌汁を入れていたお椀に長方形のお皿もある。
一回で片付けきれない。霊夢は「面倒ねぇ」 と、ぼやいたのだった。
















昼を過ぎた頃合だろう。暖かい陽射しは眠気を誘う。縁側に座っている霊夢はぼんやりした頭で、小傘の様子がおかしいと感じていた。
お腹が痛いと出て行ってから、小傘は姿を消したのだ。何処かへ行ったのか、食器を洗い終えた霊夢は神社の周りを探した。
正午を回りかけ、霊夢は小傘の分の昼飯をどうしようかと考えていた時だった。
タイミングを見計らっていたかのように、小傘は姿を見せた。
昼飯を交えながら、霊夢は「何処に行っていたのか?」と尋ねても「なんでもないよう?」 とはぐらかされた。そして、昼食が終わると小傘は「境内の掃除してくるね」 と出て行ったのだ。まるで逃げるような様子だった。
霊夢は奇妙だと思ったけれど、あえて深く尋ねるようなことはしなかった。
代わりに、縁側に座る霊夢の隣で、独り百人一首をしている暇人に尋ねる。

「ねぇ、紫」
「黙ってなさいな」

紫は歌を詠み、鋭い手つきで札を取る。
微笑を浮かべながらも、眼差しは真剣そのものだった。もう家で昼寝していれば良いのにと、霊夢は嘆息して、お茶を啜る。

「紫。一つ良い?」
「……なにかしら? 霊夢」
「小傘、何かあったのかしら?」
「あらあら。博麗の巫女が妖怪の心配?」
「紫。言ってなかったと思うけど、その呼ばれ方って私嫌いなの」
「ええ、知ってるわ。ごめんなさいね」
「あっそう。なら次から気をつけてよ」

返事の代わりに、ぱしり、と札を叩く音が生まれた。
紫は歌を詠もうとする。息を吸い、整える合い間に霊夢がため息をついた。紫はふと何気なく霊夢を一瞥した。淡々とした無表情だった。しかし、顔には不安という陰りがあった。
珍しいわね、と紫はやんわりと口元を笑ませる。

「病は気から。そんな気持ちで居ると、良いことないわよ」
「今日は良い天気ね。何か良いことが起きそうね」
「それは思い込みよ」
「今の紫が言ってはいけない台詞でしょ、それ」
「思い込みって凄いわよ?呪いも人の心を利用している面もあるぐらいに」
「なんで呪いなの」

紫は正座を崩し、腰をしならせた。広げた札を片付けながら言葉を紡ぐ。

「名前には意味があるわ。名前は大事。博麗という言葉には、時が積み重なり、妖怪退治としての意味合いが込められているの。昔の巫女は博麗の巫女と呼ばれるのを良しとしていたわ。自分というアイデンティーを優先するよりも、妖怪を退治することに傾いていたから」
「へぇ、そうなの。それは寂しい人生ね」
「霊夢はソレを寂しいと言うのね。今の時代に相応しい感性だわ、だから、私は霊夢が愛しいのよ」
「昔っからアンタが色々暗躍してるのは、薄々気づいてるわ。どうでも良いから言わないだけ」
「感謝されたくてやってる訳じゃないのよ。私もそんなのは別に良いわ」

トントン、と紫は束ねた札を床に落として揃える。
霊夢は待っていた。紫はいつでも遠まわしにしか物事は話さない。だからこそ、霊夢の懸念に答えてくれるのは、どのタイミングだろうかと、耳を澄ましていた。よく聴いて理解しなければ、紫は話した気になって教えてくれないからだ。

「多々良 小傘という名前は私がつけたわ。名前には意味を持たせられる。それは呪いとも言い換えられる」
「小傘に呪いを与えたってこと?」
「妖怪は様々な理由で生まれるわ。そして、小傘はとても人間らしい理由で生まれたの。危ない危ない。そしてあの種族は名前と反して、優しく見守れるようにならなければならないの」
「全然分からないわよ、それ」
「貴女はソレを知ってるはずなのにね。まぁ、良いわ。霊夢、お客さんよ」
「……客? 誰よ」

唐突に風が吹き荒れる。やんわりと紫が手に持っていた札がこぼれ、空に巻き上げられるぐらいの強風だった。
縁側から見える庭先に大きな旋風が落ちてきた。風の喚く声が小さくなっていく。霊力で練られた風の白さも薄れ、中心から少女が一人、姿を見せる。

「どーも、お久しぶりですこんにちは。清く正しい新聞記者の射命丸 文ですよ!」
「また面倒な奴が増えたわ」
「あら?霊夢は小傘のことを面倒だと思ってたの?」
「何サラッと他人面してるのよ。アンタ以外に誰が居るって言うのよ」

不機嫌そうに霊夢は半目で紫を睨んだ。受け流すかのように紫は、くすくすと、喉を鳴らす。

「えー? 私は無視ですか?結構、格好良い登場シーンだと思ったのですが」

文の言葉を嘲笑うかのように、紫は肩を竦めた。

「全然駄目ね。私がお手本を見せてあげるわ」
「へぇ? 面白いじゃないですか。見せてもらいましょう」

ふふ、と紫は自分の体を隙間に落とした。飲み込まれていく体。伸ばされた右腕までが消えた時。
文の隣の景色がパリン、と鳴いた。まるで雛鳥が卵の殻を破ったようだった。景色が小さく割れ、破片がパラパラと落ちていく。その欠損の奥は底なし沼のようだった。
沼から清潔感のある白に包まれた手が伸びてくる。次第にヒビも広がっていき、ゆっくりと紫は全身を現していった。妙に自信が溢れた表情でもあった。
お、おー!と拍手を始める文を見て、「調子に乗るからやめなさいよ」 と霊夢は咎めた。

「ふふ、どうかしら?こういうのが格好良いと言うのよ」
「馬鹿な事しないで良いから、アンタもう帰れ」
「あ! そうですそうです。そんな馬鹿をしに来たわけじゃないんですよ」

