Coolier - 新生・東方創想話

Q.目覚めたら友人と一緒に寝ていたんですがどうすればいいんですか。(質問者:橋の下の姫)

2015/12/25 03:27:39
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A. 別に問題ないように思えるけど。(回答者:アイドル(笑))

Q. いや、両方も裸なのよね。(質問者:橋の下の姫)

A. お赤飯炊いておくよ。(回答者:ユニコーンがライバル)










待て、待て待て待て。

私は水橋パルスィ、皆さんご存知の嫉妬ガールよ。
趣味は嫉妬で特技は不幸自慢、日々の日課はもやしを育てる事。
良いわよねもやし、あのひょろっこくて不健康なのがすくすく育つの妬ましいわね。

昔々に浮気されてからカッとなったらいつの間かに妖怪になってたわ。
未だにそのせいで男性恐怖症よ、まあ殺しちゃったの私だけど。
暴れまわったのは覚えているけれど正直その時の記憶ってないのよね、妬ましい。
気付いたら退治されてるし、いつの間にか旧地獄の橋守りなんて仕事についているし。

地獄なんて言われるからどんな世紀末なのかビクビクしてたんだけどね。
ありえないぐらい気の良い奴らが多くてびっくりよ、妬ましい。
統治者の勇儀とかありえない位懐が深いし、妬ましい。
男性恐怖症とか告白したらそれとなく配慮してくれるし、本当に妬ましい。

ただ胸がでかいのは本当に妬ましいわ、捥げればいいのに。
あとモテモテなのは頂けないわね妬ましい、千切れればいいのに。
それも男だけじゃなく女にもでしょ? 妬ましい、ああ妬ましい。
良かった、まだまだあいつにも妬める場所があったわ。
無理矢理探さないと妬む気分すら起きない程世話になってるのよね……妬ましいわ。

それで、それで?

ああそう、もう一人お世話になってるのが居たわね。
古明地さとりよ、さとり妖怪なんて色々妬ましい種族の妖怪。
色々あったらしいけれど、なんだかんだで地霊殿なんて場所に引き篭ってるのよ。
モフモフのペットに囲まれて悠々自適のニート生活、お金の心配もない衣食住付き。
これは私じゃなくても妬ましいわ、間違いない。
誰だってそんな生活したいわよ、くそ妬ましくて死にそうになるわ。

妬ましい、ああ妬ましい、猫の尻尾を踏んで引っ掛かれればいいのに。
そう考えながら地霊殿に妬ましビームを飛ばしてたら見事に見つかったのが初対面。
あの時は驚いたわ、心臓が喉から出たかと思った。

へ? なんでそんなことしてたかって? あんた橋姫の暇さ舐めるんじゃないわよ。
昔だったらいざ知らず、封印された今は往来も無い橋、つまりはノージョブ。
今は私も立派なフリーターよ、職を探しに旧都まで来ることだって珍しくないわよ。
まあ……一応是非局直庁から給金は来るけどね、それじゃ足りないの。
遊び呆けられるだけのお金でもないし、最低限の生活は出来るけれどね。
どうせなら娯楽も楽しみたいじゃない、甘味巡りとかしたいじゃない。
最近は旧都の西で鯛焼屋が開店したんだけど最高に美味しいのよ、人が多いのが難点だけど。

そうそう、人が苦手なのよね、話すことが苦手というか。
勇儀とか仲の良いの相手だと普通に喋れるんだけど、初対面とか本当に駄目なの。
人見知りが激しいのは橋姫になる前からってのは覚えてるわね。
そう考えるとこれは唯一私に残った人間だったころの残滓かしら、くだらない。
こんなのを残していてもしょうがないのに、妖怪になった時に消えればよかったのに。

そんな訳で私に舞い込むのは大抵掃除、それも水回りのお仕事。
幸い鬼でもあって神様でもあるからそこら辺は得意だし、人とも会話しなくていいし。
そこそこ順風満帆な生活、高望みしなければ色々と楽しめる一番いい感じ。

ただねぇ、やっぱり欲ってのは恐ろしいわね。
愛欲にしても、強欲にしても、一番よく知ってる私が胸を張って言える事。
欲って切り捨てられるようで絶対に捨てられないわよ、どこまでもついてくる。

