Coolier - 新生・東方創想話

『霧』の中飛ぶ鳥』の『理』由

2009/11/07 23:26:36
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※この作品は作品集90の『『夜の『夢』は『麗』しく』の続編にあたります。
 文章構成へのご指摘ありがとうございます。


 ◇
 霊夢が訪れた次の日のことだった。
 渡した服に歓喜した彼女が寝付いた時、夜はかなり深く。
 そして太陽が昇って数刻もしないうちに魔理沙がうちにやってきていた。
 やはり寝足りないのかうとうととしている霖に話続ける魔理沙を諌め現在に至る。
 魔理沙は彼女の名前のことなどを話すとすぐに了承してくれた。
 まぁ名前を捨てた、ということに関しては彼女も突っ込んだことが言えないのも事実である。
 『捨てる』という行為を現在進行形で行っている魔理沙には。
「まぁわかったぜ。霖って名前の方があいつらしくていいしな」
「おや? その物言いだと語源である「長雨」のことも知っているのかな?」
 長雨はその名の通り長きに渡って降り続く雨のことを指す。
 彼女のその名は確かにこの香霖堂の『霖』から取ったのかも知れない。
 しかし幻想郷に留まるという理念のある彼女にとってその名はふさわしい。
 外の世界の人間は幻想郷においては一時的なものであることが多い。
 霊夢の話では大抵は外の世界に戻されるのだそうだ。
 まぁ人間の里に暮らすケースも少なからずあるらしいが。
 そう考えると留まり続け、いつか去っていく雨雲の姿は彼女の行動に重なるものがある。
 魔理沙も広く学ぶということに関心を覚えたのだろうか?
 魔理沙は確かに頭の回転は柔軟と言えるが、
 学ぶことが魔法やきのこなど学習が一辺倒に固まってしまっている。
 それは少々気になっていたことなのだが・・・・・・
「語源だって? 私はそれらしいって言っただけだ。『あきら』なんてあいつの柄じゃないだろ?」
 何も考えていないのか。
 柄じゃない、人の体を表すとも言える名前をそう言えるとは。
 いや、それらしいというのは語感のことだろうか?
「それでその霖はどうしたんだ?まさか二度寝ってわけじゃないだろう?」
 店の奥を覗く魔理沙。入り込まんとする肩を掴む。
「霖は今着替えているんだ。見ていいものじゃない」
「私は女だ。それに意外に見れたものかもしれないぜ?」
「そういう意味で言ったんじゃない。彼女にも恥ずかしいという・・・って話を聞かないか」
 話を聞かずに肩を振り払い店の奥に入っていく魔理沙。
 靴は乱暴に脱ぎ捨てられ転がっている。
 やれやれと息をつき、靴を並べて直す。
 さすがに追うわけにはいくまい。そうしたら僕が変態だ。
 バタバタと走る音と障子を開ける音、音の方向から察するに彼女の寝室に直接乗り込んだようだ。
 元々客間に使っていた場所だ。魔理沙にも当てがあったのだろう。
 音が聞こえる。
『霖! さっさと着替えろ!』
『ま、魔理沙さん!? ちょっと待ってくださいよ! すぐに行きますから!』
『えぇい面倒だ。私が着替えさせてやる。服はどれだ? この前の外の世界のやつか?』
 ドタバタと音を立てているのはおそらく魔理沙だけだろう。
 霖は呆然と突っ立っていそうなイメージが沸く。
『自分で着替えれますから! あと外の服は洗濯をするんです!』
 今日からの服は・・・という彼女の声が聞こえたかと思ったらまた走る音がする。
 魔理沙がこちらに走ってきているようだ。ようだ、と思ううちに目の前まで来たが。
「香霖。あれは?」
「彼女用の店員服だが? 何か問題でもあるかい?」
「香霖の服にそっくりだったんだがどういうことだ?」
 顔を迫らせてこちらを睨む。
「香霖堂の店員服なんだ。当たり前だろう? 色が違うのは彼女の色を意識して作った結果だが・・・・・・」
 何を怒っているのやら。まさか魔理沙も服が欲しかったのか?
「なんか御執心みたいだな」
「それはそれは。外の世界の人間であるし、彼女は店の手伝いをしっかりやってくれているしね」
 ご褒美ってやつだよ、というと魔理沙はため息をついて、
「まぁいいけどさ。甘やかすのもほどほどにしとけよ。幻想郷が全部ここほどゆっくりしてないからな」
 魔理沙にしては珍しい意見だな。
 基本的に楽観的で直線的な意見を出すのが魔理沙なんだが・・・霖を心配しているのだろうか。
 それとも嫉妬か? 誰に対して?
 僕に対してだろうか? 外の世界に興味を持った魔理沙が。
 霖に対してだろうか? 僕が彼女に優しさを見せているから。
 もし後者なのだとしたら嬉しい限りだが。
「そうそう香霖。ひとつ教えといてやるよ」
「なんだい? 君が僕に教えれることとは」
 魔理沙はニヤリと笑うと耳元に近づいて
「結構見れたもんだったぜ?」
 狼狽してしまった僕を見て魔理沙は大笑いしていた。

