Coolier - 新生・東方創想話

その面は何を隠すか

2013/06/02 14:25:45
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桜もとっくに散って、あんなに桃色で格別であった木はただの緑色の木になってしまった。あの木の美しさは期間限定で、花見客は毛虫に置き換わってしまっている。
それでも葉桜だと言って愛でてもらえるのだから、桜の持つ魅力、魔力はやはり凄まじい物なのであろう。
冥界にあるという妖怪桜も、無縁塚の妖怪桜も、元々なんでもない木が色々な人々を引き付け、人々の思念で桜に化けてしまった木なのかもしれない。
となると店の傍の桜も、僕が桜だと思うから桜なのだろう。
人々の意識が向きさえすれば、魔法の森の鬱蒼とした木々も、全て桜にしてしまうことも可能だろうか。


馬鹿馬鹿しい。

僕がこのようなことを考えるのも、きっとこの陽気な太陽のせいである。
春の日差しは知らぬ間に人や妖怪を浮足立たせる。
その最たるものが桜の下で騒ぐ花見である。
僕もどうやらそう言った春の気にあてられてしまっているようだ。
少しばかり浮かれてしまっているから、あんな馬鹿げたことを考えてしまったのであろう。
何ともなしに、窓から桜が見えたということだけから始まった推察を終え、何か本でも読もうかと思ったその時である。

からんからん

「たのもうたのもう」

唐突に客が来た。今の声からすると浮かれた霊夢や魔理沙では無い。
入ってきたのは桃色ロングの無表情に笑顔の能面を半分被り、更に周囲に何枚かのお面を侍らせた少女であった。水色のシャツにふわりとした、しかし奇妙な模様の描かれた桃色のスカートを纏っている。
見ない顔(実際に物理的に半分見えない)であるがこの分だと新しい妖怪か何かであろう。

「いらっしゃい。」
「秦こころ」
「君の名前かい?」
「うむ」

気が付くとお面は別の物に変わっている。今度は厳めしい顔だ。

「僕は森近霖之助だ。店の名前は香霖堂。」
「道具が沢山ありそうだから来たわ」
「道具屋だからね」

どうにもかみ合わない、というか噛みあいづらい、そんな印象を僕は受けた。

「それで、こころさん。今日はどういったものを探してここに?」
「希望の面」

今度はお面が泣き顔になっている。一方彼女自身の表情は微動だにしていない。

「なくなっちゃって困ってるの」
「僕は道具屋だ。失せ物探しなら他に適任がいるだろ」
「ここには色々な物がいっぱいあるわね」
「だからその中にあるとでも?」
「かもしれない♪」

今度は楽しそうなひょっとこのお面である。なんとなく読めてきた。
恐らく彼女は表情の無い妖怪なのだ。だから感情の表現をお面に頼っていると見た。とすると正体はのっぺらぼうか何かだろうか?

「探すのはやぶさかじゃないが希望のお面というのはどんなものなんだ?」
「えーっと、だから、希望溢れる面…?」
「それじゃあ見た目がまるで分らないじゃないか」
「私が見れば分かるわ」
「僕が探せないじゃないか」
「なんと」

今度は驚いたお面である。やはり彼女には表情は無いのだ。
そんなことより結局希望のお面の全貌がかけらも見えてこない。

「分からないなら全部持ってきてくれる?かな?」
「やっぱりそういうことか」
「よろしくよろしくー」
「少し時間がかかるかもしれないからその辺で適当に本でも読むか何かしておいてくれ」
「あいあいさー」

秦こころはしゃきっと敬礼のポーズをとってくれた。
しかし変わらず彼女は楽しそうにも悲しそうにもしておらず、僕の店に目的のものがあるかもしれないといった期待や、やっぱり無いかもしれないという諦めも何も、感じ取れることは無かった。

