Coolier - 新生・東方創想話

桜肉

2008/07/30 05:46:15
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※ これからお食事をされる場合には、この作品を見ることをお勧めできません。
 
  この作品の元ネタは「ウミガメのスープ」と呼ばれる、割かし有名な怪談です。
  
  ですので、オチをご存知の方にとって目新しいものはございません。予めご了承ください。  


































「なぁ霊夢…」
「…なによ?」
「腹減った」
「奇遇ね。私もよ」
「そろそろ晩御飯の時間だろう?」
「一般的にはそう呼ばれるわね」
「何か食べようぜ」
「そうね。何か食べないとね」
「何か作ってくれよ」
「作ろうとは思うわ」
「じゃあ私も…」
「あなたは家帰って食べなさい」
「つれないこと言うなよー」


さっきからこの流れを何回繰り返しただろうか。
いきなり私の家に押しかけて来たと思ったら晩御飯の催促だ。
まったくこの黒白は…


「じゃあこの際お酒でもいいや。
 何か簡単なつまみでも作ってくれよ」
「…同じじゃない」
「いいじゃんか。
 何でもいいから作ってくれよー。れいむー」
「ええい、纏わりつくな! 鬱陶しい!」


本来ならば作ってやるのも吝かではないのだが、先ほど自分で作らない理由を尋ねたところ…

『今日はめんどい』

…だったのだ。一体これで誰が作る気を起こすというのだろうか。
今はとりあえずこいつを何とかして欲しいところだ。もはや私ではどうにもならない。


「あら、騒がしいと思ったら駄々っ子がいるようね」
「…紫か」
「紫だな」
「あなたのゆかりんが来たわよ~」
「ちょうど良かったわ。
 これ、なんとかしてくれない?」
「スルーだなんて、酷いわ霊夢…」
「これ扱いなんて、酷いぜ霊夢…」
「五月蝿いわよ。
 いいから、さっさとなんとかしなさい」
「一体何をどうしろって言うのよ」
「これが酒のつまみをよこせってしつこいから、なんとかしなさいって言ってるの」
「だぜ」
「酒のつまみねぇ… 何かあったかしら?」
「あなたの家には何でもありそうだけどね」
「ありそうだな」
「家にはあるだろうけど…
 どうして私がそんなことしないといけないの?」
「まぁまぁ、もしかしたら霊夢がお礼にいい事してくれるかもしれないぜ?」
「ちょっと魔理沙…」
「任せなさい。今持ってくるわ」
「あ、紫!
 …魔理沙」
「いいじゃないか。
 食べ終わった後に肩揉みでもしてやれよ」
「なんで私がそんなこと…」


そうこうしているうちに、スキマに頭だけ突っ込んだ紫の声が聞こえる。

  藍ー、聞こえるー?
  はいはいなんですか紫様。スキマから顔だけ出すなんて、お行儀が悪いですよ。
  いいじゃないの。それより、アレ持って来て。
  アレ? アレとは何ですか?
  おつまみ用にとっといたアレよ。
  あぁ、アレですか。どうするんですか?
  霊夢たちと食べるのよ。早く持って来て。
  えぇ!? 本気ですか!?
  いいのよ。いいから持ってきなさい。
  紫様が仰るなら持ってきますが… 本当によろしいのですか?
  はーやーくー。
  わかりました。わかりましたからそんなところでジタバタしないでください!
  早くねー。

なんだろう。話だけ聞いてると結構いいものが出てくるような気がしてきたわ。
八雲家の秘蔵のおつまみ…? 期待大だわ。


「なぁ霊夢… 期待できそうじゃないか?」
「そうね…」
「お待たせー。藍ったら、要領悪いんだから」
「おおっ! …なんだこれ?」
「これはどう見ても笹の葉でしょ。
 何が入ってるの?」
「これはねぇ…
 じゃーん!」


そうして紫が開くと、その中には…


「これは…お肉ね」
「肉だな」
「お肉よ」
「なによ。結局調理しないとダメじゃない」
「実はね~、生でも食べられるお肉なのよ」
「生でも?」
「ショウガ醤油なんか付けて、お刺身として食べるとおいしいわね」
「お? もしかして、桜肉ってやつか?」
「するとこれは馬刺しね…
 初めて見るわ」
「私もだぜ」
「ふふ… 早速頂きましょう?」
「じゃあ、醤油とショウガと… ワサビなんかもあったらいいかしら?」
「いいんじゃないか?
 あとお酒を忘れちゃいけないぜ」
「そうだったわね」


