Coolier - 新生・東方創想話

蝶や花や、きょんちィや

2015/08/17 10:49:11
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 ある冬の暮方のこと、忠実なる死体・宮古芳香はとにかく腹が減っていた。
 娘々の命により人里にて遣いを済ませ、今はその帰路に在る。もはや死滅しているだろう腹の虫の、その幻聴を聴きながら、夕陽の茜色に沈み行く寂れた小通りを跳ねていた。
 時折にすれ違う人間らの頭が土手南瓜やら瓜実やらと見境がつかぬようになってきていた。これは垂涎とか美味そうとかそういう建前を超えた、きっとひもじさをして認識を捻じ曲げるほどの渇望だ。いっそ、この不穏の赴くがままに連中を喰らってしまおうかと、芳香はそう思わぬでもなかったのだが、妄りに人間を食べてはならぬとの娘々の厳命が枷となり、また、娘々の命は己れでも楔としていたがために、衝動というそのキワの内側に踏み留まって喰わずにいた。
 その由は覚えていない。なまじ覚えていれば却って理屈を捏ねて身勝手に食べてしまうだろうから、理由を忘れたのは寧ろ良いことなのではないかと芳香は考えている。
 だがそれも、もう限界やも知れぬ。ああ、ああ、腹が減って仕様がない。
 足取りの重い跳躍で、前後に据わりの悪い首が一際後方に傾いた、その時だ。暮れなずんだ静謐の赤光に浸る柳並木の景色の中に一色の黒が浮かれ出た。寒風に抗う軽やかな物腰は決して枯葉のそれではない。ひらり、羽が閃いている。
 黒褐色の四翅に瑠璃色の帯を巻く、冬の胡蝶、瑠璃立羽だ。
 空腹な芳香に、鼻をムズ付かせるような戯れを、その蝶は与えた。
 相手が妖怪とは知らぬのだろう、後ろに頭を傾かせ空を見上げる体勢の、芳香の小ぶりな鼻先を、艶やかな奔放を衒うようにして旋回する。鼻に留まるつもりかと思いきや、付かず離れず嫋やかに。長じて、しじまに舞うように。
 しかし空腹の芳香にとって、その華麗な舞踊は何ら価値を持つものではなかった。寧ろ、それが人間ではなく蝶々に過ぎないという、その事実のほうが余程と重要だった。
 ンアと乱杭牙を剥いた芳香は檳榔子黒の瞳孔を開き、ぎょろりとその獲物を見据えた。
「おお、何でぇ、ありゃア。きょんちィ、ってぇ奴じゃアねぇか。おおい」
 ふと、べらんめえ調の軽妙な声に呼ばれた。芳香が振り向くと、そこには黒巻羽織に黄八丈の見知らぬ男。何の腹積もりか、こちらへ親しげに歩み寄ってくる。
 合間に、瑠璃立羽は去っていった。芳香は双方を交互に見やったが、機を逸したようで、もはや獲物は諦めるよりなかった。
「うー、お前は何だー?」尻上がりに間延びした声で、芳香は訊ねた。
「俺っちはここいらに住まう江戸っ子よ」弾むようで実に洒脱な口上、芳香とは対照的だ。「それより何でぇ何でぇ、きょんちィ、随分と顔色が悪ィじゃアねぇか。お前ぇさんのツラときたら蒼いの蒼くねぇのって、大丈夫かい」
「腹が減ってるんだぞー」男を見やる、ぎょろりと。
 僵屍(キョンシー)をきょんちィと呼ぶ、この江戸っ子は大きく頷いてみせた。
「違ぇねぇや。もうそんな刻限さ」けどよ、と男は続ける。「そんなツラして歩いてたんじゃア、人様が怖がっちまって、天下の往来を歩けやしねぇ。もうちったア愉快なツラして歩きな」
「腹が減ってるんだぞー」芳香は再び、そう口にした。少し、男ににじり寄って。
「大声で小っ恥ずかしい女だねぇ。でもクヨクヨしちゃアいけねぇよ。そんな真ッつぁおなツラしてちゃア、おてんと様も逃げてっちまうぜぇ」
「腹が減ってるんだぞー」芳香は今一度、そう口にした。男の、すぐ、傍に至りて。
 貪婪の口を開いた芳香に、江戸っ子は呵々と笑ってみせた。
「おおッと、こいつァ随分と大胆な女だねぇ。こうグイグイって来られたらね、俺っちも考えにゃアなるめぇよ。よおし、きょんちィ、蕎麦でも食いに行くか」
「お蕎麦ぁ?」牙を剥いた口を、開いてただそれだけで寸止めて、芳香は訊ねた。
「美味ぇ蕎麦を食わせる店があンのさア」
 返事も聞かず、男は颯爽と歩き出した。道に擦れる銀鼠雪駄の尻鉄が耳に残る。チャンチャン、チャラリと、三度の余韻。何だか不思議な音色だ。
 芳香は軽いおちょぼ口となって、その足音に付いて行くことにした。

 木造平入の町家が隙間なく建ち並ぶ十数間ほどの大通りに、その店は在った。
 正面は地味な出格子だけの朴訥な造りだが土間に通ずる開ききりの出入口からは盛況の声と光が漏れ出ている。障子張り厨子二階の下方から瓦葺の腕木庇が突き出ており、その端には卯建型の風格ある漆喰の看板が掲げられていた。
 軒庇より吊り下げられた柿渋染めの縄暖簾をくぐるや、江戸っ子は指を二本立てて注文した。
「せいろ、二枚くンなァ。ツユはもちろんお江戸風だぜ」
「あいよう」
 店内は小奇麗な数寄屋造りで、はしこそうな顔立ちの女給が独りで切り盛りしていた。その案内を待たずして、彼はそのまま手近な空席に腰を掛け、芳香にも眼で着席を促した。芳香は応じて、その対面に陣取る。白い敷布の木卓を前に、曲がりにくい股関節を伸ばしたまま、椅子の前側にちょこんと座る。背凭れに蕎麦の花が透彫されたローズウッドのその椅子は、それが可能なほど座面が高い。夕方という食事時の時間帯であり、また奥座敷では酒宴の真最中のようで、天井より吊るされた棗型行灯の薄ボンヤリという実情以上の眩さがそこには在り、ガヤガヤと繁華な火照りが室内に満ちている。人里ではある種の部外者である芳香にはその盛況が幸いし、僵屍の入店を咎める者は誰もいなかった。
 数分と経ずして、蒸籠が二枚運ばれてきた。竹編みの器に盛られた蕎麦の発する冬空にも似た香りが胸に心地良く、江戸っ子の前に一枚、そうしてこちらにもう一枚。薄茶色で細い麺表に瑞々しい光が在る。
 傍らに付くは赤唐草の蕎麦の猪口、ふうわり香る魚出汁とみりん醤油、あと山葵。
「やれ、来た来た」手を擦り合わせながら、江戸っ子は待ち侘びたように言った。
「悪いねえ。こうも忙しいと、旦那の相手をしてる暇も無いよ」と、白和風帽に赤毛の女給。
「なアに、そういう日もあらアやな」
 手元の割箸を口に咥えてパチンと割り、江戸っ子は器用に箸を持った。
 芳香もそれに習って割箸を掴む。両手でベチンと縦に割って不器用に握った。
「良いかぇ、きょんちィ。今からお前ぇさんに『江戸流』の蕎麦食いを教えてやらア」
「早く食べたい」キンキカランと叩き箸で、芳香は猪口をさえずらせた。
「まア待ちなよって。お前ぇさんは少し堪え性ってぇヤツを覚えたほうが良いぜ」
 江戸っ子は蕎麦盛に箸を入れ、素早く手首を返して蕎麦を手繰った。
