Coolier - 新生・東方創想話

ウサギ達の寝正月戦争

2011/01/31 22:41:51
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「ウサウサ!!」
「戦線は硬直しており一組の士気は低下している、と……
 しょうがない。一組を下げて三組と交代させて」
「ウサ!!」
「放水の準備は?」
「ウササ!!」
「準備完了までに後三十分……二十分でやらせなさい!!」
「ウサ!!」



正月なんてとっくに終わり、もうすぐ一ヶ月が過ぎようとしていた今日この頃、永遠亭は交戦状態にあった。
八意永琳から命じられウサギ達の指揮を執るのは鈴仙・優曇華院・イナバ。
そして彼女達の敵。それは永遠亭の主、蓬莱山輝夜であった。




事の起こりは去年の師走、輝夜が

『今年は一週間寝続けたから、来年は一ヶ月の寝正月に挑戦するわ』

とか言い出した事から始まる。
さすがに一ヶ月はないだろう、と永琳以下永遠亭の誰もが一笑に付した。
話を聞いた里の蓬莱人などは腹を抱えて笑い転げた。
それがまずかったのか、正月、輝夜は本当に姿を見せず寝続けた。
一週間もすれば飽きるだろうとの大方の予想すら覆して寝正月を続けた。
だがそんな呆れるような状態も三週間を過ぎたあたりで終わりを迎える。
とうとう永琳の堪忍袋の緒が切れたのだ。

鈴仙は当初、ウサギ総出で布団を引っぺがせばすぐに終わるだろうと楽観的に考えていた。
だが布団に近づくウサギ達が、ブリリアントドラゴンバレッタで蹴散らされ、
鈴仙は己の考えが甘かったことを思い知る。
輝夜は布団の中に神宝を持ち込んでいたのだ。

長期戦を覚悟した鈴仙は三つ離れた部屋に本陣を設置。
同時にウサギ達で五つのグループと二つの予備を編成。
グループを定期的に交代させることで、二十四時間引切り無しに攻め立てる作戦に出た。

それから一週間……
冷たい外気を浴びせようとすればサラマンダーシールドで防がれ、
布団ごと燃やしてしまおうと火を投げ入れればブディストダイアモンドで受け止められる。
四方から一斉に攻めれば蓬莱の玉の枝。

などなどそんなこんなでウサギ達はいまだ布団に到達できずにいた。



「全体の士気が下がってます。一度全てを下げて体勢を立て直したほうが。
 このままじゃみんなやる気を無くしちゃいますよ」
「それじゃ今まで攻め立てた意味がなくなるわ。
 こっちも疲弊しているけど、姫様も疲弊しているはずよ」
「してるでしょうか?」
「……してると思う……たぶん」

鈴仙に一時撤退の進言をしてきたのは月のウサギのレイセン。
正月に綿月姉妹が挨拶に来た際『少し八意様の元で修行してきなさい』と置いていかれ、
そのままこの下らない騒動に巻き込まれたのだ。




「ウサ!!」

二人の下に伝令ウサギが走ってくる。

「鈴仙さん、放水の準備が整ったそうです」
「了解、三組を後ろの部屋まで下げて!!」
「ウサ!!」
「私は降伏勧告をおこなうわ」
「ウサ!!」



戦線の硬直を受けて鈴仙が立案したのは水を使った攻撃である。
前衛グループが輝夜の注意をひきつけている内に、予備グループをもって天井裏に水が入った桶を設置。
一斉に降らせるとこで布団をびしょ濡れにして寝てられなくする。
それが鈴仙必勝の策『目覚めの雨』作戦である。

「姫様!! いい加減起きてください。三週間も寝れば十分でしょう」
「ぐ~ぐ~」
「狸寝入りは止めて下さい!! おきてる事は判ってるんですよ」

ウサギ達を神宝やらなんやら使って撃退しているのだから起きているのは当然である。

「ぐ~ぐ~、布団から出なければ起きたことにはならないわ、ぐ~ぐ~」
「……そうですか」

この時点で鈴仙は交渉が無意味であると判断。

「放水用意!! 放て!!」

作戦開始の号令をかけた。



天井板が外されウサギ達が一斉に桶を倒す。
量にして風呂桶四杯分の水が降り注いだ。
だが輝夜はまったく慌てない。

「ぐ~ぐ~、甘いわね~鈴仙。私は自前の天井を持ってるのよ、ぐ~ぐ~」

新難題「金閣寺の一枚天井」!!

