Coolier - 新生・東方創想話

The shooters go marching

2012/04/29 16:38:04
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 誰かが遠くで歌っている。

「The ants go marching one by one, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がひとりずつ、フレーフレー)
 The ants go marching one by one, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がひとりずつ、フレーフレー)
 The ants go marching one by one.
  (アリの兵隊がひとりずつ行く)
 The little one stop to suck his thumb.
  (ひとりが立ち止まって指をしゃぶった)
 And they all go marching down to the ground,
  (みんなはいっせいに地面に伏せて)
 To get out of the rain, BOOM! BOOM! BOOM!
  (雨をよけた。ゴーゴーゴー!)」

 本当は遠くはないと私は知っているのに、声は遠い。微かに聞こえてくる声は、異国の言葉を紡いでいく。

「The ants go marching two by two, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がふたりずつ、フレーフレー)
 The ants go marching two by two, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がふたりずつ、フレーフレー)
 The ants go marching two by two.
  (アリの兵隊がふたりずつ行く)
 The little one stop to tie his shoe.
  (ひとりが立ち止まって靴ひもを結んだ)
 And they all go marching down to the ground,
  (みんなはいっせいに地面に伏せて)
 To get out of the rain, BOOM! BOOM! BOOM!
  (雨をよけた。ゴーゴーゴー!)」

 言葉を知らない筈なのに、何と無く意味が分かった。不思議に思うべきだろうが、私は特に深く考えずに“それはそういうもの”だと認識する。
 恐らくは、歌っている声が楽しそうだからだろう。

「The ants go marching three by three, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がさんにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching three by three, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がさんにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching three by three.
  (アリの兵隊がさんにんずつ行く)
 The little one stop to climb a tree.
  (ひとりが立ち止まって木に登った)
 And they all go marching down to the ground,
  (みんなはいっせいに地面に伏せて)
 To get out of the rain, BOOM! BOOM! BOOM!
  (雨をよけた。ゴーゴーゴー!)」

 誰かが私の頬に触れる。朧気な意識の中、その相手が安心できる人だと理解して、身を寄せた。嗅ぎ慣れた、誰かの匂いが私を包む。
 ところで、誰かって誰だろう。
 声は一層楽しそうに、歌う。

「The ants go marching four by four, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がよにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching four by four, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がよにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching four by four.
  (アリの兵隊がよにんずつ行く)
 The little one stop to shut the door.
  (ひとりが立ち止まってドアを閉めた)
 And they all go marching down to the ground,
  (みんなはいっせいに地面に伏せて)
 To get out of the rain, BOOM! BOOM! BOOM!
  (雨をよけた。ゴーゴーゴー!)」

 兵隊は行進を続ける。段々と、道幅が広くなってきたのか、隣に並ぶ人が増えていっている。そうして彼らはどこへ行くのだろう。どこへ向かうのだろう。
 ああ、でも、どこに向かうにしても、彼らはきっと元気に行進していくのだろう。
 次第に意識と共に遠のいて行く歌声を辿りながら、私はぼんやりとそう思った。

「The ants go marching five by five, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がごにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching five by five, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がごにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching five by five.
  (アリの兵隊がごにんずつ行く)
 The little one stop to take a dive.
  (ひとりが立ち止まって水に飛びこんだ)
 And they……
  (そしてみんなは……

 ……………………

 …………

 …











「ふあぁあぁあ…………今日も平和ねー」

 盛大に欠伸をしてから、私はそう呟いてお茶をすすった。煎れてから暫く経ってしまっている湯飲みの中は、既に温いが、まあそれは別にどうでもいい。茶葉をけちった所為で随分と薄い茶なのも気にはしない。
 ちゃぶ台の上に顎を乗せて、庭に目をやる。風で飛ばされてきた落ち葉がそこかしこに落ちていた。

「掃除する気も起きないのよねぇ、困ったもんだわ」

 全然困ってはいないのだが、そう呟く。ポーズだけでも困っておこうという打算が働いたのかもしれない。違うかもしれない。自分のことなのに良く分からない。
 とにかく今日も幻想郷は平和だ。
 誰か異変起こしてくれても構わないのよ? と一人呟いて、何か今日は独り言の多い日だなぁ、と思った。

「………………………どっか行ってみましょうか」

 暇だし。誰も来ないし。
 簡単に決めて、じゃあどこへ向かおうと考える。
 紅魔館、確かこの前の騒ぎで屋根が吹っ飛んでいたから却下。白玉楼、桜の季節でもないし用事もないのに行きたくない、却下。永遠亭、あそこでは今我慢大会が流行っているとのこと、却下。
 そうだ。ぽんと手を打つ。
 この前あいつに弄られたから、その意趣返しに行ってみよう。普段訪れることなんてないから、きっと突然行ったら吃驚するだろうな。

 まあ、やっぱり用がある訳じゃ無いのだけど。
 でも誰も用が無いなら来るなとは言わないだろう。帰ってほしいとは思われるかもしれないけれど、それは私の知ったことではない。
 用なんて無くても会いたくなる人がいるなら、分かってくれることかと思うけど、理由なんてどうでもいいじゃないか。思い付きでも、唐突でも、会いたいから。

「よし、そうと決まれば」

 手の中のお茶を飲み干して、私は立ち上がる。きちんと弾幕ごっこの用意をして、神社を出る。雲一つ無い空が私を見下ろしていた。

 うん、今日は天気も良いし、歩いて行こう。





 The shooters go marching one by one, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが一人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching one by one, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが一人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching one by one.
  (弾幕使いが一人ずつ行く)
 The little one stop to twiddle her thumb.
  (一人が立ち止まって退屈そうにした)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





「おーい、霊夢」

 神社を出て直ぐに、声をかけられた。階段を降りたところで、私は立ち止まる。
 目の前には真っ黒い友人が日の光を浴びつつ立っていた。

「お前が自分から動くとどうにも異変でも起きたのかと思っちまうぜ。どこ行くんだ?」
「別に私がどこ行こうと勝手でしょ」

 魔理沙の言葉に答えて、無言で歩き出す。魔理沙は何かを察したのか後ろを付いて来た。

「おいおい霊夢、早く会いたいからって私を無視するな。紫だってお前相手だったら逃げないって」

 とりあえず殺気全開で睨み付けてやった。魔理沙はうひゃぁと肩を竦めて見せて、私から少し距離を取る。

「睨むなよ、普段から滅茶苦茶に殺気を浴びてる私には最早お前の脅しは効かないのでな!」
「なら近寄ってみなさいよあんた」
「無理無理、死ぬ死ぬ」

 無理とか死ぬとか言いながらも、魔理沙は私の隣に並ぶ。天邪鬼な魔理沙らしく、私が再度睨んでもきししと笑うだけだ。
 相手をからかって反応を楽しむのが好きな魔理沙は、行動が妖精的だ、と私は思う。好奇心が強く、我が儘で、思ったことを直ぐに口にして、後先考え無しの行動を取る。まるで子供だ。でも子供ではない。全て分かった上での行動だから、質が悪い。

 その魔理沙の左手、袖口から見える血の付いた包帯が彼女が手を振った拍子に目に入って、顔をしかめる。
 思わず、魔理沙の左手を掴んで、太陽の下に掲げた。

「痛ったぁ! ちょっ、霊夢タンマタンマ!」

 悲鳴が挙がるがまあそれは無視して、袖を捲ってみる。白いシャツの下には所々が紅く染まった包帯が、手首から一尺ほど巻き付けられていた。

「いやいやいやいやっ! 霊夢ってば本当に何して、だから痛いって!」

 包帯を剥いでやると、それはもう酷い傷が顔を覗かせる。鋭い刃で裂かれた肌は、恐らく何度もやったのか、歪に盛り上がった傷口になっていた。真新しい傷口と古い傷がいっしょくたになっていて、耐性の無い者が見たら吐き気を催すような有り様だ。
 リストカット、という言葉が頭に浮かんで打ち消す。いや、打ち消しきれなかった。これはリストカットそのものだ。しかも重度の。

「……………………魔理沙、あんた、何か不満でも…………」
「違う、誤解だ、誤解なんだ。だから手は離せよ包帯越しに傷口抉るな!」

 私の訝るような視線から逃れるように体を捻って、魔理沙は私の手を振りほどく。

「そ、そんな目で見んな! これはリストカットとかじゃない!」
「魔理沙、何かあったら相談してくれて構わないからね」
「いやそれは確かにありがたいけど、今は素直に喜べないぜ」
「医者に一度診て貰いなさい、リスカは精神病の一種よ。もしDVとかなら「皆まで言うな止めろ殺すぞ」

 何やら剣呑に物騒な返事をした魔理沙の肩をポンポンと叩く。そうやって宥めてあげたのに、物凄い勢いで振り払われた。
 地味に痛かったので、魔理沙のほっぺを出来るだけ詰まんで、出来るだけ引っ張りながら私は渾身の笑みを作った。

「魔理沙、今のは怒らないであげるから、質問に答えなさい。これはどうしたの?」
「いふぁいいふぁい、ひぇいふいふぁいっふぇば」 

 魔理沙は誤魔化すように目を反らす。その目を正面からじっと覗き込むと、居心地悪そうに体を揺らす。
 ほっぺを掴んだままだと喋れないだろうと考えついて手を離してあげた。魔理沙は赤くなった頬を労りながら口を開く。

「えっと……………………私が、フランと付き合ってるのは、知ってるよな?」

 頷く。魔理沙が前にそうカミングアウトしてたのだ。
 紅魔館の所の吸血鬼妹と付き合っていると言われた時には、それはまあまあ驚いた。つまりあまり驚かなかった。あんたも大変ね、と労った覚えがある。

「で、あいつは吸血鬼な訳だ。だから、そのぅ」

 ふむ、予想は付いた。確かレミリアも同じようなことを言っていた筈だ。
 吸血鬼であるあの姉妹には、恋人はそれはそれは“美味しそうに”見えるのだろう。しかし牙を突き立てる訳にもいかない。だから、

「つまり切って飲ませてあげると」

 可愛く言えば餌付け。しかし傷を見る限りにはそんなものではない。

「…………あんたね」
「な、何だよ。言いたいことあるなら言えよ、聞いてやらないから」
「聞きなさい、一つ訊きたいだけだから」

 息を吐いて、魔理沙を見る。次に何を訊かれるのか察したのか、魔理沙は私を見返す。

「自分でやってるの?」

 誰かに強制されてる訳でも、嫌々ながらやって訳でも、止めるに止められなくなっている訳でも、ないのね? 