心なしか、肩を落とした紫を尻目に。文は手振りを合わせて言葉を発する。

「今日の午前中なのですが、子供が攫われたんですよ。被害者の父親に取材したところ、家の厠に入って忽然と姿を消したそうです。まるで神隠しにあったんじゃないかって」
「神隠し、ねぇ」

文も霊夢も視線を紫へと向けた。紫は目を瞬かせるが、それで二人の突き刺すような視線が和らぐはずもなかった。

「え? 私? さっきまで寝てたわよ?」
「じゃあ、紫さんの寝相が悪いんですかね?それとも、紫さんが嘘をついているか」
「完全に容疑者扱いじゃない。疑うのならもっと、段階を踏みなさいな」
「霊夢さん? こう言ってますが?」
「私の勘。紫が犯人、はい決定」

紫は唖然とした表情だった。
文の嬉しそうに手を叩く音だけが響き、次第に小さくなっていく。はぁ、とため息を漏らして文は短い髪を振った。

「ま、冗談はさておき。霊夢さんが既に動いているかどうかだけが知りたかったのですよ。どうやらまだなようで」
「私は全知全能じゃないんだから無茶を言わないでちょうだい。全てを救えるなんて思ってもないんだから」
「なるほど。私の用件は終わりました。っと、そういえば小傘さんはいつから、ここに居るんですか?」
「あれ? アンタ小傘と知り合いだったの?」
「いえ」

言葉を区切り、文は済ました表情を壊す。ニヤリと何かを含んだ嫌らしい笑みを浮かべた。

「妖怪が神社の掃除なんて、珍しいので声をかけました。多々良 小傘さんでしたっけ?面白い名前ですね」
「そうね。アンタのつまんない新聞よりは面白いわね」

平坦な声音で、ごくつまらなそうに霊夢は答えた。
くふっ、と文は笑い声を噛み潰す。背中の翼を大きく広げ、ふわりと地上から体を浮かせた。

「あ、そうそう。霊夢さん。一つお聞きしても宜しいでしょうか?」
「全然宜しくないわ」
「小傘さんは霊夢さんに懐いてるようですが、霊夢さんはどう思ってますか?」
「別にどうも思ってないわ。私は巫女だし、小傘は妖怪。立場があるでしょ?」

今更ですか? と文は苦笑いを浮かべ、黙っていた紫は寂しそうな微笑を貼り付ける。やんわりと二人は霊夢を見つめた。
まるで出来の悪い子供を見るような視線だった。つい、霊夢は睨み返した。
すると、文は馬鹿にするような笑い声を漏らす。そして、翼を大きくはためかせた。去るのだろう。ただ、その前に一言だけ。文は口を開いた。

「もし、小傘さんが子供を攫ったとしたら、霊夢さんはどうしますか?」

返答を待たずに文は空へ駆けていった。まるで霊夢の答えを聞かなくても、分かっているとばかりに。
胸にずっしりと重たい感情が入り込む。誰に聞かせるでもなく、霊夢は答えを呟いた。

「小傘が攫うわけないでしょうが」

答えじゃない答え。それはただの否定だった。
現状、少なくとも霊夢はそう言葉にするしかなかった。小傘は付喪神なのだから。そんな悪い事をしない妖怪なのだから。しかし、一抹の不安が胸にあった。それを振り払うかのように霊夢は深く息を吐き出した。
今日見た夢の嫌な感覚も含め、分からないことだらけな気がしていた。
ただ、この場で静観している紫は全てを知っていた。知ってはいるけれど、止められない事情もあった。
だから、あえて何も口にはしない。
霊夢に悟られぬよう、紫はそっと姿を消したのだった。



















夜も深けていく時刻。
薄暗い寝室で少女が二人。
霊夢は布団に入ったまま、上半身を起こしていた。向き合うのは小傘だった。
理由はないけれど、霊夢は小傘の傍に居ようと思った。言い換えるのならば、それは監視。何か、嫌な予感がしていたからだ。
そして霊夢は、魔理沙や早苗の話を語った。
魔理沙はキノコから魔力を抽出しようと、間違えて毒キノコを使ってしまった。八卦炉からマスタースパークとは別の、ドロドロとした黒い液体を放出した。境内が真っ黒に染まり、霊夢が怒って魔理沙に掃除をさせた事。
早苗を招いてお酒を飲んだ晩。実は早苗は笑い上戸で、とてもウザかったと霊夢が思った時の事。
小傘も命蓮寺での事を語った。
村紗が洗濯をしていた時、白蓮の下着が突然正体不明になって、つい遠くに投げてしまった事。
それから新聞記者の鴉天狗がその騒動を取り合げ、命蓮寺の妖怪が三日三晩追いかけ、自分もそれに混ざって追った事。
二人はひとしきり笑い合った。
ふとした瞬間だった。霊夢と小傘の談笑も途切れ、騒がしさは身を潜める。
ぽつり、と霊夢は呟いた。

「嗚呼、そういえばアンタ来てから忙しいわね」
「そうかなぁ?」
「この疫病神」
「酷っ! それはあんまりでしょ……」
「嘘よ、嘘。うざったいから一々泣きそうな顔しないでちょうだい」

辛辣な言葉だった。
霊夢は右手を伸ばし、小傘の髪をぐしぐしとかき回す。

「やめてよ、髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃうよ」
「ふっ、なんだかあの鴉とか紫の気持ちが分かるわねぇー。リアクションが良いからかしら?」
「イジメかっこ悪い!」
「じゃあ、何か面白い話をしてよ」

小傘は髪型を崩されながら俯いていた。なんとはなしに、視線を上げると。
霊夢は心地よい陽射しを浴びているかのように、目を細め、やんわりと笑んでいた。
つい、小傘は霊夢の優しい笑みに魅入られてしまう。呆然と見つめられ視線に気づいたのか、霊夢は獰猛な笑みに変える。