初めて食べる馬刺しか… 結構楽しみだわ。
どんな味がするものなのかしらね。


「準備はできたかしら?
 それじゃあ食べましょうか」
「そうね。頂きます」
「頂きまーす!」


早速一口… うん、おいしいわね。
なんというか、とろけるような味わいだわ。


「脂がのってておいしいわ。
 さすがにいいもの持ってるじゃない」
「そうだなぁ。そして…
 …く~! 酒がうまいぜ!」
「ふふふ、喜んでもらえたようで安心したわ」


いや、本当においしいわ。
独特の臭みのようなものもあるけど、ショウガで爽やかな味わいにもなってるし、文句無しね。
お酒とも合うし、完璧だわ。


「ふぅ… ついついお酒がすすんじゃうわね」
「確かにな。
 桜肉なんて初めて食べたけど、ホントにうまいぜ」
「二人とも初めてだったのよね…
 ねぇ、ちょっとおもしろい話があるのだけど、聞いてみる?」
「何よ、藪から棒に」
「ふと思い出したのよ。
 それに話って言っても、この話はちょっと変わってるの」
「変わってる? 何が変わってるんだ?」
「実はクイズ形式になってて、お話のオチを二人に推測してもらうっていう話なの。
 要は、二人にも参加してもらわないと成立しないのよ」
「それは変わってるわね…」
「でしょ?
 お話の内容も変わってるのだけど、今の季節にはピッタリだと思うわ」
「どういうことだ?」
「今は夏でしょ?
 だから、ちょっと涼しくなるようなお話しなわけ」
「怪談ってこと?
 幽霊の話なんて聞き飽きてるわよ。身近に本物だっているし」
「怪談…とは違うわね。
 それでも、背筋が寒くなるようなお話には違いないわ」
「ふ~ん… 暇だしいいんじゃないか?
 それに、結構面白そうだぜ」
「…そうね。暇潰しにはいいかもしれないわ」
「決まりね。ならルールを説明するわ。
 始めに、私が物語の結末を話すわね。あなたたちはその結末までの経緯を導き出す。
 二人には推理をしてもらうわけだけど、私にいろいろな質問をしてヒントを引き出すことができるの。
 だけど、私は二人の質問に『はい』か『いいえ』でしか答えられないわ。
 わかったかしら?」


要は、紫に質問をして正解を導け、ということね。
でもその質問は『はい』か『いいえ』で答えられるものに限る…


「私はわかったわ」
「私もだぜ」
「そう、なら始めるとしましょうか。では…

 『ある男性が海の傍のお店で「ウミガメのスープ」を食べました。
  その男性は帰宅した後、自殺してしまいました。 さて、なぜでしょう?』」

「…それだけ?」
「これだけよ」
「わけがわかんないぜ?」
「だから、結末を話すって言ったでしょ?
 二人にはどうしてそうなったかを考えてもらうの」


…そういうことか。
これだけの情報から推理するのは骨が折れそうね。


「さぁさぁ、質問をしないと始まらないわよ?」
「そうだなぁ… そのウミガメが大事にしてたカメだったとか?」
「違う上に全く関係ないわ」
「魔理沙はダメねぇ。
 なら、このお話に他に登場人物はいるの?」
「いるわね」
「お? あと何人出てくるんだ?」
「答えられないわ」
「なんでだよ?」
「質問が悪いわよ。『はい』か『いいえ』でしか答えられないって言ったでしょ?」
「あぁ… そんなこともあったかもな」
「しっかりしてよね…
 その登場人物は男性かしら?」
「男性もいるわね」
「なら、女性もいるのね?」
「いるわよ」
「まだ他に誰か出てくるか?」
「これ以上は出てこないわ」