私はフリーター、貯金するのが数少ない楽しみ。
彼女はニート、ただし将来有望でお金持ち

くそ妬ましいと思っちゃうのも仕方ないと思わない?
思うでしょ? ねえねえ思うでしょ? 妬ましいでしょ?
そんな訳で私の日課の一つには『地霊殿が見えたら嫉妬電波を飛ばす』があったのよ。

ええ、バカだったわね、大バカ者だったわね。
心を読む妖怪だけあって、しっかり検知されてたなんて言われてから気付いたわよ。
どうせ真正面からじゃないと心なんて読めないだろうと思ってたこともばれてたわよ。

いきなり拘束されてからさとりの前に出された時なんてもう、死ぬかと思ったわ。
殺されるんじゃなくて死ぬの、緊張とかで死ぬのよ私、自殺よこれ。
小市民なの、浮気なんてされなかったら一生一般人Aで生きていくぐらいの平凡精神力なの。
そんな私が不敬な事を考えていたなんて罪で引っ立てられたから……ああ、思い出したくない。

初対面のさとりがあまりにも外見あれ過ぎるだとか考えもしなかったわよ。
考えていることは、ただただ死にたくない――これだけ。
さればやることは一つしかない、日本に伝わる絶対的な防御方法。


――あのですね、あなたが橋姫とは知っていますが……ちょっ、なにやってるんですか!?やめてください、いきなり頭を下げて……待ってくださいよ、床に頭を擦りつけないでください!そんな事求めてませんか……お空!? 待って、これは違うの、誤解なの! この人が勝手に……ああお燐、やめて下さい、そんな軽蔑した目で見ないでください。というよりなんでこいしまで居るんですか!? 待って、いつも姿を現さないのによりにもよってこのタイミングとか冗談じゃないんですが……やめて、写真撮らないでくださいってあなたは何考えてるんですか、そんな事要求してませんから! 「せめて風俗嬢になるぐらいにしてくれ」ってあなた自分を安売りし過ぎでしょう、すみません、申し訳ありませんから頭を上げてください、泣きますよ、本気で泣きますからね!?


そう、土下座だ。
自主的にやられたらそれ以上言うことが出来なくなる、プライドを捨てた最大防御。
日本人らしい奥ゆかしさすらかなぐり捨てた最後のカードを躊躇なく切った甲斐はある。

なんだか知らないがさとりから謝ってくれたが、当時の私はほっとして漏らしそうだった。
事実少しだけ漏れたかもしれない、緊張しすぎて気づかなかったけど。
プライドで飯は食えない……そう実感した日だったわ、矜持が無くても飯は美味いのよ。

さとりが言うには、あんまりにも頻繁に妬ましい感情が飛んでくるからテロを警戒したらしいわ。
そんなに回数をしている自覚はなかったけどって言ったら溜息を吐かれたけど不本意ね。


――妬ましい? ああ、どうせパルスィだろう


偶然やってきた勇儀の弁によってあっさり犯人が割れたと言われた時は勇儀を憎んだわ。


――ただあいつがテロなんて無いな、この星熊勇儀の名を賭けて保証する。


そう言われた時は自分を恥じたけど、なによそれ妬ましい。
本当にあいつは格好良すぎるのよねぇ、人気があるのも分かるわ妬ましい。
男らしいというか何と言うか、会えてよかった存在であることは間違いないわ。
勇儀がいなかったらまた何かが原因で暴走していたかもしれないし。

それはさておくとして、面識が出来た私とさとりだけど。
あの土下座が利いたのか、別の理由か、時々私に仕事を斡旋してくれるようになったわね。
時々呼ばれて一緒にお茶を飲んだりもする仲かしら。

私はあんまり話し上手じゃないのよ、内心ではこうやって色々と考えてるけど。
表現するのが苦手なの、人間だったころから色々と溜め込むたちだったみたい。
色々と考えて、話せなくて――激情もなにもかも、飲み込んでしまうから。

だからさとりとは相性が良かったんだと思うわ。
こちらの言う事を聞かず、心を読んで傍から見れば一人ごとを呟く地霊殿の主。
あいつにとって私は、うるさくないけれどちゃんと会話が出来る存在と思われていたのかも。
詳しくは聞いた事もないけれど、聞くつもりもないけれど。

