Coolier - 新生・東方創想話

サニーミルクBlack 復活?! 月の王女

2012/12/15 21:49:56
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紅魔館の地下の一室、豪華な調度品とは裏腹に、部屋を照らすのは弱いランプの光のみ。
そこに一人の少女がベッドで寝転んでいた。
風貌は姉の当主レミリアそっくりで、髪は金色、しかし背中の翼はおよそ吸血鬼とは似ても似つかぬ不思議な形をしていた。
少女の名はフランドール=スカーレット。強すぎる能力ゆえの狂気に取りつかれ、危険視した姉に地下に幽閉されている。





「地下生活も悪くないけどね。たまに外に出してもらえるし」

中心の明かりから離れた、薄暗い壁に向かって何となく呟く。
幽閉生活自体は辛くない、衣食住はメイドが世話してくれるし、幾重もの魔法の施された地下室にいれば、狂気に駆られて興味のある誰かを破壊してしまう恐れもない。

「だけど、だけど……」

フランは寂しかった。最近やる事が出来たとかで、ただでさえ会いに来る事の少ない姉は滅多に来てくれなくなった。
パチュリーと咲夜は、最近物騒なのでしばらくは外に出るな、館の内部を散歩するのも良くないとフランに言った。2人は自分を心配してくれているのだ、と必死に自分に言い聞かせたが、それでも不安が彼女の心をぐるぐると回り続けた。

「私は誰にも必要とされていないんだろうか、もしかしたら姉様だって」



(こんにちは、私はルナチャイルド、お話し相手になってくれないかしら?)



だから、夢の中で見知らぬ誰かが語りかけてきても、それを不気味と思いつつも、新しい友達が出来たと喜んだのだ。

(あなたは閉じ込められているの? こんなに可愛らしくて、しかも強い妖怪である貴方を? 最低ね)

「そんな、私のお姉さまを悪く言わないで」

(あらごめんなさい。でもね、貴方ほどの子がずっと閉じ込められたままって、幻想郷にとって大きな損失だと思うの。お姉さんも分かって欲しいんだけどなあ)

「そうかなあ? 他の話もしようよ、ルナチャイルドはどんなものが好き?」

(そうねえ、外へ出て、太陽を自分のものにしちゃいたいのよ)

「ルナも閉じ込められているの?」

(ええ、貴方のお姉さんに食べられちゃった。だから消化されないようにするのが大変なのよ)

「それは可哀想に」

フランは自分と同じ境遇の少女に、何か通じ合うものを感じるようになっていた。

「ルナって、なんだか他人じゃないみたいね」

(私も、フランが他人じゃないみたい。ねえ、それはそうと、ちょっと遊びに行かない?)





レミリアはソファに体重を預け、紅茶を飲みながら十六夜咲夜に不満を漏らしていた。
自分の存在感を知らしめるために起こした異変だが、それでも面白くなさそうな顔である。

「ああ、最近展開がマンネリ化しているわ。せっかく面白い世の中になったと思ったのに」
「これでも十分劇的な展開になっているとは思いますが……」

十六夜咲夜が諭す。

「本気のお嬢様、無力な人妖達、それに立ち向かう一匹の妖精。いずれも以前の幻想郷にはなかった事でございます」

レミリアは少し考えて、唐突に叫ぶ。

「決めたわ」
「どうされるのです?」
「フランを遊ばせてみるのよ」
「妹様をですか!」

咲夜の顔が青くなる。

「そうよ、あの子なら、状況を面白くしてくれると思うの」
「しかし、妹様はお心が不安定で……」
「咲夜、私はね」

不安がる咲夜の前に、窓の外を見つめて続けた。

「最近自分に限界を感じているの、何がかんだでこの程度の異変しか起こせない。人間どもに人外への恐怖を呼び起こさせるのだ、と豪語しても、必ず誰かに阻止されてしまう。私に夜の王の名は重すぎたのよ。それで、フランに賭けたいのよ」
「しかし。お嬢様にももしもの事があるかも知れません」
「上等よ、むしろ当主の座を狙いに来るぐらいでなくちゃ」

