Coolier - 新生・東方創想話

それぞれの心の中 終編

2010/06/22 21:32:36
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僕が幻想郷を出てから1年が経過した、





幻想郷から出ていった後、僕は幻想郷から離れるように歩いた

あれから彼女らは僕を追いかけてくる気配も無く、僕はとにかく街まで歩いた。

街に向かっていく途中、僕はさまざまな事を考えていた


これからどうしようか。


外の世界の貨幣は、この札はまだ使えるかどうかも分からない。

それに、僕は食べる物は必要ないが住む所は必要だ。

本で見たが、住むところを決めるには不動産屋に行く必要があるようだ。

1時間ほど粘った所、ようやく住むところが見つかった。

だが、当然家賃と言う物が必要らしい。

この世界ではその家賃の額が信じられないくらい高いのだ。

それに比例して物価も高い。

だが、給料も高いのだ。

たった一週間働くだけで香霖堂で働いていた僕には信じられないくらいの金が手に入る。

まぁ、就職ではなくバイトなのだが。

最初は余った金で本などを買っていたが、

ある時、本を読み終わった時だった。

この世界では、僕が住んでいた世界は珍しい事だ。

この事は、1年前も当たり前のように思ったのだが、

たった今、僕は良い事を思いついた。

『僕も本を作ってみようかな。』

最初はそうつぶやいただけだった。

そして興味本位で原稿用紙を買い、小説と言う物を書いた。

その小説は、ある店主が主人公だ。

その店主の周りにやってくる不思議な能力を持つ少女たち、

少年が居ない事に少しさびしくなったので、少年もつけたした。

そして、少年少女達と店の店主との事件

幻想郷では当たり前の物語だった。

嫌な思い出などを思いっきりぶつけた原稿用紙を、最近読み終わった本の出版社に送ってみた

送ってから1週間、その出版社から電話が来た。

どうやら僕の作品が単行本化されるようだ。

僕は適当に相槌を打ちながら流した。

その後、電話の向こうの出版社が別の作品も書いてほしいと言われた。

僕はその出版社の言うとおりに別の物語を書いた。

その物語は、ある店主の物語の別のお話だ。

嫌な思い出や騒がしい思い出は山ほどあるので、ネタなど尽きるはずがなかった。

僕にとっては今さらの日記を書いているようなものなので、懐かしく思いだしてきて懐かしくなった。

それをまた送ると、今度は担当と言う人が来た。

どうやら、僕は雑誌に月連載の小説を書くように頼まれた。

その際、担当がしつこいくらいについて来るのでバイトを辞めざるを得なかった。

月に50Pくらいの原稿を渡されるのだが、それくらいなら2時間で書けるので別に辞めなくても良かったのではないか。



いつの間にか、僕の周りには担当だらけになっていた。

しかもそれぞれ出版社が違うのである。

どうやら、僕が幻想郷に居た時の物語を書く事はそうできなくなった。

僕が考えた独自の物語も書くことになってしまったようだ。

しかし、最初に書いた店主の物語で書きなれたのか、

独自の物語も驚くほどに好評価になったようだ。

映画という物にも僕の作品が乗っていた。

深夜に店主の物語が絵になって動くそうだ。

だが、全く興味が無いのでその事についてはどうでもよかった。

昔、銀行と言う物に僕の口座と言う物を作ったのだが、

最近、金も下ろす暇がなかったのですっかり忘れていた。

久しぶりに残額を確認してみると、桁が10桁いっていた



いつの間にか僕はアパートの荷物をまとめられ、家を買っていた。

巨大な豪邸で、門が喋ったりするのだ。最初は驚いた。

だが、2週間もすると慣れてきて、どうでもよくなった

相変わらず僕は家に帰っては文を書いている。

仕事の量は月連載の小説を書いていた時とは桁にならないくらい増えていた。

そう言えば最近本を読んでいないな。

だが、そんな事はもうできなかった。


僕は今、本を読む立場ではなく、書く立場に居るのだから。















あの店主を探してから1年が経った。

この世界では、空を飛ぶ人間なんて珍しく、見つかったら大騒ぎになってしまうので、

深夜に行動する必要があった。

だが、その時でも声をかけらえたり、捕まえられそうにもなったりした。

深夜に不審者が出るという情報がよく心の中から響くようになったが、私は気にしなかった。

店主の情報を探るためにさまざまな人間の心の中を探っていたのだが、

全くと言っていいほど手掛かりと言う物は見つからなかった。

