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東方現夢郷 第一章 幻想という名の夢と地獄の始まり 4

2021/08/17 18:48:39
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 あの後外の世界の話をするのを、鈴仙は初めて童話を読み聞かせた時の子供のような表情で聞き入っていた。こちらとしては当たり前の事を目を輝かせながら聞いてくれるのでなかなかに話甲斐があって楽しかった。そして俺も鈴仙から幻想郷の話を聞いた。人間以外の種族が多数存在する事、妖怪が人間を襲うという事、人里の中では妖怪は人間を襲ってはいけない事(人里の外で襲われた場合は自己責任らしい)、スペルカードルールという人間と妖怪が対等に戦うための決闘方法がある事など、幻想郷で生きていくための基本知識を教えてくれた。ちなみにスペルカードルールによる決闘を弾幕ごっこと呼び、直接攻撃はNGで、石を投げるだけでも弾幕になるそうだ。実際ナイフを投げるメイドもいるようで、妖夢が刀で直接斬ろうとせず飛ぶ斬撃だけで攻撃してきたのはそれが理由だったのだろう。(斬撃を弾と呼ぶ事にツッコんではいけない)それと、鈴仙という呼び方はあいつにそう呼んでくれと言われたので以後こう呼ぶことにする。
 二時間程話した後またすぐに寝たのだが、怪我の事など忘れる程に快眠だった。起き上がれる程度には回復したが、やる事も出来る事も無いので完全に手持無沙汰になっている。歩き回ろうとも思ったが、右足は骨折、左足は打撲箇所多数、その他体中擦り傷切り傷の包帯ぐるぐる巻きでまともに動かせる状態じゃなかった。おまけに右腕は動かそうと力を入れただけで腕全体に痛みが走る程深い切り傷ができていた。避けるのが一秒でも遅れていたら腕が無くなっていたと思う。利き腕ではなかった事が不幸中の幸いといった所だろうか。頭の方はまだかなり痛むが、痛みには強いようで一週間ほどすれば元通り動けそうだった。今更だが鞄は横に置いてあった。(スマホは圏外だったので使い物にならなかった)
 外の景色を眺めているとアリスと鈴仙が話しながら入ってきた。
「ふーん。外の世界も案外楽しそうね。あら、もう起き上がれるようになったの? 普通そんなに早く治らないと思うのだけど……」
「そういえば師匠が何か注射していたわね。でも人の治癒力を高める薬なんて無かったはず……。どうしても怪しく感じちゃうわ」
「そういう事の証明ができないのが力のない人間の辛い所なんだよな。それで、なんか用か? 今の俺にできる事なんて何一つとして無いぞ?」
 力がある事の証明は簡単でも力のない事を証明するのは極めて難しいのだ。要は悪魔の証明である。
「怪我人は大人しく寝ていればいいの。一人は退屈だろうから話し相手になりに来たのよ」
「そりゃどうも。それで? 話のネタはあるのか?」
 昨日鈴仙と散々話したので俺の方は既に話のネタは尽きているのだが、まあ一人でいるより気は休まる。今まで話す相手がいなかっただけで、これでも話すのは好きというより得意な部類だ。妖夢を説得できたのもそれが理由だろう
「あなたがどうやって幻想郷に来たのかについて」
「ああ、そういや話してなかったな」
「私達の方ではもう見当がついてるんだけどね。確認しておこうと思って聞きに来たのよ」
「見当がついてるって事は幻想郷じゃよくある事なのか? あのよく分からん神隠し」
「神隠しという時点で誰が犯人か分かるもの。紫も珍しい事をするわね」
「紫? そいつが俺をこっちに引っ張ってきたのか」
「明言はできないけどね。外の世界の人間を連れて来ることができる存在なんて紫くらいしか知らないから」
「んじゃその紫とやらの情報は持ってるって事か? どこに住んでいてどういう奴なのか、とか」
「詳しく知っている訳じゃないけど、ある程度はね。そんな情報知ってどうするの?」
「別に大した事じゃねぇよ。ただ挨拶でもしに行こうと思ってな。紫とやらがおらんかったらオカルトが肯定された、夢みたいな場所には来られんかったやろうからな。礼の一つも言いに行きたくなるってもんやろ」
「えっと……今のは方言? 幻想郷には方言を使う人がいないからよく分からないけど」
「ああ、すまん。つい癖でな。時々出るかもしれんがまあ、気にせんでくれ」
