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誰かの幻想、その終わり。〜三ノ章『冬の夜は永遠に非ず』〜

2024/03/05 18:42:31
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翌日、紅魔館と白玉楼が住人の殺害を伴って崩壊したとの知らせは瞬く間に幻想郷中を駆け回り、さまざまなデマと空論が人々の想像力と話題を活性化させた。

「何だこれ…!?」

いつも通り新聞屋の特別会員への勧誘を蹴って朝刊を開いた魔理沙は思わず飲み込みかけたパンを喉に詰まらせそうになった。
驚愕に支配されかけた彼女の思考を冷却したのは、紅魔館の住人の遺体の中に当主であるレミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットのものが見つからなかったという記事だった。
度々いろんな方向から狂気がかっていると評される彼女は魔理沙のことを気に入っていて、パチュリーの元へ本を借り(盗み)に行くたびに地下にある自室へ彼女を連れ込み、やましい事をしているとかしていないとか。
兎にも角にも朝食のアリスにもらったパンを半分ぐらい一気に口に詰め込んで、箒と帽子を引っ掴んで家を飛び出す。

「嫌な予感がするぜ。どうにも早く動かにゃならんらしい。全く、研究終わりの魔法使いを労る気は無いのかね、幻想郷ってやつは」

なんてぶつぶつ言いながらも、割と上機嫌な自分がいることを彼女は知っている。
だからこれは決して面倒臭いとかそういう堕落した類のものではなく“あえて”のことなのだ。
冬真っ盛りの極寒を箒だけを友にして疾走する快感を噛み締めながら、ようやく目的地を決めようと思考を始める。
答えはあまり苦労せずとも得られた。
まずは紅魔館、そして次が白玉楼ときたら、異変の順に辿っていけばいいのだから自ずと次の被害者は明らかになる。

「──永遠亭だな」







魔理沙が進路を決めて全速力で向かい始める頃、件の永遠亭では第一級警戒体制が敷かれ、鈴仙やてゐをはじめとした妖怪兎たちが2時間に一回の交代を待ち望みながら警備にあたっていた。
無論この竹林にも物好きなブン屋は新聞を送りつけ、せっせと情報を明け渡しているので聡明な月の賢者の頭脳によって自分たちが次の標的であることは自覚している。

「永琳」
「姫ですか。何でしょう?」

鈴仙はいない、てゐもいない。
一人静かに月を眺めていた八意永琳の部屋を、彼女が仕える月の姫、蓬莱山輝夜が訪ねてきた。

「私…犯人は例の吸血鬼じゃないかって思ってるのよね」
「今までの被害者の中で唯一死体の見つかっていないフランドール・スカーレット、ということですか」
「今のところはね」

自分で振ってきた話題の割に淡白な反応を示し、自身の緊張の薄さを誇示しているようにも永琳には見えた。
輝夜は永琳と並んで月を眺める。
やや長い沈黙は彼女たちに自分たちの罪を自覚させようとまとわりついてくるようでもあったが、それすらもいまの彼女たちには何も届けることはなかった。或いは、何者も届くことができなかった。

「月であの子たちはうまくやっているかしら?」
「依姫と豊姫のことですか、時々レイセンという玉兎から言伝がありますよ。まあまあよくやっているようです」
「そう、それならよかった。……ねぇ永琳」
「何でしょう?」

風の音が、何かから逃げ出すように消え去る。
膨大な妖力を伴った“何か”が、輝夜の自我を占領した。

「私と一緒に…死んでくれる?」
「………は?」

彼女は自らの従者に返答というものを求めていなかった。
そこにいつもの蓬莱山輝夜などという人格は存在しておらず、それこそが“死に誘う能力”、西行妖の本領である。

「ッ…!警戒体制は意味をなさなかったのか…!」
「こーんばーんは〜!月の賢者さん♪」

ガラスの嵌め込まれていない窓から身を乗り出すようにして七色の光り輝く翼の少女が滑り込んでくる。
軽やかに着地したフランドールはその華やかな金髪を指先でクルクルと遊ばせていた。
身じろぎ一つしなかった輝夜が、小さな少女の指先一つで永琳に向けて弾を撃つ。

「姫…気を確かに…!」
「……無駄だよ、その人はもう既に“死に誘われている”から。あなたも一緒に逝ってもらうことにするわ」
「っ…。本気で、ということね」

天呪『アポロ13』
誘死『天衣無縫の血舞台』

大量の弾幕の嵐に揉まれながらも、自らの輪郭を失うまいと必死で抵抗する姿は、少なくともフランドールの目には極めて無感動に映り、その感情を排して包囲を狭めるだけのことだった。