「ああ、私の意思で、やってる」
「…………そう」

 なら、いい。
 最早私がとやかく言うことではない。魔理沙には魔理沙の考えかあるだろうし、そうやって自分で決めたことに口を出すような権利は、私には無い。

「ほどほどにしなさいね」
「応、分かってるよ」

 頷いて、魔理沙は私の隣に並んだ。





 The shooters go marching two by two, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが二人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching two by two, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが二人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching two by two.
  (弾幕使いが二人ずつ行く)
 The little one stop to tie her boots.
  (一人が立ち止まって靴紐を結んだ)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





 どうして魔理沙が着いて来ているのかは分からないが、まあ追い返す理由も無いので二人で歩いていた。
 相変わらずの無意味な会話をしつつも、魔理沙は私の横を歩く。怪我をしているというわりには、庇うような素振りすらも見せていない。

「に、しても天気良いな」
「そうね」
「明日も天気かな?」
「そうね」
「ところで、お前どこに向かってるんだ?」
「そうね」

 と、歩いていた前方、道が交差しているのに気付いた。同時に、交差点に所在無さげに立っているメイド長も視界に入る。
 あんな所に立って何をしているのだろうと考えていると、隣から服の袖を引っ張られた。

「なあ霊夢、あいつ何してるんだと思う?」
「さあ?」

 私に聞くより本人に訊けよ。

「おーい、メイド長!」

 魔理沙が遠く呼びかけると、その時漸くこちらに気が付いたのか、咲夜は意外そうに顔を上げた。手には買い物用の袋。人里への買い出しの帰りだろうか、袋の中は食材やら何やらで一杯だった。

「あら、黒白じゃない。それと紅白」
「私の目が確かなら、そう言うお前は十六夜咲夜、紅魔館の紅い主に勤めるメイド長だな?」
「それ以外に見えるならあの医者の所に行ってきなさい」

 はきはきとした受け答えはいつものこと。しかし今日のメイド長は少し疲れているのか、覇気が無かった。

「咲夜、あんた疲れてる?」
「まあそうかもねぇ。最近寝不足で…………」

 そう言って、咲夜は眠そうに前髪をかきあげる。若干目の下に隈が見受けられた。
 前髪をかきあげた左腕、白いシャツの隙間から見えたのは、清潔感のある純白の包帯。成る程。

「私の友人がリスカに走ったのはあんたの所為だと睨んだわ」
「……………………霊夢、合ってるけど間違ってるぜ」
「いきなり何の話よ」

 先程のコピペみたいな一悶着があり、漸く咲夜も話を了解する。まあその後の話を全て述べると面倒なので割愛するが、吸血鬼姉妹の恋人である所の咲夜と魔理沙は、どうやら大好きな相手の為に両者共にリスカ紛い、っていうかリスカ、をしているらしい。

「……………………」
「おおう、霊夢の視線が痛い。どう思うよ、咲夜?」
「ちょっと巫女、その目は止めなさい。何かムカつくわ」

 私の無言の威圧を受けてか、お揃いの包帯巻き巻きの左腕をひらひらと振って、二人は並んで言い訳を始める。

「だって、あいつ凄い美味しそうに飲んでくれるんだぜ? 痛くて痛くて、意識飛びそうな瞬間に、抱き締めてくれれば、私はそれで良いんだよ」
「あの人の為なら全て捧げても構わないと誓ったのは私よ。それを曲げるつもりは毛頭無いし、曲げる意味も理由も無いわ」

 総て、捧げる。
 その言葉に頷いて、魔理沙は左手を軽く握る。息を吐くように、言葉を続けた。

「魔法使いになる心算は無い、勿論吸血鬼だって。確かにずっと一緒にいられたらとは思うけど、最期まであいつに捧げられたなら、私はそれで十分だ。ただ…………」

 そこで言葉を切った魔理沙の後を、咲夜が続ける。

「ただ、あの人を後に残して逝かなきゃいけないから。出来れば早く忘れてくれたら良いのだけど」

 長い年月を過ごす妖怪にとって、人間の命は短過ぎる。その短い記憶を留めていて欲しいとは願うが、それは彼女達には致命的な記憶で。なら一緒に居て呉れと言われると決意も揺らいで。

「私のことを記憶の片隅に置いてくれれば良いだけ。捕らえるのは、望むものではないわ」

 自分の後なんて追われたら堪らないと、咲夜は静かに言った。

 で、私は二人のその言葉を欠伸混じりに聞いていた。視線は空。あの雲蛇みたい、などと考えながらも歩を進めていた為に、足を止めていた二人からはかなり距離が開いている。
 ふと、二人共が私を見ているのに気付いて、顔を戻す。

「ああ、終わった?」
「「話振っといてそれはない」」「だろ!?」「でしょう!?」
「いや、だって予想した通りだったし、今更聞くようなことじゃないし、私関係無いし」

 確かに理由を聞いたのは私だけど、まあ聞く気があった訳でもないし、非難される謂れは無い。

「せめて聞いてはいたんでしょう?」
「え、っと、…………リスカは良くないわよ」
「駄目だ、こいつは絶対聞いてない」

 決め付けてこちらを指差した魔理沙の頭を叩いて、それからちょっと考え込む。ふむふむ。
 何やら足を止めて考え始めた私を見て、二人は近寄って来た。

 吸血鬼というのは妖怪の中でも相当特異な種族だと聞いた。
 ただの人間を仲間に出来る、強大な力を誇る、弱点があまりに多すぎる、個人の考えた寓話が起源、最後には退治されるのを義務付けられた悪役。元々人間でありながら人間を喰らう。
 その特異点は元から人間が彼女達を縛る為に付けられた後付け設定で、でも従わなければならない。レミリアが、寂しそうに笑いながらそう言っていたのを思い出す。

「そうね、でも…………」

 でも、

「あの二人も、貴女達も、今十分に幸せそうに見えるわよ」

 なら、とりあえず今は、今くらいは、先のことを悩まないで幸せにしてたらいいじゃないか。
 きっと誰もそれを非難したり悪いことだと言ったりはしないだろう。

 幸福を願うのは、
 誰にとっても当然のことだから。

「幸せで駄目だなんてこと、一つも無いわ。そうでしょう?」

 そう私が言うと、咲夜は少し困惑したように首を傾げた。魔理沙はいつもの通りに愉快そうに笑って、私の肩を軽く叩いた。軽い痛みに顔をしかめて見せて、私もちょっと笑った。そんな私達を見てか、咲夜は軽く肩を竦めてみせる。

 そうして私は二人が隣に並ぶのを待ってから、また歩き出した。





 The shooters go marching three by three, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが三人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching three by three, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが三人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching three by three.
  (弾幕使いが三人ずつ行く)
 The little one stop to check the time.
  (一人が立ち止まって時間を計った)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





 一人くらい増えても会話は相変わらず無益なままだった。まあ雰囲気は変わったとは思うけど。

「何でパチュリーにあんなこと言われなきゃいけないのかなぁ。なぁ、何でだと思う?」
「私に聞かないでよ」
「あぁそう言えば、何かフランお嬢様がいかがわしい本を借りに来たってパチュリー様が嘆いてたわ。それのことじゃない?」
「なんであの図書館そんなものとか置いてるのかしらね」
「って言うかそれ私の所為じゃあないよな」
「魔理沙の所為でしょ?」
「原因は魔理沙だとは思うわ」
「えー? そんなぁ」

 うだうだと言いつつ並んで歩を進めていた。空には若干増えてきた雲が形を変えながら悠然と渡っていた。風は無く、穏やかな陽気だ。
 ふと、影が過る。鳥かなと思い顔を上げると、

「ちぇすとーっ!!」

 上から緑色が降って来た。

「秘術『グレイソーマタージ』!」

 スペル宣言直後、ばっと弾幕が展開する。広がった弾は一瞬宙で陣を描いて見せてから、形を崩して、立ってそれを見上げていた私達へと降り注いだ。
 タイミング的にも、状況的にも、避けるのは難しい。難しいが、出来ない訳じゃない。
 なので、一つ息を吐いて、軽く肩を竦めて見せた。