話すのが苦手な私と、聞くのが苦手なさとりは、妙に上手く噛み合っていて。
その“会話”が楽しいから、週に一度か二度はお話して。



……頭がズキズキする



友達だと私は思っていたし、そしたらさとりも友達ですねって言ってくれたし。



……ぐわんぐわんと、鐘が鳴り響いているみたい。



だからそうだ、『クリスマスなんてくそくらえ、性の6時間ぶっ通し酒盛り』なんて。
二人で企画して、滅茶苦茶強いお酒を持ち寄って地霊殿で飲んで、それからそれから……。
訳の分からない歌を歌ったのは覚えている、皆死ねばいいのにと笑い合ったのも覚えている。



……そろそろ、現実と向き合わなきゃ。



現実? なにそれ。
私が地霊殿のベッドで寝ている事? まあ何度かあるし普通よね。
なんでか素っ裸な事? まあ、お酒に酔うと体が熱くなるし。



隣から聞こえる甘い声、汗ばむ肌
ほのかに残る強い酒の残り香、それですら消えぬ別の匂い
握る手はか細く、辿っていけば服すらつけていない素肌が―――――



…………

……

待て待て待て待て待て待て、思い出した。
思い出した! あー、思い出したわ! 思い出したくなかったけど!
現実逃避のつもりでこれが夢でないか確認するつもりが戻ってきちゃったじゃないのよ!

えっと、そうよね、流石に逃げてばかりじゃいられないわよね。
そろそろ向き合わなきゃ、碌な結果にならないと思ってるけど大人ってそんなものよ。
そうそう、最初から最初から順を追って、順を追ってね。

私は水橋パルスィ――違うわ、ループするわよこれ。

あー……そうそう、そうなのよ。
地底でもクリスマスの文化がなんでか流行り始めたのよ。
まあ、どうせお祭り好きな勇儀だろうけど、そのアンテナの高さが妬ましいわ。

しかもあれよ、その概要が『好きな奴とズッコンバッコンする日』とかド直球よ。
なによそれ、もう少しましなこと考えなさいよ、ムードとか体裁とか。
まあ鬼にそれを求める時点で野暮だけど、知ってるけど私は間違ってはいない筈よ。


さとり、クリスマスとかマジくそくらえね。
そうですね、酒でも飲まなきゃやってられませんね。


いつもの通りさとりの独り言で会話は終了、これがクリスマスイヴ前日のこと。
ちなみにクリスマスイヴってなにかってば前夜祭みたいなものらしいわ。
何でもイヴに盛り上がり過ぎてクリスマスはしらけムードみたい、なにそれ。
料理で言えばあれかしら、前菜がマツタケでメインが白米大盛りみたいなものかしら。
そんなこと考えてたら「パルスィの贅沢って……」と言われたから頭叩いておいたわ。

そこから先はとんとん拍子、クリスマス一面のムードの中酒樽を担いで地霊殿へ向かう私。
黙々と、淡々と、無言の無表情で丸太のような高級な樽を輸送する私。
周りでイチャイチャするアベックとか見えない、死んだらいいのに。
こちらを見て薄気味悪いものを見る目で指差してくるアベック、今日破局したらいいのに。

妬ましい、妬ましくて妬ま死してしまいそう。
ただ私には希望があるのだ、友人と酒を飲んで過ごすだなんて贅沢が待っているのだ。
そう思えば死んだ目に光が灯るけれど、光ってるのが湖底だから表面的にはやっぱり目が死んでたらしいわ。

地霊殿に来たらさとりが待っていてくれた、流石私の友人ね。
非モテで職無しの絆は硬いわねとか思ったら微妙な顔をされたけど。

さとりは首尾よくご馳走の用意をしてくれていたわ、地獄鴉の丸焼きやらなんやら。
人払いも済ませてあるのねとか言ったら、「ペットはみんな……」とか地獄の底のような声を出したから抱きしめておいたわ。
大丈夫よさとり、その苦しみは私も立った今味わってきたわとか言ったら無言のハグ。
私達は繋がってるのよ、こんにゃくより堅い絆でね。

ちなみに勇儀は誰かと過ごすでもなく治安維持してるみたい。
こう言う所はしっかりしてるので妬みどころが無くてつまらないわね。

ヤマメ? 死んだわ。
少なくとも私の心の中では七度ぐらい死んでるわ。

豪勢な料理に、貯金を叩いて買ってきた高級なお酒。
お金は溜める為じゃないのよ、いつか使うためにあるのよ。

そこから先はもう、えらいお酒がすすんだわね。
もう三分に一杯ペースでお互い飲んで食って、肩を組んでタップダンスして。
どうせ地霊殿のペットなんて皆どこかでにゃんにゃんしてるし、人目を憚らなくていいし。

