Coolier - 新生・東方創想話

ちょっとオトナの幻想郷

2009/01/09 10:04:26
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 白玉楼、客間。

 私はそこで、我がご主人様、そして白玉楼の主と杯を酌み交わしている。

 こういうとき、ご主人様たちの酒の肴、それはもっぱら従者弄りとヤな相場が決まって
いるらしい。
この場所の主、『西行寺 幽々子』さまの僕である『魂魄 妖夢』はちょうど今、燗を
つけに席を立っているのでつまるところ私が槍玉に挙げられるわけで。

 私は『八雲 藍』。偉大なる、……たぶん偉大なる『八雲 紫』様の式である。

「らぁん?」

「……はい」

 少々お酒の回った甘ったるい声で紫様が私の名を呼ぶ。往々にしてこれが従者弄りの
始まりだ。さて、この間のように裸踊りでもさせられるのは勘弁してもらいたいが。

「何か、面白い話をしなさい」

 ふぅ、とんでもない辱めを受ける危機は回避できたらしい。らしいが、これはまた
難題を突きつけられたようだ。面白いなどという抽象的な言葉は、式である私には
結構な注文である。もしや助け舟があるかと思って幽々子さまに視線を向けると、
「期待していいかしら?」
と笑顔の魚雷を打ち込んできた。助け舟どころか敵艦隊二隻の戦艦の攻撃によって、
私、撃沈。諦観の暗い海へと沈降開始。



 今思えばそんな気分だったからこそ、きわめてバカな言葉をつい出してしまったの
だろう。それが、あんな状況を生み出すなどと知らずに。



                     ちょっとオトナの幻想郷



「そうですねー……じゃ、夜も更けてきましたし、ここは一つ、猥談なんかやってみませんか?」

 思わず口をついた言葉に幻想郷屈指の力を持つふたりの瞳が輝く。

「なーんて、冗談……」

「いいわね、藍。猥談、語りなさい」

「あらあら紫、あなたもなかなかえっちねぇ」

 聞いちゃいねぇ。冗談だっつってるだろ。

「あのー……」

「でも、止めないのね幽々子」

「そんな必要ありませんもの」

 だめだこいつら。聞く気すらない。

「……ぁー」

「さ、語りなさい。あなた自身の経験談を交えて」

「期待してるわ」

 紙芝居屋に群がる子どもの様に綺羅綺羅した瞳で私を見るふたり。あぁちくしょう。
もうどうにでもなれ。水飴はないが代わりに酒をくれてやるさぁ!

「……はぁ、そう仰られるなら語るとしましょう。あれは私が紫様の式になる前、
更に言えば傾国の魔力に取り付かれることよりも少し前の話です……」















△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「……といった次第でありまして、真に僭越ながらこの話はここで御終いとさせて
いただきます。御清聴ありがとうございました」

 赤裸々といえば余りに赤裸々な私の告白。一礼して阿呆な事を喋ったと深々と息を吐き、
次いで顔を上げる。上げてそこには、衝撃的な光景が存在していた。

 八雲真赤。

 いやなんのこっちゃ。ええとつまり、我が主は顔を耳まで赤く染めて視線を横にずらし
つつ、唇を噛み締め俯いている。ぎゅっと拳を握り締め背を丸めたその姿はとてもとても
幻想郷の管理者とは思えない。私としてはてっきり馬鹿にしたなり呆れ果てたなりの
言葉が無節操に飛んでくると思ったのだが、なんだこの今まで見た事もない初心い姿は。

「……あぁー、えぇと」

「八雲 藍」

 ご主人様にどう声をかけようかと思った矢先に、私の名を呼ぶ真剣な声。思わずその
声のした方に顔を向ければ、そこにも今まで見た事もない姿があった。歌を詠むときでも、
舞を催すときでも、それどころか弾幕勝負をしているときにさえ見た事がない、幽々子さまの
真剣すぎる表情。惜しむらくはその鼻から一筋垂れた赤い血の跡か。わぁ、亡霊でも
鼻血出るんだ。

 驚く私の手を取り、軽く握り締める掌のひんやりとした感触。それとは真逆の熱い瞳で
見据える幽々子さま。驚く間もあればこそ、何を納得されたのか知らないがうんうんと
頷いて、もう一度じっと見つめられた。

「ありがとう、ほんとうにありがとう」

「えぇー……」

 なにがありがたいのかさっぱり分からないんですが!!

