Coolier - 新生・東方創想話

歩け! イヌバシリさん vol.6

2012/07/21 21:06:51
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※超オリジナル設定注意。
※過度な残酷・残虐表現有り。注意。



一作目は作品集144
二作目は作品集148
三作目は作品集154
四作目は作品集159
五作目は作品集165 にあります。



【人物紹介】

犬走椛:白狼天狗。下っ端の哨戒天狗。幼い頃、天狗上層部の手違いにより両親を殺されている。
    かつて大天狗の下に裏稼業で勤しんでおり、相当な数の修羅場を潜っている。
    今は大天狗の愚痴をアリーナの最前列で聞かされる日々を送っている。

射命丸文:鴉天狗。新聞記者。椛に好意を抱いている。新聞の大会では常に上位。交友関係が広く、実力も山では上位。
     機転が利き、頭の回転も早い。情報通。他の鴉天狗とは一線を画す。

姫海棠はたて:鴉天狗。少し前まで引き篭もっていたが、今ではだいぶ社会に適応出来ている。一時期、新聞作りを椛に手伝ってもらっていた。
       毎回、おかしな方面に才能を発揮する等、謎のポテンシャルを持つ。

河城にとり:河童。エンジニア。椛との友人歴は長い。
      ロストテクノロジーだろうとオーバーテクノロジーだろうと、設計図さえあれば何でも作れる。

大天狗:椛の上司。中間管理職。椛とは長い付き合い。独身であることを指摘するとキレる。椛のことを『モミちゃん』と呼ぶ。
    自分の人生まだまだ折り返し地点だと思っている。

天魔:見た目は幼女。しかし天狗の中で最も年配。天狗組織の統括者であり、最強の天狗。








【 episode.1 ミッション イヌポッシブル ~スパイ犬作戦~ 】

夕刻、大天狗の屋敷に、定期報告にやってきた犬走椛。
「今週も異常はありませんでした」
「はい。ご苦労様」
束ねられた報告書を大天狗に渡す。
「しっかし最近増えたと思わない?」
報告書を受け取った妙齢の女性、大天狗は気だるそうに頬杖をついた。
「何がです?」
「カップルよ。テキトーに石投げたら高確率で当たるくらいに増えた気がするわ」
「そんなにいます?」
「まあ私の場合、狙って石投げてるんだけどね。これが面白いほど良く当たる」
「何してるんですか」
出会いの季節である春が始まってから早数ヶ月。山のあちらこちらで交際を始める天狗が増えていた。
どうやらそれが独り身の大天狗の目に付くらしい。
「どこ行っても手を繋ぐカップルばっかりで、このままじゃジョイント恐怖症になるわ。繋ぐ手を無性に切り離したくなる」
「気にし過ぎですよ」
「決めた、私これから天魔ちゃんにカップル税の導入の法案を提出してくる」
「通ると良いですね」
「おや、モミちゃん。その顔、ひょっとして私が『カップル死ね』という私怨だけでこんな話をしてると思ってる?」
静かに頷く椛。
「正直でよろしい・・・・・でも違うわ。古来より“税”というのは私達の大切な財産を守る為に徴収されたわ。恋愛とは素晴らしいもの、それを守り保障するためにもカップルから税金を・・・」
「で、本音は?」
「カップルは無差別に死ね。ジェノサイド、サーチアンドデストロイ」
「相変わらずブレないですね」
そんなだから相手が見つからないのでは? と口が裂けても言えない椛。
「なお脱税したカップルには罰として私が直々にハイキックします」
「大天狗様の蹴りって、竹くらい余裕で斬れますよね?」
かつて大天狗が蹴りを放った際、彼女の周囲の竹が一斉に倒れるのを見たことがあった。
「今はスギやヒノキの間伐出来るよ」
「それ余裕で首が跳ぶじゃないですか」



雑談の話題も尽き、そろそろ詰め所に戻ろうと思った頃だった。

「ちなみにモミちゃん、明日って休みだっけ?」
大天狗がそう切り出してきた。
「ええ、非番ですけど」
「一個お願いしたいことがあるんだけど」
「合コンの人数集めなら他を当たってください」
「違う違う、真面目なお話」

ワザとらしく咳払いをして、傾けていた体を起こす。

「ちょっとモミちゃんに見て来て欲しい場所があるのよ。山の北側にある鼻高天狗の集落なんだけど」
「たしか、酒蔵がいくつもある所でしたっけ?」
小さな集落ではあるが、酒造りを盛んに行うということで、知名度はそれなりに高い。
「そこに一ヶ月前、新しい酒蔵が出来て、たまたま他の用事で近くを通ったから覗いて見たんだけど、何か妙なのよね」
「妙とは?」
「中はどこにでもある普通の酒蔵だったわ。でも上手く言えないんだけど、何か隠蔽してるような気がするのよ」
酒蔵を隠れ蓑にして何かを秘密裏に行っている、と長年山の不正を取り締まってきた大天狗の勘が告げていた。
「怪しいとは思っていても、あくまで私の勘レベル。だから堂々と調べられない」
「それで私に中を調べろと?」
「こういうこと頼めるのモミちゃんしかいないから。お願いできる?」
長い付き合いで築かれた信頼と彼女自身の実力から、大天狗は椛を指名した。
「昔、貴女様にやらされた事に比べれば楽なおつかいです。引き受けましょう」
「悪いわね。あ、くれぐれも深入りしないでよ。何も無いなら無いで全然問題ないから」
「『何も』があったらどうするんです?」
「違法賭博してるようならしょっ引くし、危ない葉っぱを栽培してるようなら蔵ごと焼き払うし、危ないブツを取引している場所だったら村ごとぶっ潰すし、隠れて婚活会場として使っていたら村を地図と歴史から消す」
「最強の男を決める裏闘技場だったら?」
「チケット買っといて、S席で。このお金で」

大天狗は封筒を渡す。

「これ、今回のお駄賃」
開けると哨戒一週間分に当たる金額が納められていた。
「今日はもう遅いし。明日にでも見に行ってくれる?」
「かしこまりました」
「それと今回、モミちゃんに心強い仲間を用意したわ」
「 ? 」
封筒を懐に仕舞いながら怪訝な顔をする。
「鼻高天狗は内勤、白狼天狗は現場。相性が悪いでしょ? だからモミちゃんがお仕事を円滑に行えるように、スリーマンセル方式を採用しました」
鼻高天狗は天狗社会において、事務仕事の分野を担っており、現場の白狼天狗を快く思っていない節があった。
白狼天狗という理由だけで他の天狗からあまり良い顔をされないのに、今回侵入する場所はそれよりも悪環境である。だから今回に限り助っ人を呼んでおいた。
「ここへ」
大天狗が手を二回叩く。
「お呼びですか!」
掛け軸の裏から射命丸文。
「ですか!」
畳の下から姫海棠はたてが現れた。
「モミちゃんはこの二人と一緒に調査に行って来て」
事態がすぐ呑み込めず、目が点になっている椛にそう言い放った。











椛の自宅。
以前のカエル騒動で損壊したが、河城にとりの心強い協力もあり、今では元通りの内装となっている。
「大天狗様も貴女方も、一体何を考えているんですか?」
悪ふざけが過ぎる、と露骨に不機嫌な表情の椛。鋭い眼光が正面に座る二人の鴉天狗を射抜く。

「聞いてますか文さん?」
「今から私のことは国際A級諜報員、しゃめーリアと呼ぶように」
サングラスを装着する文。
「真面目にやってください」
「ぐへ」
サングラスを払い落とす。
「サポートナビゲーターのハタコンです」
伊達眼鏡を指先でクイっと持ち上げるはたて。
「便乗しなくて良いですから」
「あう」
はたての眼鏡をそっと外す。
「あれー!? なんで私にだけ手厳しいんですか!? いや、これは椛さんが私に気兼ねしていないというむしろ良い傾向?」
(めんど臭いなぁ)

とりあえず、本題に戻す。

「そもそも、どういった経緯でお声が掛かったんですか?」
「大天狗様に『文文。新聞の記事になる良いネタあるよ』と言われまして」
「『貴方のそのステルス性能には目を見張るものがある』って誘われた」
(御柱祭の取材以降、三人が妙に親密になった気がする)
その三人の関係を繋いでいるのが、他でもない自分であるということに、椛は気付いていない。
「正直、大天狗の命令が無ければふん縛ってでもここに置いて行きたいというのが本音です。今からでも遅くありません、二人とも降りる気は?」
「ないです」
「ないよ」
「・・・・・はぁ」
吐息を吐きながらうな垂れる。
「わかりました。ではもう何も言いません」
こうなった二人が梃子でも動かないことは、今までの付き合いで良く理解していた。
「せめて、危険だと感じたらすぐに降りる。これだけは約束してください」
「お約束しましょう」
「うん、わかった」
「絶対ですよ」
こうして渋々ではあるが、二人の動向を了承することにした。


「ところではたて、ソレはなんですか? 携帯とは違うようですけど?」
文は彼女が持っている機械が気になって尋ねた。
「これ? 帰り際に大天狗様から渡された。潜入する前にこれを聞いて欲しいんだって」
「カセットテープってやつですかね? 音声を録音、再生する」
うろ覚えで文がその機械の名を口にする。
「あと一緒に何かの紙貰った」
線と点が羅列された紙だった。椛はそれに見覚えがあった。
「暗号ですね。私たち白狼天狗が使う。点と線を組み合わせて文字の代わりにするんです」
椛はじっとそれを眺め解読する。
「どうやら、丸いボタンを三回押せば良いみたいです」
その手順に従い、はたては再生のボタンを押した。




『あーあー、マイクテストマイクテスト』

中のテープが回りだし、録音された大天狗の声が聞こえてきた。

『皆がこの音声を聞いているということは、私はもうすでに死んで・・・・・いやいやいや、何言ってんの私』

『さて、今回君たちの任務地は、この山の最北にある鼻高天狗の小さな集落です』

『ご存知の通り、酒蔵がいくつもあることで有名で、山に流通する酒の一割程度がこの集落で作られています。ここテストに出ます』

『そこに最近できた酒蔵がちょっと怪しいので中の様子を見てきてください。地図ははたてちゃんに渡してあります。一度ここでテープを止めて、地図が見つかったら再生ボタンを押してください』

言われた通り、ボタンを押して一時停止の状態にさせた。

「地図なんて貰ってるんですかはたて?」
「ううん。貰ってるのはこの紙だけだよ」
暗号文の書かれた紙をひらひらと振った。
「ひょっとして・・・・すみません、またちょっと借りますね」
椛は紙面に水筒の水を掛けた。
水に濡れた部分にインクが浮かび上がる。
「水透かしだったんですね」
「すごい。地図が浮かんで・・・・・これ地図なの?」
浮き出た絵を見て、はたては首を傾げた。
歪な楕円形の中に×印があり、その×印を『このへん』というセリフのついた矢印がくっ付いている。
「発芽したジャガイモをスケッチしたのかと思った」
「大天狗様って絵が超絶ヘタクソなんですね」
地図には色々と書き込まれているが、それが何を表しているのか全くわからない。
「墨で書いた動物を実体化させて使役する術があるのですが、大天狗様がこの術を使うと、出てきた生き物は奇怪な鳴き声を上げた後、四散します」
「納得のクオリティですね」
とりあえず、地図を見つけたのでテープを再開させる。

『えー、その×印がある位置が例の酒蔵です』
「「「これじゃわかんないですよ大天狗様」」」
この絵では何がなんだかわからないため、最近出来た酒蔵という言葉をヒントに、虱潰しで探すしかなさそうだった。

『例によって君、もしくは君のメンバーが捕らえられても当局は一切関知しないのでくれぐれも深入りはしないように』

『なお、このテープは自動的に消滅しないので、説明書をよく読み正しい手順で消去してください。以上、成功を祈る』

テープは回り続けるが、そこで大天狗の音声は終わった。

「どうやって消去するの?」
「えーと、A面を表にしたの確認してから録音ボタンを長押ししながら再生ボタンを・・・・・意味わかんないですねこれ。いっそ割っちゃいましょう」
面倒臭くなったのでテープを取り出してぐっと曲げる椛。
「壊すくらいなら、にとりさんの所に持って行って消去してもらいましょうよ」
機械に強いにとりを頼ろうと文が提案するが、椛が即座に首を振った。
「実はにとりが行方不明でして、ここ一ヶ月くらい」
「そうなんですか?」
「大方、地下工房にでも篭っているのでしょう」
「なら仕方ないですね」
テープは椛の手の中で真っ二つに割れた。




「とりあえず、今日はもう遅いですし、向かうのは明日からにしましょう。明るい内に集落を下見して、夜中に酒蔵に忍び込もうと思うのですが、どうでしょう?」
二人にそれで良いか尋ねる。すると文が手を挙げた。
「悪くないですが、せっかく新聞記者が二人も居るのです。それをもう少し有効に使いませんか? 例えばですね・・・・こんなのどうでしょう?」
鞄から一枚の用紙を出した。
「これを今からその集落の長に送るというのは?」
「何ですそれ?」
「取材依頼書です」
鴉天狗が取材対象にアポイントを取るときに使う用紙だった。
「これで向こうがOKの返事をくれれば、堂々と酒蔵の中を見れます」
「なるほど。それは楽ですね」
椛が納得して頷いたのを見てから、文は素早く書をしたため、自分が使役しているカラスの足に結び向かわせた。
「あ、帰ってきた」
しばらくして飛ばしたカラスが帰還した。
「早いですね」
「当然です、なんたって私のカラスですから」
足には返事の手紙が結ばれていた。
「なんて書いてあるの?」
「ふむ。明日のお昼以降なら、何時来ても良いそうです」
「では明日の正午にその集落の入り口で落ち合いましょう」






翌日の正午。
目的地である鼻高天狗が住む集落にやってきた椛達。
集落の中で一番目立つ屋敷の戸を文は叩いた。
「こんにちはー! 文文。新聞でお馴染み射命丸文です!」
「果花子念報の姫海棠はたてです」
「はい、今日いらっしゃることは昨日伺っています」
背中を丸めた年配の男天狗が恭しく頭を下げた。彼こそが酒蔵の持ち主であり、集落の長だった。
「良い記事をお願いしますね」
「任せてください、私もはたてのここで造られるお酒の大ファンですから」
 文は手紙に『美味しい銘柄がたくさんあるにも係わらず、山の皆はそれを知らな過ぎると思います。なのでそれを広めるための取材をさせてください』と書いたこともあり、長から大いに歓迎を受けた。
「それは光栄です。どうぞこちらへ・・・・・・おや? そちらのは?」
二人の背後に立つ椛を見ていぶかしんだ。文とはたてに向けている視線とは明らかに別のものだった。
「彼女は私達の取材の小間使いです。お気になさらず」
「そうでしたか、鴉天狗さんが白狼天狗なんぞと一緒に居るので妙だと思ったのです。ではご案内しますね」

(なるほど、確かに大天狗様の仰った通りだ。文さん達がいてくれて良かった)

小さな集落、しかも鼻高天狗だけが暮らしているということもあり、格下の白狼天狗がこの集落に足を踏み入れることを良く思っていないようだった。
取材の補佐役という肩書きなら、堂々と集落を出歩ける。
(小間使いという扱いは少し癪だけれど)





「まずは、この集落で一番歴史のある酒蔵からご紹介します」
言って長は集落の中央を目指し歩き出す。
「もともと酒造りは、事務作業の片手間に何か出来ないかと考えた先々代の長が、思い切って蔵を建てたのが始まりでして」
移動中、集落の歴史についての話を始めた。
「この村は鼻高天狗だけで発展した歴史を持ちましてご覧の通り、鼻高天狗だけが住んでおります。白狼天狗如きに一切頼らず自警団を結成していざという時はそれが動くようになっておりましてな」

「長、少しよろしいですか?」

「どうした?」
上機嫌に話す彼に、初老前の鼻高天狗が耳打ちし、三人から距離を取らせた。彼は長の補佐役で右腕ともいえる立場の天狗だった。
「守矢神社の東風谷早苗殿がご挨拶に。先日、奉納したお酒のお礼にと御札を何枚か頂きました。現在、会合所でお寛ぎ頂いております」
「なに? それは本当か? わかったすぐ向かう。ここはお前に任せたぞ」
「かしこまりました」
「万が一ということもある。あの三人は里を出るまで見張っておけ。あの蔵を見せる時は細心の注意を払え。自警団にも声をかけておけ」
「はい」

村長はそう指示を出して、その場を離れた。

「おや? 蔵持ちさんはどちらに?」
「長の役割はここまででして、以後私がご案内致します」

そうして案内は再開された。







夕刻。集落の通りを三人はトボトボと歩く。
「つまんなかった」
「いらない話が多くてかないませんね。相槌を打つのも一苦労です」
結局、酒蔵の案内から解放されたのは日が沈みかけた頃だった。
お目当ての酒蔵の中を見ることが出来たが、それに伴う何の面白味もない長話に、三人は辟易していた。
「とりあえずここで作戦会議しましょう」
「賛成ー」
「そうですね」
文の提案で、この集落に存在する数少ない居酒屋の一つに入る。
席についてすぐ適当に酒と料理を注文し、一息ついてから本題に入る。

「今日最後に見せてもらった蔵が大天狗様の仰っていた蔵だと思いますが、あの酒蔵どう思います?」
周囲の耳に気を配り、文が小声で話す。
「十中八九、黒ですね」
「椛さんもそう思いますか」
「え、なんで?」