それで――そこから先は覚えてないわ、意識が完全に飛んでるし。

まあ、なにがあったかは大体わかるけれど、そこまで鈍くないけれど。
だってこちとら人妻よ? 夫はぶち殺したけど浮気の結果だしセーフ。

うわぁ、自己嫌悪でやばいわこれ。
お酒に酔って、勢いでベッドインとかまんまクリスマスの趣旨そのものじゃない。
あんだけさとりとけちょんけちょんに言ってたそのままじゃない。
妬ましいわ、お酒の勢い妬ましいわ――ああもう、混乱してきた。

私は女で、さとりも女。
間違いないこと、実際に裸を見た事もあるし。
同性でベッドインなんて考えもしなかった。

それ以前に、私はなにかしら……友人を抱いたの? 抱いたのよねこれ。
今まで友人だってずーっと思ってたさとりを、酒の勢いで?
押し倒したのかなし崩しなのかは知らないけれど、抱いちゃったの?

……うわぁ

最悪よ、私。
さとりが許可するなら今ここで舌を噛み切りたい気分よ。

女性同士ならまだ大丈夫だったわ、見ず知らずの男性とよりも嫌悪感は薄いし。
ただ、相手がさとりって――お互い同意ならまだしも、酒の勢いでって。
とんでもない屑の女狐、売女、どんな言葉でも言い表せない醜悪な本性。

結局さとりをそういった目で見てたって事?
友人じゃなくて、そっちの目で?

……まだ分からないわ、言っておいて分からないけれどまだまだ決定的じゃないかも。

だってほら、あれじゃない。
お互い女同士だから性的やりとりが無かったかもしれないじゃない。
単純に暑いから脱いでそのままぐっすりとか、あるかも。
私だって夏の熱い時は下着で寝ちゃうし、お酒で火照ってるならその線はあるわよ。

イケるイケると謎の自信を拳に握りしめていると、さとりがムズムズと唸り始めた。
握り合ったお互いの手をどうするか躊躇ったけど、しっかり指が絡んでるし。
……じんわりと、再び汗が背中を滴る感覚が気持ち悪いんだけど。



パッチリと開く目蓋、第三の瞳。
その眼がこちらの姿を認めれば、赤らむ頬。


――あ、パルスィ……


おずおずと、まるで何かを確認するように身を竦めながらこちらを見るその表情。
見た事がある、経験したことがある、心臓が早鐘を打ち始めた。


――……その、おはよう、ございます…っ


甘く蕩けるような声、こちらを友人ではなく別の存在として認めているような。
一夜にして変貌したその視線は、ある一つの事実を指差していた。

古明地さとりは、女の目で自分を見ていた。
間違いようもない残酷な事実は、もう一人の酷く柔らかい心臓に突き刺さった。














逃げてきてしまった、逃げてきちゃった。
恥の上塗りって気分じゃないけど、今はもうやけっぱちの気分が強いというか。

だって友人がこちらを見てくる視線が今までと全然違うんだもん!
どうしていいか分からなくなって、気付けば旧都を駆け抜けていたのよ。

素っ裸で
パンツすら履かないで、すっぽんぽんで
どうでも良いけど履かないと儚いって読み方同じよね。
服を着る事は儚い夢の如く――自分でも何を言いたいのか分からなくなってきたわ。

旧都を裸のまま必死に駆け抜ける橋姫――うん、新聞の一面記事にはぴったり。
エキセントリックさも話題性も十分、明日から私は全裸の橋姫とか呼ばれるようになったら軽く死ねるわね。
ただ、昨日は乱痴気騒ぎが各地で会ったらしく素っ裸なんて沢山居たから実際は平気かも。
というか普段から裸族なんて居るし素っ裸程度で慌てた私が早とちりし過ぎたかも。
ああ妬ましいわ妬ましい、その恥を知らない性格が妬ましいわ。

妬んだら大分平常心を取り戻してきた、よしよし。
まあ残念ながら現実は変わらないけどね、いやになっちゃう。
このまま考えてもさっきと同じ鬱々しい思考になるから一杯酒でも流し込みましょう。

お前も懲りない奴だなとか誰か思ってない?
地底じゃこれがルールなのよ、『とりあえず酒を飲め』ってのがね。
迷いは酒で断ち切ろう、二日酔いは酒を飲めば治る、そういうものよ。

