Coolier - 新生・東方創想話

無防備な寝顔

2012/05/06 04:17:07
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注意)・いつも以上に独自設定、自己解釈が含まれています
    ・なのでわかりにくいところがあるかもしれません
    ・作者はまだまだ未熟です
    ・暗めな話と思うですがこの手の話を書いたことがないのでどの程度なのかわかりません。一応注意をお願いします
    ・今回はいつも以上に書きたい作品を書かせて頂きました




















そういえば今は何時ぐらいだろうか?手に持ってる酒をあおりながらふとそんなことを考える。まぁ私が気になってるのは正確に言うと、地霊殿を出てからどれくらいたったのか?ということなのだが。
 今日は地底では大きな宴会が2つある。地霊殿でさとりが主催した宴会と、旧都で鬼たちが集まって馬鹿騒ぎする宴会だ。いつもなら酒を多く飲めるので鬼の集まりの方に行くのだが、今回は先にさとりたちの方に行くと約束してしまっていた。まぁ酒の問題以外では別にどちらでも構わなかったのだが、実際に行ってみるとさとり達の準備した酒では全く足りなかった(8割以上は私が飲んだことを考えると私がいなけりゃ足りていたのだろう……)。そこでそれぞれが適当に自分家の方から酒を持ってくることになり今に至る。
 ちなみにすでに家と地霊殿の間を7往復しているが、その間一度も地霊殿までたどり着いていない。道中で持っていくはずの酒をついつい飲み干してしまうのだ。まぁこれは仕方ないことだし、今回は多めに持ってきて



「……ん?……なくなったか」



 どうやらまた飲み干しちまったらしい。今度はもっと大量に持っていくことしよう。地霊殿を出た時点で結構皆酔っ払ってたっけ……。私がつく頃には宴会が終わってないか少し心配になってきた。







 23往復目にして何とか酒をもって地霊殿までたどり着いたのだが……、どうやら皆酔っ払ってダウンしているようだ。私が鬼以外とあまり飲まない理由の一つがこれだ。先にダウンされるとなんとなく……寂しい……。まぁしかたのないことではあるが。



「はぁ……皆寝ちまってるよ……。どうしようかねぇ……」



 まぁなんだかんだ言ってここの連中は皆妖怪だし、起こせば起きるんだろうけど……こうなったのは自業自得だしさすがに気が引ける。さてどうしようか……。考えてる間に私が持ってきた酒はなくなっちまったし。



「珍しくパルスィまで寝てるな……皆可愛い寝顔しちゃって……」



 パルスィを宴会に連れていってやった(パルスィにとっては拉致である)事は何度かあったが、こいつがこんな風に酔いつぶれてるのは最近まで見たことがなかった。パルスィはその性格のせいなのか、人に自分の弱みを見せることを極端に嫌う。だからどれだけ飲んでも(正確には飲まされても)こんな風に人前で無防備な寝顔を晒すことなど昔は一度もなかった。



「なんだかんだ言ってもちゃんと自分の場所ができたのかねぇ……」



 そんなことを考えると自分のことでもないのになんだか嬉しくなってくる。別に他人の幸せが自分の幸せなんて言うつもりはない。ただ単に寂しそうなやつを見るとそいつの意思を無視して何とかしたくなるというまさに自己中心的な理由だ。
 さて、気持ちもほっこりしたところでどうしようか考える。宴会がこれでお開きなら鬼達のところへ行って飲み直すし、まだ続くようなら悪いが皆を起こせばいい。そうと決まればこのあとどうするのかを主催者のさとりに聞くことにしよう。



「さてさとりはどこに……お、いた」



 さとりは宴会場の隅の方にある椅子に座って静かに寝息を立てていた。そういえばさとりもパルスィと一緒で寝ている姿をほとんど見たことがない。まぁあまり一緒に飲んだことが少ないからかもしれないが。



「さとりー、悪いんだけどちょっと起きてくれないか?」



 体を揺すってみても反応がない。これは正直ちょっとおかしい。普通はこれで起きるのだが……ちょっと心配になってきた。



「さとり、大丈夫か?飲ませすぎちゃったか?……とりあえず起きてくれると嬉しいんだが?」



 今度はさっきより大きく揺すってみたのだが、さとりは一向に起きる気配がない。さてどうしたものか……



「……とりあえず軽く一発叩いてみるか、そうすりゃさすがに」
「起きないよ?」



 3歩下がって拳を構えたところでいきなり後ろから声がかかってきた。反射的に振り返って拳を突き出してみたが、相手はそれを予想していたのか大きく後ろに飛び退いた後だった。