――

店にあるお面全てとは言ったものの、実は僕はそこまで沢山のお面を持ち合わせているわけではない。縁日でお面屋を出しているわけでも無いのでそれも当然であろう。
まずは玩具の棚で目当ての品を探した。
棚を漁ると無縁塚で拾った外来の薄っぺらな素材でできたお面が二枚出てきた。全体が黄色で尖った耳の先が黒い、電気を出しそうな人外の生き物(?)のお面に、全体が緑色で大きくて真っ赤な目をし、触覚を生やしたものだ。
希望のお面と言うからには明るい表情なのだろうと思ったのだが、どんなものかは全くわからないので一応見つかったものは全部持って行っておく。とは言ってもたかが二枚であるが。

次は本命の工芸品の棚である。
妖怪が探すお面なのだから外来の薄っぺらいお面では無く、きっと何かいわれのあるお面である可能性が高い。
ぎょろりとした赤と黒の二色で塗り分けられた目が三つもついて、更に豪華特典とでも言わんばかりに猛々しい白い牙を何本も生やしたお面。白をベースに原色をそのままのせた極彩色で、出っ歯でお面本体と同じくらいに大きな舌を出したお面。目が四つもついており三つの顔が真ん中の二つの目を共有しているものも出てきた。ついでに定番の長い鼻を生やした真っ赤な天狗の面。
これらはおそらくどこかの神様を象ったものであろう。
彼女の希望を表す面かどうかはわからないが、人間の信仰を象ったものであることには間違いないのだから妖怪の探すお面としては妥当だろう。
どれも明るい表情ではないが、希望にあふれている時存外人間も妖怪もあんな顔になってしまっている可能性も無いことは無いだろうし。

とりあえず見つかったお面6枚を持って奥まった棚から、棚の無い開けたところまで出る。
秦こころは椅子に座って目を瞑っていた。瞑想でもしているのだろうか?顔には狐の面が据えられている。
カウンターに座り直して声をかけた。

「おい、言われたとおりお面を出したぞ」
「ご苦労」

彼女はぱちりと目を開け、僕のいるカウンターの前までやってきた。

「今のは一体何をしてたんだ?」
「面を失くして偏ってるから、バランスをとってた。」
「?、よくわからないな。まあいいだろう。」

これを見てくれ、と僕は持ってきたお面を机に並べた。
本当は一つ一つ確認して行きたかったのだが、正解があるかないかわからないものでそんなクイズの正解確認のようなことをしても無意味だろう。

並べられた六つのお面に、彼女は順に目を通した。
リアルタイムで律儀にお面を挿げ替えて感情を表現しているのは見ていて面白いものを感じた。見たままの通りの百面相である。
確認し始めて数分、ふと彼女のお面の変化が止まり、彼女はお面を1つ手にとった。
それは、最初に玩具の棚で見つけた緑のお面であった。名状は仮面ライダーのお面、用途は…、説明する必要もないと思うが被って英雄を模して遊ぶ、と出た。

「まさか、それが希望のお面だなんて言うんじゃないだろうな?」
「そうではない。でも近いかも」
「近い?その薄っぺらなお面が?」
「これには希望が集まってたわ」
「集まっていた?」
「そう、これは英雄の仮面。これを被ればだれでも英雄」
「誰でも英雄、それとこれが何の関係がある?そもそもそのお面は表情が無い。君の素顔と同じだ」
「?、私が探しているのは希望をつかさどる面」
「ということは、希望に満ち溢れた表情のお面でなくてもいいということか?」

彼女はこくんと頷いた。お面は驚いた顔をしている。
そりゃあ僕だって勘違いはする。なんなによくわからない説明だったのだから。

「でも、それならこっちの神様のお面の方がいいんじゃないのか?」
「それは怖れ」

お面は蒼ざめたものに変わった。

「人間が、自然に抱いた恐れの象徴(かたち)」
「つまり、信仰は集めていてもイコール希望と言うわけでは無いと」
「うん。でもこの面は違う、いや、違った」
「そのお面が?」
「その通り♪」