「光る球体ねぇ」
「そうです。魔理沙さん心当たりありませんか?」
 霖が起きてきたので店番を頼む事にした。
 この4日頼み続けだが彼女は嫌な顔せずにカウンターに座っている。
 長年売れない店で店番をしていたのだ。慣れているのだろう。
 まぁ香霖堂が決して売れていないわけではない。決してだ。
 今は魔理沙と会話を続けているがそのうち客が来るだろう。
 紅魔館のメイド長とか半人前の幽霊とか・・・。

 来るだろう。きっと。
 そんなわけで今僕はカウンターの奥、何かあればいつでも対応できる場所で本を読んでいる。
 霖が魔理沙の相手をしてくれている限りは僕は自由というわけだ。
 昨日彼女が品物の埃を取り除いてくれたのでゆったりとした時間ができた。

「そういやこの前未確認飛行物体がなんとかって騒いでた時に見たな」
「UFO? 幻想郷にはUFOも出るんですか?」
 驚いた様子で声をあげる霖。
 正直聞き耳を立てるというのはいいことではないが耳に入るのだから仕方ない。
 UFO、と言えば確か魔理沙が言っていた未確認飛行物体の略称だったな。
 霊夢と魔理沙が異変だと騒いでいたのを思い出した。
 あの時は守矢の巫女も異変解決に乗り出していたと聞く。
 霖の対応を見るに外の人間の方が前回の異変の内容には詳しいようだ。
「結局なんだかわからなかったけどな。霊夢なら知ってると思うぜ?」
「そうですか・・・」
 しょぼくれた声を出している霖。ここからは見えないが身をかがめていそうだ。
 霊夢も言っていたがやはり多少卑屈に感じるのは問題点だろうか。
 まぁ楽観的すぎるというのも良くはない。
「まぁわからないことは放っておこうぜ。考えるだけ無駄だ」
 この前向きな精神が魔理沙のいいところだろう。
 魔理沙の前向きな精神が少しでも彼女に影響すればと思う。
 あくまで少し、ではあるが。
「ところでその服、香霖に作ってもらったんだろ?」
 バサバサと布が揺れる音がする。
 恐らく魔理沙が着物を弄っているのだろう。
「えぇ。この色が私の『色』だと言っていました。橙色ですね」
 嬉しそうな声が聞こえる。気に入ったのなら何よりだ。
「橙か・・・橙とかぶるぜ」
 橙、というと八雲紫の式の式・・・だったか。彼女の式は藍だったな。
 魔理沙には説明したはずなんだが・・・あの名前は彼女の色を表したわけではない。
 虹の色の順位なのである。
 紫は虹の最上位を表し、橙は第六位の色だ。
 僕は霖に示した色、というのはそういう意味合いではない。
 魔理沙はわかって言っているのだろうか?
「私と被る方がいらっしゃるのですか?でしたら謝罪とご挨拶を」
「おいおい。霊夢にも言われたんだろ? なんでもかんでも謝るなって」
 魔理沙の笑い声が響く。
「まぁ同じ造りにしたのはきっと香霖の趣味だぜ」
 何を言う。と思ったが霖が否定するだろうと読書に戻る。
「これは香霖堂の店員服だと仰ってましたが・・・?」
 魔理沙は返事を聞くとすぐさま、
「いや。それは『ぺあるっく』ってヤツだ。早苗から教わったぜ」
「ペ、ペアルックって! そんなわけないでしょう!?」
