Coolier - 新生・東方創想話

神社に辿り着くまで

2012/12/24 18:30:42
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「はーっ、はーっ、はーっ。」

 村を出てまだいくばくも過ぎてはいない。だが、早くも息切れしていた。
 理由は単純、恐怖だ。

『おい、肝試しやろーぜ。』

 冬にもかかわらず、しかもすでに日は落ちたというのに、飲み会でそんなこと言う奴がいた。くじ引きで負けた自分の運のなさも、そいつも恨めしく思う。

 ザワザワザワっ

 道のわきの林から音がした。

「!?」

 後ずさりしつつ『石油ランプ』をそちらへ向け、その林を凝視する。

(なんだ、何がいるんだ! 妖怪か? 熊か? イノシシ? それとも妖精の悪戯か?)

 何も出てこない。ただ、光を吸い込む闇がそこにあるだけ。風かなんかだったのだろう。
 その程度に神経質になっている自分に、なぜか強烈な憤りを感じた。

「くそっ、なんだっていうんだよ!」

 叫んだ。

 叫んだ後に訪れる静寂。

「「はーっ、はーっ、はーっ。」
『どっく、どっく、どっく。』
 自分の呼吸と動悸だけが聞こえる。うるさいくらいにだ。

 村から神社まではそれなりの距離がある、しかも神社は高い位置にあるので、峠道をいくつも越えなければいけない。

「妙だな…。」

 通行人が少ないはずなのだが、どうしてか道はそれなりに整理されており、しっかりと踏み固められた土の道の両脇は石で補強がされていた。しかし、道には人里にはある街灯が一切なく、月明かりはわずかに道に降り注ぐのみ、道の両脇の木々は闇に染まっている。何が飛び出てくるかは一切わからない。
 
 「熊が出てきたらおしまいだ。いや、熊はもう冬眠中か? だとしたら妖怪だな。まてまて、妖怪は恐怖する人間が好物なんだって、怖がっちゃあいけないよ…。」

 ランプの明かりは絞って正面の道にのみ放たれるよう調節し、目をぎょろぎょろ左右の木々を行き来させ、耳はどんな些細な音も聞き漏らすまいと研ぎ澄ませ、足は速くこの恐怖から逃れようとシャカシャカ動かし、恐怖を紛らわせようと独り言をぶつぶつ言いながら神社へと向かっていった。

 登り道、登り道、登り道。 闇、闇、闇。

 時たま聞こえる何かしらの音や、よくわからない気配に神経をすり減らしながら、着々と神社へと向かっていった。

「あーっくっそ、もういやだ、畜生。なんでなんだよ、くそう、もういやだ…。」

 コソリ

「っ!?!」

 何か聞こえた。気のせいかもとかそういうことはもう考えられなくなっていた。 もう限界だ。もう限界なのだ。

 走り出す。

「はっー、はっー、はっー、はっー! くそう、くそうくそうくそう!」

 ひたすら走り続ける。もう何も考えちゃいない。思いついた悪態を意味も考えず口ずさみながらひたすら走り続ける。

「くっそ、もうだめだ…。走れない・・・。はー、はー、はーぁ…。」

 ついに足が止まる。自分が今どこまで進んだとか、人里から出てどれぐらいたったとか、そんな感覚は失っていた。ただ止まると何かに襲われそうだと思い、ふらつく足を引きずりひたすら前進する。

「畜生、畜生、畜生っ! くそ、こんなとこで死にたくねえ。」

 独り言が弱音ばかりになってきたとき、明かりが見えた。屋台があったのだ。

 『八目うなぎ』と書かれた垂れ幕と提灯がある。お店はやっているようで、湯気がもうもうと屋台から溢れていた。香ばしいにおいもする。

(助かった! 人だ、人がいるぞ! やった、やった!)