「神霊『夢想封印』」
「恋符『マスタースパーク』」
「メイド秘技『殺人ドール』」

 突然攻撃してきた不遜の輩に向かって放たれた弾幕は三重。流石に弾幕同士が互いに干渉して歪むが、放った弾幕はまあ問題無く緑色に襲いかかる。
 一瞬、緑色の自信満々な笑みがひきつったのが見えた。

「ぴ、ピチューン!」

 墜ちてきた。ふらふらと力無く地面に足を着けた緑色、もとい、東風谷早苗は、降参と言いたげに両手を挙げている。自分から攻撃しておいて降参するとか、凄く自分勝手だけど。

「降参ですよぅ、一機減りましたよぅ、私は無害ですよぅ」

 哀れな声を出してみせる早苗を、面白そうに見つめて、魔理沙は近付いて行く。何をする気だろう。

「っち、三人がかりとか卑怯じゃないですか。私はお三方に猛省を求めます。謝って下さいよ、主に私のプライドと満足の為に」
「見ろよ霊夢、こんなところに長ネギが生えてるぞー」

 成る程、そう来るのか。

「だ、誰が長ネギですかっ!」
「あら美味しそうな葱ね。でも私は買い物したばかりだから、巫女、貴女貰いなさいよ」

 メイド長が早苗、もとい、長葱の言葉を完全に無視して、私に振る。
 いや、振るなよ。
 非常に面倒になって、適当に応えた。

「でも、多分それ人型だから、マンドラゴラとかなんじゃない、新種の。魔理沙そういうの好きでしょ」
「ちょっと、霊夢さんまでっ!」
「なんだって!? マンドラゴラは普通人参なんじゃないのか? 長ネギのマンドラゴラ、なんて貴重な!」
「マンドラゴラって何なんですか!」

 欠伸を噛み殺して、テンション高く叫んでる魔理沙と長葱を見る。魔理沙は楽しそうだったが、やはり早苗は顔をしかめていた。

「私は長ネギでもマンドラゴラでもないですよ、魔理沙さん」
「いや、お前がそう言って難を逃れようとしているのは分かっている。大人しく捕まって研究に使われろ」
「いーやーでーすー! 何されるか分かったものじゃないですもの。帰ったら神奈子様と諏訪子様に泣き付いてやりますからね!」

 咲夜が時間を確認して、無言で先に進む。正直早苗を弄るのに既に飽きていた私も後に続く。
 暫く行ってから、漸く二人とも追い付いてきた。別に追い付く必要は無い筈だけど。

「なんだよ、先に行っちゃうなって、薄情者」

 息を切らして口を尖らせて見せた魔理沙の唇を摘まんで引っ張ってやる。むいー。
 同じように後に着いて来た早苗は、もう立ち直ったのか、自信満々の笑みを浮かべて胸を反らしている。お腹を指でつついてやると途端に萎んだ。

「そもそも、なんであんたはいきなり襲ってきたのよ」
「いやー、三人仲良く並んで歩いていたものですから、仲間に入れて貰えないかと」
「かまってちゃんか」

 私の手を振りほどいた魔理沙がそう言うと、早苗は顔をしかめて見せる。更に大仰に手を広げて呆れてみせる。一々リアクションが大きいのは芸人根性だろうか、違うといいが。
 因みに咲夜はこちらと歩調を合わせながらも、完全に聞き役に徹していた。

「かまってちゃんじゃないですよ、そう言われるのは心外です。確かに昔は周りの注目を集めようとしている若干イタイ子でしたが。ほらこれ、二階から飛び降りて木に引っかかってついた傷」
「何で古傷見せびらかしてるんだお前」
「あの頃は私も若かったですねー、まさか一ヶ月前のことが黒歴史化するなんてあの時は考えてもいなかったですねー」
「く、黒歴史?」

 そこで何故か早苗は遠い目をして魔理沙の肩を叩く。やたらに馴れ馴れしく、無駄に労るような素振りで。

「あなたにもいつか分かる日が来ますよ。魔法少女を名乗っていられるのも今の内です」
「それはあんたでしょ」

 魔法少女マジカルサナエは鼻を鳴らして小馬鹿にしたように笑った。対して魔砲少女メイガスマリサは黒歴史の意味を真剣に考え込んでいる。時報少女マジカルサクヤはと言えば、無言でマジカルサナエにガンをつけていた。
 咲夜の目付きが非常に怖いのだが、流石魔法少女、殺気紛いの視線を笑顔で黙殺した。

「んー、フランは魔法少女らしいぞ?」
「あの人は、流石に違うとは思うわ」
「あの…………妖怪にも黒歴史ってあるのでしょうか」
「あるでしょ」
「じゃあ……………………神様にも」
「無いことはないでしょうね」

 私がそういうと、早苗は呻きながら頭を抱える。何を思い付いたのかぶつぶつと呟く、魔理沙が若干そんな早苗から距離を取った。

「もしかしてもしかして、神奈子様も諏訪子様も諏訪大戦の話をしてくれないのはもしかして」
「い、いや、話し辛いだけだと思うわよ?」

 何せ今こそ仲良くしている二人の、それこそ血生臭い戦の話だ。聞かせたくないと考えていても不思議ではないだろう。

「ぐすっ、そうですよね? あの二人が黒歴史として葬ってる訳じゃないですよね?」
「まあ、多分そうだと私は思うわ」

 判る筈もないけど。

「ってか、なんだ、詳しくは聞かせて貰えてないのか」

 意外そうに言った魔理沙の言葉に頷いて、早苗は頭を抱えるのを止めて顔を上げる。ぐすっ、とか言っていた割には、特に悲しそうな顔もしていなかった。嘘泣きか。

「話をせがむと、二人とも黙ってしまうんですよ。その内全部話すと、言ってはくれるんですけど、その内っていつなんですか? いつか全て聞ける日が、本当に来るんですか!?」
「切羽詰まってるなぁ」
「焦っても、良いことは無いわよ」
「…………お三方と違って、私に猶予は無いんですよ」

 息を吐くような言葉。その意味を鑑みて、早苗の表情を窺う。
 悲しいとか、寂しいとか、悔しいとか、そういうものはどこにも見受けられない。ただ、思い付いたことを呟いただけ、とそう見えた。

「……………………嫌味にしては安価ね。挑発なら、なってないわ」
「…………すいません」

 咲夜の冷たいとも言える返答に肩を落として、早苗は頭を下げる。

「軽率でした。あなた方を羨む意味なんてないのに」

 自分の非を素直に認められる所、早苗は凄いと思う。それは簡単に、出来ることじゃないから。
 善くも悪くも真っ直ぐな彼女は、だからこそ下げた頭を上げて、言った。

「最期の日まで後悔しないで生きてやると、私は決めたんです。命を無為に延ばしたりしないと決めたのも私です。その言葉は曲げません。……………………後悔は、死んだ後でも遅くないですから」

 いっそ晴れやかに彼女は笑って、困惑している魔理沙にも一度頭を下げた。それから私をちらりと見て、無言で横に並ぶ。

「人間ですから、最期まで走らなきゃ駄目ですよね」

 早苗は自分に言い聞かせるように呟く。

「私は神奈子様も諏訪子様も大好きです。大好きなんです」

 そうでもしないと自分でも駄目なのか、それともただの癖なのかは分からないけど、
 隣で息を吐く早苗は自分の腕を、手が白くなるほど強く掴んでいた。





 The shooters go marching four by four, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが四人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching four by four, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが四人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching four by four.
  (弾幕使いが四人ずつ行く)
 The little one stop to pray to deity.
  (一人が立ち止まって神に祈った)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





「でも、さ、私達はともかく、残された方はそれをどう思うんだろうな」

 魔理沙の呟きは小さくて、そのまま風に消えた。早苗も咲夜も聞こえていない訳でもないだろうに、応えあぐねてか口を開こうとはしない。
 早苗と並んで歩きながら、魔理沙は尚も呟く。

「あいつは、私の事を忘れるのかな。忘れてくれるのかな、忘れちゃうのかな。私がいなくなっても、本当に乗り越えて進んでくれるのかな。引き留めて、しまわないかな」

 問いに対する答えは無い。
 残される者にしか、その悲しみは分からないのだから。

 魔理沙の言葉に、誰もが黙りこくってしまった。自問するように、各々に視線を逃がして考え込む。自分の選択が本当に合っていて、彼女も彼女も納得出来るような解になっているのか、その時が過ぎてしまうまで、判らずじまいで。
 魔理沙の顔を覗き見る。私の親友は、難しい顔をしていた。口の端を強く引き結んで眉を寄せて、睨むように悩んでいた。魔法使いにも、吸血鬼にもなるつもりはないと言った自分の言葉を検分して、唸る。
 咲夜はただ悲しそうな顔をしていた。魔理沙とは違い、悩む余地も無く、心は決まっているものと。永夜異変の時にもう答えは出してしまったから、と咲夜は言うが、あの時とは最早事情も理由も違うだろうに。
 早苗には悩む余地は無い。本人もそれを分かってるからこそ、ぼんやりと空を見上げていた。想い人達のことを考えているのかもしれない。やはりその顔には焦りが見えた。