幻想郷の外は広い。

何百倍も何千倍も広いのだ。

そんなことで本当に見つかるのだろうか。

途方に暮れて探す日々が続き、私達は心身ボロボロだった。

これだけ探しても店主は見つからないのだ。当然だ

いつも手掛かりは、この店主の絵だった。

この絵のおかげで、あの店主の顔が思いだせる。

だが、共に過ごした記憶は完全に消えてしまった。

楽しかった記憶だったのに。悲しかった。

紫も、幻想郷の外では探しにくいのだそうだ。

幻想郷の住民だとは分かっても、それがどこにいるのかは広すぎて分からないのだ。

捜索は絶望的だった。



そして今日もこの絵を頼りに店主を探す旅を始めた、

今日も手掛かりなしで終わるのだろうか。と諦めかけている私が居た。

それぞれの心の中を見ても、どれも店主の話なんか出てこなかった。

霊夢も魔理沙も溜息をつきながら平らな石の道に座っていたときだ。

霊夢と魔理沙は信じられない言葉を口に出した。

『そもそもこいつは、本当に幻想郷に居た奴なんだろうか。』

その言葉は、私達がやってきた事は全て無駄と言いつけるような言い方だった。

『もしかしたら私達、本当は居ない人を探してるんじゃないかしら』

霊夢も弱気になって小声でつぶやいた。

これほど手掛かりが無い日々が続いているのだ。無理はなかった。

私も、店主の存在が段々消えかけているのだ。

記憶が消されて行く事は知っていた。それをこの絵でつなぎとめる事はもう限界な気がした。

『もう名前も性格も顔も特徴も服も分かんねえよ』

魔理沙が機嫌悪そうにそう言った。

確かに、もうすぐで完全にあの店主の事を完全に忘れてしまう

記憶が無くなったら、こんな事やっている事が馬鹿らしくなるだろう。

そんな事、悲しくてやっていられない。

そうなる前に探さなくてはいけない。でも、不可能に近かった。

私も綺麗な石の道に座りこんで、絶望を味わった。


目の前で空間が切り裂かれた。

そこには、紫が顔を出した。

『紫、どうしたのよ』

霊夢がバツ悪そうに言うと、紫は嬉しそうに答えた。

『別に、手掛かりを見つけただけよ』

その言葉に全員が反応した。

一体、何の手掛かりを見つけたのか、皆で紫に討論した。

その後、紫は懐から一冊の本を取り出した。

『あ?なんだこれ』

『ただの市販の本じゃない。』

二人がそう言うと、紫はまた微笑んで返答した

『その本に、一番輝く光が入っているわ。』

二人がその本を開いた。

その時、私の中で何かが再構築された。

店主の思い出、性格などが徐々にジグソーパズルを組み立てるように戻っていった。

『嘘……………?』

霊夢が驚くようにその本を見ていた。

そして表紙を見た後、そこにはこう書かれていた


【魔道具屋の店主と幻想的な子供達           著:森の霖】


















小説家になったもの、年に一度パーティがある事を知った。

僕はまだ小説家になって1年しか経っていないので、この場に来るのは初めてだった。

ワイングラスを貰い、ウェーターさんに社交辞令をすると、微笑んで帰ってきた。

どうやら、ここは酒は山ほど飲んでも良いらしい。

それを聞いて僕は嬉しくなった。

早速酒を飲もうと机の上に並べられたシャンパンに手を伸ばすと、後ろから声がした

『おう。お前、あの森の霖って若い者だな?』

その男は、とても小説を書いているとは思えないほど外見が派手だった。

金髪で黒いスーツを着ていて大きな帽子を被っている。誰かに似ていた

『若いくせにがんばってるみてえじゃねえか。はっはっは!!辛えなら変わってやるぜぇ!?』

彼がそう言うと、僕は冗談交じりで返答した

『本当ですか?ではお願いします。』

『冗談じゃ冗談。あんな物語お前しか書けねえだろ。』

男はそう言うと、再び笑いながら僕と話を続けた。

『それにしても若い者。お前すげえ才能持ってんのなぁ。そんな年でこんな本作れるんだから。正直言って面白いわ』

僕は、ありがとうございますと言って頭を下げたら、彼はまた大笑いした

『いいっていいって。お前さんのようなでかい奴に頭下げられたらこっちがしょげるわ。』

彼はそう言うと、机の上にあった巨大なエビをフォークで突き刺し、口に運んだ

『ところで、あなたはどのような本を書いていらっしゃるのですか?』

僕はそう言うと、彼はエビを口に含んだまま僕の方に向いた

『あっ。そーかそーか自己紹介まだやったな。俺は短一ってペンネームで通ってるからそれでよろしく。
ちなみに本は知らんだろうけど【机の中の水溜まり】という奴とか書いてるわ』