 私のその想いが伝わるわけもなく、幽々子さまはありがとうありがとうと呟きながら
何度も私の手を上下に揺する。どうしようかと思ったのもつかの間、
「あのー」
おずおずと口を開いたのは、先の話半ばに熱燗を持ってきた妖夢。正直この娘にはあんな
話を聞かせたくなかったのだが、紫様の手前、中断すれば想像を絶するお仕置きが待って
いると思って止められなかったのだが……。

「○O○○○、ってなんですか?」

 ぼひゅうと私と紫様がシンクロして噴く。うら若き娘が口にすべきでない言葉を、
ホントに知らないまま質問してきやがった。わからなかったら人に聞く! だが聞くべき
ことは選ぶべきだろう。もし妖夢のような可愛らしい娘が、人里でおにいさんどもにこんな
質問しようものなら
『そうか、君は○O○○○をご存じないのか。僕でよければ教えてあげよう。さて、
この先の路地裏あたりが都合がいいのだが、よければついてきてくれるかな?』
などという展開が読めすぎるほどに読める。その先の描写はあえて省略したいが、その後の
幽々子さまの怒りたるや天を衝き人里に死を撒き散らし大異変となるだろう。そのきっかけが
私の猥談。ばかばかしすぎて死にそうだ。

 どう答えたものか……と悩む間もなく、やおら幽々子さまは手を離して己が従者に向き直る。

「妖夢」

「は、はい」

 いつもと違う主の雰囲気に慌てて居住まいを正す妖夢。いや、妖夢じゃなくともこれは
居住まい正したくなるなぁ。

「あなたがそういうことを聞くのはまだ早いわ……いいえ、あなただけじゃない。私ですら
早すぎる話なのよ」

「そう……なのですか? 幽々子さま?」

 こくりと頷くどこまでも真っ直ぐな表情に、妖夢は気圧されている。あの、えーと。
こういうのをカリスマって言うのだろうけど、明らかに発揮しどころを間違ってる気が
するのは気のせいか。

「あなたが未熟だからと責めているわけではないのよ。妖夢、そこはわかって」

「はい。かしこまりました」

 正座して恭しく礼をする妖夢。そしてふっと上げた顔がそのまま私の顔を向いているのに
気付く。

「あぁ、そうだなぁ。確かに幽々子さまの言うとおり、妖夢には少し早い話かもしれないな。
時が来たればこういう話で盛り上がりもできるんだろうが、えーとそのなんだ……○O○○○を
知らないようならまだ先の話になろうさ」

 ○O○○○と口にした瞬間、なんか我がご主人様のいる方から小さく「ぅきゅぅっ」とか
呻く様な声が聞こえたが放っておくことにする。

「だとして、だ。知らないからと言って無理に聞きに回ったりするのもよくない。きっと
いずれ、分かるようなことさ。例えて言うなら花を咲かせたいといって肥料を与えすぎれば
良いわけではない、といったところかな。今ここで話していることはそういう類のものである、
とそれだけ認識してくれればいい。さて、妖夢。まだまだ夜は長いし酒の量も減ってない。
よければつまみでも作ってきてもらえると嬉しいな。できれば手の込んだ奴を」

「……えぇ、わかった」

 ほっ、何とか言いくるめることができたようだ。妖夢は一礼して部屋を出て行く。なんとか
一問題は片付いたようだ。だがここから私はもう一人妙なのの相手をしなければならない。

「で、紫様」

「ひゃうんっ!? ん~~~~~ッななななななななななななななななななななななななな
ななななななななななななななななななななななななななななななななにかしら、ら、らら、
らぁ、藍」

 はいぃ!? 何だその声その所作その表情!? 名前を呼んだだけで飛び上がりそうなほど
驚いて、ついで狼狽もここまで来れば芸術的な”ななななスクラッチ”。一瞬視線をこちらに
向けたがすぐさま脇へとそれを逃がす。白魚のような人指し指は先程から畳をぐにぐにする
ばかりだ。顔は相変わらず真っ赤なまま。何だこの生物。

「仰られたとおりに猥談を披露させて頂きましたが、面白うございましたか?」

「えええええ、ええと、そそそ、その、まま、まぁ、うんまぁ、そ、そこそこにはね。
うん、そこそこ」

 あたふたと視線を泳がせつつ、畳には相変わらずの複雑な幾何学模様を指で描くご主人様。
それでも本人はいつもの泰然とした大妖怪であろうとしているらしい、無駄だが。

 しかしここまでおたつくか普通? 私が先に話したのは普通の男女の夜の営みに毛が生えた
ような程度の事だよ? 宵闇の妖怪だって「そーなのかー」と流しそうなレベルと思うのだが
それでこの有様か。