 ガタンと音が鳴る。霖が立って机に足でもぶつけたか。
 ペアルック?早苗から聞いた、ということは外の世界の言葉だろうか?
 恐らくは英語だろうから『二人組みの服』という意味だろうか。
 確かに僕と霖だけなわけだからそうとも言える。
 霊夢が平然と僕の服を着るのはともかくとしてだ。
 何か困惑するようなことでもあるのだろうか?
「ペアルックは親しい人間同士が着るものであって・・・・・・私は居候ですから!」
「居候でも親しくないってのか? 4日も居座ってそりゃぁないだろう?」
 店側を覗き込んでみると霖は両膝に手を置いて固まっていた。
「それに人間同士っていうなら確かに違うな」
 魔理沙がカラカラと笑いながら言う。その言葉に不思議そうに
「どういうことですか? 森近さんは人間なのでは?」
 あぁ、そういえば言い忘れていたな。僕の素性のことは。
「香霖は半妖だぜ?半分人間で半分妖怪ってやつだ」
 その言葉にポカンと口を開けたまま止まる霖。
 よくよく面白い反応をする子だ。
 何もかもが新鮮なのだろうけども。
「そうだったのですか・・・・・・」
 神妙な顔をしている。
「そうだぜ? もしかしたら夜の間に食べられちまうかもしれないぜ?」
 魔理沙がわざとらしく脅す。
 からかえる相手がいるのが嬉しいのだろう。その行動が嬉々として見える。
 霖は少し考えると、
「森近さんはしないと思いますよ?」
 と屈託の無い笑顔で言い切った。
「ん?その心は?」
 魔理沙、それは落語だ。その言葉に彼女は笑顔のままで
「私にそんな魅力なんてありませんから。襲う価値もありませんよ」
 顔を真っ赤に染めてお茶を噴出す魔理沙、本を取り落とす僕。
「そ、そういう意味じゃないぜ! なんというかこう・・・妖怪的なアレだよ!」
 その言葉を聞くと納得したように手を叩き、
「それだとしても私はおいしくはないと思いますよ?多分この饅頭よりも」
 といって饅頭を口に含んだ。




 〇
 あきら・・・じゃない霖だったか。
 最初はお堅いやつだと思ってたけどひとつわかったことがある。
 こいつ、おもしろい。
 なんというかからかいがいのあるやつだ。
 なんでも知ろうとするから何にでも反応する。
 やっぱりちょこっとお堅いところがあるけどからかう度にいちいち行動してくれる。
 霊夢や香霖じゃ絶対ないことだぜ。
 このまま幻想郷にいるなら中々おもしろいことになりそうだ。
 天狗のやつにでも教えてやるか。取材しにすぐ飛んできそうだぜ。
「そういえば魔理沙さん?」
 お茶を注ぎながらこっちを見てきた。
「なんだよ? 私に何か質問でもあるのか?」
 幻想郷のことなら霊夢や香霖に聞いたほうが手っ取り早い気がするけど。
「魔理沙さんと森近さんってどういう間柄なんですか? お親しいようでしたけれど」
 あぁ、なるほどな。気になってたわけだ。
「昔からの仲だからなぁ。あいつはどう思っているか知らないけど私から言わせてもらえば便利な兄貴って感じかなぁ。家出したときから世話になってるし」
 と言って私は霖に少しだけ私の昔話をしてやった。