 言っておくが俺は関西ではなく北信越在住であり、大阪方面には行った事は無い。ただ無意識的にこんなエセ関西弁のような口調になるのだ。いつからか関西弁が時々出るようになっていたのだが、周りに関西人がいたわけでもない。そもそも俺には家族がいない。親戚はいるが、今は一軒家に一人で暮らしている。親の顔も見た事が無かったし、親戚も詳しい事は知らないらしい。今となってはもう微塵の興味もないが。
「そういえばあなた、どこから来たの?」
 気にするなと言ったのだが、アリスとのやりとりを静かに聞いていた鈴仙は気になったようだ。誰だっていきなり関西弁で話されたら出身地が気になるのは当然だろう。俺だって気になる。
「そうさな……花火が有名だったり米が美味かったり、あと酒も美味いって言われてるな」
「外の世界のお酒……。一度飲んでみたいものね」
「そうか、幻想郷にまともな法律なんて無いんだから未成年飲酒も問題ないんだったな。いつか作って持ってくるから期待してもらっていいぞ」
「作れるの?」
「まあ、作り方は分かるから物さえあればいけるだろ。酒だから多少時間は掛かるだろうけどな」
 分かると言っても前にネットで調べた程度で、細かい手順を知っている訳ではない。酒があるという事は作っている奴がいるという事だから、最悪そいつに聞けばいいだろう。
「ねえ、そろそろ本題に戻っていいかしら」
 話題転換されたのが不服だったのか、アリスが怒り気味に横槍を入れてきた。
「あ、ごめんなさい。おもいっきり話を逸らしちゃって……」
「別にいいわよ。私も聞いておきたかったから。それで紫についてだけど、どこに住んでるかは誰も知らないわ」
「てか妖怪に家なんてあるのか?」
「意外と住処を持っている妖怪は多いわよ? 例えば、外で盗み聞きをしてるそこの野良兎とかね」
 言いながらアリスが外を睨みつける。つられて外を見ると、縁側を出た辺りに白い耳のようなものが見えた。
「ありゃりゃ。ばれてたか」
 出てきたのは少女だった。黒髪に桃色の服、首にオレンジの首飾りをしている。(視力が良くないのでなんなのかは分からなかった)
「あれで隠れてるつもりだったの?」
「いやー別に隠れるつもりは無かったんだけど、面白そうな話をしてたからさ。それにしても野良兎は酷くない? ちゃんと家だってあるのにさー」
「年がら年中裸足なら野良と変わらないでしょ」
「あはは、手厳しいねー。それで、そこの奴は一体何者なのさ」
 少女の視線が俺に来る。
「……見りゃ分かんだろ。ただの人間だよ」
「それが分からないから聞いたのさ。本当に人間なら妖力なんて感じない。けどあんたからはその辺の妖怪とは比べ物にならない妖気を感じる。それで人間を名乗ってるのなら、それはただ、あんたがそう思ってるだけじゃないかな」
 徐々に少女の声色が鋭くなっていく。
「人間も妖怪も考えることは同じなのか? それを世間一般じゃ暴論って言うんだ。話も聞かず人を外見だけで判断して中身を見ようともしない。見た目通り思考回路もガキなんだな」
「それはあんただって同じじゃないか」
「言っておくが、俺はお前の事を理解した上で言ってんだよ。すぐに出てこなかったのは俺がどんな奴なのか探るため。それでお前が俺を敵だと判断したらすぐさま殺すつもりだったんだろ? 長く生きてる奴が大体同じような考え方になるのも変わらんみてぇだな」
「…………」
「…………」
少女の刺すような視線を無表情で受け流す。そこに間を取り繕うように鈴仙が割って入ってきた。
「お互い自己紹介したらどう?」
「そうだな。俺は研真遼だ」
「因幡てゐ。私は散歩にでも行ってくるよ。せいぜい寝首をかかれないように気を付ける事だね。いつか絶対殺してやる」
 少女から分かりやすい程の殺意を感じるが、その程度で動じるような俺ではない。
「そりゃこっちのセリフだ。いつか鍋にして食ってやるからな。今後は俺に会わないよう気を付けるんだな」
 俺が言い終わったのと同時にてゐは走って竹林の方に消えていった。
「なんなんだあの兎は。お前の仲間か?」
「てゐは地上の兎よ。師匠達が来る前からこの竹林に住んでたらしいわよ?」
「妖怪兎って事か。兎も長く生きると妖怪になるんだな」
「あら、あんなの幻想郷にはいくらでもいるわよ?」
 いつの間にいたのか後ろに永琳が立っていた。
「妖怪全部があんな少女なわけないんだろ?」
「そうね。てゐみたいなのは何人かいるけど、それ以外は化け物ばかりよ」
「化け物ね……。一人で生きていける気がしねえんだが」
「それは強くなるしかないわね。頑張りなさい」
