Coolier - 新生・東方創想話

さとりに卑猥な妄想をぶつけたい

2011/01/15 00:36:20
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このSSにはおそらく卑猥な文章と過度のほのぼのが含まれています。
苦手な方はブラウザバックしたほうがいいです。









 ◆






 いつもは静かな地霊殿の応接間。
 よくさとり様がティータイムに選ぶ厳かな空間は、賑やかな雰囲気に満ちていた。

「王手です。もう詰んでますから、これで私の五連勝ですね」
「あ~~~、ちっくしょー! また負けた~!」

 普段は物静かな主が楽しそうに笑っている。
 その視線の先にいるのは、自身の金髪を掻き回しながら悔しそうに唸る人間だった。
 両者は互いに向かい合い、それぞれ対称的な顔で眼前の板を見つめていた。
 そういった知識の乏しいあたいはよく知らないが、しょーぎ、という遊戯らしい。

 それで、さとり様がこの遊びに来た人間――霧雨魔理沙に、再度勝利したということだ。

「心を読むなんて反則だろ! ノーカンノーカン、もう一回!」
「そう言われましても……。『手加減なしで頼むぜ!』とおっしゃったのは魔理沙さんでしょうに」
「言ったよ! でもさ、そこは常識的に考えて能力は使わないだろうが!」
「『この幻想郷では常識に囚われてはいけない』らしいですよ。魔理沙さんも魔法を使ってみては? もしかしたら勝てるようになるかもしれません」
「ふむ……そうだな、なら」

 魔理沙は名案を思いついたかのように、ぱっと表情を輝かせる。
 しかしさとり様は、それを遮る形で言葉を口にした。

「スペルカードで将棋盤を破壊してはいけません」
「なぬ!? 何故考えていることが!?」

 それは今更過ぎるよ、魔理沙。

「スペルカードで私を攻撃してもいけません」
「はっはっは。そんなこと、するはずないじゃないか」

 その脂汗は何なのか説明してもらおうか。

「スペルカードで地霊殿を崩壊させてもいけません」
「酷い奴だな、それを思いついた奴はきっと可憐で強くて儚げな美少女に違いない」

 鈍くて豪胆で騒々しい、の間違いだね。
 というか、破壊するしか能が無いのか魔法使い。

 さとり様は呆れた表情で、あたいの背中を優しく叩いた。
 これは『どいてほしい』の合図だ。あたいは安心できる温もりに名残を惜しみつつも、さとり様の膝から跳び下りる。
 冷たい床の温度が、やけに足裏に染み入った。

「再戦の要望には応えたいのですけど、今から仕事なんです。もう行かせてもらいますね」
「むぅ、それなら仕方がない。じゃあなさとり、またやろうぜ」

 そう言って魔理沙が手を振ると、さとり様は本当に嬉しそうに微笑んで立ち去った。
 それを見ると、あたいの胸にちくりと痛みが走る。
 あの笑顔を向けている相手があたいでないことが、少しだけ悲しかった。







 応接間は再び静寂を取り戻した。
 この場にいるのは将棋盤を悔しそうに見つめる魔理沙と、さとり様が座っていた椅子で丸くなるあたいだけ。
 さとり様の残り香に誘われ、徐々に意識が遠のいていく――そんな時。

「っ!?」

 温かな何かが背中を撫で上げた。
 あたいが驚いて顔を上げると、目の前に笑みを浮かべた魔理沙がいた。
 その手が毛並みに沿ってゆっくりと移動している。 
 気持ち良いといえば気持ちいいのだが、それよりも眠気を覚まされたことによる怒りが勝った。
 魔理沙を強く睨みつけると、魔理沙は「悪い悪い」と言いながら手を離す。
 そして、表情を消すように真面目な顔つきになった。

「実は、お燐に聞きたいことがあるんだよ」

 聞きたいこと? 一体なんだろうか。
 いつになく真剣に話しかけてくる魔理沙に興味を引かれ、あたいは人型に姿を変えた。
 少し服が乱れていたのでちょちょいと直していると、それにかまわず魔理沙は話し始めた。

「さとりの読心を封じる方法を知らないか?」
「ああ、そういうこと。さっきのゲームに負けたのがまだ悔しいの?」
「負けっぱなしで納得できるほど人間が出来ちゃいないのさ。完全な実力差ならまだしも、ボードゲームで心を読まれたら勝ちようがないじゃないか」

 魔理沙は憤慨するように続ける。
 たかだかゲームじゃないか、と思わないでもなかったが、気持ちは分からんでもない。

「さとり様の能力を防ぐ方法、ねぇ。そんなこと今まで考えもしなかったわ」

 読まれるのが当たり前だし、そもそもだ。

「魔理沙が弱いから、そんな考えに至るんじゃないのかい?」

 あたいがそう言うと、魔理沙はいつになく渋い顔で目を逸らした。
 どうやら同じことを考えていたらしい。負けるのは相手が卑怯だからではなく、ひとえに自分が弱いからだと。
 しかしそれを認めたくないのか、魔理沙は駄々っ子のように首を振って否定した。

「ち、違うもん違うもん! 心を読むさとりが悪いんだい!」

 本当に駄々っ子だった。
 あたいは、はぁ、と溜め息をついて簡単に思考をめぐらせる。
 さとり様の読心を防ぐ手立て。こいし様のように心を閉ざす。心をからっぽにする。さとり様の第三の眼を攻撃する……ってこれじゃあ暴れん坊魔法使いと同じ発想じゃないか。
 だんだん面倒くさくなり、あたいはおざなりにこう言い放った。

「だったらエロいことでも考えて読ませなくすればいいんじゃない?」

 下ネタでも思い浮かべればさとり様だって恥ずかしくて読むのをやめるだろう。
 ……なんて気楽に考えての発言だったが、どう考えてもそれを読み切ってのカウンターでこっちが撃沈される未来しか見えない。所謂確定事項である。
 そう簡単にいくものじゃないね、と肩をすくめると。

