※オリジナルキャラが多く登場します。
※オリジナル設定も有。
※ちょっとだけマリアリかもしれません
ある晩、男の子と女の子は森に迷い込んでしまいました。
森のなかは真っ暗で、歩いて来た道もすぐ先の道もまったく見えません。
男の子と女の子は不安でいっぱいでした。早く帰りたいよ、お腹すいたよ。とうとう女の子は歩くのをやめ、泣きだしてしまいました。
食べ物は何も持っておらず、男の子は困り果ててしまいました。するとさっきまで何もなかったはずの森の奥に、灯りがともりました。男の子は喜んで女の子を立ち上がらせ、灯りのほうへと走っていきました。
そこには一軒の洋館が建っていました。誰かいないかと男の子は窓を覗きましたが、たくさんのかわいらしい人形がありとあらゆる場所に置かれているだけで、人の気配はありませんでした。
あのう、すみません。誰かいませんか?扉を叩いて呼びかけてみても返事はありません。女の子がまた不安になって、男の子の服をぎゅっと握りました。鍵は開いているのかな、と男の子がドアノブに手をかけようとした瞬間、がちゃりと扉が開きました。
「どうしたんだい、こんな夜遅くに子供が二人で」
出てきたのは黒い大きなとんがり帽子を被った女の人で、よく見ると帽子だけでなく、着ている服もスカートも靴もすべて真っ黒でした。男の子が事情を説明すると、女の人はそれは大変だったねえと快く家の中へ入れてくれました。
女の人は温かいミルクとパンとスープをご馳走してくれました。明るくなったら家まで送ってあげよう、だからゆっくりお休み。女の人は一つしかないベッドまで二人に貸し、男の子と女の子は安心し、歩きつかれたのもあって、すぐにぐっすりと深い眠りに入りました。
二人が目を覚ますと、なんだか様子が変でした。体がぴくりとも動かず、周りのものすべてが大きく見えました。どうしていいのか分からず、女の子は不安で泣き出しそうになりましたが、涙がじわりとにじむような感覚すらありません。しばらくすると黒い影が見え、こちらに手をのばしてきました。
「ひっひっひ、これはこれはかわいらしいお人形さんだこと」
それは家主の女の人で、小さくなった二人をぎゅっとつかんでにんまり笑いました。
なんということでしょう、二人は人形にされてしまったのです!
女の人は、森に迷い込んで困っている人を泊めてあげるふりをして、眠りについたところをこうして人形に変え、自分のコレクションにしている悪い魔女でした。
人形になってしまった男の子と女の子は、別々の部屋の窓際に並べられました。
二人はとてもとてもさみしがっています。毎日ひとりで、ただただ座ったまま、日が昇ってから沈むまで、そして沈んでからまた昇るまでの森の様子をじっと見ています。早く新しい人形がこないかな、そう願いながら。
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「なあアリス、アリスって魔女なのか?」
人間たちが暮らす集落で、いつもどおり人形劇を披露していたアリスは急に男の子に声をかけられた。毎日のように劇を見に来てくれる男の子だ。だがその質問はあまりに突拍子もないもので、驚いたアリスは目を丸くして急にどうしたの、とだけ訊き返した。その間も人形たちはまるで意思をもっているかのように動き続けていた。
「ほらこれ、昨日母ちゃんが寝る前に読んでくれたんだ!」
そういって差し出してきたのは割と新しい小奇麗な絵本で、タイトルは『森の中の人形の館』。少しだけ、ぎくりとした。気づかれないように笑顔でなあにこれ、と返す。
「アリスって昔は魔法の森に住んでいたんだろ。人形も遣うし。なあなあ、魔女なのか?」
手渡された絵本を読んでいる間も、また同じ質問が繰り返された。絵本から目をはなして男の子の方を向くが、人形劇を見ていた女の子が急に「あんたばかじゃないの」と声を出した。今度はそちらを向く。
「幻想郷には魔女はいないって学校で習わなかった?魔女はずうーっと昔にいなくなっちゃったんだよ。アリスさんが魔女なわけないでしょ」
立ち上がって男の子の前でふんぞり返る女の子の自信に満ち溢れた言い方に、男の子は憮然としてそんなのわからないだろと声を荒げた。
「なあ、アリスは魔女じゃないのか!?」
あまりに大きな声で言うものだから人形劇を見ていたこどもたち全員が劇よりそっちに気が向いたようだ。もう動き回る人形たちを見ているものはおらず、なになにどうしたのと好奇の瞳を輝かせてアリスの周りに集まってきた。
「あ、その絵本しってる!悪い魔女が主人公を人形にしちゃう話でしょ」
