Coolier - 新生・東方創想話

歌留多じゃないってば

2014/07/09 20:44:06
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窓をガンガンと叩きつける雨の音が室内にまではっきり聞こえてきていた。
昨日から幻想郷は雨風が強まり、今日には本格的な嵐になった。

ぬえとマミゾウは山の神の仕業だろうかと嘆きながら、居間でだらけていた。二人ともこの嵐の中じゃ外に出る気は起きないらしい。

「あれ、二人とも今日はお留守番?」

ふすまを開けて入ってきた村紗は、手に小さな箱のようなものをこれみよがしに持っていた。

「うむ。ところで村紗、その箱はなんじゃ?」

マミゾウが不思議そうに村紗の手元を見つめる。村紗は待ってましたとばかりに笑顔で二人のもとに座った。

「あ、トランプじゃん」
「とらんぷ? ああ、あの西洋の歌留多のことじゃな」
「歌留多じゃないってば」と村紗が突っ込む。

「今日ばっかりは仕事にならないから暇なのよ。二人ともこれで遊ぼうよ」

朝から続く豪雨の影響で湖の水位は上がり、川は茶色く濁った雨水を勢いよく流している。こんな日は誰も水辺に近づこうとしない。誰もいないところで水難事故を引き起こすのは無理だった。
それに、もし運よく無謀な人間を見つけ、水難事故を起こしたとしても、それは村紗の仕業ではなく嵐のせいにされてしまうだろう。

「わしはそのとらんぷとかいう歌留多を見たことはあるが、やったことはないぞ」
「「歌留多じゃないってば」」

今度はぬえと村紗が同時にツッコミを入れた。

「じゃあ最初は二人でやってみせればいいんじゃない。ね、ぬえ」
「うん。とりあえず手始めにババ抜きでもやろうか」
「ば、ばばぬきじゃと?」

マミゾウは思わずその単語に反応してしまう。なんて失礼なゲームじゃ。わしを抜いて二人で楽しむというのかと二人に抗議しようとする。
が、すんでのところで思いとどまる。ここで抗議してしまったら、自分が「ばば」と言われるような存在だと自覚していることになってしまうと思ったからだ。

村紗がカードを配り終えるのをマミゾウは腕を組んで黙って見ていた。全て配り終わると、二人が次々に同じ数字のカードを2枚セットで捨てていく。

「あれ、これ二人でやったらほとんどペアじゃない?」
「ほんとだ」

ぬえの手にはハートの7が書かれたカードが1枚残った。そして村紗の手元にはジョーカーとスペードの7。
二人が真剣な面持ちで見つめる様子を、マミゾウは不思議そうに見つめる。そこで、ようやくババ抜きのルールに気が付いた。数字の書いていないカードがババだということにも。
ぬえはカードを取る手を右に左に品定めするように動かす。そして、ぬえから見て右のカードを勢いよく抜き取った。

「うわあああああああ」

ぬえが頭を抱えて転げまわった。

「ふふふ。ぬえったらいつもこっちを取るんだから」
「村紗が右ばっかり見てたから絶対こっちだと思ったのに!」
「まんまと罠にはまったわね。さあ、次は私が引く番よ」

ぬえは身体の後ろで二枚のカードをシャッフルする。村紗は意味ないわよと言いたげに余裕な表情だ。
村紗の前に二枚のカードが差し出される。ぬえは視線で気づかれないように、左右のカードを順番に見て視線を常に動かしていた。
村紗の手が向かって右側のほうに伸びる。しかし、まだカードは取らない。手の動きでぬえを動揺させようとしているのだ。

「は、はやく取りなさいよ!」
「この緊張感がたまらないんじゃない」

村紗はそっと左側に手を伸ばし、「これね」と呟いた。直後に手をスライドさせ、右側のカードを思い切り引き抜いた。

「うわああああああああああ」
「よっしゃああああ!」

二人の絶叫が居間に響いた。村紗は見事ジョーカーを見抜いてハートの7を引き当てた。
ぬえはギリギリと悔しそうに奥歯を噛む。さらりと涼しい表情で村紗は帽子を整えていた。

「ふむふむ。同じ数字のカードを2枚揃えればいいのじゃな?」
「そういうこと。ジョーカーにペアは無いから、あれが最後まで残った人が負けよ。マミゾウさんもやる?」
「うむ。やってみよう」