「そんなことが・・・森近さんは魔理沙さんを大事に思ってらっしゃるのですね」
 それがこいつの反応だった。若干目が潤んでるぜ。
 ここまで正直な反応をされると恥ずかしいぜ。
「別にそんなわけじゃないだろ。あいつからしてみりゃ世話になった相手の娘が家出したんだ、助けるのは当然・・・なんて普通にいいそうだしな」
「でも魔理沙さんのためにマジックアイテムまで作って渡すなんて大事に思っている証拠じゃないですか・・・・・・羨ましいですね。そういう繋がりって」
 遠い目をしてる霖。そっかこいつ家無くしてたんだっけ?
「霖だってすぐに出来るだろ? 実際服だって作ってもらったんだ。変わりないぜ」
 私の言葉を聞いてこちらを見てくる。なんかうさぎみたいに見えてきた。
「でも私は幻想に染まったらここを去りますから」
「だから卑屈になるんじゃない。卑屈なやつにはこうだぜ」
 床に転がっていたもので殴る。ピコーンと音がした。
 確か『ピコピコハンマー』だっけか?香霖が『叩く事で悪事を音として知らせる道具だ』とか言ってたが・・・・・・悪事じゃないぜ。
 とりあえず話を逸らすことにしよう。暗い雰囲気は嫌いだぜ。
「ところでお前、霊夢から弾幕ごっこを教わったって言ってなかったか?」
「えぇ、まぁそうです・・・・・・」
 ズーンと沈む霖、どうしたのか聞いてみるとこう返事が返ってきた。
 霊夢が優しく教えてくれたこと。
 弾幕はできそうもなかったこと。
 5分でギブアップしたこと。
 自分には無理だろうなぁと理解したことなどを話してきた。
「まぁそりゃ無理だろう。飛べない撃てない逃げれないの三拍子を揃ってちゃな」
 思い出して疲れたのかうな垂れて、
「あんなのを魔理沙さんもやっているのですよね?」
「あぁ。日常茶飯事だぜ」
 弾幕ごっこはやっぱ外の世界の人間には無理か。
 一回やってみたかったけどな。どんな弾幕が出るやら楽しみだったし。
「私としては皆さんが普通に飛べていることに驚くのですけど・・・・・・」
 別にみんながみんなってわけじゃないけどな。
 飛べないことをそんな悪く思う必要もないと思うけど。
「里の人間はみんな飛べないぜ?霊夢と私は特殊なほうだぜ」
「魔理沙さんは魔法使いですからね。私の居た世界だと魔法使いなんていませんでしたし、驚きましたよ」
「そうかい。ならアリスやパチュリーとかとも会うといいぜ。紹介してやるよ」
 なら香霖堂に呼んでくれ、と香霖の声が響く。
 客を得ようって魂胆だろうけどうまくいくか?
 アリスはともかくパチュリーは紅魔館から出るわけないしな。
「パチュリー様のことでしたら霊夢さんも話してましたね。森近さんと似てるとか」
 香霖とパチュリーか。確かに引き篭もって本ばっか読んでるあたりはそっくりだぜ。
「詳しくは魔理沙さんに聞けと言われて。どういうお方なんですか?」
 どんなやつって言われてもなぁ。と考えながら霖を見る。
「そうそう。霖にも似てるぜ。店の中で引き篭もってるしな」
「それは霊夢さんが話した森近さんとの共通点と同じでは?」
 そりゃそうだな、と軽く返答を返してある案が浮かんだ。

「そうだ霖、空を飛んでみないか?」

 私の提案に目を瞬かせる。解ってない感じだぜ。
「私の箒に乗せて空を飛んでやるよ。幻想郷に来たからには体感しないとな」
 箒を手にとって笑ってみせる。
 やっぱり興味はあるのか霖は私と箒を交互に見て、
「いいんですか? 落ちませんか?」
と早口に言った。多少興奮しているみたいだ。
「そんな程度で落ちる箒でも魔法でもないぜ」
 まぁ、と言葉を区切ってもう一声。
「霖が箒が折れるくらい重かったら話は別だけどな」
 霖は否定しながら乗りたいと言ってきた。
 本当にからかいがいのあるやつだぜ。