噂をすれば影、ドアが吹き飛び、フランドール=スカーレットが現われる。
レミリアは正直ちょっとビビった。

「どかーん。来たよ~。姉様、何か面白い事をやってるそうじゃない? 私も混ぜて」

レミリアは気持ちを切り替え、悪だくみの内容を務めて楽しげに話す。

「もちろんそのつもりよ。ねえフラン、この前よりもっともっと濃い霧を発生させて、それで誰が挑戦するか見てみたの、どんな奴が刃向かいに来たと思う?」
「霊夢や魔理沙が来たのね! また遊びたいなあ」
「でもね、霊夢や魔理沙、紅魔館の特濃の霧を吸いこんで、倒れちゃった」
「じゃあ、人間達はどうするの?」
「その後もいろんな奴らが抗議に来たけれど、私の磨きをかけた運命操作であっさり皆行動不能。かつて苦杯をなめさせられた八雲紫も意識不明の重体よ」
「すごーい、でもそれじゃあ、人間達にはもうカードないじゃん」
「それがね、なんとある妖精が力をつけて、私たちに挑戦しようとしているの。結構妖怪をスカウトしては刺客として送り込んだんだけど、みんな倒された」
「妖精が? すごい! 異変になるとアイツらも影響されて強くなるっていうのはホントだったんだ。私も遊んでみたいなあ。さっそく出掛けてくるね」

フランは喜び勇んで出ていく。咲夜がため息をついている。

「どうなっても知りませんよ」
「ふふっ、はらはらしながら妹の成長を見守るのもまた一興」

咲夜が部屋を辞した後、レミリアは独り言を言う。

「私、本当にそうしたかったのかしら。暇つぶしで始めた異変とは言え、妹を巻き込むつもりはなかったのだけど」

心の中で、誰かがそうだと言った気がした。

「そうよね、これが私たちのために必要な事に違いないわ。うん」

違和感を心の隅に押し込み、レミリアはうなづいた。





夕暮れ間近の山を一人の男が歩いていた。
猟師の彼は今日の成果の鹿を担ぎ、里へ向かう。
慣れた足取りで山道を下っていると、一人の少女がこちらへ歩いてくる。

(なんだ、よく居る妖怪か妖精の類か)

男は一瞬眉をひそめたが、気にせず歩いていった。
この辺りには危険な妖怪はまずいないし、危なくなっても獲物を差し出せば何とかなるだろう。
彼は今までの経験から、こうした妖怪や妖精のからかいには慣れている。
すれ違いざまに、少女は彼に声をかけた。

「おじさん、この辺には怖い妖怪が出るよ」
「そうかい、ありがとう、君もお家に帰んな」 振り返らず歩く。
「ちなみにね、その妖怪って私の事なんだけどね」
「!」

彼が振り向くと、真っ赤な目の少女が牙をむき出しに笑った。

「ひいっ」

男は獲物を放り出し、腰を抜かして後ずさった。
不思議な能力など自分にはないはずなのに、圧倒的なまがまがしい何かを感じた。
雰囲気からして、どう見てもそこらの妖精や妖怪より格上の存在だ。

「おじさん、怖がらなくて良いよ」

これのどこが怖くないと言うのだろう。
男は必死に鉄砲を構え、引き金をひいたが、弾は出なかった。
普段ならこんな失敗はないが、相手への恐怖に飲み込まれてしまったのだ。
加えて、どこかから別の気配が近づいてくる。
誰かは分からないが、藁にもすがる思いで助けを呼ぶ。それ以外なかった。





サニーは暗くなった山を急ぎ足で下っていく。
魔理沙のキノコ採りを手伝っていたら、すっかり暗くなってしまった。

「助けてくれ―」 

そしてこの悲鳴である。

「めんどくさいけど、行くしかないか」

魔理沙に分けてもらったキノコの入った籠を置き、空を飛んで藪をかき分け、悲鳴のした方へ駆けつけた。
人間に悪戯していた彼女が、なぜこんな事をしたのかは分からない。
しかし、2人の仲間が行方知れずになった事が、彼女の心境に変化をもたらしたのかも知れなかった。
現場にたどり着くと、紅い服の妖怪少女が猟師らしき男を襲っている。