「量を取っちゃアいけねぇよ、何せ蕎麦ってヤツは噛み切っちゃアいけねぇからな。歯で噛み切って、せいろだのツユだのに戻すってのは粋じゃアねぇ。一口に食える分だけ取るのさ。女やガキだとこのくれぇさ」
 次いで、江戸っ子は摘んだ蕎麦の下側をちょんとツユに付け、口に運びづるりと音を響かせて啜った。咀嚼もそこそこに喉へと送り、鼻からクウと満足の声を漏らす。
「どうでぇ、きょんちィ。粋だろぅ。蕎麦食いってぇのはな、香りと味と喉越しを纏めて楽しむってぇ寸法よ」
「んー、分からん」
「困った女だねぇ。マ、マ、良いってことよ。とにかく実践だ。良いかぇ、取った蕎麦は下三分の一だけツユに付けんのさ。じゃなけりゃア、蕎麦の香りとツユの味が混ざっちまってヤボになっちまう」
 芳香は蕎麦盛に箸を挿し、そのまま蕎麦を引っ掛けた。手首が返せず、あんまり取れない。
 めげずに猪口を手に取って、箸先の蕎麦をツユに交わした。握り箸だからか、これまた付かない。
 別に巫山戯ているわけでもないのに叱られているような虚しい気分に陥り、空腹感というこの世で最も子供っぽい邪執のフラストレーションが心にとぐろを巻いた。
 短絡にしか物事を考えられぬ芳香には量を取らぬ作法など面白くもなんともなく、量を取れぬことへの苛立ちばかりが嘲りの舌を出す。
 不興の顔をした芳香を前に、それでも不思議と、江戸っ子の声は弾んでいた。
「巧ぇもンじゃアねぇか」呵々と笑って頷く。「ンでだな、音を立てて啜る。こりゃアな、蕎麦の香りとコシを楽しむのを同時にするためにゃア、必要な作法ってぇヤツなのさ。それだけでい、さ、食いねぇ」
 後は音を立てて啜るだけ、それならば、と芳香はちょっとだけ安堵した。これ以上やいのと喧しいことを求められては、それこそキワを超えていたやも知れない。
 そもそも僵屍は、通常の箸作法では食物を口に運べぬのだ。身体の固い、死体だから。
 放埒な犬食いの許されない今のような状況では、融通の効かない関節がため、ちょっとばかり特殊な手段を執る必要がある。誠に頓狂な作法だが、僵屍にはまさに日常茶飯だ。
 芳香は胸を張り気味に首を後ろに傾かせ、『曲がらぬ肘を伸ばしたまま』腕を頭上に擡げさせた。すると箸に吊るされた蕎麦は、店内を照らしている棗型行灯の光に応じ、ダラリと垂れ下がるその茶けた麺表に刹那的な淡緑色の正体を現した。これを狙うでもないが、芳香は下方より頑是なく唇を伸ばしてズズウと啜る。喉越しは香りとも相俟って爽やか。そうして甘やかなツユの味わいが後から付いてくる。
 節々が不自由な僵屍の世にも珍しいこの食作法に、江戸っ子は眼を丸くした。
「こいつア、また、物珍しい食いかたをするもんだなア。きょんちィ流かい?」
「こーとしかできないぞー」
「フウ、ン。よいよい蕎麦みてぇだなア。風狂ってぇヤツかねぇ」
 三度、芳香がその作法を続けるのを、江戸っ子はしげしげと眺めていたが、やがてポンと景気の良い音を立てて膝を叩いた。
「お前ぇさんが俺っちに合わせて食ってるってぇのに、俺っちばかりが江戸流で食うってぇなア、どうにも格好が付かねぇやな。一丁、俺っちもきょんちィ流で行くか」
 そう威勢を口にして、江戸っ子もまた蕎麦の吊るし食いを始めた。
 それは一種、珍妙な光景であった。僵屍たる芳香自身にとってさえも。
 僵屍は関節可動域の狭さがため、その挙措に多くの障りを持っているが、それ故の特徴的な動作を誰かが真似るという時には、殆どの場合そこに侮辱の気配を孕むものだった。怖いもの知らずの子供や妖精らに、からかいという刃を向けられて、その傷跡の無い痛みは僵屍にとって大した苦しみではなかったものの、それでもまあまあ気楽ではなく、怒ってみせたり脅かしてみせたりして、結局は索然とした気持ちになったりするのが常だった。
 一見すると、箸から蕎麦を吊るして呵々と笑っている江戸っ子の行為は、そういう連中の嘲りに類する行為に見えなくもなかった。ただその実、芳香のぶきっちょな動きを僵屍の『流儀』と表現し、ひいては『江戸流』と同等であると認めている以上、その模倣は単なる物真似ではなく誠意からの歩み寄りであり、或いは尊重の精神といえるのやも知れない。少なくとも、その口先だけを辿るならば。
 ともあれ芳香は感謝しようだとか殊勝な態度を取るわけもない。この見ず知らずの江戸っ子に精神的な同調をひけらかされたところで、今の空腹感の前にはそれが一体どうしたと軽んじるばかりに過ぎぬ。
 そう、とにかく空腹なのだ。こんな調子では足りぬ、もっと食べたい、一息に。
 不意に、芳香の中に例の不穏が再燃した。全身を滾り猛る熱発めいた欲求不満の衝動が奮い、ただでさえ腐っている脳髄のシグナルが猛り乱れて、固い身体が一際に頑なとなる。ただ先程と少しばかり毛色が異なっていたのは、食への渇望と同じ程度の激しさで、戯れるように蕎麦を啜っているこの人間を突き放すような、つまりこいつを『怖れさせて』やらねばと、そういう妖怪の本質めいた焦燥が多分に含まれていることであった。
 その心中を端的に述べるのならば『歩み寄るな』、『近寄るな』と。そんなところか。
 芳香は俄然と蒸篭を手に取って、上方に擡げさせた。檳榔子黒の瞳孔でぎょろり、蕎麦を見据える。赤々とした口を開くと僵屍の鋭利な乱杭牙が覗き、それでいて尚も、やんちゃな子供が震え上がるくらいに威嚇めかした大きさまで開いた。伸びきった腕の握り箸で蒸篭の上の盛りを崩し、口へ目掛けて払い落とす。乱れた蕎麦は千々となり滑落したが幸いにもその総てが口内に収まった。荒っぽく空蒸篭を卓に放り、今度は猪口だ。同様にして擡げ、ゆるり傾かせて零す。澄んだ飴色のツユが柔らかな放物線の水流となって口へと注がれる。終いに全部纏めて咀嚼して、一息に喉奥へと押し込んでみると、何だか余韻が随分と塩辛かった。乾いた疼きが喉の奥からじんわり湧いて、先の甘やかさが不思議と恋しくなった。
 顔を渋くさせる僵屍に、江戸っ子は呵々と笑った。
「お前ぇさん、全部食っちまったのかい。驚ぇたな」
「う、う……? しょっぱいぞー」
「そりゃなア、お前ぇさん、江戸風のツユは濃ゆいんだ。一気に飲んじゃア辛くなる。だから三分の一なんだぜ」けどまア、と江戸っ子は愉快そうに告げた。「お前ぇさん、今のは粋だねぇ。妖怪っぷりを上げたってぇところかい?」
「いき?」
 暴食兇行を衒ってみせたはずが、意に反する称賛めいた概念を投ぜられ、芳香は訝しんだ。
 その発作的な躍動を前にして、尚も、江戸っ子は笑っていた。
「そうさア。男を上げる気っ風、女を上げる御侠、ぶん纏めて粋って呼ぶのさア。言ってみりゃア『そいつなりの筋を通して』格好が良けりゃアそれで粋さね」
 彼は吊るし食いに飽いたのか、普通の食法に戻り、蕎麦を啜りながら告げた。