「おぉ!こいし、まだ起きてたのか!いやぁ~助かった、さとりが全く起きなくて困ってたんだよ」
「……勇儀さん、いきなり声をかけた私も悪かったけど、まず私に言うことがあるんじゃないのかな?」
「あぁ!悪い、遅くなった!」
「……まぁいいや、どっちにも当たったわけじゃないし」



 なんだかよくわかんないけどこいしにため息をつかれた。どうやら私は呆れられているようだ。なぜかはよくわからないが。



「そういえばこいしはいつからここにいたんだ?」
「えーっと……勇儀さんが帰ってきて『おーい、今帰ったぞー!……あ、あれ皆寝ちゃった?』ってオロオロしてるのは見たよ」
「つまり最初からいたんだな?だったらもっと早く声をかけてくれればよかったのに」
「そうだねー」



 ……こいしの考えてることはよくわからない。まぁこんな態度ではあるが、嘘をついてるわけでもなければ、相手を馬鹿にしているわけでもない。単純にこういう奴なのである。こんな様子だからこいしのことを好ましく思わない奴も確かにいるが、私は別に嫌いではない。それどころかどちらかといえばこいしのことは好きだ。悪いやつでもなければ嫌なやつでもないし。



「ところでこいし、さとりが全く起きる気配がないんだが……これ大丈夫なのか?」
「ん?……あぁ大丈夫だよ。お姉ちゃんは一度寝ちゃうと自分から起きない限りは周りで何があっても絶対に起きることはないから」



 今の話は……どう考えてもおかしい。



「それはないだろ。さとりだって妖怪なんだし」
「うーん……勇儀さんだったら別に話していいか……。お姉ちゃんはね、正確に言うと『悟り妖怪だから一度寝たら全然起きない』の」
「……ますます話がわからんなぁ。悟り妖怪っていうのはそんなに眠りが深いのか?」
「理由を考えたら他の悟り妖怪もそうかもしれないけど、会ったことないからそこは分かんないや」
「……でもなぁ、こいし?妖怪だったらやっぱり常にどこか気を張ってるものじゃないのか?」



 そうなのである。妖怪は動物に比べると(種類にもよるが)理性的な思考や頭脳を持ち、人間よりも遥かに本能の部分を残しているのである。どれだけ間抜けな奴でも殺気を感じればすぐに臨戦態勢に入れるし、どれだけ気を抜いてても危機感を感じれば身体が勝手に動くものなのだ。さっきの私みたいに。だからたとえ酔いつぶれて眠っていたとしても、そのせいで不意打ちを食らって退治されるようなことはまずないのである。今隣でお腹を出して大いびきをかいてるお空もちょっと揺すればすぐ起きるだろうし、今私が少しでも殺気を出せばここにいる皆が一斉に飛び起きるだろう、……やらないけど。だがこいしの話を聞く限りさとりにはそれがないらしい。たしかにあのままこいしが声をかけなければさとりの顔に私の拳がクリーンヒットしただろうと長年の勘が言っている。普通なら構えた時点で危機感を感じて目を覚ますはずなんだが。……あれ、ひょっとして私、さとりに謝らないといけないのか?



「あのね、お姉ちゃんは」
「さとり!さっきはすまんかった!許してくれ!」
「……悪いと思ったらすぐ謝れるのは勇儀さんのいいところだと思うけど、とりあえずこっちの話を聞いてくれないかな?」
「おぉ!こいしも悪かったな!で……さとりがなんで起きないかだったよな?」
「うん、そうだよ。……じゃあ逆に聞くけどなんで勇儀さんはすぐ起きれるの?」
「なんでっていわれてもな……。普通は起きるぞ?別に何も特別なことじゃ」
「なんで起きないといけないの?」