とりあえず私はさとりを抱いてしまったんだろう、これは認めるとしましょう。
だったらどうするか、逃亡も含めてどうしなければいけないか――考えるのはここね。

パーラッパパーパーパーと音がして、私の頭の中でぐるぐるとまわりだす円卓。
そこに座するは皆一様に同じ顔、私の顔が勢ぞろい。
これがさとりだったらよかったんだけど、不景気な私の顔だから気味が悪いわね。

そう考えているうちにガタリと立ち上がったのは、見るからに真面目そうな私。


「まず第一にすべきことは迅速かつ効果的な謝罪である! 逃亡など言語道断、本来ならば軍法会議の末、反論はないものとして極刑免れんことだが古明地さとりの許可なくしては身勝手な自殺に過ぎん。まずは被害者に即刻謝罪し、その後正式な場で腹を切るべきである!」


いや誰よあんた、私だけど。
多分一番真面目な私だけど、あまりにも誰これ過ぎるわよ。
しかも切腹って、目の前で私が腹を切った方がトラウマ植えつけるんじゃないかしら。


「一先ずは事実を追及するべきじゃないのかしら。」


そう言いつつも立ち上がるのは眼鏡をかけた知的な私、新しいジャンルね。
それなりに眼鏡は似合ってると自負してるけど、さとりには敵わないわね。


「謝罪はするとして、その後腹を切るにしても何があったのか分からないままじゃお互いに禍根を残すわ。せめて何があったのかを聞いてみるのが道理、その後改めて申し開きでもなんでもするのがいいんじゃない?」


一人目の私が不満げな顔をしているのがよく分かるわね。
けれどもこれが一番理にかなっているというか、参考になりそう。
ただ――と思った矢先に、如何にもダルっとした私が口を挟んだ。


「いいんじゃない? さとりが何も言ってこないなら関係を続けて。どうせ体の関係なんて旧都じゃありきたりだしさ、波風立てないよりも穏便に行くのがいいんじゃないかしら。ほら、今までの友人関係が崩れちゃうのが怖いんでしょ?」


どうせ一夜の過ちよぅと、そのまま突っ伏す私には色々言いたいことはあった。
けれどもその甘い言葉は、私の足を引き留めるのに十分な力を持っていた。

さとりは私の大切な友人だ、勇儀を除けばたった一人しか居ない。
彼女と話す頻度で言えば、多分旧地獄で一番付き合いがある。
その関係を失いかねない一歩を踏み出す必要はないのではないだろうか?

このまま誤魔化し続けても良いのではないだろうか。
さとりは言う必要のないことは言わない性格だ、それは分かる。
だからこのまま、この一夜のことは忘れて水に流すのがいいのではないだろうか?

愚かな誘いだとは分かっている、悪魔の誘いだとも理解している。
ただそれは、あまりにも甘美で蠱惑的な誘いだった。


「バカね」


ただ一言で、一蹴する私が居る。


「さとりの遠慮がちな性格に付け込む気?」
「そうじゃないわよ、さとりだって今の関係を望んでると思わない?」
「内心では最低の下衆として蔑まれるかもしれないのよ。」
「そうだ、そんな事を思われるのならばいっそ関係なぞ壊れてしまえばいい。」
「本当にそう思っているの? さとりと友人として話せなくてもいいと思ってるの?」
「それは……」


悪魔はどれもこれも弁舌巧みだ、あっという間に私の脳内会議に毒の紅茶が回り始めた。
このまま何事もないかのように帰ればいいのではないか?
心を読めるさとりは、私の意図に気付いてくれるだろう。
それをさとりが飲んだのならばそれでいい、飲まなかったならその時考える。

誰も傷つく事無く済ませられるのではないか?
それが一番適切なのではないか?