「するってぇとだ――ズ、ズ、ゴクリ――お前ぇさんの場合は『妖怪として在ること』が粋なのかも知れねぇなア、きょんちィ」
 世間話でも交わすように、江戸っ子は呑気な表情を向けた。
 あからさまに示してやった拒絶の意志をはぐらかされたような気分となり、芳香は大いなる憤懣と、ただちょっとばかり怪訝な心地となって唇を歪めた。
「実はな、俺っちはお前ぇさんをさっき見かけた時によ、何てぇヤボな女かと思った」
「……ヤボ?」今度は悪口みたいだ。
「無粋さア――ズ、ズ、ゴクリ――粋じゃねぇってことさね」
 存外、速いペースで進めるもので、蕎麦盛りは既に半ばが失せていた。
「きょんちィよお、お前ぇさん、さっき蝶々を食おうとしてたろ」と、江戸っ子は俗っぽい仕草で指し箸をこちらに向けた。
 芳香はその箸の先端を寄目に見つめた。上品なのか下品なのか、ツユの涙は一切無い。そういう食作法なのだ。
「お前ぇさんも承知のこったろうが、俺っちはそれに水をさした。どうしてだと思う?」
 ――はてな、と。芳香は腐った脳髄を盾に、ある意味で僵屍に最も相応しい呆けた表情をして沈黙した。
 そもそも芳香とて疑問に思わなかったでもない……などとすると芳香が僵屍らしからぬ聡明を備えているようであるが、生憎とそこまで理性的な代物ではなく、ただ蓋然性の範囲で彼には一抹ほどの胡乱を薄々と感じていた。何せ、ああいう状況に出くわしたなら怖れるか逃げるかするべきだ。仮にこれが妖怪相手でなくとも、例えば今まさに獲物を狩らんとする肉食獣の前に浮かれ出るような、そんな非常識を誰が看過しようものか。結局、彼にはそこはかとない怪しさが在る。
 しかし、この胡散臭いという印象は、こと芳香という僵屍の境遇における『最も身近な誰かさん』のそれと誠に類似しているという複雑怪奇な現状が在り、寧ろ芳香は無意識に、そのきな臭さをこそフリンジな親しみで見てしまっていたのかも知れない。それがために食らおうとした――そう、一旦は食らってやろうかとすら思ったのだ――相手を、たかが蕎麦という代替を提示されただけで命を助けたのだ。そうして今この席に至る。
 この江戸っ子は、酔っ払った猫の足運びのような危うさで成り立っている自分の幸運を知らぬのだろう。故に、他愛のない態度で蕎麦を啜っていられるのだ、きっと。
「率直に言えばだ」ズルズルやりながら、江戸っ子は言葉を続けた。「俺っちは蝶々を助けてやりたかったンだ」
「……」芳香は黙念としている、が、僅かばかり眉根を寄せた。相手の言葉の真偽が、その趣旨からして把握できなかったのだ。
「蝶々はなア――ズ、ズ、ゴクリ――儚さこそが粋なのさね」
「何を言っているんだー?」
 どうも言葉の端々に脈絡が無い気がする。彼が何を言わんとしているのか分からない。認識が錯綜して思念が巧く働かず、芳香は思わずホゾを咬んだ。
 僵屍たる芳香にとって、この種の混迷は好まざれども見慣れた友人だ。いつの間にやら忍び入る、摩擦という名の重い枷。勘違いを自覚することも多く、また齟齬を指摘されることはもっと多い。なるべく避けようとすると却って顔を出し、努めて関せず黙り込めば後々の禍根となったりする。それに何より、相手の言葉を理解できないことは途方もなく淋しいものだ。辛いことだ。如何な、腐り行く脳髄の精神であろうとも。
 芳香の属する組織の首領は弁巧術に長けた俊英で、河原にせせらぐ水音にも似たその声音は僵屍の耳にも心地良く、仲間内での団欒の際、彼女が一度何事か口を開けば皆がそれに耳を傾けて深い感銘に浸る。そこまでは芳香とて例外ではない。ただ、その後がどうにもいけない。何やらジンと心に響く言葉を傾聴したはずが、その意向を察しきれず粗漏を犯せしことなど枚挙に暇がない。
 幸いなことに芳香の周囲は心根の優しい者ばかりで、すれ違いが生じてしまった時にさえ彼女らは優しい言葉で慰めてくれる。優しい言葉は聞こえが良い、しかし、そこには結局、まるで墓場にでも取り残された感慨が残るばかりだ。或いは、墓場に一人のほうが気楽かも知れぬ。周りに沢山の味方が居て、なのに自分だけが感銘を理解できず孤立してしまえば、それは孤独よりもずっとずっと切ない。
 この江戸っ子は、芳香の心境を知ってか知らずか、次のように述べた。
「分からねぇかも知れねぇが、分かってもらえるかも知れねぇ。どうせ俺っちは話下手よ。それでもまア、もうちっと、俺っちの話を聞いてくんなア」
 その言葉からして、どうやら彼は話が通じぬことを自分の責任であると考えているようだ。彼が話下手を自任しているのなら、そうかも知れない。
 その一方で芳香は自分の腐った脳髄こそが宜しくないと、なまじっか明白な自身のハンディーを言訳として掲げ、開き直って理屈としていた。どうせ、そうだ、と。
 彼はまた蕎麦を美味そうに啜り、そうして喉を潤して言葉を続けた。
「俺っちはなア、粋なヤツが好きなンだ。江戸っ子だからな。ンでだ、あの蝶々はこの凄ぇ寒い冬の季節をヒラヒラやってた。こいつアさ、粋じゃアねぇか。護ってやらにゃア、野暮天じゃアねぇか」
「ほー」
 粋云々の価値観がそもそも良く分からない。結局、蝶々への憐憫ということだろうか。
 博愛の精神がどうだとか、芳香にはその種の信念に絡みついている思想を分析するほど立派な脳髄は持たないが、それでも例の瑠璃立羽は、この江戸っ子がその身を晒してまで助けるべきものとも思えない。たかが一寸ほどの虫ではないか。それとも虫以下なのか、こいつの価値は、命は。
 思念がそうまで至った時、芳香の精神がまたもや妙な高揚を得た。得体の知れぬその昂ぶりの源を探ると、そこには先程まで芳香を滾らせていた不穏から純朴なる食欲を引いて残ったもの、妖怪を妖怪たらしめるもの、即ち僵屍という妖怪としての本能が、実に蠱惑的に明滅していた。蓋し、明は怒情のシグナルであり滅は破戒のそれである。それらに思惟を委ねてみると、芳香の硬直している腹ですら捩れてくる愉快な発想が生じた。
 ――この男を喰ろうてやろう、と。芳香はそう思い至った。元より初志だ、貫徹したところで何が悪い。
 芳香は難しいことを考えるのが嫌いだが、分からぬことを強いて聞かされるのはもっと嫌いだ。曖昧が積み重なるに連れ、ただでさえ腐った脳髄がドンドン腐敗して行くような気分になり、ヒリつく疎外感が身体中に張り付いて居た堪れず、その感覚は途方もなく不愉快なのだ。この男の言葉は、太子のそれのように心地良いわけでもなく、娘々のそれのように湿潤でもない。なのに、こうも続けざまに難しい言葉を投げかけられてしまっては、憎悪に走るより仕方ないではないか。
 そう結論してみると、何やら頭の中が妙に爽やかとなった。腐った脳髄が頭の中で蟲動を始め、うねり、捻くれ、嗤う。肩が揺すれて口が裂け、上目遣いに相手を見やる。