 ……今まで考えたことがなかったので少し考えてみるが、答えはすぐに出た。



「寝てる間に襲われるのが怖いからか?だから本能的に何かあると目が覚めるのか?」
「うん、多分そうだと思うよ」



 ……そうなるとますますわからない。あまり気持ちのいい話ではないが……基本的に悟り妖怪というのは……その……嫌われ者だ。だから妖怪から命を狙われたことも……少なからずあるはずだ。……あぁなるほど、だからさとりもパルスィみたいに滅多に他人に寝顔を見せないのか。だがこれでさとりの起きない理由がますますわからなくなった。



「じゃあなんでさとりは起きないんだ?」
「……襲われるのが怖いからだよ」
「逆じゃないのか?襲われるのが怖いから起きるんじゃないのか?」
「お姉ちゃんはね……、自分に向けられる負の感情が怖いんだ……」
「どういうことだ?」
「自分が襲われる寸前に起きて難を逃れる。これが他の妖怪だったら『危なかった』とか『助かった』とかですむんだけどね。……悟り妖怪だったらそう単純にはいかないの。悟り妖怪の場合はね、目が覚めてすぐの覚醒しきってない頭に直接自分への悪意を向けられるの。『お前が憎い……』『殺してやる……』『悟り妖怪め!!』。そんな自分への負の感情が無防備な頭に直接流れこんでくるの。普段起きている時は意識して聞かないようにしてる自身への悪意がそのままの形で無防備な心に流れこんでくるの。これは経験しないとわからないけど……正直思い出したくない」



 そうやって話すこいしの姿は……いつもの様子とは違い、どこか小さく見えた。



「本当に誰もいないところへ行かない限り、常に誰かの心の声が聞こえる悟り妖怪にとっては睡眠ってとても特別な時間なんだ。今は昔と違って悟り妖怪という理由で負の感情を向けられることは少なくなったけど、感情の質とは関係なく常に心の声が聞こえているというのはやっぱり疲れるんだ。私はその時にはすでに第三の目を閉じちゃったからわかんないけど、お姉ちゃんはそう言ってた。だからお姉ちゃん、いつもどこか疲れたような顔してるでしょ?」
「……まぁ、たしかにそう言われてみればそう見えるな」
「だから心の声から逃げられる睡眠の時間はとても貴重なんだ……。でも襲われる直前に起きてしまったら……その時は忘れられないほどの恐怖と心の傷を残すことになっちゃうの」



 ……こいしの言うことはわかる。そんなことは間違っても言うつもりはない。なぜなら私はさとりでない以前に悟り妖怪ではない。だから相手の気持を完全に理解することなんてできるはずもない。だが……起きてすぐに自分に負の感情を向けられるのは本当に辛いというのはなんとなくだが伝わった。だがここでまた疑問ができる。この答えは……なんとなく想像がつくのだが……



「……けどそれでも起きなけりゃ、襲われちまうんじゃないか?」
「……昔のお姉ちゃんはね、それでも構わないって思ってたんだと思う」



 ……返ってきたのはやっぱり想像通りの答えだった。



「自惚れ抜きでね……お姉ちゃんは私のことを大事にしてくれていた。だから私をおいて死ぬなんてことはできないって考えていたと思う。でも心の奥底では……逃げ出したかったんじゃないかな……。悟り妖怪が生きていくのってほんとうに大変だったし、その上お姉ちゃんは私を守りながらだったから……。だから眠ってる時、ほんとうに無防備になった時は……無意識に逃げ出したかったんだと思う……」
「……つまり普通の妖怪は本能で起きられるが、さとりは無意識の内にその本能を抑えこんでるということか?」
「……そういうことになるね。今ではペットに囲まれて自分なりの幸せを見つけてるけど……それでも忘れられないのかな、何があっても起きないのは変わらなかった。地霊殿の暗黙の了解でね、私以外はお姉ちゃんが寝てる時は誰も近づいちゃダメだし、起きるまで寝室に近づいちゃいけないの。これは忘れっぽいお空でもきちんと覚えてることなんだ。起きてすぐの悟り妖怪は本当にデリケートだから……」



 そう言ってこいしはさとりを優しげな眼で見つめていた。



「でも……今では死んでも構わないなんて思ってるわけじゃないんだろ?それとも……違うのか?」
「さっきも言ったとおりなんだかんだで今お姉ちゃんは幸せだし、死んでも構わないなんて思ってないよ?」
「けど、それじゃ寝てる間に襲われたら」
「私が守るの」