 しかしよくよく思い返してみればこんな姿を曝す節に思い当たりもする。前に霊夢に
あまりにもべったりな紫様に向かって、冗談で
「霊夢と婚姻の証としてキスでもしますか?」
などと言った瞬間顔から湯気でも出そうなくらい真っ赤になった挙句、スキマに仕込んだ
卒塔婆で私を吹き飛ばしてくれやがった記憶がしっかり残っている。お仕置きの質は
ともかくとして、あの純情さが本物だとすれば、先に私に求めた猥談の質も知れようというもの。
おててつないで小路を行けば程度のレベルで済むとか思ってたのかご主人様は。

 ……なんだろう、普段なら畏れ多くて思いもしない感情が渦巻きだした。


 
 いぢめたい。



「……そう、ですか。そこそこ程度でございましたか……」

「え、え、ええ。うん、そそそ、そう」

「不肖八雲 藍、無調法者とはいえご主人様の命、叶う事もなきは誠に持って不覚の至り」

「う、うんうん」

「なればやはり、ここは取って置きの話をせざるを得ませんね!!」

「……。と、とと、ととと。ととととととととととととととととととととととととっぽっき!?」

 話の流れ的にここでやめると見せかけておいて安心したところを奈落の底へ叩き落とす! 
普段の紫様なら目論見以前に看破してお仕置きフルコースだろうが、まぁなんというか、
今の紫様は紫様であって紫様じゃないっていうかなんだこの可愛い生物。すっかり罠にはまって
異常なまでにうろたえだした。そしてトッポッキって何だ。

「それは韓国のお餅料理ね、紫。私は覚悟はできてよ、藍。いいえ、師匠」

「シショウっ!?」

「えぇ、師匠」

 トッポッキの正体はわかった! って、ちょちょ、ちょ、ちょっと待て。今度は私が
面食らう番だったのか。真剣な眼差しで姿勢を正し聞きにまわる姿は確かに弟子と見るなら
非の打ち所がないのだが……鼻血以外は。だがしかし師匠などと呼ばれるのはいかにもまずい。
そんな事をあの烏天狗にでも嗅ぎつけられたら一巻の終わりだ。

”幻想郷一のエロ師匠”

などと銘打たれた新聞など書かれた日には勢い余ってうっかり射命丸ごと幻想郷を破壊
しかねない。っていうかする。紫様が泣いてもする。

「ゆ、幽々子さま、とりあえず師匠は勘弁してください」

「そう……分かったわ。それはそうとして、いつでもどうぞ」

 至極残念そうな表情を笑みに変えて、話を待つ幽々子さま。よかった、なんとかエロ師匠の
座は回避できたぞ。さて、ならば続きか。

「はぁ。では紫様もよろしいですか?」

 そう言いつつご主人様を見てみれば、涙を溜めた目をかっと見開いて真っ赤な顔で
微振動していた。……いや、あれは小さく小さく頭を振っていやいやしているのか。なんだこの
可愛い生物。それはさておき、どうしようかと悩んでいると……
「ひにゃうっ!? にゃ、なに!? 何するの幽々子ぅっ!?」
「いいかげん覚悟を決めなさいな紫」
紫様の背後から忍び寄り羽交い絞めを決めた幽々子さま。ぢたばたと、しかし弱々しく
抵抗を続ける紫様をものともせずアイコンタクト。なるほど、よく出来た弟子……ち、違う違う、
流石は幽々子さまって思うところだろう私。ともかくその意気を無駄にするわけにはいかない。

「それでは、始めさせていただきます!」
















△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



「……拠って件の如し! 誠に以って御清聴、感謝の極みッ! 以上、語り手は八雲 藍で
ございましたっ!」

 かつて私が三国にて暴虐を振るった、その中でも特に悪名高かった中国での話。悪徳と
淫蕩に塗れたその頃の、若かりし私よはっちゃけ過ぎもいいところだろうってな事を
喋り終えて深い一礼。下げた頭をくっともたげると、そこには筆舌にし難い光景が顕在して
いた。

 血の海に沈む華の亡霊と、眼をぎゅっと閉じ縮こまる真っ赤な隙間繰りの大妖怪。
”これはひどい”、訳もなくそんな単語が脳裏をよぎった。だがしかし、これは実際に
酷い有様だ。異変と思われても仕方なく、そんなことになれば霊夢が
「異変だヒャッホウ! さぁ、殴られたい奴から前に出ろ」
とかいいながら飛んできそうでこれは大変によろしくない。そうなる前に事態の打開を
図らねばなるまい。もう一度おふたりを見る。