 江戸っ子も笑って言った。
「良いツラに成ったなア。話を聞くつもりになってくれたみてぇで少し安心したぜぇ、きょんちィ。俺っちはよオ、お前ぇさんとはいっぺん腰を据えて話をしてみてぇと思ってたンだ」
 ケラ、ケラ、ケラと二人して笑った。
 そうとも好きなだけ話すが良い。妖怪的な余裕を以って木偶の如きに頷いてやろう。ひとたび喰うと決めたからには、その言葉は糧ともならん悦ともならん。万事が終わりし後には暗がりにでも誘い、丸齧りして跡も残さぬ。
「実はなア、俺っちはお前ぇさんのことを知っていた。正確に言やア阿礼乙女さんの本を読んだだけのことだがね、お前ぇさんは自分が『何でも食う程度の能力』だってぇ吹聴しているらしいじゃアねえか」
 コクリと大仰に頷いてみせた。覚えが在る、間違いでも無い。
「これ読んで、俺っちはなア、すンげぇことに気付いた。つまりこれは何でも食う、『人間も食うが人間じゃアねぇものも食う』ってぇ、そういうことなんじゃアねぇかなアって」
 道化て笑い、コクコクと小刻みに頷いてみせる。当然ではないか。蝶々も喰う。人も喰う。それが僵屍だ。
 芳香が傍目からは上機嫌なのを良いことに、江戸っ子は説明の不得手な者が良くするような、適切な言葉を探る逡巡を長々と交え、やっと次のような言葉を述べた。
「いやアね、俺っちだって妖怪が人間ばっか食ってるわけじゃアねぇってことくれぇ知ってるが、こりゃそういう意味じゃなくてだなア。つまり俺っちはな、これにゃ開闢以来の定説『妖怪は人間を喰らうもの』ってぇ概念への『待った!』をだ、お前ぇさんが暗に含ませているんじゃねぇかなア、とそう思ったんでい。仮にこれが『必ずしも人間を食わなくて良いンだ』ってことの『妖怪からの表明』なら、お前ぇさんは幻想郷の人間と妖怪の関係性を変えられるかも知れねぇ」
 これまた晦渋なる理論を言い出したものだ。芳香は腑抜けた笑顔でその心模様を誤魔化したものの、どうしたものか、いっそ腹ただしいまでに訳が分からない。僵屍をそうまで人間贔屓だと思うなどと、彼はどうにも事象を複雑に考え過ぎている。能力云々の話ならば、もそっと単純なことだ。取材と称して訪れた女に、自分の誉れる事柄は何ぞと問われ、なかなか思いつかず、遂に、苦手な餅米も蒸した状態であれば食べられるようになったことを述べ、それが記されたに過ぎぬ。
 ともあれこの男は軽はずみにも勝手に妄想したその難解な解釈ばかりを頼りとして、話が通ずると思い込み、蝶々を庇い浮かれ出でたのだろう。僵屍からしても、全く度し難いほどの阿呆者だ。数分後、彼とてそれを自覚するに違いない。
 彼がまた蕎麦を啜った。もうそろそろ終わりそうだ、話も、蕎麦も、この顛末も。
「ちょーちょは助かったぞー、良かったなー」
「あたぼうよ。ちいっとばかし厄介な確認が残ってるがなア……」と、そう言って芳香に向けられた江戸っ子の眼は、この期に及んで初めて、郷愁の風情に似た真摯を帯びていた。
 芳香はその眼差しに、戯れのふやけた表情で報いてやったが、彼は構わず言葉を進めた。
「お前ぇさん、笑ってばかりいるがよう、実際のところはどうなんでぇ?」
「ンア?」芳香はきょとんとした。
「てぇやんでい、そんな可愛らしくされても困るぜ。聞いてたろ。俺っちのトンチキな解釈は本当に合ってンのかい?」
 そう口にしたきり、江戸っ子は芳香と見合ったまま沈黙した。周囲の雑談する声が轟然たる中で、だんまりを決め込んだ彼の口元は空々しいまでに朗らかだった。
 芳香は全身の冷血が荒ぶのを感じた。面前のその表情から芳香が受けた印象は神経を逆撫でするほど安穏とした『余裕』であり、奴を喰うと定めた立場であるはずの自分がまるで低きに在るかのような、誠に有り得べからざる態度であった。腐った脳髄が眼の奥で明滅している気がして、何だか光るたびに喉が渇く。ツユを一気飲みしたツケが蘇ってきているのかも知れない。水だ。水だ。霑体にも足る水が欲しい。この際、血でも良い。潤すのだ、喉を、眼を、脳髄を。
 ともあれ芳香は、それでも仮初めの微笑を保つ必要があった。仮にここで怒鳴ったり暴れたりしても、頻りと明滅する腐った脳髄にとって、それは無価値に過ぎない。如何なる暴力を重ねても、それは右手左手への『怖れ』であり、芳香への本質的な『怖れ』とは別種のものだ。潤わぬ。『怖れ』が妖怪プレゼンスの証明という意義と同時に、妖怪の自己満足を満たす嗜好品としての側面を持つ以上、芳香はこの小癪な人間から『怖れ』を得てやらねば、もはや辛抱ならなかった。
 そうして、それは全く簡単な工程で済ませられる。この男の如き、梼昧を以って理想と為す者の心を挫くにはその根幹を痛烈に否定してやれば良いわけだが、実に都合の良いことに、芳香のただ一言が在れば彼の解釈の誤謬は証明できよう。
 芳香は無邪気な悪意を掲げ、この理想主義者に現実を突き付けてやることにした。
「大はずれ」声を潜めて愉快げに、芳香は嗤った。「私は喰うぞ。お前を、喰うのだ」
 そう口にしたことによる充足感は鮮やかなもので、芳香は僵屍っぽくにんまりして胸を張った。その胸には期待が溢れていた。次に、この男はどんな態度を取るだろう、という甘美な予感である。愚を悟って嘆いてみせるだろうか、それとも己れの意に沿わぬ僵屍を説諭しようと試みるだろうか、もしくは感情を爆発させてみせるか、はたまたそれらの感情を隠そうと下らぬ沈黙に終始するか。そのどれしもが芳香の渇望を癒やすものとなり、また妖怪としての充足となろう。
 ――そのはずであった。
 江戸っ子は顔色一つ変えぬまま幾らか軽く頷いてみせた。ズズウと興醒めな最後の一啜りを発し、蕎麦は口へと消えていった。
「そうかぇ。マ、マ、お前ぇさんがそう言うンなら仕方ねぇよなア。俺っちも男さ」江戸っ子は箸をパチリと置いた。「潔く、きょんちィに食われてやろうじゃアねぇか」
「ンア?」芳香はぽかんとした。愕然・失望にまま近い、ぽかんだ。
「なアに、ハナからそのつもりさね。その類いの覚悟も持たねぇで妖怪をメシに誘いやしねぇさ」
 あっけらかんとして、江戸っ子は言葉少なに告げた。
 芳香の精神は難渋した。その言葉の意味を丁寧に反芻してみても尚、これまた甚だ奇妙なことになったと思わざるを得なかった。芳香は『喰う』と決めていたわけだが、相手は『喰われても良い』と決めていたわけだ。全く不可解であった。そもそも逢着からこれまでの問答は、芳香を人間贔屓の僵屍であると、そう仮定していたからこそのものではなかったのか。彼の中で、芳香はあくまで善良な妖怪のはずだが、それに自分を喰わせるなど、とんでもない的外れではなかろうか。
「何を言うのだ」殆ど唸るように、芳香は呟いた。
 江戸っ子は肩を揺らして呵々と笑った。