少し頭を回転させる。
なぜこっちのお面なのか?
別にクイズでもなんでもないのだから彼女に直接なぜそのお面なのか聞けばいいのだが、少し考えれば見えてくる気がした。
これは英雄を模したお面である。
お面なんて被って遊ぶのはおそらく霊夢や魔理沙よりも一回り年下の、小さな子供であろう。
そして英雄と言うからにはこの奇天烈な見た目をした男(?)は子供にでも知られる形で何か世に貢献していたに違いない。
では、その貢献の仕方とは何であったか。大きな建物を建てたのかもしれないし、大きな発見をしたのかもしれない。しかし、子供にそんなことを言っても恐らく相手にされないだろう。魔理沙がもう少し子供のころだって僕が何を作っただとかと言い聞かせても聞く耳なんてもってくれなかったのだから。
それならなぜこのお面は希望を集めたのか?
きっとこの男(?)は人助けをしていたのではないのか?
悪い人間や妖怪から人間を守る、いうなれば今の霊夢のようなことをしていたのではないのか?
そうであれば、そういった何者かに脅かされている人にとってその存在はまさしく希望である。
そしてそれを模したお面で遊ぶとき、それを被った子供はそれと同じ属性を持つ。
なぜならそれは、ただの子供であるという素性を隠すための仮面であるからだ。被ったものにその面の持つ属性を与える。それが仮面なのだ。
だから、希望を集めた者を模したお面は希望を集めることができる。

成程、これで得心が行った。
お面自体が希望を集めなくとも、お面のモデルがそれに値すればいいということなのだ。

「やっと分かったよ。君がそのお面を手に取った理由。」
「でもこれは希望の面じゃないわ」
「それは、このお面がもう使われなくなって久しいからだ」

彼女はまた、こくりと頷いた。
どうやら正解を引いたようである。
となると、この推定を導く過程から、彼女、秦こころに対して多少の疑問が沸いた。

「ところで少し聞きたいことがあるんだが、いいかな?」
「どうぞどうぞ」
「君は無表情なのに、なんで仮面をつけて顔を隠す?」

僕の疑問はするりと口から漏れだした。
彼女は無表情である。もし仮に表情を作れない、のっぺらぼうの妖怪であったなら仮面をつける理由は1つ、無表情の上書きである。
しかしそれなら(元?)希望のお面はあのような無機質な物でなく、もっと表情のついた希望を示す表情のお面であるはずなのだ。
しかし彼女は言った。私が探しているのは希望をつかさどるお面、と。それは即ち、彼女にとってはお面自体が希望を示していればその形など関係ないということである。
しかし、そのお面では、隠せないのだ。
もしそれが希望を象徴していても、彼女の表情は上書きできないのである。
ということは、彼女がお面を欲する理由は表情の上書きでは無い。
それならば何も感情を表していない、“無”表情の彼女なら、お面などに頼らずとも苦も無く色々な顔ができるはずである。何せ下地が“無い”、真っ白な表情なのだから。
なのになぜ、彼女はお面を被り、欲するのか。
しかし、その答えは僕の思っていた以上に単純な物であった。

「私には感情が解らない。だからお面が必要」
「感情が解らない?」
「お面があると、『それ』っぽくなる。哀しみも喜びも、お面を付ければ解る」

彼女の被るお面がころころとその表情を変えていく。
怒ったり、驚いたり、悲しんだり、笑ったり、訝しんだり、悲しんだり。

「私は感情を知らない。でもお面があれば解る。でも希望の面は私の手元に無い」
「希望が解らなくなったのか?」
「そう、だから偏るわ。感情が。偏ったら困るわ。私もあなたも」

彼女のお面の変化がぱったりと止まった。
怪しげな狐のお面である。

「私は感情を司る者。だから探すわ、私の希望を。どんな手を使ってでも!」
「探すのは結構だが、あんまりことを大きくしないことを勧めるよ」
「?、何か問題でも?」
「騒ぎが大きくなると知り合いの巫女や魔女も釣られて騒ぎそうなんでね」
「あいわかった」