 幽々子さまは話の佳境に入る直前、
「……紫、私はここまでみたい。あとは、頼ん……だ……わ……!」
とか何とかやたらかっこいい台詞を吐きつつ自らの鼻血の海に静かに沈まれていった。
もちろん後を任されたその相手は脅える子猫より頼りなかったのだが。今改めて幽々子さまの
お姿を見やると、芸が細かいというか、きっちり鼻血でダイイング……もう亡くなられて
久しいからなんと表せばいいのか、ともあれメッセージを残していらっしゃる。




 \すげえ/ 




 あぁ、おいたわしや。薄学たる私は亡霊という存在が鼻血と一緒に知性を垂れ流しになるもの
とは存じ上げませんでした! これからはあの四人組に幽々子さまを加えた五人組の話が
増えるのだろうか。はて、話ってなんだろう。

 いかんいかん、思考にノイズが入りだしたようだ。ひとまず考えるに、大悟された表情で
安寧の紅き闇に包まれた幽々子さまを私程度で最早どうすることはできそうにないと結論
できる。とすると、あぁ、やはり自分の主の始末は私でちゃんとつけなければいけないわけか。

 視線をずらした先には、膝を抱え、赤く、いや紅く紅く顔を染め閉じた目に零れ落ちそうな
大粒の涙を浮かべ、固く結んだ口はしかし小さくわななく、まるで始めて大嵐にあった少女の
ように脅えるなんか可愛い生物がそこにいた。唯一耳だけを塞いでいないのを推測すれば、
話を聞くといった以上それを放棄しないことは大妖怪、八雲 紫としての狂おしいまでの
矜持からであろう。なんといじらしい。ま、それはさておきどうすんべコレ。

「あの……」

「きゅーっ!?」

 鳴いた!? なんか鳴いたし!?

「紫さ……」

「みゅーっ!?」

 なんか鳴き出した可愛い生物は小さく小さくいやいやしながら縮こまれるだけ縮こまった。
……霊夢と口づけといっただけで真っ赤になる紫様に、今先程私がした話は想像の域を
遥かに超越するほどのものだったよう。そのくせ耳年増……いや、耳と知識だけはきちんと
年齢通りなもんで意味だけはしっかりと解っていらっしゃるから困りものである。問題はハートだ。
冗談抜きで永遠の17歳っていうか、17歳以下かもしれない。PG12でも過激って思うかもだ。

 トラウマにならなきゃいいけどなー、などと思う私の思考を
「おつまみもってきました」
「こんばんはー、おじゃましてますよー」
ふつりと中断する声。ひとりは紛れもなく妖夢。そしてもうひとつ、聞き忘れなど絶対に
することがない、しかし何故、今ここでその声があるのか絶大な疑問が湧き上がる声。

「じゃじゃーん。おうちに居なかったんで、ここかなぁ、と思って来ちゃいましたよ、紫様、
藍しゃま~」

 あぁ、そういうことね、私の愛しい『橙』っ! でもこのタイミングで来てほしくは
なかったなぁ!!

「ってきゃーっ!? ゆゆゆゆゆこ様が血塗れで、紫様はなんか怖がってるしどどど、
どうしたんですかーっ!?」

 うん、全部私の猥談のせいだよ。とか言えたら苦労しないよ橙ぇぇぇぇんっ!!

「幽々子さま、早かったのですね……」

 事情をある程度理解している妖夢はやたらシリアスな口調でそう呟き、鼻血付きの良い
笑顔で転がってる主人に向かって合掌しやがった。罰当たりもいいところだが、事情を
知らない橙まで真似して南無南無やりだしたので大目にみておこう。……まかり間違って
成仏されても知らないフリしておこうっと。と、
「あのー、藍さま?」
橙が穢れの無い澄んだ瞳で私を見てくる。うぅ、可愛いよぅ可愛いのはいいんだが、
なんだろう。今の私にはその清らかさが心に痛い。ともあれ、言葉は返さないとな。

「なんだい、橙」

「先ほど何かお話してらっしゃいましたけど、○○○○O○○、ってなんですか?」
 


 頭が真っ白になる。



 あぁ、そうか。わからなかったら人に聞く……って答えられるかぁぁぁっ!! と
叫びそうになった刹那。



 ぼむんっ!!