「それだ!」

 魔理沙は何故か喜色満面で手を叩き、あたいの手を握って箒に跨る。
 あたいといえば、何が起こったのか理解できず、ただ促されるままに魔理沙の後ろに乗った。

「しっかり掴まってろよ、飛ばすぜ!」
「にゃあああああぁぁぁぁぁ!?」

 そして、音速に近い速度で地霊殿を飛び出した。









 ◆





 目の前には、紅い洋館が建っていた。
 血のように赤黒いのではなく、純粋な真紅。見渡す限り、館を構成している色はすべて紅である。
 旧都を抜けて地底を飛び出し、霧の深い湖を越えたところにあたいたちは立っていた。
 ちなみに今は徒歩だ。
 箒で館の近くまで飛んできたのだが、到着する直前に「ここまでだな」と魔理沙が地面に降り立ったのだ。
 なので、魔理沙も今は箒を小脇に抱え、のんびりと紅い館に歩いて向かっている。
 あたいはその後ろを静々とついていった。

「ね、ねぇ魔理沙。目的地はあそこなのかい?」
「おう。紅魔館の地下には膨大な蔵書を誇る図書館がある。そこが、本当の目的地だ」

 近づくにつれて、紅魔館とやらの圧迫感が増していく。
 まるで館自体が血液で出来ているような、そんな錯覚までしてきた。
 そんな場所に、前を行く魔理沙は臆する様子もまったく見せなかった。

 重厚な門が立ちふさがる。
 ブロック塀も鉄製の門すらも紅。全部が紅すぎて吐き気がしそうだ。
 魔理沙とあたいが門に触れられるところまで歩み寄ると、一つの影が舞い降りた。
 ――その女性も、紅い。

「あら、久しぶりね魔理沙。このところ襲撃がなかったら死んだかと思ってたわ」
「それは私の台詞だぜ。侵入者がいなけりゃ門番の意義がないわけだし、追い出されなくて良かったな」
「これでもお嬢様方の評価は悪くないのよ? 敵意のある侵入者は一度たりとも通したことないもの」

 紅に彩られた恰幅のいい女性は、魔理沙と親しげに会話を始めた。
 このまま大人しくしていれば大丈夫か、と安心していたとき。

「それはそうと……」

 女性が突然こちらをじろりと見やった。
 あからさまに疑念を含む視線。おそらくそこらの道端で対峙したのなら気圧されることもなかっただろう。しかし、彼女の後ろ にある紅い館があたいを必要以上に萎縮させていた。

「この子は? 見かけない顔だけど」
「地底の妖怪、火焔猫燐だ。通称お燐。私の友達だぜ。ちょっと地下の図書館に用事があるんだけど、入ってもいいか?」
「害意は感じないけど……何か起きた時の責任は魔理沙が負うのね?」
「いいぜ。今日は『客』だからな」
「そう、残念。侵入者なら思いっきり遊べたのに」

 女性はガッカリした様子で指を鳴らす。すると、門が重苦しい動作で開き始めた。
 魔理沙はそのまま堂々たる足取りで館の入り口へ歩いていく。あたいも慌ててその背中を追いかけた。

「魔理沙!」

 その声に振り向くと、紅い女性が笑顔で手を振っていた。

「今度は侵入者として来なさいよ! この頃弾幕ごっこの相手がいなくて退屈してるの!」
「ああ、その時は遠慮しないからな!」

 魔理沙も箒を掲げる形で応答し、ようやく女性の姿は見えなくなった。
 あたいはまだ彼女に見られている気がして、館に入るまで時々門を振り返っていた。










 館に入ったあたいは魔理沙に先導されるがまま、唯々諾々とついていった。
 外から見た館はとても紅かったのだが、内部はそれ以上に紅が際立っている。
 まるで生き物の体内にいるよう――と想像して、少し気が楽になった。
 もしここが生物ならばどうやって死体を持ち運ぼうか、と考えに耽ることが出来たからだ。
 外見以上に広い廊下を進み、ひたすら階段を下りる。
 そして、魔理沙と一緒に扉を潜り抜けたところで、ようやく辿り着いた。

「おー、まったく変わってないなここは。咲夜の奴、時間止めてないだろうな?」

 魔理沙が感心したように呟く。
 眼前には古臭い空気を纏った大量の書物が重ねられていた。奥には一万冊は入りそうなほどの本棚がいくつも乱立している。何故この本たちを入れてやらないのか疑問に思ったが、その答えはすぐ分かった。
 多すぎるのだ。
 本棚は隙間なくきっちり埋まっているのに、それでもなお有り余る蔵書がある。
 ――本の墓場。
 そう例えても問題ないほどだ。

 あたいたちは悠然とそそり立つ本棚の間をゆっくり飛んだ。
 床には打ち捨てられるように放置された本が死体のように床に転がっている。
 本当に死体ならば狂喜乱舞しただろうが、何度見ても本は本だった。

 魔理沙はここの構造を熟知しているのか、迷うこともなく鼻歌交じりに飛行している。
 その顔には、地霊殿では見せない表情が浮かんでいた。
 興味をくすぐられた子供の表情のようで、どこか達観……いや、諦観するかのような陰りが見え隠れしている。
 これが魔法使いとしての魔理沙、なのかもしれない。

「お燐、見えてきたぜ」
「うん? 何が?」

 咄嗟に魔理沙の示した方向に視線を向ける。
 二人くらいは寝転がれるんじゃないかという大きさの机に、実験用の機材や多数の本が置かれている。
 そして、その主と思われる小さな女性が椅子に座って読書をしていた。
 魔理沙は躊躇なく彼女の傍に降り立ち、

「いよぅ、パチュリー。相変わらず死相が浮かんでるな。ビタミンが足りてないんじゃないか?」

 などと失礼な言葉をポンポンと口にした。
 喧嘩を売ってるのかと戦々恐々するが、その少女は意に介した様子もなく。

「あなた、まだ生きてたの。そろそろ死んだのかと思って小悪魔に魔導書を回収させようとしたんだけど。でも手間が省けたわ。今ここで死んでもらおうかしら」

 これまた怖い発言で返した。
 紫色のロングヘアーにゆったりとしたローブ。魔理沙とは違う方向で、実に魔女らしい格好である。
 加えて会話をしていても頬がぴくりとも動かない。機嫌を損ねたら躊躇なく灰に変えられそうな、冷たい雰囲気に包まれている。
 なのだが。