ということは、男二人に女が一人ね…


「ちょっと親切すぎたかしら?
 でもまだ導入部分なんだから、こんなところで足踏みしてもらっちゃ困るわよ?」
「その三人の関係はどうなのかしら?
 友達だったとか?」
「三人は大親友よ。互いが互いを本当に大切に思っていたわ。
 ついでに言ってしまうと、自殺した男性とその女性は恋仲でもあったわ」
「恋人がいたのに自殺したの…?」
「そんなこともあるのかなぁ?
 …その男が自殺する以前に、何か不幸でもあったのか?」
「大きな不幸があったわね」
「…もしかしてその不幸って、誰かが死んだとか?」
「えぇ、それで合ってるわ」
「誰だ? その男の家族か?」
「家族ではないわね」
「…まさかとは思うけど、その恋人?」
「さすが霊夢ね。その通りよ」


いきなり登場人物が一人減ったわね…


「それなら、女性が死んだことがショックで自殺したの?」
「いいえ。
 確かにその女性が亡くなった後に自殺したわけだけど、それは直接的な原因にはならないの」
「あくまで『ウミガメのスープ』を食べたからなのね?」
「そうよ」


そして、紫の言葉を解釈するなら「間接的」な原因にはなるのね。
どうやらその恋人の死がどうしても関わってくるようね。


「だったら、その女性がどうして死んだかを考えないといけないみたいね」
「相変わらず勘が鋭いわね。
 霊夢が言うように、その方が真相に近づくわ」
「なんで死んだか…?
 死因なんて山ほどあるぜ? どうやって考えろって言うんだよ」
「そうね… 妖怪に襲われた、とかだったらわかりやすいのに」
「このお話にそういった類の存在は関わってこないわ。
 どうしても考え難いなら、三人は海の傍に住んでいることにしましょうか」
「そんな自由でいいの?」
「いいのよ、住家はさほど重要ではないから」
「海の傍ねぇ… もしかして、死因は水か?」
「その通りよ。
 魔理沙も鋭くなってきたわね」
「そりゃあ、ここまでお膳立てされたらなぁ…」
「そうね。
 ともかく、その女性は海で溺れ死んだのね?」
「ええ。それで間違いないわ」


問題はどうして溺れたかね…


「その女性は泳ぎが下手で溺れたの?」
「いいえ、決して下手ではなかったと思うわ」
「だったら、事故で溺れたのか?」
「事故… そうね、事故で溺れたと言っていいわ」


つまり、女性にはどうしようもなかったということか…


「質問を変えるわ。その時、男性二人は傍にいた?」
「いた、という方が正しいわね」
「なら、二人は彼女を助けようとしたの?」
「それはわからないわ。
 もしかしたら助けようとしたのかも知れないわね」
「なんか曖昧だな…
 なんでそんな風になるんだ?」
「もしかして、二人も一緒に事故に巻き込まれた…?」
「あぁ… それだったら確かにわからないな。
 で、そこんとこどうなんだ?」
「それで合ってるわよ。
 確かに女性が死んだとき二人は傍にいて、且つどうしようもなかったわ」
「なら、事故が起こる直前まで三人は一緒に行動してたんだな?」
「そうよ。三人は大親友だもの、一緒に遊ぶくらいするでしょうね」
「それで溺れたとなると…
 三人は海で遊んでいたのね?」
「まぁそうでしょうね」
「そりゃそうだろう。なんでそんなこと聞いたんだ?」
「いいから。
 その事故が起こった場所は陸から近い所だったの?」
「ふふ… 霊夢はだんだんシナリオが見えてきてるわね。
 いいえ、陸からはかなり離れた場所よ」
「そして、その事故は人為的なものだったのかしら?」
「いいえ、人の手によるものではないわ」
「なんだ、だったら嵐でも起こったのか?」
「その通りよ。
 実はね、事故の内容はあまり重要じゃないのよ。
 でも自然災害の方がわかりやすいからそうしたまでなの」


状況を整理すると、三人はまず海へ出た。おそらく舟か何かに乗っていたのでしょう。
そして、そこで自然災害にあった…
その時に女性は溺れ死に、二人もそれに巻き込まれて救助はできなかった。
多分ここまでの流れに間違いは無いでしょうね。
それなら、後は残された二人ね…