 明らかに何か爆ぜた音がした。まともな三人がその方向に振り向く。これ以上赤くなっては
いけないってくらい真っ赤な紫様が、本当に頭から湯気を出してゆっくりと、
「きゅ~~~~~っ」
倒れた。

「「「紫様ぁぁぁっっっ!?」」」





















 結局。

 ぶっ倒れたおふたりを必死で介抱し、おバカな夜はお開きとなった。

 幽々子さまは最後まで真剣な表情でお見送りしてくれた。少し後に解ったことなのだが、
何故あんなに興味を持たれたかというのは悲しくも深い訳があったという。

 生前より濃厚な死の影と共にあり、死してその影と混じってしまったかのような幽々子さまに
とって、生殖活動、つまり生をうみだす話というのは余りに縁が遠く、そして有難い話で
あったと。側に仕えながらも妖夢は幼く、先代の妖忌は異性ゆえに話題に上がることは
なかったとも。そう考えればあの真剣さも納得といったところだ。

 さて一方、問題はウチだ。

 今、私と紫様は白玉楼の長い階段を酔い覚ましがてら歩いて降りている。橙はいつの間にか
疲れ果て眠ってしまい、今は私がおんぶしているところ。これなら妙な話をしても問題は
なかろうが、紫様は始終俯いてだんまりである。その沈黙が、余りに苦しい。

「あの、紫様……」

 思い切って声をかけてみた。しかし返事がない。

「……紫さ……」

「なぁに、藍」

 二度目にしてようやく、いつもとは違う弱々しい返事。私の心はどうしようもないほど
打ちのめされる。しばらくぶりの加虐心を抑えきれず、あろう事か自らの主に向かって
それを発揮させた結果がこれか。あぁ、くそっ、死して詫びたい。だがしかし、なによりまず。

「……申し訳ありませんでした。明らかに私は調子に乗りすぎておりました。この愚かな式は、
いかなる罰をも受けますゆえ、そのお心を……どうか、どうか……」

「やぁね。いいのよ藍。そんな事でどうこう思っているわけじゃないわ」

 過ちを認める私に、優しすぎるお言葉。けれど、その顔に浮かぶ陰の正体は何だというの
ですか紫様。目と目があい、はじめて紫様は少しばかり悲しげではあるけれど、笑みを
浮かべて下さった。その笑みを免罪符として受け取る卑怯な私は、卑怯なまま問う。

「では何をお悩みになっていらっしゃるのでしょうか。愚かしい私には紫様のお心が昏くて
解らないのです」

 一段、一段、ゆっくりと石段を降りながら。紫様は少し考えて、
「……貴女だから言うわね。……たったあんな程度の……ま、に、二回目は行き過ぎだと
思うけどぉ……え、えっちな話でこんなになっちゃう私は、ふ、ふ……普通の恋や愛なんて、
できるのかなぁ、って、ね」
苦笑交じりに、なんとも本当に、本当に純情溢れる言葉。あぁ、あぁ! 本当に紫様は
可愛らしい方だった!! その言葉に答える権利は今の私にあろうか。いや、そんな権利など
犬に食わせちまえ! 心を開いてくださったご主人様に応えないで何が式か! 私が答えられる
真の答えを導き出すためにしばし考える。ちらりちらりと私の顔を覗き込む紫様。十段ほど
石段を降り、私は何気なく顔を上げる。

 そこに、答えはあった。



「恋も愛も、してるじゃないですか、紫様。それもとびきり素敵なやつを」

「……え?」

 きょとんとした表情を向けたので微笑みで返す。そう、この方は凄い恋をして、凄い愛を
注いでいるじゃないか。

「貴女の恋人は、貴女の夫は、ここですよ。ここ、幻想郷」

「え」

「幻想郷を貴女の良人とするならば、これほど一途な恋も愛も有り得ません。違いますか?」

 私の言葉で固まったように動かない紫様。だが、私はその深い愛情が本物であることを
確信している。

「……そう、か。私は幻想郷の恋人で、お嫁さん、か。……ふふ、そうかもね」

「えぇ、無償の愛を紫様は注いでいます。幻想郷はそれに……時折そっけない時もありますが、
紫様に素敵な様々な何かで応えています。最高のカップルじゃないですか」

 眼前には満天の星空、静かな森、遠くには眠る人里、聳え立つ山々。紫様の愛がなければ、
消えてしまうそれら。紫様の視線も、私と同じ方向へと。

 もしかすると幻想郷の持つ魅力を超えた男性が、いつか紫様の前に現れるかもしれない。
だとしても、この時に気紛れ過ぎて、時に残酷なほど冷たくて、それでもとことん優しい、
幻想郷という厄介な”恋人”と付き合ってきた紫様ならきっと大丈夫だろう。どちらからとも
なく私と紫様はもう一度視線を合わせ、どちらからともなく笑みを浮かべた。



「……さ、早く帰りましょ、藍。そうやって橙を負ぶい続けているのもきついでしょ?」

「いえいえ。可愛い式ですからそんなことは。けれど、早めに帰って早めに休むのは
同意します」

 ふふ、と二人して笑って橙の幸せそうな寝顔を覗く。私の場合は肩越しだが。

「……すぅ、すぅ。……むにゃむにゃらんしゃま」

 愉快な夢でも見ているのだろう。時折寝言のような声。

「……むにゃ○○○○O○○」












 ぶっふぅ!?

