Coolier - 新生・東方創想話

もし紅魔館のメイド長が漫画ゴラクで連載中の白竜を読んだら。

2011/05/10 23:09:45
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 ――紅魔館の門外。

 朝陽が昇りどれくらい時間が経っただろうか。小鳥が歌い、湖畔から心地よい風が吹いた。
 誰もが笑顔になるであろう朝のはずだったが、ここに立つ二人は少々勝手が違うようであった。
 十六夜咲夜は嘆息し、紅美鈴は耐えかねたようにヘナヘナとその場に座り込んでしまう。

「もう限界ですよー……」
「たった一晩お嬢様のお相手をしただけでそんな有様とは、情けないわね」
「それは……咲夜さんだって人の事言えないじゃないですかー」

 指摘された通り、眩しいまでの旭日に照らされた咲夜の目元には、隠しがたいほどにくっきりとした隈が浮かんでいた。

「それに咲夜さんはたまに時間止めてお休みできるから……ずるいなー」

 美鈴は下から咲夜を見上げながら口を尖らせた。
 それに対して咲夜の反論は無かった。
 昨晩『も』行われたレミリア・スカーレットの大暴れぶりを思い出し、咲夜は軽い眩暈に襲われた。

「それにしても、昨日の一晩耐久6ボスごっこはさすがに今までで一番ハードでしたよぉ」
「お嬢様のスペルカードの効果を延ばして延ばして一晩で使いきるというルールだったけれど、そうねぇ」
「蝙蝠になったらこっちの攻撃1時間くらい当たらないし」
「しかもこっちは通常射撃のみだったから……さすがに辛かったわ」
「わたしだったから被弾しても大怪我ですんだものの、パチュリー様だったら最初の2時間で粉々になって死んでましたね」

 昨晩はレミリアの思いつきで行われた『遊び』でずっと本気弾幕を避け続けていたのだ。
 さらにその前は。

「レミリア・咲夜・美鈴による一晩耐久爆笑漫才ショーもやりましたね」
「観客がパチュリー様だけだったわね」
「笑わないし。滑れば滑るほどお嬢様のマジツッコミが厳しくなるし。もしパチュリー様だったら3ネタ目くらいで喘息が無い世界に旅立ってましたね」
「…………」
「今夜も、こんなことが続くんでしょうかねぇ」
「お嬢様もいずれは飽きてくださると思うんだけど……」

 ここ最近のレミリアは何故か非常に活発なのだ。
 以前のように優雅に紅茶を飲むのには飽きたらしく、毎日思いつきで『遊び』を企画し、それに咲夜や美鈴、果ては小悪魔やメイド妖精も駆り出される始末。
 そして最近、いよいよ紅魔館で働くものたちに疲労が見えてきたのであった。
 なんとかしないといけない、と咲夜は思ってはいるのだが。

(確かに少しお控えになってもいいのだけれど、あのお嬢様の煌めく笑顔を見ていたらそんな気分も吹き飛ぶのよねぇ。あの小さくて華奢で愛くるしい御姿が活発に快活に動かれるのをこう思い出すだけで、この咲夜……んほぉ……は、はな、鼻血出そうになっちゃ――)

「ねぇ咲夜さん?」
「何かしら美鈴?」

 妖しい二律背反に身を焦がしつつも、ふと涼しげな表情を美鈴に向ける咲夜。

「あれ、なんですかね」

 美鈴が指さした方向には1冊の本が落ちていた。

「本……のようね? 魔理沙に盗まれたパチュリー様の蔵書かしら」

 咲夜は落ちていた本を手に取る。

「あら漫画」

 こんなようなものを香霖堂で見た覚えがある。

「白竜……?」

 原作・天王寺大氏/画・渡辺みちお氏であった。

「パチュリー様に返しときましょうか?」
「いいわ美鈴。私が返しておくから」
 そう言いながら、咲夜はその本を胸に抱き、紅魔館へと戻って行ったのであった。
 表紙に描かれた男性が意外と好みだったのもあって、咲夜は部屋に帰ると、すぐに読破してしまった。
 それは、時には主人の為、また時には自らの為、そして部下の為、人の為にと動いていく快男児のストーリーだった。
 読み終え、机の上に本をそっと置きながら、咲夜はゴクリと喉を鳴らした。
 これだ、と。