「何よ? 私の顔がそんなに変なの?」

また虐めるキッカケを求めて、霊夢は答えを待った。

「うん、変だよ。霊夢」
「なっ?」

予想とは違った答えに、霊夢は声を詰まらせる。
ただ、小傘は嬉しそうに言葉を続けた。

「知らなかった。霊夢ってそんな顔出来るんだ。凄い凄い、凄い可愛かったよ!」

今にも立ち上がって拍手しそうな勢いだった。
事実、膝を立てて小傘は胸に右手を当てていた。頬が薄っすらと紅潮し、妙な色気が生まれていた。
霊夢は、まさか絶賛されるとは思ってなかった。不意打ちに近かったのだろう。霊夢は恥ずかしげにそっぽを向いて、小傘の視線から逃げようとした。
その反応もまた、小傘にとっては新しい。
――嗚呼、良いなぁ。
小傘の胸の中に澄んだ空気が入り込む。ソレは柔らかく、とても優しい。そして、何よりも温かい感情だった。
名前を付けるとすれば、愛しいという感情だろう。
だからこそ、小傘はあえてソレに名前を付けない。あるがままで良いじゃないかと、全てを飲み込んだのだ。
代わりに一つだけ、決意を固めた。

「ねぇ、霊夢って凄いね」
「……しつこいと殴るわよ」
「ううん、そうじゃないの」

小傘は霊夢の肩に両手を乗せる。そのまま、体を屈める。

「多分ね、霊夢と同じぐらいの時に私って生まれたの。私には出来ないわ、そんな顔」
「そんな顔ってどんな顔よ」

霊夢は言い表せない何かに覆われた。
心の奥底で何かを駆り立てている。何を? 自問自答。答えは――出ない。
小傘は小さく想いを溢していく。

「優しい顔。温かい気持ちにさせてくれるの。私には出来ないの。霊夢が強いからだね。私が弱いからだね。紫って、よくココに来るでしょ?」
「来るけど、私的には来ないで欲しいわ。アイツ、いつも面倒な事しかしないから」
「ふふふ、そうだねぇー。紫って面倒な事しかしないよね。でもね、それって疲れるの。だからココに来るの」
「意味が分からないわね。何が言いたいの?」
「別に何も。ただ霊夢の声が聞きたいだけよ」
「昨日今日と散々聞いたでしょ?」
「駄目だよ。気づいた後じゃないと意味がないの。もう、遅いけどね。私は気づきすぎちゃった」

静かな声だった。でも、霊夢の耳には悲痛な響きとして、届いていた。
襖を見やると、黄色い光が障子紙に照らされている。満月なのだろう。襖を開けば、感傷的な光景が広がっているのかもしれない。
そう思わずにはいられないぐらいに、静かな夜だった。

「霊夢って妖怪退治ってどう思う?」
「そりゃあ悪さをすれば懲らしめるわよ」
「人を殺す妖怪は、どうするつもり?」
「退治するわ。私は幻想郷の秩序を守る巫女でもあるの。誰であろうと、どんな理由があっても妖怪が人に害を成せば、相応の行動で対処するわ」

しなだれるように小傘は体を離す。そして足を崩した。しなりを付けた体を支えるために、右手を畳につける。
そして満面の笑みを浮かべ、口を開いた。

「大丈夫。霊夢ならきっと問題ないわね」
「そりゃそうでしょ。それが仕事だもの」
「そうだよねぇ、ごめんねぇ」

くすくすと喉を鳴らしながら、小傘は腰を上げる。傍にあった傘を手にとった。

「さっきから嫌な質問しかしないわね」
「だって、霊夢って優しいからねぇ。肩張って疲れないのかなって思ったの。あ、肩揉んであげようか?」
「別に良いわよ。そんなに肩凝ってないから」
「良いじゃん。私がしたいのよ」

にこやかな笑みを浮かべながらも、言葉には異様な強固さがあった。抗うのも面倒だと霊夢は居座りを直した。首を落として小傘に背を向ける。
その背中に小傘は薄っすらとした笑みを浮かべた。
そして、閉じた傘を大きく振りかぶり。

「じゃあ、霊夢。おやすみ」

妖力の込めた傘が霊夢の後頭部に振り下ろされた。
岩を砕いたような鈍い音が響く。呻き声も上げず、衝撃のままに霊夢は前方に倒れていった。その傍に小傘は膝を下ろし、霊夢の口元に指を当てる。浅い呼気で人差し指の腹が湿っていく。
ほっ、と安堵したように小傘は頬を和らげる。しかし、すぐに尖った笑みを浮かべ、カラカラと声を上げた。

「さぁて、さてさて。付喪神の時間は終わり。これからは祟り神の時間だね」

寝室を出て行きながら小傘は呟く。襖を開き、庭に面した縁側を進んでいく。縁側の軋む音。家の中を歩きながら見渡した。廊下を抜け、居間を見つめた。
昨日と今日。確かに小傘はそこに居た。霊夢とお茶を啜り、話をしていたのだ。
胸が暖かくなる景色を思い出しながら、小傘は玄関へと向かう。自分の靴に足を通して、玄関を開けた。
そして、夜空へと飛び立った。向かう先は、人里だ。




















昔、とある少年が居た。

少年の所属していた退魔集団は散り散りとなり、一人取り残されてしまった頃だろう。
ぼんやりと退屈な日々が続いた。食料は川魚や山菜で、寝起きは山の洞窟で。このまま何もせず、死んでいくのだろうと少年は感じていた。
妖怪を退治すること以外する事が無いのだ。過去は輝いて見える。少年は妖怪退治をしたかった。強い者が悔しがる顔が好きなのだ。
しかし、妖怪は人を襲わなくなった。妖怪の賢者が様々なルールを決めていったからだ。
ならば、どうすればいいのだろうか?
少年は考えた末に答えを見つけた。
正直、妖怪の猛威が潜まり、少年の心は空っぽになっていた。青空を見上げても何の感慨も浮かばない。夜空を見上げ、寒さに身を震わせる方が、まだ自分らしいと思ってもいた。
だからと言う訳でもないけれど。少年はよく深夜に出歩いていた。その方が妖怪と遭遇し易いからだ。死んでも良いとさえ思っていた。
どこか捨て鉢な考えに突き動かされていた時期でもあった。
胸の中は空虚だった。その原因は、やはり妖怪の賢者の所為だろう。憎むべき対象だ。妖怪の中でも強大な者とは会ったことがない。
人の輪を崩さない妖怪ほど、強く、賢いのだ。それならば、強大な妖怪に殺されても良いと、そんな思考が頭の裏側にこび付いていた。