 うおーい、橙ぇぇぇぇぇんっ!?

「らららららららららららら、藍ッ!? ちちち、橙のメモリ、どどど、どうにかして
おきなさいっっっ!」

「は、はい。橙には悪いですが、こんな言葉を覚えられてはいかん、っていうかもう
覚えられてるしーっ!?」

「うぁーもうちょっとかんべんしてよぅ。ゆかりんなくぞこのやろー」

「すいませんすいませんっていうかほんとすいませんっていうかドサマギでゆかりんとか
言わないでください」

「それと、なんかいい話で終わろうとしてたけど、後で起きたらちゃぁぁぁんと今日の分の
お仕置きはするから。もう、超絶凄いお仕置きするから」

「それならこの世の置き土産、もう一度猥談でもしてさし上げますね!」

「も、もう猥談はこりごりよぉっ!!」



 そんなこんなで、ちょっとオトナな幻想郷は今日も平和である。

 どっとはらい。
 あけましておめでとうござい……年明け一発目がこんな話かよ!

 エロエロよー!! みんな逃げてー!!

 つまり何が言いたいかというと、ゆかりんは少女。これ絶対。試験に出るとか
けーねが言ってたウサ。
 イカロ行け! との声があんまり多いようでしたら泣く泣く行かざるを得ないかなぁ
(喜悦の涙らしい。Mいね!)、とか思う白なのでした。どっとはらい。

追記

 伏字の中身はあえて何だと示唆はいたしません。
 だって

\  /
●  ●
" ▽ " <この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!

って早苗も言ってるし、もしかしたら我々の知る術もないエロティカルファンタジィ
なのかもしれないからです。
 例えば瓶詰めにした多数の妖精を(スキマ送り

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コメント



0.5760簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
お口とお尻ですか?
なんとも可愛らしい八雲紫様でした。
2.100名前が無い程度の能力削除
なめらかで心地よいリズムに溢れた文章も相まって、
爆笑しつつ、ラストの二人の会話にほろりと‥。
唯一欠点があるとすれば、藍の話が省略されt(どこからともなく夢想封印!)

いつもの胡散臭さが微塵も現れる事無く、恥らい続ける紫さまにドキドキでした。

でも確かに九尾の狐である藍の方が、
荒事主体で生きてきた紫や生前ほぼ独りだった幽々子より、
ソッチ方面では一日の長‥つーか、天地ほどの経験差があるはずですよね。
でも、その藍が(本人は否定するかもしれませんが)嬉々として傅いているのですから、
やっぱり紫さんがそれだけ魅力的なのですよ!

> イカロ行け!
‥えっと、ここにいて下さい(ぽっ)
3.90名前が無い程度の能力削除
ゆかりんの旦那は○○○だとう!?かなうわけない、かなうわけないじゃないか…orzクソウ
それはそれとして藍さま…

\すげえ/
7.100名前が無い程度の能力削除
\やべぇ/
8.無評価名前が無い程度の能力削除
なるほど…お口とお尻か…

\ぱねえ/
9.100名前が無い程度の能力削除
点数入れ忘れです…
12.100名前が無い程度の能力削除
お口の方はすぐわかったけど
お尻の方は3分くらい考えてた…
13.100名前が無い程度の能力削除
お口とお尻、か…。

\エロ師匠/\エロ師匠/\エロい人/
16.100名前が無い程度の能力削除
\すげぇ/

生まれ変わったら幻想郷になりたい。
17.90名前が無い程度の能力削除
俺が幻想郷だ。
18.100名前が無い程度の能力削除
俺が!俺達が幻想郷だ!
19.100名前が無い程度の能力削除
これぞ萌えの極意、「うぶりん」よ
24.100名前が無い程度の能力削除
\すげえ/\すげえ/\すげえ/\すげえ/
25.90名前が無い程度の能力削除
ゆかりんが……
くそっ!こんな……こんなゆかりん……!!!

可愛いじゃないか!!!!!