 その夜――


 バァン! と図書館のドアが開かれ、咲夜を引きつれたレミリアが読書中のパチュリーに声をかけた。

「魔理沙とヤりたくないかしら!」指クィっ
「ふざけないでちょうだいっ!」

 ボンム! グリモワールがものすごい音を立ててテーブルの上に叩きつけられた。

「あなたに言われなくてもヤりたいにきまってるじゃ、じゃ、ごっふぉ! むっふぉ! ぶへ ぶへぁ!」
「あぁぁ! パチュリー様ぁ!」

 あまりにも興奮しすぎて激しくむせるパチュリーの背中を甲斐甲斐しくさする小悪魔。

「ひゅー……ひゅー……。そ、それでどういうことかしらレミィ?」

 呼吸を整えながらパチュリーはレミリアに疑問を投げかける。
 レミリアは待ってましたとばかりに笑顔で頷きながらパチュリーの手を握った。

「実は、魔理沙がパチェと話したいことがあるって……」
「え、うそ! ホント!? ちょっと寝癖とか大丈夫かなぁ」
「大丈夫大丈夫! こっちよ!」

 パチュリーは頬を赤らめながら立ち上がり、そそくさとレミリアに手を引かれ図書館を出て行ってしまった。

 残された咲夜と小悪魔は、遠ざかっていく二人の背中を眺めながら、

「うっわぁ……パチュリー様、ちょろいなぁ」

 小悪魔が呆れ果てたようにため息を吐いた。

「ねぇ咲夜さん……魔理沙さんはホントに来てると思いますか?」
「思わないわ」

 何か新しい『遊び』を考えたとレミリアは言っていたが、咲夜にもその詳細は伝えられていなかった。
 しかし予感は、ある。

「きっと、ひどいことになるんでしょうねぇ」
「今までのお嬢様のやり方を鑑みるに、そうねぇ」
「騒がしいのはいいんですが……いつまでこんな夜が続くんでしょうね」
「そうね……今夜で最後かもしれないわね」
「えっ?」

 小悪魔が疑問符を飛ばし、咲夜を見るが。

「あ……いない」

 既にその場からメイド長の姿は消えていた。


 ――パチュリーの興奮は限界まで達していた。

 それもそのはず。
 客間へ続く絨毯の上に、点々と魔理沙の服が散らばっているのだ。
 大きな三角帽子、上着、スカート……そして、

「ど、どろわ……」

 これはアレだ。
 レミリアを見る。

 レミリアは、ぐっ。(丸めた拳の人差し指と中指の間から、親指がにょっきり)

「おおぅ」

 パチュリーも、ぐっ。(丸めた拳の人差し指と中指の間から、親指がにょっきり)
 100年来の親友同士は、その所作と笑顔だけでお互いを分かり合うことができるのだ。

 パチュリーは息をするのも忘れ、客間のドアをゆっくりと開けた。
 軋む音ひとつ立てずに、すぅとドアが開く。
 中は暗く、蝋燭の炎がひとつあるだけだった。

「…………っ」

 中で息をのむ気配がした。
 いる。
 いるよ。
 パチュリーは、もう一度レミリアを見て、力強く頷くと――

「パチュリー……いっきまーす!」

 ぽーん! と部屋に飛び込む!
 滞空中にさながら脱皮の如く服から飛び出し、白い肌が蝋燭の光を反射した。

「むぅありさぁぁぁぁぁぁー!」

 パチュリーがそのままベッドへダイブ・イン!
 その瞬間。

 パシャ! パシャパシャ!

「むきゃーーーー!」

 フラッシュが盛大に焚かれ、パチュリーの悲鳴がこだまする。
 部屋の明かりが点けられ、目を白黒させるパチュリーの周りを射命丸文が目にも止まらぬ速さで移動しながら写真を撮りまくっていた。

「うっひょー! これはいい絵が撮れましたぁ! あのお堅いと言われていた図書館の魔女の意外な一面! これはいい記事になりますよー!」
「えっ!? えっ! えぇぇぇ!」
「それでは一晩耐久インタビュースタートです!」
「えぇぇぇええええええええ!?」

「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」

 驚愕の悲鳴を上げるパチュリーを見て、文字通り腹を抱えて笑い転げるレミリア。
 その横に、ふわりと咲夜が出現した。

「あぁパチュリー様……」
「あはははは。見て見て咲夜ぁ、ひーひー! ホントに騙されてっ、パチェのあの顔!」

 あぁ、このお嬢様も可愛い。
 咲夜は思わず歪んでしまいそうな口元を正した。
 昨日までの咲夜は、為すすべもなくレミリアの行動を看過してきただけであった。
 しかし、白竜には大切なことが描かれていた。
 それは――