「やめろー」

サニーが叫ぶと、妖怪の少女はこちらに興味を向ける。

「さあ、早く逃げるのよ」
「す、済まない」

サニーは男を逃がし、改めて妖怪に向き合う。

「やっぱり、普通の妖精とは違うわね。強そう」 妖怪が笑った。
「貴方は誰? まさか……」

赤いブラウスと、同じ色の膝の見えるスカート。一本のいびつな枝に宝石をぶら下げたような翼。そして、あどけなさの中に攻撃性を秘めた瞳、見覚えのある顔に似ている。

「そう、私は紅魔館当主、レミリアの妹、フランドールよ。最近姉様といろいろ遊んでいるんでしょ? 私も混ぜてよ」

フランドールは見た事も無い湾曲した形状の槍を取り出し、サニーに向かって振ると、そこから真っ赤な炎の奔流が飛び出した。

「そおれっ、レーヴァテイン!」
「うわあっ」 

すんでのところで炎をかわし、地面に転がる。

「妖精でこの攻撃をしのいだのは貴方が初めて。じゃあこれいくよ」

左右に魔力の玉が規則正しく並んだ壁が現われ、それが少しずつサニーの元へ迫ってくる。
整然と並ぶ弾幕の壁が前後にも現れ、やはりサニーを押しつぶそうとした。

「うわっ、とととと、当たる」
「これはカゴメカゴメ。これくらいは避けられるのね、うれしいよ」

飛んだり地面を転げまわったりしながら、フランに反撃の機会をうかがうが、糸口がどうにもつかめない。よけてもよけても、弾幕の壁が前後左右から新たに生成されて襲ってくる。
サニー特有の能力で光を屈折させ、姿をフランから見えなくしても意味がない。

「じゃあ、これはどうかな」

立体的な弾幕の檻を逃げ回るサニーに、フランはさらに不規則な弾幕を投げ込んだ。

「ちょっと、こんなの死ぬ」
「あははは、やっぱりこれは辛いようね。姉さまは何でこんな子にてこずったのかしら、ボコボコになっちゃえ」

その時薄暮の空に、赤と白の人影が舞った。博麗の巫女だった。
フランの弾幕をしなやかにかわし、巫女は退魔の力を解き放つ。

「夢想封印」

弾幕がフランに打ち込まれ、サニーを閉じ込めていた檻が薄くなる。

「なによ霊夢、遊ぶの邪魔しないで」

「今だ。ダイアモンドリング」

サニーの黄色いエネルギーの玉が檻を吹きとばす。

「邪魔が入ったね。また遊びましょ」

フランは奇妙な形の翼をはばたかせ去っていった。

「霊夢さん、助かりました」

霊夢は地面に降り、髪をかき分けサニーに微笑んだ。

「危なかったわね。まだまだあんたには負けないわ」
「それにしても、なんて強い妖怪なんだ」

サニーは戦慄を覚えた。そんな彼女を見て、霊夢はある事に気付いた。

「どうして変身しなかったの?」
「やべっ変身し忘れちゃった」
「ええ?」

ちょっと自分を責めたくなった。





最近、フランドールは活発に紅魔館を歩き回り、レミリアともよくしゃべるようになった。

「それでね、姉様、その妖精、サニーミルクBlackって言うんだけっけ? うちの妖精メイドより良い動きしていたわ」

フランが紅茶を飲み干し、クッキーに手をつける。

「そう、その妖精は変身しなかったのね」
「それで、姉様の言ってた黒い色に変身すると、もっとすごくなるの?」
「そうよ、そして、そいつを倒せば貴方を……」

レミリアは紅茶のカップを置いた。

「言いにくいんだけど、当主の座を貴方に譲ってもいいわ」
「本当に! でもどうして?」
「貴方は私を超える力を持ってるから、その方がふさわしいの。正直、貴方を地下に幽閉してきた事は間違いだと今さらながらに思う。こんな事で罪滅ぼしになるとは思ってないけれど、許してくれるかしら」
「私が、姉様の代わりに宴会に出たり、霊夢や魔理沙とお酒を飲んだりできるの」
「そうよ、その時私は貴方の支えに徹しましょう」
「ありがとう姉様、私、絶対姉様みたいなカリスマになる」
「フラン、これが最後の試験よ、あの得意な妖精をやっつけてきなさい」

フランは喜び勇んで紅魔館を出ていった。
自分は厄介者どころか、紅魔館のホープとして姉に認められていたのだ。
姉の期待に答えねば、と魔力もみなぎって来る。

レミリアはわずかに迷っていた。本当にこれで良いのかと。
いや、これで良いのだ、時代は変わっていくものだ。別の自分がそう言い聞かせたように思えた。





次の日、昼下がりの里の往来は喧騒に包まれていた。
狂気にとらわれた人や妖怪が暴れているのだ。
面白半分に遠くから見物する者もいたが、多くは逃げるか、破壊を何とかやめさせようと悪戦苦闘していた。