「あ、あの、お姉さん!」

 あたいは彼女に声をかけていた。
 魔女は変わらぬ表情で、こちらを見やる。
 怖いと思う反面、その恐怖を凌駕するほど、あたいは彼女に惹かれていた。

「……火車。灼熱地獄跡に死体を放り込んで火力を維持する妖怪。地霊殿の主、古明地さとりのペット」

 まるで報告書でも読み上げているような説明口調。
 でもいい。それがいい。出会って一分ほどしか経っていないのに、心を奪われていた。
 緊張で喉が渇く。心臓が高鳴る。全身の毛が逆立つ。
 あたいは今、圧倒的な興奮状態にあった。頭がヒートアップし、理性などすでにかっ消えている。
 引っ込んでいた爪を表に晒し、総身に溢れる愉悦を前面に押し出しながら。

「あたいは、お姉さんの死体が欲しい――!」

 地面を全力で押し出し、引き絞った弓の如く突進した。
 なんという僥倖。なんという運命。
 目の前にいる人物は強大な魔力をその身に宿しながらも、その体躯は実に貧弱。
 見え隠れする首は枯れ木のように脆そうで、爪で一撃すれば容易に砕け散ろう。
 以前魔理沙や巫女に感じた、いや、あれ以上の魅力が、彼女にはある。

 瞳を引き絞り、確実に殺れるように狙いを定めた。
 距離は五メートルもない。ほんの一秒で彼女の隣に立ち、刹那で頚動脈を掻っ切ってみせる。
 その速さはすでに常人の目には留まることなく、認識した時点で事は終わっている。




 はずだった。




「お客様、失礼します」

 そんな声が耳に届いた瞬間、あたいの体は何故か魔女の後ろにあった本棚に突っ込んでいた。
 防御、回避の話どころではない。腕で顔を守るすらも出来ず、自身の脚力によって生み出されたエネルギーを全身に味わう。
 衝撃で目がチカチカして、思わず床にへたり込んでしまう。
 事態を把握すべく、かろうじて首を横に向けると。

「まったく、久方ぶりに現れたと思ったらこれか。お前はつくづく娯楽を持ってきてくれるな」

 愉快げに口の端を吊り上げる少女が、空中にいた。
 紅と白で構成された染み一つないドレス、その背には夜を体現したかのような翼が広げられている。
 その隣では、ナイフの如き鋭さを宿した銀色のメイドが、少女を守護するように佇んでいた。
 両者の姿を『視認』した途端、怖気を震った。
 猫としての本能が全力で警鐘を鳴らす。ここから逃げろと。なりふり構わず逃げ出せと。
 生物としての本能が警告する。一ミリでも動けば殺されると。今まで自分が運んだ死体と同じようになると。
 歯がガチガチと音を立てる。目が自然と潤んでくる。自慢の二尾に力が入らない。
 ただ震えながら、二人を見上げるしか出来なかった。

 そんなあたいに興味を失ったのか、彼女たちの視線が彼方に向いた。
 その先には魔理沙がいる。腕を組んで成り行きを楽しんでいるかのような、いつもとあまりに変化のない彼女。
 自分が見られていることに気がつくと眉を上げて、「お? どうした?」としらばっくれた。
 少女は外見とは裏腹な、重苦しい声を上げた。

「我が友人に無礼を働く輩を連れ込むとは……分かっているな? 霧雨魔理沙」
「おいおい、なんで私に責任が及ぶんだ。その猫が勝手にやったことだぜ」
「門番から話は聞いているぞ。全責任は貴様にある。猫は許すが、貴様は駄目だ。――咲夜」
「はい、お嬢様」

 咲夜、と呼ばれた銀色の女性が手を振ると、その手の中に冷たい輝きを放つナイフが生まれた。
 どうやったのかは分からないが、このままではあたいの代わりに魔理沙が殺される、ということは理解できた。
 自分の暴走で霧雨魔理沙が死ぬ。
 あたいは何故か魔理沙の命よりも、魔理沙が死んだことによるさとり様の反応の方が心配だった。

(……泣くのかな。さとり様、魔理沙のこと気に入ってたしなぁ……)

 おそらくは、あたいのことを責めることはないだろう。
 あの方はとても心優しい人なのだ。――だからこそ、この失敗を自分の咎として一生背負うに違いない。
 霧雨魔理沙という友人を殺した、そういう罪悪感に苛まれながら。

「それは、嫌だなぁ……」

 みんなの視線があたいに集中する。
 どうやら声が出ていたらしい。手足は未だに震えている。
 しかし、四肢に力を込めて立ち上がった。

「魔理沙は、何の関係もないです。殺すならあたいを殺してもらえると……ありがたいんですけど」
「私は一向に構わないが……正気か? 死が怖くないとでも言うのか?」

 死ぬのは怖い。
 しかし、自分を理解し、愛してくれる人が苦しみ続けるのは――地獄の業火より辛い罰だ。

「頼みます……。魔理沙は、許してください」

 あたいの言葉は届いたようで、宙に浮かぶ少女が眼前に降りてきた。
 射抜く瞳、左右に大きく開いたコウモリのような翼、微笑む口から覗く鋭い牙。
 以前お空と読んだ童話の中に、これらの特徴と一致する妖怪がいた。

 ――彼女の細腕がゆっくりと上げられていく。

 強靭な肉体と強大な魔力、不死身とも呼べる再生力を持ち、魂まで縛りつけるような威圧感を発揮する種族。

 ――恐ろしくも優しい笑顔に、芯まで凍らされそうだ。

 たしか、その名前は……吸血鬼。

 ――そして死神の鎌は、無慈悲に振り落とされた。












「ようこそ、客人! 紅魔館は君を歓迎する!」












 ポン、と肩を叩かれた。
 それも先ほどまでとは打って変わって、長年の友人に見せるような笑顔で。
 あまりに予想外の展開に頭が混乱し、無意味に口が開閉する。
 しかし彼女はそんなあたいにはもう見向きもせず、銀色の女性に駆け寄った。

「どうだった咲夜!? 私、すんごいカリスマ出てたでしょ!」
「ええ、お嬢様! 紅魔館の主に相応しいカリスマぶりでしたわ。咲夜は感激しました!」

 吸血鬼の少女は無邪気な子供のように喜び、そんな彼女を銀色の女性は涙ぐみながら抱きしめていた。
 その様相はまるで、初めてのおつかいが成功したときのお空とさとり様のようだった。