あの酒蔵の不審点に気付いていないはたてのために、文が今運ばれてきたばかりの豆腐を使い説明してやることにした。

「この冷奴があの酒蔵だとします。そうイメージしてください」
「うん」
「あの酒蔵は外観がこれだけあるのに対して、奥行きはここまでしかなかった」
箸で豆腐が3:1になるようにカットし、小さい方をつまんで持ち上げた。
「じゃあこれは何のスペースでしょうか? 断熱空間にしては広すぎます」
「そこに何か隠してるってこと?」
「大天狗様はそう睨んでいるようですね」
豆腐と一緒に運ばれてきた猪肉を噛みながら椛が言う。
「じゃあもっと調べる必要があるね。見学中は奥まで行かせて貰えなかったから」
奥まで行こうとしたら、従業員とは明らかに風貌が違う鼻高天狗に止められた。
椛にいたっては、近づいただけで突き飛ばされた。
「では、ここからは私一人です。文さん達のお陰で下見が出来たのは非常に有り難かったです。助かりました」
「私達を置いていく気ですか?」
「三人で行ったら目立つでしょう?」
「でもここまでやってさよならはちょっと薄情じゃないですか?」
文のその言葉に、隣に居たはたては何度も頷いた。
「いえ。お二方には別の面倒ごとをお願いします」
椛は居酒屋に入ってから終始感じてた視線の方を向く。部屋の隅のテーブルに座っていた鼻高天狗の男二人が慌てて椛から視線を逸らした。
はたてはその二人に見覚えがあった。
「あれって、私達が奥に行こうとしたのを妨害した」
「文さんとはたてさんは、あいつらを。その間に蔵の中を調べます」
「承知しました。あれはコッチに任せてください」

その時、彼女達が座っているテーブルの背後、カウンターで静かに飲んでいた客の一人が急に立ち上がった。

(しまった。誰かいたのか!?)
小さな仕切りが設けてあり死角になっていたことあって、そこに第三者がいたことに、文も椛もはたても気づいていなかった。
(この距離。間違いない、聞かれた)
三人の背中を嫌な汗が伝う。

しかし、三人が危惧した事態に陥ることは無かった。

「あれーー? どこかで聞いたことがある声だと思ったらやっぱりー!」
カウンターの客は、三人の席にコップと一升瓶を持ち枝垂れかかってきた。
テーブルの端で、蛇と蛙の髪飾りが踊る。
「早苗さんっ!?」
守矢神社の巫女。現人神の東風谷早苗だった。
顔を真っ赤にさせ、誰の目にも泥酔状態であることは明らかだった。
「どうしてここに!? 二柱はどちらへ!?」
「かなぁこ様ぁとぉ、すわぁこ様はー、人間の里のほーへ出向きましてぇ、私はぁお酒のおれーにこちらへぇ・・・・」
「 ? 」
この日、八坂神奈子と洩矢諏訪子は人間の里へ呼ばれて一泊することになっており、早苗は留守番だった。
大人しく留守番をしていたが特に何もすることがなく手持ち無沙汰になった時、先日この集落から大量の酒が奉納されたことを思い出し、お礼の挨拶に訪れることにした。
「実はぁ常々ぇ・・・ひとりのみというのに憧れてぉりましてぇ。このお店にふらっと・・・」
長への挨拶が終わり雑談もそこそこに切り上げ、里を出ようとしたその時、入りやすいそうな雰囲気の居酒屋を見つけてそこで早めの夕飯を済ませようと考えた。
そして初めての一人居酒屋ですっかり舞い上がり、酒のペース配分を間違えてしまい現在にいたる。

「どーしたんでぇすか椛さんたちはー、小ぉ旅行ですかー? このあと旅館でヨロシクしちゃんですかー? わたしもまぜてー!」
「もう完全に前後不覚ですね」
バランスを失った早苗を支える為、椛は箸を置いて彼女を抱きとめた。
「ほへー・・・あ、力が・・・」
椛に抱えられて気が緩んだのか、早苗は寝ているのか起きているのかわからない状態になった。
「彼女、どっか近くの宿に預けますよ」
「そうですね。そうした方が無難です」
「私もそう思う」
椛が早苗を担ぎ、近くでやっている宿に泊まらせることにした。
「早苗さん、お会計しましょうか?」
体を揺するが、早苗は小さくうわ言を繰り返すためコミュニケーションを諦めた。
「仕方ない」
早苗の懐を漁るワケにもいかず、椛は彼女の飲み代を大天狗から貰った分から出すことにした。
「私は早苗さんを預けたら、酒蔵へ向かいます。お二人は先ほどお願いしたことを」
「わかりました」
「うん」
些か予定が狂ったが、これから手はず通り動くことを確認し、椛は早苗を連れて外へ出た。
「あれが本当の送り狼ってやつですね」
「そのマンマだね」








酒臭い早苗を負ぶって、椛は宿屋を探す。
「あれ? さっきまで店にいたのにわーぷしてる?」
「気分とか悪くないですか? 吐きそうだったら言ってください」
「あー椛さんだ。ご無沙汰してます。元気してましたかー?」
まだ声に抑揚がなく、酔いが落ち着いた様子ではなかった。
「どうして椛さんがいるんですかー?」
「さあ、どうしてでしょうね?」
「それはきっと神のお導きだからです! 神がもみじさんを一目置いているから巡り会えたのです!」
「置かなくていいです。撤去してください」
「そんなこと仰らず、かぁなこ様とすわこぉ様が会いたがってましたよぁ?」
「私に?」
「そーです。見かけたら今度神社に来るよう伝えて欲しいと」
(なんだろう?)
先日発生した厄カエルの件だろうかと想像する。
「あの早苗さん、それって・・・」
「・・・」
詳しく訊こうと思ったら、早苗は眠りについてしまっていた。
(まぁ、酔っ払いの戯言だ。いちいち真に受けたてどうする)
しばらく歩いてようやく宿屋の提灯が見つかり、椛は戸を叩いた。

「ごめんくださーい」
「はいはい、ん?」
応対したのは顎の皮が弛んだ恰幅の良い鼻高天狗の女将だった。
彼女は椛の顔を見るなり露骨に嫌そうな顔をした。
「悪いけど白狼天狗さん、今夜、ウチは一杯でね。他を当たってくんな」
「一部屋も空いてないんですか?」
「くどいね。どう詰めても満席だよ」
「泊まるのが守矢神社の巫女様でもですか?」

負ぶっている人物の顔が良く見えるように体の向きを変えてやる。

「あらま! 早苗様じゃないかい! ちょっと誰か! 巫女様をお部屋に運ぶから手伝っとくれ!」
(たった今、空きが無いと言ったばかりじゃないか)
心中でムッとしつつ、宿の従業員に早苗を預ける。
「それじゃあ私はこれで」
「待ちな」
去ろうとする椛を女将が呼び止める。
「早苗様の宿泊料がまだだよ」
「起きたら彼女から貰ってください。私は泥酔した彼女を拾い、運んだまでですから」
「じゃあアンタが後日早苗様から貰えばいいだろう?」
女将は出した手を引っ込めようとしない。
(ここで揉めると面倒だ)
これから仕事に取り掛からなければならないのに、変に騒いで目立ちたくはなかった。
「わかりました」
封筒から紙幣を二枚抜き、女将に渡す。
「足んないよ、うちを犬小屋と一緒にしないどくれ。もう一枚」
(こんな雑魚寝宿、今のでも多いくらいだ)
苦虫を噛み潰しながら、本来自分の給金となるはずだった小金を支払う。
この女将の性根を見る限り、起きた早苗からも宿代をせしめるのが楽に予見できた。
(くそっ)
宿の玄関から出た際、腸が煮えくり返りそうなのがどうしても抑えきれられず、玄関のすぐ横の壁を裏拳で思わず叩いてしまった。
(あっ)
ペキパキポキと乾いた音が手元からした。材木の寿命が軽く見積もっても5年は縮んだ気がする。
(しまった)
逃げるように目的の酒蔵へ向かった。




(流石に怪しまれるから見張りは置いていないか)
周囲を警戒しながら件の酒蔵の周りを歩く、空気窓を見つけそこに飛び乗ると、掛かっていた鉄格子を強引に外して椛は中に入り、奥の壁を見る。

「この壁の向こうか」

酒蔵の最奥の壁に手を押し付けながら移動し、手掛かりを探す。
「 ? 」
やがて、押した時の凹みが他よりも大きな箇所を見つける。
注意深く見ると、壁に偽装された扉だとわかった。
一歩下がり、短い助走をつけてから思い切りそこを蹴り飛ばす。

椛の目の前に広い空間が現れた。

「静かにしてくれないかな? いま細かいトコいじってるから」
部屋の真ん中に胡坐をかき、椛に背を向けて何かの作業に没頭している者がいた。
「あの・・・」
「ごめん、後にして。今、集中したいから」
彼女は度の入ったゴーグルを装着し、両手に持った工具で極小のネジを回していた。
「ちょっと」
「ああもうっ! 期日までに完成させろって言ったのはソッチでしょ!!」
指先に全神経を注ぎながら怒鳴る。怒鳴りつつもこちらを見ようしない。
「貴女、にとりですよね?」
「ひゅいっ! その声!?」
背筋がピンと伸びて、慌てて工具を置きゴーグルを外して顔を上げた。
「ど、どうして椛がこの『タニーガッパーと秘密の部屋』に!?」
「ここそんな名前の部屋なんですか? じゃなくて、どうしてここに?」
「3週間くらい前かな、いきなりココに連れてこられて、設計図を渡されて『これを作ってくれ』って」
設計図は無縁塚で拾われたものをここの鼻高天狗が買い取ったのだという。
「拉致監禁じゃないですか」
「でも快適だよ、食事にキュウリをたくさんくれたし、欲しい工具や部材は全部手配してくれたし」
「それでも立派な犯罪ですよ。すぐに帰りましょう」
部屋の隅には製作途中の機械がある。
「これが事件に発展したら、この子はどうなるの?」
「廃棄されると思います。これが危険なものならですが」
「そんなの嫌だ!」
「え?」
『廃棄』という言葉に強く反応したにとりは手を振り上げていた。

















居酒屋。
「わたし達もそろそろ動きましょうか」
頃合を見はかり、文とはたては席を立つ。
「すみませんお会計を、あ、領収書ください。名前は『山で一番美しい天狗様』で」
「なにそれ?」
「さぁ? でもこうやって書いて貰うと、大体経費で落ちると椛さんが」

二人が店を出ると、彼女らを見張っていた鼻高天狗の青年達も静かに席を立った。

居酒屋を出た文とはたては、集落の中を適当にぶらつく。
「椛大丈夫かな?」
「心配なんてりませんよ。それよりも自分の仕事に専念してください」
「うん」
はたては携帯を開き暗い画面を表示させて、それを鏡代わりにして背後を窺った、例の二人がついてきていた。
「しっかりと貼りつい来てる」
「尾行の仕方がド素人ですね。あんなので取材のプロである鴉天狗を追跡しようとは片腹痛い」
「やっぱりデスクワークメインでやってるから、こういうこと苦手なのかな?」
「はたて、次の角を左です」
二人は細い路地に入る。
「次も左です。そこで手はず通りに。一瞬だけ注意が逸れれば十分ですから」
「わかった」
曲がって、はたては立ち止まり、文は跳んで建物の屋根に乗った。
少しして足音が二人分聞こえてきて、鼻高天狗の男が現れた。
鼻高天狗の男は、すぐそこにはたてが立っていたのが意外だったのか、一瞬驚いた顔を浮かべた。
そんな彼らに向け、はたては唐突に話しかけた。
「燕返しって技、あるでしょ? 相手を一瞬で2回斬っちゃう技。それでさスカイフィッシュっているでしょ? あれってさ、ツバメの6倍速いらしいの。だから相手を一瞬で12回斬れたら、その技はもうスカイフュッシュ返しなの」
「お前、何を言っ・・・」
言葉の途中で、二人の鼻高天狗は倒れた。
(すごい、一瞬で二人をのした)
鼻高天狗がはたてに気を取られている隙に文が背後から一撃を見舞っていた。
「なんですか今の話?」
「文が相手の注意を引けって言ったから。私なりに考えて相手が興味を持ちそうな話題を話そうかと」
「あまりにも珍妙すぎて私まで全部聞いてしまいましたよ・・・・まぁ、今それは置いておいて」
文は倒した二人を見る。
「そのお顔、忘れてませんよ」
やはり昼間、酒蔵で文たちを妨害した二人だった。
「お昼はよくも酒蔵で椛さんを突き飛ばしてくれましたね?」
逃げられないように、路地に落ちていた縄を体に巻いていく。
(私も文みたいに戦えるかな・・・・いや多分、無理だ)
縄を巻くのを手伝いながら、はたては密かに自身と文との実力の差を思い知らされていた。
「さて、それじゃあ知っていることを全部教えていただきましょうか」
男の背中を文は踏みつけた。


鼻高天狗の二人は観念したのか、少しずつ真相を明かしていく。


「なるほど、あの酒蔵には隠し部屋があり、そこで拉致してきた河童に何かを作らせていると?」
「何を作ってるの?」
「・・・」
二人の鼻高天狗の青年は口を噤んで横を向いた。

「どうやらソコだけは言いたくないようですね。しょうがない、はたて、ちょっとおっぱい触らせてあげなさい」
「嫌だよ」
「ほら貴方たち。婦女暴行犯として新聞の一面を飾りたくなかったら白状しなさい」
「俺らが婦女暴行? いや、有り得ねぇからソレ」
文のその一言に青年は反論した。
「はぁ? 貴方何を言ってるんです?」
「だって俺達」
「なぁ?」
青年同士はお互いの顔を見つめあい、その頬を桜色に染めた。よく見ると、縛られた手を必死に伸ばして手を握り合っている。
「そういえば鼻高天狗のほとんどって・・・」
「はたて、私ちょっと鋏を探して来ます。あと万力も」
「うん?」
「私が戻る前に、どっちが結婚式でウェディングドレスを着る役なのか聞いておいてください」
















酒蔵の隠し部屋に、にとりの声が木霊する。

「うおおおおおおお! 河童神拳奥義『ドライバー』!!」
指先を尖らせ作った貫手。それに手首に回転を加えて椛の肩を穿った。
「がっ!?」
親友からの突然の攻撃に反応が遅れてしまう。突かれた肩にまるで電流が走ったかのような痛みを感じる。
「河童神拳奥義『ペンチ』!!」
日頃の機械いじりで鍛えられた握力を駆使して椛の両肩を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「どっりゃぁ!!」
そのまま頭突きを繰り出した。
「ぅぐっ!」
額に走る衝撃で、目の中で火花が散る。
「にとり、いきなり何を・・・」
額を押さえ、足元をふらつかせながら、なんとか尋ねた。
「私は妖怪の山の住人である前にエンジニアだ! その子は私の子も同然だ! いくら椛でも、その子の廃棄なんて許さないよ!」
「いいですか、にとり。廃棄される云々というのは・・・」
「また廃棄って言った! そんなに機械が怖いのかレトロ狼!!」
「上等ですこの分からず屋」
顔を軽く振って視界を取り戻し、にとりと対峙する。
「その顔、どうやら本気になったようだね」
「にとりは騙されてるだけなので無罪だと大天狗様に説明しておきます。だから安心してヤられてください」
「それはできない相談だよ」
近距離格闘に特化された白狼天狗である椛を警戒して、数歩さがって距離をとった。
「河童には相撲とは別に、磨き抜かれた独自の格闘術がある。それが河童神拳。まさか友に使う日がこようとは」
「そんなのがあるというのは初耳です」
にとりとは長い付き合いだが、初めて聞く名前だった。
「河童神拳とは尻子玉を抜き取るために生まれた武術。どんな隙間でも突き進む貫手『ドライバー』、尻子玉を掴んで絶対離さないための握力『ペンチ』はその為に開発された」
「嫌な用途ですね」
「その二つは組み手においても十分に効果を発揮する。ほらその肩」
椛の肩を指差した。
「・・・・・これは?」
指摘されて始めて、椛は自分の体に起きている異常に気づいた。
「さっき『ドライバー』を受けたでしょ? その時、肩の関節(ネジ)を緩ませたよ。しばらくの間そ・・・」
「ふんっ!」
ゴキンという小気味の良い音が、部屋の端から端まではっきりと聞こえた。
「の片腕は使い物になら・・・・え?」
「お、ちゃんと動く」
何事も無かったかのように腕を伸び縮みさせた。
「お話中すみませんでした。続けてください」
「いや、もういいッス」
にとりは腕を捲くった。
「お喋りは苦手だからね。決着をつけよう」
「そうですね」
「これから使うのは河童神拳の最終奥義だよ」
「最終?」
右手が床と水平になるようにピンと伸ばすにとり。
「従来の技は、相手の体内に手を入れて直接抜き取るモノだったけど、これは違う。相手の体に外側から衝撃を与えて、尻子玉を強制排出させる逆転の発想。一子相伝の技」
「死んでも喰らいたくない技ですね」
「ちなみに、私の姉さんはこれを継承するのが嫌で家出して、今は地底にいる」
「その気持ち、ちょっとわかります」
「いくよっ!」
にとりは駆け出す。
「水を操る程度の能力発動! 『水遁:噴水獅子(まーらいおん)』!!」
にとりの喉が不自然に膨らみ、口から拳大の水球が1発だけ発射される。
「うおっ!?」
水をまともに顔に浴びてしまい、視界を奪われる。
「もらった!!」
間合いも、タイミングも完璧だった。

「ほえ?」

勝利を確信したにとりの視界が反転する。
振った手の先に椛の姿はなく、今の今まで踏みしていた床が消えていた。
自分の身に何が起きたのかわからないまま背中に衝撃を受けた。
「ぐへ!」
にとりは背中から床に落下していた。
「にとりに殴る蹴るはしたくなかったので、崩し技を使わせてもらいました」

椛は飛び込んできたにとりの懐に肩を入れ、足を払い、両手で彼女を軽く押した。それだけで彼女は盛大に転んだ。
賞賛すべきは、この動作を、顔に水を浴びた視界ゼロの状態で実演したということ。