「うおおおおおおお、こんな仕事やってられっか」

一人の男が半狂乱になりながら剣を振り回している。
少し離れたところで、猫耳の生えた男の妖怪が、パターンのいびつな弾幕をまき散らし、周囲に迷惑をかけている。

「うおおおおおおおおおなんで誰も、俺の物語読んでくれねーんだ。もう7年かそこらは書いているのに~」

猫耳の男に、先程の剣を持って暴れていた男が絡む。

「それはテメエの人生経験や力量の問題じゃねえか」
「んだとコラァ」

偶然にも、狂気にとらわれた者同士がぶつかり合って周囲の被害が抑えられていたが、別の場所では深刻な被害が出ていた。
齢十五ぐらいの若者たちが髪をモヒカンにし、徒党を組んで寺子屋の周りを香霖堂で盗んだ自動二輪車で走り出した。蛍妖怪が蛍の代わりにゴキブリを飛ばした。秋の女神が畑の大根を引っこ抜いて、オレンジ色に塗って埋め戻し、不思議な力で本当に人参に変化していた。などなど。

「あれは……」

サニーが駆け付けた時、すでに通りがかった霊夢と魔理沙が、剣を持った人間の男と猫耳妖怪の男を止めに入っていた。

「あらよっと」 

霊夢が男の手を軽くひねり、剣が地面に落ちた。それを蹴り飛ばして陰陽玉でごつんと男の頭を叩く。するとあっさり男は戦意を削がれてしまった。

「あいた!」
「いい加減にしなさい」

魔理沙が猫耳妖怪の男を後ろから羽交い絞めにする。

「お前もう才能ないんだから諦めろ。どうせ無駄だって」
「うわ~ん」

猫耳の男はその場で泣きだしてしまった。
その場で2人の狂気は収まったが、まだ暴れまわっている者たちがいる。寺子屋が危ない。

「寺子屋は私に任せて下さい! サニーホッパー!」

サニーは砂煙をあげて走って来る無人のバイクに向けてジャンプし、
体を一回転させてそのサドルにまたがり、寺子屋を目指す。
途中ゴキブリの群れに襲われたが、気持ち悪いだけで実害はないと自分に言い聞かせ、全速力で振り切った。

「どうせ、私なんてその程度さ」

無視された蛍妖怪は落ち込み、元に戻ったようだ。
あぜ道を強引に走り、バイクに囲まれた寺子屋を目指す。

「くぉらー止めろー」

慧音先生の声も無視して、青年たちはバイクにまたがり、手に持った棒を振り回して寺子屋の周囲をぐるぐると回り、子供達を威圧した。
年長の子供たちは年下の子供をかばい、教室の真ん中で輪を作って耐えている。
慧音先生はすれすれに弾幕を放って青年たちを止めようとするが、効果がない。

「あそこに杉の木がある」

サニーは光の屈折を操り、寺子屋から離れた場所にある木を青年達の目の前に出現させた。驚いて青年たちが急ブレーキをかけた。

「こいつらまとめて、当たり判定フラッシュ!」

サニーの腹部に宿る当たり判定の光が青年たちを包み込み、なんやかんやの力で狂気が浄化される。

「お、俺たちは何でこんな事を……」
「慧音先生ごめんなさい」
「自分の学び舎に何て事しちまったんだ」

青年たちは困惑の表情でバイクから降り、それから土下座して慧音先生と子供達に謝った。
慧音先生のお仕置き頭突きの音が響き渡る。

「みんなをこんな風に変えてしまうなんて、紅魔の仕業に違いない」

分かりきった事を一応確認するサニー。





サニーたちで狂気にとらわれた者たちに話を聞いて回ると、共通点が見つかった。
彼らは口々に、吸血鬼に襲われ、その真っ赤な瞳を見せられて気が触れてしまったと言う。

「あの猟師さんも、そのままだったら暴れ出していたのかも」

サニーは往来で聞き込みを続けながら、自分が助けた男の事を思い出していた。
あの人も、そのままなら吸血鬼に魅入られて暴れていたのだろう。

「まずあの吸血鬼を退治しなきゃ」

そう言ったのは霊夢ではなくサニーだった。

「それは私のセリフ、いつから巫女になったのよ、やめときなさい。人の商売をとらないで」

言葉とは裏腹に、霊夢の声色と瞳はサニーを本気で気にかけてくれている。
サニーはそれを感じ、感謝したうえで、それでも言いきった。

「やめません」と

「異変を止めてもらわないと、私たち妖精も安心して暮らせません。それに、ルナ達を助けたいんです」
「言うようになったな。妖精もこんなに変われるんだな」
「やれやれね、無理しちゃだめよ」