 私は、どうなのだろう。

 一人ごちる。視線は目の前、彷徨わせて行き場が無いことに気付いた。
 私は、あいつに、紫に、面と向かってそういう話をしたことがあるだろうか。記憶にある限りでは、一度も無い。

 だって、それは言うまでも無いことで、
 私は博麗の巫女で、紫は妖怪で、
 結局どうあっても壁は高いままで、
 あまりにも、遠くて、遠すぎて、

 そして、それだけだ。

 ただ、それだけのことなんだ。

「あら皆で葬列組んでどうしたのかしら?」

 正面、かけられた声に俯いていた顔を上げる。
 七色の人形遣いはこちらへ歩いて来ながら挨拶をしてきた。手には幾つかの本、借りてきたのか返しに行くのかは分からないが、ブックバンドで止めてある本は重そうだ。

 しかし葬列って、また洒落にもならないことを。

「あれ、アリスさんじゃないですか。一人でどちらへ? 一人ですけど」
「…………どうして一人の部分を強調したのよ」

 頭を振って、アリスは向かって右端から早苗、私、咲夜と見て、それから苦々しい顔をしている魔理沙を見た。腕を組んで、鼻を鳴らす。
 思い出した。そう言えば魔理沙とアリスは仲が悪いんだった。悪いと言っても、永夜異変の際には一緒に解決に乗り出していた、その程度だと記憶している。互いの獲物が被るからリソースの取り合いにならざるを得ないのだとか。

 黒い魔女と七色の魔女は睨み合う。
 宴会の様子を見る限り、憎まれ口を叩き合い、よく喧嘩はしているけれど、二人とも相手のことを嫌ってはいないようだ。私見だけど、良いライバルといった感じで、雰囲気は悪くはなかった。
 魔理沙は一歩前に出、アリスは顎を軽く引いた。それから二人同時に口を開く。

「おいおい、幽香の後ろに隠れるだけの人形遣いさんかよ。いいのかよ、こんな所に一人きりで。迷子になってもあいつが迎えに来てくれるからいいんだって? はっ、笑える」
「あんたこそ、あの餓鬼と一緒に地下に引き籠ってなくていいのかしら、魔砲遣いさん? また暴れだす前に、行って抑え付けとかなくても大丈夫?」
「そう言えば、お前恋人に頼りっきりだよなぁ、悪いとは言わないけど、どうなんだよそれ。本気も出せない人形遣いさんはただ後方支援だけしてればいいのかよ。え、どうなんだよ」
「言っておくけど、あんたがこの前持って行った真っ白い花には、花粉に幻覚作用があるわよ。誰にあげたのかは知らないけど」
「はっ、また阿呆みたいな戯言を。人形遣い? ただの少女趣味だろドールマニア、もっと一般的な趣味を持てよ変態」

 …………悪化してる。
 何があったのかは分からないが、二人の仲は相当悪化しているらしい。今にもスペカを出しそうな雰囲気で舌論を開始した二人を見て、咲夜と早苗が一歩退く。私も退がりたいが、いつのまにやら魔理沙に靴を踏まれていてそれもできない。
 しかし、舌論とは言ったが、これは口喧嘩とかそういうものではない。いや、今の二言三言で判するに、これはそもそも喧嘩ですらないだろう。

 相手の言ったことを受けたりしないで、ただ勘に障ることを言い返す。ラリーを繋ぐような仲良しの喧嘩ではなく、ひたすらに言い合って相手の我慢の限界を試す、仲が悪い者同士の喧嘩。かつ、言っていることの大半に意味は無く、相手を怒らせる為だけのもの。口喧嘩以前に、まず会話が成り立っていない。
 実は、面と向かって話している相手との会話を成り立たせない、というのは相当に難度が高い。試しにやってみると分かるが、“会話”の形式を取り、その上で相手の言葉とはまるで無関係のことをいうのは難しいのだ。
 つまり、これは受けた方の負けだ。“口撃”ではなく“返事”をした方の負けなのだ。

「はいはい、あんたのとこの餓鬼がどうなろうと知ったことではないけど、迷惑はかけないのよ。本気で迷惑だから」
「フランと幽香ってどっちが強いんだろうな。フランかな、幽香かな? まあ幽香が強いのは知ってるけど、お前と私だったら私の方が強いもんな」
「迷惑序でに言わせて貰うと、あんたの家の中に私の本混ざってるでしょ。いつ持って行ったのかは知らないけど返しなさいよ、あんたにはどうせ理解不能よ」

 大したことは言っていないのに場の緊張がどんどんと高まっていく。あまりにも居心地が悪くて、しかし魔理沙に服の端を掴まれている所為で動くことは叶わない。
 とりあえず助けを求めて後ろにいる筈の二人を振り返ると、

「が、頑張って下さい、霊夢さん!」
「何かあったら貴女が仲裁に入りなさいよ」
「…………無責任な」

 弾幕に巻き込まれないようにか、二人とも五間は離れた位置でこちらに手を振っている。ムカついたが、遠くて当たることも出来ない。

「七色の人形遣い、ね。よく考えたら、私達全員で換算すると五色はあるから、色的にもお前の立つ瀬は無いな。七割一分は確保出来てるし、そもそもお前の弾幕は七色じゃないし」
「月と星の魔砲遣いって文句に違和感があるのは私だけかしら。あなたの弾幕って基本無属性じゃない。星はまだ分かるけど月はほとんど使わないし、必殺技に至っては元々幽香のじゃない。他人の弾幕なんかパクってどうするのよ」

 きらりと、魔理沙の目の中に一瞬怒りの色が過った。直ぐにそれは鳴りを潜めたが、それを見逃すアリスではなかった。
 拳を握る魔理沙を見下すようにして、アリスは余裕を感じさせる口調で続ける。

「他人の力を借りなきゃあなたは弾幕も張れないのかしら? まあ何でもかんでもパクってるんじゃなくて、自分のものに出来るものだけみたいだけど、それに意味は無いわよね。だって結局パクったことに変わりは無いし、堂々とパクった相手に使ってみせるし」
「…………あ?」

 もう一回言ってみろと、魔理沙は唸った。一度消えた筈の怒りの色が、魔理沙の瞳に映る。

「だから、あんたは弱いんじゃない。あんたこそ恋人の後ろで泣いていればいいのよ」
「……………………そうかい」

 勝負は付いた。
 後は殺るだけだ。
 そう、言わんばかりの視線で、魔理沙はアリスを睨み付けた。応えて、アリスは組んでいた腕を解く。

「…………弾幕はパワーだぜ」
「だから駄目なんだって言ってるじゃない。…………弾幕はブレインよ」

 それが戦闘開始の合図になったのか、二人は至近距離でスペカを出した。向かい合う敵に己を誇示するようにカードを突き付け、掲げる。
 魔理沙の手には『イベントホライズン』、アリスの手には『ドールズウォー』。掲げたスペルカードを宣言する為、二人とも息を浅く吸い、

「はいストップ」

 二人の手からスペルカードを取り上げた。そのまま破り捨てることも考えたけど、流石にそれは止めておく。
 非難の視線二つを受け流して、私は魔理沙の頭を軽く小突いた。

「弾幕るのはいいけど、道の真ん中でやらないで。邪魔」
「…………分かったよ」

 気勢を削がれたのか、魔理沙は私の肩を叩き返して力無く笑った。アリスの方を見ると、肩を竦めて両手を振っている。戦意は無い、ということか。
 場が収まったことを察知したのか、早苗も咲夜も暢気に近付いて来ていた。とりあえずどついておいた。

 さて、うだうだとなんだかんだと修羅場が展開した理由を知りたい所なのだが、どうにも魔理沙もアリスも私達三人を挟んで一番遠い所に位置を取っている所為で話しかけ難い。
 何があって仲が悪化したのか、どうして互いの恋人ですらを槍玉に上げたのか、聞きたい所だが、二人ともそっぽを向いてしまって声をかける雰囲気ではない。
 そしてさりげなく一緒に歩いているが、アリスは方向が逆ではないのか。こっちへ向かって歩いて来ていたのだから、今は来た道を戻っていることになるのだが、それはいいのだろうか。

 分からないが、とりあえずアリスは早苗の隣で知らん顔をしていた。むう。





 The shooters go marching five by five, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが五人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching five by five, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが五人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching five by five.
  (弾幕使いが五人ずつ行く)
 The little one stop to hug a doll.
  (一人が立ち止まって人形を抱き締めた)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





 両側の話に耳を傾けながら特に何も考えずに私は歩いていた。両側に別れた二人が別々に違う話題を昇らせており、私に話を振ることはしない。
 正直眠くなってきていた。
 だって幾ら歩いても同行者が増えるばかりで、彼女に近付けているのかも分からないまま。歩いていればいつかは着くとは分かるけど、歩いていたらいつか着くのだろうか。

 そもそも私は、紫に会うと言ってどこへ向かっているのだろう。
 首を傾げた。

「おーい、五人揃って何処に行くんだ?」

 傾げた首を戻して、かけられた声に振り向く。少し後ろを、里の先生と稗田が歩いて来ていた。さくさくと足を進める慧音先生と、ちょこちょこと若干遅れて後を着いていく阿求が目に入る。
 二人ともこちらを見かけて手を振る。応えて、魔理沙と早苗が振り返した。