のたうち回っているぬえをよそに村紗がカードを集め始める。揃えてシャッフルしていると、居間のふすまがすうっと開かれた。

「さっきからうるさいわよ」

一輪が呆れた様子で3人を見つめた。修行に出ないこの三人組は命蓮寺内でよくつるんでいる。

「あ、一輪。今日は修行お休み?」
「あいにくの天気でね。この嵐の中で命蓮寺に来てもらうのは無理だから」
「じゃあ一緒にババ抜きしようよ」
「ば、ばばぬき?」

一輪は面食らってしまい、チラリとマミゾウのほうを見る。運悪く目が合ってしまった。

「一輪よ、ババ抜きとはそういう意味ではないぞ」
「へ? あ、そ、そうなの? えっと、それでそのババ抜きって何なの、村紗」
「トランプを使って、同じ数字のカードを集めるゲームだよ。一輪もやろうよ」
「とらんぷ? 歌留多みたいなもの?」
「「歌留多じゃないってば」」

やはりぬえと村紗が同時にツッコミを入れた。

シャッフルを終えた村紗は4人の手元にそれぞれカードを配っていく。配り終えたところでみんなでカードを表に向ける。

「要は同じ数字のカードを集めて捨てていけばいいの」
「最初から二枚揃っているのは?」と一輪が尋ねる。
「それは場に出していいよ」
「ふむ。分かりやすいゲームじゃな」

そんなマミゾウの感心の声は一瞬で消えてしまう。

各々がカードを出し終えると、手持ちの枚数に何故か大きな差が出ていた。
ぬえの手元には4枚。村紗の手元には5枚。一輪の手元には6枚。しかしマミゾウの手元には何故か10枚ものカードがあった。

「……おぬしら、ずるしとらんか?」
「してないよ」
「うん。してない」
「わ、私は初めてなので」

「ふむう……」と不満そうにカードを見つめるマミゾウ。そこへ村紗がフォローを入れる。

「じゃあ、マミゾウから引いていいよ」
「うむ。まあ枚数が多いということは、それだけペアになりやすいということじゃからな」

カードを引く順番は、座っている順番の時計回りとなった。マミゾウ→一輪→村紗→ぬえ→マミゾウという順番だ。

「それでは一輪、引かせてもらうぞ」

マミゾウが6枚のうち一番右のカードを引いた。そのカードには数字は書いておらず、よく分からない悪魔のような絵が書いてあった。
マミゾウは一気に渋い顔をする。対する一輪はニコニコと嬉しそうに笑っていた。
続いて一輪が村紗のカードを引く。見事にペアを引き当てて残りは4枚になった。

数週すると徐々にみんなのカードの枚数が減ってきていた。最初に大量のカードを持っていたマミゾウも、調子よくペアを作って確実に枚数を減らしていた。

マミゾウは残り4枚となったところで、ぬえがジョーカーを引いていった。しめしめと思わず顔がにやけてしまう。
一輪はマミゾウのカードを引き、ペアを作って残り2枚となった。

村紗の番になると、ぬえはあからさまにカードをシャッフルし始めた。その様子から村紗は、ぬえがジョーカーを持っていると確信した。

ぬえのカードは2枚。村紗も2枚。一枚がジョーカーだとしたら数字のカードは1枚しかない。
村紗は数字のカードを2枚持っているが、ぬえの数字のカードを引いても、自分のカードとペアになる確率は低い。
ぬえの持っているジョーカーを引けば、ぬえは残り1枚となり、マミゾウのカードの中にぬえの持っている数字があれば、ぬえは1/3の確率で上がってしまう。
しかし、実際はぬえが欲しいカードを一輪が持っている可能性もあるため、確率はもっと低い。

村紗は考えた挙句、ここで一旦ジョーカーを引き、一輪やマミゾウに押し付ける方が、後々都合がいいと判断した。
ぬえの手元を注意深く見つめる。先ほどはぬえの視線を指摘したせいで、ぬえは視線に敏感になっている。しかし、ぬえの癖は他にもあることに村紗は気づいていた。
手を伸ばしてすっと抜き取ったのは右側。案の定それはジョーカーでぬえは唇の端をピクピクさせながら笑いをこらえていた。
ここでぬえが大笑いしたら村紗の計画は失敗だった。一輪に、自分がジョーカーを持っていることを悟られないようにしなければならなかったからだ。
が、今日の村紗は運がよかった。