「ひどく感動的のようで、果てしなく茶番に近いな」
「涙が零れるどころか失笑が漏れ出すわね。まあ、本人たちが満足ならどうでもいいけど」

 ……言い方はずいぶん酷いが、あたいも魔女二人とおおよそ同じ感想である。
 というか、だ。

「なんで魔理沙は、のんきにお茶してるのかなぁ!?」
「誘われれば受諾する。誘われなければ強制参加する。それがレディの嗜みだぜ」

 魔理沙は紫の魔女の目の前に座り、のんびりと紅茶を飲んでいた。
 紫の魔女も表情を変えず、同じようにカップを傾けていた。
 いや、それだけではない。
 魔女の机の上には大量の書物が乗っかっていたはずだが、それらはいつの間にか消えており、代わりに豪勢な洋風お菓子の山とティーポットが蹂躙していたのだ。
 芳しい香りが辺りに広がり、あたいは思わず生唾を飲み込んだ。
 極度の緊張から開放された反動なのか、無性に甘い物が食べたくなった。

「あのー、これってあたいも……」
「暴走火車がおやつを強請ってるぜ。どうでしょうか、被害者一歩手前のパチュリーさん」
「図々しいにも程がある。雨が降るまで顔を洗って出直しなさい」
「あうう~」

 やっぱり駄目か、と肩を落としたとき。
 思わぬところから助け舟が出た。

「まあいいじゃない。実害はなかったし、ある意味私のせいでもあるからね」

 そう胸を張って言うのは吸血鬼さん。
 彼女もいつの間にか席に着いており、美味しそうにシュークリームを頬張っていた。
 だが、その言葉の中に気になるものが含まれていた。

「吸血鬼さん、私のせいってどういう意味ですか?」
「そのままの意味よ。あと、私の名前はレミリア・スカーレット。レミリアでいいわ」

 なかなか恐れ多い要求だが、予想以上に気さくな妖怪で助かった。

「じゃあ、レミリアさんで。それで……」
「紅魔館は基本的に塗料を紅で統一しているわ。お嬢様の好みが第一にあるけど、他にも理由があるの。それは、侵入者の興奮を高めることよ。ちなみに私はメイド長の十六夜咲夜。好きに呼んでちょうだい」

 今度は銀のメイドさん……いや、咲夜さんが答えてくれた。
 しかし、興奮を高めるとはどういうことなのだろうか?

「お嬢様はお嬢様を恐怖する輩の血を吸うんだけど、最初から腑抜けているのは論外。だから、無理やりにでも侵入者の気概を底上げして楽しむのよ。色々と」
「はぁ……。それが、あたいと何の関係が?」
「お前、紅魔館に来たときから落ち着かなかったろ? ありゃ興奮してたけど、同時にびびってたんだよ。レミリアの気配がびしびし伝わってたしな」

 クリーム付いてるぞ、と魔理沙はレミリアさんの頬を指で拭う。
 それを、子供じゃないんだから、とレミリアさんは恥ずかしそうに跳ね除けた。

「久しぶりに魔理沙が来て、しかも新顔が一緒よ? そりゃあ気になるわよ」
「溜まった興奮が図書館に入って爆発したんだな。たしかにパチュリーは不健康で今でも死にそうだけど、普段のお前じゃ冗談で済ませられたはずだぜ」

 なるほど、納得のいく説明ありがとう。
 魔理沙の命なんてどうでもいい、なんて思ってごめんね。

「まあ、咲夜が止めてくれて良かったわね。あのまま放っておいたら、あなた死んでたわよ」
「防壁も発動してたから、手を出してたらカウンターで消し飛んでただろうな。パチュリーは容赦ないし」
「命の危機には全力で立ち向かう。生物としては当然の反応でしょうが。死にたがりの未熟者には分からないかしら?」

 パチュリーさんに睨まれたが、魔理沙はさらりと受け流された。
 この二人、気は合いそうだけど仲が凄く悪そうだなぁ。どちらかというと、魔理沙が一方的に嫌われてる感じか。
 よく言えば社交的、悪い言えば馴れ馴れしい。魔理沙の印象は受け取る人によって極端に変わりそうだ。
 さとり様もパチュリーさんみたいに嫌ってくれれば……と考えるあたいは悪い子だろう。お仕置きしてほしい。

「そういえば、どうして今日は来たの?」

 レミリアさんが首を傾げながら尋ねてきた。
 そういえば、すっかり忘れていた。……なんで来たんだっけ?

「ああ、パチュリーのところに資料を借りに来たんだ。調べ物ならここが一番だからな」
「魔導書を盗もうとしてるなら客じゃなくて強盗だわ。死力を尽くして妨害するわよ、うちの猫が」
「猫!? ここに猫がいるのかい!?」
「人間です。誤差が出ても出なくても、人間です」

 咲夜さんが涼やかな表情で否定した。
 同族がいたのなら存分にネコトークしたかったのだが、いないなら仕方がない。
 本題は……ああ、さとり様の読心封じだったか。魔理沙がゲームで勝てないからそれを調べに来たのだ。

 あたいはぐるりと首を回して周囲を見渡す。
 本、本、本の山だ。たしかにこれだけの蔵書量ならば、さとり妖怪の対処法が載った本が一冊二冊はあるだろう。
 あたいにもそれが分かれば、心を読んで意地悪するさとり様より優位に立てるかもしれない。
 受けのさとり様……あると思います!