魔理沙が感嘆し、霊夢は苦笑して肩をすくめる。

その時、無数の蝙蝠が飛来し、里の空が暗くなった。
やがて蝙蝠が上空で一つに重なり、人のかたちを取った。

「あははははは、また会えたわね、太陽の妖精」

フランは霊夢と魔理沙には目もくれず、一人の妖精に呼び掛けている。

「フランドール! どうしてこんな事を?」
「アナタをおびき寄せるためだよ。里を守りたければ私と遊んでよ」
「みんなを巻き込むなんて許せない。いいわ、受けて立つ」

サニーは両の拳を握りしめ、戦闘時の姿に変化した。
服装も妖精の体の一部であり、それが黒を基調とした動きやすい姿に変化する。
変身後、体の節々から蒸気が噴き出した。
変身後のサニーが特に気合いが入っている証拠である。

「やっと本気で遊ぶ気になったね」

フランは真っ赤な炎を右手から伸ばし、サニー達に向かって叩きつけようとした。

(里が巻き込まれてしまう)

「そーれっ、レーヴァ……」
「やめろ」

サニーが飛び上がり、フランに体当たりした。
取っ組み合ったまま地面に落ちると、どういう事か、今まであったはずの里が消え、辺り一面、いつもの採石場のような場所になっていた。
それは無意識のうちにサニーが身につけた、『部外者を巻き込まないで戦う程度の能力』
白沢が人里を守るために、里の存在を『無かった事』にするのと類似の能力と思われる。

「これであなたも気兼ねなく全力で戦えるわね」

(フラン、けっこう強そうよ、勝てるのかしら)
(大丈夫よ、ルナは見守っていて)

フランドールが改めて炎の剣、レーヴァテインを振りかざす。
サニーは炎の奔流を体のばねと羽の飛翔でかわす。着地したとたん、後ろから弾幕が空気を裂いて進んで来る気配がする。それを横とびでよけ、フランに太陽光を凝縮した光線を撃ちこんだ。
サニーの撃った太陽光線をかわし、フランが笑う。

「昨日とは別人の動きだね、さすがはお姉さまが認めただけの事はあるわ」

(いける、強いけど、避けられない弾幕じゃない)

「いくよ、『フォーオブアカインド』」

フランが4人に増え、いっそう弾幕密度が激しくなった。

「このままじゃやばい! 3体は偽物に違いない、本物を探さなきゃ、サニーアイ!」

サニーの眼力で正体を見破ろうとするが……。

「……全部本物!」

驚いた瞬間、腹部の当たり判定に重い衝撃が走り、痛みと共に上下の間隔が吹き飛んでしまう。

「あはははは、気を抜くから悪いのよ」

自分自身に叱咤して、足を動かし、手を動かし、どうにか立ちあがる。
勝利を確信したのか、フランの弾幕がいったん止んだ。

「もうゲームオーバーかしらぁ」

(この子は強い。弾幕じゃ不利だ)

サニーは渾身の力で地面を蹴り、羽をはばたかせて猛烈にフランとの間合いを詰める。

(まず油断している一体!)「サニーキック」

フランの1人がキックで吹き飛ばされ、紅い光の粒となって舞い散ってゆく。

「よくも! 生意気なヤツ!」

別の1人が当たり判定目がけてレーヴァテインを突き出すが、サニーはそれをすんでの所でかわし、その魔槍を掴む。フランはサニーを振り払おうとするが、動かない。
「コイツ、妖精のくせして」