村紗は3枚のカードを軽くシャッフルして一輪に差し出す。一輪は真ん中付近のカードが嫌いなようで、いつも右か左の端付近を取る。
つまり今手元にある3枚ならば、端のどちらかを取るということだ。村紗は向かって左側にジョーカーを配置した。

「一輪、あと何枚?」
「あと2枚です」
「てことは、ここで当たり引いたら1抜けだね」
「そうなりますね」

村紗は何でもない会話を交わすことで、あくまでも平常心を心掛けた。そして一輪はいつもの癖でカードの端に手を伸ばし、ジョーカーを抜いた。

一輪は残念そうな顔をしたが、それを見ていたマミゾウは、一輪が上がれなかったことに対する落胆だと捉えていた。

ジョーカーは先ほどぬえに引かせたばかりだとマミゾウは安心しきっていた。
つまり、この一巡でジョーカーが一輪の手元にまで渡るということが無い限り、マミゾウはジョーカーを引くことはないと考えた。
勿論、そんなことは通常あり得ない。同じカードが4人の中で一周する確率は低いとマミゾウも分かっていた。

さらにマミゾウは、一輪が村紗から引いたカードが手札のどこにあるか位置を把握していた。
遠くから回ってきたカードは自分の欲しいカードである可能性が高い。そう思っての策略だった。
一輪はお人よしなのか天然なのか、手札をシャッフルせずにマミゾウへ差し出す。

そうしてマミゾウは得意顔で一輪からジョーカーを抜き取った。

「く……くはっ……」

村紗は自分の作戦が完璧に達成され、笑いがこらえられなくなった。お腹を押さえてうずくまってしまう。

「な、なんじゃと……」

村紗の笑い声に釣られて一輪とぬえも笑い出した。

「あははははは! おかしいの! マミゾウったら! あはははは!」
「笑うでないぬえ! 村紗!」
「だって! だって! あはははは!」
「はよう引け」

イライラしながらマミゾウは自分の手札を前に出す。
ぬえは笑いをこらえながらマミゾウのカードを引いた。

「あ、ラッキー。これで上がりよ」

ぬえはペアのカードを出し、残った1枚を村紗に渡した。

村紗は残り2枚。一輪も2枚。マミゾウが3枚。
一輪は村紗から1枚引くが、ペアはできない。次にマミゾウが一輪から引く。するとペアができて残り2枚になった。

「さあ、これでわしも上がり一歩手前じゃ」

びしっと村紗の前に2枚のカードが差し出される。村紗はじっくりと2枚のカードを見比べる。
そこでマミゾウは何か閃いたような顔でカードの裏を確認した。

「はっ! ま、まさか、この歌留多、裏の模様に特徴があるのではあるまいな!」
「え? そんな、ずるいですよ」

一輪までもが釣られてカードを見つめる。

「「だーかーらー」」

歌留多じゃないってば、と二人は心の中で突っ込んだ。

「そんなもの無いわよ。そんなずるして勝っても面白くないでしょ。あと、歌留多じゃないから」

うんうん、とぬえが頷く。

村紗がジョーカーを引くと、マミゾウが上がってしまう。村紗は何としても数字のカードを引かなければならなかった。
しかし、数字ほうを引けば村紗の2枚のカードのどちらかと、恐らくペアになるであろう。
一世一代の勝負とばかりににらみ合う二人。ぬえと一輪は固唾を飲んで見守っている。

マミゾウはどちらのカードにも視線を送らず、ただ村紗の目を見ていた。
やはり大妖怪なだけあって隙がない。あるいはぬえが隙だらけなのかもしれないが。

村紗は左右のカードを交互に人差し指と親指でつまむ。そして二三回往復したあと、左側のカードで手を止めた。

「こっちよ!」

しゅぱっと勢いよく引き抜いたカードはスペードの5。村紗の手元にはダイヤの5があった。

「よっしゃあ!」

雄叫びを上げてペアのカードを捨て、残り一枚を一輪に託す。

「な、何故じゃ。どうして分かったのじゃ」
「さあ、どうしてでしょうね」
「ぐぬぬ……」

勝ち誇た表情で村紗は右手をふらふらと振った。
村紗はカードをつまむ時に、マミゾウがどちらのカードにより力を込めて持っているかを確かめていたのだった。

「仕切り直しじゃ。一輪との一騎打ちじゃな」

ジョーカー1枚を畳の上に置き、パンと手を打ち鳴らす。しかし、そこでマミゾウは気づいて目を丸くする。

「む? 一輪、手札はどうした?」
「いえ、その、もう上がりました」
「なんじゃと!?」

一輪の手札は残り1枚だった。そこで、村紗がペアを作って上がり、余った数字のカードを一輪に渡せば、当然それがペアになる。
村紗がマミゾウから数字のカードを引いた時点で、マミゾウの負けは決まっていたのだ。
申し訳なさそうな一輪の視線にマミゾウは肩を落として落胆した。