僕はそれを聞いて驚愕した。

その本は知っていた。全体的の内容もうまくまとまっており、文章も非常に見やすい。

僕の気に行っている本の一つだった。その著者がこの人だったとは。

『ええ。あなたの作品は拝見しています。僕の気に入っている本でもあります。』

『ええ!?そうなんか!?いやぁ嬉しいわぁ。正直、俺の本の売り上げはお前の本に比べると雀の涙だからなぁ』

僕は驚いた。僕の気に行っている本がそんなにも売れて居ないのか

『それはおかしいです。あなたの作品は僕にとってはとても気に入っている作品なんです。』

『ありがとな。だったら宣伝でもしといてくれや。』

男は冗談のようにそう言った。

『おっ!!あそこの席の七面鳥美味そうや!!森の霖!!一緒に行こうや!!』

彼はそう言うと、僕の手を握ってその机の方に向かった。

その机にたどり着いた短一さんは七面鳥を狩るように食べていた。

満足そうな顔で食べ続けながら、僕の分も遠慮なく食べていた。



隣の机に座っていた女の人と目が合った。

だが、すぐに女の人は目を伏せてしまった

『え?あの娘気になりますんのん?』

短一さんはからかうように僕にちょっかいを出した。

この人はまるで子供のようだった。だが、不思議と嫌な気はしなかった。

『あの娘はなぁ。俺よりかも売れている。まぁそこそこ売れている悲劇の女性作家や。』

悲劇の女性作家

彼女は見た目はまだ17歳に見えた。

一体、悲劇とはどういう事なのだろうか。

『悲劇?』

『ああ。彼女な、あの年でバツイチやねん。』

バツイチ

『どういう事なんでしょうか?詳しく教えてもらえませんでしょうか?』

『なんや?小説の材料にするんか?』

『まさか、そんな可哀想な事しませんよ。』

短一は笑いだし、返答してくれた

『はっはっは!!ええよええよ!別に!!俺に許可取るんじゃなくて彼女に取る必要があるけどな!』

そう笑って良い終わった後、今度はやけに大人びた雰囲気になった。

『あの娘なぁ。名前は萩原良子っつうねん。当時優等生やったらしいんやけど、中学ん時なにか暴行にあってなぁ。んで訳あって高校に進学でけへんかったんや』

『訳?訳とはなんですか?』

『察しろや!!鈍いやっちゃなぁ!』

一瞬怒ったような気がしたが、すぐに微笑みだして話を続けた。

『んで、親にも勘当されて追い出されたやっちゃよ。その後なんとかバイトで食いつないでいくんやけど、このままじゃあ結婚もでけへんわなだから彼女は小説家に一発賭けたんや、そしたら運よく当たったみたいや。それで大成功って訳なんやけど』

短一の話は迫力があって分かりやすかった。

それでこそ、僕は彼女に親近感を湧いた

彼女は、僕とそっくりだった。

まるで他人事とは思えないほど彼女とはリンクしているような気がした。

『辛気臭い話になっちゃったなぁ!んじゃぁ!!飲み始めっか!!』

彼はそう言うと、酒の瓶を持って僕の頭にかけられた。

その後、悲劇の女性作家も巻き添えにして会場を暴れるように食い物を取っては酒を飲んでいた。



しばらくすると、周りは静かになった

短一さんが周りの作家全員に酒を無理やり飲ませてのぼせてしまったからだろう。

僕は酒に強い方なので、かろうじて生き残っていた。

僕の隣には、あの悲劇の女性作家も居た。

その女性作家は、俯いたまま何も喋ろうとはしなかった。

『あの……………』

僕はこの間に耐えられず、彼女に声をかけてしまった。

彼女は驚いたようにものすごい速さで僕の方を振りむいた。

『どうもはじめまして。僕の名前は森近霖之助と申します。』

僕は淡々と自己紹介を続けた。

彼女は、戸惑った反応を出したが、僕は話を続けた

『あの……………。あなたのお名前は………。』

少し言いづらかったが、一応一般人の対応をしたまでだ。

なぜか、急に僕の中で抵抗があったのだ。

それはよくわからなかったが、何か僕の中で抵抗があった。

すると、彼女はこっちを振り向いた。だがすぐに俯いた。

僕も少し諦めて、俯いてしまった。

そうする事13分、

僕は立ちあがろうと椅子に手をかけた


『………………萩原良子』

と確かに言った。

短一に一度聞いたのだが、その返事を聞くと僕は少し嬉しくなった。

『どのような本を書いているんですか?』

僕はまた質問をすると、彼女はまた黙り込んでしまった。

そして20分。そろそろ諦めて椅子に手をかけると、

『………………ホラー』

と言った。

返事の仕方には、少し違和感を感じたが、それ以上に感じたのはギャップだ。

確かに暗そうなイメージはあるが、外見からはホラーを描きそうではなかったからだ。

全体的に魔理沙に近い顔つきだった。髪型はピンク色だが

服装はおっとりとしたお嬢様のようだった..