しかしあれですね、さすが九尾。その手の話に事欠かないだろうなぁ。
\すげえ/\すげえ/\すげえ/\すげえ/
29.100名前が無い程度の能力削除
まさか俺が幻想郷だったなんて…
31.100名前が無い程度の能力削除
”これはひどい”つきの鰐の影響ですかそうですか。
なぜいい話にしたし。
33.100名前が無い程度の能力削除
>ゆかりんは少女。これ絶対。

あんたとはいい酒が飲めそうだ。
35.100名前が無い程度の能力削除
いいところで話が締まったところで


さあ伏せ字を公開する作業に戻ろうじゃないか
38.100名前が無い程度の能力削除
ふむ、○ぇ○○○にあ○○○っ○○ですか・・・さすが乱様は格が違った     \えろい/
39.100名前が無い程度の能力削除
こ れ は ひ ど い w
42.90まるきゅー@読んだ人削除
伏字がわからん。解説よろ。
43.80名前が無い程度の能力削除
省略された藍さまの猥談について、詳細の開示を請求する!
45.90名無しの権兵衛削除
どちらも三秒でわかってしまって軽く鬱……
46.100aho削除
ただ一言最高と言いたいです。
50.100漢字太郎削除
橙のことは俺に任せて頂きましょうか。
52.90ネコ輔削除
「これはひどい」この言葉がこれほど褒め言葉としてしっくりくる作品もなかなかにないのではなかろうか。
まずはキャラクターのリアクションが笑える。というか、ちょろっとしか出てなかったが霊夢のキャラ像が秀逸。
>「異変だヒャッホウ! さぁ、殴られたい奴から前に出ろ」
なんという鬼巫女。あとこのSSを読んで男性未経験反応シリーズを連想した私は決して悪くはないと思う。
53.100削除
\やべぇ/
55.100名前が無い程度の能力削除
最初のやつは鉄で始まって酸素で終わるやつですね?
ゆかりんが可愛すぎて…

\やべぇ/
56.90名前が無い程度の能力削除
かまとと! かまとと!
でも許す。
57.100名前が無い程度の能力削除
まさか藍様から猥談などと言い出すとは…
そして紫様のなんと初心なこと…
紫様から少女臭が…そしてかすかに幼女臭が…
58.90名前が無い程度の能力削除
ゆかりんは清純派少女だっつってんだろ!
だーらず~
59.100名前が無い程度の能力削除
橙の将来が楽しみです

>男性未経験反応シリーズ
いいもの見ました。感謝

\エロイ/
60.100名前が無い程度の能力削除
>『そうか、君は○O○○○をご存じないのか。僕でよければ教えてあげよう。さて、
>この先の路地裏あたりが都合がいいのだが、よければついてきてくれるかな?』
すいませんこの辺詳しく書いた完全ばn(スキマ
63.90名前が無い程度の能力削除
トッポッキ:餅の辛味炒め。餅と云うよりごんぶとうどんな食感。辛いけど美味い。
【参考資料/おさんぽ大王第80回】

Oの位置だけで理解出来てしまった辺り、自分はもう大人なんだと思いました。
それも随分汚れた。
65.無評価名前が無い程度の能力削除
39のコメ見て伏字がわかった俺は幻想卿にはいけないのか・・・・
67.100名前が無い程度の能力削除
えーと、創想話の作家さんには、定期的にブっ壊れた話を書くという掟でもあるんでしょうか。
ていうか、橙になんて事しやがりますか貴方はwww

\バーカ/⑨\バーカ/
68.100名前が無い程度の能力削除
少し見ただけで伏せ字の内容が分かってしまった俺は人として手遅れですね。

ああもう!!かわいいなあゆかりん!!
71.90名前が無い程度の能力削除
よ、よごれちゃった・・・(;x;
76.100名前が無い程度の能力削除
しっ!大人になったらわかる!