「ようようセンセー、調子はどうだい?」
「中々に上々だよ、今日は天気も良いしな。…………に、しても珍しいメンバーだな。何かあったのか?」
「特に何も無いぜっ」
「そうか? なら良いんだが」

 半獣かつ里の先生である慧音は近くまで来ると、軽く手を挙げて挨拶した。隣で阿求が頭を下げる。

「こんにちは、魔理沙さん、咲夜さん、霊夢さん、早苗さん、アリスさん。皆さんお揃いで、どちらへ向かっているんですか?」
「ああ、阿求さん。それはですね、……………………えー、どこへでしょう?」
「お前知らないで着いて来てたのかよ」
「私もどこ行くのか知らないわよ? どこ向かってるの?」
「なんだなんだ、咲夜も知らないのか。なんで一緒に来てたんだお前ら。…………ていうか、アリスはなんでついて来てるんだ?」
「あら、悪いかしら? あんたには関係無いでしょう?」
「そうだけどさ。に、してもなぁ」

 慧音先生と阿求含めた除くアリスの不思議そうな顔四つ眺めて、魔理沙は呆れたように首を振る。行き先も知らずに歩いていたなんて無駄なことこの上無いと言いたげに息を吐いて、私をちらりと見た。
 意味ありげな視線。一瞬の目配せの間に何を読み取ったのか、魔理沙は目を細めた。

「…………紫のとこだよ」

 その言葉で察したらしい咲夜と早苗とアリスが私を見る。肩を竦めて見せると、二人とも僅かに頷くような素振りで視線を戻した。アリスは目を細めただけだった。
 事情の分からない慧音先生と阿求の二人は顔を見合わせて、首を傾げる。

「あの妖怪に用があるのか? …………ふむ」
「あの人ですか、むぅ」

 何やら言いたいことありそうに私の方を見る視線を、手で振り払うようにして誤魔化す。
 意味深な慧音先生には悪いが、紫に特に用があるわけではない。のだが、それを言うような雰囲気では最早ない。どうしてこうなった。

「博麗の巫女があいつに用、か」
「あまり妙なことが起きなければ良いですが…………」

 深読みされてる。超深読みされてる。真面目なんだなぁ。
 そんなことを考えながらふと魔理沙を見ると、一人忍び笑いをしていた。愉快気な悪友を思いっきり睨み付けてやると、了解のポーズを取って見せてから、首を傾げている慧音先生の肩を叩く。

「私達の行き先はともかく、センセーとあっきゅんはどこ行くのよ」
「あ、あっきゅん?」

 あっきゅん? 

「ああ、私は只の付き添いだよ。阿求が、紅魔館に、って言うかメイド長に用があるのだそうだ」
「私に、ですか?」
「あの、前に、私が紅茶に凝ってると言った時に、一度きちんと教えてくれても良いと言ってくれましたよね。だから、その、日和も良いので伺おうと。お土産に里のお菓子を持って行こうと思ったんですが、それだと道中危ないと慧音さんが」
「そうですか、そういうことならお嬢様も歓迎するでしょう」

 魔理沙がこちらに親指を立てて見せた。話題を反らしてくれたのはありがたいけど、そのドヤ顔は理不尽だ。

 阿求は咲夜の隣に並んだ。咲夜は紅魔館への帰りの筈だからそれはいいのだが、真ん中に入る形となった訳で、隣の魔理沙に頭をぐりぐりされている。迷惑そうだが魔理沙は気にしない。どちらが子供か分かったものではない。
 道幅を鑑みてか、慧音先生は阿求の後ろを歩いている。阿求の頭をぐりぐりとしている魔理沙をじと目で見つめていた。





 The shooters go marching six by six, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが六人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching six by six, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが六人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching six by six.
  (弾幕使いが六人ずつ行く)
 The little one stop to pick up her's pen.
  (一人が立ち止まって筆を取った)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





 長閑な天気に欠伸をする。神社を出てからどのくらい経っているのかは今一つ分からなかったが、陽は半分ほど道程を消化していた。

「なるほど、寺子屋で教えていることはあまり難しいものでは無いのですね」
「まあ、子供の内に知っておくと良いと思われるものを教えるのが私の役目だからな。余計なことを教えても仕方が無いだろう」
「でも識字率は高いですし、それこそ日常で必要なレベルの計算は皆さん出来ますよね。幻想郷の歴史は良く知られていますし」
「そうだな、日常に支障無い程度には上手くやれてると思う」

 いつのまにやら隣に行っていた早苗と慧音先生が話している。何やら難しい顔で早苗は頷いているが、なんの話だろう。因みにアリスは全く話に加わろうとしないで私の隣を無言で歩いている。なんか怖い。
 逆では咲夜と魔理沙に挟まれた阿求が虐められていた。頭をぐりぐりとされながら、阿求は迷惑そうに魔理沙の手を払おうとしているが、出来てない。

「なんだあっきゅんおませさんだな、歳の割りにようやりよるわー、うりうり」
「頭をぐりぐりしないで下さい、やめてー」
「うりうり」
「やーめーてー」
「ちょっと魔理沙、止めなさいって」

 見かねた咲夜が止めに入ったが、魔理沙は手を離しはしたものの依然として愉快そうな目をして笑っている。

「そんなおませあっきゅんに質問だ」
「な、なんですか?」

 若干びくびくしながらも応えるあっきゅん、いや阿求。呼び方移ったよ。
 対して悪どい笑みを浮かべる魔理沙。また意地の悪い質問でもするのかと思って横目で見ると、何故かサムズアップして見せた。意味が分からないがまあいいか。

「お前さ、記憶はともかく、知識は引き継いで来てるんだろ?」
「え、まあ、そうですけど。稗田ですから」
「うん、だよな。じゃあさ、」

 息を吸って、

「お前、死ぬ時何思ったんだ?」

 そう、聞いた。

「魔理沙! その言い方はっ」
「別にいいですよ、慧音さん。私は気にしませんから」

 声を荒らげた慧音先生を静かに抑えて、阿求は目を細める。慧音先生は何かしら言いたげであったが、阿求と目が合うと口を閉ざした。
 年齢に似つかわしくない虚無的な目をした稗田の娘は、正面、無感情に受ける霧雨の娘を見つめる。

「そう、ですね…………」

 阿求は迷うように目をゆっくりと瞬かせて、言った。

「覚えてません」

 そう言う阿求は笑っている。
 十代も転生を重ねてきた筈の稗田の子は、それでも無邪気に笑う。知識は継がれているというなら、先代が“どうして死んだのか”は分かっているだろうに。

「記憶にはありませんし、記録にもありません。どちらにせよ、“私”にとって死が未体験なことに変わりはないです」
「…………そっか、すまんな」

 返した魔理沙も笑っていた。
 こちらは、どうにも寂しげだったが。

「魔理沙、何だってお前は」
「いーのいーの、気にしなくて。ちょっと気になっただけだぜ! ところでセンセーは妹紅とどうなったんだよ」
「ばっ、馬鹿言うな! 私は、別にっ」
「無理に否定なんてしなくてもいいってば。分かってるからさ」
「分かってるって、何をだ!」

 明るく元気に話題をずらす、そんな魔理沙に違和感を感じなくはなかったけど、こいつにもそういう気持ちになることがあるんだろうと納得する。私だって、魔理沙の全てを把握している訳じゃない。

 親友と言えるような関係でも、互いに全てを了解していはしないだろう。普通は、きっとそうだ。
 どうあったってお互いが“他人”である以上、根本においての理解は得られない。得られる筈がない。
 なのに、

 ふと、彼女の顔を思い出して、直ぐに振り払う。今深く考えてしまうと、よくないことに思い到ってしまいそうだった。

「え、それで、一昨日は結局朝帰りだったんですかね?」
「なんで、お前が、それを、知って、いる!」
「はーん、マジだったと。センセー顔赤いぜ? 大丈夫か?」
「魔理沙、からかうな!」

 やいのやいのと叫びながら、魔理沙と慧音先生は私を挟んで騒ぐ。実に煩い。慧音先生は気にしているのか時折阿求の方を見るが、魔理沙は完全に気にしていない様子で笑っていた。
 魔理沙が本当に気にしていないとは、あんな質問をしておいて彼女が気に病まないとは、思えないのだが。

 難を逃れた阿求は息を吐いて、安堵の表情を浮かべる。誤魔化せたとか、突っ込まれなくて良かったとか、そういうものを感じて、少し意外に思った。
 息を吐いた直後にアリスに頬をつつかれてむにむにされてる阿求を横目に、肩を竦めた。





 The shooters go marching seven by seven, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが七人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching seven by seven, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが七人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching seven by seven.
  (弾幕使いが七人ずつ行く)
 The little one stop to pick up paper.
  (一人が立ち止まって紙を取り上げた)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





 蟻の行列は続く。兵隊の行進は続く。
 そろそろ目的地が近いという予感があった。相変わらず気持ちのいい程の快晴を見上げて、目を細める。

「The ants go marching one by one, hurrah, hurrah.
 The ants go marching one by one, hurrah, hurrah.
 The ants go marching one by one.
 The little one stop to…………」
「霊夢、その曲をどこで聞いたの?」