残念ながら僕はホラー小説と言う物は読まなかったので、話が続きそうになかった。

『そうか。それではありがとうございました。』

僕はそう言って今度こそ椅子に手を乗せた

『あ………………』

と、また彼女から声が漏れた

僕は立ち止まり、彼女の方に首を向けた。

その後彼女は紙を取り出し、番号を書いた。

『……………………よろしくお願いします。』

今にも消えそうな声を出して、彼女は走って消えていった。

この人が倒れている所で僕一人立っていると、何か嫌な事をやらされそうなので

僕もすぐに退散した。



その後の会場は後片付けや帰りなどで地獄のような朝を迎えたそうだ。



ちなみに、僕が彼の小説を推薦すると、彼の小説は信じられないくらい売れたのだそうだ。




















『これ……………香霖が書いたのか………?』

魔理沙が本を淡々と読みながら話していた。

だが、霊夢は答えなかった。本に夢中になっていたからだ。

私もこの本を読んでいた。

彼の書いたこの本は、優しく、そして楽しい文章だったからだ

この本を読めば読むほど、記憶ははっきりと姿を現してくるのだ。

『それじゃぁ、行くわよ』

と霊夢は本を閉じて立ちあがった。

外を見ると、もう深夜になっていた。

あの店主の本を呼んでいる内に夜になっていたのだ。

魔理沙と霊夢にも、昨日と同じ人とは思えないくらい明るさが増していた

そして私達は、結界の外の方に向かって行った

『もうすぐで香霖に会えるんだな』

『ええ。ご丁寧にファンレター先まで書いてくれたおかげで、今日中には完全に見つけられるわ。』



















紙を貰った翌日、僕は携帯電話を買ったのだが、使い方がよくわからなくて悩んでいたときがあった。

説明書を読破してやっとのことで使うこなすことができた。

そして僕はその携帯電話に彼女からもらった番号を打ち込んでいった。

2回音が鳴った後、ガチャっと音がなった。

『あ………………。』

まず最初に彼女から電話がかかってきた。だが結局何も話さなかった


『あ、すいません。僕は携帯電話使うのはこれが初めてでして。』

僕はそう言うと、向こう側から

『…………ごめんなさい!!』

と言われて切られた。

その直後、短一から電話が来た

僕は通話ボタンを押すと、向こう側から騒がしい音が聞こえた

『おお!!森ちゃん!!携帯電話買ったなら早お言ってや!!いつでも相談にのってやるっつうのに!!』

相変わらず笑いながら物を言う人だった。

だが、悪い人ではないので僕も微笑んで返した。

『短一さん。』

その後、僕は彼女から番号を貰ったという話をした。

『ええ!?ほんまかいな!!ちょっと教えてえな!!頼むわ!おごるからさあ!!』

僕は、言うとおりに彼女の番号を短一さんに教えた

『サンキュ!!いやぁ。森ちゃんめっちゃ良い人やなぁ。』

『ところで、どうして彼女の番号を?』

『そりゃぁ森ちゃん。珍しいからに決まっとるやないか。あの娘、めっちゃ人見知りで話しかけても一文字も帰って来ないんよ。』

一文字も?