そう、思っていたのに。

「あ、あぁ、なんでだよ……」

目の前には老婆の死体があった。今、自分が手に持った刀で殺したのだ。
老婆は唐傘の職人だ。彼女が妖怪の賢者の傘を修繕してると聞き、傘を壊しに行った。そして、妖怪の賢者を誘き寄せる。それが目的だったはず。
妖怪を退治するのは楽しい。つまるところ、それは人の形をした者を退治するのが面白いということ。同じ人間を殺すという禁忌を犯した擬似感があったからだ。だから、良かった。
生まれて初めて人間を殺してしまった。想像もしていなかった事実に、少年の声は震えていた。

「いやぁ、やっちゃったね! お兄さん!」

突如、入り口の戸が蹴り破られる。威勢良く乱入してきたのは、奇妙な少女だった。頭に耳、尻に猫の尾があった。
少年は一瞬で少女が化け猫だと看破する。しかし、それはどうでもいいことだった。少年の細い眼が見開かれ、注視する先は化け猫の隣だった。
一握りできるほどの蒼い霊魂が浮いていた。
声はないけれど、その霊魂から心臓を掴まれたような敵意が向けられている。

「っ、なんだお前は?」

霊魂を直視できず、少年は刀の切っ先を化け猫に向けた。

「私の手が汚れなくて助かったよ、嬉しいねぇ。ほら、どんどん恨みが強くなっていく。そりゃそうだねぇ。地上に残した身内が気になって、自分の体がバラバラにされても発狂しなかったぐらいだからね。そりゃ、キレるよね」

刀に怯えることなく、むしろ、楽しげに化け猫は口端を吊り上げる。
ざくり、と胸に何かが刺さった。肉も骨も区別無く裂かれるような感覚。冷や汗を噴き出しながら、少年は自分の胸元を見下ろす。傷は、ない。
異変の原因は蒼い霊魂、いや、蒼かった霊魂だ。今は血のような紅色で、次第に紫色に染まっていく。色が変わるにつれ、発している害意が膨れ上がった。蒼から紅、紅から紫。紫は罪の色。そして、紫から、黒へと。黒は地獄の奥底のような色だった。
単純に変色しているだけではないかと、少年は思い込もうとしていた。ただ、化け猫の表情も塗り替えられていく。愉悦から驚愕へと。

「へ? 怨霊の粋を越えちゃった? それってもう、祟り神じゃあないのさ」

祟り神。聞いた瞬間、少年は締め付けられるような胸騒ぎに襲われた。
慌てて振り返り、刀で壁を斬り付ける。脆くなった壁を蹴り破り、外へ飛び出した。その折に、背後を振り返った。
黒い霊魂が、伸ばされた舌に丸められている。舌を出しているのは紅い唐傘だった。傘は大きな眼を一つ見開かせてギョロリと、少年を見つめていた。

「なんっ、だよっ、あれは!」

少年は伊達に妖怪を相手取っていた訳ではなかった。触れてはいけない者の存在ぐらい、理解が出来る。
死んでも良い?馬鹿を言うな。少し前の自分の考えを否定する。限りなく正確な予感があった。あの黒い霊魂は、殺すだけでは鎮まってくれない事を。
魂が磨耗し、消滅するまで嬲られる。そう感じさせる程の殺気を発していた。
少年が闇雲に逃げている途中。前方の暗闇がぱっくりと口を開いた。驚く暇も無く、隙間から現れた少女に眼が奪われる。
導師服を混ぜた洋服の少女だった。その背後に金色九尾を生やした少女を従えている。

「藍。貴女が抑えなさい」
「わかりました。紫様」
 
過ぎ行く少年を見向きもせずに、二人は端的なやり取りをした。
何なのだろうか?問うことも出来ず、ただ少年は走っていった。行き先はわからなかった。しかし、運は良かったのだろう。
向かう先には見慣れた建物の集まりがあった。人里への入り口だった。後ろを振り向けば、九尾の少女が傘を差した真っ黒な人影を抑えている。
助かったと安堵しながら、少年はそのまま里へ逃げおおせたのだった。

「それにしても、アレは妖怪だったのか……?」

荒い呼吸の中、空間を裂いて現れた少女について考える。
九尾の少女はさておき、あの少女だけは一見、人間にしか見えなかった。考えても分からないまま、少女の姿を再び見たのは十数年の時間が流れてからだった。
















人里では騒然としていた。やはり、子供が攫われれば人手を募り、探索をするのが常識なのだろう。
しかし、攫われた子の父親はソレを断った。
里の者たちは「何を言っているんだ?」などと、戸惑い、憤るけれど。男が一言だけ「とある妖怪と因縁があるんだよ」 と告げれば、誰も彼もが何も言えなくなる。
男は昔、妖怪を退治する集団に居たことは、暗黙の事実だった。
今は解散しているとはいえ、十数年の時が経っても、被害者は覚えているものだ。だからこそ、なぜ今なのか?男には分からなかった。
自宅の居間で男は刀を手にした。人を殺した刀。それ以来、彼はその刀を鞘から抜いた事はなかった。
まだ覚えている。
肉を裂く感触、噴き出す血の匂い、あの妖怪の恐ろしく冷たい怨みへの怖れ。カタカタと刀が笑い出した。しゃれこうべが笑うのなら、きっとそんな声音だろう。
死者が呼んでいる気がした。男は手に力を込め、震えを抑える。刀は静かになった。しかし、腕の震えが収まっても、背筋からの震えは止まらない。