大地に踏ん張り、槍をフランごと持ち上げた。

「うおおおおおおおおおおお」
「は、離せ」

槍を持ったままのフランを巨大なハンマーに見立て、それをもう一人のフランの頭に力任せに叩きつける。

「とおりゃあああああ」
「きゃあああああ」

2人とも無数の光の粒となった。

「3人ともさっさと退場してもらったよ。どうする?」
「やるわね、遊びはそうでなくっちゃあ」

最後の1人が飛び上がって距離を置き、両手を広げて宙に漂う3人分のフランの粒を吸い寄せた。フランは呼吸を整え、右手を広げて魔力を込める。

「知ってる? どんな物体にも脆い1点があって、まあ私は『目』と呼んでいるんだけどね、そこを突けばどんな頑丈な物体もこなごなってワケ」

フランの右手に何かが宿る雰囲気がした。
サニーは嫌な予感がして、同じ高度に飛翔して蹴りを繰り出すが、軽々と避けられてしまう。

「で、ご想像通り、私はその『目』を自分の手の中に移す事ができるわ」

続いてサニーの拳を肘で受け止め、淡々と言う。

「それをきゅーっと握れば、どかーん」

手のひらから放つ太陽光線を受け流し、フランは勝ち誇った。

「貴方の『目』みっけ。壊れちゃえ」

フランが『目』を握りつぶそうとした瞬間、無数の御札と星屑がフランの集中力をかき乱す。

「霊夢さん、魔理沙さん!」

フランは不愉快そうに巫女と魔法使いのいる方を睨む。

「霊夢に魔理沙、せっかく面白い所だったのに。邪魔しないでよ」
「そう言うな、私たちも混ぜろい」
「ひさびさに退治されるがいいわ」

魔理沙がマスタースパークを放つ。が光の奔流はフランから離れた方向に飛び去った。

「どこを狙ってるのかしら、ごっこだと思ってナメてると本気で貴方を……」
「ナメてないからこそだぜ」

フランを太陽光線から守っていた上空の紅霧が吹き飛ばされ、地上には絶えて久しい本物の太陽光がフランを打った。

「姉様の出してくれた霧が! でも大丈夫、太陽光で即死ぬわけじゃないわ」

フランは左手で光を遮りながら、右手で牽制の弾幕をまき散らしている。
太陽光を浴びて即致命傷になるわけではないが、それでも魔力を消耗しつつある。

「今だサニー、両面焼きだ!」魔理沙が叫んだ。
「サニービーム!」

上下から太陽光線を浴びせられるフラン。

「ばーか、いくら太陽光でも、お前達を壊すぐらいは」

じりじりと熱量が上がっていく。

フランが場所を変えても、サニーは意地悪にも光線を浴びせ続けた。

「ちょっと、あつい暑い熱い」
「さっさと観念して土下座しなさい、噂で聞いた紫さんみたいに」
「嫌だ。熱い、熱いよ、サニーミルクBlack。その首預けたぞ」

泣き顔でどうにか捨てゼリフを吐くと、フランは無数の蝙蝠に化けて逃げ出した。
何羽か蒸発しながら。





魔理沙が空に開けた穴は瞬く間に元に戻ってしまい、自然な太陽光を浴びたのはつかの間だった。

「また、元に戻っちゃった」 

変身が解け、テンションが下がるサニーの肩に魔理沙がそっと手を添えた。

「気を落とすな、きっといつか元どおりになるさ。お前も今日宴会来いよ」
「こんな時にですか?」
「だからこそ、だぜ」
「妖精らしくないわね。あ~景気づけに元の青空が戻る祈願でもしようかな、有料で」
「おいおい、幻想郷の要の巫女なんだからそれくらい無償でやれよ」
「なによ、だからこそ、じゃない」

三人は朗らかに笑う。深刻ぶっていても解決しない、もろもろの問題はひとまず後回しにして英気を養おう。そんな気分だった。





「くそっ、あいつ、邪魔が入ったとはいえ、あんな目にあうなんて」

森の中で羽を休め、苦しげに回復を待つ。
吸血鬼の回復力は相当なレベルだが、それでも太陽に焼かれた皮膚がちりちりと痛んだ。

(フラン、痛そうだね、可哀想)心の中で、ルナが憐れむ声で語りかける。

「ルナ、あいつ強いよ」

(今気付いたのだけど、おそらくお姉さまはあの妖精の強さを知っていたわ)

(そして、きっと貴方が敵わない事も知っていた)

「どうして! なら何であんな事を!」

ルナはあくまで同情的な声色を保つ。

(おおフラン、可哀想な女の子、お姉さまは体よく貴方を死なそうとしたのよ。何て事)

フランは目を伏せ、何も言わない。

(私の本体はお姉さまに取り込まれているから、その思考が流れてくるの。とても我儘で、強欲で、自分を超える可能性を持つ者を決して許さない性分なの)

やがて声を絞りだすフラン。

「やっぱりそうなのね。お姉さまが私を認めたなんて、嘘だったんだ。あいつに勝ったら当主の座を譲るなんて言って騙してたんだ」

(あのお姉さまが自ら当主の座を捨てるなんてありえないわ。今まで気づかなかった私の責任よ。ごめんね)

「ウフフフ、アハハハハハ、そうだったそうだった、所詮私はできそこない、スカーレット家の汚点。いちゃいけない存在、アハハハハハハハ」

涙を流して笑いだすフランを恐れ、鳥や獣が一斉に逃げてゆく。

ひとしきり泣き笑い、歯を食いしばり、拳を固めた。怪我の痛みをこらえているのではない。

「アイツめ、よくも私を」

(仮にもお姉さまよ、年長者を敬う事も大事よ)