その言葉に少し違和感を感じた。

『あっ!!そーやそーや森ちゃん!あんさんが俺の作品推薦してくれたおかげで1日でありえんくらい仰山売れたわ!!あんがとさん!!』

短一さんはそう言って、最後に通告しながらすぐに切った。

『んじゃぁ、約束通りおごるわ!気にすんなって!!俺だって一応かなり金は持ってんねん!カラオケ行こうやカラオケ!!んじゃ!今日の8時な!』




その日以来、彼女と短一さんと一緒に過ごす事が多くなった。

もちろん、大体は僕が払う場合が多いのだが、別に苦も何もなかった。

彼女は最近になってよく笑うようになった。

それと比例するように短一さんも嬉しそうな顔をする。

僕はそんな空間にいられるだけで満足だった。






ある日、彼女からメールが来た。

≪ごめんなさい!!≫

といきなり切られてからはいつも文字で会話していた。

だが、僕は小説の方で忙しいので、メールを打つ時間は限られていた。

だからと言って真夜中に送って来るのはどうかと思った。

やっと仕事が終わって一眠りできるのだ、ほっといて欲しかった。

僕は携帯を開けると、メール画面が携帯の画面に広がった、

そこに書かれてあったのは、

『好き』

だった。

その時は眠くて意味など考えずにすぐに寝たが、

目が覚めて再び確認すると、僕は驚いて叫んでしまった。








その日、彼女と接する事を拒むようになってきた。

こんな時に仕事が全て終わっている事を恨んだまでもだ。

遠くで彼女が歩いているのを感じ、僕はすぐに茂み隠れてしまった。

人に好きになられるのは、恐らく初めてだろう。

だが、いきなりそんな言葉を言われても僕にはどうする事もできなかった。

確かに、もう幻想郷には戻れないだろうし

誰もかれも僕の事を忘れているはずなんだが、

かと言っても幻想郷にも僕を好きになっている人は居ないはずだ。

かと言って居てほしくもないのだが…………。

茂みに隠れている途中、急に携帯電話が鳴った。

彼女はこちらの方を見たが、すぐに他の方角に向いた。

僕は小声で電話越しの相手に話しかけた。

だが、相手は当然あの男に違いはなかった。

『よう森ちゃん!!今日お前の家に行ってもいいかい!?』

相変わらず元気そうな声で僕に声をかけていた。

『ええ。別にいいですが』

僕がそう言うと、彼は感謝の言葉を述べてすぐに切った。

その後、彼女の携帯電話からも着信が来たようだ。

その携帯電話から、あの男の声がした。

ものすごく嫌な予感がした。










溜息をつきながら僕は家に帰って行った。

今日は久しぶりに休めるのだ。買いためていた本を一気読みしよう。

僕はそう心に決めて家の門を開けた。

階段を上がって右の奥の部屋に僕の部屋があった。

僕の部屋を開けて、僕はなんの本を読むか本棚に向かおうとした。

『香霖――――――――!!!』

部屋の向こうから誰かが突っ込んできた。

それが僕の腹に命中し、僕は壁まで吹っ飛んでしまった。

だが、声には聞き覚えがあった。

そう。懐かしい少女らの声だった。

『霖之助さん。お久ぶりね。』

霊夢は半ば泣きそうな顔で、でも微笑んで僕を見ていた。

もう一人は、あまり思いだしたくない大妖怪が。

後は、随分昔に話を聞いた心を読む能力の少女も居た。

僕は、久しぶりに会った彼女らに第一声を出した

『何の用だ。いまさら』

僕はそう言うと、魔理沙をどけてベットに向かった

『霖之助さん。私達ずっと探していましたのよ。1年間ずっと』

『僕は追い出されたんじゃないのかい』

『無実が証明されたから、もう帰れるのよ。幻想郷に』

そうか、だが僕はまだここに居たかった。

僕にはまだやる事があった、それに僕は追い出されるような事をやったのだ。

彼女らが間違っている。

『僕は帰らないよ』

僕はそう言うと、皆悲しそうな顔をした

『そんな酷い事言わないで』

紫が僕の顔に触れてきた

『止めてくれ!!僕はここが気に行ったんだ!!もう帰りたくないんだ!!だからとっとと帰ってくれ!!』

僕は大声を張り詰めて言った。

だが、言い終えた後は少し違和感を感じた。

本当に帰りたくないのだろうか。

だが、この世界を気に行っているのは確かだ。

でも、小説を書いていたときも疑問に思っていた。

追い出された時、幻想郷に居た時の小説を書いていた

その小説は、一体なんのために書いたのだろうか。

ただ、皆に見てもらいたいから書いた、

本当にそうなのだろうか。

だが、今はそんな事考えて居られなかった。

気付いた時は、僕は張り手をくらわされていた、

頬の辺りがじんじん痛んだ。

周りが滲んで見えた時、大きな声が聞こえた

『私はお前を再び会うためにここまで来たんだ!!またお前が香霖堂に帰って来るのを望んでここまで来たんだ!!
ずっと!ずっと私は1年間探して来たんだ!!探して来たんだ!!探して……………』