「ほら、帰りますよ」
袖で顔を拭き、クリアになった視界でにとりを見下ろす。
「嫌だ!」
「心中はお察しします。しかしここは・・・・」
「河城式ブレイクダンス!!」
「うおっと」
手足をバタつかせて椛を突き飛ばす。
「今だ!」
這って椛から離れ、部屋の隅へと辿り着くと床の一部をスライドさせた。
「こうなったらいっそ」
そこには『自爆スイッチ』と書かれたボタンがあった。
「なんですかソレ!!」
ボタンを押そうとしたにとりの体に覆いかぶさり、それを阻止する椛。
「早まっては駄目ですってば!」
「離せぇぇ! 死なばもろともじゃあああああああ!!」
激しく揉み合う二人。
「そもそもまだアレが廃棄されると決まったわけではありません!」
「え? そうなの?」
にとりの抵抗がピタリと止んだ。
「そうですよ。あれが兵器でないなら廃棄されないはずです。だからちゃんと事情を話してください、全てはそれからです」
「あーそうだったんだ、ごめんごめん。早とちりしてたよ」

そんなところへ、

「事情は聞きましたよにとりさん!」
鼻高天狗二人を尋問したことにより全てを知った文が部屋に飛び込んできた。
「ちょっと!何をやってるんですか!!」
二人が争っているように見えた文は慌てて止めに入る。
それがいけなかった。

「「あっ」」

二人の間に割って入った拍子に、にとりの手がボタンを押していた。
「うっわ・・・」
「ちょっとにとり、何が起きるんですか?」
にとりは無言で上を指差した。
「上? 天井から何か落ちて来るんですか?」
「天井『から』落ちてくるんじゃない。天井『が』落ちてくる・・・・みんな、起立」
「へ?」
急ぎ立ち上がったにとりは、両手を挙げた。二人もそれに習う。
「上からくるぞぉぉぉぉ!!」
そう絶叫したとき、天井は自らが持つ役割を放棄した。
「おごぉ!!」
「なんですかこれは!! どうして吊天井が!? どなたか説明してください」
事情が呑み込めていない文。
「万が一に備えて、敵もろとも道連れにしてやろうと用意したのがアダになったよ!」
「一体何を想定していたんですか!?」
三人は同じ高さで天井を受け止めていた。
「文が余計なことしなければ!」
「私のせい!? 私のせいなんですかこの状況!?」
「あーもー! こんな時に言ってる場合じゃありませんよ! にとり、解除方法は!?」
「部屋の中央の床に解除スイッチが埋め込んである。それを押せば天井が元の高さに」
今いる場所から数歩の距離だったが、三人でようやく支えているこの状況、誰かが下手に動いてその均衡を崩しては全滅である。

「ごめん、遅れ・・・・なんかこの部屋天井低いね?」

はたてが身を屈ませながら入ってくる。
「ちょうど良かったはたて! 部屋の真ん中あたりに隠しボタンがあります! それを探して押してください!」
「えーーと、これ?」
床をスライドさせると現れるボタン。
「お手柄ですはたて! 早く押すのです!」
「う、うん」
しかし、ボタンを押す直前で指が止まった。
「どうしました?」
「さっき、すごい笑える一発ギャク考えたんだけど聞いてくれる?」
「「「いいから押せ!!!」」」










天井が元の高さに戻ってから、にとりは事情を説明した。
「コピー機・・・・ですか?」
「うん、紙に書かれている内容を一瞬で複製しちゃうすごい便利な機械さ。小型化した印刷機だと思ってくれて良いよ」
文とはたては鼻高天狗の青年二人から事前に聞いていたため、大して驚きはしなかった。鋏と万力を見せたら彼らは簡単に白状してくれた。
「確かに、そんなのがあったら事務作業が捗りますね」
「でも、それだと山伏天狗が」
印刷業を生業と山伏天狗のことを思い出す。
「それぞれの家で新聞なんかが印刷できるようになれば、彼らの仕事は激減しますね」
「まぁ、あの機械じゃまだまだ彼らが使う印刷機のような綺麗な仕上がりは程遠いけどね」
しかしこれから先、技術の進歩でコピー機の精度がどれだけ向上するのかなど誰にもわからない。
「鼻高天狗は事務仕事が捗るからコピー機が欲しい。しかし山伏天狗に知られたら邪魔される恐れがある。だからこうやって秘密裏に製作しようとした。というわけですか」
ちなみに集落の長は、にとりがコピー機を完成させた暁には、それらを量産し他の鼻高天狗の事務所に高値で売りつけて儲けようとも考えていた。
「あの子、やっぱり壊しちゃうの?」
にとりは作りかけのコピー機を見る。
「武器ならともかく、コピー機自体にはなんの危険も無いですからね。しかし」
山伏天狗のことを考えれば、無いほうが良いのかもしれないという考えが一瞬だけ全員の脳裏を掠める。
「ねぇ、それって山伏天狗が印刷機でしか出来ない新しいサービスを考えて、山伏天狗が食いっぱぐれなきゃOKってこと?」
小首を傾げながらはたてがそう呟いた。
「はたて、いくらなんでもその理屈は・・・・・・でもその通りですね」
「言う通りだ。コピー機がどう頑張っても真似できない性能を山伏天狗の印刷機が持てば・・・・・・コピー機が山で普及しても問題ないんだ!」
はたての言葉ににとりは拳を強く握る。
「よしやるぞぉ! 印刷機の新機能を考える。コピー機を作る。両方やらなくちゃやらならないのが河童の辛いところだけど!」
意気消沈していたにとりだが、水を得た魚のように元気を取り戻していた。












翌日。
「以上が、昨日の出来事です」
「ふーん、コピー機ねぇ」
大天狗の様子を見る限り、さして興味を持っていないようだった。
「罪に問える鼻高天狗の行動といえば、にとりちゃんの拉致監禁だけね」
「その件ですが、被害者のにとりは彼らを罪に問わないで欲しいと訴えておりまして」
それどころかコピー機の設計図と快適な作業環境を提供してくれた彼らに、恩すら感じていた。

「まあ被害者の証言が無ければ罪に問えないわね」
「こっちも酒蔵に不法侵入の違法捜査してますし」
鼻高天狗の集落は、今回に限り温情で警告に止めておくことになった。

「仮にコピー機なんてのをみんなが持って、印刷所が必要なくなったら山伏天狗はどうなるんですかね?」
「山伏天狗次第じゃない? はたてちゃんが言ったみたいに『自分達だから出来る事』さえ見つけられれば問題無いのよ。居場所が無くなれば新たに作るか、見つけるしかない」
「つまり見つからなければ淘汰されると?」
自然の掟が産業にも適応されると思うと、なんとも世知辛い気分になる。
「最も、私が山伏天狗の立場だったらコピー機が世に出ることを是が非でも阻止するけど」
「やっぱりそう考えちゃいますよね」
だからそんな建設的な発想が出来るはたてを素直にすごいと二人は感じていた。

「それにしても今回、大天狗様の思慮深さと慧眼には感服致しました」
三つ指をついて頭を下げた。
「どうしたの突然、改まちゃって?」
「誤魔化さないでください。本当は全部ご存知だったのでしょう? だからにとりと親しい私達をあの集落に派遣した」

もしも、にとりの事を全く知らない白狼天狗や鴉天狗がこの依頼を引き受けていたら、ちょっとした誤解で彼女の身に不幸が起きていた可能性は十分あった。

「文さんとはたてさんのお陰でスムーズに捜査が行えて、事が荒立たずに円満に解決できました。全て大天狗様の読み通りの運びとなりました」
「ごめん、何言っているかマジでわかんない」
「え?」
「え?」











【 prologue 】


「先輩、もう少しですから!」

仲間の白狼天狗に肩を貸しながら獣道を進む。
支えられる白狼天狗は腹を負傷しており、その血は椛の服にまで染み込んでいた。

「私達がこの仕事で大天狗様から貰った金あるだろ? あれってさ・・・・・ゲホッ!」
血の珠が椛の手を濡らす。
「今は喋らないで!」
そんな制止も聞かず、彼女は虚ろな目で言葉を続ける。
「鴉天狗が毎月貰ってる額と、そんなに変わんないらしい、笑える、こっちは殺しまでやってるのに」
「傷に障ります! だから!」
「ほんっとやってらんないわ。安い金で命を賭けさせられて、利用されて騙されて」
「愚痴は後でゆっくり聞きます、お願いですから・・・」

「ここにいたのね」

小さな声だった。しかし何故か椛の耳には、何よりも大きな声として認識させられた。
「大天狗・・・様?」
椛達に極秘の依頼を出した女性が行く手に立ちはだかっていた。
「屋敷にあの豚野郎の死体があったわ、ちゃんと殺してくれたのね。ご苦労様」

ある所に商いを行う天狗がいた。商売上手で、いくつも店を持つ長者だった。
故に、彼は多くの富と様々な特権を握っていた。
いつしか欲に溺れた彼は、不当な方法で私腹を肥やすようになった。
その不正が見過ごせない域に達した時、大天狗は部下に彼を始末するよう命令を下した。

その命令を椛達は見事果たした。
しかし相手も長く生きている天狗。不意打ちにも関わらず、自身を襲ってきた者の片方に深い傷を負わせた。
深手を負った先輩の白狼天狗を治療させるために椛は診療所に向かっていた。周囲の目を避ける為に止むを得ず獣道を進む最中、そこに大天狗が現れた。

「今からどこ行くの?」
「決まってるじゃないですか! 早く先輩に治療を・・・」
「その必要は無いわ」
大天狗は鞘から刀を抜く。下っ端に支給されている消耗品とは違う、磨けば千年は輝く業物だった。
「豚天狗は自分の屋敷に盗みに入った盗賊と鉢合わせ、不運にも殺されてしまう。事件発生後、たまたま現場を訪れた大天狗お姉さんはその場に残された痕跡から犯人を追跡、そして見事下手人を断罪した。良い話でしょ?」
切先を椛の喉元に突きつけた。
「貴女達が返り討ちにされたら、私があの豚を直接始末して、二人に罪をなすりつけるつもりだったんだけど、あの豚も老いたわね。若い頃は結構強かったんだけど」
「始めから私達も殺すつもりで!?」
「考えてもみなさい。犯人が見つかるまでずっと捜査を続けなきゃいけないのよ? 金も労力も勿体無いじゃない」
「そんなことって」
「じゃあ選ばせてあげる」
「選ぶ?」
「もともと、あの豚殺しの下手人なんて一人いれば十分なのよ。だから選ばせてあげる。生き残ったご褒美」
大天狗は刀を下ろした。
「その子を私に渡して今回の件を口外しないと誓うか、ここでその子と一緒に死ぬか。どっちが良い?」
全く笑っていない、冷たい目でそう問い掛けられた。
「・・・そんな」
椛の瞳が大きく揺れ動くのを、大天狗は見逃さない。
「白狼天狗は団結力強いもんね。『白狼天狗を見捨てる白狼天狗は、白狼天狗に非ず』が信条なんだっけ?」
それを知っていながらあえてその選択肢を与えた。
「白狼天狗の誇りを守るために命を捨てる? それとも白狼天狗の誇りを捨てて命を守る?」
「私は・・・」
長い沈黙だった。自分の吐く息が酷く冷たく感じられた。
大天狗は急かすことなく彼女の決断を静かに待っていた。

そしてついに椛の体が動いた。

椛が支えていた白狼天狗の体が地面に倒れる。
「賢い判断よ。貴女とはそこそこ長い付き合いが出来そうね」
椛のことをそう評価して、地に伏している白狼天狗の体を担ぎ上げる。
先輩と呼ばれていた白狼天狗の少女はすでに事切れていた。
「お疲れ様」
大天狗がそう呟いたのが確かに聞こえた気がした。










【 episode.2 インディペンデンス・デイ ~独立記念日~ 】


「失礼します、今月のウチの隊の勤怠管理書です」
「ご苦労様。その辺に置いといて」
「 ? 」
椛が襖を開けると、和紙に筆を走らせる大天狗の姿があった。
「大天狗様が真面目に机に向かっていらっしゃる」
かなり貴重な光景だった。
「始末書を書いてるの。天魔ちゃん宛てに」
「何したんですか?」
「お酒の力って怖いわー、行き遅れた女の焦燥感って怖いわー」
「わかりました。もう何も聞きません」
「うう・・・まさかあんなしょうもない事で書かされるなんて」
「大天狗様にとっちゃその程度のことなんて、悪事の内に入りませんもんね」
「そりゃねー。昔は殺し、誘拐、盗み、放火、強請・・・・・悪いことは殆どやったからね。あとやってない事なんて年齢詐称くらいよ」
「じゃあ全部やってるじゃないですか」

大天狗の正面に座り、腕を組み、しばし彼女の様子を眺める。

「しかしまぁ・・・変われば変わるものですね」
「何? 私のこと? まさか老けたって言いたいわけ?」
「いいえ。昔よりもずいぶん可愛らしくなったと思いますよ」
「えへへー」
皮肉で言ったつもりだが、大天狗はその言葉通りに受け取り、頬を緩ませた。
「それに大天狗様は、昔はもっと冷酷な御方だった」
「そうだっけ?」
「私のことだって躊躇なく殺そうとしてたじゃないですか。口封じ目的で3回くらい」
「いや、4回はあった。4回は知りすぎたモミちゃんを消そうとした」
さらりと訂正した。
「4回? 思い当たる節が・・・」
「昔、上層部が遊びでやってたヒグマ狩りの警護の時、矢が頬を掠めたことなかった?」
「有ったような無かったような」
過去、山の各地でヒグマの被害が急増しているという報告があり、上層部が日頃のうっぷん晴らしにと道楽を兼ねての狩猟遊びが流行った時期があった。
それの警護に駆り出された事が何度かあったのは覚えているが、詳細までは昔過ぎて思い出せない。
「あれ、私の射った矢。まさか避けられるとは思わなかったわ」
「何してるんですか」
「でも今はモミちゃんのことはバッチリ信用してるから心配しないで。だからトラスト・ミーよ」
「どの口が言うんですかどの口が」
「あ、そーだそーだ」

そのワザとらしい口ぶりで話題を変える大天狗。

「信用できないついでに話しておくけどさぁ、守矢神社についてなんだけど」
「そういえば最近、なにか揉めてるらしいですね?」
人間の参拝客を白狼天狗が追い返してしまうという理由で、やや険悪な雰囲気になっていると話に聞いていた。
「この前、架空索道を作りたいって言ってきた」
「なんですかそれ?」
「神社と人里を縄で繋いで、その上を移動する乗り物を作るんだって。“ロープウェイ”って呼ぶらしいわ」

それが守矢側の提示した妥協案だった。ロープウェイがあれば、人間の参拝客は守矢神社以外の場所には関わらないという主張だった。

「これって天狗に得って無いのよね、守矢の信仰が強まれば協力関係の私たちの力も増すって言うけど、正直、守矢にあんまり力を付けて欲しくないし」
表向きは協力関係にあるが、その水面下では、お互いに相手を出し抜く術を模索しているのが現状である。鍔迫り合いのような気の抜けない状況が続いている。
「それでなんて回答したんです?」
「『架空索道を通すなら通行料払え』って。私達の頭の上を人間が通っていくんだからそれくらい貰わなきゃ割りに合わないわ」
ただでさえ天狗側へのメリットの薄い提案。そうでもしないと帳尻が合わないと大天狗は感じていた。
「正論ですね」
「でしょ? なのにカナちゃんったらコッチを頭が固いだなんだって批判してくれちゃって・・・はぁ」
眉間に手を当てて溜息を吐く。
「古参ぶってる脳みそ腐りかけのジジィババァ共と違って、私的には新しい技術や考え方はそこまで否定的じゃないわ。むしろ暮らしが便利になるのなら大歓迎よ」
エネルギー革命なども含め、守矢神社が山にもたらした外の世界の技術や神々の力、その中のいくつかは歓迎すべき技術だと彼女は思っていた。
「ただねぇ・・・」
そこで言葉を切り椛を見る。大天狗の言いたいことを察して、椛は代弁する。
「『守矢は信用できない』でしょう?」
「その通りよモミちゃん。今は利害関係が一致してるだけ。利用価値が無いと分かれば切り捨・・・・・・あ」
「どうしました?」
「話すのに夢中になってたら、始末書を書き損じた」
「・・・・・」
























取材のネタ探しで飛び回っていたはたては、偶然出会った天魔に団子屋に誘われていた。
「最近はどうじゃ? もう大勢が集まる場所も一人で歩けるか?」
「はい、出せる声も段々と大きくは」
「そりゃ良かった」
引き篭りから復帰後、天魔は暇を見つけては、はたてにその後の様子を尋ねるようになっていた。
団子を並んで食べる光景は、遠巻きに見れば、年の離れた姉妹のようだった。

「新聞大会も遅れることなく参加できておるようじゃな」
「入稿時期はギリギリですけど」
「無理をしない範囲で良い。無茶をしてまた引篭もり生活に戻っては元も子も無いからの。キツいと思ったら休め、儂が許す」
「ありがとうございます・・・・・・でも頑張ってみたいと思います」

はたては俯き、手に持った湯のみに映る自分の顔を見る。

「文や椛に追いつくには、甘えてばっかりじゃだめだから・・・」
前回の鼻高天狗の集落の件で、文が男の天狗二人を一瞬でのしてしまった光景が彼女の脳裏を掠める。
「二人と一緒にいるのはすごく楽しいです。だから、あの二人の足を引張るようなことはしたくないんです。早く対等になりたいんです」
今までも心のどこかで感じていたが、あの一件でそれが明確になり、コンプレックスだと自覚するようになった。
「対等とな?」
「私、文や椛に比べてずっと弱い」
「あの二人は、場数を多く踏んでいるからの。それは致し方あるまいて」
「最近。そんな二人と私が並んで歩いても良いのかなって、思うようになったんです」
「左様か」
「・・・」
俯いて悩むその表情から、彼女が単に慰めの言葉を欲しているわけでないと伝わってくる。
「強くなりたいのじゃな?」
「はい」
「ならば弟子入りせい。実戦とは滅多に出会えぬこのご時世じゃ、師を持つのが一番手っ取り早い」
「でも私の師匠になってくれる天狗なんて」
「儂なんかどうじゃ?」

自身を指差す天魔。

「はい?」
「聞こえなかったか? 儂の弟子になれと言ったのじゃ・・・・それとも儂では不服か?」
「そ、そんな滅相も無いです!」

両手を団扇のようにバタつかせ狼狽する。

「引篭もり期間が長かったからの、すっトロい鴉天狗がいたとなっては他の種族に示しがつかん」
「本当に天魔様が直々に?」
「そうじゃ」
「弟子になったらマスターテンマとお呼びすれば?」
「呼び方は自由じゃが、それはなんか嫌じゃ」