「あのですね、あたいたちはさとり妖怪の……」
「実は、だな」

 魔理沙は説明しようとするあたいを制し、とんでもないことを言い放った。




「エロい本が欲しくて来たんだぜ。パチュリーのことだ、結構溜め込んでるだろ?」



 ピシリ、と。
 図書館の空気が凍る音が聞こえた。



「……え?」
「……は?」
「えろ? 何それ、美味しいの?」

 パチュリーさんは彫刻と化したように動きが停止し、咲夜さんは瀟洒な笑みを湛えたままドナドナを歌いだす。
 かく言うあたいも、魔理沙のとんでも発言に身の毛がよだった。
 魔理沙は余裕綽々といった様子で喉を潤し、レミリアさんは雰囲気の変わった皆を不思議そうに見比べた。

「ちょ、ちょっと魔理沙! いくらなんでもストレートすぎるでしょ!」
「……落ち着くのよパチュリー・ノーレッジ。百年の魔女は動じない、うろたえない、エロくない」
「咲夜ー、えろって何? 新しいおやつのこと?」
「ふふふ。お嬢様、そういえばプリンを作っていたのを思い出しました。召し上がりますか?」
「食べるー!」

 各々が違う反応を見せる中、新たに現れる黒い影。

「エロと聞いて飛んできました! 話題が話題なんで参加させてもらいます!」

 颯爽と真上から現れたのは、頭と背中に小さな羽をつけ、猛獣のように牙を見せながら笑う赤髪の女性だった。

「誰!?」

 驚くあたいに、女性は一旦深々とお辞儀をして自己紹介してきた。

「あ、どうも初めまして。ここの司書をやっている小悪魔と申します。以後お見知りおきを」
「これはこれはご丁寧に。あたいは地底からやってきた火焔猫燐といいます。お燐と呼んで下さい」
「はい。お燐さんは、エロについて知りたいのですね?」
「え? いや、あたいは別に……」
「恥ずかしがらずとも良いのです。エロはすべての生物の活動エネルギーなのですから。さあ、このエロマイスター小悪魔が何でも答えて上げます。基本的な性の知識から独学による性の拡張、玄人のためにマニアックなプレイ方法の実践演習まで、さあさあさあさぶぅわぁ!?」

 目を輝かせて語り始めた小悪魔さんの顔面に、分厚い本がヒットした。
 咄嗟に発射位置へ目を向けると、そこには顔を真っ赤にしたパチュリーさんの姿が立っていた。
 息が乱れているが、本を投げただけでそうなるのは本当に危うい。
 って、そんなことはどうでもいい! 今はあの馬鹿をどうにかしないと!

「ま、まり」
「魔理沙ぁ!」

 力強い怒声が響き渡った。
 パチュリーさんは肩を震わせ、怒り心頭といった様子で魔理沙を睨みつける。

「私が、何を溜め込んでるって? もう一度言ってごらんなさい」
「だからエロい本だよ。魔導書じゃないんだ、貸してくれたっていいじゃないか」
「そんなものはないわ。たしかにここは幻想入りした本が自動的に蒐集される図書館だけど、今まで一冊たりとも卑猥な書物が紛れていたことはないわよ」
「本当か? 外の世界の小説とか絵本まで集まっているのに?」
「くどい。それ以上私の図書館を陥れる気なら即刻叩き出して……」
「嘘です!」

 誰かの叫びが介入した。
 皆が一斉にその方向を見ると、そこには鼻を押さえて幽鬼の様に佇む小悪魔さんがいた。
 どうやら鼻血が止まらないようで、どこからか素早くティッシュを継ぎ足している。

「小悪魔? あなた、何を言い出すのかしら。もしかしてこの盗人の肩を持つ気じゃ……」
「ふふふ、どうやら私の時代が来たようですね。ここの整理をする片手間、密かにある種の本をかき集めてたのです。それが! 小悪魔専用の書庫、エロイム・エッサイム!」
「……ネーミングと流れでなんとなくオチがわかるけど、一応聞かせてもらおうかしら。それは、どんな本なの?」
「もちろん、あらゆる種類の官能本に決まってるじゃありませんか! 幻想入りしなければならないという条件は付きますけど、逆に人々から忘れ去られたならば、必ずここに辿り着く! ここぞ私の理想郷! 世界のエロを堪能できるこの図書館こそ、生涯を費やすに相応しうわちゃちゃちゃちゃ!」

 パチュリーさんの放った火属性魔法から逃げ惑う小悪魔さん。
 本当にパチュリーさんは容赦ないな、と感心する。直撃したら死ぬかもしれない魔法をこうも軽々と使うとは。

「はあ、はあ、はあ……。パチュリー様が知らなかったのは当然です。パチュリー様は私が作った目録しか見ませんし、そういうのが苦手なのを知ってますから、あらかじめ弾いているんです。それを私物化して何が悪いんですか?」
「悪くはないわね。ただ、猛烈に腹が立つわ。あと主人の名に傷を付けた。死罪」
「いやー!? た、助けてください誰かー!」
「まあ落ち着けパチュリー」

 さらなる魔法をブチかまそうとしていたパチュリーさんを制止したのは、騒動の元凶である魔理沙だった。

「これ以上やると本当にやばいぞ。それともあれか、この図書館の整理を自分でやるのか?」
「新しい使い魔を呼び出せばいいわ。それよりも、神聖な図書館をそんな低俗な目的に使用されていたのが許せないのよ」
「悪魔の住む神聖な図書館ね。矛盾だな、今のお前と同じように」
「……はぁ?」

 ますます柳眉を逆立てるパチュリーさん。
 あまりに剣呑な雰囲気になったので、あたいはこれを止められそうな人物に助けを求めた。

「レミリアさん! 咲夜さん! ど、どうにか出来ませんか!?」
「はーい、お嬢様。焼きたて熱々のアップルパイですよ~」
「やったー! 咲夜のアップルパイー!」

 完全に二人の世界に入っていた。
 あたいがそちらに視線を向けている間にも、背後の空間は稲妻でも走っているかのように震える。

「遺言なら聞いてあげるわ。ええ、特別に彼岸まで聞きに行ってあげる」
「引き篭もりには辛い道のりだな。途中で火車に連れ去られても知らないぜ?」
「……ああ言えばこう言う。死ななきゃ分からないのなら、今すぐにでも――」
「まあ待て。お前は『本のそばにいるものこそ自分』と思ってるんだよな」
「ええ。それがどうかした?」
「そばにいる、というのは気に入らない書物を排斥することも含まれてるのか?」

 パチュリーさんが、ここで初めて苦々しい表情になった。
 魔理沙は続ける。

「全てを受け入れろとは言わないさ。紫曰く、それはそれは残酷なことらしいし。ただし良し悪しは受け取る人によって異なる。たかだか魔女が判断できる問題ではないぜ」
「大きく出たわね半端者。この私が、本との接し方を間違えていると言いたいの?」
「必要とされた書物が必要とする人物に渡る。そこに善悪の概念はない」
「必要とする人物に必要とされる書物が届かなくても、そうなのかしら」
「自己矛盾は犬も食わないな。広く公開されているなら、私はいつでも客として来るぜ?」
「…………」