次の瞬間、泣き声が部屋中に響いた。

泣いているのは一人なのだが、なぜか全員が泣いているようだった。

誰も慰めようともしていないし、誰も泣かない様にしていなかった。

『霖之助さん。お願い帰って来て』

『勘弁してくれ』

そう言うと、皆はさらに曇った表情をした。

僕にはまだ続けなければいけない小説があった。

まだ解決していない彼女の悩みがあった。




そもそもどうして彼女らは僕の帰還を望むのだろうか。

僕は力も無いし能力も役立たず

幻想郷にとっては落ちこぼれのような者なのに

『店主さん』

心を読む少女が、僕に眼鏡を渡した。

それは、僕をここまで来させた心の中が見える眼鏡だった。

僕はそれを受け取った。

『その眼鏡、私が作ったんです。』

『そうか。これはすばらしい代物だったよ。』

僕はそう言うと、少女は感謝の言葉も言わずに僕に一つ要求をした。

『もう一度、その眼鏡をかけてください』

少女はそう言った。

僕は言われたとおり、賭けていた眼鏡を折りたたみ、再び少女の作った眼鏡をかけた。
























今、部屋には僕以外誰も居なかった。

だが、あと5分ほどで僕は一人では無くなる。

インターホンの音が家じゅうに響き渡る。

受話器を取ると、相変わらずの元気な声が頭の中に響き渡った

『おお――っす!!森ちゃん!!あがるで―!!』

そう言いながら、彼は玄関に突っ込もうとしていた。

玄関を壊されたらひとたまりも無いので、僕は瞬時に扉を開けた

僕の部屋に上がって来る音がした。

『おっはようさぁぁぁぁぁん!!』

『今、夕方ですよ』

彼は愉快そうに笑った

『はっはっは!!ほんまありがとなぁ!!あんさんが宣伝してくれたおかげでこっちの本が爆売れや!!今度おごらせてーな!!』

彼の関西弁がさらにパワーアップしているのを感じた。

僕はため息をついた

『あれ?森ちゃんまだ仕事終わってないんか?』

『ええ。これで全て最終回となりますので』

短一さんは驚いた表情をした。

『そんな事言わんといてーな、森ちゃんの作品めっちゃ楽しみにしてたんやで。』

彼にそう言われるのは嬉しかった。

でも、僕はもう決めていた。

『短一さん。』

『なっなんや?』

『僕は、もうここに戻って来れないかもしれません。』

最初は当然信じてくれないかと思ってた、

当然だが、笑われた

『はっはっは!!んじゃあれか?しばらく休んでまた復活!!で人気取ろうってか?憎いなぁ森ちゃん』

信じてくれなくてもいい。

だが、少しでも貴方の生きる世界とつながるように、話がしたかった

『書かんでええんか?』

『もう書き終わりましたよ』

『相変わらず仕事早いなぁ。森ちゃんは』

そう話をしているときに、インターホンが鳴った。

『あっ。はいお入りください。』

僕はそう言うと、しばらくして階段が上がる音が聞こえた。

そして扉が開く音がすると、そこには彼女が居た。

以前会った時よりも明るく、綺麗な女性となっていた。

だが、やはりまだ大人しいイメージはあった。声も未だに小さく聞き取りづらい

彼女からあのメールが届いて以来、僕は彼女の顔を直視する事ができなかった。

だが、心の中を見る為に彼女の顔を見た。

彼女の心には、あのメールの返答を要求するような事ばかりだった。

だが、彼女もすぐに僕から目を逸らした

『まぁまぁまぁ。お二人さんもそんな緊張せんでも』

短一さんはまだ明るい口調で僕たちの間を和ませた

こんな状態で、彼女の期待も答えないまま去らなければいけないのだろうか。

『短一さん。』

『ん?なんや?』

僕は少しうつむきながら、思いだすと寂しいような心情になりながら僕は願いを伝えた

『もし、僕が行方不明になったらこの家貰ってくださいね。』

『はっはっは!!お前さんが見つかったらどうすんねん!』

冗談に捕らえられる事は明白だった。

だが、僕はさらに話を続けた

『短一さん。彼女について何か話す事があるんじゃないですか?』

短一さんは、その言葉を聞いて僕の方に振り向きにやついた

『その言葉、あんさんにそっくりそのままお返しするわ』

その言葉の意味を、僕はすぐに理解ができた。

彼の心の中で、彼の思いやりが伝わったのだ

≪幸せになりいや。お前さんならこの娘を幸せにできる。老兵は引かせてもらうわ。ただ去るのみや≫