「……殺される」

男は忘れない。忘れられなかった。アレが一夜の夢ならばどれだけ救われただろう?
眠れない夜に怯え、人としての在り方を見失いかけていた時もあった。男の心を蝕むのは、傘を差した人影だ。
今朝の事だった。男は里の大通りで叫びそうになった。どこかで見た事のある傘を差した少女が、男の前に現れたからだ。
彼女は八雲 紫と名乗った。時を重ねても容姿に変化はない。結局の所、妖怪だったのだろう。
紫はくすくすと喉を鳴らして告げた。

『子供は預かっていますわ。無事に帰して欲しければ、今晩里の入り口で待っていなさい』

それだけを言い残し、紫は背後に隙間を作って、姿を消した。
自然と足が笑い出す。逃げられる気がしなかった。今もどこからか見られている気がして、居心地がザラリと砂を食んだように悪い。

「あら? 勘が鋭いのね」

男の背後で、とぼけた声が生まれた。襖で閉じられた部屋、その景色がぱっくりと横に裂けていた。薄ら笑いのような裂け目から、紫は上半身を覗かせている。

「気分はどうかしら?」
「っ、良いわけ、ないだろ」
「そう。安心しなさい。貴方の娘はしっかりと守っていますわ」

守っている?
男は立ち上がり、振り返る。てっきり悪意があっての行為だと男は思っていた。
呆然と眼を瞬かせる男に、紫は淫靡な微笑を向ける。

「アレは祟り神。貴方が苦しむことなら何でもするわ。だからこそ、私は攫ったのよ」
「……そうか」

安堵したのか、男は膝を崩す。肩を震わせ、良かったと我が子の代わりに刀を抱きしめた。

「安心するのは早いわ」
「アンタは、賢者様は俺を恨んでいないのか?アンタの傘を直した人間を殺したんだぞ?」
「人が人を殺すなんて、どこの世界でもありふれているわ。ただ、この幻想郷では起きて欲しくなかったけど、もう起きてしまった事だからしかたないわ」
「すまなかった」
「私に謝っても意味が無いでしょ?このままだと、貴方は死ぬわ。逃げれば、他の人間まで祟られるでしょうね。私はソレを良しとしない。だから行きなさい」

紫の言葉は刀のように鋭かった。男の胸を抉り、肩を落とさせる程に。
「でも」と紫は優しく言葉を続けた。

「貴方が死んだとして、残された者はどう思うのかしら?怨むかも知れない。殺意を抱くかもしれない。貴方が恐れている祟り神のような存在になってしまうかもしれない」

変化は一瞬だった。
嗚呼、と男は紫の視線に応える。硬い芯の通った、強い眼をもって。
かちゃり、と刀が一つ鳴いた。男の体に震えはもう無かった。言葉に全身全霊を込めて、男は告げる。

「俺がアイツを拾ったのは十年前だったよ。雨の中、竹林の茂みで泣いてたんだ。まだ赤子で体が冷え切っていた」

思い出せと、眼を閉じて男は強く念じた。あの時の感触と抱いた想いを掘り下げる。
氷のように冷たい赤子へ手を伸ばす。捨てた親を求めていたのか、赤子は男の人差し指を握ったのだ。赤子とは思えない強い力で、”生きたい”と意思を表したのだ。
理由は分からないけれど。男は無性に泣き出したくなった。愛しさまで感じ、赤子を抱き上げたのだった。
育ててみて、分かった。赤子は強かった。今の今まで泣いた顔を見たことがないぐらいに。だからこそ、泣かせるような真似は出来ない。
そして、持った刀を強く強く握り締め、男は覚悟を決めた。
男の覚悟を見届け、紫は緩やかな声音で歌うように言葉を滑らせる。

「嗚呼、幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは、とてもとても残酷な事ですわ」

言葉を紡ぎながら、体を隙間に落としていった。すぅ、と隙間が閉じていく。
残された男は固い決意を胸に、深く呼吸を吐き出したのだった。

外は暗い。昼は人間の時間。夜は――妖怪の時間。
それでも男は家を出て行った。


















誰にも何かしらの想いはある。
だからこそ、紫は霊夢の元にも訪れた。薄暗い寝室。布団の上で霊夢は倒れていた。
布団に対し、体の位置は斜めになって伏せていた。寝相が悪いのかしら? と、紫は指を鳴らす。
霊夢の頭上に隙間が開き、大量の水が滝のようにこぼれ始める。バシャバシャと後頭部で弾ける飛沫が生まれてから数秒。

「なにすんのよっ!」

怒り叫び、霊夢が跳ね起きる。野犬のように頭を振って、水滴を払った。避けるように紫は口元を広げた扇で隠す。

「寝坊よ、霊夢。祟らぬ小傘は人里へ向かってるわ」
「はぁっ? 意味分かんない事言って誤魔化さないでよ」
「小傘はね。付喪神じゃあ無かったのよ」

掴みかかろうとする霊夢を無視して、紫はスゥと目を細めた。薄っすらした視線の中に、強い光が含まれている。
一瞬だけ紫の視線に呑まれるが、直ぐに霊夢はつまらなそうに口を平坦に閉じた。

「どういう事よ?」
「あの子の名前を私がつけたと言ったでしょ?小傘の名前は祟らぬ小傘。読んだとおり、祟らないようにと意味が込められている。それはね、小傘が祟り神だからよ」
「祟り神? 魅魔みたいなやつ?」
「博麗神社に封印されてた祟り神のことね。アレは恨みを忘れてたでしょ? だから、あれは正確に言えば元・祟り神よ」

しかし、霊夢から見て、小傘が祟り神とは信じられなかった。
誰かを恨んでる様子も記憶にはない。落ち着きがなく、元気で騒がしい付喪神にしか霊夢には思えなかった。

「でも、小傘も自分の事を付喪神だって言ってたわよ」
「それは私が隠したから。祟り神が祟らぬように名をつけ、一文字だけ名前を隠したの。祟らぬ小傘、多々良 小傘。だから、小傘は昨日までは付喪神だったわ」
「昨日まで……、あっ」