「男性二人は助かったのよね?」
「そうね。結果的には助かったわ」
「結果的? また妙な言い回しだな。
 助けられるまでに何かあったのか?」
「あったわ。
 それはとてもいい質問よ、魔理沙」
「…ということは、その間にあったことが男性の自殺に絡むのね?」
「まさしくその通りよ」
「もしかしてあれか?
 二人を助けたのが実はウミガメで、店で食ったのがそいつだったとかそんな話か?」
「そんな感動的なのか残酷なのかわからない話じゃないわよ…」
「じゃあ食べたウミガメが恋人の生まれ変わりだったんだ!」
「そんな超常的な話でもないの…
 おかしな話を作ると迷宮入りするわよ?」
「魔理沙の質問は置いといて、さっき陸から離れた場所って言ったわよね?」
「酷いぜ、霊夢…」
「ええ、確かに言ったわ」
「それで結果的に、ということは…
 二人の救助には時間がかかったの?」
「そうねぇ… 時間はかかったでしょうね」
「かなりの日数がかかったと考えていいのね?」
「それでいいと思うわ」


二人は助かった… でも、それなりに時間がかかった…
嵐に遭ったなら、三人が乗っていた舟は沈んだと考えるべきでしょうね。
それなら、助かった二人は救助が来るまでどこにいたのかしら…?


「ねぇ、紫。
 二人は嵐に遭って、救助されるまでどこにいたの?」
「その質問には答えられないわ」
「…あぁ、そうだったわね。
 なら、二人はどこかに流れ着いたのかしら?」
「そうね。どこかに漂着したわ」
「そこに、二人以外はいなかったのね?」
「誰もいない無人島よ」
「なんだ? それは重要なのか?」
「はぁ… 他に誰かいるならすぐに助けられるでしょう?」
「あぁ、そういうことか…」
「誰もいなかったとなると自給自足か…
 助けられるまでの食料が問題になるわね」
「そうだな。腹が減ったらどうにもならないからな」
「二人が食料を持参していた、なんてことはないのかしら?」
「わからないわね。もしかしたら少しくらい持っていたかもしれないわ」


まぁ仮に持っていたとしても嵐に遭ってとっくに海の底でしょうけどね。
だったら、全てその無人島で手に入れるしかない訳だけど…


「その島に食べられるようなものはあった?」
「少なからずあった… と言ってもいいわね」
「なら二人は食べるものには困らなかったの?」
「いいえ、二人は重大な食糧不足に陥ったわ」


食糧不足…? それなのに助かったというの?


「それでも、島の物だけで食い繋げたの?」
「いいえ。
 もし島の物だけなら、二人は餓死していたでしょうね」


どういうこと?
紫の言葉通り考えるなら、島の外の物が必要になる…
だけど、それがわからないわ…


「なぁ…」
「どうしたの?」
「さっきから気になってたんだけど、女性は結局どうなったんだ?」


今まで大人しかった魔理沙が突然口を開いたのだけど、話を聞いてなかったのかしら?


「何言ってるの?
 さっき溺れ死んだって言ってたじゃない」
「違うんだよ。そうじゃなくって、死んだ後のことだ」
「どういうことよ?」
「だから、遺体だよ。
 女の遺体は結局どうなったんだ?」
「…それは考えてなかったけど、沈んじゃったんじゃない?」
「それはまだ言い切れないと思うぜ。
 二人が流れ着いたなら、遺体だって流れ着いててもおかしくないんじゃないか?」
「一理あるわね…」
「それに、溺れ『死んだ』んだよな?
 二人は溺れるのを見たかもしれないけど、死んだところを見たわけじゃないだろ。
 だったらどうして死んだなんてことがわかるんだ?」


確かに… 私たちは話を進めるから死んだという情報は既に持っているけど、二人は別だわ。
死んだと断定するからには、その証拠がないといけない…
その証拠として一番確かな物は、女性の遺体ね…


「なぁ紫、遺体はその島に流れ着いたのか?」
「ふふ… 答えは『Yes』よ」
「そうか… だったら二人はそれを見ちまったんだな?」
「それに関しては『No』と言わざるを得ないわね」
「…なんだって?」


二人は見ていない…? だったらどうして…
いや、違うわね。今の答えはそういうことではない。
まさか…


「二人は見ていない。これは確かなの?」
「そうよ」
「なら、『どちらか一方』は見たのね?」
「…! なるほど、そういう意味か!」
「まさしくその通りよ」
「だったら、それは自殺した男の親友の方か?」
「えぇ、正解よ」