そうだ。彼が彼女を好きなのは知っていた。

一番最初に知ったのは、紹介された時だった。

こんな大勢居た作家の中で、彼女だけを気にかけていたのだ。

紹介するも彼女に関しては詳しかった。

でも、彼はその時はあまり売れない作家だったから告白する勇気がなかったのだろう。

彼女を幸せにしたかった為に、僕とくっつけば幸せになれると思ってたのだ。

しかし、彼も人気作家になってからは稼ぎが良くなったはずだ

そんな彼なら、彼女を幸せにできると僕は思った。

彼の恋路を応援しているつもりだったのだ。

だが、僕の所にあるメールが届いたことで知った彼女の気持ちを知って

彼は引こうと考えたのだ。

会ってから日が浅い僕の為に、彼は自分の非を選んだのだ。

でも僕は、彼女とくっつくような生物ではないのだ。

僕は妖怪と人間のハーフだ

そんな奴が人間とくっついても幸せになれるはずがないんだ。

だが、彼女の心の中も否定する事はできないのだ。

残酷だ。だが仕方ない事だ

僕は、静かに彼女に近づき、

そして静かに抱きついた。

彼女の体温が徐々に高くなるのを感じた。

彼の顔は、複雑そうながらも、大きな笑顔のままだった。

そして僕は、彼女の耳元で言うべき言葉をつぶやいた

≪さようなら≫

そう言った後、僕は部屋の外に出ようと扉を開けた

彼女はすぐに僕の方に振り向いたが、僕は彼女の顔を見る前に扉を閉めてしまった。









扉から目を離すと、目の前には大きな空間の亀裂が入っていた。

『……………………。』

僕は何も言わなかった。

少女らも何も言わなかった。

そのまま僕は黙ってその亀裂の中に入った。

『ただいま』

僕はそう言うと、少女たちは優しい笑顔になった。

だが、申し訳のない顔の方が多かった。

僕は気にしない事にした
















あの店主が目の前にいた。

やっと、やっと連れ戻せたはずなのに

なぜだかとても切ない気持になっていた。

店主の心の中は、後悔と喪失感が少しあった。

その心の中を見ると、私は本当に切ない気持になってしょうがなかった。

本当に店主を連れ戻しても良いのだろうか?

店主がまだ部屋にいた時、私は紫にそう質問した事があった。

『霖之助さんは人間じゃないのよ。人間じゃない人はこんな所に居ても幸せにはなれないの。』

と紫は返してきたが、


本当にこれで良かったのだろうか


店主の心の中には、確かに幻想郷に戻りたいと思っている心も残っていたが、

それと同時にこの世界が気に行っているという心も持っていたのだ。

店主は暗そうな顔をして、私達と目を合わした

『ただいま』

そう言葉を放った後、魔理沙も少し申し訳ないような顔になっていた。

『きっ気にすんな香霖。ちゃんと金もお前の本も全部持ってるからよ。』

確かに、私達が部屋から出るときに大金と本だなの本を全て持ってきた。

だが、店主はそれに興味のなさそうに見つめていた。

再び私達の方に目を向けると、今度は優しい笑顔になってくれた。

店主は私達の心の中をのぞいた時、何を見たのだろうか。

私達のどんな心が店主を帰還へと誘ったのだろうか。

一体、何が

その瞬間、スキマは閉まり この世界との接点は無くなった













私は彼の後を追うように扉を開けた。

だが、そこには誰も居なかった。

家の中も外の方を探して、物置の中も調べた

だが、どこには彼は居なかった。

『どないしたん?』

短一さんは何も無かったかのように私に話しかけてきた

『居ない…………んです……』

『はぁ?』

『あの…………居ないん………です………』

『誰が?』

私は、大きな声でその言葉を言おうとした。

『・・・………!!!』

だが、私が探しているのは誰なのか、思いだせなかった。


とても大切な人だったはずなのに


とても好きな人だったのに



私はどうしても思い出せなかった。




『あ………………?』

思いだせない。

私は膝から崩れ落ちてしまった。

『どないしたん?大丈夫か?』

短一さんは優しい言葉で私を心配していた。


私は再び誰を探していたのか、思いだそうとしていた。

思いだそうとしているとき、私は疑問に思った

誰を探している。それは居なかったのではないだろうか?