「むう……、ぬえ、わしはこの歌留多遊びが好きでない。花札でもやらんか」
「歌留多じゃないってば」
「それなら別のゲームをしましょう」

村紗がカードを集めて再び提案する。シャッフルし、同じように4人の元に配り始めた。

「村紗よ、わしはこの歌留多は……」
「次は何するの?」
「七並べなんてどう?」
「お、いいわね」

マミゾウの言葉を無視し、二人はノリノリで手札から7を場に出す。

「一輪とマミゾウも、手札に7があったらここに出して」
「あ、あるわよ」

2枚の7を出した一輪。マミゾウは持っていなかったようだ。マミゾウの薄幸ぶりに村紗は吹き出しそうになる。

「ルールは簡単よ。場に出ているカードの数字に隣り合う数字のカードを出していくの。ただし同じマークじゃないといけないわ。
カードが出せない、あるいは意図的に出さない時はパスすることができる。ただし、パスは一人三回までね」

「カードを出していくだけなの? 何だか簡単なゲームが多いわね。この歌留多」
「歌留多じゃなくてトランプだってば」
「は、はあ……」

一輪はよく分からず首を傾げる。トランプという聞きなれない単語があまり気に入らなかったのだ。

出す順番は、先ほどのババ抜きで負けた順とした。村紗のマミゾウへのささやかな配慮だった。
マミゾウがカードを出そうとしたとき、村紗は追加のルールを思い出した。

「そうそう忘れてたわ。このカードが端まで揃ったら、次は外側からしか出すことができないの。
ハートのキングを出したら、ハートの5が出ていても、4じゃなくてエースしか出せなくなるの」

「端が繋がっているという認識なんじゃな?」
「そういうこと。それじゃ、マミゾウからどうぞ」

マミゾウは6と8のハートを持っていたが、特に考えもせずに6のハートを出した。
彼女の手札はお世辞にもいいとは言えず、端のほうのカードが多かった。
一輪もルールを理解はしているようだが、戦略に結び付けることができていない。彼女はダイヤの8を出した。

続いて村紗がダイヤの9、ぬえがダイヤの6を出した。
ぬえは中間あたりのカードが多く、他の人の出し方に左右されそうな手札だ。

そのままいくつかのパスを挟みながらも、順調にカードが配置されていった。
各々の手札が残り5,6枚程度になった辺りで、マミゾウが不満そうにポツリと漏らした。

「のお、何故四つ葉が一枚も出てないのじゃ」

場を見ると、ダイヤもスペードもほとんど揃ってきている。
それなのにハートは765だけ。クローバーに至っては7だけという有様だった。
勿論これはぬえと村紗の作戦である。
ぬえはクローバーの8、9、村紗は6と5を持っており、他にクローバーを持っていないのでやりたい放題であった。

「そんなこと言うけどさ、ハートだって上のほうは一つも出てないよ?」

村紗が誰に向かってでもなく、全体に投げかける。マミゾウは心の中で動揺していた。
マミゾウは既にパスを二回しており、三回目は避けたかった。彼女は苦渋の決断でハートの4を出した。
ここまでパス1で難を逃れている一輪は助かったといった表情でハートの3を出した。
それを見て村紗はニヤリと笑う。そしてぬえの方をちらと見て、ぬえもこの状況に気づいていることを知った。
村紗は表情を変えず、何でもないようにハートの2を出した。そこでマミゾウの雲行きが怪しくなる。

顔には出すまいとしているマミゾウも心の中では焦りが生まれていた。
ハートがエースまで出されてしまうと、彼女が止めていた8が出せなくなってしまう。

「私出せるカードこれしかないんだよねえ」

ぬえが満面の笑みでハートのエースを出した。その瞬間、マミゾウのハートの8の価値が一気に底辺にまで落ちる。

「ぱ、ぱすじゃ!」
「わ、私もパスで」

マミゾウと一輪が続けざまにパスをし、すぐに村紗の番になった。

「そろそろ出しとこうか、ねえぬえ」

そう言って村紗はクローバーの6を出した。

「そうだね。マミゾウと一輪がかわいそうだもんね」

ニヤニヤと笑いを浮かべながらぬえはクローバーの8を出した。

客観的に見れば、止めていた数字を出したように見えるが、それぞれ次の数字も二人が持っていたので、マミゾウと一輪にとってはノーリスクでターンを回されたということになる。