何か思い出したように霊夢は声を上げた。そうだ。自分は確かに教えてしまったのだ、祟らぬ小傘、と。

「私は、ソレを夢で見て、だから私は小傘に訊いてしまった……」
「隠された名を思い出し、自分が何故、祟り神なのかも思い出してしまった。夢で見たといったわね?名前には意味がある。それは貴女も同じよ」
「霊夢、霊の夢?」
「あの子は祟り神になる前は亡霊だった。小傘が無意識で望んだのか、それとも運命だったのか。まぁ、今それを詮索しても仕方ないわね」

用意をしなさい、と紫はくすくすと喉を鳴らす。

「私が小傘の元まで送ってあげるわ」
「送ってあげる? 何処へよ」

肩を竦めて紫は隣に隙間を広げた。

「祟り神は恨みの妖怪。小傘は何故、祟り神になったのか? 何故、人里へ行ったのか? 考えてみなさい」

瞬間、弾かれたように霊夢は動き出した。寝巻きを剥ぎ、部屋隅の箪笥から取り出した巫女服に袖を通す。
元々巫女服自体に最低限の装備は仕込んであった。
準備が出来たのだろう。霊夢は真っ直ぐ紫を見つめた。

「じゃあ、お行きなさい」

返事もせず、霊夢は隙間の中へ進んでいったのだった。















飛んでいた小傘は人里に降り立った。
対峙するように男が佇んでいた。剥き身の大振りな刀が艶やかに光りを放つ。月の光を帯びた刀はきっと、小傘を斬れるのだろう。
物には想いが宿る。
男の刀は異様な鋭さを覗かせていた。加え、その刀を操る男の目にも、堅い眼差しがあった。
まさか、自分から出てきてくれるとは、小傘も思っては無かった。
小傘は大きく口をあけ、げらげらと笑い、ゲラゲラゲラゲラと哄笑する。田んぼに住まう蛙が一斉に鳴き始めたような声だった。それは人の形を持ったモノからは、決して出しえないはずの笑い声だった。ありていに言えば、不気味だった。

「っ、すまなかった……!」

男の声はあまりにも悲痛な響きだった。ゲラゲラと、品の無い声が凍りついたように止まる。
笑みを消し、傘の下から、小傘は淡々とした眼差しを向ける。瞬き一つせず、壊れた人形のように首を傾げた。

「昔はどうでも良かったんだ。だけど、今はもう無理だ、俺はアイツを残して死ぬことはできない。……すまなかった」
「アイツ?誰それ」
「……捨て子だ。俺が拾い、育てている子だ。大事な子なんだ」
「ふーん、大事なんだ。じゃあ、ソレも殺すよ。お前の目の前で手足を千切って、腸を裂いて臓物を啜ってあげる。そしたら、お前も殺してあげるよ?」

失言だったと、男は悟った。緊張を唾液に変え、飲み干す。

「待ってくれ、あいつは関係ないんだ」

ふーん、と小傘は呟く。首を傾げたまま、ニタリと笑みを吊り上げた。

「でも、殺すよ?」

小傘は笑みを引きつらせ嘲笑う。またゲラゲラと。乾いた笑いが木霊する。
笑いながら、言葉を混ぜる。殺す、殺す、ぜぇんぶ殺すぅ、と。
祟り神とは強い恨みの成れの果て。小傘は忠実にソレを体現していた。

「本当なら甘んじて殺される立場だろう。悪かったと思ってる。それでも俺は死にたくない。だからぁっ!」

男は駆け出し、大きく刀を振った。当然避けるだろうと思っていた。しかし、どちらにせよ男の技量ではそれしか出来ない。
ずぶり。茄子色の傘が落ちる。
男は目を見張らせ、身動ぎ一つもしなかった小傘を見つめた。
右側の鎖骨部から深々と、刀が腹部まで減り込んでいた。
戸惑う男に、そぅっと小傘は手を伸ばす。穏やかな表情で、五指の爪を尖らせて。猫というよりは、熊のソレに近かった。指先から異様に膨れ上がった爪は鉤爪のようでもある。人を裂くのも容易いだろう。右手を振り上げ、左手で男の首を強く掴んだ。

「なぁにやってんのよ、小傘」

嗚呼、と小傘は嘆いた。振り向かずとも、誰が来たのかを理解したからだ。

「霊夢。駄目じゃん。ちゃんと寝てなよ」
「うっさいわね。よくもぶん殴ってくれたわね。いいから帰って説教よ」

なんでもないかのように霊夢は言う。背を向けた小傘の体には、血で濡れた刃物が生えている。それを、霊夢は右足を振りかぶり、無造作に蹴り上げる。刀は跳ね上がり、地面に落ちた。
小傘は痛みを感じつつ、疲れ笑いを浮かべている。

「そこのアンタも。さっさと家に帰りなさいよ」

霊夢が小傘越しに、へたり込んだ男に話しかけた。

「駄目だよ。コイツは殺さないと」

博麗の巫女は人里にも買い物に来る。
だから、男は霊夢のことを知っていたし、助かったとも思った。
安堵したのか、男の纏っていた緊張感が途切れる。はぁ、と力を抜いた溜息を溢す。
しかし、霊夢は淡々とした口調で告げる。

「だったら、殺せば良いじゃない?」
「はっ?」

戸惑ったのは男か小傘か、それとも二人共だったのか。
立場上、霊夢の口から出たものとは信じられなかったのだ。しかし、気にした様子もなく霊夢は続ける。

「好きにしたら?憎いなら殺せば良い。死にたくないなら逃げれば良い。でもね、小傘」
「うん、なに?」
「その人を殺したら、私も小傘を退治するわ。それを良く理解してちょうだい」
「あはっ……。霊夢って馬鹿でしょ。よく言われない?」
「うっさい、馬鹿。馬鹿に馬鹿って言われたくないわ馬鹿傘」