 咲夜に聞かれて、始めて自分が小さく歌っていたことに気が付いた。無意識の内に歌っていた所為か、何を言っていたのか自分でも分からず、首を傾げる。

「どこでって、…………知らないわよそんなの」
「今歌ってたじゃないの、The ants go marching one by one.って。知らないってことは無いでしょう?」

 と言われても、覚えに無い。いや、あるにはあったが、もしかしてこれだろうか。

「誰かが、歌ってたのよ。誰だかは分からないけど」
「マザーグースを知ってるだけじゃなくて、歌える人はお嬢様と私くらいな筈だけど……………………むぅ」

 唸って、咲夜は考え込むように俯いた。何を考えてるのかは知らないが、今のが気になったらしい。

 蟻の兵隊が一人ずつ、フレーフレー。
 行進は数を増やして続いて行く。
 蟻の兵隊が一人ずつ、フレーフレー。
 どこへ行くのか分からなくても、彼等はただ仲間と共に進んで行く。
 じゃあ、何故私は今それを思い出したのだろう。どうして無意識に口ずさんでいたのだろう。

 不意に、背後から肩を叩かれた。
 突然のことだったので、反射的に肩の辺りを払うように振り抜く。

「うげふっ!?」

 確かな手応えと共に聞き覚えのある悲鳴。聞き覚えがあるからこそ、私は背後で崩れ落ちた人物を存在ごと無視してその場を迅速に退避、

「っぐ、ちょっと霊夢さん、置いてきぼりは酷いですよ!」
「っち、仕留めれてなかったか」
「うわ凄い悪役台詞ですね」

 退避出来なかったので、まあそれは諦めて、振り向く。新聞記者はお腹を抱えて踞っていた。ふむ、感触からして上手く鳩尾に入ったらしいから、かなりのダメージだろう。
 射命丸文は、しかし程無くして回復したらしく元気良く立ち上がった。そのまま倒れればいいのに。

「ふぅ、天狗はこんなものでは倒れませんよ。ええ、倒れませんよ。今の私格好良いです、後でチルノさんに同意を得ねばなりませんね、ええ」

 文は相変わらずぶつぶつ言いながら私達の前を後ろ向きに歩き出した。つまりは取材体勢だ。
 それに気付いた魔理沙達の顔がひきつる。

「おいパパラッチ天狗だ、皆逃げようぜ!」
「逃がしません、じゃない別に逃げなくてもいいじゃないですか!」
「でも今、逃がしませんってはっきり言ってましたよね」
「つまり逃げたら捕まえる気があると、ネタにする気があると、そういうことよね」
「なら魔理沙に同意するのは癪だけど、ここは退却すべきだと判断したわ」
「「「「よって離脱!」」」」
「…………お前ら仲良いんだな」

 散々に言われた文がうなだれているが、誰も気にかけるような言葉をかけないのは、流石というべきか。なんというか。あの慧音先生ですら、しかめ面をするだけで何も言わない。
 しかしそこはど根性パパラッチ、即座に復帰して立ち上がる。手帖片手に私をびしりと指差し、指差すのは失礼だと思い直したのか掌に返した。

「取り敢えず霊夢さんにお訊きします。どうして皆さん一列に並んでるのでしょうか? 幾らこの道が広いからと言えど、七人は並び過ぎでしょう?」
「どうしてって…………」

 私に判る訳ないじゃないと、喉まで出かかった言葉を飲み込む。知らないと言ってもこの新聞記者が納得してくれるかどうか。

「私は知らないわよ?」
「ご冗談を」

 ほら、納得なんてしない。する筈も無いのだ。
 そこで文は私の隣、早苗との間に割り込んで並ぶと、筆を取ってこちらに突き付ける。さながら犯人を糾弾する探偵のようだったが、どうにも目が笑っているので決まらない。

「メンバー構成は置いておきまして、先ずはそこからです。上から見て正直吃驚したんですから」
「知るか」

 というか、さりげなくあんたも並んでるじゃないか。なんで皆並びたがるんだ。

「ふむ、何か知ってますか、早苗さん?」
「えっと、私は何も知らないです」
「…………これは謎ですね」

 呟いて文は何かしら手帖に書き付ける。それから軽く息を吐いて、営業スマイルを浮かべた。

「それでは、皆さんのその後の経過でも訊きましょうかね。先ずは魔理沙さん言ってみます?」
「止めろ私に話を振るな」
「じゃあ反対側のアリスさん」
「うっさいバカラス殺すわよ」
「アリスさんは絶対恋人の悪影響受けてますよねー。では慧音さんは」
「お前私の噂駄々漏らしにしてるだろ。止めろって私は言ったよな? なぁ?」
「おっと殺気が。くわばらくわばら」

 文は首を竦めて、残りの三人には声をかけずに頷く。声をかけたところで面白い話は聞けないとの判断だろう。一人阿求は声をかけられなくて良かったと胸を撫で下ろしていた。
 で何故か私を見る、と。

「こっち見んな」
「まぁまぁ霊夢さん、あの八雲さんとどうなったのか位聞かせて下さいよ」
「あんたに言うことは何も無いわ」

 無下にあしらって話を打ち切ろうとするが、新聞記者は諦めずに私に声をかけてくる。めげない奴だ。

「先日一大決心の末に意中の八雲紫さんに告白し、此の度目出度く恋人同士と相成った博麗霊夢さんは、記者の質問に恥ずかしそうにはにかみながら以下の様に応えた」
「…………どうして私から告白したことを知ってるのかしらこの新聞記者は」
「確かな筋からの情報です」

 そう、あれは空の明るい雨の日。
 静かな彼女の語りを聞きながら、相槌を返して。宥めるような、落ち着けと言うような、そんな口調が何故か心地良く感じたのを、覚えてる。
 告白した筈なのに、彼女は優しく笑うだけで。

「えっと、それで、どうなんです、そこの所は?」
「別に、会う機会がちょっと増えた程度なもんよ」

 実際その程度だ。その程度で、十分なのだけど。
 私が、会いたいなと想う時にいつも突然来ては、じゃれあったり、一緒に寝たり、時には弾幕を交わしたり。それで私は満足で、まるでそれを承知してるみたいに彼女もそれ以上は踏み込んでこようとはしなくて。
 ただ、何もかも分かっているような態度は気にいらない。たまには驚いたり、困ったり、戸惑ってる顔がみたいものだ。

「然し乍ら今代の博麗の巫女が奔放なのは最早周知の事実で在るにしても、妖怪と懇意に為るのは如何な物かとの声も上がっている。其の事を問うと、霊夢さんは若干寂し気に笑い、今更其んな事は気にはし無いと述べた。近頃種族を越えた恋愛が急増している中、博麗の巫女が此うした行動を取るのは異例とも言える事であり、今後も其の行動が注目される」
「…………あんたは新聞に何を書いてるのよ」
「勿論”事実“ですが、何か?」

 そうか、事実なのか。

「あややっ、霊夢さんの視線がマイナスKの冷凍怪光線に!」
「文ー、チルノにも言ったけどさ、マイナスKって言い方は間違ってるからなー」
「それくらい承知してますよぅ」

 私の冷ややかな目を全力でスルーして見せた新聞記者は手帖を閉じて、息を吐いた。いい度胸だ。

「しかしですね、矢張り人の色恋を取り上げるのはどうかとは思いますけれど、貴女は博麗の巫女ですから。そりゃ気にもなるでしょうと」
「だからってプライバシーは守りなさいよ。あんたが一番隠してる癖に」
「いやー、最近は後輩もいますしねぇ。そうも言ってられなくはなってますから」

 あー、と一同頷く。あのはたてとかいう天狗か。
 とりあえず皆の心情を代表して、私は微妙に笑みをひきつらせている文の肩を叩く。

「ざ ま あ」
「っく、覚悟はしていたけどっ、覚悟はしていたけどっ」

 私は至極当然の結論を述べただけなのに、何やらダメージを受けたらしい。うなだれてしまいそのまま無言になる。隣を暗い雰囲気がどよんと漂っていて正直うざいので手で追い払った。払いきれなかったが。

 ふと思い至って左右を見渡すと、一列に並んで歩いている私達は随分とおかしい。前後になればいいのに誰も退がろうとはしない。
 妙だとは感じたけど、私の頭はそれ以上に進もうとはしなかった。不思議なことに。





 The shooters go marching eight by eight, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが八人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching eight by eight, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが八人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching eight by eight.
  (弾幕使いが八人ずつ行く)
 The little one stop to take a dive.
  (一人が立ち止まってわざと倒れた)
 And they go marching up to the sky,
  (皆は一斉に空に飛び上がって)
 To get out of the shots, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





「なあなあ文、一つ聞いていいか?」
「…………どうぞ」

 魔理沙は明るく声をかけるが、応える文のテンションは低い。ここまで低いと何と無く申し訳ないような気持ちになってくるから不思議なものだ。

「天狗には寿命があるって聞いたんですけど本当ですか?」
「本当です。天狗には寿命があります」

 テンション低いままで文は頷く。

「正直人間と同じですね、千年もすれば年取って呆けてきますし。私なんてまだ二百歳いってないですし」
「へえ、そうなんだ」

 へえ、そうなんだ。じゃあ文の周知にして秘密の恋人であるチルノとはどうにもこうにも、どうしようも無い、と。
 成る程相手は妖精だ。添い遂げるなんて不可能だ。それは誰もが重々承知していることだろう。