フランは自分の頭をかきむしって叫ぶ。

「うるさい。姉様がっ、あの女がっ、私の力を恐れている? だから殺したかった? 
じゃあその悪夢を現実化してやる。私の気持ちも考えた事がないくせに。
姉妹の殺し方を教えてやる。私はアイツみたいなこすい手は使わない。この手で直に」

(おおどうしましょう、この怒り、もう誰にも止められないわ)

語るルナに姿があったなら、きっと笑みを押し殺していたに違いない。





「妹様!」
「フラン! 何て姿なの」

部屋に入ってきたフランを見て、レミリアと咲夜は驚愕した。

ボロボロの服にところどころ変色した皮膚、そして怒りと苦痛と憎悪に満ちた顔。

「咲夜、下がっていて、姉様と二人きりにさせて」
「ですが、その傷は」
「二度と言わせるな。分かるだろ」

気圧された咲夜はその場から姿を消した。
姉を睨むフランの眼光は、それだけでソファが吹き飛び、窓ガラスが砕け、カーテンが舞い散りそうな圧迫感をレミリアに感じさせる。

「どうしたの、あの妖精にやられたの? 別に気に病む事はないわ、また挑戦すればいいじゃないの、今はゆっくり……」
「姉様、いやレミリア、私が邪魔ならそう言えばいいのに」
「何の事? 邪魔なんて思った事はないわ」
「嘘つけ、私があの妖精に劣るのを知っていて、殺させようとしたくせに」
「ちょっと、私は決してそんな事をがががががが」

急にレミリアの顔が引きつり、二つの眼球が一瞬別々の方を向き、また元に戻った。

「くっくっく、大当たりぃ、貴方に消えて欲しかったのよ。だってそうじゃない、巨人並みの力に虫以下の理性、お荷物、喋る地雷。さっさと処理したかったのよ。あーああの妖精使えねえなぁ」

歪んだ表情でフランを罵倒した。

「姉さまぁ」

フランの表情に泣き顔が加わった。感情が臨界に達しようとしている。

「ああ、本音を言えてすっとしたわ、この失敗作、さっさと死んでしまえ。目ざわりなんだよ。実体化した悪夢め」

なおもフランを嘲笑するレミリア。

(フラン、レミリアを倒しなさい。あの妖精なんて後でどうにでもできる。だけどレミリアだけは今排除しないと駄目。夜の王になるのよ)

レミリアの『目』が手のひらに現われる。

(もう一度言うわ、目の前の悪しき宿命を断ちなさい)

幽霊嬢がいつぞや言ったような言葉で最後の後押しをした。
再び、レミリアの目が異様な動きをして……、

「フラン、私は……」
「次の輪廻へ行け」

レミリアは爆発した。

爆音を聞きつけ、咲夜とパチュリー、小悪魔が飛んで来る。
三人が目を奪われたのは、姉を殺して血だらけで佇む妹ばかりではなかった。
レミリアでもフランでもない一体の妖怪が、壊れた窓から注ぐ満月の光を浴びて立っていた。
その妖怪は銀色のドレスを身にまとい、緑色の目を持った女の姿をかたどっている。
そして顔の輪郭とロールのかかった金髪に、ある妖精の面影をかろうじて見出す事が出来る。

「あ、貴方は何者、貴方がルナチャイルド?」

フランは放心状態からどうにか自分を取り戻し、尋ねた。

「私はシャドールナ、この吸血鬼の中で本来の精神を取り戻した。かつてルナチャイルドと呼ばれた存在」
「ルナ、やっと姉さまから出られたのね。わたし、やったよ、これからもルナは友達でいてくれるよね」

はしゃぐフランを彼女は冷やかな目で見やった。

「お前たち姉妹の三文喜劇、なかなかに楽しませてもらったぞ」

友人のそれとは思えぬ言葉にフランは困惑した。

「どういう事なの? 貴方が何を言っているのか分からないよ」

シャドールナと名乗った妖怪は妖しく微笑む。

「まだ分からないのか、私はレミリアに取り込まれ、完全に同化させられまいと必死だった。レミリアに力を奪われるふりをしながら、奴の意識を不完全ながら乗っ取る事に成功し、お前の心に語りかけられるようになった私は一計を案じたのだ」
「そんな、じゃあ姉様が当主の座を譲ると言ったり、姉様がひどい事を言ったのは……」
「全部私が言わせた事だ」