\すげえ/
80.90名前が無い程度の能力削除
\エロい/
82.100名前が無い程度の能力削除
ナチュラルに伏字をそのまま読めちゃった俺はどうなんだろう

ゆかりんかわいいいよゆかりん
84.100名前が無い程度の能力削除
\ハンぱねぇ/
85.100灰華削除
一つ目の伏字はファミコン!二つ目の伏字はゲームキューブだ!そうだろ!
86.80名前が無い程度の能力削除
キーワードが複数思い当たった自分は汚れているのかもしれない……
88.90名前が無い程度の能力削除
これはひどい
90.100名前が無い程度の能力削除
上(両方の意味で)の方は初め○O○○○を見てアレ?1文字多くね?と思ってしまったがソッチだったかwwww
下(両方の意味で)はすぐに分かってしまったwwwww
作者も藍様も\すげえ/\やべぇ/
91.100木冬削除
藍様自重。
\ぱねぇ/
ゆかりんは永遠の少女、これ真理。
でF.A(ファィナルアンサー)。
ゆかりんかわいいよゆかりん。
93.100名前が無い程度の能力削除
これはひどい(訳:最高だよ!)
94.90名前が無い程度の能力削除
これはエロい。
いや、エロというか下ネタですが。しかし素敵です。
猥談というネタがいいですよね。酒の席で、女性なのにとんでもない猥談をして周囲を驚かせるってことって、ときおりありますよね。
まあそんなことより、清純派ゆかりんが最高すぎます。あふれでる少女臭! まさかこれほどまで良い物だったとは。
99.100与吉削除
天才か貴方は。
ちょいとeratoho弄くってきます。
101.100名前が無い程度の能力削除
これはよい純情耳年増ですね
103.100名前が無い程度の能力削除
コメ見るまで分からなかった自分はガキ?
仲間にも言われるが・・・
104.100名前が無い程度の能力削除
いやーゆかりん可愛すぎだろ常考
111.100名前が無い程度の能力削除
一つ目はすぐだったけど二つ目を考えるのはちょっと大変だったわw
早苗さんも言ってるけど二つ目は普通しねーよw
113.100名前が無い程度の能力削除
全伏せなのに何の違和感もなく読めてしまったw
その上「なんだ普通じゃん」とか思った俺は汚れているwwwゆかりんマジ純情w
115.100名前が無い程度の能力削除
個人的にはゆかりんの反応より藍様の猥談の方が衝撃的だった
116.100名前が無い程度の能力削除
俺・・・・いつか幻想郷になってやるんだ
122.100名前が無い程度の能力削除
\すげえ/

笑いどころ満載で最高だZE!!!!
124.100名前が無い程度の能力削除
これは良い壊れ幽々子様と壊れ紫様。(ついでに藍様)
霊夢とかゆかりんなくぞこのやろーとか気に入った所は数有れど、
この作品を一言で表す言葉はやっぱり

\すげえ/

素敵な壊れっぷりでした。
(何故か私の中で幽々子様と紫様の株が急上昇)
125.50名前が無い程度の能力削除
両方1発で当てた俺は藍さまといたしてもいいということかな?
127.100名前が無い程度の能力削除
これだよ、これ、ゆかりんは少女ダヨネー。
131.100時空や空間を翔る程度の能力削除
藍師匠どんな爆弾発言してたか

結論
よし、我ら藍師匠に付いて参ろう!!!
132.100名前が無い程度の能力削除
藍様・・・、エロイ・・・
139.100名前が無い程度の能力削除
いい
140.100名前が無い程度の能力削除
\すげえ/
144.100名前が無い程度の能力削除
師匠!!
145.100名前が無い程度の能力削除
藍師匠!!!
148.100ssy削除
このSSから学んだこと。
本当にエッチな方は自覚症状が無いということ。
150.80名前が無い程度の能力削除
伏字がまったく分からない・・・分かるようになるまでゆっくり年重ねますか・・・
とりあえずエッチな話というのは理解しました
153.100名前が無い程度の能力削除
エキノコッカス?乱射魔が危ない!!
156.100名前が無い程度の能力削除
\すげえ/
157.80名前が無い程度の能力削除
反転しても猥談見えないよー、どうなってんの?wwwww
評価って言ったらこれしか思いうかばねぇw

\すげえ/
161.100名前が無い程度の能力削除
コメント蘭を見てたら伏字が何か分かったよチクショウw
164.100名前が無い程度の能力削除
俺はまだ大丈夫だ2個目はわからない
とりあえず 師匠!!
168.100名前が無い程度の能力削除
かっわいいよ!かっわ(ry
それにしても藍しゃま、とんだ好色。
179.100名前が無い程度の能力削除
 \すげえ/ 
180.100夢中飛行士削除
\流石エロ師匠/
181.100名前が無い程度の能力削除
今さら点数入れるけど、実はこれ読むの四回目なんだぜ……
ああちくしょう、このゆかりんなら「ゆかりん」の呼称にまったく違和感がない!
183.100ケン削除
女同士の猥談は男の猥談よりえげつないと聞いたことがある。そんな話に顔を真っ赤にする紫様に萌えた。かわいいよ!かわいいよ!ゆかりん!
185.100SAS削除
かわいい
188.100名前が無い程度の能力削除
今時リアルにはいないだろうウブな感じな紫が可愛すぎてヤバい
196.無評価名前が無い程度の能力削除
幽幽子はそんな話で大吾しちゃだめだろw
200.100名前が無い程度の能力削除
みんなが愛する幻想郷だからこそゆかりんの夫だ!
203.100名前が無い程度の能力削除
どこからつっこめばいいのかもう・・・!ななななスクラッチw
とりあえず何故いい話にしたし
\ぱねぇ/ 
209.100名前が無い程度の能力削除
とても素晴らしいお話でした。しかし、しかし、初心な紫様も可愛らしい。