 あぁ、そっか、今気付いた。
 時間の流れに泣くことになると、皆とっくのとうに分かってるんだ。
 妖怪だったり、神様だったり、不死人だったり、閻魔様だったり、妖精だったり、するのだけど、
 結局自分達と、彼女達との差を埋める事は出来なくて、
 それは、なんだか酷く、

「なんか、悲しいですね」

 ぽつりと早苗が呟いて、皆が黙る。
 悲しいというのは、本来は置いていかれる側の者が想うべきものなのかもしれないけど、確かに悲しいと、その言い方は当たっている。
 寂しいでも、切ないでも、正直表現なんてどうでもいいのだろうけど。

「別に悲しくはないだろ、寂しいけどさ。生物がその定められた寿命の通りに絶えるのは当然なんだから」

 魔理沙はそう言ったけど、他人事のような口振りが気になった。まだきっと、魔理沙自身は迷っているからだと、誰もが気付いたと思う。
 私の親友は最後の最後まで迷うことになるのだろう。こいつはそういう人間なのだ。

 対して咲夜も早苗も黙ったきり、口を開こうとはしない。堅く口の端を引き結んで俯いていた。

「…………でも、もっと生きたいと思うのは自然なことですよね」

 今まであまり喋っていなかった阿求がそう小さく口にして、

「そうだな。それは全ての生きとし生ける者の切実な願いだ。永遠なんて無いと識っているからこそ、願うんだ」

 慧音先生がそう返す。

「どんなに願ったところで叶う筈ないと分かってるのに、ね、報われないわね」

 アリスが誰ともなく呟き、

「報われなくはないですよ。意味が無い訳では無いですから」

 文が応えた。

「霊夢さんはどう思います?」

 それから、私の反応を窺うようにちらりと視線がこちらへ向けられた。
 息を吐いて肩を落とす。ため息のような深呼吸のような息を吐いて、軽く目を瞑った。

「……………………いや、別にどうも」

 外の事は知らないけれど、幻想郷じゃ何があって明日生きてるかも分からない。朝になってみれば幽霊になってたり妖怪になってたり半獣になってたりする世界だ。
 家出少女は魔法使いを目指して頭がおかしいと監禁されてた吸血鬼の隣で酒を呑み、敵は味方で友人は宿敵で、そして矛盾も理不尽も総てを飲み込む、そんな場所だ。
 だから、今更生の短さを嘆くのは、言っては悪いがお門違いってなもんだろう。逆に言えば、今日と同じ日は来ないし、明日はいつでも明日でしかない。
 だからこそ生きてて楽しいし、死んだら悲しいも何も無く後悔しか残らないのだ。

「どうとも思わないし、どうともしない。私は正直どうでもいいわ」

 思考を停止してる訳じゃない。
 ただ、そんなの当たり前だから、寧ろ考え込むのが今更だと言いたいのだ。

 と、そう言って、空を見上げていた視線を下ろした。先にはそろそろ目的地である場所が見えてくる筈だ。
 そう思い、道の先を見やると、

「…………あ」

 薄い色の日傘を差した、良く見知った人が立っていた。
 くるり、くるり、と手の中で傘を回しつつ、気配に気付いたのか、その人は振り返る。いや、彼女のことだから、もっと前から気付いていて、敢えて後ろを向いていたのかも知れないけど。

 腰まであるかという程の長い髪、金色の輝きが、傾き、地に沈もうとしている陽を反射してキラキラと輝く。振り返った彼女は日傘を閉じると、くすりと口元だけで笑って、一列に並んだ私達を見た。
 こちらを真っ直ぐに見た紫がかかった青の瞳に、黄昏時の空を思い出して、途端に息が苦しくなった。

「――――あら、揃いも揃って揃い踏み、一体何処へ向かってるのかしら」

 決して大きくはない声で発せられた呟きが耳に届く。いつの間にか、十分話の出来る距離まで近付いていた。
 思わず足を止めた。
 視線の先、実にいつも通りにしか見えない風体の彼女を前に、一つ息を吐く。

「紫」

 と、名前を呼んでから、はて自分は何の用でここまで来たんだったっけと考えた。私は特に用も無く、彼女に会いに行こうと思いたったから、その通りにやって来たまでだ。
 だから、声をかけようとしても、何と声をかければ良いのか分からなくて詰まってしまうのだ。まあ特に用も無かったのたから当たり前か。

 つまり、どうしてかは分からないけど皆が私の隣に並んで歩き出したのがいけない。どうにも真面目な雰囲気にならざるを得なくて、辟易してしまう。
 両脇をちらりと見ると、次に私は何を言うのだろうとさりげなく窺う視線が七人分向けられていた。
 なんでよ、待ってても別に面白いことは言わないわよ。真面目なことも言う気は無いわよ。

「何かしら、霊夢?」

 軽く首を傾げていつもの笑みを浮かべて、紫はそう聞いてくる。
 よく胡散臭いだの何だのと言われる彼女は、確かに胡散臭い。何か企んでるのではないのかと疑いたくなるような、黒幕ちっくな笑みは、成る程、自然と警戒心を抱きたくなるような種類のものだ。
 だけど、私が思うに、多分その胡散臭さや嘘臭さや芝居臭さは、彼女がこちらを警戒させる為にわざとやってるものなのではないか。
 わざと、らしく見せてるのではないか。
 彼女の平生の態度を見ていると、そう思う。

 まあ、それはともかく。
 返事しなきゃ。

「え!? あぁ、いや、えっと、な、何でも、無いわ」

 しかし何かしらと聞かれても答えようの無い私は、しどろもどろに尻すぼみな言葉を呟くだけだ。意味の通らないことをモゴモゴと口の中反芻しながら、仰ぐように彼女の表情を窺う。
 私と話してる時によく見せる、仕様が無いわねと言いたげな優しげな笑みで彼女は微笑んで、どくんと心臓が鼓動を深めた。
 落ち着け、落ち着け。軽く目を瞑って宥めるが、どうにも収まる気色も無い。心臓は意思に関係無く動くものだからにして、意思でどうこう出来るものではないのは分かるけどもうちょっと落ち着こうか。

 そんな私の不調に気付かない様子で、紫は、ふむ、と一人ごちる。何か考え込むような仕草で並んでいる私達を端から端まで見やると、肩を落とした。
 とん、と傘を突いて、八雲の隙間妖怪は息を吐く。仕方が無い事と割り切るように頭を振って見せて、彼女を見る私を、真っ直ぐに見つめ返した。

「蟻の行進は続いて行く、盲目的にただ前へ。何処へ向かうとも知れずに進んで行く、逝き先何て気にせずに。
 そうね、……………………でも残念。ここで終わりよ」

「……………………へ?」

 間抜けな声を出したなぁ、と自分でも思った。

「え…………いや、終わりって、…………何が?」

 突然にそう言われて、戸惑うのも無理はないと思う。終わり? 何が? 何で? 
 脳内を疑問符が飛び交う。内に、状況を理解し、冷静になろうとスペルカード戦に馴れた頭が情報集めに走るが、まあこの状況から集められる情報なんて殆ど無い訳で。
 つまり意味不明。状況は進行中。なんてこったい。

 しかし不思議なことに、驚き、戸惑い、何の話だと頭を働かせているのは私だけのようだった。
 隣にいる文も咲夜も、その隣の早苗も阿求も、更にその隣とその隣の慧音先生もアリスも魔理沙も、
 ため息じみた深い息を吐いて、苦しそうな表情を見せた。
 息が詰まったような、泣き出しそうな、表情を。
 理由は私には分からない。私の知らない理由がそこにはあるのだろう。

「ちょっと、どういうこと?」

 他の人が知っていて自分だけ知らないというのは如何せんストレスが溜まる。ストレスを溜めるのは私の性に合わない。だからストレス溜めたくない私は呻くように抗議の声を上げたのだけど、答えてくれる人はいなかった。
 正面、傘を突いてこちらを悠然と見ている紫に、睨み付けるような視線をやった。
「そんなに怖い顔しないの」
「…………紫、終わりってどういう意味よ」

 問い詰めるように言った私に、彼女は軽く肩を竦めて見せて、何でもないことのように応える。

「ん、終わりよ? 行進は、ここから先には行けない。だから、」

 帰りなさいな、と彼女は寂しげにも見える笑みを浮かべて言った。





 The shooters go marching nine by nine, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが九人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching nine by nine, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが九人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching nine by nine.
  (弾幕使いが九人ずつ行く)
 The little one stop to say "THE END".
  (一人が立ち止まって“終わりよ”と言った)
 And they go marching down to the ground,
  (皆は一斉に地面に伏して)
 To get out of the barrage, BANG, BANG, BANG!
  (弾幕を避けた。バンバンバン!)