遺体が発見されたなら、どうしても不自然な流れになるわね。
それを見たのは親友の男だけ…


「ねぇ、それでも遺体を確認したのは親友だけなのよね?」
「そうなるわね」
「どうして自殺した男は見なかったの?
 恋人の死に様を見るのは辛かったとか?」
「う~ん… 多分そんな感じでしょうねぇ…」


なるほど、これは物語に関係することではなかったか。
次は何を聞くべきかしら…


「なぁ霊夢…」
「今度はなに?
 顔真っ青だけど大丈夫なの?」
「私、だんだん嫌な予感がしてきたぜ…」
「嫌な予感?」


気持ちのいい話でないことは確かだけど、そんなに顔色悪くするようなことかしら?
それに予感って… 何か感づいてるってことなの?


「なぁ紫、二人は大親友なんだよな?」
「そうよ」
「そうか…
 一つ聞きたいんだけど、その島で二人は『ウミガメのスープ』を食べたか?」
「いいえ。食べていないわよ」
「『ウミガメのスープ』“は”食べてないんだな?」
「ふふふ… そうね、『ウミガメのスープ』“は”食べていないわ」
「なら、それに代わるものは食べたんだな?」
「食べたわ」
「ついでに聞くぞ。
 自殺した男は、女性の遺体を全く見ていないのか?」
「…いいえ、よ」


どういうこと…? 男は恋人の遺体を見たの?
いや、それは先ほどの質問と矛盾するわ。
それにしても魔理沙は何を聞いているのだろう?
それに代わる物なんて、島の物くらいだ。
そもそも、どうしてここで『ウミガメのスープ』が出てくるの?


「なら、その代わりの物は『ウミガメのスープ』と呼ばれていたか?」
「魔理沙はもうわかったようね。
 あなたの言う通りよ」
「…じゃあこれが最後だ。
 その店で食べたのが、その男にとって初めての『ウミガメのスープ』だったんだな?」
「相違ないわ」
「…そうか」
「ちょっと魔理沙?
 どこ行くのよ?」
「気分が悪くなったから、外の空気を吸ってくるだけだぜ…」


魔理沙はあれだけでわかったというの…?
それにあんなに顔を青くして… 本当に大丈夫かしら?


「さぁ、後はあなただけよ」
「…ちょっと待ってもらえるかしら。
 状況を整理するわ」


島に着いた後、親友は女性の遺体を発見した。
だけど、男は恋人の遺体を結局見ることはなかった。
そして二人は重大な食糧不足に陥り、島の物だけでは餓死してしまうはずだった。
だけどどういう訳か、二人は無事に救出されている。
となると、何かを食べたということになるわね… だけど、これが私には想像もつかない。

そういえば、さっきの魔理沙の質問の中に気になるモノがあったわね。
たしか、男は恋人の遺体を全く見ていないのか、だったっけ。
それに対する紫の答えは『No』。これは明らかに矛盾するわ…
見ていないけど見たなんて、そんな事があるというの?

いや… 多分だけど私は決定的な勘違いをしているわね。
見ていないけど見たんじゃない… 目に入れたけど、それをそれと認識できなかった…?
加えて魔理沙の“全く”という質問… 紫は恐らくこれに『No』と言ったのね。

言い換えるなら、全体は見ていないけど一部は見た。
それゆえ、それを女性の遺体と確認することができなかった…
ちょっと無理がある気がするけど、それならこの矛盾を説明できる。


「一つだけ確認させてもらうわ」
「何かしら?」
「自殺した男性は、恋人の“一部”は見たのね?」
「ようやくそこに辿り着いたわね。
 えぇ、まさしくあなたの言う通りよ」


やっぱりそうだったか…
後の問題は、それをどこで見たのかということね。


「ふふ… そこで止まっちゃってるみたいね。
 どうしてもわからないなら、魔理沙の質問を全部思い返して御覧なさい?」


魔理沙の質問…?
言われてみれば、私はもう一つ疑問に思っていたことがあったはず…
確か、魔理沙が唐突な質問をしたからだったわ…
そしてその内容は、『ウミガメのスープ』ね。