―――

それから特に話すことも無くなったので、程なくして秦こころは僕の店を出た。入ってくるときと同じく無表情で。
違ったのはその頭に無機質で奇妙な英雄のお面を付けていたことだけである。
結局あのお面は彼女にあげてしまうことにした。なんでも希望の面そのものではなくとも気休めにはなるらしい。
ツケでも良かったのだがあげてしまったのは彼女のような妖怪がまた僕の店に来るようなことは考えづらいからだ。彼女は探し物をする客で、僕の店にはそれが無かったのだから。
それにたかがお面一枚である。コンピュータをあての無いツケでもっていかれるより100倍は軽い。

棚から出してきたお面を見やると皆一様に真っ赤であった。外はもう夕暮れである。
僕は無表情ならお面を被る必要などないのではと思っていたが、彼女はどうやら無いことを隠すためにお面を身に着けているようだった。彼女は無表情では無く、無感情なのだ。無い物を隠すことはできないが、無いことは隠すことができる。
ふと、例の黄色い生き物の仮面を被って、机から適当に取り出した手鏡で見てみる。
いつもの眼鏡をかけた顔が半分ほど隠れ、黄色い面が僕の顔を占拠していた。
少しだけ楽しげな気分に浸れた。今度から気分の乗らないときはこのお面を被っておくのもいいかもしれない。

途端に馬鹿らしくなって僕はお面を外した。やっぱり浮かれてしまっている。
こんなものを被っていたら霊夢や魔理沙に笑われてしまうこと請け合いである。
僕にはちゃんとした感情があるのだし、表情だって変えれるのだしわざわざ用事も無しにお面を被ることなんてないのだ。
仮面を被る時は、隠したい時だけでいいのだ。秦こころ以外は。

椅子から立ち、外したお面を、他の三枚と一緒に元の棚に戻す。
ここには無かったが、彼女がちゃんと彼女の言う“自分の希望”を見つけ出せることを少しは祈っておくとしよう。そうでないとこんな春の日に浮かれることもできないのだから。
ムラサがお店に来る予定だったのに気がついたらこころちゃんにすり替わっていた。
ここちゃんの口調とかペースがイマイチつかめなかったので違和感あると思います。すいません。というか殆ど独り言みたいな内容になってしまいました。すいません。
誤字、脱字などあれば教えてください。
みすたーせぶん
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コメント



0.1570簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
こころちゃん可愛い
こころちゃん可愛い
こころちゃん可愛い

楽しく読ませて貰いました。こころちゃんは誰と組ませても輝きますね。
4.100非現実世界に棲む者削除
なかなか面白かったです。
面にも、その面の形によって、信仰が集まったりするんですね。格が上がったりしないだろうけど。

確かに今頃お面を被ってはしゃぐ子供はお祭りでもほとんど見なくなってしまいましたね。
これも時代の流れによって消えてしまった幻想、か...。

でも子供たちに罪はありません。
(何故なら)「童祭~Innocent  Treasures」ですから。

急に逸れた話になってしまいました。すみません。
内容はけっこう充実してて、良かったです。
それでは失礼いたします。

それにしても、こころちゃん可愛いなあ...。
11.90名前が無い程度の能力削除
Good!
19.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのとした霖之助とこころちゃんのとてもよいお話でした。
お面のいろんな解釈が面白かったです!
21.90名前が無い程度の能力削除
流石ヒーローって感じだな
そっちの方が希望っぽい
23.100名前が無い程度の能力削除
探し物は何ですかー?
24.90奇声を発する程度の能力削除
こころちゃん可愛い
38.無評価名前が無い程度の能力削除
>ムラサがお店に来る予定だったのに
嘘だ! ムラサのムの字も無い。
39.100名前が無い程度の能力削除
ライダーなら希望に違いない。
42.803削除
確かにそのお面には希望が詰まってそうですね。
ムラサver.も見たかったなぁ。