その誰は、本当は居なかったのではないだろうか。

記憶がそこまで薄れ、ただの思い違いにまで思うようになった。

そうだ。誰も探していない。

その誰も居ない。

私はとんだ思い違いをしたようだった。

『どうしたん?』

彼の質問に、私は恥ずかしかったのか、小声で答えた

『いいえ…………なんでもありません』

私はそう言うと、彼はそうかそうかと返してきました。

その後、彼は私にこう言いました。

『あのさ、俺の小説結構バカバカ売れてんじゃん?そして俺、結構いい家買ったし。良い家だろ?』

私は、ただ頷く事しかできなかったけど、彼はとてもうれしそうだった。

『んで、今も結構金持ってるし、いろいろできるような金やし…………。』

彼にしては珍しく、どんどん気弱そうな声になってきた。

だが、深呼吸をした後すぐに元のテンションに戻った。

そして彼は微笑んだ。

『これからちょっと食べにいかへん?』
























店主が幻想郷に戻ってきた。

久しぶりの店主を見た皆は、たった1年居なかっただけだと言うのに、皆懐かしそうに彼の所に集まった。

第一に首筋から血を抜き取る人も居た

大勢に集められた店主は、苦笑いをしながらそれぞれの質問に返答していた。

特に文は、しつこいくらいに質問をしていて、他の人の質問を押しのけているようだった。

だが、店主は最低限の答えしか返さなかった。

その事でさらに大きな声で質問をしてきた文に、店主は苦虫を噛むような顔でその場を去っていった。

だが、彼女もしつこいように追いかけてきた

『たった1年居なかっただけなのよね。でも1000年くらいずっと会っていなかった気がするわ。』

そう、懐かしそうに言っている人も居た。

四季映姫が店主の元に来た時は、私は初めて彼女が謝っているのを見た

本当に申し訳なさそうな態度だったが、店主は別の良いと笑顔で流した。

その後、魔理沙にゲンコツをしたのを見たのも初めてだった。









その日以来、またあの楽しかった日が戻ってきた。

あの多額の金と小説がこの店に残っている以外は、全く同じだった。

霊夢もお茶の葉を無断で使い

魔理沙も勝手に商品を持っていき

紫も勝手に店の奥でくつろいでいた

だが、店主はまだ寂しそうな顔をしていた。

まだ何か、後悔と何かが残っていた。

その心は、私はあまり好きではなかった。

まだ引っ掛かっているのなら、私は取ってあげたい。

でも、私ではどうしようもできない。

最近は、霊夢は店主に金を借りるようになっていた。

多額の金が店主に流れ込んだからか、あの巫女の事だから当然だろう。

魔理沙も、何かを壊した弁償代の事で店主に頼る事が多くなった。

魔理沙は申し訳なさそうな顔をするのだが、

≪だったら壊すな!!≫

という店主の声が私の頭の中で響くのを感じた。

多額の金が入ったと言っても、店主は金を多く使う事はなかった。

ほとんど酒代に消えており、そんなに酒を買う事も無かったのだ。

それにあの日以来、店主は酒を飲む事さえ少なくなっていた。

私は、ある事をしようと店主に近づいた






霊夢と魔理沙はその場にいる。

紫もこの店に佇んでいる

それでも、私は一つの言葉を店主のぶつけた

この言葉で店主の心の引っかかりが少し取れるかもしれない。

少し元気が取り戻せるかもしれない。

これらは可能性は低すぎるのだが、

確実なのはこの店の近くで戦争が起こる事だ。

だが、たまにはそんなに激しく闘っても良いだろう。

大体は暇なのだから良いだろう。

この言葉は私の心の中の真実でもあるのだ。

本心でもあるのだ。

少し戸惑う事もあるかもしれないが

その時は冗談で受けとめても良い。

少しでも心が和らぐように

私達が、彼の支えになりますように






『私達の心の中には、何と写ってましたか?』








≪終≫
どうもこんにちは、後編を載せた時、兄に『ソードマスターヤマトみてぇな終わり方だな』と言われたので、
リベンジして本当の終わりを書くことにしました。
どう見ても、もはや別の小説ですよね。すみません。はい。
最後に、霖之助はどう答えたのかは、
私にも分からない。とても美しい言葉です。




と思いたいです。
ND
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コメント



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9.90K-999削除
疫病神とあだ名される秘書の子を思い出して悲しい気持ちになった私。
今度は幸せになってくれると思ったのにー……。
11.90名無し削除
面白かったです。
読んでるうちに良子さんや短一にどんどん感情移入してしまって。
このまま居続けても良かったのにー。
けど寿命云々で怪しまれてしまいますか。
14.80名前が無い程度の能力削除
面白かったです。ここで読んだ事のないタイプのお話で新鮮でした。

すごく気になったので一つ。
『ええ。あなたの作品はご拝見なさってます。僕の気に行っている本でもあります。』
「拝見しています」と「気に入っている」ですよね?
19.100名前が無い程度の能力削除
まさかの3部作とは・・・・
でもその3部作の中で一番良かったです。
23.無評価ND削除
>>14
誤字修正しました。
ありがとうございます。
30.100名前が無い程度の能力削除
切ねえー……