「永琳、ほら、一緒に踊りましょう?……なあんだ、つまんないの」
「っぐぅ…!」

激化する弾幕の嵐に、とうとう月の賢者までもが屈した。
神経の通っていない両腕をだらりと垂らして項垂れている。
輝夜が彼女に手を下そうとした瞬間、ごく近くに太い光の柱が突き刺さった。
蓬莱の玉の枝に睨みをきかされて空中で制止した光の発生源はフランドールのそれよりも長い、青白い月光によく映える少しオレンジがかった金髪を冷たい夜風に揺らしながら、油断なく八卦炉を構えている。

「!?」
「そこまでだぜ、フラン。これ以上永琳にも他の奴らにも手を出すな」
「魔理沙……!悪いけどそれはできないな」
「そうか。じゃあ私には何もできないぜ」

魔理沙があっさりと八卦炉をしまい込むと、その行動に警戒を隠さないままフランドールは首を傾げる。

「……?てっきり弾幕勝負でも挑んでくるものだと思っていたのだけれど、どうやら違ったみたいね」
「あぁ。私はお前を止めに来るのがメインの目的だったけど、それが達成されないものであるとわかった以上、サブクエストを果たしてから帰ろうと思ったんだ」

魔理沙の発した、サブクエストという単語にフランドールが反応する。

「私に何か吹き込んだりするつもりなのかしら?」
「いいや?聞きたいことを聞くだけだ」
「そうなの?もっとこう、血みどろの戦いとか期待してたりしない?」
「それはお前だろ?私はそういうのをしに来たんじゃないんだ。まあお前が弾幕で決めようと言ったとしたら戦ってたかもしれないけどな」

魔理沙は少し肩をすくめつつ、質問を固めていく。

「……フラン。お前は“博麗の巫女”について何か知っているか?」
「…!どういう意味かしら」
「そのままの意味だ。お前が博麗の巫女について探っていると紫から聞いた。その真偽を確かめるために。もしそれが本当なら、その理由を聞きたい」
「………あっそ。じゃあそれに答えた後なら壊していいのね?」

肯定を含んだ沈黙が流れ、満足そうに頷いたフランドールが歌曲を歌い上げるように質問への返答を下す。

「まさか知られてるとは思わなかったけど、本当のことよ。私は霊夢にお願いされたの。“私を探して”って。これで満足かしら?小さな探偵さん」
「……」
「…魔理沙?」
「霊夢…………………そうか。この違和感の原因はそいつなんだな」
「どういうこと…?」

魔理沙は考えを整理するように少しの間目を閉じ、やがて話し出す。しかし話が終わった後もフランドールの表情は満足気とは言い難く、少しの失望を含んだ口調で彼女は魔理沙への死を宣告した。

「さよなら魔理沙。霊夢を知らない魔理沙。きゅっとして、どかーん……」

ぶしゅ、と肉が潰れる音がして、あっけなく彼女は死んだ。
フランドールは今までにもまして狂気じみた笑みを浮かべ、うわごとのように愛する人間の名を呟いた。
もう一つ、もう一つと生き物を破壊して、静かになった永遠亭に狂気と死が織りなすヴェールが静かに降りた。
こんにちはこんばんはおはようございますあよですっ!!!
近況はと言いますと、チョコを盗み食いしたら母に鍋の蓋を投げられました、怖かった…。自分が悪いけど…。
ではでは、ゆる〜く楽しくやっていけたらと思いますので、コメント欄での感想質問アドバイス、ついでに点数いただければ嬉しいです!

コメ返し
1.名前が無い程度の能力様、成長が感じられたなら嬉しいです、ありがとうございます!
2.⑨なす様、共感できるようにかけていたなら良かったです!読んでくれてありがとうございます!
あよ
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コメント



0.簡易評価なし
1.80名前が無い程度の能力削除
前より文章とかが読みやすくなっててすごいなと思いました~
2.100⑨なす削除
こういった狂気、すごくいいですねー!
フランが寂しそうに魔理沙を○したと考えると、感慨深い?ですね。
続き待ってます!
3.100評価をしてコメントする程度の能力削除
魔理沙に失望したというフランは魔理沙に期待していたということでしょうか……小さな探偵さんと呼んでいるので、何か知っていると思っていたのでしょう…霊夢を知らなかった魔理沙への失望と、少しの虚しさを覚えても、やはり止まることはできないというほどのフランの紅魔館のメンバーを惨殺された絶望は深かったのでしょう
魔理沙の推理はどうなったのでしょうか…それでも満足しなかったのですか…
この話がさらに好きになり、それとともに命の大切さなどを覚えていきました