新聞作りをしていない時は天魔の傍に居て、彼女の仕事の手伝いをしつつ、空き時間に稽古する。それが天魔が提示した内容だった。

「一年真面目にやれば犬走椛くらいなら超えられるぞ。保証する」
「いくらなんでもそれは」
にわかには信じられなかった。
「白狼天狗というのは五感、筋力、運動神経に優れた種族なのは知っておろう?」
「はい」
「接近戦において、白狼天狗は天狗の中でも飛び抜けとるよ。だがその反面、妖術の方はからっきしじゃ」
「どういうことですか?」
「鴉天狗も鼻高天狗も山伏天狗も、修行すれば誰でも高等な妖術が使えるようになる。しかし白狼天狗は違う、基礎的な術までは使えても、難易度の高いモノは使えない。そういう種族なんじゃ」

天狗という種族において、それは致命的な欠点だった。

「いくら腕っ節が強かろうが、妖術相手じゃどうしようもない。剣と鉄砲じゃ、殆どの場合に鉄砲が勝つ」

総合的な力で、白狼天狗は他の天狗よりも大きく劣っているのだと天魔は語る。

「難しい妖術が扱える天狗ほど徳が高いという風潮があった当時、それが白狼天狗差別を助長する切欠にもなったものじゃ」
「今も酷いけど、昔はもっと酷かったて聞きました」
「そう。まさに歯車、消耗品といった所じゃ。山の覇権を握りたいと画策する連中にとって、圧倒的弱者の白狼天狗は体の良い駒じゃった。どいつもこいつも鬼畜じゃったよ」

何かを思い出すかのように、どこか遠い目をした。

「おっと、脱線してしまったの。それで弟子入りの件、どうする?」
「えっと、その・・・あの・・・」

天魔が師を買って出るという全く予想していない事態に、はたての脳は混乱して思考を巡らせることが出来ず、ただ狼狽を繰り返す。

「まぁすぐに返事をせんでも良い、急な話じゃ。次に会う時にでも聞かせてくれれば構わん」
天魔は団子の勘定をはたての横に置き、立ち上がる。
「良い返事を期待しておるぞ」
小声でそう呟いて去っていった。







この日、椛は午前のみの勤務となっており、大天狗へ報告を終えた後は、そのまま直帰することになっていた。
(次の給料までどうやって繋ぐか。酒は我慢するとして、他をどう切り詰めるか)
そんなことを考えながら家までの道を歩いていた。
(まだ今月は宴会が2回、会費を払うとなると残りは・・・・いっそ欠席する? しかしそれだと周りの目が痛い)
頭の中のソロバンを弾くと、珠が途中で行き詰った。
酒蔵の調査で大天狗から賜った報酬は、早苗の登場という思わぬ出費により、殆ど手元に残らなかった。
(こうなったらにとりに頭を下げて、いや駄目だ。金の貸し借りは友情を壊す。なら家財を質入して・・・)
『ナカッタ』

「ッ!!」

考え事で上の空だった意識が一瞬で現実に引き戻された。
鳴き声がした方に振り向く。そこにはウシガエルほどの大きさの黒いカエルが一匹、鼻先をこちらに向けていた。
(何故だ?)
背に携帯していた剣と盾を一瞬で装着する。
(コイツ等はもう全て浄化されたはずだ)
厄の塊である黒カエルは一匹も残らずに完全消滅したと、厄神である鍵山雛はそう断言していた。
(一匹くらいなら残る場合もあるのか?)
思考する椛を余所に黒いカエルは背を向けて、林の中に跳ねて行った。
「待て!」
後を追う。しかしカエルの動きは異常に速く、すぐに追いつけるものではなかった。
(妙だ)
木々の隙間を縫い、倒木を飛び越え、枝葉を潜り懸命に駆けるが一向に距離は縮まらない。
追いつけないが、かといって見失う事も無い。
(誘い出されている?)
景色と同化してしまう黒い箇所をカエルは避けるように跳ねていた。
やはり自分をどこかへ誘導しようとしていると思いはじめたその時だった。

木陰から現れた白い蛇に、黒いカエルは呑み込まれた。

「心配しなくても、このカエルは諏訪子が祟り神の一部を加工して作ったモノよ。先日のカエルとは何の関係も無いわ。こうして呑み込んでしまえば無害よ」
それは軽やかな、しかしどこか雷鳴を思わせる威厳に満ちた声だった。
その声の持ち主、守矢神社の神、八坂神奈子が白い蛇に続いて現れた。
「お前さんが犬走椛ね。なるほど、早苗が言う通り、男よりも女にモテそうな顔をしてるわね」
値踏みでもするかのように、椛の足から頭までをゆっくりと見回した。
「・・・」
そんな神奈子の目に、椛は強い嫌悪感を抱いた。
「私に何かご用ですか?」
感情を表に出さぬよう努めながら尋ねる。
「まあ座りなさい」
地べたに腰掛けた神奈子は隣の地面を叩いた。
「いえ、そんな恐れ多い」
「そう。まあ気が向いたら座りなさい」
(何が目的だ?)
先日、鼻高天狗の集落で偶然出会った早苗から神奈子が自分に会いたがっていると聞いていたが、酔っ払いの戯言だと思い真に受けていなかった。まさか現実にこうして呼び出されるとは思わなかった。
「随分と警戒されたものね。まぁ、無理も無い。今、我々守矢と天狗社会は些か険悪なムードだからね。天狗の目には、私たち守矢神社は山の支配を目論む侵略者に見えてるんでしょう?」
違う?と視線を送った。椛が沈黙すると、それを神奈子は肯定と受け取った。
「それは誤解よ。私達は信仰を得る為に幻想郷へやって来た。信仰とは神を祈り頼り感謝する者達の心の声。天狗と喧嘩をしても、一粒も信仰なんて得られないわ」
「天狗と敵対する意思は微塵もないと?」
「そうよ。むしろ天狗社会と仲良くなりたいと考えているわ。同盟のような関係が結べれば、無益な衝突は避けられる。天狗の信者も増える。良いこと尽くめよ」
「どのように仲良くなるおつもりですか?」
「そう難しいことじゃないわ、天狗が喜ぶことをしてあげれば良い。困っている事、不足している物。そういった事柄をこちらで解決、提供してあげるのよ」
貢献し、恩を売ることで支持を得るつもりらしい。そこに椛は小さな疑問を抱く。
「それをどうやって調べるおつもりです? 組織は面子を気にします。心を許してない相手に悩み事など口が裂けても教えないでしょう」
「だから私は今、守矢と天狗の橋渡しとなる者を常々探しているのよ。組織の方針、上層部の物の考え方、文化を把握した、天狗の内情に詳しい者を」
何かを求めるような目で、ジっと椛を見る。
「よもや私に、それらの情報を貴女に耳打ちする内通者になれと?」
「察しが良いわね。その通りよ」
「理由はどうであれ。他勢力に情報を流せばそれは「裏切り行為」です。買って出る天狗がいると思いますか?」
「ええ、いるわ」
力強く頷いて見せた。
「あの事件で、お前さんなら引き受けてくれると思ってね」
「あの事件?」
「これよ」
そう言って神奈子は手の平を上に向ける、そこに黒いカエルが一匹乗っていた。だがそれもまたすぐ、傍らに居た白い蛇が呑み込んだ。
「黒いカエルの騒動は私らの不始末のせい。迷惑をかけたわね」
「みたいですね」
「えらく他人事ね。あの騒動の一番中心にいたというのに。鍵山雛から事情は全部聞いたわ。厄の元になった老天狗とは只ならぬ因縁があったようね」
(あの厄神、他人の過去をベラベラと・・・)
「そう怖い顔しないで。厄カエルを完全に駆除するためには、どうしても必要な情報だった。故に私が無理矢理に聞き出したのよ。彼女を責めるのは筋違いよ」

鍵山雛と洩矢諏訪子の神によって、厄カエルの真相はすでに明らかになっていた。

老天狗は椛に詫びたいとずっと想っていた。
しかし最後までその願いは叶わず、その無念さから、彼は死後、山に強い残留思念を残した。
その残留思念は、彼の死を嘆く者達の感情から発生した厄に溶け込んだ。
本来なら何事も起こらず、時間経過と共に厄も残留思念も自然消滅するはずだったが、ここに思わぬモノが混ざりこんだ。

洩矢諏訪子が現代から引き連れてきた大量の祟り神である。

故意か偶然か、彼らが厄に影響を与え、祟り神へと変異させてしまった。
「椛に謝りたい」という残留思念を持った厄は暴走し、祟り神化したことで、ただただ椛を求めるだけの存在へと成り下がってしまっていた。
祟り神となった彼の残留思念が椛に対して何をしようとしたのか、
ひょっとしたら「スマナカッタ」と謝罪した後に成仏したのかもしれないし、当初の目的を忘れて椛を取り込んで自分の体の一部にしようとしたのかもしれない、
どちらにせよ今となってはもう知る術は無い。

厄カエルの真相を知るものはほんの一握りしか存在せず、椛に対しても真相は伏せられていた。
老天狗を恨み続けた彼女に真相を教えた所で彼女が救われるわけでも、老天狗の罪が許されるわけでもない。だからあえて誰も真実を告げようとしなかったし、そもそも誰にもそれを告げる資格など無いとわかっていた。

「その一件で確信したわ。天狗社会に不満を持つ白狼天狗の誰かなら橋渡し役を買って出てくれると。ある見返りを用意すればね」
「ある見返り?」
「そう、二つあるわ」
神奈子は人差し指と中指の二本を立てる。
「私達守矢は白狼天狗差別の完全撤廃を天狗社会に働きかける事を約束するわ」
「もう一つは?」
「お前さんの復讐を出来る限り手伝う。あの老天狗以外にもいるのだろう憎い相手が?」
「ッ!?」
椛の肩がピクリと震えた。
「図星みたいね」
「神であらせられる神奈子様がそのような事を口にしてもよろしいのですか?」
「お前さんの復讐対象は主に、昔に好き勝手やって白狼天狗を苦しめていた天狗社会の上層部の連中でしょう? 年老いてなお幹部の席にしがみ付き、やる事は文句を言うだけの老害連中。天狗社会の膿よ」
大天狗の口にしていた『古参ぶってる脳みそ腐りかけのジジィババァ共』とは彼らのことである。
「天狗社会のためを思えば、そいつ等には退場してもらうのが一番よ」
神奈子は手を差し出す。
「犬走椛、私達に力を貸しなさい。そして天狗社会をより豊かに、白狼天狗に優しい社会へと変えていきましょう。大丈夫、行為自体は裏切りかもしれないけれど、決して悪ではないわ」
「謹んでお断りします」
「何?」
即答だった。迷う素振りも見せなかったのが神奈子にとって意外だったのか、少々面食らっている。
「これからも一族郎党、虐げられて生きていくつもり?」
「今はそれほど白狼天狗差別は酷くありませんので、まぁ、日常的に他の種族が贔屓されていますが、昔に比べれば何十倍もマシです。少なくとも殺されることは無いのですから」
「でも差別されているのは事実、それにまたいつ悪化するかわからない。あの閉鎖的な社会から差別自体がなくなる事などありえない。だからどうか私を信じて身を預けて欲しい」
「信じる、ですか?」
急激に冷めた目で、椛は神奈子を見る。
「でははっきりと申し上げます。私はあなたを信頼していません。故に協力できません」
「釈迦が垂らした一本の蜘蛛の糸に捕まり登るのは、確かに怖いかもしれない。だが悪いようにはしな・・・」
「あなたのような目をした連中を腐るほど見てきました。その目は自分の利益のためなら弱者を平気で利用できる者の目です。そういう環境で育ったのでわかるんです」
その言葉によって、この場を漂っていた温和な空気が一気に霧散し、張り詰めたモノへと変わった。
「貴女が、今まで私に話したことはきっと全部建前だ。耳ざわりの良い言葉の裏に何かを隠している。それを話してください」
「私がお前さんを利用するために嘘を言っていると? その確証は?」
「こればっかりは直感ですので。ただ貴女の体からは私が大嫌いな種類の臭いがするんです」
「その口、閉じなさい」
直後、殺気を感じた椛はその場から飛び退いた。たった今いた場所を御柱が押し潰していた。
「下手に出ていれば調子に乗って」
「では、交渉は決裂ですね」
「まだ話しは終わっていない!」
頭上から迫る御柱を間一髪でかわした椛は、すぐ横の茂みの中に逃げ込んだ。
その茂みにも御柱が降り注ぐ。
しかし、茂みの中からは何も出てはこなかった。
「神の手を噛むとは頭の悪い種族ね。だからずっと虐げられるのよ」
「だから言ったろう。ああいう手合いは言葉よりも力で従わせた方が手っ取り早いって」
離れて二人のやりとり見守っていた諏訪子が神奈子の背後に降り立つ。
「このままだと仲間の所に駆け込むよあいつ?」
「大丈夫よ。手は打ってある」

林の中を椛は駆けていた。
(これは天狗社会に対する明らかな敵対行為だ)
自身を間者に引き入れようとした事を報告すべく、大天狗のもとを目指す。

「ッ!?」

急ぐ途中。視界の先に違和感を感じて急停止した。
(これは・・・)
鞘に納まったままの剣を、障害物の無い前方に恐る恐るつきだす。
剣の先が、途中で何かにぶつかり弾かれた、そこよりも先に進めなくなっていた。
(やはり結界か)
透明な壁が椛の行く手を遮っていた。
神奈子がこうなることを見越して用意していたとわかる。
見えない壁に鞘を這わせながらしばらく移動するが切れ目は見つからず、どうやらこの区画一帯が結界で囲われているようだった。
(まずいな。早くここから出たいのに)
神奈子と対峙して勝てる見込みなど万に一つもありえない。追いつかれることが自身の敗北を意味していた。
椛は急ぎ辺りを見渡す。
(この手の結界は、札を剥がせば効果が消えるはず)
結界の張り方で主流なのは二つ。
一つは術者が霊力を消費して自身の周囲に結界を展開するタイプ。
もう一つが印の描かれた御札に霊力を篭め、それを貼り付けることで結界を展開させるタイプ。
椛はこの結界が広範囲であることから御札を使う後者のタイプだと当たりをつける。
「探さないと」
椛の瞳の虹彩が、何倍にも膨れ上がる。千里先を見る程度の能力を発動させた証だった。
木々が立ち並ぶ林の中を、椛の視線が駆ける。
「ぐっ・・・」
厄カエルの騒動で出血し、完治してまだ日の浅い目の奥がジクリと痛んだ。
痛みに連動して視界が一瞬だけボヤける。
それでも椛は探し続ける。
(あれは?)
探す途中、姫海棠はたての姿を見つけた。幸い結界の外側にいるようだが、目の前に出来た見えない壁の存在にいぶかしんでいる様子だった。
(ますますここから早く出ないと)
はたてを視界から外して、札探しを再開させる。
(居た)
札は見つからなかったが、代わりに神奈子を補足することができた。
隣に諏訪子が居ることに、最悪の状況であることを再認識する。
二人が歩いていく方向に視線を移す。
(見つけた)
ついに札の位置を特定した。
気を抜けば途切れてしまいそうな能力を、気力だけで継続させて掴んだ成果だった。
「よし後は・・・・ん?」
能力を解除し、通常時の視力に戻すと、自身の方に何か奇怪な影が這い寄って来ているのに気付く。

「あいつは・・・」

手と足が異様に長い物の怪だった。一歩で巨大な倒木を跨ぎ、一挙手で高い位置の枝を掴める程の。
それが一直線に椛へと向かってくる。
「止まれ! 洩矢諏訪子神の眷属とお見受けする。現在、火急の事態故、守矢と関わりのある者との接触は憚られる!」
不気味な動きとその風貌から、言葉が通じる相手とは到底思えないが、一応の忠告を飛ばした。
諏訪子の眷属は、規格外に長い足であっという間に椛との距離を詰め、異常なまでに長い手を椛に向け水平に振り払った。
「チッ」
椛は跳躍することでその手を回避。とばっちりを受けた木がその指先によって大きく削られていた。
「その行動から貴様を敵とみなす」
着地した椛は盾を前に突き出し、剣を肩に担いだ。



「あっ」
人差し指をこめかみに当てていた諏訪子が、その言葉と共に目を開ける。
「手長足長さんがヤられた」
自身の眷属の気配が絶たれたことに驚いていた。
「おっかしいなぁ。天狗一匹、軽く捻り潰せるくらいの実力はあったはずなんだけど」
「アレを他の天狗とは一緒にしてはいけない。世知辛い社会を生き抜いた猛者よ」
「参ったね。手長足長さんしか用意してなかったのに」
「別にいいわ。そのためにこの結界を張ったのだから。どの道、あの白狼天狗はここに来なければならない。この札を外さなければ。この結界からは出られないからね」

神奈子が見る先に一本の木があり、その木に一枚の札が貼り付けられていた。



諏訪子が手長足長の消失を感知してから約十分後、二柱の前に椛が現れる。
盾を背中に背負い、剣を杖代わりにした彼女は、手探りで林の中を進みここまでやって来た。
椛の両目は閉じられており、乾き固まった血がまるで涙の跡のように涙腺と頬に張り付いていた。胴衣も血で染まっている。
(コイツ、目が見えていないようだけど?)
(そういえば、奴は厄カエル騒動の折、目を酷使し過ぎて出血したらしいわ)
(その古傷が開いたってことか。手長足長さんに無傷で勝てるほど強くはなかったか)

目的の木にたどり着いた椛は、木をまさぐり、ようやく目当ての札に触れた。

(いいの? 結界解けちゃうよ?)
(瑣末なことさ。それよりもアレを捕らえるのを手伝って)
(了解)