 パチュリーさんは深い瞑想に入るかのように目を閉じた。
 あたいも小悪魔さんも、お菓子を食べ続けていたレミリアさんたちすらもパチュリーさんの次なる挙動に注目する。
 そして、パチュリーさんは静かに小悪魔さんへ言葉を投げかけた。

「小悪魔」
「は、はい」
「あなたが集めた本は、どこに保管してあるの?」
「あの、以前パチュリー様から頂いた書庫です。もし駄目なら自室に移動を……」
「しなくていいわ、好きに使いなさい。あなたの物はあなたの自由だから」

 そう言って、パチュリーさんは椅子に座って読書の態勢に入った。
 それを見たみんなはほっと息をつき、張り詰めていた空気は一気に弛緩する。
 どうやら丸く収まったようだ。魔理沙が勝手に引き起こして魔理沙が無理やり言い包めただけのようだけど。
 つまり、全部魔理沙が悪い。

「ちょわー!」
「いて、何するんだよお燐っ」
「無意味に場を混乱させた罰さ。もうちょっとオブラートに包んだ言い方ってのは出来ないのかね」
「空気を読むのは竜宮の使いの仕事だ。さあ、小悪魔。本題に入ろうか」
「あ、はい。魔理沙さんはどういうのが欲しいんですか?」

 小悪魔さんは髪を多少焦がしているが、元気に笑顔を浮かべた。
 よくよく見るとなかなかの美人さんだ。その外見に見合った中身であれば良かったのに。

「エロい本だ」
「……いやー、それだけの情報じゃ定まりませんね。もっと具体的に教えてくれませんか? こういうプレイ物とか、こんな性癖のやつだとか」
「? ぷれいって何だ? それにせいへきって……劉備と曹操が戦った場所だっけ?」
「それは赤壁。付け加えるなら、孫権・劉備の連合軍と曹操軍が戦った中国の地名よ」

 パチュリーさんがどうでもいいことを補足してくれた。本気でどうでもいい。
 それにしても魔理沙の様子がおかしい。どことなく困ったような、慌てているような。

「と、とにかくエロいのだよ! 何でもいいから!」
「そんなこと言われましてもねぇ……。人によって許容範囲がありますので、やはり魔理沙さんの趣味を伺っておかないと困るんですよ。お互いに」
「ねえねえ、魔理沙。ちょっと聞いていいかな」
「あー?」

 あたいはちょっとした思い付きを確かめるべく、魔理沙に質問をした。

「子供はどこから来ると思う?」
「お燐さん、そんな質問は今更すぎ……」
「コウノトリがキャベツ畑から奪ってくるんだろ?」

 魔理沙の答えを聞いた途端、小悪魔さんは信じられないものを見たかのように目を見開いた。
 さらに質問を重ねる。

「……男性と女性の違いは?」
「胸が膨らんでるかいないか、あとは背丈が違うな」
「……エロいってどういうの?」
「なんかこう、禁断の果実っぽい何か……だよな?」
「どうですか、小悪魔さん。これが現在の魔理沙の知識ですよ」
「……なるほど、了解しました。ちょっと探してきます」

 そう言って、小悪魔さんは足早にこの場を立ち去った。その背中に、どこか寂しげな風を背負って。
 あたいはようやく冷めた紅茶で唇を湿らせ、深々と息を吐く。

 ――魔理沙は性的な情報をほとんど持っていない。
 いや、別に遅かれ早かれ知り得るものなのだが、道理で話が噛み合わなかったわけだ。
 ちなみにあたいはそれなりに長く生きているので、その、経験はまだだけど、知識は、ある。
 魔理沙は一人暮らしらしいので、自発的に学習しない限り知ることはないだろう。
 今回はエロという響きに誘われただけのようだ。

 ちらりと魔理沙の様子を窺う。
 レミリアさんとケーキの切り分けで口喧嘩をしており、咲夜さんに諫められていた。
 けれど二人、そしてパチュリーさんにも魔理沙を本気で嫌悪している様子はない。
 この適応能力というか惹かれる魅力があるからこそ、一人でも上手く生きていけるのか。
 あたいはなんとなく納得しながら、生クリームの乗ったコーヒーゼリーに手を伸ばした。

 五分ほどして。

「おまたせしました。これならきっと魔理沙さんも納得されます!」

 小悪魔さんが、本を五冊ほど抱えて戻ってきた。
 大きさも厚さも全てがバラバラで、とても持ちにくそうだが本人はそうでもなさそうだ。
 小悪魔さんはその中にあった、一冊の青い本を魔理沙に差し出した。
 それは片手でもページを捲れそうなくらいに薄く、実際受け取った魔理沙はフォークを片手に本を開いた。
 だが。

「行儀が悪いでしょ。おやつを食べるか本を読むか、どっちかにしなさい」
「その読み方だと本が傷む。第一、甘ったるいクリームでも付いたらどうするの。やめなさい」

 と、方々から非難を浴びて、魔理沙は不満そうに唇を尖らせながらフォークを置いた。
 その間に、あたいは小悪魔さんからあの本について聞いておく。

「あれ、どんな本なんですか?」
「近頃流れ着いた一品です。先ほど説明されましたけど、この図書館は幻想入りした書物を自動的に取り込みます。外の世界で忘れ去られたか黒歴史化したか、あるいはその類の状況に陥った本をですね」
「ああ、覚えがあります。昔持ってた本が無性に読みたくなったけど、いくら探しても見つからないっていう」
「それです。で、あれはつい先日私の目の前に落ちてきたものです。なんとなく運命を感じて手元に置いてたんですけど、魔理沙さんの要望に叶っていることを思い出しまして。内容は初心者向けですよ」
「それなら安心だ……。魔理沙に変な知識植えつけたら、さとり様に怒られかねないからなぁ」

 安堵からか、ほっと息を漏れでた。
 魔理沙がおかしな影響でも受けたらと心配していたが、どうやら杞憂だったらしい。
 さとり様は魔理沙弄りを趣味にしている。
 なので、今回のことで魔理沙が耳年増になったら嘆くだろう。弄りがいがないと。