「二人はそこでウミガメを捕まえて食べたの?」
「そういうことではないのよ」


違うの…?
でも、『ウミガメのスープ』と呼ばれるものは食べたって言ってたわね…


「ウミガメではないけど、『ウミガメのスープ』は食べたのかしら?」
「そういうことよ」
「…その島には他に動物がいるの?」
「いないわよ」


それはそうだろう。もしいるなら、わざわざ名前を偽る必要なんて無い筈だ。
…私も嫌な予感がしてきたわ。


「ちなみに、そのスープを作ったのは友人だったの?」
「そうね」
「…二人は親友だったのよね?
 それこそ、死んで欲しくないくらいに…」
「唯一無二の大親友よ」


わかった… もうわかってしまった…
なんて気分が悪いんだろう…


「…この際だからストレートに聞くわ。
 男は恋人の遺体を食べたのね…?」
「ふふ… 『ウミガメのスープ』と偽られてね」
「…それで、後日“本物”の『ウミガメのスープ』を食べて…」
「味も食感も全く違うことに気付いてしまった、というわけよ」


最悪な結末だ…
こんなに気分が悪くなったのは久しぶりだ…
まさか、人が人を食べてしまうなんて…


「そう… ごちそうさま。
 私も外の空気を吸ってくるわ…」
「もういらないの?」
「こんな話聞いて、肉なんて食べられるはずないでしょう…
 どうしてこんな話ししたのよ…?
「二人が初めてこのお肉を食べたって聞いたから、つい…
 まぁ私が言いたかったのは、初めて食べる物なんて何言われてもわからないってことよ」


そんなことのためにこんな気分の悪い話を聞かされたのか…

…ん? 何か引っかかる言い方をするわね。


「霊夢… 終わったかー…?
 …何やってんだ?」
「魔理沙…
 私達が食べたのは、馬刺しなのよね?」
「そうじゃないのか?
 紫だってそう言って………ないな」
「あら、霊夢ったら相変わらず鋭いわね」
「………どういう意味かしら?」
「………どういう意味だ、紫?
 …事と次第によっちゃ、只で済まさないぜ?」
「じょ、冗談よ~。二人が食べたのは桜肉、馬のお肉よ」
「そう… だったらいいわ」
「あら? 二人ともどこ行くの?」
「今日は疲れたから…
 早いけど、もう休むことにするわ…」
「私もだぜ…」
「え~? いい事してくれるんじゃなかったの~?」
「あんな話ししなかったら考えてあげてたわ。
 じゃあおやすみなさい」
「あぁ… おやすみ。
 また今度な~…」
「あぁん、霊夢ぅ~…
 行っちゃった…」










~    ~    ~










「こんなに残しちゃって、勿体ないわねぇ…
 むぐむぐ… うん、おいしい。
 さすが藍ね。私が“いつも”食べてるお肉だわ。

 それにしてもあんなに顔青くしちゃうなんて、本当のこと言わないで正解だったわね…
 ふふっ… うふふふふふふふふふふ…………………………」




  (了)
※お酒は20歳になってから


元ネタをそのまま投下するのはあまりに忍びないので、苦し紛れの二段オチ。
何を食べさせたというんだ、ゆかりん…

ちなみに、このお話を真剣にやろうと思ったら、1時間越えするケースが多々見られます。
ですので、周囲のご友人でお試しになる際は時間のあるときがベターです。

お目汚し、失礼いたしました…
お腹が病気
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コメント



0.2840簡易評価
5.70名前が無い程度の能力削除
何をって、そりゃあ『あれ』でしょw
違ってたら、その方が予想外のものですね

元ネタは知ってましたが、そもそも紫が関わる食材って『あれ』の場合が多いですからね
9.90名前が無い程度の能力削除
おおおお俺はばばばばば馬刺し食ったことあるから大丈夫だぜっ!?
11.80煉獄削除
私は馬刺しは食べたこと無いからきっと騙される・・・・。
まあ、生肉・生魚は嫌いですけどね。

しかし…紫様が出したこの「桜肉」はいったいなんなのでしょうね?
人肉・・・ではないでしょうが紫様も何気に感情を煽ってますね。(苦笑)
13.100名前が無い程度の能力削除
読み終わった後、某ゲームのソイレントシステムを思い出してしまったw
元ネタ知らないので必死こいて考えてるうちに、本当に話の場に紛れ込んだような気分になれた・・・