椛の手によって結界を維持していた御札が破り捨てられる。
「盲目の身でよくここまでたどり着けたわね」
「っ!? ・・・・・・・庭みたいなものなので」
一瞬驚いたように顔を上げてから、神奈子の声がした方に剣を向けた。
諏訪子は気配を殺して、椛の背後に迫る。
「本当に守矢に協力する気は起きないかい?」
「生憎ですが」
断りの返事をした瞬間、両手に鉄の輪を握った諏訪子が椛に襲い掛かった。後頭部を一打ちして終わらせる気でいた。
「そこ!」
椛は背後に向けて剣を振った。
(気づかれたっ!?)
鉄の輪で斬撃を受け止めて防いだ後、後方に跳んで椛と距離を取る。
(くそ、足音かッ・・・)
踏み込んだ際に足音を立ててしまった不覚を恥じた。
(ならっ)
鉄の輪を激しくぶつけて打ち鳴らした。キィンという甲高い音が辺りに一体に響き渡る。
「ぐっ」
椛が奥歯を強く噛み締めるが見えて、諏訪子はほくそ笑む。
(この音、ワンちゃんが一番嫌いな音だからね)
聴覚麻痺を狙っての行動だった。
(さぁお返しだ!)
音を完全に殺して鉄の輪を二つ放った。
(これは防げない)
命中し気絶する椛を想像する諏訪子。しかし、剣戟の音がその妄想を砕いた。
投げつけた鉄の輪は全て、椛の一太刀により払い落とされていた。
(なんで?)
必中かと思われた攻撃が外れ、呆ける諏訪子に椛が迫る。
相手は全盲で難聴の“はず”だった。そう思い込まされていた。
椛と目が合った。無傷な、綺麗な眼だった。開かれた椛の双眸に驚愕の表情を浮かべる諏訪子の姿が映っている。怪我などどこにも見当たらない。
混乱する諏訪子目掛け、椛は至近距離から槍投げの姿勢で剣を投擲する。
「危なっ!」
体を捻り体勢を無理矢理崩し、諏訪子は目の前で投げつけられた剣をかわす。
剣の回避に全神経を繋ぎ、無防備になった諏訪子の体に向け、今度は盾の端を掴んで振りかざす。
「うっそ!?」
これも投げてくるとわかった。しかしすぐに体勢が立て直せない。あの肉厚の鉄塊が自身を砕く痛みが勝手にイメージされる。

「投げ銭にしては大き過ぎないかしら?」
「ッ!?」

しかし盾が投げられることは無かった。椛の手首を神奈子が掴んでいた。
「盲目の演技とは名女優ね。どこも怪我してないところを見ると、手長足長の血を顔に塗って怪我を偽装したようね」
そのまま腕を捻り上げる。
「っぁ!」
椛は地面に組み伏せられた。
「私にこんな鉄の塊ぶつけようとしてたのかいアンタ? ひーくわばらくわばら」
安堵しつつ椛から盾を取り上げる。
「おや?」
盾をまじまじと眺めていた諏訪子は小首を傾げた。
「どうしたの?」
「こいつは本当に抜け目が無い」
盾の表面、円の端に赤い字で『守矢 裏切り 注意』と書かれている箇所を指差した。
「仲間が自分の盾を拾った場合のことを考えていたんだろうね」
その赤い字も手長足長の血で書かれていたようだった。
「裏にはある?」
「無いね、手長足長さんの返り血を派手に浴びたみたい。これじゃ書くに書けないね」
赤い斑模様が盾の裏面を占領していた。血の線と点だけで、文字を書く余裕など無いと一目でわかる。
諏訪子は盾を地面に置き、靴底で仲間に宛てたメッセージを消した。その際、椛に見せ付けるように、執拗に盾を踏みつけた。
その間に神奈子は念のためにと、先ほど投擲した剣もメッセージが無いかを確認していた。剣の方にメッセージはなかった。

「さて。時計の針を少し戻そうか」
諏訪子はしゃがみこみ、椛の顔を覗き込む。
「何度訊かれても答えは変わりません」
「あんまり強情だとコッチもそれなりの対応を・・・」
「待ちなさい諏訪子」
「 ? 」
「一旦場所を変えよう」

神奈子が見る先、はたてが周囲を見回しながら歩いていた。

「ついさっきまで結界の境界近くにいたのだろうね。見つかると厄介だ」
「いっそアレもさらっちゃう?」
「ッ!?」
その発言が出てすぐ、椛は体を大きく揺すって神奈子の拘束を緩めて、大きく息を吸い込んだ。
「はたてさん!! 逃げ・・・」
叫ぶ途中の椛の顎を諏訪子の手が穿ち、彼女の意識を刈り取った。
「でかした諏訪子。行くよ」
椛を担ぎ、神社のある方向へ足を向ける。
「剣と盾は?」
捨て置かれたままの武具の扱いについて神奈子に対応を仰ぐ。
「字は消した。私達とそれを結びつける接点は無い。むしろ持っているのを見られる方が面倒よ」
「わかった。急ごう」







「おかしいな? なんか今呼ばれたような気が?」
そう感じ取った場所までやってくる。
「あれ? これって椛の・・・」
見覚えのある盾を拾い、眺める。
「えっと、この模様って確か・・・」
裏面を見て、はたては眉根を寄せた。








「おや。お目覚めかい?」
意識が覚醒してすぐ椛は周囲を見渡し、部屋の内装からここが守矢神社だとわかる。
(西側の部屋か?)
差し込む日の光からそう判断した。
「神をペテンに掛けるなんて大したタマね」
後ろ手で縛られて芋虫のように転がされる椛に神奈子は賞賛を送る。
「私達が、あんたが弱っているのを好機と見て一気に畳み掛けてきたらどうするつもりだったの?」
諏訪子が椛の額を指で突きながら尋ねた。
「この幻想郷において、格下相手に優位に立って慢心しない奴を私は知りませんね。大人が子供と相撲を取るときに、本気を出さないように」
圧倒的弱者に対して本気を出すことを恥ずかしいと感じる心理。そこに付け込んだ。
ほとんど格上の相手しかいない妖怪の山。多くの場数を踏む内に、強者が持つ傾向を椛は自然と理解するようになっていた。
「格上との戦いには慣れてますから。だから確信がありましたよ。貴女方は私が手負いなら油断して隙を見せてくれると。手加減してくれると信じてましたよ」
「弱者の兵法ってやつ? 気の毒すぎて涙が出るよ」
取るに足らないと思っていた白狼天狗に遅れを取ったのが気に食わないのか、諏訪子はやけに挑発的なもの言いだった。
「その気の毒な私に、あんな素敵な驚き顔を見せてくださった諏訪子様には、いくら感謝しても足りません」
「このっ!!」
「よしなさい。高が知られるわよ」
図星を突かれ激昂する諏訪子の肩に手を置いて宥めた。

「交渉の再開だ。里へ布教活動に行ってる早苗が帰ってくる前に終わらせたい」
「話すことなんてありませんよ」
ふいと顔を背ける。
「まぁそう言わないで。ここからは腹を割って話そうじゃない」
椛の前にどっしりと腰を下ろして胡坐をかく。
「天狗社会と共存したいとうのは本当。信仰してくれる相手が居てこそ私達は存在できる。その者達が豊かになればなるほど私の力も強まる。つまり天狗社会の繁栄は守矢神社の繁栄にも繋がる。理屈はわかるわね?」
「ええ、まあ」
「しかし、我侭を言えば。共存というより支配という形を取りたい。天狗を征服し意のままに出来たほうが信仰はより集まる。そのためには天狗社会よりもこちらが強くなる必要がある、
 しかしそれには限界がある。だから天狗社会を弱体化させようと考えた。それで白狼・・・」
「白狼天狗である私を利用して内部分裂を目論むというわけですか?」
神奈子の言葉を、椛は先回りした。
「おや? 気づいてたの?」
「あの口ぶりから、大体のことは推測できますので」
「その通り。スパイになったお前さんから情報を提供してもらいつつ、頃合を見計らって、天狗の中に守矢に組している者がいると『ワザと』奴等に気づかせる。
 懐疑を抱えた組織は脆い何度か突いてやればあっという間に内部分裂だろう。そこに私達が介入し、妖怪の山のトップとして君臨する」
「そう上手くいきますかね?」
「いくさ。かつてそうやって崩された国を私はいくつも見てきた。そして私は軍神。勝つための布石は既に山の中にも外にも用意してある」
自信満々に語る彼女の口調からそれが夢物語でないということが伝わってくる。
「それで守矢神社は晴れて妖怪の山の頂点に君臨するわけですね」
「心配しないで、何度も言うように、私達が欲しいのは信仰。支配したからといって、搾取するわけじゃない、むしろ今よりも豊かになってくれなけば本末転倒だわ」
「一つ。訊いてもよろしいですか?」
「なに?」
「天狗社会を手中に治めた守矢は、白狼天狗差別の問題にも取り組むのですか?」
神奈子の言うことが何処まで本気で、どこまでが建前なのかを見極める必要があった。
「差別を完全に無くすことが不可能なのを、歴史が証明しているわ。労力の無駄よ」
「でしょうね。薄々、そんな気がしていました」
「でも今、内通者になると誓えば、差別の撤廃は無理にせよ、白狼天狗を保護する対策をちゃんと立て、復讐も手伝うと約束するわ」
「お断りします。他を当たってください」
「そう残念ね。諏訪子、プランBよ。準備して」
振り返り、諏訪子に控えていた諏訪子を見て言い放った。
「やっぱりそうなるんだね」
「次は拷問ですか?」
「いいえ、殺すのよ。お前さんを」
「口封じってヤツですか?」
こんな状況でも動揺しない事に神奈子は密かに感心していた。
「それもあるけれど、目的は他にある。お前さんの死体を、諏訪子の力で祟り神に加工するのよ」
椛の髪を掴むと首が伸びきる高さまで引っ張った。
「お前さんの腹の中にはたっぷりと怨念が詰まっていそう、さぞ優秀な祟り神になるでしょうね」
「それで私も守矢の飼い犬というわけですね」
「違うわ、お前さんは祟り神にさせた後、すぐ山に放って暴れさせる」
「そんな事をしても、大した被害は出ませんよ」
「いいから最後まで聞いて頂戴。重要なのはその後」
「ぐっ」
髪から手を離し、椛に床を舐めさせた。
「お前さんを早苗に退治させる。そして退治された直後にお前さんを元の姿に戻す。そこで私が高らかに叫ぶのさ、犬走椛の過去をね。この山の理不尽な差別制度が、犬走椛を醜い化物に変えてしまった、と。
 第二の犬走椛のような存在を生み出さないためにも、今、天狗社会は変わる必要がある、と」
「その計画、私はあんまり乗り気しないけどね。倒した化物の正体が、気に入っている天狗だと知れば早苗は悲しむだろうから」
「そこがまた良いのさ諏訪子。早苗の偽りなき涙が更なる信仰を呼ぶ。少なくともそれで、造反しこっちに付く白狼天狗が大勢手に入るだろうね」
そしてその白狼天狗たちに、椛にしたような提案を行おうと考えていた。
「これでも気は変らない?」
「これっぽちも」
「私達につくくらいなら、死んだ方がマシとでも言いたいワケ?」
「少し違いますが、そういうことにしておいてもらえますか?」
「つくづく惜しいわ。神を相手にしてなお揺るがぬ勇敢な天狗を失うことが」
出会う時代が違ったならば、どんな手を使ってでも軍門に引き入れていたと神奈子は思う。
「私が勇敢な天狗だったら、とっくの昔に殉職してますよ」
「その言葉を時世の句にさせてあげる」

神奈子は道具箱を開け、一本の太い針を取り出した。

「早苗が使っているのと同じ退魔針さ」
部屋をあまり汚さないから、という理由でそれを選んだ。
「なるべく痛くしないように送っ・・・」

「ごめんくださーーーーい!! ごめんくださーーーーい!!」

神社の正面の戸を強い勢いで叩く音と、本坪鈴をガラガラと鳴らす音が聞こえてきた。
「どこの無礼者? 神聖な神社をなんだと思ってるのかしら?」
「ちょっと見てみるよ」
「いや、私が行こう」
針を置き、部屋を出ようとする前に神奈子は一度振り返った。
「戻って来たらもう一回尋ねる。死にたくなきゃ『はい』と言いなさい」
そう言ってから襖を閉じた。
「どうやら神奈子。本当にアンタの事を気に入ったようだね」
諏訪子が、薄笑いを浮かべながら椛へと歩み寄ってくる。
「どれ、私が『はい』って返事できるように手助けしてあげるよ」
諏訪子の手には道具箱から取り出された彫刻刀が握られていた。刃先が水平になっている種類のもので、柄には『東風谷』と書かれたシールが貼ってあった。


神社の正面。
「ごめんくださーーーーい!! ごめんくだ・・・」
「静かにして頂戴、怒るわよ」
「あ、ご、ごめんくだ・・・じゃなくてごめんなさい」
はたては直角に体を曲げて頭を下げた。
(コイツはさっきの?)
椛を連れ去った現場の近くにいた天狗だったのを覚えている。
「それで何の用かしら」
「あ、はい。実はさっき、ここから少し離れた林の中で白狼天狗の盾と剣が落ちていたから気になって。この近くで白狼天狗を見かけませんでしたか?」
「さぁねぇ、見なかったけど?」
「そうですか、失礼しました」
「力になれずに悪いね」
はたてがシュンとした表情で神奈子に背を向けた時だった。

神社の中からドンという衝撃音がした。

音は一度ではなく、二度三度と何度も何度も鳴った。音がする方向はさっきまで神奈子がいた西側の部屋だった。
(諏訪子の奴、何をしている?)
疑問に思っている内に、その音はピタリと止んだ。
「なんですか今の音?」
不思議そうな表情で尋ねるはたて。
「実は屋根の雨漏りが酷くてね。大工を呼んだのさ」
「そうだったんですか」
咄嗟に上手い言い訳を思いつきやりすごす。
「なんだかリズミカルな音でしたね。『ドンドンドン、ドーンドンドン、ドンドドドン』って何度も」
「ああそうだね。ちょっとノリの良い大工のようだ」

一礼して、はたては去っていった。








「なんの音だったの今の?」
はたてを追い返したて戻ってきた神奈子の目に、音の正体が飛び込んできた。
「ああ、ちょっと“説得”をしていたのさ」
「諏訪子の中じゃ“爪剥ぎ”を“説得”というのね。知らなかったわ」
布を咥えさせられた椛の額には脂汗が滲んでいた。彼女の人差し指と中指の先から血が滴っている。
さっきの音は、痛みで暴れた彼女が頭を床に打ち付けた音だった。
「スパイになると誓うなら首を縦に振れって言ってるんだけど、一向に振りやしない」
中指と人差し指が終わり、次は薬指の爪と皮膚の間に、何の躊躇もなく彫刻刀の刃先が侵入させる。爪の表面の色が一瞬で変わった。
「ッ! ッ!!」
痛みで暴れる椛は、再び自分の頭を床に叩きつけだした。
「お前はただ甚振りたいだけでしょう? さっきの仕返しのつもり?」
「いいや。私もね。コイツを祟り神にするのはちょっと嫌なのさ」
「早苗のためかい?」
「その通り。コイツの生死なんて知ったこっちゃないけど、早苗が悲しむのは見たくはない」
神奈子の計画によって早苗が悲しい思いをすることを諏訪子は承服しかねていた。

「この前の厄騒動の件で、早苗一人で謝罪に向かわせた時だってそうだ」

先日起きた厄騒動は、守矢神社が従えている祟り神をしっかり管理していなかったから起きたと言っても過言ではない。
普通に謝罪すれば天狗に足元を見られる。だから神奈子は絡め手を使った。
早苗一人に責を負わせる形で天魔に謝罪させるという方法だった。
まだまだ幼い少女を裁くわけにもいかず、騒動の被害もそれほど大きくなかった事から、今回に限り特別に不問とされ、天狗に弱みを握らせなかった。

「お咎めは無いとわかっていても、万が一という可能性もあった。何より、早苗がすごく傷ついた」
「そうだね。しばらく口を利いて貰えなかった」

帰ってきた早苗にそういう打算があったことを知らせると、早苗は一週間ほど二柱と言葉を交わさなかった。
早苗が心から恐怖し怯えていることが天魔に伝わらなければ、不問という最高の判決を引き寄せることが出来なかったとはいえ、道具同然に利用された彼女の心境は想像に難くない。

「わかった、じゃあこうしよう」
「なにを?」
「まだ8枚爪が残っている。それが0になっても頷かなければ祟り神にしよう」
「わかった。でもこれで残り7枚か」
「―ッ!!」
縛られた椛の体が、その痛みで一回だけ跳ねた。
諏訪子は彫刻刀を爪の隙間から引き抜くと、皮と繋がって宙ぶら状態になった薬指の爪を摘んで千切った。
そしてまた椛の体は跳ねた。








守矢神社の敷地から出たはたては、神社からは見えない位置に座り込み、メモ帳とペンを取り出した。
「ドンドンドン、ドーンドンドン、ドンドドドン。ドンドンドン、ドーンドンドン、ドンドドドン。ドンドンドン、ドーンドンドン、ドンドドドン・・・」
あの時に聞こえた音を口ずさみながら、メモ帳を点と線で塗り潰していく。
書き終わると、偶々近くにいたカラスを見る。
「ねぇ、あなた。ちょっと頼まれて」
カラスは一鳴きして彼女の真剣な眼差しに応えた。















「強情だねアンタも」
諏訪子の手首が上を向くと、椛の左手の薬指の爪が立ち上がった。
「ーッ!」
鼻息は荒く、両目は血走り、口に咥えている布には血が滲んでいる。
歯は強く噛み締めすぎたせいで、何本かグラついていた。
痛みでのたうち回る体力は既に尽きていた。