「嫌よ」

 呻く。
 終わりという彼女の言葉がが何を意味するのか、それを持って魔理沙達は何を嘆息したのか、分からないけど、

「納得無しに承諾なんてしないわよ、私は」

 帰れと言われて大人しく帰るような性格では、私はない。
 それが分かっているからか、紫はまた、仕方が無いわねと言いたげな笑みを見せて、息を吐く。どこか寂しそうにも見える笑顔で、彼女は私の方を見た。

「…………先に、貴女は進みたいの? 引き返せないとしても、取り返しがつかないとしても?」

 妙な問いだ。さっきから紫は何を言いたくて、何を言っているのだろう。
 軽く首を傾げて頭を悩ませてから、悩む必要はないと結論付けた。別に彼女が何を言いたくても、私の答えはいつだって変わりはしないから。
 だから私は胸を張って応えてやった。

「知らないわよそんなこと」

 …………応え方を間違った気もするわね。周りの視線が若干痛い。紫ですらちょっと困ったような顔をしていた。むぅ。
 しかし前言を撤回などしない。逆に更に堂々と、目の前に立つ彼女と隣に並ぶ彼女達へ向けて、声を張った。

「とりあえず私はあなたの傍に行きたいだけ。それ以外の、未来がどうとか、寿命がどうとか、種族がどうとか、知ったことじゃないわ」

 一歩前に出る。それに釣られてて、彼女達も思わず前に出る。

「行き先も逝く末も気にしない。いいから前に進ませなさい」

 鼻を鳴らして尊大に、考え無しの一言を告げてやった。それはもうこれ以上ないほどの馬鹿のように。
 彼女は幾分呆れたようだ。解答が拙さ過ぎたのかもしれない。自分でも内心どうなのかとは思った。
 だけどふと見せた彼女の笑みは、
 なんだかとても嬉しそうだった。

「そう、貴女らしいわね」

 言って、彼女は手招きするように、こちらへ手を差し伸べた。
 呆れたようで、諦めたようで、でも認めてくれたと感じて、知らず口元が綻ぶ。差し出された手を取るように足を前に進めて、彼女の方へ向かう。
 歩調を速めて彼女に飛びついたら、どんな顔をするだろうと悪戯心に思いながら。

 むぅ。
 っていうか、これはそもそもこんな話だったっけ? 





 The shooters go marching ten by ten, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが十人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching ten by ten, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが十人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching ten by ten.
  (弾幕使いが十人ずつ行く)
 The little one stop to say "LET'S BGIN".
  (一人が立ち止まって“始めましょう”と言った)
 And they……
  (そして皆は……











 …

 …………

 ……………………

 ……marching nine by nine.
  ……兵隊がしちにんずつ行く)
 The little one stop to pray to heaven.
  (ひとりが立ち止まって天に祈った)
 And they all go marching down to the ground,
  (みんなはいっせいに地面に伏せて)
 To get out of the rain, BOOM! BOOM! BOOM!
  (雨をよけた。ゴーゴーゴー!)」

 小さく歌う声がする。

「The ants go marching eight by eight, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がはちにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching eight by eight, hurrah, hurrah.
  (アリの兵隊がはちにんずつ、フレーフレー)
 The ants go marching eight by……
  (アリの兵隊がはちにん……
 あら、起こしちゃったかしら?」

 柔らかく笑う声にゆっくりと意識が浮上する。夢から覚めた時特有のふわふわした気持ちをひきずって、不意に触れた柔らかさに顔を押し付けた。
 爽やかな風が僅かに髪を揺らす感覚と、暖かい日の光。傍にある、誰かの温もり。
 少しひんやりとした指が頬をなぜて、私の髪をかき上げる。その冷たさに、息を洩らした。

「ん…………」
「お早う、良く寝れた?」

 耳元で囁かれて見上げると、横から覗き込んでいる彼女の顔があった。
 傾いた陽差しは赤く端正な顔を染め上げていた。随分と長く眠っていたらしい。
 彼女はまだぼんやりとしている私と目が合うと、くすりと笑みを一つ溢す。

「ゆか、り…………?」
「無意識とは言え、夢中で抱き着いてきてくれると悪い気はしないわね」
「…………っ!」

 どうやら膝枕をしてもらっているらしい。それはいいのだが、いや突っ込み所ではあるがまあいいとして、彼女のお腹に顔を埋めるように抱きついてしまっていたようだ。
 反射的に離れようとするが、抱き締めるように身体を押さえられていて出来ない。焦って顔が真っ赤な私に対し、紫は余裕の澄まし顔だ。彼女がどこか面白がるような表情で首を傾げてみせると、肩から金色の髪が滑り落ちて私の頬を擽った。

「あんた、いつから、ここに!?」
「はい暴れない、遊びに来たら貴女が気持ち良さそうに、無防備に昼寝してたから傍にいてあげたんじゃない。暴れないの」

 大人しくなさい、と頭を抱えられる。まるで包み込まれるような状態に、いっぱいに紫の匂いがして、軽く目眩がした。
 不快ではない。むしろ彼女が傍にいる明確な証の気がして、深く吸い込む。彼女の背中に手をまわして、強く引き寄せる。

「……little one stop to check the time.
  ……ひとりが立ち止まって時間をはかった)
 And they all go marching down to the ground,
  (みんなはいっせいに地面に伏せて)
 To get out of the rain, BOOM! BOOM! BOOM!
  (雨をよけた。ゴーゴーゴー!)」

 低く、小さく、紫は口ずさむ。
 その歌に聞き覚えがあって、先刻の夢を思い出して。

「紫、あんたもしかして私の夢に侵入って来てなかった?」

 目を合わせてそう訊ねると、彼女は目を丸くして呻いた。いつもの困ったような顔で、ちょっと首を傾げる。

「どうしてそう思ったのかしら?」
「別に…………勘よ」

 夢にしては妙にちゃんとしていると思ったのだ。普段夢の内容なんて覚えている試しの無い私が覚えているのも変だし。
 紫はバレた、ヤバい、という顔をしているが、そこを怒る気は私には無い。夢なんて、弄られようが何されようが気にすることじゃない。
 問題は、何でそんなことをしたのかってことで。

「何でって…………だって本音を聞きたいじゃない」

 拗ねたように言う彼女がおかしくて思わず吹き出す。じと目を向けられるが知ったことではない。

「あ、はははっ! 私の本音って、むしろ私が知りたいわよ」

 紫はそっぽを向いてしまったが、果たして私の本音とやらは分かったのだろうか。
 膝枕されて下から見上げる彼女は、少し顔が赤いように見えた。いや、陽に染まっているだけかもしれなかった。どっちでもよかった。
 彼女の頬に手を伸ばして、触れてみる。手先と違って熱いくらいの熱を持った頬に指先が触れると、彼女は口を尖らせて私を見た。

「私、あなたの本音の方が聞いてみたいかも」
「…………蟻さんごときに隠すような本音は持ち合わせてないわ」

 どうだか。

「んー、そうね。別にそれでもいいわ。いつか聞き出してやればいいだけだもの」

 別に彼女の何が特別って訳じゃなくて、
 ただ彼女が彼女であることが十分に“特別”の理由。
 優しく、厳しく、凛々しく、可憐に、妖艶に、宥めるように、焚き付けるように、攻め立てるように、誘うように、誤魔化すように、証明するように、内に、外に、誠実に、ひたすらに胡散臭い、
 そんな彼女に、ずっと傍にいて欲しい。
 そんな彼女の、ずっと傍にいたい。

 例え永遠が無くても、
 例え別れが絶対でも、
 例え時間が隔てようとも、
 それでも、
 私は傲慢に幸せを願う。

 それが蟻の兵隊の決めてること。
 前進を止めない、自分を疑問に思わない、全力を尽くす、諦めない、どんなことも楽しむ。
 それが弾幕使いの決めてること。

「そうそう、今日宴会あるらしいじゃない。用意しなくていいの?」
「…………まずい、完全に忘れてたわ。急いだら間に合うかしら!?」
「仕様が無いわね、たまには手伝ってあげましょうか」

 だから堂々と、胸を張って私は宣言出来る。
 私は彼女のことが大好きだ。



 The shooters go marching two by two, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが二人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching two by two, hurrah, hurrah.
  (弾幕使いが二人ずつ、フレーフレー)
 The shooters go marching two by two.
  (弾幕使いが二人ずつ行く)
 The little one stop to twiddle her thumb.
  (一人が立ち止まって退屈そうにした)
 And they all sit down and have a drinking spree,
  (皆は座って酔って騒ぎ出して)
 To feast on strong liquor. DRINK! DRINK! DRINK!
  (宴会を満喫した。呑め、呑め、呑め!)





.
見ろよ、この改行率、凄くね? 俺超頑張ったよ、改行
凄くないですね改行なんて努力してするもんでもないんですよ本当は、どうも虎です
起承転結何それ美味しいの? なユカレイ、ユカレイ? なんか色々混ざってたけど良しとしよう

マザーグースは『The ants go marching』より、携帯じゃなきゃもっと手間かかってたかもなぁ
蟻=弱い ってことで安直に恋人より早く死ぬのが確定なカップルを集めてみました、あっきゅんはなんか違うけどな

どーでもいいけどユカレイである必要は無いよねっ
言ったら負けだぜっ、つまり負けたぜっ


えー、ではここまで読んで下さった皆々様方へ
感謝!
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コメント



0.420簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
好き
8.70名前が無い程度の能力削除
マザーグースを使うならもっと軽く暗示的な書法でいいのでは……。形式的によく作られているはずなのに、どこか野暮ったい印象を持ちました。会話文は素敵でした。
テーマと技法のアンバランスさが欠点かなと。よくできているけど面白くない。形式美にも情感にも届かない混濁が残念です。そもそも文章量が多すぎると感じました。