「……さとり? さとりって心を読む能力を持つ妖怪ですよね?」
「え? ああ、言ってなかったっけ。あたい、地霊殿っていうお屋敷で住んでるの。それで、さとり様はそこの主。進んで口にすることでもないと思ってたんだけど」

 色々と偏見もあるしね。
 そう言外に込めたが、小悪魔さんはさらに首を傾げる。
 あたいの言葉というより……何かを深く思案する仕草に、少し不安がこみ上げてきた。

「あの……何か不都合でも?」
「いえ、たぶん偶然というか私の妄想だと思うんですけど。想像通りだったら、ちょっとどうかなぁと」
「はぁ……」

 よく分からない。
 後ろでは魔理沙に官能本を読ませるか否かで熾烈な攻防が繰り広げられていた。

「手を洗った! 口も拭いた! トイレにも行った! これでいいか!?」
「よく出来ました。素直な子には美味しいお菓子をあげるわ」
「何でさ!? そしたらまた手を洗わなきゃならないじゃないか! もういい加減本を読ませてくれよ!」
「だって……ねぇ?」
「そうよね……それはあまりよろしくない影響を与える本だから、こっちの魔導書なんていかがかしら?」
「いーや! こっち読むんだもん、邪魔すんな!」

 ぶんぶんと首を振る魔理沙。
 読書を咎められることに業を煮やしたのか、魔理沙は咲夜さんたちから大きく離れてから青い本を開いた。
 まあ、小悪魔さんも初心者向けだと言ってたし、たぶん大丈夫……。







「『私はほくそ笑んだ。
 ここに案内する前に行ったお茶会で、彼女の紅茶に媚薬を仕込んでおいたのだ。効果は覿面だった。
 薬は少女が持つ女の本能を強制開花させ、その反応に少女の体は従順に応えていた。それからは異常なほどに発汗し、その小さな口からは絶え間なく荒い吐息が零れる。
 ――少女の心で理性と本能がせめぎ合っているのだ。
 そしてふとした拍子に本能へ流れていくのを必死で押しとどめる、そんな努力が読心によって垣間見えた。
 心を読む能力。今までは忌み嫌っていたが、今日ほど感謝したことはない。
 ふらりふらりと揺れ動く心の針がどちらに傾くかじっくり観察したかったが、万が一にも正気に戻られては困る。
 なので、私は容赦ない追撃を加えた。
「ふぅ」
 くせがある金色の髪が張り付き、汗が滴る首筋に息を吹きかけたのだ。
「うひゃあ!?」
 嬌声が閉塞した地下空間内で反響する。さらに、敏感に反応した少女の体は自然と浮き上がり、それによって手足を縛っている縄がギシギシと音を立てた。
「ふふ、吐息だけで感じちゃうなんて変態さんですね。それとも、普段から開発してるんですか?」
「た、頼むからもうやめてくれ……。こんなの、もう嫌だよ……」
 堪えきれない快楽に恐怖しているのか、少女は涙ぐみながら震えていた。しかし、それは明らかに逆効果。
 普段男勝りな彼女がこんなに可愛い声を出したと思うと、興奮で私も我を失ってしまいそうだった。自分のそこを慰めたい衝動を何とか堪え、代わりに彼女の濡れた……』」





「「「ちょっと待った――――――!」」」



 油断した。
 よもや官能小説を堂々と音読し始めるなんて、誰が予測できただろう。
 だがあたいが動く前に、魔理沙の手元から本が消える。
 代わりに咲夜さんが真っ赤な顔で魔理沙が持っていた本をしっかりと確保していた。
 まるで手品のような出来事だが、魔理沙は経過より結果について突っ込んでいた。

「おい、咲夜! なにすんだよ!」
「……魔理沙にはまだ早すぎるわ。ええ、あと五百年は早いのよ。というわけで、没収します」
「横暴だ! 知識の独占だ! 表現の不自由だ!」

 魔理沙が不満を咲夜さんにぶちまけている横で、パチュリーさんは小悪魔さんを折檻していた。

「小悪魔ぁ! 監禁緊縛薬物調教のどこが初心者向けか言ってみろごらぁ!」
「痛いです痛いです! あれは本当に初心者向けですって! だって薄いし、本番ないし、肝心の描写もぼかされていたじゃないですか! それにですね……」
「それに?」
「あれくらいの内容、私は親から絵本代わりに読んでもらってましたよ。パチュリー様もそうでしょ?」
「お前ら変態一族と一緒にするなあああぁぁぁ!」

 火球が乱れ撃たれ、次々に小悪魔さんの体に着弾して炎上する。
 それを全身で受け取った小悪魔さんの表情がどこか幸せそうだったのは、きっとあたいの見間違いだろう。
 どっと疲れて肩を落としていると。

「ねーねー」
「ん?」

 袖を引っ張られる感覚がした。
 振り返ると、レミリアさんが邪気のない瞳であたいを見上げていた。

「どうしました?」
「みんな楽しそうなのは分かったわ。でも、私はすっごい暇なのよ」
「そうですねー。じゃあ、あたいの猫車に乗ってみますか? 乗り心地は保障できませんけど」
「本当!? 乗る乗る、紅魔館一周しよっ!」

 未だに繰り広げられる騒乱。
 それから目を背けるように、あたいとレミリアさんは静かに図書館から出て行った。
 ――生きろ。
 誰に伝えるわけでもなく、心の中でそっと呟いた。










 それから一時間ほどして。
 上機嫌のレミリアさんと一緒に戻ると、そこには何事もなかったかのように本を読み耽るパチュリーさんがいた。
 傍には脂汗を浮かべながら直立不動している小悪魔さんの姿もある。その首には『お仕置き中』という看板が下げられていた。ガンバ、小悪魔さん。
 しかし、魔理沙と咲夜さんの姿がない。どこに行ったのだろうか?