「人間よか遥かに強い存在がいる世界でどうしろと? 俺なら三日以内に死ねる自信があるぞ」
 無人島なら三日と言わず一か月は過ごせるが、自分より強い存在がいる時点で俺の死は確定したようなものだ。そんな場所に平気で暮らせるのは少年漫画の主人公くらいのものだろう。
「それはどうかしら? あなたはもう死なないかもしれないわよ?」
 永琳がいきなり不穏なことを言い出した。それも少し笑顔で。
「は? 俺が不老不死にでもなったと? 蓬莱の薬でも飲まなきゃそんな事にはならねぇだろ。それともなんだ? あんたが蓬莱の薬を持っていて俺を実験台にでもしてんのか?」
 そう言った途端永琳の周りの空気が変わった。表情は全く変わっていないが何かを隠している事がばれそうになった時の様なオーラを感じる。
「どうしてそこで蓬莱の薬が出てくるのかしら?」
「大した理由じゃねえよ。不老不死になる方法の代表格だからな。一番最初に思い浮かんだだけだ」
「ちなみにそれ以外の方法は?」
「そうさな……人魚の肉を食うとか、仙人になるとか……。あと魔法使いになる、とかだな」
「あなたがいた世界の魔法使いってどんな認識だったの?」
 それまで静かに話を聞いていたアリスが突然そんな事を聞いてきた。
「ん? まあ、あんまいい印象はなかったな。昔は魔女狩りとか言って何の罪もない奴を火炙りにして処刑してたらしいからな。俺の持論だが、人間ってのは得てしてそういう生き物なんだろ。自分にできない凄い事ができる奴を妬み恨み、自分達の存在意義が無くならないように他の存在を否定し、異論を唱える奴は見せしめに殺して誰も逆らえないようにする。そうしてできたのが俺がいた世界だからな。ついでに、俺がいた世界で魔法なんてものを見たことはねぇよ」
 それに比べてこの幻想郷のなんとも自由な事か。常に死の危険があるとはいえ、妖怪や神がいるという事は俺がいた世界のルールや法律などは一切通用しないという事だ。つまりは自由に生きることができる。あんな馬鹿が考えたような世界にいるより白紙にゼロから描けるこの世界の方が俺にとっては理想的だ。
「……あなたって随分深い事考えるのね」
「そりゃ人間が嫌いだからだ。自然と人間の無能さが分かってくるんでな。それよりどうして魔法使いって単語にに食いついたんだ?」
「それは私が魔法使いだからよ」
「……マジで? 本物?」
「ええ、本物よ。証拠に、ほら」
 そう言うとアリスの隣にあった人形が宙に浮いて動き出した。人形が宙に浮いている時点で普通じゃない。よく見ると細い糸のようなものが人形に直接繋がっていた。
「どう? これで信じてもらえたかしら」
「これを見て魔法だと信じない奴は科学にしか興味がない奴くらいだろうな」
「あまり驚かないのね」
「まあ、超常現象は度々見てるからな。ここはそういうものが当たり前な世界って認識でいいんだよな?」
「その認識で合ってると思うわよ。空飛ぶ巫女や時を止めるメイドだっているから」
 前者はともかく後者が怖すぎる。どこかのスタンド使いのような悪のカリスマ的な性格をしていないことを願おう。
「あとはどうやって生きていくかだな……。アリスの家にずっといる訳にはいかねぇし……」
「私は構わないわよ? 最近話し相手が欲しかったから丁度いいわ。それに人里以外で安全な所なんてそうそう無いわよ? それこそ魔法使いにでもならないと」
 匿ってくれるのは嬉しいが、正直まだ信じきれていない。怪我の処置をしてくれた永琳にしてもまだかなり疑う点がある。それを考えると今のところ鈴仙が一番素直で、少なくとも信用はできる気がする。とりあえず今は様子を見る事にしよう。
「それじゃ、世話になるとするかな」
「二人暮らし、楽しみだわ」
 そう言いながらアリスが微笑む。俺からしたら二人暮らしの何が楽しみなのかさっぱり分からない。普通こんなに楽しみに思うだろうか。まあとにかく安全な場所が確保できたのはいい事だ。これから先どうなるかは分からないが、幻想郷での新生活が始まるのだ。楽しみにして損は無いだろう。
 そしてここから先は特筆する事が無かったので数日後まで話を進めることにする。今の内に言っておこう。これは『小説風』の日記なので変わった事が無い日は飛ばすと。
随分投稿が遅れてしまいました。すみません。次は早めに投稿できると思うので、できれば気長に待っていただけるとありがたいです。
もりさきこうや
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