残った爪は、左手の小指の一枚だけである。

「意地でも縦に振らない気かい?」
諏訪子は今だけ轡を外してやる。
「死ぬのが怖いくないの?」
ぐったりとした椛にそう問うた。
「そりゃ怖いですよ」
涙腺に涙を限界まで溜め、痙攣する喉から声を絞り出して答えた。
「じゃあ裏切り者になればいいじゃん。山を恨んでいるなら尚の事。それとも自己犠牲に浸かってヒーローでも気取りたいわけ?」
「そんなんじゃありません。ただの自分で決めた約束事です」
「 ? 」
「私が守矢に組すれば、大なり小なり諍いが起きて、絶対に私とは無関係な誰かが死ぬ」
「まぁそうなるね」
内部分裂が発生する以上、仲間同士での殺し合いは避けて通れない。
「私は無力です。今まで何一つ救えた試しなんてありません。そして誰かを庇って死ぬなんて高尚なこともできません。だからせめて自分の死を他人に押し付けてまで生き延びる卑怯者にだけは絶対になりたくないんです」
「祟り神になった自分が仲間を殺す可能性は考えないのかい?」
「あんな小汚い連中に負けるほど、天狗は軟じゃありません」
「そうかい、残念だよ。早苗を悲しませるお前を、私は絶対に許さない」

最後の爪の隙間に彫刻刀を刺し込んだ時だった。

「ちょっとなんですかあなた達!? 痛っ! やめてください! 返してください!」

外から聞こえてきたその声に、諏訪子の動きが止まる。
「早苗の声だ、あの子に何かあっ・・・ちょっと諏訪子」
彫刻刀を放り投げ、諏訪子は襖の前に立つ神奈子を突き飛ばして早苗の声がする外へと飛び出した。

「どうしたの早苗!?」
「あ、諏訪子様! この子達が私の髪飾りを!」
石段を上り終え鳥居の下まで帰ってきた早苗の足元には数匹のカラスが集まり、彼女から奪った蛇とカエルの髪飾りを突いて遊んでいた。
「去ね! 馬鹿カラス共!!」
その怒号に、カラス達は一斉に飛び上がり、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「大丈夫だったかい早苗?」
「え、ええ。でも何だったんでしょうか? どこかでカラスさんに嫌われるような事をした覚えはありませんし」
(まさか)
諏訪子は振り返り神奈子達がいる部屋を見た。











諏訪子が去ってすぐ、神奈子と椛がいる部屋の壁が爆音と共に崩れた。
上がった煙に紛れ、神奈子の横をすり抜けて、縛られた椛に駆け寄る影が一つ。
「ウチにこんな大穴開けて、どうしてくれるんだい?」
「雨漏り修理に大工さんが来てるのなら、ついでに塞いでもらえば良いと思いますけど?」
満身創痍の椛の体を抱えながら、はたては静かに神奈子を睨みつけていた。
「なんで来たんですか? 『逃げろ』って何度も言いましたよね?」
「そうだっけ? 私には『助けて』って聞こえたよ?」
「勉強不足ですね」
「ごめん。帰ったらちゃんと復習する」

耳元で会話する二人に神奈子が一歩近づく。

「お嬢ちゃん。悪いことは言わない。それを置いて今すぐここから去れ。そうしたら見逃してやる」
命が惜しくば、その天狗を渡せと脅しを掛ける。
「嫌」
神奈子から隠すように、椛の体を自分の方に引き込んだ。



(この場面、どこかで・・・)
今置かれている状況に、椛は見覚えがあった。
(どこだっけ?)
ずっと昔、任務で同じような状況に出くわしたことがあった気がするが、よく思い出せない。
(確かそうだ、負傷した誰かと、無傷な誰かと、その二人よりも立場が上の誰か)
思い出さなければいけないと感じた直後、強い睡魔に襲われた椛は、そこで意識を手放した。





神奈子を目の前にしたはたては、今の自分の中で起きている事に戸惑っていた。
(なんだろう。この感じ)
この部屋に飛び込んだその時から、はたては不思議な感覚にとらわれていた。
寝起き直後にも似た、まるで今、目の前の出来事が遠いどこか別の場所で起きているかのような酷く曖昧な感覚。
しいて挙げるなら、携帯型カメラに写っている映像を眺めている時のような気分だった。
神奈子を前にして、恐怖も不安も緊張も焦燥感も湧いてこない。脈拍も平常値。異常を異常として感知できていなかった。
(なんでこんなにも落ち着いていられるんだろう私)
だから目の前にいる神奈子以外にも意識を注げた。
目だけを動かして部屋を見る。壁、床、天井、神奈子、神奈子の背後にある自分が空けた穴。そして最後に椛を見た。
(椛ってこんなにも小さかったんだ)
椛のいつも凜とした姿に憧れていた。だが、いざこうして抱えてみると自分と同じ女の子なのだと今更になって知る。
(何の実感も湧いてこない・・・・・・でも)
椛の手を見る、左手の小指の爪だけが、かろうじて皮膚の端とくっ付いている。
(自分が怒っているのは、はっきりわかる)
頭の奥がじんわりと熱を持ち、目の前の相手を許すなと語りかけていた。
「ごめん椛、ちょっと無理するね」
椛を抱く手に力が篭った。



(なんだコイツは?)
神奈子は乱入者に対して愁眉を歪めていた。
(今の自分が置かれている状況を理解しているのか?)
この状況下で、はたてから何の緊迫感も伝わって来ないことに疑問を持っていた。
(変なクスリでもキメているのか?)
先ほどまで対峙していた椛に比べて殺気はおろか、生気すら感じられない。
神奈子とて戦場に身を何度も置いてきた。故に、相手が戦いの素人かどうかなど一目でわかる。はたては明らかに素人だ。
そんな素人がこうも落ち着いてられるものなのかと困惑させられていた。

そんな疑問を抱いている最中、はたては顔がゆっくりと下を向き、神奈子の足元を見た。
「 ? 」
つられて神奈子も視線を向ける。そこには自分のつま先以外何も見えなかった。
神奈子がはたてから一瞬目を離した隙に事は終わっていた。

『ガン』という音が1回してから、神奈子は背中に強い衝撃を受けた。

「ッ!?」
振り返るとはたてが椛を担ぎ、自分で空けた穴から外に飛び出していた。
神奈子は気付かなかったが、この時はたては、神奈子が自分達から目を切った瞬間、跳躍し天井を蹴り、神奈子の背中に“着地”してその勢いのまま外へ脱出した。
「このカラス風情がぁ!!」
その背中目掛けて御柱を射出する。狙いは完璧だった。
背後から迫る凶器にはたても気付いたのか、咄嗟に身を捻る。
「もう遅い!」
一人だったならなんとか避けられたかもしれないが、椛を抱えた状態でそれは不可能だった。
あくまで避けることに関しては。

「邪魔しないで!!」

はたての踵が御柱を蹴飛ばす。先端が欠けて、軌道の反れた御柱はそこにあった立木をへし折りながらあらぬ方向へ飛んでいった。
「あれを防ぐか!?」
二人を追うべく、壁の穴から身を乗り出した時、神奈子の体は部屋の中に蹴り戻された。
「残念ですが八坂神奈子。あなたの追跡はここで終わりです」
「今度は誰だ?」
「清く正しい新聞記者ですよ。名乗るほどの者じゃありません」
上げていた足を置き、射命丸文はそう宣言した。
(それにしても・・・・)
文は振り返り、はたてが逃げていった方を見る。
(あなたは一体何者なんですか?)
はたての見せた、あの神業のような身のこなしに驚嘆していた。
(いくら激情に駆られたといって、土壇場であんな動き、ベテランの鴉天狗だって出来るかどうかわかりませんよ)
事前の打ち合わせでは、二人ががりで神奈子を襲撃し、ひるんだその隙に椛を抱えて逃げるという算段だった。
しかし、壁の隙間から負傷した椛を見た時、はたては一人で中に飛び込んでいた。
(最も、怒っているのは私も同じですが)
こちらを睨みつける神奈子と相対する。
「ひとつ聞いてもいいかしら?」
「ええ、どうぞ。私のわかる範囲でなら」
「どうしてココに椛がいるとわかったの?」
守矢に繋がる痕跡は残さないように注意を払ったはずだった。
「拾った盾に書いてあったじゃないですか? 馬鹿なんですか?」
「表側に血で書かれた『守矢』という字は消したが?」
「盾の裏側は見なかったのですか?」
「裏? そこには何も・・・・・・っ!」
ハッとする神奈子。
「気付きました?」
「あの血の模様、暗号か?」
「外の世界によく似たのでモールス信号ってのがあるみたいですね。天狗が使ってるのとはちょっと方式が違いますが」
「ではさっきの天狗が私と外で会話していた時、不自然に暴れていたのもそのためか」
爪を剥がされた時に、頭を床に打ち付けていた時の音。
椛からの暗号文を受け取ったはたては、カラスを使い文を呼んで来てから椛の奪還にやってきた。
「なるほど、そんな小細工で周囲に助けを求めていたわけだ」
「いいえ、椛さんは助けなど一度も求めていませんよ」
「何?」
「盾には『もりや きけん ちかづくな』、神社に来たはたてに対しては『にげろ』とあったそうです」
「そうか。ますます殺すのが惜しくなった」
「残念。殺させませんよ」
明確な敵意を持って神奈子と対峙する。
「ずいぶんとあの白狼天狗に入れ込んでいるようだな。下っ端の為に私と敵対するなんて、相当な覚悟が無ければ出来ないでしょうに」
「あなたには関係の無いことです」
「だがもう遅いわ。私を抑えたからといって、あれの死は揺るがない」
「洩矢諏訪子だって、はたてには追いつけませんよ」
「いいや。諏訪子が追いつこうが追いつけなかろうが椛は死ぬ。そうなるようにしておいた」
神奈子の袖から一匹の白い蛇が這い出てきて、腕に巻きついた。
「この毒は中々強力でね。噛まれたら半刻と持たない」
「まさか」
「そう、事前に噛ませておいた。そろそろ効果が現れる頃」
「何処までも汚いッ!!」
「まあ落ち着きなさい。毒が回りきるにはまだ十分に時間がある」

神奈子は懐から注射器と小さなガラス瓶を床に置いた。

「解毒剤だ。ちょっと話をしよう。そうすればこれを無償で譲るわ」
「話なんてありませんよ。それをさっさと寄越しなさい」
「まぁ、聞いて。貴女にとって有益な話になるはずよ。犬走椛にとっても」
「・・・・いいでしょう、話してください」
「今、天狗社会がより幸せになれる道を模索中でね。それの協力者を探している所よ」






「あれ?」
はたては振り返る。
「追って来てない?」
神奈子の御柱を撃墜してすぐ、別の存在が自分達を追いかけてきたが、先ほどからその気配が消えていた。
「諦めてくれたのかな? ・・・・・椛?」
はたての腕の中で、青白い顔で浅い呼吸を繰り返してた。






椛を担ぐはたてを追跡していた諏訪子は思わぬ相手と遭遇して足を止めていた。
「おお、これはこれは。洩矢諏訪子殿。そんなに急いでどちらに向かわれるのかな?」
背丈は自分と同じくらいか、それよりも低い童女が諏訪子の前に立ち塞がっていた。
「そっちこそこんな辺鄙な場所に来るだなんて、どうしたのさ天魔様」
「これは異な事を。この山自体が儂にとっては庭も同然、辺鄙な所などありはせんのじゃよ。例えそれが獣道でもな」

童女と呼んで差し支えの無い容姿の者が二人、静かな殺気を漂わせながら向き合う。

「やってくれたのう守矢の神よ。流石は軍神、戦をご所望か? 望みとあらば今より全ての天狗を神社へ差し向けるが?」
「わかった、手を引く。あの天狗は追わない」
両手を軽く挙げて降参の意思を表した。
「それで、この落とし前を守矢神社はどうつけてくれる? 侵略行為じゃ。巫女の童も含めてソレ相応の懲罰は覚悟してもらうぞ」
「これをアンタらに譲る。どうかそれで今回の件は不問にして欲しい」

諏訪子が取り出したのは液体の入った小さな瓶と注射器だった。

「あの白狼天狗は神奈子の毒蛇に噛まれている。これはその毒を消す血清だ。早くしないと命に関わるよ」
「たったそれだけで許せと? 少々厚かまし過ぎやせんか? 歩と飛車を交換してやるほど耄碌しとらんよ」
「でもあの白狼天狗は死なずに済む」
「つまりあの白狼天狗が死ねば、お主らを堂々と罪に問えるわけか。こりゃ良い」
「仲間を見捨てるの?」
「大のために小は捨てる。犬走椛には気の毒じゃが、椛が犠牲になることで守矢神社を堂々と叩き潰せる」
守矢神社を野放しにしておけば被害が広がると判断した。だからそう決断を下した。
「あの白狼天狗が死んで、天魔様は何とも思わなくても、あの天狗の子は平気なのかな?」
「何が言いたい?」
「彼女は悲しむだろうね。あれだけの危険を冒して助けるほど親しい相手に死なれたら、その精神的ショックは大きいだろうね」
「何故ここであの鴉天狗を話題にする?」
「だって血縁者でしょ? 天魔様の? 血は薄いみたいだけど」
「何のことじゃ?」
「惚けても無駄だよ。わかるんだよ、私も同じようなもんだから」

薄気味悪い笑みを浮かべながら諏訪子は天魔に近づき、その手に血清と注射器を握らせた。
事情を知らぬ者が傍から見れば児童が玩具を貸し借りしているようにしか見えない光景だった。

「神奈子には私の方から言っておくし、ココはひとつ貸しって事で。今回はこれで多めに見てよ。ね? 埋め合わせは必ずするから」
諏訪子は満面の笑み、天魔の表情には先ほどまであった余裕が消えていた。両者の表情はいつの間にか逆転していた。

「高いぞこの利子は」
「返せる時が来ることを楽しみに待ってるよ」
諏訪子は背を向けて神社の方へと歩いていった。よほど上機嫌なのか、鼻歌が天魔の耳にも届いた。
「身内が絡むと非情な決断ができないのは、どこも一緒だね」
その言葉だけは、天魔には聞こえないようにポツリと言った。








「椛? 椛しっかり!」
顔面蒼白で、早く浅い呼吸を繰り返す椛にはたては必死に呼びかけていた。
「ねぇ! ねぇってば!」
「どうした? そんな大声を出して?」
「天魔様?」
偶然を装う風で、天魔ははたての前に現れた。
「椛が!!」
「ちょっと見せてみよ・・・・・この症状は蛇の毒じゃな」
「わかるんですか?」
「この山に関することで、儂の知らぬことなど無いわい」
袖から先ほど諏訪子から受け取った血清と注射器を出す。
「いつもそういうのを持ち歩いてるんですか?」
「たまたまじゃよ。この辺は毒蛇が多いのでな。覚えておったら持ち歩くようにしておる」
血清を注射器に移し変え、椛の腕に針を宛がった状態で、天魔は手を止めた。
「あ、あの、天魔様。早くしないと椛が」
「のう、はたて」
「は、はい!」
「今日、お前に話した件、覚えておるか?」
天魔の弟子になれという話しのことだとすぐにわかった。
「お前にはまだまだ伸びシロがある。文にも決して劣らぬ才を持っておる」
「私が文に?」
「我流での鍛錬が悪いとはいわんが、一人ではいつか必ず伸び悩む日が来る。諍いに巻き込まれたその時、自分は未熟だからという言い訳は許されん」
「・・・・・」
今回は神奈子の油断を突く形で上手くいった。また次に神奈子と対峙することがあれば、彼女は手加減してくれないだろとはたては思う。
「友を失ってから力を得ても、友はもう帰ってこん」
「天魔様、私」
椛を見る。今日の騒動で、椛は決して強くは無いことを知った。
哨戒の任務、差別問題。彼女は自分自身のことでもう手一杯なのだ。
脱引篭もりの切欠をくれた事も含めて、はたては椛にたくさんの恩がある。そんな自分がこれ以上彼女の負担になるわけにはいかなかった。
むしろ自分が守らねばならぬとさえ感じた。
「私を弟子にしてください」
「その言葉を待っておった」
天魔は注射器の底を押し込み、血管に血清を注いだ。










【 epilogue ~ 日光楓 ~ 】



文はにとりの工房を訪れていた。
工房の扉をノックしドアを開けた。
「お、いらっしゃい」
「こんにちはにとりさん」
紙が敷き詰められている部屋。その真ん中に寝そべって黙々と何かを書き足していた。
踏まないように気をつけながら、文はにとりの作業を覗き込む。
「これはなんです?」
「設計図だよ。山伏天狗が使ってる印刷機の」
「この丸で囲っている箇所は?」
「改良の余地が有る部分さ。そこをイジることで効率が上がったり、燃費が良くなったり、画質が向上したり、小型化できたり」
それぞれの箇所を指しながら説明する。
「性能がグングン上がっていけば、きっと印刷機に新しい可能性が見えてくると思うんだ。コピー機と差別化できる何かが」
部屋の隅。布を被った作りかけのコピー機を見る。コピー機が世に認められるためには、山伏天狗が使う印刷機と仕事を奪い合う事がないようにする必要があった。
「生き物だけじゃなくて、機械同士もさ、住み分けとか共存が出来たら、それは素晴らしい事だと思うんだ。いらないから捨てられて皆から忘れ去られるのは、たとえ機械だとしても、ちょっと悲しいから」
これからにとりはその方法を模索していくのだと言う。
時間をかけて少しずつ目標に進んでいくのは良い生き甲斐になると笑った。
「ところで椛の容態は?」
「まだ昏睡状態です。熱はだいぶ下がりましたが、まだ平熱とは言い難いです」
「死なないよね?」
「心配ありませんよ。椛さんですよ?」
椛は一週間、目を覚ましていなかった。
解毒されたとはいえ、神奈子の使役する蛇の毒は強力で、その余波が椛の体を蝕んでいた。
天魔の解毒がもう少し遅ければ取り返しの着かない事態になっていたという。
神奈子から受け取ったもう一つの解毒剤は、文のポケットの中に今も入っている。
「椛さんが起きたら知らせに来ますね」
「うん、お願い」
河童の集落を抜けた文は、飛び上がり山の中腹へと向かった。