「「へっ?」」

鈴仙とレイセンが間の抜けた声を上げる。
だがそれも無理はない。突然一枚の金色天版が現れ、降り注ぐ水を受け止めたのだから。
さらにそれに微妙に二人に向かって傾斜がつけられていた。

かくて二人のウサギをずぶ濡れにして、作戦は終了したのであった。




「寒いぃ……」
「……寒いです」

濡れた衣類を全て脱ぎ、毛布の中で身を寄せ合って震える二人。
先ほどの失敗によりウサギ達の士気と鈴仙の信用は完全に失墜。
やる気をなくしたウサギ達はあちらこちらに散らばっていった。
負け戦で残された者ほど虚しいものはない。
替えの服も取りに行って貰えず、ただこうして震えてるしかないのだ。
あるいは降伏すれば輝夜の布団に入れて貰えるだろう。
ただこちらは敗軍の将。布団の中でどんなセクハラを受けるか。
普段いじられ慣れてる自分だけならまだしもこの子は巻き込めないな、と鈴仙は躊躇してしまう。

「……鈴仙さん」
「大丈夫? 顔赤いけど……」
「……大丈夫です」

このままではいずれ風邪を引いてしまう。
さてどうしたものか、鈴仙が頭を悩ませていると……

「やれやれ情けないね~」

小憎たらしい声がした。

「その声は……」
「てゐ!!」

この声の主こそ、自分から軍師に志願しておきながら、
初日で姿を消した永遠亭一のいたずらウサギ、てゐである。

「いまさら何しにきたのよ!!」

すでにウサギ達は散り散りになり、残されたのは惨めな二人だけ。
今更出てきて何しにきたというのか。
もし笑いにきた、なんて言おうものなら鈴仙は裸で飛びかかって叱る気でいた。

「何って、姫様を起こしにきたに決まってるじゃない」
「はっ?」

言葉を失う鈴仙。
しかしてゐは気にも止めず指を二本立てる。

「さて鈴仙。被害がいっぱい出る策と、被害が一人しか出ない策。
 どっちがいい?」
「どっちがいいってそりゃ……」

犠牲が少ない方がいいに決まっている。
だが相手は幻想郷有数のいたずら頭脳。真っ当な答えが正解とは限らない。

「……ねえ、被害が多い策ってどんなの」
「火計」
「火攻めならもうやったわよ」

火攻めをしてあっさり破られたのは数日前のことだ。

「いや火攻めにするのは姫様じゃなくて、永遠亭の方」
「ダメ!! 絶対!!」

ようはこのウサギ、永遠亭自体焼いてしまえ、と言っているのだ。
確かにそれなら輝夜にも消せないだろうし、寝る場所がなくなれば寝正月どころの話ではない。
だが無論そんなやり方認められるはずがない。
もしそんなことしたら、後に待ち受けるのは永琳のお仕置きだからだ。

「じゃあ被害が少ない方でいくしかないね」

いたずらウサギが意地悪く笑った。




「静かになったわね。鈴仙達は諦めたのかしら」

布団の中で輝夜はほっとため息をつく。これでやっと眠れる。
さすがの彼女も四六時中ウサギ達に攻められて疲れていた。
この点だけは鈴仙の読みは正しかったのだ。
目を瞑るとすぐに眠気が襲ってくる。

「……どう……こ…………仙!!」

意識が落ちかけた輝夜の耳に、言い争うようなかすかな声が聞こえてきた。
思わず耳を澄まして聞き取ろうとする。
少しでも面白そうなモノに興味をそそられるのは永く生きた者の性なのだ。

「そいつは何!! なんでそんな奴と裸で抱き合ってるのさ!!」

聞こえてきたてゐの怒声に、闇に抱かれた輝夜の意識が一気に覚醒する。
すぐさま事を理解した。これはあれだ。三角関係のもつれだ。
いつの世だって他人の恋愛沙汰のもつれほど面白い話のネタはない。
布団から出て見に行こうかと思う輝夜。
だがここまで続けていた寝正月をみすみす無碍にするのは惜しい。
それに眠いのも事実である。

「違うのてゐ!!」
「何が違うって言うのさ鈴仙!!
 違うっていうなら今すぐそいつから離れてよ!!」
「いやそれは……」

さらに聞こえてきた声に輝夜は決意した。
誰にも見られないように布団から出て、こっそり覗いた後また寝ればいいや、と。
そうと決まれば話は早い。
四週間も寝続けていたとは思えない俊敏な動きで布団から出ると、
すぐさま声がした部屋の前まで行き、静かに襖を少しだけ開ける。
だがそこには彼女が期待した光景は全くなかった。