「お嬢様、もういい加減になさったらどうです?」

 じゃじゃ馬お嬢様を躾ける方法だ。

「え?」

 咲夜は、静かに、顔色を変えることなく言い放つ。

「何? 咲夜? 何か言ったかしら?」
「えぇ。言いましたとも」

 咲夜はずい、とレミリアに近づく。

「な、なによぅ……」
「はっきりと申し上げます」

 咲夜が一歩進むと、レミリアが一歩下がる。

「ここ最近のお嬢様のお遊びですが、少々度が過ぎました」
「どういうこと? みんな楽しんでたじゃない」
「いいえ、内心皆疲れておりました。それに今夜だってご親友のパチュリー様にも悪戯をして」
「だって……だって……楽しいんだもん」
「大変申し上げにくいのですが、お嬢様の悪戯はこれっきりにしていただかないと、屋敷のものたちも疲れ果ててしまいますわ。今回だって突貫作業で魔理沙の服を作らせたでしょう? みんなへとへとです」

 咲夜は、レミリアの瞳をじっと見つめた。

「う……」

 一瞬ひるむレミリアだったが、すぐに気を持ち直し

「ふ、ふん! そんな脅しに屈するものですか! いい咲夜? あたしはレミリア・スカーレット。この紅魔館の主なのよ! お前たち使用人はあたしの……「そうですか」……ってなに!? どこ連れてくの!?」

 レミリアの口上を制し、その幼い手を引いて向かい側の部屋にレミリアを連れ込んだ。

「あそこで反省していただけなかったのは仕方ありません」
「え、なに?」

 咲夜はどこからか取り出した紐でレミリアを後ろ手に縛った。

「なにこれ! き、切れない!」
「特注品です」
 笑顔で答える咲夜は、すす、とレミリアの背後に回る。

「……なに? なにするの?」

 不安そうに振り返るレミリアの目に飛び込んできたのは、ゴム手袋を両腕にはめる咲夜の姿が。
 ギュ、パチン。ギュ、パチン。
 装着完了。

「なに? なに? えっ! なんでそこ広げるの!? えっ! えぇぇ!?」
「白竜さんは言ってました。じゃじゃ馬にはお仕置きが必要だと」
「白竜さんって誰よー!」
「そして私のお仕置きは……これです」
「あ、そこだめ! ダメダメダメダメ!」

 咲夜の瞳が鈍く光った。それはまるで、あの若頭のように!

「不本意ですが。不・本・意・で・す・が! いざお覚悟ぉ!」
「ああああああああああああああああああ――――――――――――――――!!」

 レミリアの悲鳴は果たして、咲夜の空間操作により、誰にも聞かれることはなく――


 ――次の日の夜

 美鈴は安堵した。
 紅魔館の庭では、ぽっかりと浮かんだ満月の下、優雅なお茶会が開かれていた。

「お嬢様、おかわりですよ?」

 時を操作し、レミリアの隣に出現した咲夜は、空になった主人のカップに紅茶を注ぐ。

「ひっ! あ、ああぁぁありがとう咲夜……さん」カチカチと音を立てながらカップを口へ運ぶ。
「ふふ。喜んでいただいて嬉しいですわ」

 遠目には笑顔のお茶会。
 何故いきなり平和な夜が戻ってきたかと美鈴は不思議でならなかったが、きっとお嬢様も飽きたんだろうなぁ、ということにしておいた。

「そういや咲夜さんが持っていった本、わたしも今度読ませてもらおうかな」

 美鈴の独り言は、星々に彩られた夜の空へと吸い込まれていくのであった。




(終わり)
おおとりですこんばんわ。
漫画ゴラク、好きですか?
もしドラが流行っているので書きました。お嬢様にカリスマが無いですね、それもそれで可愛いと思います。いとおしい。
楽しんでいただければ光栄です。

ちなみにもしドラは読んでません。
おおとり
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コメント



0.430簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
カリスマの感じられないお嬢様もかわいい
12.100名前が無い程度の能力削除
人を選び過ぎるネタですね。好きですけど!
次は遊園地デートとかでしょうか。
14.無評価名前が無い程度の能力削除
デスブログならぬデスマンガのあれかw
三連続で予言したんだよな
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情報流出編→ソニーPSN大量クレカ情報流出
ストーリーはともかく取材がしっかりしてて好きです