数分で天魔の屋敷にたどり着く。
門番に許可証を見せてから門を潜ると、威勢のよい声が聞こえていた。
「よし! 次は庭を100周じゃ!」
「まだやるの!!」
「泣き言は聞かんぞ! 基礎体力作りなくして技も術も教えられるか!! ほれ走れい!」
「ひーー!」
短い竹刀を地面に打ち鳴らし、天魔ははたてを一喝する。

「ずいぶんとスパルタですね」
はたての持久走を、縁側に座って見守る天魔の横に腰掛ける。
「引篭もり歴が長すぎて体が鈍り過ぎておる、これくらいせんと他の鴉天狗には追いつけん」
「随分とはたてには目を掛けているんですね?」
「そんなことはないぞ。他の天狗も同様に目を掛けておる」
「とてもじゃないですが、そうは見えません。引篭もり相手に入れ込み、ましてやそれを弟子にする天魔様なんて前代未聞です。はたてに対し特別な感情があると考えるのが普通です」
言って文はカメラとメモ帳を自分の横に置き、押してそれを遠ざけた。彼女なりの意思表示だった。
「はたてはあなた様にとっての何なのですか? ひょっとしてお孫さんとか?」
はたてのポテンシャルについて、これまで腑に落ちない箇所がいくつかあった。だから今、思い切って訊く事にした。実はこの一週間、文はこの事を天魔に問いかけるか否かをずっと悩んでいたが、今日ようやく尋ねる決心がついた。
「孫とは・・・・ちょっと違うのう」
ぽつりぽつりと天魔は話し出した。
「もともと天魔の、儂の血縁者は、他の天狗より強い力を持って生まれてくるが、何かしらの欠陥も一緒に抱えて生まれる」
「欠陥・・・・ですか?」
「生まれつき病弱であったり、精神を病んでいたりと、どいつもこいつも短命でな。儂以外は宝の持ち腐れですぐ死んでいきおったわ」
天魔に親類についてはあまり明らかになっておらず、むしろそれに触れることがタブーのような風潮すらあった。
「はたては遠縁の遠縁じゃ。儂の血は薄いが、それでも祖先にあたると思うとどうも可愛く思えてきてな。つい贔屓してしまう。手の掛かる子ほど何とやらじゃ」
実は普段から、カラスを一匹はたての傍に付けておいた。今回、最高のタイミングで諏訪子の妨害が出来たのも、そのカラスが知らせてくれたお陰だった。
「そうだったんですか」
「意外か?」
「いえ、色々と得心いきました。はたてが無駄にスペックが高いのも頷けます」
「左様か」

庭を走るはたてはもうへばったのか、走るフォームが崩れてたらたらとした走りになっていた。
「ほれ! 気を抜くな! 急げ急げ!!」
立ち上がり一喝。
「は、はい!」
はたてがちゃんとした姿勢に戻ったの確認して、再び腰を降ろす。

「解毒剤、ありがとうございました。天魔様がいなければ今頃は」
「儂には間違っても礼を言わんでくれ」
静かに天魔は首を振った。
「出来る事なら、解毒剤を入手したのは、はたてかお主ということにして欲しい」
「それは何故です?」
「最初は椛を見捨てるつもりだった。解毒剤を受け取らず、守矢の弱みを握るつもりじゃった」
「でも解毒剤を、椛さんの命を選んでくださったじゃないですか?」
「犬走椛のためでは無い。はたての為じゃ。はたてはアレを親友だと思っておる。それが死んだとなるとはたての精神は恐らく・・・」
それを危惧したからこそ、諏訪子の取引に応じた。その判断には椛に対する気遣いなど、一切含まれて居なかった。
「それでも、椛さんを救ってくださったのは天魔様です。これだけは言わせてください」
置いてきたカメラとメモ帳を持ち、立ち上がった。
「では私はこれで」
「うむ。此度の件、ご苦労じゃった」
特に口止めもせず、あっさりと文を見送る天魔。
彼女の関心は、ヘトヘトになって庭を走るはたての方に向いていた。


屋敷を出た文は、診療場へ飛んだ。






診療所のベッドの上、椛は解毒剤により死を免れたものの、高熱により魘(うな)されていた。
その間、彼女の脳は混乱し、奥底に眠っていた数々の記憶をしっちゃかめっちゃか掘り起こし、夢という形で彼女に見せていた。
夢の内容は主に、犬走椛と名乗ってからの生涯であった。

――― そこで場面が切り替わる

『おい喜べ後輩!』
紙くずを抱えた先輩の白狼天狗は、足で襖をあけて中に入ってきた。
肩まで届く銀色髪。あどけない笑顔がよく似合う、椛より少しだけ年上の少女だった。
『なんスか?』
『イイモン拾ったぞ!』
剣の手入れをする椛の前に抱えていたものをぶちまける。
『新聞ですか?』
『そうだ! なんかイッパイ捨てられてたから全部持ってきた!』
『だからこんなにもボロボロなんですね・・・・・うわっ、この粘々って鼻水じゃないですか!?』
泥やそれ以外のもので汚れた新聞ばかりで、綺麗な新聞は一つとしてなかった。
『汚れなんざどうでもイイだろ!? それよりも、だ!』
小汚い新聞で出来た絨毯をバンと叩く。
『これを使って字を覚えるぞ!! お前、字ィ読めないんだろ!?』
『先輩だって読めないじゃないですか』
『だから覚えるんだろうが馬鹿!! 知ってるか? 字が読める白狼天狗は重宝されて、大天狗様から直々に特別な仕事を任せてもらえるらしいぞ!』
『特別ってどんな仕事です?』
『わかんない、が。手当てががっぽり貰えるらしい! 一ヶ月間毎日、三色団子を一本ずつ食っても余るらしいぞ! 夢みたいだろ!』
『それはちょっと魅力的ですね』


――― そこで場面が切り替わる

大天狗が先輩を担ぐ椛に剣を向ける。
『白狼天狗の誇りを守り命を捨てる? それとも白狼天狗の誇りを捨てて命を守る?』
『私は・・・』

悩む椛の肩を虫の息だった先輩は押した。自分から椛の腕を振り払い。そのまま地面に倒れこんだ。そしてそのショックで絶命した。

『お疲れ様』

大天狗は椛が悩んだ末に先輩を捨てたと思ったが実際はそうじゃない。
可愛い後輩の椛を守るため。最後の力を振り絞り、自分から捨てられにいったのだ。
その事実は、押された当人の椛にしかわからない。

『あ、そうそう』
先輩の死体を担ぎ、椛を見る。
『これからしばらく、あの豚の家の前を通らない方がいいわよ』
『 ? 』
なぜ大天狗がそんなことを言うのかわからなかった。
『あの豚も一応は、この山に色々と貢献した身だから、立ててやらないといけないのよ』
『 ? 』
ますます意味がわからなくなる。
『察しが悪い子ね。とにかく、あの豚の家に近づくのは禁止。忠告したからね』

この忠告を守らなかったことを、椛は後々に後悔することになる。

――― そこで場面が切り替わる

先輩を失った翌日。
『なん・・・・で?』
大天狗の言葉の意味が気になって、暗殺した天狗の屋敷を遠い所から千里眼で覗いた椛は、生まれて初めて自分の目を疑った。
暗殺した天狗の家の前には十字架が立てかけてられていて、そこに先輩の死体が全裸で磔にされていた。
彼女の死体に向けて、暗殺された天狗の親類や、生前に世話になった者達が石を投げている。

『■■■■■ー■■■ー■■ーッ!!!!』

獣のように叫んだ。
罵倒する相手も分からず、恨む相手も分からず、今の自分の感情を明確に表す言葉も見つからず、喉が枯れるまで喚き散らした。
この時に感じた形容しがたい感情は、今も椛の心の奥底にしっかりと潜んでいる。

――― そこで場面が切り替わる

『違法な掛け金の賭場を開いているゴロツキの拠点を突き止めた』
大天狗は、目の前にいる十数名の白狼天狗の前でそう宣言した。
普段の砕けた喋り方ではない。公事用の口調であった。
『これより奴等に奇襲をかける。女子供だろうと、中にいる者は殺せ。奴等の首一つにつき銭束一つと交換してやろう』
白狼天狗たちがざわつく。安い賃金で働く彼らにとって破格の報酬だった。
『首領を討った者にはさらなる褒美を約束する。各自、心して掛かれ!』
『『おおーーッ!!!』』
この任務ではゴロツキが用心棒を何人も雇っていて、自分と他数名しか生き残らなかったことを覚えている。
今思えば、用心棒がいることを大天狗は知っていて、それをあえて教えなかったのかもしれない。
そうした方が、突入前に怖気づく者が現れないからだ。

――― そこで場面が切り替わる

椛は封筒を開けた。
『あれ、この名前って』
有名な天狗だったため知っていた。
『そう。上級天狗の豪邸をいくつも設計してる売れっ子建築家』
『何したんです?』
『裏で仲の良い盗賊さんに、自分が建てた家の見取り図を売りつけてた不逞野郎だったのよ』
『いつものように始末すればよろしいのですか?」
『うん、新しい会合所を作るから現場に来てくれって呼び出してあるから、そこをサクっと。死体は川にでも流しといて』
『ヒグマに襲われたことにでもして、山に捨てとけば良いんじゃないですか?』
『あ、いいわねそれ。採用』
『ちなみに私の他には?』
『いらないでしょ? これまでだってモミちゃんが実質一人で殺してるんだから』
『その「モミちゃん」って私のことですか?』
『そだけど? これからは単独で色々と頼む事になるだろうし、そう呼ばせてもらうから』


――― そこで場面が切り替わる

『最近、依頼がありませんね』
『ああ。あれね。もう無くなったわ』
『え?』
『もう解散したのよ、私を含めた上級天狗が集まって裏工作を計画する組合が。天魔ちゃんがね「もう今の山にそんなモノは不要」だってさ』
『そうですか』
『だからこれからは本職である哨戒の仕事に専念してちょうだい』
『そうは言われましても。哨戒を頻繁に休んでこっちの方を優先していたから、今いる詰所の連中と険悪になっちゃって居辛いんですよね』
唯一、仲の良かった先輩は、遠い昔に椛を残して逝ってしまった。
『じゃあ新しい場所に異動させたげる。えーと、滝のトコなんてどう?』


――― そこで場面が切り替わる

『あ、そこな天狗様、暇なら私と将棋でも指そ・・・・あれ? 見ない顔だね?』
『犬走椛と言います。本日をもってこちらに配属となりました』
『そうなんだ、私、河城にとり。以後お見知りおきを』
『こちらこそよろしくお願いします』

――― そこで場面が切り替わる

『鴉天狗様がこんな汚らしい詰め所に何のご用ですか?』
『ちょっと取材をさせていただきたくて。なんでも外の世界で使われてる将棋の駒を拾ったとか?』
『知りません。お引取りを』
『あ、今、後ろに何か隠しませんでしたか!?』
『変な言いがかりつけないでください』
『仕方ありません。無理矢理というのは嫌なのですが・・・』
『わかりました。ただし大事にしてくださいよ、にとりが見つけた貴重なモノなんですから』
『心配御無用。この清く正しい射命丸文が、取材のネタをぞんざいに扱うわけないじゃないですか!』

――― そこで場面が切り替わる

『なんか麓の巫女が山に出来た神社に殴りこみに来たっぽい。ちょっと様子見てきて、出来れば威嚇してきて。流石に素通りさせるのは沽券に関わるわ』
『他の連中が行けばいいでしょ?』
『みんなビビッちゃって』
『揃いも揃って情けない』
『射命丸文って鴉天狗が巫女について色々知ってるみたいだから、会って情報交換しといて』

――― そこで場面が切り替わる

『失礼、貴女が射命丸文様ですか?』
『ええ、そうですけど』
『私、犬走椛と申します。この度、大天狗様から紅白巫女への応対を仰せ付かった者です』
『・・・』
『何か?』
『いや、どっかで一度会いませんでした?』
『さあ? 気のせいでは?』
『いや、会ってますって一回。思い出してくださいよ』
『それよりもあの巫女の情報について・・・』

――― そこで場面が切り替わる

『新聞、すぐには書けないよ?』
『構いません。あなたの好きなペースで一部書いていただければ。私はそれに合わせてサポートします』
『それなら・・・・・・やっても良い。読んでくれる人がいるなら・・・』

――― そこで目が覚めた




「・・・・・」

ぼんやりと天井を見上げる。どうやら診療所のベッドで寝ているようだった。
(走馬灯を見たような気分だ)
体が重く、まだ起き上がれそうになかった。
窓の外を見ると、夕日が沈みかけていた。
窓ガラスには、自分の顔がうっすらと浮かんでいる。
「この死に損ないめ。また命拾いしたな」
向こうの世界にいる自分に話し掛ける。
「そうやって生き延びてきて、何か良いことがあったか?」
腕を上げる。かろうじて持ち上がった手の先は、包帯できつく固められていた。
「憎いと思っている天狗社会を守るという矛盾した生活を、いつまで続ける気だお前は?」
窓ガラスに触れようと腕を伸ばしたが届かず、結局は力尽きてベッドの上に落ちた。
「本当に、何やってるんだろうな私は」
自分の汗を吸った枕に沈み込み、大きな溜息を吐いた。

「椛さん?」

ベッドを仕切るカーテンが揺れて、文がひょっこり顔を出した。
「良かった。気が付かれたんですね。みんな心配してましたよ」
「・・・」
椛の脳裏に、さきほど夢で見た彼女とのやりとりが思い出された。
「『どっかで一度会いませんでした?』か・・・」
「え、あの。ひょっとして記憶喪失という奴ですか? 私がわかりますか? あなたのフィアンセなんですけれど」
「何言ってるんですか文さん」
「あだっ」
ずいっと顔を寄せてきた文の頭に手刀を落とした。
「お加減はいかがですか?」
「体がひどく重いという以外はさして。私は何日寝てたんですか?」
「今日で一週間になります」
「ずいぶんと長いこと泊まってたんですね」
文曰く、高熱で死の淵を行ったり来たりしていたらしいが、椛の記憶には何一つ残っていなかった。
「覚えてないでしょうが、はたても来ていましたよ」
ベッドの横のテーブルにある花瓶を指差す。
「それ、彼女が飾っていったものなんです」
三方向に分かれた緑の葉っぱが展葉する枝が一本だけ活けてあった。
「メグスリノキというそうです」
煎じた汁が眼病予防になるということでその名がついた。別名『千里眼の木』。その形から『ミツバナ』とも呼ばれている。
「毒のせいでしょうか。高熱で魘されていた椛さんは、何度も目から出血してたんです。そしたらはたてが」
辛そうな椛を目の当たりにした彼女は病室から飛び出し、しばらくしてこの枝を握って戻ってきた。
当然、たったそれだけで良くなるとははたて自身思っていない。しかし何もせずにはいられなかった。
「せっかく採ってきたのに捨てるのも勿体無いですし、お守り代わりに、花瓶にさしておいたんです」
はたての想いが通じたのか、この日を境に椛の熱は徐々に下がりだした。
「よく見つけましたね。この辺りにはほとんど自生していないのに」
「詳しいですね」
「ちょっとだけ、思い入れがあるので」
「思い入れ?」
「メグスリノキって、こんな形ですけどカエデ科の木なんですよ」
「え? そうだったんですか?」
カエデとは、モミジと同じ意味の名である。『千里眼』『楓』など自分と結びつく言葉多いため、他の木よりも思い入れがあった。
「ありがたく、観賞させていただきますね」
はたてがこの木をどこまで知っていて、椛に届けてくれたのはわからないが、無性に嬉しかった。
「あ、そうでした。大天狗様もお見舞いにいらしてましたよ」
「天下の大天狗様が、下っ端天狗の見舞いなんかに来て大丈夫なんでしょうか?」
「曰く『高給取りの医者を漁りに来ただけで、モミちゃんが入院してるなんて全然知らなかったわー、いやー山って狭いわー』だそうです」
大天狗の口調を真似てそう言いながら、ベッドの横にあるイスに座った。
「よく守矢側に寝返りませんでしたね。大天狗様、驚いてましたよ」
「信用されてないんですね」
「そうではなく『裏切られてもおかしくない事をしてきたから』だそうです」
「そうですか」

椛は寝返りを打って、文に背中を向けた。

「昔、哨戒の仕事に就いたばかりの頃、私にも先輩と呼べる方がいて、何かと世話を焼いてくれました」
先輩であり、友人であり、姉、そんな存在だった。読み書きが出来るのも彼女のお陰だった。
「今その方は?」
「亡くなりました、ある任務の最中に。私の目の前で」
「そう・・・ですか」
「私は、ある選択を迫られていました。私は瀕死の先輩を抱えており、先輩をこのまま抱え続けていたら、私の命も危ない状況だった」
大天狗に切先を向けられて、捨てる者を選ばされていた。
「私は揺れていた。私は自分が可愛かった。真の白狼天狗なら、迷う余地など無かったというのに。先輩は、そんな私を見かねて自ら・・・」
最後の力を振り絞り、椛を突き飛ばして自分を捨てさせた。それにより椛は大天狗から見逃された。
「助けられた。本来助けなければならないのは重症の先輩だった。なのに私は助けられた」
その後、彼女の亡骸は天狗殺害の下手人として被害者の家の前で晒し者にされた。腐敗するまで晒された後、山の何処か適当な場所に捨てられた。それが何処なのかを椛は知らない。
「生き延びた私は、多くを知りました。裏切られる辛さも、見捨てられる寂しさも、利用される憤りも、ひとしきり体験しました。そして自分の中で『誇り』というものがどんどん小さくなっていくのを感じました」
守矢神社の誘いを断ったのは、その僅かに残ったちっぽけな誇りだった。
「たくさんの仲間を見捨てて生き延びてきました。今更誰かの為に死ねる度胸もありません。だからせめて、自分の死を誰かに肩代わりさせるくらいなら、潔く死のうと決めていました」
それが勧誘を断った理由。先輩がそうしてくれたように、自分もそんな形で自身の生涯を閉じたいと、誰にも迷惑を掛けない最期を迎えたいといつからか考えるようになった。