こういうのもありだなぁ、ちなみに馬刺しは食った事ない・・・(´ω`;)
14.80名前が無い程度の能力削除
よかった馬刺しを食べたことがあって本当によかった……
17.90名前が無い程度の能力削除
その桜肉はどんな味がするのかしら
18.無評価氷精に追い返される程度の能力削除
いや、紫のことだ”妖”のだってありえるぜ、二人だって退治や弾幕ごっこはしても食用にはしてないだろうし
19.70名前が無い程度の能力削除
面白かったのですが、もう少し意外性のある人物にして欲しかったかな
人間とか半人とか蓬莱とかとか

>>18.
紫は冬眠時は『人間』を蓄えてますが?(他の妖怪にとっては羨ましそうな事です
23.80名前が無い程度の能力削除
みんななにを言ってるんだ…馬刺しを食べたことがあっても馬刺しじゃないって気づくのは
その馬刺しじゃない何かを一口でも『食べた』後だというのに…
24.90名前が無い程度の能力削除
今店で馬刺し食ってきたぜ!
店長がやたら少女臭の漂う金髪の美人さんで緊張しちまったが、その店の馬刺しはすげーうまかった!
店の名前は確か…『八雲』だったぜ! マジお勧め!!
25.70名前が無い程度の能力削除
読み終わって丁度飯の時間で食ってきた。嫌いな鶏肉だったから人肉だと思って食ってみたら意外といけた。
もしかしたらいつか、人を食わなければ生き延びれない状況になるかもしれんぜ。俺は多分食わんが。
28.70名前が無い程度の能力削除
桜じゃないけど牡丹食べてきました
うまうま
今度、桜も食いに行こう
ウミガメ食いたい
29.60名前が無い程度の能力削除
人肉は上手い説と不味い説の両方がありますね
ただ脂の特性を考えると、とろける様な食感は得られない気がします。
30.70名前が無い程度の能力削除
いえ、私は遠慮しておきます

というわけで、思うんだ。ゆかりんの食べている肉=ゆかりんの贅にk(ZAPZAPZAP
32.90名前が無い程度の能力削除
食用に調整されていない人間は食べてもおいしくはないかと・・・。
35.80名前が無い程度の能力削除
海がめのスープ、5人のはらわたっていう番組でありましたねw
38.90無刃削除
てるよがこのゲームやったら間違いなく「バスクリン問題」を出題するんだろうなぁ・・・

処でこの「桜肉?」、咲夜なら正体が分かるんでしょうか?
40.80名前が無い程度の能力削除
うまければどっちでもいい
41.無評価名前が無い程度の能力削除
>>30
市民。あなたは幸福ですか?
幸福ならこの桜肉を食べなさい

幸福は義務です
43.90名前が無い程度の能力削除
昔は飢饉の時に○○を食べる習慣が世界中にあったとの事なので割と食べられるものなんでしょうかね。現在それが無くなっているのはやはり共食いに対する嫌悪感などからなのでしょう。
45.無評価名前が無い程度の能力削除
油っぽいから食べていると口とかべたべたになる、らしい。
味の感想を述べている●●喰いの人もいるけど、精神状態を疑ってしまうのでどれだけ信憑性があるのやら。一生理解したくないな。
46.90名前が無い程度の能力削除
点入れ忘れました
48.80名前が無い程度の能力削除
先日、同僚のさくらちゃんがバイトを休んだのですが…

まさかゆかりん…
49.80名前が無い程度の能力削除
なんでコメントにパラノイアネタが入ってるんだよw

晩飯前に読むと怖えええええええええ!
51.無評価お腹が病気削除
>5 名前が無い程度の能力さん
 やっぱりあれですかねぇ…
 実は特に考えずに書いていたもので、ラストのゆかりんの台詞は
 正直後付けだったのですよ。本当に苦し紛れだったわけです。

>9 名前が無い程度の能力さん
 それは本当に馬刺しでしたか…?