誰もいない。つい先ほどまで声がしたはずなのに誰もいない。
思わず首を傾げる輝夜。

「やっと起きてくださいましたね姫様」

声は後ろからした。
やられた、輝夜は自らの浅はかさを呪う。
後ろには毛布にくるまった鈴仙とレイセン、それにてゐがいた。
タネを明かせばなんてことはない。
輝夜が食いつきそうな芝居でおびき寄せ、足音が聞こえてきたらこっそり部屋から出て後ろに回り込む。
輝夜はこっそり歩いてきたつもりなのだろうが、ウサギの耳は遠くの忍び足でも正確に聞き分けるのだ。

「さあ姫様、起きたのですから着替えて師匠に挨拶に行ってくださいね」
「……わかったわ」
「てゐ、念のため姫様を見張ってて」
「は~い」

足を引きずるように部屋に戻る輝夜に後ろからついていくてゐ。
それを見送る鈴仙は、てゐがニヤリと笑ったのを見逃していた。






後ろから足音がした。
鈴仙はそのリズムから音の主が己の師だと察する。

「……優曇華」

後ろからの声に鈴仙が振り向くと、そこには永琳だけでなく月の姉妹の片割れである依姫がいた。
おそらくレイセンを迎えにきたのだろう。

「師匠、やっと姫様が起きてくださ……」
「優曇華」
「はい?」

よくみると永琳が笑っていた。だがそれは鈴仙を誉めるような笑顔ではない。
まるで薬の実験をしている時の笑顔。あるいは鈴仙にお仕置きするときの笑顔。

「まさかあなたが二股かける甲斐性があったなんてね」
「へっ?」
「しかもすでに破廉恥な行為に及んでるなんて」
「いや、これは違っ」
「去勢手術が必要ね」
「話を聞いてください師……」

弁解しようとした鈴仙の声は、永琳の後ろにいる
もう一人の殺意のこもった視線に遮られた。

「良かれと思って少しの間地上に残したが、まさかこんなことになるとは」

静かに刀を抜き鈴仙に突きつける依姫。

「ひぃっ!!」
「体は八意様にお任せするとして、私はその性根を叩き直してやろう」
「待ってください依姫様」

慌てて鈴仙を庇おうとするレイセン。
とたんに依姫の顔が先ほどまでとはうって変わって優しい笑顔になる。

「あなたが気に病むことはない。若気の至りは誰にでもあるもの。
 でもあなたにはまだ早いの。今は月に戻ってお姉様に穢れを祓ってもらいなさい。
 こうしたことは後々私とお姉様でゆっくりと教えてあげるから」

頬を赤くしながら自分が言いたいことを一方的に言い切った依姫は、鈴仙も耳を掴むと毛布から引っ張りだした。
そのまま鈴仙を引きずって近くの部屋に放り込むと、永琳と一緒に入っていく。
そして扉が勢いよく閉められ、内側から結界がかけられた。

「え~と……」

一人残されしばし呆然としていたレイセンは、とりあえず服を探そうとその場を後にした。





「ぎゃぁぁぁぁ~~~~~~~~~~!!」

「ねえてゐ、今まるで地獄のそこから響くような悲鳴が聞こえなかった?」
「気にしなくていいよ姫様。被害が一人出ただけだから」
「そう?」

輝夜の着替えを手伝いながら、いたずらウサギはしてやったりと笑うのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。

今年は兎年ということで、鈴仙達が出てくる話を考えてたら
もう今年も一ヶ月がすぎていました。
時が過ぎ去るのは早いですね。

誤字脱字指摘事項等あれば教えて頂けると嬉しいです。
それではお粗末様でした。
clo0001
http://twitter.com/clo0001
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コメント



0.1340簡易評価
6.無評価名前が無い程度の能力削除
う~ん…何か何時ものcloさんじゃないような気が…
7.100名前が無い程度の能力削除
依姫さまとレイセン×2で三角だ
8.100名前が無い程度の能力削除
綿月姉妹に教育される二号さんを書くべき
9.80名前が無い程度の能力削除
なるほど
悪戯成功ですね
14.100名前が無い程度の能力削除
ウドンゲェ…
15.100名前が無い程度の能力削除
マジ悪魔
17.90名前が無い程度の能力削除
面白かったです。
19.90名前が無い程度の能力削除
ぐ~ぐ~が語尾の輝夜かわええww
24.80名前が無い程度の能力削除
そこまでして寝たいのか姫様
あとこれうどんちゃん悪くないだろww
28.無評価名前が無い程度の能力削除
悪戯は書いて字の通り、性質の悪い「戯れ事」で済むまでを指すのです。
洒落で済まない被害を出すのは悪戯者ではなく、単なる「イヤなヤツ」ですよ。
29.70とーなす削除
まさにスペカの無駄遣い。
姫様もっと違うところで本気が見たいです。
34.70名前が無い程度の能力削除
ふむ