あははっ、と軽やかな笑い声が生れる。
小傘は殺意を押さえながら踵を返し、男に背を向けた。霊夢と視線を交え、恥ずかしそうに、はにかんだ。

「そうだね。私は馬鹿傘だねぇ」

暗い里を一瞬だけ、眩い閃光が白く染め上げた。
小傘は背後に向けた左手を戻し、膝を屈める。不安定に揺れていた傘を拾い上げ、差した。
何かが、起きた。
霊夢の耳に、苦しげな嗚咽が届く。一歩だけ、右へ進み、男を見やる。
右腕が消え、血を噴き出していた。夜の為か、黒い飛沫は腕以外からも滲んでいた。首筋も僅かに裂け、足に亀裂のような傷が広がっていた。
男は、致命傷だった。
うずくまり、地面に体を倒していく。誰が見ても、息絶える直前なのは分かってしまう。
それでも小傘の気は晴れなかった。勢いよく、振り返り、足を振りかぶる。
腰を曲げている男の腹部を蹴り上げ、まるで手毬のように飛ばした。
夜空に男の姿が消えていき、数秒後、何かが、ひしゃげ潰れた音が木霊してきた。あっさりと命が失われた瞬間だった。
どこか霊夢の纏う雰囲気が洗練されていく。
近くに落ちていた刀を拾い、霊夢は躊躇なく刀を振った。
風を切る音。それは小傘の体が欠けた音。ぼとり、と左腕が落ちる。

「小傘」
「んー?なに?」

夜空を見上げながら、小傘は振り返った。そして、陶器のように滑らかな首筋に刀が当てられた。

「私は博麗の巫女なの。だから消えてもらうわ」

霊夢は紫に告げた。博麗の巫女という呼び名は嫌いだと。
それは役職のようなモノだった。妖怪退治をする者。霊夢という個人を置き去った呼び名だった。
あえて、その名前を口にしたのは、自分の為だった。
“博麗の巫女“という言い訳がないと、小傘を消滅させるなんて、到底出来ないからだ。
自分を誤魔化すことでしか、耐えられなかった。
それほどまでに霊夢は、小傘に対し情を抱いていた。

「……雨、降りそうだね」

ぽつり、と小傘は呟いた。
真っ直ぐな眼差しが霊夢を見つめている。吸い込まれそうな瞳だった。双眸には霊夢の表情が映し出されている。自分がどんな顔をしているのか、小傘が何故、雨が降りそうだと言ったのかを、知った。

「もう良ーよ」

子供が遊んでいるような声音を、小傘は出した。

「霊夢の料理もっと食べたかったなぁ」
「……もう遅いわよ」
「そうだねぇ、残念だね。ホント残念」

小傘は差していた傘を頭上から外す。傘が自動で閉じていく。そして、ゆっくりと傘を地面に置いた。

「使ってね。道具も想いに応えるの、私は応えるから、だから、大丈夫だよ」

嗚呼、と霊夢は歯噛みする。こんな時まで人の心配か、と。
未練を振りほどくように大きく刀を振りかぶり、小傘の首を、切断した。
小傘の体は倒れ、端から炭のように黒く染まっていった。それは煙のように、ゆっくりと空に昇っていく。
不意に強い風が吹いた、煙は一気に散らされ、消えうせる。

残されたのは傘一本。

霊夢は傘を拾い上げ、静かに抱きしめる。それは小傘だった物。
小傘の言葉を思い出し、霊夢は傘を差した。

ぽたぽた、と。雨が降ってきたからだった。














秋の終わりだった。冬を迎えるには暖かい日和だった。
そんな心地が良い日差しの下。霊夢は人ならざる声で怒っていた。賽銭箱が盗まれたからだ。
境内で地団駄を踏む霊夢。その様子を紫は隙間に腰掛けながら見守っていた。

「しっかり管理しておかないから、いけないのよ」
「うっさい! 賽銭箱なんて年中見張ってないわよ!」

うぎー! と霊夢は唸りながら、威圧するように肩で風を切って神社へと向かう。
悠然と笑う紫の横を通り過ぎ、神社に立て掛けてあった唐傘を手に取った。

「これは私への挑戦と受け取ったわ!」
「誰からの挑戦よ」
「それを探すの!」
「霊夢が物を大事に扱わないから、走って逃げちゃったのね、きっと」
「馬鹿言わないでよ。私は大事に扱ってたわ! 境内の掃除の時、一緒に雑巾で拭いたりしてたの!」
「そう、なら良いわ」

鴉が羽を広げるような音と共に、唐傘が広げられる。


「当てはあるの?」
「それを探しにいくのよ!」
「それはそれは。夢があるわねぇ」
「うっさい!」

これ以上、紫の戯言を聞きたくないのだろう。霊夢は境内から飛び立っていった。
遠ざかっていく背中を紫は見送った。正確に言えば、霊夢の差す傘を。
霊夢は日差しを気にするような性格ではない。それでも、紫が知る限り、霊夢は外出時に必ず傘を差している。
異変にまで持っていくのは流石にどうだろう、と思っていた。
しかし、異変時の霊夢の傍にあれば、放出される霊力の恩恵はあるだろう。多々良 小傘は仮初めながらも、確かに付喪神だった。
道具を大切にしようと言う心があって、初めて道具は応える。そして、付喪神になる。
ただ大事に使うだけでは駄目なのだ。込める思いの方向性がないと、付喪神にはなれない。逆に言えば、今の霊夢は条件をクリアしているのだ。

きっと。遠くない未来。霊夢と一緒に空を飛ぶ者が現れるのだろう。

紫は誰もいない神社を振り返った。
十数年前。確かにこの神社には祟り神がいた。彼女は霊夢と敵対した立場ながら、霊夢を鍛えてみせた。
魅魔は最初から、そのつもりだったのかも知れない。今はもう、姿も気配もないのだから知りようはないのだけど。紫の目から見て、今回の巫女は心身ともに優れている。
人は妖怪に比べ、あまりに命が短すぎる。付喪神になっても、小傘は霊夢に置いてかれるのだろう。その時、小傘はどうするだろうか?
恐らく神社を守ろうとするだろう。
だからこそ、小傘ならば次の”祟り神”になれるだろう。
それはずっと先の遠い未来。――でも、とりあえずは今があるのだから。紫はそっと眼を伏せた。