 ◆
 明日が楽しみだ。
 何か用事があったらしく魔理沙さんは昼時には香霖堂を出て行った。
 箒に乗せてもらえるのは明日らしい。
 空を飛ぶ、という経験はしたことがない(当たり前だけど)から楽しみで仕方がない。
 私は高揚で眠るに眠れず縁側で月を見ていた。
 森近さんは香霖堂のカウンターで月見酒を嗜んでいる。
 誘われたものの私はまだ酒の飲める年齢ではない。
 後数年は待たなければと話すと了承してくれた。
 静かに飲みたいだろうから私も静かに月を見ている。
 しかし、空を飛ぶというのはどういう気分だろうか。
 急な坂を自転車で下った時の感覚を思い出す。
 あのような感覚なのだろうかと悶々と考えていた。
 すると、
『だめじゃないか? 人に私のことを話すなんて』
 声がした。昨日の晩聞こえたあの声だ。
 辺りを見渡すと森の奥に銀色の光が見えた。
「昨日の方ですか?」
『あぁそうだよ。まだまだ謎の人間さん』
 光は森から近づいてきて私の目の前で止まった。
「私は幻想に染まらないといけないんです。ですから私はあなたのことを知りたいです」
『私はあなたの目的のためにいるわけじゃないさ。私がいたいからいるだけさ』
 光が弱まる。縁側に座るように横に来る。
『だから私のことは詮索しないでほしいな。互いに正体不明でいいじゃないか』
「良くは無いと思いますけど・・・あなたがそれを望むならそれでも構いません」
 幻想を知る、といっても妖怪や幽霊だからってプライバシーってものはあるだろう。
 そこを弁えずに行動するのはさすがによくないだろうから。
「とりあえず自己紹介をしませんか? 私の名前は」
『ストップ。名前もいいっこなしでよくないかい?』
 光の玉は奇妙な提案をし出した。どういうことだろうか?
『私はあなたが一人でいる時だけ現れる。そういうことに決めたんだ。だから私はあなたを『あなた』と呼ぶ。あなたは私を『あなた』と呼ぶ。それでいいじゃないか』
 ケタケタと笑う。ような声がしたような気がする。
「わかりました。詮索はしません。ですけど」
『ですけど?』
「もし私がこの幻想郷を去るときが来たら、その姿。見せてくださいね」
 笑ってみせる。
 すると光は更に薄くなる、人型の輪郭が見えた。
『アハハハハハハハ。本当に面白い人間だ。いいよ。見せてあげる。いずれ去るならその時に、今望むなら今すぐにでも』
 薄くなる光、見てみたい。という感覚より先に言葉が出た。
「今はいいです。あなたが私を謎だと言うなら、私にとってもあなたは謎のままでいてください」
 その言葉を聞いた途端光は濃くなり光の玉に戻る。
『それはそうだね。私たちは対等でいようじゃないか。あなたが私を探らぬ限り。それが友かも謎のまま、食うか否かも謎のまま。君が助けを望むのならば喜び勇んで助けよう。けれど君が誓いを破るのならばそのまま君を食らってしまおう』
「私のことは食べないと言っていませんでしたか?」
 光の玉は笑うように震えて、
『謎なのだから仕方ないさ。次の日には君を食らいに来るかもしれない。私はとても移り気なんだよ』
「でしたら私も謎のままでいます。毒があるかもわからないでしょ?」
 私の言葉に光は森に向かい
『あなたは本当に面白いね。近くからも遠くからも見学させてもらうよ』
 奥へと進んで消え去った。