>11 煉獄さん
 真実はスキマの中です…

>13 名前が無い程度の能力さん
 ゼノギですね。わかります。
 とにかくあれはグロかった…

>14 名前が無い程度の能力さん
 それは本当に馬(ry

>17 名前が無い程度の能力さん
 ゆかりんは境界を弄れますから、本当のところわからないです。

>18 氷精に追い返される程度の能力さん
 妖ですか… 確かにそれもあり得ますね。

>19 名前が無い程度の能力さん
 語り部のことでしょうか?
 実はそれなりに理由はあったんですよ。
 幻想郷には海が無い、ということは海にまつわる話は一般的ではない。
 ならば、誰なら「ウミガメのスープ」を語れるか… ゆかりんだなぁ… 
 というわけだったのです。 確かに捻りはなかったですね。精進します。

>23 名前が無い程度の能力さん
 そのモノの正体を知るまで嫌悪感を感じることはない…
 知らぬということが一番の幸せかもしれませんね。

>24 名前が無い程度の能力さん
 な、なんだってー! 情報kwsk!!

>25 名前が無い程度の能力さん
 鶏肉が嫌い…? あなたはもしかして、みすちーさんですか?

>28 名前が無い程度の能力さん
 実は私は変わったお肉を食べたことが無いです。
 ですので、一回馬刺しというものを食べてみたい今日この頃…

>29 名前が無い程度の能力さん
 ひぃぃ! 恐ろしゅうございますわ!!
 その辺の知識はなかったです。私のお肉に対する愛が足りない証拠ですね…

>30 名前が無い程度の能力さん
 あぁ… 新たなる「桜肉」が…

>32 名前が無い程度の能力さん
 これまた恐ろしいコメントですこと!
 食用…? あなたはもしかして、キメラアントさんでいらっしゃいますか?

>35 名前が無い程度の能力さん
 私は人伝に聞いたもので、その番組は知らなかったです。申し訳ない…
 でも、もしかしたらそれが始まりだったのかもしれませんね。

>38 無刃さん
 うーん… ゆかりんにうまいことはぐらかされる様な気がしますねぇ…

>40 名前が無い程度の能力さん
 なんと豪快なお方!

>41 名前が無い程度の能力さん
 パラノイアw
 やったことはないですけどね。

>43 名前が無い程度の能力さん
 それが一番の理由でしょうね。あとは倫理観とか人間らしい感情でしょう。

>45 名前が無い程度の能力さん
 こればっかりはさすがに理解しようと思ってできるものでもありませんしね。
 やっぱりここは人間らしく、牛さんや豚さんに犠牲になってもらいましょう。

>48 名前が無い程度の能力さん
 さくらちゃん! 逃げてええええ!!
 …あ、もう遅いのか。

>49 名前が無い程度の能力さん
 食事前には読まない方がいいとあれほど言ったのに…
 リアルに肉に抵抗を感じるようになりますからね。
53.無評価名前が無い程度の能力削除
人間は子供の肉が柔らかくて美味しいらしいようです

成人になるに連れ筋ばって不味くなるとか
酸味があるという話も聞きます
54.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙のリアクションがリアルでヨカタ
でもゆかりんがそこまで気分悪くなる悪戯しかけといて、オチもフォローも無く誤魔化しておくのはないんじゃね?と思ってこの点数デス
主観でごめんよ

>>53
そんなもん食用の肉だいたいそうだってば
肉以外にも骨、内臓、皮、血、眼球金玉etc... 食う部位調理法は数あれど、ババァ肉が上手いってぇ話はとんと聞かんさね
あれ、なんか後ろが涼しいけd(スキマ
55.80名前が無い程度の能力削除
肉は肉だろう。
積極的に食べたい物でもないが。
64.90名前が無い程度の能力削除
二人がゆかりんのヒントを受けながら質問していくシーンが、読者の理解と一緒になって進んでいくのが秀逸。
65.100名前が無い程度の能力削除
この緊張感は特筆もの
78.80名前が無い程度の能力削除
霊夢と魔理沙がもし桜肉を食べたら…
79.100名前が無い程度の能力削除
今日(昨日、か)、馬刺しを食いました
正直俺には生臭くて合わんかった
その翌日にこんなモンを読んじまうとは…

関係ないけど、マトン(老羊の肉)は強烈な臭みがあるとか
ただ腕のいい人が適切な処理をしてキチンと料理したものなら美味しいよ!

…みたいなことを海原雄山氏が言ってた
93.90名前が無い程度の能力削除
結局最後紫は何食ったんだ?生肉というのはわかったが。