「そう焦らねぇでくんなア、逃げやしねぇからよう。何たって、お前ぇさんには感謝してンだ。俺っちのトンチキな解釈を文句一つ言わずに聞いてくれたもンな。いやね、俺っちだって分かってンのさ。幻想郷にゃア妖怪の保護ってぇ御大層な名目が在るンだから定説を乱すような妖怪が居るわけねぇ。けどなア、きょんちィ。この幻想郷で産まれた俺っちみてぇな無力な人間がなア、妖怪と『対等』に仲良くできるような未来を夢想してみたところで、何も悪かアねぇだろう?」
「しかし、今お前は」芳香は貪婪の乱杭牙を剥いて告げた。「けーはくに未来を捨てたもどーぜんだ。キョンシーを突付けば牙が出るぞう」
「良いさ、命を賭けて確認するだけの価値が件の解釈にゃア在った――ってぇと、何だか俺っちが余程の夢想家みてぇだが実際そうでもねぇ。ただ、この幻想郷ってぇ憂き世の人間は多少なりと夢想家的な一面を持たにゃアやってられめぇや」
 その言葉尻にシニカルな感情の切れ端を隠そうともせずにチラつかせつつ、江戸っ子はその飄然たる態度を崩さなかった。
 芳香はどこかムキになって、ままならぬ相手の態度を詰った。
「お前は死生をかろんじているのか。死ぬのはな、いかんぞう。それだけはいかんのじゃ」
「でも食うんだろ?」
「喰うけど」
 堪え切れぬいった風情で、江戸っ子が吹き出した。己れを喰わんと告げる妖怪を前に、顎を上げて眼元を掌で覆い、太平楽な笑声を響かせながら大口を開けて歯を見せた。
 対して芳香は、笑われて反射的に黙り込んでしまった。人間の大笑に怯むなど、おおよそ妖怪らしくもないが、芳香にはそれが嘲笑かまたはそれに準ずる何かのように感じられたのだ。つまりこの緊迫した状況下で、自分がまた滅裂でも口にしたのではないかという不安を催したのである。それは正体の無い曖昧だ。芳香の蒙昧さ加減を自覚せしめる、不穏に至る曖昧だ。だが、その曖昧の蓄積こそが結局は芳香の劣等感を刺激して脳髄を腐らせ、身動きを取れなくしてしまうのだ。
 江戸っ子はやがて笑い終えると、寡黙に沈んだ僵屍に快活な口上で語りかけた。
「きょんちィ。お前ぇさんは俺っちに、どうにかこうにか恐れ入って貰いてぇと思ってる見てぇだなア。ンな必要はねぇってぇのによ。――なア、きょんちィ。俺っちは死が迫ってるってぇのに、どうしてこうも落ち着いてんだと思う?」
「しらん」ただのシカバネよりもよほど無愛想に、芳香は返事をした。
「こいつアね、俺っちからの精一杯の礼節なんだよ」
 ――そんな話など、もううんざりだ。眉間に不快の皺が寄り、口の端っこが捻くれる。
「俺っちは蝶々の引き合わせでお前ぇさんと話す機会を得たがねぇ、さっきのトンチキな解釈について訊ねようってハラになった時点で、ホゾをね、固めにゃアならんと思った」
 軽く自分の臍をポンと鳴らし、彼は言葉を続けた。
「俺っちはどこにでも居る、江戸流に気触れているだけが目立つ一介の里人さね。けどその気触れた江戸っ子こそが一個丸々の俺っちなンでい。誰かに何ぞ質問する時にゃア在りのままの赤心を見せンのが江戸流だが、俺っちならつまり粋狂さア。怖くて震えてちゃア粋じゃねぇ、粋じゃなけりゃア俺っちじゃねぇ。分かるけぇ、きょんちィ。俺っちは『幻想郷に住まう江戸っ子』ってぇメンツをお前ぇさんに掲げてンだ」
「私にはかんけーない」
 長話を嫌った芳香はそう放言し、叱られている子供がよくそうするように顔を背けた。もしも腕が曲がったなら、きっと耳まで押さえてしまっていただろう。
「てぇやんでい、関係ねぇわけあるかってンだ」
 そっぽを向いた芳香に、男は語調をやや強めて額を突き出した。
 ――チャラン……と、心地良い音が耳朶を撫でた。身を乗り出した拍子に彼は地面を蹴ったのだろう、例の尻鉄が鳴ったようだ。一度だけだったはずの高音は余韻と成り、胸の内でのリバーブがもう二度の幻を芳香に聞かせた。加え、三度。
 眩暈にも似た、ただ不思議に安寧とした脱力感に襲われ、芳香は咄嗟に眼を瞑った。
 瞼の裏側の世界は芳香を鮮やかなモヤで出迎えた。黒闇の視界が音色のエコーと同調して、幾度と無く雫の跳ねたような王冠状の飛沫を散らせ、そこから虹色の波紋が広がって行く。波紋と波紋が交差すると、そこに八方への波浪が生じる。それは血潮めいた火照りを帯びて眼の奥に在る脳髄にまで及んだ。腐っているのもお構いなしに浸透せんとするその旺然たる波動はくすぐるようなむず痒さを以って脳内へと消え、すると堰を切ったように忘我に足る観念が噴き出してきた。
 脳髄は俄に表情を変えた。陶酔めいた明滅は失せ、まろやかな精密さを見せた。
 そう、そこはかとなく鋭敏なのだ。頭の中に生まれつつ在る羽毛ほどの柔らかな質量はその繊細の証左となろう。その密やかな興奮に強張っているはずの背筋が震えた。
 その高揚は芳香にとって全く初の感覚だった。これまでに芳香に生じた興奮といえば少なからず憤激を伴う蛮情であったのだが、今この瞬間には秩序だった規律の在る覇気が芳香の中に満ちている。初めてである以上、その正体は知れない。掴みどころのないこの旺気が何に由来するものであるかすら芳香には分からない。蓋し、僵屍には得難い代物なのだろう。或いは簡単に得られるものなのかも知れないが、生憎と芳香に『それ』を与えてくれた者は無かった。それは糧である。幸福である。水蜜桃の如く甘美である。依存を孕む大毒である。芳香には神にも等しい娘々が与えてくれなかったものである。俊英たる太子も心優しい仲間達も、僵屍を囃し遊ぶ子供らと同様、芳香に与えようとは思わなかったものである。
 彼だけが芳香にそれを積み上げていた。件の音色はその集積の堰を切る合図と成った。
 彼はそれを赤心と云う。飄然たる礼節だと云う。江戸っ子としてのメンツだとも云う。さもありなん。彼はその精神をこそ対話の前提としていたのだ。蕎麦食いの流儀云々にて彼の見せていた尊重の精神がその具象の何よりの証明となろう。
 即ち『敬意』である。
 人間から妖怪への灼然たる欽慕である。この上なく高質な、妖怪プレゼンスへの比類なき馳走とならん。芳香は既に満たされていたのだ、本人がそれと気づかぬままに。
 ならば敬意の出現は芳香に如何なる変化をもたらしたか。顕著であったのは脳髄である。芳香にとって腐った脳髄は煩慮の種であり、それを理由に自らを恃むところが薄い傾向が在った。どうせ、で思念を諦めてしまう。その諦めは自分自信を失望させる。自分に誇りもなく投げやりに過ごせば心の機敏は鈍るばかりで、心無い精神はその臆病を裏打つ不穏に芳香を駆り立てる。或いは索然とした劣等感と化して芳香を身動きできぬ『案山子』としてしまう。
 そこに敬意が向けられた。吹けば飛ぶようなオガ屑めいた『自信』が生じた。