フランは首を振り、頭を抱えて震えだす。

「そんな、そんなのウソだ、アイツは私を憎んでいて、ルナが唯一の私の味方で……」
「ハハハ、最高だったよ。操っている間、奴は『違う、私はそんな事は思っていない』と必死に叫んでいたな。何も知らないお前は怒りのままにレミリアを破壊し、私を解放してくれたのだよ」
「じゃあ、ルナが私の友達なのも嘘なの? あれだけ優しくしてくれたじゃない」
「同年代の友人のふりをするのは大変だったよ」
「私が、お前に騙されて、姉様をこの手で……」
「ああ、最後にレミリアに通して言わせた悪口雑言。あれが唯一の私の本心だったな」
「お前えっ!」

「妹様、こやつはわたくし達が」 

咲夜がナイフを、パチュリーと小悪魔が魔道書を持って飛び出そうとした。

「黙れ」 

シャドールナが睨みつけると、窓から射す満月の光がいっそう輝きを増し、三人はその場で棒人形のように釘づけになってしまう。

「月の魔力に敵う者はいない、そしてその月を支配する私こそ、夜の王にふさわしい」
「ふざけるな!」

フランがレーヴァテインを出現させ、炎を纏わせてシャドールナに向けて投げつけた。
周囲にある残骸を発火させながら炎の槍が迫る。
しかし槍はシャドールナの眼前で宙に浮いたまま動きを止め、やすやすとその手に収まってしまう。

「私のレーヴァテインが」
「お前のような低位の妖怪にこれは使いこなせまい、私が教えてやろう」

ルナが槍を投げ返し、フランが防御結界を展開して防ごうとするが、槍は結界を貫通し、何の抵抗も無くフランの胸に突き刺さった。
姉の幻影が目の前に見えた。

(フラン、ごめんね、ごめんね)

「私は、利用されていたに過ぎなかったのか? お姉さまあああ!」

絶叫しながら仰向けに倒れ、光の粒となり、それがレミリアの残骸と共にルナに吸い込まれてゆく。

「かつてお前の姉が私にしたように、姉妹とも私の血肉となるが良い」

そしてまだ固まって動けない三人への魔力を解き、こう言った。

「現時点より紅魔館は私の指揮下に入る。これより、第二次妖精大戦争の開始を宣言する」





 宴会からの帰り、霊夢たちと別れて神社のミズナラの木に帰る。
満月が煌々と夜を照らしている。サニーは風景に違和感を覚えた。

「何だかいつもと違うような……そうか、月が見える、紅い霧がもう無くなってる。レミリアさん、異変を止めてくれたんだ」

景気づけに、チルノを誘って妖精会でも開こうかと考えながら参道を歩いていると、さらに不思議な気配を感じた。

「ルナ、どこ行ってたの、無事だったのね」

 目の前にルナチャイルドが立っていた。雰囲気は違えども、それは確かにルナチャイルドだった。
 サニーが駆け寄ろうとすると、ルナチャイルドだった妖精は距離を置き、冷たく言い放つ。

「私はもうお前の知るルナチャイルドじゃない。私はシャドールナ。今からお前達に宣戦を布告する」
「宣戦布告?」
「そう、人間と恐怖に陥れ、本来の立場を再認識させてやる。そのために第二次妖精大戦争を開始する」
「やめて、ただのイタズラなら喜んで協力するよ、でも、そんな事誰も望んじゃいないわ」
「その通り、だからこそやらなければならないのだ。サニー、いやブラック、私を止めたければ戦うがいい」
「ルナ、貴方は操られているのよ、目を覚まして、またスターと一緒に悪戯しようよ」
「これこそが本来の私、また会おうブラック」

 ルナチャイルドだった者は何も言わず、そのまま姿を消した。
 サニーミルクはしばらく茫然としていたが、やがて決意を新たにする。

「きっと貴方を元に戻してみせるわ、待っていて、ルナ」





無慈悲極まる現実。
しかし、ここで諦めるわけにはいかない。
幻想郷の平和を守れるのは彼女しかいないのだ。
サニーミルクBlack、君は負けてはならない。
 
CV:寺杣昌紀氏(うそ)

失礼しました。いちおう100作目の創想話作品になります。この話は大体原作準拠で終わらせ方も決めてあり、
たとえ低需要でも完結させようと思っています。
読んでくださって感謝します。
とらねこ
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