 こいしははっきりと、迷いなくそう言い切った。その瞳にはしっかりと強い意志と決意が見て取れた。



「お姉ちゃんが死んじゃったら私が困るの。お姉ちゃんには生きてて欲しいから。それに今までずっと守ってもらってばかりだから今度は私がお姉ちゃんを守ってあげたいの」
「なるほどねぇ……」



 そういわれてみればこいしの酔いつぶれている姿を見たことは一度もなかった。いつもふらっといなくなるようなやつだからそれほど意識をしたことがなかったが。ひょっとしたら、いやおそらくこいしはさとりが寝ている時は常に近くで気を張っているのだろう。世界で一番大事な姉を守るために。



「ん……」
「……おいこいし、さとり起きそうだぞ?……どういうことだ?今までの話は嘘だったのか?」
「私はこんな嘘はつかないよ。お姉ちゃんは周りで何があっても起きないだけで、自分で勝手に起きるよ?寝起きはそんなに良くないけど。……じゃないとお姉ちゃん寝たら二度と起きないことになっちゃうじゃん」
「……あぁ、そうだな。私の早とちりだった、悪かったなこいし」



 そういった後、私は今まさに起きようとしているさとりに近づいていく。こいしはというと、止めはしないもののかなり警戒してる。私が何かさとりに危害を加えそうになればすぐさま動くだろう。まぁそんなつもりは全くないし、それがわかっているからさとりに近づくのが許されてるのだろう。それでも警戒してるのは、それだけさとりのことが大切なんだろうが。



「おい、さとり?起きてるか?」
「ん……。勇儀……さん……?」
「おぉ、そうだ!私は鬼の星熊勇儀だ。そして鬼は嘘をつかない。だからお前が困ってる時、すぐに駆けつけるなんてことは言えないが、お前が困ってる時はできる限り助けてやる。私はお前のことを大事に思ってる。何があっても私はお前の味方だからな?」
「……はい、ありがとうございます」



 寝起きに一番気持ちが伝えやすいのであればこれを伝えるのは今が一番いいだろう。そして私がそう言った時のさとりの表情は今まで見たことのない笑顔だった。ペットやこいしといる時も幸せそうな笑顔をしているときはあったが、ここまで無邪気なさとりの表情は見たことがない。



「勇儀さん……。私がもし」
「何度も言うが鬼は嘘をつかない。あとこいし、さっきはさとりに言ったがお前にも同じことが私は言えるぞ?お前も大事な存在だ。少なくても今はそう思ってる」
「……ありがと、勇儀さん!」



 そういったときのこいしの笑顔もさとりほどではないが、重荷から少し解放されたような無邪気な笑顔だった。さとりに聞いたところ今日の宴会はもうお開きなようだ。他の妖怪達はこのままここで朝まで寝ているのだろう。さとりはまだ眠かったのか再び眠りにつき、こいしは隣に椅子を持ってきてそこに座ってさとりを眺めていた。私はというと……今日はなんとなく再び酒を飲むのではなく、この二人のそばにいたいと思った。
 はじめましての人ははじめまして、知ってる人は……いてくれると信じて!……福哭傀のクロ略してフクロと申します。
 今回の作品は今までの作品と色々違う形です。ちょっと暗い話に挑戦してみたというのと、今までは程度の差はあれある程度読者を意識して書いてました。またいつもは「こんな作品が呼んでみたいな……→だったら書こう!」もしくは「いいアイデアが浮かんだ!→だったら書こう!」という形だったのですが、今回は「こんなのを書いてみたい!」という作品です。簡潔に言ってしまえばある意味独りよがりの作品です。こんな作品でも皆さんが楽しんでいただければ幸いです。こんな感じの作品を今後もいくつか書く予定です。こんな作品ですが(私自身としては書けて満足ですが……)評価・感想をいただければ嬉しいです。……今後も精進していきます。長文をだらだらと失礼しました。
福哭傀のクロ
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コメント



0.360簡易評価
1.70名前が無い程度の能力削除
ちょっとくどい・・・かな?のわりに勇儀さんの心象の押しが少なくて唐突な感じ。
けど話の大本はよかった。
5.100名前が無い程度の能力削除
新しい
9.無評価福哭傀のクロ削除
遅くなりましたが感想に返信を……


1さん
自分の中で話が固まりすぎて、説明がくどかったり足りなかったりしてしまいました。今後気をつけねば。