「そうそう、真っ黒でとんがり帽子で、わるーい女の人!」
「これ本当にあった話なのかなあ?」
「魔女だもん、きっと何でも出来るよ!」
「昔の魔女はこんなことしていたからやっつけられちゃったのかも」
「魔女なんかいないよ、これは御伽噺なんだから」
子供たちは各々好きなように意見を言っていく。その話を聞きながら絵本の大体のストーリーを把握したアリスは、苦笑いで劇をしていた人形たちに片づけをさせ、自分の方へと呼び寄せた。
「ねえ、あなたたちは博麗の巫女を見たことはある?」
アリスが口を開いた瞬間、子供たちがいっせいにこちらを向いた。そして全員が全員、首を横に振った。視線は依然、アリスにそそがれている。そんな中アリスは微笑んで、続ける。
「あなたたちが見たことがなくても、博麗の巫女はいるわ。どんな時代にも、必ずね。だから、自分が知らないからといってその存在を否定するのは視野が狭いわね」
「じゃあアリスは、」
「残念ながら私は人形遣いよ。でも、魔女の知り合いならいたわ」
歓声が上がる中、アリスは複雑な表情だった。とっさに人形遣い、とごまかした。魔女であることを完全に否定はしていないものの、これで誰もアリスを魔女だなんて勘繰らないだろう。アリスやパチュリーが家に引きこもっている内に魔女がいないことになっているのなら、無駄に歴史をかき回さずそっとしておくのがいい。そう考えたからだ。
「魔法の森に住んでいたの?」
「ええ」
「全身真っ黒の服を着ていた?」
「そうね」
「とんがり帽子も被っていたか?」
「もちろん」
「箒にのって空を飛ぶの?」
「当たり前ね」
「悪い魔法使いだったのか?鼻が大きくて、目なんてこーんな!」
そういって指で目尻をつり上げた少年の顔は、確かに絵本の挿絵のあくどい顔をした魔女になかなか似ていた。アリスはそうねえ、とつぶやいて笑う。
遠くを見つめ、懐かしむように目を細めた。
「傍若無人で、くだらない嘘ばっかりついて、他人のことなんかちっとも考えなくて、いつも人のこと振り回して」
少し微笑んで、目を瞑る。
脳裏に浮かぶのは、太陽みたいにまわりを明るくする、屈託のない笑顔。
照らされていたのは、誰?
そんなのわかっていたの。わかっていたのよ、魔理沙。
アリスは目を開いて、子供たちを見つめた。だけどね、と続けると、みんなが首をかしげて次の言葉を待った。
「それはそれはかわいらしい女の子だったのよ」
昔話を、しましょうか。
人間の里には妖怪は以外に顔を見せる。
彼らと人間の交流の中にはこうしたちょっとした一コマがたくさんあるのでしょう。もっとこういうのが書かれてもいいと思っています。
>絵本
ひらがな増やして、語りかけ口調、押韻重視、文を短くするなどでかなりそれっぽくなりますが、そんなことはこの作品の持つものにはどうでもいいと思うのです。
それが過不足のない文章でくっきりと記されている素敵な作品でした。
博麗の巫女も、魔法使いも‥もしかしたら吸血鬼も伝説の存在になってしまった幻想郷‥のとびさまの文章で今も存在している伝説の人々の話も読んでみたくなりました。
よいお話をありがとうございます。
2さん>素晴らしいだなんて、もったいないお言葉ありがとうございます。余韻は意識していたので、そこを感じていただけてとても嬉しいです。fontタグを使うのは少し気が引けましたが…やっぱりやめておけばよかったかなあ。
アリスは人間に友好的ですし、人間に警戒されない妖怪がいてもいいと思いました。妖怪と人間の交流はどのようなものなんでしょうね。私も、そういう作品ももっと読みたいです。
絵本についてもありがとうございます!自分で検証するよりも文としてまとめていただいたほうが分かりやすいですね…わざわざありがとうございます、今後の参考にさせていただきたいと思います^^
6さん>ですよね…不死のものや長寿であっても不死でないもの、そもそも長寿でないもの……さまざまな種のキャラクターが共存していて、気が遠くなるほどずっと先のことでも必ず別れがあるわけですし、そこを考えはじめるともう…私眠らない。
ありがとうございます、話の前後を切り離したみたいな中途半端さだったかな、と少し不安だったのですがそういっていただけてとても嬉しいです^^
私の文章、というものが確立したみたいでなんだかくすぐったいです…。非常にありがたいお言葉でとても励まされました。読んでみたいといっていただけて、また何か作品を作りたいな、という意欲がでてきました。
こちらこそ貴重なコメントをありがとうございました!