 心の底から安堵しつつ、屋台へ向かった。垂れ幕をくぐり、席に座る。

「いらっしゃ~い♪ はいお茶。珍しいわね~、こんな時間に。」
 屋台の主は少女だった。それと同時に確信した、この子は妖怪だ。だが、こういう仕事をしている妖怪は、その邪魔をしない限りは襲ってこないことを知っている。
 ひとまず、メニューを見て、おなかがすいていたので八目うなぎの串焼きとご飯、それと吸い物を頼んだ。
「あいよ、注文入りま~す♪ 串焼きと~ご飯♪ あと吸い物♪~。」

 陽気な店主の歌を聴いていると、 先ほどまでの恐怖は消え去り、落ち着いた気分へと変わっていった。屋台は厨房のおかげで温かく、自身の体をあっためてくれた。今まで気づかなかったが、自分の体は冷え切ってしまっていたようだ。

「お客さん、汗びっしょりだよ、これつかいなよ。」
「え? ああ、すいません。」

 店主から受け取った手ぬぐいで首や顔をふくと、見る間に手ぬぐいはべとべとになった。汗もかいていたようだ。

「はいおまち♪」

 頼んだ品々はどれも美味しそうで、実際うまかった。人里でもこれほどのものはそう味わえない。…ちょっと値段が高いが。
 
 暇なのか店主が話かけてきた。

「夜に運動かい? 度胸は認めるけど、自殺行為だね~♪」
「いや、かくかくしかじかでして・・・。」
「あははは♪ よくやるねえぇ。貴女運がいいわ、今日は私がここにいるおかげで、ほかのやつらは大体引っ込んでるから。」
「そうなんですか。」
「狩場が被ると互いの利益にならないからねぇ~♪ 神社まではあと少しよ、頑張ってね~。」
「御馳走様です、この店不定期なんですか?」
「ん? さあ? わすれちゃった。」

(鳥頭…。)

 お店を後にし、再び歩き出した。屋台に入る前とは打って変わって、大分恐怖が薄らいでいた。妖怪に勇気づけられるというのも変な話だが、店主のおかげで気が楽になっていた。

 相も変わらず暗闇の中を進んでいくが、心に余裕があるため、星空や山の空気、夜の景色などを楽しみながら進むことが出来ていた。

「お、雪だ。」

 雪もちらちらと舞い始めた。うっすらと山へ積もってゆくそれは、石油ランプに照らされ幻想的な美しさを醸し出していた。

『…じゃ、くりすますってのをやるらしいぜ。』
『なんなの、それは。』
『真っ赤な「さんた」って奴が家に侵入してだな…。』
『そんな迷惑な妖怪もいるのね。退治するのが面倒だわ。』
『妖怪じゃないぜ…。』

 少女たちののどかな話し声が聞こえてくる。もうすぐ神社なのだろう。

(そういえば神社の近くに温泉が湧いたって聞いたなあ、ついでに行こうかなぁ。屋台も美味かったし、偶にだったら神社に足を向けるのもいいかもしれないなぁ。)

 のんびりとそんなことを考えながら、神社へと向かう足を速めた。
もし、村人が依頼以外で神社に行くとしたらこんな感じじゃないだろうと想像しつつ書きました。夜の独りの神社はこわいですぜ、皆さんもぜひ挑戦してみましょう。私は二度と行きたくありませんが(笑)
まあ、彼は本当に運がいいだけで、幻想郷じゃ十回神社に行って三回ぐらいは死ぬか、襲われるんじゃないでしょうか。
最近はキャッチアンドリリースが主流らしいけど・・・どうなんだろ。どっちにしろ野生動物に襲われたらお終いだね。
日傘野夏花
[email protected]
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コメント



0.230簡易評価
7.70名前が無い程度の能力削除
みすちーに喰われて終わりかと思ったら、意外や意外、まさかたどり着くとは…!
ただし、帰りはどうなるかな……?
8.80名前が無い程度の能力削除
度胸試しでもなければ夜の山に入ることなんてしないですもんねえ
冷やかしで神社に行ったら妖怪よりも怖い巫女さんに遭遇しそうだ
9.603削除
妖怪さんに会えるなら肝試しも悪くない