 ◇
 翌日、天気は良好だった。
 雲がポツポツと流れるほどで風もほとんど吹いてはいない。
 飛ぶのならちょうどいいだろう。
 まぁ魔理沙の箒にはそういうことは関係なさそうではあるが。
「準備はいいか霖? しっかり掴まってるんだぜ?」
 香霖堂の目の前で今まさに飛ぼうとしている魔理沙。
 そして魔理沙の後ろに箒に跨る霖。
 やはり少し怖いようで少し震えているように見える。
「霖。臆することはないよ。落ちはしないさ」
「そうだぜ。別に二人乗りは初めてってわけじゃないからな」
 そういうと箒を少し浮かせる魔理沙。
 すると霖は足が離れたことに驚いて、
「う、浮いてますよ! 魔理沙さん!」
「当たり前だぜ。今からもっと飛ぶからな!」
 と上へと上がっていく。
「魔理沙。あまり飛びすぎるなよ。間違って落とした、じゃすまされないんだからな」
 というと魔理沙はムスっとした顔をして
「なんだよ香霖。私が飛ぶのが信用ならないってのか」
「そういうことじゃない。後ろの人間を考慮して飛べと言っているんだ。魔理沙は幾分大雑把だからな」
 速く飛びすぎて霖が振り落とされたら洒落にならない。
 僕の指示ではないにしろ身内の行動で死者が出るのは嫌であるし。
 霖がそうなることを想像したくもない。
「なんだよ。霖のこと、気を使いすぎじゃないか?」
「霖は飛べないんだ。落ちたら笑い事じゃない。僕のように頑丈でもないしね」
「そうかよ。気をつければいいんだろ」
 ムスッとした顔のまま前を向く魔理沙。
 少しは他人を労わる精神が出来ればいいんだけどね。
「あの・・・・・・嫌でしたら飛ばなくても・・・」
「いや! 飛ぶから掴んでな」
 というとゆっくりしたスピードで飛んでいってしまった。
 半ば意地になってしまったな。
 さすがに言い過ぎたか。
 帰ってきた時のためにお茶でも入れるか。
 また一昨日のように満身創痍で帰ってきそうだから。



 〇
 全く香霖のやつめ。
 そんなに私の飛び方が気に入らないかよ。
 というよりは霖を気にしすぎだぜ。
「あ、あの! 魔理沙さん!」
 確かに弱っちいし助けなきゃって感じはするけどさ。
「速度を・・・速度を落としてもらえませんか・・・」
 ん? 霖の言葉を聞いて気付くといつもくらいの速度が出ていた。
 さすがにきついか。低速くらいに落とす。
「ありがとう・・・ございます」
 疲れたように息を吐く。
 さすがにいきなり高速移動じゃ無理があったな。
 外の人間、というよりは霖が貧弱なのかもしれないけど、
 イライラするのはなんでだろうか?
 霖が香霖と話しているのを見てなんとなく変な感じがした。
 置いてけぼり。
 そんな感じ。二人の話題は外の世界の話だ。正直私は興味ない。
 外の世界のことで私が強くなれればとも思ったけど、外の世界に弾幕ごっこはないらしいし。
 私は香霖とは長い付き合いだからわかる。
 香霖がこいつに向けているのは純粋な興味だ。
 こいつもそれはわかっている。その上での会話だ。
 幻想郷について。外の世界について。
 私は入りづらい。茶々を入れるくらいしかできない。
 でもそれはそれでいいんだ。
「そういえば森近さんって魔理沙さんの家で働いていたと話してましたよね」
 慣れてきたのか霖の顔は笑顔だ。
「森近さんも箒で飛べるんですか?」
「いや。私が飛べるのは魔法を学んだからだ。香霖は無理だぜ」
 そうですか、という霖の声は少しへこんでいるように聞こえた。
 この反応を見て、私は思った。
 それをこいつに聞かなきゃならない・
「なぁ霖」
「なんでしょう?」
 私の言葉に律儀に反応する。それがこいつのいいところ。
「香霖に頼りすぎるなよ?」
「えっと……ばれてましたか」
 ハッとした顔になる。素直ではぐらかさないのもこいつだ。
 私にはないいいところ。
「お前はずっと爺ちゃんと暮らしてたんだ。一人に依存しちまうのもわかるけどさ」
 私は香霖に色々世話になったからわかるんだ。
 あいつはなんでもできるフリをする。
 だからあいつに頼ってしまうのもわかるんだ。
 この幻想郷に来て、右も左もわからない時に。
 香霖みたいなやつに会えればそりゃぁ頼りもするさ。
 でもあいつがあるのは知識だけだ。
 弾幕も出せなければ腕力もない。
 物の名前がわかっても使えない。
 そんな半端なやつなんだ。
「あいつはいい奴だからさ。頼られたら否定もあまりできないんだよ」
 霖は黙って聞いてくれている。
「私のことも変に気遣ってくれてる。それはわかってるんだぜ?」
 頭が上がらない、と香霖は言っていた。
 でも、それでも助かったのは確かなんだよ。
 嬉しいと思ったんだ。
「だからさ。頼るならあいつがなんとかできる限りで頼むぜ。加減はわからないかも知れないけどさ」
「はい・・・・・・」
 霖が俯いている。
「それに困ったら私や霊夢にも頼ればいいぜ。異変とかならドンとこいだ」
 笑ってみせる。
 霖はつられるように笑った。