「……ちょっと、あんたも参加しなさいよ。」


助けを求めたように、誰かが声を掛けるのは最後の私。
真面目に議論を進めている他とは違い、この私はこの状況でも飲んでやがる。
口からむわっと酒の匂いを漂わせながら――完全に酔っぱらっている様子の彼女は。


「いっそ、この際さとりに告白すりゃいいんじゃないの?」


とんでもない爆弾発言をぶちかました。
しんと静まり返る円卓、慌てるのは私だった。


「え、えっ。」
「抱いたんでしょ?」
「そうみたいだけど。」
「さっき、さとりの反応を見た?」
「一応ね、はっきりとではないけど。」
「あの反応、私に気があると見て良いと思うんだけど。」
「へっ?」


考え込んでみる、確かにさとりは恥ずかしげにしていたけれど怒りはしないかった。
むしろ甘えてきていた気がする――なるほど。
まあ、のめのめとやけに手慣れた様子で進めてくる酒飲みの私に従ってもう一杯。
酒のせいか画期的なアイデアからか、大分思考が暖まって来たわね。


「でも、私達女同士よ?」
「旧都に何組のレズカップルがいると思ってるのかしら。」
「友達だったし。」
「なんでそれがランクアップしちゃいけないの?」
「身分的に吊りあわないかも。」
「平気平気、ラブパゥワーは100万超人パワーだから。」
「でもでも……」
「まあ飲みなさいよ、杯を空にしちゃいけない、寂しがらせちゃいけないって勇儀も言っていたわ。」


確かに、勇儀の言った言葉ならば従わなければならないだろう。
なんだか私の額から朱の立派な角が生えてきている気がする、気のせいだろう。
きっとこれは酒のせいだ、酒のせいなら仕方ない、酒だから。


「……ひっく、さとりは私のこと好きなのかしら?」
「脈ありよ、大動脈級の脈ありと見たわ。」
「勝算はある?」
「押せばいけるわ。」
「謝罪とか、事実追及とかは?」


円卓を囲んでいた他の私に聞いてみるも――なんと、全員が酒を飲んでいた。
凄い酒臭い、私の頭の中がお酒臭くなってる。


「謝罪は抱いた後でいいんじゃないか?」
「事実追及はまぁ……ピロートークで?」
「既成事実って大事だと思うの。」


どいつもこいつも最低な事しか言っていない気がするけれど、きっとお酒のせい。
でも段々と体に力がみなぎってきた気がする、お酒のエンジンで100万馬力よぉ!


「よし、やるわ。」


さとりに告白する、その後でとりあえずもう一度抱く。
だってさとり可愛いし、きっと良い声で鳴いてくれるし。
鏡を見ると、自分の目が異常に座っているのがよく分かった。

思えばそうだった気がする、私はさとりが好きだったのかもしれない。
友情と取り違えているうちに、彼女にそれ以上懐いてはいけないと思ったのかもしれない。
いやそうだ、きっとそうだ、私はさとりが好きなのだ。

酒の勢いではない、断じてない。
まだ7杯目なのに酔ってるとか、そんなのありえないから。



















◆ ◇ ◆



どうもみなさん、古明地さとりです。
ええ、引き篭りだの小五うんたらだの言われてる古明地さとり本人です。
これでも地底の管理者をしてるんです、えらいんですよ。

現在はまぁ、少し乱したベッドの上で勝利の快哉を小声で叫んでいる訳ですが。
大声を出すのも苦手ですし、第一勝利と言うのは非常にその……ささいなことなので。

私には友人がいます、大切な友人です。
名を水橋パルスィと言い、旧地獄の通行を担当していました。
現在は閑職の様子ですが……幸いにも彼女に働く意欲があるようなので良かったです。

というのも、そうでなければ彼女とのつながりは出来なかったでしょうから。
水橋パルスィと私の初対面は……ええっと、まあ色々ありました。
けれどもその後、私と彼女の付き合いは途切れることなく続きました。
職を斡旋すると言った事を繰り返していくうちに、我々は段々と打ち解けていったと思っています。

それは彼女が私のことを都合のいい人間だと思っていたからかもしれませんが……。
ふふ、冗談です。なぜならば私は心を見る事が出来ますから。

時折ペットではなく生きた相手と話したい、そう思う時があります。
従順に私に言う事を聞く訳でもない相手、大抵の場合それはパルスィでした。
元より話すことが苦手なのでしょう、彼女は私と付き合うにはもってこいの性格だったのです。

最初は少し不安でした、これほど私が彼女と会っても嫌に思われていないだろうかと。
けれども、彼女の中に嫌悪感が芽生える事はありませんでした。
それどころか心地良さ、信愛すら感じられたのがどれだけ嬉しかったでしょう。

その後も私と彼女の付き合いは続きました、あの時よりより親密にもなりました。
一緒のお風呂にも入りましたし、添い寝もした事があります……まあ、そこまでですが。
彼女にとって私は友人です、私にとっても彼女は友人です。
時々悪戯をしたり驚かせたりする仲です――今回のこれも、その延長線に過ぎません。