霊夢の思いが形になる事を祈ろう。

「それはそれは。夢があるわねぇ。霊夢」

独り呟きながら、隙間を開く。冬が訪れる。紫にとって冬眠の時期だった。
眼が覚めれば春が訪れている。

「はてさて、どんな未来があるのかしら? 春に花は咲く。あんまり霊夢を待たせたら駄目よ」

声は届かなくても、想いは届く。
紫は足音を立てず静かに姿を消した。隙間がゆっくりと閉じていく。それは少しでも暖かい日差しを感じるために。
丁度、居眠りしてしまうには適度な暖かさだから。

今年は良い夢見心地になれそうだと、紫は思ったのだった。
多々良 小傘という名前の言葉遊びから生まれた作品です。

読んで頂いた方、ありがとうございます。
少しでも楽しいと思っていただければ幸いです。

改稿したものに差し替えさせて貰いました。ひっそりと。
設楽秋
http://whitesnake370.blog52.fc2.com/
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コメント



0.1860簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
小傘の名前の意味合いとか面白かったです。
霊夢と小傘の絡みも少ないので個人的にも嬉しかったり。
23.80野田削除
後味の悪い物語に仕上がっていますね。
小傘、普通に死んじまったよ。
容赦しない幻想郷。

小傘が記憶を取り戻すのと、外から来た流行病の関連が
もう少しスムーズに行くと、よりラストの救われなさが引き立つと思います。
27.90名前が無い程度の能力削除
物語全体に漂う陰鬱な空気がなんともいえませんでした。
多々良から祟らぬは上手いなあ。
28.60名前が無い程度の能力削除
部分部分が光るだけに、少年の強引な動機付けが惜しい。
かなり惜しい。
次作も応援してます。
34.90v削除
少年の周囲の状況設定、孤児を引き取るまでの詳しい描写があれば…と思いました。
前半のほのぼのっぽい雰囲気から一変、何気ない一言が原因(遠因?)でこうまで……
"ひぐらし"を反射的に思い出しました。
霊夢のその後や、妹紅のその後も気になります。

宜しければタグか、前書きに「少々残酷描写あり」と書いて下さると嬉しいです。
前半の気分のまま突入した自分には、ちょいとショックが強かったので……(そのギャップも一つの魅力ではあるのですが
35.無評価設楽秋削除
>>3さん
面白いと言って頂き、有り難うございます。私に百合は書けないって今回のではっきりしました。
これのどこが百合だよ、ってツッコミは無しでお願いしますw
>>野田さん
そうですね。参考にさせて貰います。いつもアドバイス有り難うございます。
>>27さん
欝な話って難しいですね。楽しんで頂ければ幸いですねー。祟らぬのくだりは題名にしていいのか、悩みましたw
>>28さん
読んで頂き、有り難うございます。惜しいですか、なるほど。
いやぁ全体的にもっと良い話が書ければいいのですが、次回も頑張らせてもらいます。
>>34さん
霊夢のその後、妹紅のその後。あと、少年とかお燐とか、もう投げっぱなしでしたからねぇ。申し訳ないです。
何かの話で回収できれば良いのですが……。タグには今から付けさせて貰います。忠告有り難うございました。
39.90名前が無い程度の能力削除
あああ
結局救われなかったのか…
でも面白かったですよ
読んでよかった
40.無評価名前が無い程度の能力削除
結局、何を言いたかったのか解らない話だ。
伏線投げっぱなし状態。頭の悪い俺に説明求む。
41.無評価設楽秋削除
>>39さん
救われなかった、ですね。ここで終わらせるかどうか、悩んだのですが今回はバットエンドで。
にしてもバットエンドの魅力が分からないですね。分かるまで多分こういうのは無い、のかなぁと思います。
少しでも面白いと思っていただければ良かったです。読んで頂き、ありがとうございます。
>>40さん
いやぁ、放り散らかした作品で申し訳ないです。端的に言えば、小傘が恨みを抱いてる人間を殺すだけの作品です。それだけの話です。作中で説明できずにすみませんでした。
42.無評価名前が無い程度の能力削除
え?ここで終わり?もったいないよw
43.無評価設楽秋削除
もったいない、ですか。最後まで好き勝手書いちゃって良いんだろうか? そう言われると書き足したくなるけど、今まで読んだ方に失礼かもしれないので、今回はこれ……で…。未練タラタラだ。
いえ、読んで頂き、ありがとうございます。
44.90名前が無い程度の能力削除
何でかこの小傘には妙に感情移入できました。
鬱な終わり方だけれど読後の満足感はあり、個人的には良い作品だなあと思います。
47.100名前が無い程度の能力削除
うお!? 変わってる!?

今の話も前の話も大好きです!!
48.100名前が無い程度の能力削除
もっと評価されてもおかしくない作品です。
49.90名前が無い程度の能力削除
よく整った憂鬱なお話で大満足です。ちょっとした設定や小道具からの膨らませかたが秀逸です。
個人的に、ちょい役のお燐が如何にも地底の妖怪って感じで良かった、てのと件の男についてはもうちょい描写してもよかったかなと。

あと些細な事ですが
>>『ぼんたりと退屈な日々が続いた』
→『ぼんやりと~』
ですかね。
50.無評価設楽秋削除
>>49 『ぼんやりと』でした。いかに推敲していないかがバレてしまいますね。
……一年経ってもまだ読んでくれる方がいる。予想もしていなかったですが、いえ、嬉しいものですね。
時間を割いてまで読んで頂いた方。それと今までで諸作を読んで頂いた方、ありがとうございました。