 頭に『自信』を詰められた『案山子』は何を思ったか。きっと語弊も在るだろうが、芳香はまるで『自分の脳髄が腐っていない』かのような切ないまでの昂ぶりの中心に在った。
 芳香は瞼を開いた。眼を長く瞑っていた際に見る、色彩と光明が妙に映えた世界だった。
 男は尚も何事かを話そうとしてその口を開きかけたが、不意にジッと芳香を眺めた。芳香を見るようでいながら、もっと深くを見透すような眼で、やがて彼は頷いた。懐を探り、穴の開いた十銭銅貨を四つと一銭銅貨を八つ、卓上に置く。
「さア、蕎麦は食い終わった。もう行こうじゃアねぇか、きょんちィ」彼は笑って、そうとだけ告げた。
「……ほいよ」
 江戸っ子は先んじて蕎麦屋を出た。芳香もその足音に続いた。
 外はすっかり日が暮れて寒夜の肌寒い帳を降ろしていた。通りに面する町家は提灯やら掛行灯やらの軒灯を掲げ、ぼんやりと風に揺れる灯りが店先を照らしている。
 各々の屋号が記された掛行灯は絵柄や色彩もまた様々な様相であった。どうやら色紙で拵えられた切絵が貼ってあるようで座商主の好みに応じた創意が施されているらしい。
 軽く眼を奪われていた芳香に、江戸っ子は飄々として肩を竦めて告げた。
「ここじゃア明る過ぎらアね。ちょイと暗がりまでご一緒に、なアに艶めく話にも成りゃアしねぇ」
 彼は彷徨の歩調で大路を進む。その緩々とした足取りを掛行灯は清かに照らしていた。
 一際に明るいそれは藪椿だった。喇叭の如く丸みを帯びて開かれた肉厚な花弁が大輪の千重咲きとなって鮮やかな紅色の煌きを放っている。誠に精巧な造りで在り、しかも実際に仄かに香ってくる。蝋燭の灯心に椿油を混ぜてあるのだろう。
「江戸っ子」芳香は背中に訊ねた。「その夢想は本気か」
「あたぼうよ」彼は振り向かずに肩を揺らした。「人間と妖怪が仲良う暮らす、目出度ぇ世界さ」
 芳香は微かに頷いた。
 その次は、ちょっとトボけた川蝉だった。樺の白花の陰に潜む魚を狙い澄ましており、翡翠色の両翼を大仰に広げて勇ましく滑空している。ただ、何だか太り過ぎているためかその橙色のふっくらしたお腹ばかりが目立ってしまっている。
「どうしてその夢想に至った」
「……深入りしたのは知己の影響さね。俺っちと違って頭のイイ野郎だったなア」
 ――だった、か。芳香はスンと鼻を鳴らした。
 隣は変わった形状のカリフラワーだ。全体を形成しているボテッとした幾つもの花蕾が螺旋を描いて円錐を為している。幾何学的なフラクタルを孕んだその突起は眼の奥へと入り込んでくるような謎めいたクリーム色の光を散らしている。
「そいつはどうした」ニュアンスで分かりきったことだが、それでも訊ねた。
「あいつは失敗したみてぇだ。ンで、どうやらこうやら死んだらしい」
 次は人物画。緑色のスリット入り中華服を着た赤毛の女性が掩手肱捶の構えを取っている。千草色の瞳を煌めかせたその横顔は一瞥に峻険だが頬にひょろりと鯰髭が描き添えられており、それは穏やかにして豊かな伝神を写照している。
「お前も死ぬぞ。その夢想を自ずから封ずる積もりか」僅かばかり声が逸った。これは、よもや同情かも知れない。――少なくとも誘い水ではある。
「そいつア無茶な言草だぜ」彼はあっさり首を振った。「何人たりと、夢想を封ずるなンざ烏滸がましいこたアできやしねぇのさ。重力を無視でもしねぇ限りはな」
 続いては琢磨を極めた光沢のトルコ石だ。神聖なターコイズ・ブルーの光輝を持つそれは数珠状に繋がれ、その一粒一粒がアートマンの象徴として『黍粒ほどにして莫大』な光輪を暗喩している。後はクミンの香り、カレー屋さんのようだ。
「他にも同調者が居るのか?」
「居るも何も全員さ、きょんちィ」彼は呵々と笑った。「多寡こそ有れど、里の誰もがその類いの夢想を持ってンだ。何せ、今の人間と妖怪の関係ほど歪なもンもねぇ。俺っちはその辺をちょイと突き詰めてみただけさ」
 今度は大きな鯨だ。可愛らしくデフォルメされた目鼻を持つ藍色の抹香鯨が片鰭に酒盃を、もう片鰭に酒徳利を携えて大風に笑っている。たぶん彼は杜甫の詩に基づいた、百の川をも吸うという底無しの長鯨に違いない。
「でも意識の多寡こそ問題だ」
「そりゃまア、そうさ。夢想を願うだけか追おうとするかで、だいぶ事情が違ってくらア。だがよう、きょんちィ。勘違いしちゃいけねぇ。『寡い』ってのは『無い』ってことじゃアねぇのさ。マ、そっちのが管理し易いのかも知れねぇが」
 紫の紙が貼り付けられただけの掛行灯、それを江戸っ子は通りがけにパシンとはたいた。掌で弾かれた菫色の切紙は小気味の良い音をたてて震えた。
「人間は妖怪に劣らず複雑怪奇さ。この行灯の柄に見ゆる放埒ってぇかさ、纏まりの無さを御覧じろィ。里のこの通りだけで跳ねっ返りな趣味・思想が坩堝に成ってンだ。次が出て来ねぇはずもねぇ。ンなら、いつかきっと実を結ぶさア」
 と、そこまで口にして、ふと男は歩みを止めた。首だけで軽く振り返る。
「いンや、こいつア一概に纏まりがねぇとも言えねぇのか。フウ、ン。虹みてぇだなア」
「虹?」
 芳香も、ひょいと跳ねて振り返った。なるほど紫色を端として、また最初の藪椿を反端とすれば、確かに掛行灯のその並びは虹彩を形成していた。
「こういう風情に漸く気付くってぇこたア、俺っちも、もうそういう境地なンだなア」
 芳香が向き直ると、江戸っ子は既に前を向いていた。彷徨、進んで行く。
 紫色の掛行灯の先はもう灯りが薄く、仄暗い、明暗の世界が続いていた。虹の彼方に至るというのは、結局、また別の明暗に及ぶということなのかも知れない。
 芳香は虹の根本、紫行灯の下に立ち尽くした。
 果てしなく膨らんだノイズのような揺らめぎが生じていた。それは観点を変えれば甘えとでも云うべきものであるが、芳香にとってはやはり大いなる迷いに違いなかった。
 つまり、このまま彼を喰うべきか否かという大前提への躊躇である。
 古来『妖怪をして最も幸福な境地とは何か』という問いを投げかけた時、妖怪は道徳と決別をした。『妖怪は人間を食べる』との定説は、妖怪の存在を維持するという幻想郷の金科玉条として、なるほど真当なのやも知れぬ。それに他ならぬ彼が食人を妖怪の流儀として受け入れている以上、仮に芳香が急な前言撤回を申し出たところで、それは芳香が僵屍としてのメンツを掲げなかったことに等しい。妖怪である自分への裏切りであり、もしかしたら彼の覚悟への侮辱にも成る。
 喰らうべきなのだ、今この瞬間にでも飛びかかれば良い。それで総ては終わるだろう。
 だが『妖怪と人間』ではなく『生命と生命』として捉えたらどうか。共に蕎麦で空腹を紛らわすことのできる生命が二つ在ったとして、一方の敬意を示す生命を、もう一方が喰らうのは正しいことか。怖れは腹の中でさえ生き続けるとでも?