マミゾウはダイヤのキングを出して難を逃れる。
それに合わせて一輪もダイヤのエースを出す。これでダイヤは13枚全て揃った。

村紗は未だパスが1回。ぬえも同じだった。
ここで出したところで順位は変わりないと思った村紗はあえてパスを選択した。

「じゃあ私もパス」とぬえが続いた。

「な、お、おぬしら、出せるカードがあるのにパスとは何事じゃ」
「だってそういうゲームだもん」
「むしろ醍醐味だよ。人が出せなくなるのを優越感に浸りながら見るのが」

「ねー」と村紗とぬえが顔を合わせて笑った。

「なんてひどいげーむじゃ」

マミゾウはパス4となり、ゲームオーバー。
残っていた手札は、ハートの8、クローバーのエースと2とクイーンとキングだった。

「これはひどい」
「うん。これは勝てない」

散々に言われたマミゾウはカードを放り出してそっぽを向いてしまった。
結局その後は一輪もパス4となり、最後は1枚差でぬえが勝利した。
村紗がカードをまとめていると、ぬえがぽつりとつぶやいた。

「雨上がらないね」

ぬえが寝転がって窓の外を一瞥する。外は相変わらず強い風と雨で、しばらく外には出られそうにない。

「他のゲームやろうか。トランプ以外の」

居間の押入れのほうへ歩いていった村紗は中からごそごそと大きな箱を取り出してきた。

「村紗さ、そんなのどこで手に入れたの?」
「ナズーリンがくれるのよ。無縁塚に落ちてたけど、価値がないって分かったからって」

畳の上に枕を一回り大きくしたくらいの箱が置かれる。表には「人生ゲーム」と書かれている。
先ほどまでそっぽを向いていたマミゾウが、村紗の持ってきた箱にいち早く反応した。

「む? 人生ゲームとな。なかなか面白いねーみんぐじゃの」
「マミゾウもやるよね?」
「うむ。歌留多でないのならやろう」
「「だーかーらー」」

トランプだってば。

「どうせ嵐が止むまで暇なんじゃ。今日は一日遊びに興じることになりそうじゃの」

箱からルーレットやら駒やらお金やらを取り出す。

「これ、ほとんどルーレットで勝負が決まるから、さっきみたいなことにはならないと思うよ」

マミゾウがルールブックをパラリとめくる。どうやら興味を持ったらしい。
さきほど負けたときとは比べものにならないくらい、瞳が輝きだしていた。

「なるほど。このゲームには銀行役とやらが必要らしい。わしがやってやろう」
「マミゾウ銀行だね」とぬえがもてはやす。
「銀行さん、まずはみんなに2000ドルずつ配って」

村紗がそう言うとマミゾウは怪訝そうな顔つきになる。

「なに? ただでお金を貸せというのか?」
「いや、そういうルールだから」
「変なルールじゃな」
「ルールブック読んだんじゃなかったの?」



かくして、命蓮寺のこの日は、一日ゲーム大会となった。

強風が窓を叩く音に負けず、居間には大きな笑い声が響いていた。




「ぬえは……サラリーマンになるだって」
「なにそれ。村紗は何? 弁護士?」
「私は医者だって。お給料もいいわね」
「村紗、このふりーたーとは何じゃ?」



トランプで不運の一途をだどったマミゾウがこの後どうなったかは、あえて言わないでおこう。























「……いつになったらわしはこの開拓地から抜け出せるのじゃ?」
「だーかーらー」
「歌留多じゃないってば」
「トランプだってば」

これがやりたかっただけです。
書いてみたら意外と楽しくて、人生ゲーム編も書きたくなりました。
コメント&評価よろしくお願いします。

ツイッターやってます→https://twitter.com/touhounijiss
しずおか
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コメント



0.330簡易評価
1.80奇声を発する程度の能力削除
賑やかな感じが良かったです
2.40名前が無い程度の能力削除
何か山が欲しかったです。
7.80リペヤー削除
非電源ゲームで盛り上がる命蓮寺組一同がかわいかったですw