簡単な話でした、酔っぱらったパルスィをそれとなくベッドメイクした寝室に寝かせるだけです。
裸になることに関しては少し抵抗感がありましたが、これが初めてという訳でもありませんし。
それよりも私は見たかったのです、彼女が寝起きドッキリされて驚く姿を。

結果は予想以上の戦果を上げました。
私が寝たふりをしていることにも気づかず、彼女は30分ほど延々と悩んでいました。
まあ彼女にとっては3分と同じほどの体感速度なのでしょうが……。

出来心で甘えたような声を出しながら色っぽく見つめてやれば、もうゾクゾクする程心地よく慌ててくれました。
思わず射影機を持っていないことを激しく後悔しましたが…いいでしょう。
あのまま数日悶々とするかと思うと興奮冷めやりません、おつりは十分です。
まあかわいそうなのでネタばらしはしてあげますが、数日は悶々とさせていいでしょう。


「さとり」
「ひゃいっ!?」


あら、いけない。
考え事に夢中で気配を察知していませんでした。

しかし、パルスィにしては思ったよりも早く立ち直った様子です。
彼女の溜め込みやすい性格からすれば数日は持つと思ったのですが――あら、なんですかこの花束。
随分豪華ですが、何の祝い事でしょう? 私はなぜか冷や汗が出始めましたが。


――そのね、責任取ることにしたのよ。


なんでしょう責任って、凄く嫌な予感がするんですが。
彼女はなぜ私の肩に手を掛けているんでしょう、笑顔で脱出しようとしているんですが相当硬いです。


――さとり、いいかしら?


はい、いいですよ。


「あんたが好きよ、分かる?」
「えっ」
「考えてみたけど、その結果あんたを抱いた事に全く後悔しなかったの。」
「ちょっと待ってくださいパルスィ、あれはですねその――」
「という訳で今から、改めて既成事実を作ることにしたわ。」
「えっ、えっ」
「大丈夫、まだ聖夜は続いてるから平気平気。」


パルスィ、聞いてませんよ。
あなたがお姫様抱っこできるだなんて、そんな甲斐性持ってるとか聞いてないんですが。
待ってください、あのベッドルームまだ片づけてないんですが。
Q.前略、私達付き合い始めました。

A.やっぱりお赤飯じゃないか。
芒野探険隊
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コメント



0.1640簡易評価
1.100奇声を発する程度の能力削除
お赤飯炊かなきゃ
テンポ良く面白かったです
2.80名前が無い程度の能力削除
結局真相は不明なんですか
あと、朝チュン時にコメントしてくれたのに、ヤマメは友人と判定されて無いんすねえ
5.無評価名前が無い程度の能力削除
策士策に……ww

ところで作者名が微妙に違ってませんか?
6.100名前が無い程度の能力削除
策士策に……w
ところで作者名が微妙に違ってませんか?
12.80金細工師削除
いいねぇ…電車で一人で二ヨニヨさせていただきました
13.100名前が無い程度の能力削除
今日一日の疲れと妬みが吹き飛びました。ありがとうございます。

末永く爆発しろください
14.100名前が無い程度の能力削除
おめでとう!
16.100名前が無い程度の能力削除
嘘から出た真というか瓢箪から駒というか…
末永く爆発してください
17.100絶望を司る程度の能力削除
ひゃっはー!赤飯だー!
19.100猫額削除
地底妹K.K.さんからの回答: お赤飯炊いたら、もう一人家族が増えるね。
なおパルスィの円卓会議に、無意識に誰かが介入した痕跡が見られ、とか何とか。
20.100名前が無い程度の能力削除
おめでとうー!
22.90名前が無い程度の能力削除
やっぱりクリスマスにはお赤飯だな
24.100名前が無い程度の能力削除
最高かよ……
27.無評価名前が無い程度の能力削除
やっぱり赤飯じゃないか(歓喜)
28.100名前が無い程度の能力削除
やっぱり赤飯じゃないか(歓喜)
33.90名前が無い程度の能力削除
お幸せに
34.100名前が無い程度の能力削除
いいぞ、さとパル
35.100とーなす削除
結果オーライ! さとパルやっほう!
ラスト付近、にやにや止まりませぬ。
45.90名前が無い程度の能力削除
やっぱりお赤飯じゃないか!(歓喜)
軽妙な語り口で楽しく読めました、ありがとうございました