「いくらなんでも、そんな考え方・・・」
「すみません。話しすぎました。しばらく寝ます」
一方的に会話を終わらせて、頭まで布団を被った。
「椛さん」
「しばらく一人にしてください」
「・・・わかりました」
文はベッドを仕切るカーテンを閉じた。
そのカーテン越しにもう一度だけ語りかける。
「ずっと前、はたてを恫喝した貴方を蹴飛ばして、仲直りした日のことを覚えていますか?」
返事は無い。
文にとって、聞いても聞いていなくても構わないため、話を続けた。
「その時、貴方に言った『もう少しだけ待っててください』という言葉。その言葉がもう少しで現実味のあるものになりそうなんです。だから『もう少しだけ待っててください』」
それだけ言うと、文は静かに病室の戸を閉めた。


診療所を離れて、文は長い山道を登る。
(『自分の死を誰かに肩代わりさせるくらいなら、潔く死のうと決めていました』・・・か)
先ほどの椛との会話を思い出していた。なんとなく、椛の価値観の根底にあるものを垣間見たのかもしれないと思った。

そうこう考えながら進む道の先には守矢神社に繋がる石段があった。

神社の境内には神奈子と諏訪子がおり、何やら話をしているようだった。
「今度はどんな悪巧みを相談しているんですか?」
二柱に物怖じせずそう問いかけた。
「待ってたわよ」
「白狼天狗を勧誘としたら、思わぬ物が釣れたもんだ」
神奈子も諏訪子も笑みを持って文を迎え入れる。
「勘違いしないでください。私は私の目的のために貴女方を利用するだけです」
「わかってる。私達はいつも突っ掛かってくる頭の固い古参天狗を排除したい。そっちは偉くなるために古参天狗に消えてもらいたい。単なる利害の一致でしょう?」
「そういうことです。その辺、忘れないでくださいね」
棘の有る言葉の応酬ではあったが、終始表情を崩さない三人。
「でも神奈子。本当にこんな奴と組んでウチに得があるのか怪しいもんだよ」
「ふふん侮ってもらっては困ります。私は幻想郷最速の新聞屋。天狗しか知らない秘密の抜け道から、大天狗様の年齢まで、幅広い情報を取り揃えておりますよ」
夕日は完全に沈んでいた。











三日後。診療所。
指先に包帯が残るものの、体力を取り戻した椛は荷物を抱えて診療所の入り口に立っていた。
「お世話になりました」
医者に一礼して、診療所を後にする。
「退院おめでとう」
「わざわざありがとうございます」
門の前でにとりが椛を出迎えに来ていた。彼女以外は誰もいない。
「ひょっとして、あの二人が来てくれなくて寂しいって思ってる?」
この日、はたては天魔の元で鍛錬を積んでおり、文は守矢神社で二柱と一緒にいた。
「まさか。私のような日陰者が、あの二人と一緒にいるのは好ましくありませんから」
(日陰者・・・ねぇ)
「何か?」
「いや、椛が手にしているその枝」
はたてが飾っていったメグスリノキを椛は大事に包んで持っていた。
それを見たにとりはこう尋ねた。
「メグスリノキだっけ? なんか他にも色々と呼び名があるみたいだけど全部知ってる?」
「はい『千里眼の木』『長者の木』『ミツバナ』『ミツバハナ』です」
「実はもう一つあるよ」
「え、そうなんですか?」
にとりも、この木はなんとなく椛を象徴しているような気がして思い入れを抱いており、この木については人一倍詳しかった。
「まあ知らないのも無理はないか」
拳を口の前に持っていき、少しだけ意地悪そうに笑う。
「なんと言うのですか? 教えてくださいよ」
「え~、どうしよっかな~」
少しだけもったいぶってから、その名を口にした。
「メグスリノキ。異国の国では『Nikko maple』って名前なんだ」
「ニッコーメープル?」
「『日の当たる椛』って意味さ」
「あの、それって・・・」
「じゃあ帰ろうか!」
にとりはクルリと背を向けて、足早に歩き出す。
「あ、待ってくださいよ! こっちはまだ病み上がりなんですから!」
椛はその背を追いかける。
(有給もだいぶ減ったし、明日からでも復帰しないと・・・・ああ、また大天狗様の愚痴を聞く毎日が始まるのか)
思い煩いながら、これからも変らぬ日々が続くことを密かに願いつつ、歩く早さを徐々に上げていく。

この日お互いに知らぬ所で、彼女達はそれぞれ別の道を確かに歩みだしていた。

椛の手の中、三方向に分かれた葉を持つ枝がふわりふわりと揺れていた。
椛さんは幸運Eを直感Aでカバーしてるイメージ。

>>愚迂多良童子様、41様、45様 誤字脱字のご指摘ありがとうございます。訂正致しました。
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コメント



0.4750簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
うおおついに続編が!
5.100奇声を発する程度の能力削除
ようやく読み切ったぁ…
長かった分とても楽しめました!
10.100愚迂多良童子削除
はたての今後の活躍に目が放せない!
>>かつ大天狗が蹴りを放った際、
かつて?
11.50名前が無い程度の能力削除
(iPhone匿名評価)
12.100白銀狼削除
続編待ってました!
もう次が気になってしかたがない…!
13.40名前が無い程度の能力削除
(iPhone匿名評価)
14.100名前が無い程度の能力削除
神様…手段を選ばないぜ
早苗さんには知られちゃなんねぇ…
いつも通り面白かったです。
今回あった出来事が次回どのように発展していくのか…
楽しみです。
18.100葉月ヴァンホーテン削除
うぉぉ、なにやらドでかいストーリーを予感させられますね。
次回作も愉しみにしてます。
19.100名前が無い程度の能力削除
今回はいつも以上にシリアス展開が多かったですね。
話が進むごとに椛が可哀想なシーンが増えてきて、心臓が痛いです。
20.100那名子削除
『ヨカッタ』
次回も楽しみにしてますね~
23.100名前が無い程度の能力削除
描写が巧みで臨場感があり、物語も深読みしがいがあってよかったです
特に守矢の良い悪役っぷりが新鮮でした。
綺麗ながらも、なにやら波乱を予感させる不穏な終わり方ですね
これからの展開に期待してます。
25.100名前が無い程度の能力削除
これほどまでに続きが待ち遠しいシリーズは初めてです
椛がイケメン過ぎてヤバい
26.100名前が無い程度の能力削除
いやー次も楽しみですw
27.100リペヤー削除
グッジョブでした!
前半のギャグ、後半のシリアスと共におもしろかったです
みとりネタがちょろっと入ってたのがくすっと来ました
そして後半……守矢黒すぎワロエナイ
次回も楽しみにしてます
30.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷ののんきなイメージがどんどん崩れていく。だが、それが良いw
よく見るほのぼの系も良いけど、こういうシリアス系の方が大好きです

次回も楽しみに待っています
32.100名前が無い程度の能力削除
今回も面白かったです。
相変わらず椛はかっこいいし、はたてもかっこよかった。
そして先輩…先輩の行動が明かされる場では思わずくるものがありました。
ついに3人が別々の道にわかれ、ますます今後が楽しみです。
38.100名前が無い程度の能力削除
b
41.100名前が無い程度の能力削除
あいかわらずネタが濃くて反応し切れんw
風呂敷も広がってきたし先が楽しみだ

>鼻高天狗の女将
次からは大天狗様あての領収書書いてもらおうぜモミちゃん

>屋敷を出た文は、診療上へ飛んだ
診療所

>大天狗様の年齢
あややに死亡フラグが!
44.100名前が無い程度の能力削除
はたての心拍は普通でも、これを読んだ私の心拍数がやばい!血騒ぎ肉踊る話に、もう今日は一日ワクワク過ごしちゃいます。本質さんを全俺で胴上げしたい!
45.100名前が無い程度の能力削除
今回もとても面白かったです。
この先どんな展開が待っているか楽しみです。

誤字報告
>「ごめん、何言っているはマジでわかんない」
何言っているか では?

あとepisode.2冒頭の椛と大天狗のやりとり
>「昔、上層部が遊びでやってたヒクマ狩りの警護の時、矢が頬を掠めたことなかった?」
ヒグマ狩り
46.10名前が無い程度の能力削除
色々とすごい
47.100名前が無い程度の能力削除
まさかの河城姉の設定が。みとり好きにはたまらない。いつか出て欲しいなぁ
48.100名前が無い程度の能力削除
ストーリーに燃えて、大天狗様に萌えた。
51.100名前が無い程度の能力削除
三者が三方向に別れましたね~。
ますます続きが楽しみです。
それにしても守矢が黒いですね~。まあ来歴からして黒いこともいっぱいしてきたであろう
二柱ですからね。こういうのもありかも。早苗さんが鍵を握って欲しいな。
53.100名前が無い程度の能力削除
面白いが先が怖過ぎるw早く文を止めてくれ椛。

 守矢二柱には盛大に爆散してほしいけど、露見したら天狗のみならず早苗さんも敵に回すだろうし、
致命傷もいいとこだから落とし所無くて なぁなぁで終わるのかな。
58.100名前が無い程度の能力削除
ここで終わっちゃうんですか! 続きは! 続きはどこですか!
64.100名前が無い程度の能力削除
面白いです。本当に面白いです。
回を経る毎にキャラに愛着が湧いているんですが、最後は主要メンバー四人欠ける事なく幸せになって欲しい。
次回作心待ちにしています。
66.100名前が無い程度の能力削除
大作の予感!
67.100名前が無い程度の能力削除
すごく面白いです。
登場人物が結構多いのに、それぞれしっかりキャラが立ってて配置に無駄がぬえ。

大天狗様はアレですね。普段は飄々としてる癖に良いところで超格好いい活躍をして
読者の人気をかっさらっていくタイプ。
68.90名前が無い程度の能力削除
いつ何時でも淡々としている文章が物足りなくもあり心地良くもある。文章・ストーリー共にテンポ良し。ただもう少し文面を整えてくれると携帯組にはありがたい。セリフと地の文を一行離してくれるだけで良いです。個人的には地の文の文頭を一マス開けしてくれるとベネ。

「・」もどうせなら三点リーダーに統一しちゃった方がよろしいかと。「・」の数が四つだったり五つだったり結構適当に置かれてると見受けますが、単純に字面がスッキリして見えますし、記号の使用が安定していると(頭の中でも)読みやすく、些細な違いですが快適です。通常時は三点リーダーを二つ使用。長い間を作りたい時は四つ、が黄金律ですね。




しかし引きがなんとも憎い。次も見ざるおえないではないか、これでは。「イヌバシリはミタ」って椛は家政婦じゃないですが、椛もミタさんと同じ様にいつか笑顔になれる日が来るのでしょうか。
69.100名前が無い程度の能力削除
「この光景は今の山でなければ見ることが出来ないんです。天狗の社会を守ることが、
 この景色を守ることに繋がるのなら。私はその使命を担えることを誇りに思います。
 下っ端と呼ばれようが、犬っころと呼ばれようが、そんなのは川のせせらぎで聞こえません」
                                   ----vol,1より抜粋
守矢が治めて、願いどおり天狗社会を改革できたとして、椛は同じ景色を見られるのか。
射命丸早く気付いてくれーーー!
70.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです。このサイトには少ないシリアスさ、幻想郷のダークな部分が目を離せない。続編を大期待してます
72.100名前が無い程度の能力削除
神様方、早苗さんを敵に思いっきりまわしちゃいそうな・・・
73.100名前が無い程度の能力削除
妖怪の山の過去に動き出す守矢神社……果たしてどうなることやら
段々とシリアス要素が濃くなっていますが、それもまた良いですね
次回が楽しみでなりません
75.70図書屋he-suke削除
守矢の神が展開上の悪役であることには特に文句はないのですが
二人のやり口が少々雑というか、小物っぽいというか。
過去作の流れから此処の椛にかなり実力があるのは把握してますが
あれだけの大国をおさめた太古の神が一介の白狼天狗相手にムキになるのはなんだかうーん…
三天狗を活躍させることを前提に守矢の動きがあるように思われてならないのです
つってもこのシリーズ前からファンなので勝手に期待が大きくなっているだけかもしれません

ちなみに私はマキャベリズム信奉者なので加奈子さまの考えに寄り添うところが大きいですね

こういうギクシャクしたところもある幻想郷を描いてくれる作者さんは貴重なので今後も大いに期待させていただきます
77.100名前が無い程度の能力削除
あやー!あかん!それはあかんよ!
ほんと神二人は悪役が似合う。いつか逆襲してほしいものだ。
ていうかみとり、お前迫害ででてったんとちゃうんかいww
82.70名前が無い程度の能力削除
守矢勢ってこういう考え方するキャラだと思ってるけど、一介の犬にここまで色々しちゃうかなって。
文を釣るためとも読み取れず。
そこはイメージと違ったかな。
天狗程度には屈さないで欲しいですね。
今後の早苗と文が楽しみです。
84.100名前が無い程度の能力削除
なんつぅか、凄く面白くてたまらないのに、読み終わった途端泣きそうになるぐらい切ない。でも、こういう人生を生きてきたんですよね、椛は。
これからも、多分こうやって生きていく。

いやはや、これまでのちょっとした伏線回収や、限りなく胎動しはじめた新しい時代の予感。相変わらずのクオリティー、満喫いたしました。

冒頭に入る大天狗さまと椛の会話が毎回の癒しです。
86.100名前が無い程度の能力削除
続編来たー!!待ってました!!
ただ守矢勢も好きな自分としては少々読んでいて苦しいです。

色々もやもやしてますがこっからの展開に期待です。楽しみ
87.100名前が無い程度の能力削除
椛さんにとっての最も良い選択は、下手に差別撤廃やらで波乱を巻き起こすことでなく、目の前のぬるまってきた日常を守ってやることなんじゃないですか、文さん。愛ゆえに、鳥目になっちゃいかんせん。
90.100名前が無い程度の能力削除
これは嫌な幻想郷ですね(褒め言葉です)
射命丸の行動がこれから先のなにに掛かってくるのか気になります
早苗さんに露見しなければいいけれども…

はたてはいつもかわいい
92.100名前が無い程度の能力削除
早苗に危機が迫った時に、諏訪子が非情な決断を下さない事を願うのみです。

しかし、タニーガッパーは不意打ち過ぎて吹いたww
93.100名前が無い程度の能力削除
相変わらずおもしろい…というか今までで一番面白かったです!
出てくるみんながどことなく危険な感じを漂わせていて、とてもかっこいいと思いました。
悪役の神奈子様と諏訪子さまも魅力的で良かったです。
最後はみんな幸せになれるといいな…
95.100名前が無い程度の能力削除
キャラが本当に魅力的で、回が増すごとに愛着が湧いてきます。
97.100名前が無い程度の能力削除
こんなに量があるのにするする読めるのは流石の一言。
よくある文なら食わせ者で出し抜きそうだけど、この経緯を踏んでると余裕無さそうで不安になってくる。
そろそろ回想だけじゃなくて天魔様みたいにマジモードの大天狗様も見れるかなー(チラッ
あと赤そうな姉さんもちょっと期待
98.100名前が無い程度の能力削除
続編期待。面白かった。
100.100名前が無い程度の能力削除
本当に面白かった。椛にはいつか幸せになって欲しいです…
103.100名前が無い程度の能力削除
おもれーやん
105.100名前がない程度の能力削除
いいぞもっとやれ!
110.100名前が無い程度の能力削除
いやー相変わらず面白い。
vol.1で天魔がはたてのひきこもりを気にかけてんのはなんでかなとぼんやり思っていたがまさか血縁だとは……。
これから話が色々展開しそうだし、ますます続きが楽しみです。
111.100名前が無い程度の能力削除
vol.1で椛が言っていた「白狼天狗は新聞で読み書きを覚える」という言葉にこんな複線があったとは
115.100名前が無い程度の能力削除
話にリアリティがあって面白い。
116.100名前が無い程度の能力削除
続編待ってました!
とても面白かったです。
121.100名前が無い程度の能力削除
徐々に回収されていく伏線、解き明かされていく妖怪の山の姿、深まっていくそれぞれの関係。どう転がっていくのか、今から次回が楽しみです。
123.100名前が無い程度の能力削除
フランちゃん無しでこの火力
125.50名前が無い程度の能力削除
(iPhone匿名評価)
128.100名前が無い程度の能力削除
薦められて1から一気読みしてしまいました。
椛の性格や過去、思考がオリ設定でありながらまったく疑問を抱くことなく受け入れることができました。
はたてや文とのやり取り、大天狗や天魔のキャラクターもとても個性的で良かったです。

今後の展開にも期待しています。
椛が最終局面で自害しないよう願ってますw
134.100ばかのひ削除
ここで気になってたあややのせりふが!
とうなるのかな?!
141.100みなも削除
>「生き延びた私は、多くを知りました。裏切られる辛さも、見捨てられる寂しさも、利用される憤りも、ひとしきり体験しました。そして自分の中で『誇り』というものがどんどん小さくなっていくのを感じました」

ここを読んでいて、心に突き刺さるようでした。虚栄やプライドを捨てていって最後にもみじに残った小さな小さな誇りが本当のものだったのかもしれません。
142.100みなも削除
>「生き延びた私は、多くを知りました。裏切られる辛さも、見捨てられる寂しさも、利用される憤りも、ひとしきり体験しました。そして自分の中で『誇り』というものがどんどん小さくなっていくのを感じました」

ここを読んでいて、心に突き刺さるようでした。虚栄やプライドを捨てていって最後にもみじに残った小さな小さな誇りが本当のものだったのかもしれません。
150.90名前が無い程度の能力削除
むしろ、「どんな手を使ってでも自らの目的を達しようとする」神奈子と諏訪子の姿にカリスマすら感じますがね。トップたるものこうでなくては。それにしても妖怪の山の特殊性というか、登場人物の多くが老獪で汚く卑怯な手を使う。すばらしい。
154.100名前が無い程度の能力削除
な、ナマヅメスプラッシュ…
それにしても、ヒグマはなんにでも使えて便利だなあw
161.100ぁめ削除
読み返してもおもしろいなあ