 僵屍に敬意を払ってくれる人間を喰らうなど、とんでもない的外れをしているのは実のところ芳香自身なのではなかろうか。
 見れば、江戸っ子は少し離れたところまで進んでいた。芳香は、もう彼がこのまま立ち去ってくれても構わないと実情そんな気持ちだったが、当人にその積もりは無いらしく、後に続かぬ僵屍を見やり戯れの声を上げた。
「おおい、きょんちィ。暗がりで独りにするたア連れねぇじゃアねぇか」
「……ちぇ」芳香ははしたなく舌打ちした。
 足取りの重い跳躍で、前後に据わりの悪い首が一際後方に傾いた――まさにその時だ。眼頭に沁み入るような凍星の散りばめられた群青の冬空に紛れ、一色の黒が浮かれ出た。紫色の灯りに映える黒褐色の艶姿は確かな見覚えが在った。
 向こうからも、驚きと感嘆の入り混じったような声が上がった。
「おや、こりゃア魂消た。また会うとはねぇ」
 儚くも夜風をいなすそれは瑠璃立羽であった。
 四翅をそうも優雅に閃かせて何処に行く気かと眺めていれば、蝶々は進むでもなく舞うでもなく宿りの目当てへと身を降ろした。大胆に悠然と、仰ぐ芳香のその鼻先へ。
 寄り眼になって鼻梁を見る。蝶々は寛いで微睡むように翅をゆったりと開閉させていた。芳香と眼が合っても離れる気配は無い。寧ろ、市松模様のその複眼でこちらをジッと見返してくる。
 何を伝えんとしているのだろうか、この物言わぬ虫は。
「きょんちィ」江戸っ子は呵々と笑った。「お前ぇさん、随分とホレられた見てぇだなア。そうしてっと何だか花にでもなったみてぇじゃアねぇか」
「お花?」
「ああ、蝶々はホレた花に宿るもンだ。案外、そいつアお前ぇさんと別れてから、やっぱり惜しくなって、ずっと探し回っていたのかも知れねぇなア」
「ふうん」
 そうなのか、と寄り眼の瞬きで問うてみた。
 胡蝶は白黒縞の触覚を四翅の仕草と同じように栩栩然(くくぜん)とさせて揺らすばかりだった。到底、自分を喰らおうとした相手に見せる表情ではない。
「こいつは私が怖くないのか」
「さアて、蝶々ってぇのは、いつだって夢見心地なのさ。『この世は蝶の夢にぞありける』たア巧く言ったもンだがねぇ。怖さなんざよりも、そいつはきょんちィに別のもンを感じてンのかも知れねぇなア」
「それは良くない。気分が悪いぞ」
 檳榔子黒の瞳を広げ、芳香は鼻尖を睨んだ。蝶々は微動だにしない。
「控えおろう、さもなくば喰うぞう」
「およしよ、きょんちィ」江戸っ子は諌めるようにして告げた。「一度は見逃した命じゃアねぇか」
「こいつの態度が気に喰わぬのだ」
 僵屍を花と見做すなど驕慢の極みだ、妖怪的に考えれば。
 芳香の殊更な脅しにも関わらず、瑠璃立羽は翅の開け閉ての優雅を崩さなかった。それでいて眼を逸らすことはない。ンアと貪婪の乱杭牙、それでも蝶々は逃げようとしない。或いは一息に飲まれ、胃蔵に至りてさえ、この表情やも知れぬ。
 一体この蝶々は何を考えているのだろうか、と芳香は思念した。蝶々にとってそれを花と見做すというのはどういう意味合いを持つのか。芳香の脅しに束縛されず蝶々は静かに留まっている。喰らおうとする相手にすら泰然なのだ。
「気に喰わぬ、全く気に喰わぬ……」口にするほど空虚と成る。所詮、真情ではない。
 まさか――とは思わぬでもない。思念の片隅に予感がある。芳香はこの態度を知っている。喰うと宣言して、その挙句にも飄然たる態度を取り続けられた、先例がある。
 この蝶々もまた『幻想郷の胡蝶』たるを芳香に掲げているのだろうか。
 なれば今、この蝶々の趣意とて同じかも知れない。『およしよ、芳香。およしよ』と。
「これでは本当に花にされているみたいだ」遂にはどこか冷めた声で、芳香は告げた。だがこの状況を索然だと嘆くほど、芳香はもう心無い臆病者ではなかった。本意本情の理りに頷けるくらいの聡明ならば、芳香はとうに備えていたのだ。
「花は嫌ぇかい?」
「いんや」芳香は正直に言った。寧ろ、好きだ。大好きだ。
 この世が蝶の夢ならば、萬のものが花と成り、僵屍とても花と成る。
 それは誠に幻想的と云えるのではなかろうか。
「江戸っ子」芳香は知らず微笑した。
「なんでい、きょんちィ」
「花は――花は、人を喰うだろうか」
 芳香は蝶々を寄り眼に見やったまま告げた、その寛いだ表情から決して眼を逸らさず。
 なので、もちろん江戸っ子の顔は見なかった。やもすれば彼は、先程まで芳香が望んでいた戸惑いやら驚愕やらの表情を浮かべていたのかもしれないが、もうそんな瑣末はどうでも良いことだった。
 暫くの間、男は沈黙していた。長々と、いっそ、その纏綿を無言のうちに示すように。
 彼は話下手を自称していたが、そういう者は往々にして理解にも時間がかかるものだ。芳香自身が良く知っている。だがそれを悪癖という解釈の範疇に限らせる必要は無い。その余裕が今の芳香には在る。だからジッと待つ寛容を持てた。
 やがて江戸っ子は最後まで朗らかに告げた。
「お前ぇさん、粋だねぇ」
 それは花としてか。僵屍としてか。はたまた『生命の一個』としてか。
 銀鼠雪駄の尻鉄の音が耳朶に響く。
「あばよ、宮古芳香」
「さよなら、江戸っ子」
 チャンチャン、チャラリと、三度の余韻。紫行灯の光を離れ、虹の彼方へと去った彼はきっと家に帰るのだろう。
 そうして芳香は瑠璃立羽と共に残された。鼻先の蝶は翅の結んで開いてを続けている。
 芳香はやっと、我慢していた息を吹き出すようにして、笑声を上げた。
「エ、ヒ、ヒ」
 ずっと我慢していたのだ。蝶々が鼻尖に留まっていると、実はどうにもムズ痒いし、こそばゆい。江戸っ子の手前、笑い出してしまわぬようその衝動を堪えていたが、もはやその必要も無いだろう。
 芳香は衝動に身を任せた。カタルシスに眼を細め、肩を揺らして笑う。大きく笑う。
 それでも瑠璃立羽は離れない。留まったままだ、微睡むように。
 この世は蝶の夢にぞありける。
 この身は蝶の花にぞなりけり、哉(や)、哉、哉?