「おかえり、霖。大丈夫だったかい?」
 帰ってくると真っ先に香霖は霖のほうに行った。
「えぇ。魔理沙さんがゆっくり飛んでくださったので」
 香霖はホッとした顔をするとこっちを見て、
「お疲れ魔理沙。お礼といっては何だがお茶でも飲んでいくかい?」
 あいつに向けたのとは違う笑顔を見せる。
「当たり前だ。お代の一つももらわないんじゃ意味がないぜ」
 私の箒は高いんだ、というと香霖は
「高いのは箒じゃなくて魔理沙だろう?」
「いいや。私を買うならもっと高いぜ?」
 ニヤリと笑ってみせる。
 今なんとなくわかった。イライラしていた理由。
 簡単なことだったんだ。
 別に何か深い意味じゃなくて、ただ単に。
 香霖を取られそうに思った。ただそれだけ。
 言い方は変だけど、妹ができて周りがそっちを甘やかしてるような。
 そんな感じだったんだ。
 ならなってやろうじゃないか。
 この少し弱気で陰気な外の人間のかっこいい姉貴分に。



 ◇
 魔理沙も霖に馴染んだようでなによりだ。
 姉貴分になる、と言っていたが魔理沙にはそういうことがいいだろう。
 何かしらの立場というものがあったほうが話しやすいだろうし。
 霖だって判断しやすい。
 事実彼女は魔理沙のことを慕っているようであったし。
 姉妹というにはあまりに似ていないがそういう関係も作れそうだ。
 そうなれば僕はどういう立場なのだろう?
 兄?保護者?それとも部外者か。
 それを霖に聞いてみると彼女は渋い顔をして
「森近さんはあえて言うのでしたら・・・・・・祖父でしょうか」
 なんてこった。僕はそうも年老いて見えていたのか。
 いや、そうではないことはわかっているのだ。
 だが父や保護者ではなく真っ先に祖父とでたのは正直ショックだった。
 彼女の家庭を考えれば必然なのだが。
 まぁ魔理沙と話すことで何か得た物もあったようだ。
 それはあえて聞く必要もないだろう。
 彼女が少しずつでもこの幻想郷に染まり、生きることを喜べる日が来る日を待つばかりである。
4作目です、白麦です。
相も変わらず題名が意味不明ですね。
一応もやもやした気持ちとかを霧、鳥は魔理沙を指したつもりです・・・
キャラクターの名前『』で入れているのはわかってくださると思いますが。
前作の題名とつなげてみると・・・。見てわかってもらえると幸いです。
今回は魔理沙が主役です。霊夢の時よりも出番を増やしてみましたが・・・
魔理沙って難しいですね。語り口調がうまく出せてるか不安です。
この作品、とりあえず香霖堂登場キャラクター+α(作者が出してみたいキャラクター)を出していきたいと思います。

文章の書き方指摘、本当にありがとうございます。これで治っていますでしょうか?
治ってないかもしてません。

お読みになりましたらできれば作品批評をお願いします。今後の参考にいたします。

楽しめたのでしたら続きを読んでくださいな
白麦
[email protected]
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コメント



0.770簡易評価
15.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙や霊夢と霖の関係が面白く描けていると思います。
霖之助祖父扱い……間違っては居ないな。
続編楽しみにしております。