「エ、ヒ、ヒ」
 枯れた老木のネグラよりエナガの声が響いていた。
 結構、書く間が空くことが多いんです。んで、いざ続きを書こうとした時に、前に何を書いていたんだかさっぱり覚えてないことが多いんです。まさに落伍者ですね。
 でも色々とやってみたいことも混ぜられたし、少しづつ成長はしてると思いたいです。
 ガタガタな文章ですが最後まで読んで下さって本当にありがとうございました。
 (2015/8/27 追記)
 多くの評価をして頂き、誠に感謝しきりでございます。
 次は前言の通り、チルノを主題に物語を書いています。
 仕事との兼ね合いで完成までどのくらいかかるか自分でも分かりませんが、次も是非とも読んでやって下さい。
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 以下はコメントへの返信となります。長いです、申し訳ない。
>>1
 ありがとうございます。ご尤もです。くど過ぎって話ですよね。周囲からもよく言われますし、自覚もあります。
 何せ私自身が未熟者なので、どこまでが許容範囲の描写に成るかは未だ手探りの部分が多いのです。
 精進していきたいと思います。コメント、ありがとうございました。
>>2
 ありがとうございます。人里の人達に希望が無いって推測するより、希望は在るって推測したほうが気楽ですよね。
 何せ喰う喰われるの関係じゃ淋しすぎますから、思想・趣味をもって対等になれるくらいの関係だと良いなあと思ったのです。
 哲学を持ち、それを貫くことがどういった世界でも一番大事なんだと思います。コメント、ありがとうございました。
>>3
 ありがとうございます。今回は色々と捻ってみているので、そう言って貰えると助かります。
 コメント、ありがとうございました。
>>4
 ありがとうございます。ご慧眼の通り、これはオズの魔法使いをモチーフにしております。
 あれほどの幻想的なオズの世界で、最も偉大な魔法使いとされていた存在がただの人間だったってストーリーは本当に凄いですよね。 
 相手に脳や心や勇気を与えるために必要なものは魔法ではなく、自信を与えることであると、そういう子供らに向けた寓意は実に素晴らしい。
 かかしだって僵屍だって、それを持っていないはずがないんですよね。コメント、ありがとうございました。
>>5
 ありがとうございます。ちょっと変わった味付けをしたので面白味を感じて頂けたのなら幸いです。
 貴方をまた楽しませられるように頑張ります。コメント、ありがとうございました。
>>9
 ありがとうございます。抽象的過ぎましたかね、ごめんなさい。
 読書家ってほど本は読んでないですね。成人してからは何か受賞した作品を幾つか手に取るくらいです。
 でも、やっぱりくどいんでしょうね。そこら辺りの折衷が本当に難しいんですよ。
 少しずつ軽くしていきたいですね。コメント、ありがとうございました。
>>13
 ありがとうございます。そう言って貰えて、こちらも良かったです。
 コメント、ありがとうございました。
>>17
 ありがとうございます。これはきっとそういう話なんだと思います。
 だって物語の趣意は作者が決めるもんじゃ無いです。国語のテストじゃないんですから、既に貴方の手の中に委ねてあります。
 今の私に許されることは、この作品を読んで下さった貴方に感謝を捧げることくらいです。
 こんな日曜物書からの、こういう敬意では不足かも知れませんが、まあそこは御愛嬌ということで。コメント、ありがとうございました。
>>20
 ありがとうございます。含みなんてただのフレーバーに過ぎないんですから、お気になさらず。
 芳香の笑い声って、きっと可愛いんだと思います。コメント、ありがとうございました。
>>21
 ありがとうございます。芳香により魅力を感じて頂けたならば良かったなと思います。
 元々は関節が動かない僵屍の動きを練習するという意味合いが在ったのですが、それだけに迂闊な動きをさせるわけにもいかず、正直なところ凄く難しかったです。
 でも色々な芳香を練習できて良かったと思います。コメント、ありがとうございました。
>>23
 ありがとうございます。修正しました。誤字報告、誠に感謝します。
 句会でも地しか貰えないのは、やはりこういう粗忽が原因なのでしょうか。今後はこのようなことが無いようにします。
 あと、思弁的という言葉で察して頂けているのでしょうが、これは芳香で知的直観を示してみる習作でも在ったんです。
 もう少し突き詰められれば良いと思うのですが、とにかく研鑽を続けます。コメント、ありがとうございました。
>>25 (2015/9/25 追記)
 ありがとうございます。オチを褒めて頂けるのは本当に作者冥利に尽きます。
 試行錯誤の連続でしたが、これからも精進を重ねたいと思います。コメント、ありがとうございました。
>>30 (2016/12/23 追記)
 ありがとうございます。拙い筆で必死に書いたものなので貴方の感じた力技というのは全く正しい印象なのでしょう。
 それでも何かを感じて下さったならば、この物語を書けて良かったのだと、私は思います。コメント、ありがとうございました。
>>33 (2017/4/1 追記)
 ありがとうございます。幻想的な小説に溢れている創想話の中で、幻想的と一言に集約して褒めて下さるのは、とても感謝すべきことなのでしょう。
 その幻想的な雰囲気を保って色々と書きたいです。コメント、ありがとうございました。
>>34
 ありがとうございます。やりたかったことをやった作品なので認めて下さるならばこの上ない喜びとなります。
 文章については、個人的に説明ベタを自覚している人間なので冗長になりやすく、今後はそこいらを改善していきたいと思います。コメント、ありがとうございました。
>>37 (2017/6/26 追記)
 ありがとうございます。この作品は『オズの魔法使い』の作者たるボームの色使いを模倣した作品なので、そこいらが少し目新しかったのかも知れませんね。
 東方Projectにおいて、私は宮古芳香というキャラクターが一番好きなので、一番良いと仰ってくれたことはとても嬉しいです。コメント、ありがとうございました。
火男
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コメント



0.1450簡易評価
1.30名前が無い程度の能力削除
ちょっと語り過ぎ、それは粋じゃない。
2.100名前が無い程度の能力削除
なるほど幻想卿に住むものはみな、妖怪のともっと別の関係性を築けないか夢見るものだと。
3.100dai削除
言い回しや文体が素晴らしかったです。
4.100名前が無い程度の能力削除
これモチーフはオズの魔法使いですね
重力を無視する、って言い回しはウィキッドかな?
素晴らしかったです
5.100奇声を発する程度の能力削除
中々面白くて良かったです
9.80名前が無い程度の能力削除
筆者さん自身が敢えてやってるんだろうけど、あまりにアブストラクト過ぎて、伝えたいこととそうでもないことの差が曖昧のごった煮になってる気がします
貴方はたぶん読書家なんだろうけど心のどこかで文字の力を信じてない、だから過多になってるのではないでしょうか
ただ、それでも綺麗で価値のある作品でした
上記は愚見ですが、お役に立てば
13.100名前が無い程度の能力削除
良かったです
17.90名前が無い程度の能力削除
いろいろ考えたりしたんですけど、シンプルに一人の敬意がキョンシーに通じたのだと
そういう話なんだと思うことにしました
そしてその話はとても面白かったのです
20.90名前が無い程度の能力削除
何だか含みが多いのが自分には難しかったです。
でも最後がうまいこといって良かったです。
21.100名前が無い程度の能力削除
芳香というキャラクターには粋という言葉がずいぶん遠いと思ってたけど、なかなかどうしてさまになっていました
23.100名前が無い程度の能力削除
相手からの同調をはじめは軽んじていた芳香が相手にいつの間にか同情を示すようになるってのが主題なのかと勝手に推測しました。
思弁的に移行していくのはすごい良かったと思います。

あとたぶんこれは誤字だと思うのですが、大江匡房の歌は『ありけり』じゃなくて『ありける』ですよ。
25.100名前が無い程度の能力削除
文章は重いけどオチがスッキリしてる
良い感じです
30.100名前が無い程度の能力削除
圧巻というか何だか物凄い力技を見せて頂いたような違うような。
自分はこの終わり方が粋であると判断します。するのです(断言)。
33.100名前が無い程度の能力削除
こういうの書けるのは本当に凄いもんだと思います
幻想的と、その一言に尽きます
34.90名前が無い程度の能力削除
語り過ぎってのは一理あるけど、やろうとしてることは凄く面白かったです
37.100名前が無い程度の能力削除
他の作品と何故か全く作風が違うのですが、それでも良かったです
たぶん、これが一番良くできてると思います