「あら、お帰りなさい」

 パチュリーさんは目線をちらりと寄越して言った。

「あのー、魔理沙は?」
「鼠は咲夜とお勉強中。外の世界でも使われていた『サルでもわかる保健体育』という本でやってるから問題ないわ。ちゃんと内容は確かめたし、紅魔館一の常識人である咲夜が担当してるし。万が一にも失敗はありえない」
「それは安心しました。……本当に、大丈夫ですよね?」
「……信じましょう」

 パチュリーさんはどこか遠くを見つめるような目だった。
 ……苦労しているんだな、この魔女さんも。

「おいおいパチェ。まるで我が紅魔館は変わり者の集まりみたいな言い草だな」

 心外だぞ、と傍で聞いていたレミリアさんが笑みを深める。
 初対面時を思い出すほどにカリスマ溢れる声色だったが、手にしたシフォンケーキと口周りに付いたクリームが実に残念だ。
 そんな友人の姿に動じることなく、パチュリーさんは答えた。

「あなたも立派な変わり者よ、レミィ。――ところで、猫車の乗り心地はどうだった?」
「悪くなかったわ。存外揺れなかったし、翼で飛ぶのとは違う爽快感があった。パチェも試してみてはどう?」
「今は遠慮しとくわ。将来お世話になるかもしれないから」
「我が身は滅びると白き灰に変わる。それが惜しいと思うのは、これが初めてね」

 優雅に紅茶を傾けるレミリアさん。
 口についていたクリームは頬にまで広がり、可愛らしいお顔が本当に残念なことになっている。
 咲夜さんがいないと格好つけても締まらないんですね、わかります。

「ねえ、お燐。時々遊びにきてくれない? きっと妹も喜ぶだろうから」
「妹さんがいるんですか?」
「ええ。フランドールといってね、可愛い可愛い妹よ。ちょっと狂気が過ぎる時があるけど」
「……はい、機会があれば」

 その後、和やかな会話が続いた。
 余計なことを口走るトラブルメーカー(霧雨魔理沙)もいないこともあって、平和なお茶会となった。
 そして。

「ただいま戻りましたわ、お嬢様方」
「…………」

 二人が戻ってきた。
 咲夜さんは表面的な笑みを浮かべているが、その手は魔理沙の背中を優しく擦っており。
 当の魔理沙は、顔を真っ青にして口を押さえながら歩いてきた。
 あまりに尋常じゃない彼女の様子に、皆が一様に眉をひそめる。
 魔理沙に、何があったのだろうか。

「……咲夜。まさか襲ったんじゃないでしょうね?」

 パチュリーさんが目を細めて聞く。
 咲夜さんはレミリアさんの顔を拭きながら首を振った。

「わりとリアルな話をしましたので、それを想像して気分が悪くなったみたいです」
「……それは仕方ないわね。まあ、綺麗事じゃないもの」
「ふむふむ。咲夜、あとで私にも教えてくれる?」
「お嬢様。エクレアを作ったのですけれど、お食べになりますか?」
「もうお腹一杯」
「……メイド長、生涯初の大ピンチ」

 咲夜さんが魔理沙にも負けないくらい顔面蒼白になって震えだした。
 どれほど楽な人生歩んできたんだ。そう突っ込む前に、未だに血色の悪い魔理沙が口を開いた。

「……パチュリー。頼みがある」
「なによ」
「本を貸してくれないか?」

 本? と再び一同が困惑の表情を浮かべた。
 魔理沙は辛そうに顔を歪めながらも、しっかりと据わった口調で告げる。

「将棋の本を、借りたいんだ。元々将棋に勝ちたくて来たんだしな」
「……魔理沙。じゃあ、さとり様の第三の眼はどうする気?」
「どうもしない。心を読めたら盤面の駒を自由に操れるわけでもないし、読まれてもそれを上回る戦術を身に着ければいいんだ。お燐、お前が言ったとおりだったよ。私が弱かったんだ」

 固い意志を宿した瞳があたいを射抜いた。
 その輝きは先ほどまでまったくなかったもので――正直、驚きを隠せなかった。
 いつも飄々としている魔理沙が、こんな顔をするなんて知らなかったから。

「……わかったわ。小悪魔」

 ふう、という溜め息と同時に、パチンと指が鳴らされる。
 それを合図に、ぴくりとも動かなかった小悪魔さんが息を荒げながら膝をついた。

「了解しました……」

 小悪魔さんは呼吸を整えることもなく、おぼつかない足取りで本棚の方向へ消えていく。
 そしてすぐに戻ってきた。その手に、デカデカと『将棋』の文字が書かれた本を数冊持って。
 それらを受け取った魔理沙は感謝を捧げるように、パチュリーさんにお辞儀をした。

「ありがとう、パチュリー」
「ふん、今度読み終わった本を返しにきなさい。それでチャラよ」
「優しすぎて涙が出てくるね」

 そんな言葉を発すると同時に、魔理沙は箒を取り出して跨った。
 あたいは魔理沙から誘われる前に箒の後ろへ乗る。これでいいと思ったから。
 案の定、魔理沙はそれが正解だと言わんばかりに頷き、レミリアさんたちににこやかな笑みを向けた。

「また来るぜ。和菓子でも手土産にな」
「もっとペースを上げなさい! 紅魔館は退屈を是としていないんだからね!」
「お嬢様はこう言ってるけど、私は物を壊さなければなんでもいいわよ。お客なら歓迎してあげる」
「本は盗まない。図書館で騒がない。私に迷惑をかけない。これくらいの良識を身につけてからの話よ、若輩者」
「いつでも大歓迎です! 貴女が来ると暇が潰れますから!」

 彼女たちはそれぞれ別れの言葉を言う。
 そして、あたいも恐ろしくて愉快な紅魔館のみんなに手を振った。

「また遊びに来ます! その時は妹さんとも会わせて下さい!」

 すると全員の口角がそれぞれ上がった。――まるで、禁忌を犯した愚か者を見つけたかのような、邪悪な笑みだ。
 なにやら墓穴を掘ったように思ったが、それを確かめる前に箒が急発進した。
 さっき歩いた道が急速に後ろへ流れていき、開いていた玄関の扉を猛スピードで駆け抜ける。
 その傍に、門を守護していた紅い女性がいた……気がした。








 一気に照りつく太陽の下に躍り出る。
 地底じゃお目にかかれない灼熱の球体。それが懐かしいと思えるのは、生物としての本能だろうか。
 いや、あたいが今求めているのはあれじゃない。
 たぶん、友人が生み出した禍々しい太陽が恋しいのだ。

(――ああ、そういうことね)

 ようするに、あたいは帰りたがっているのか。
 あの暗くじめじめしていて、なのに温かく騒がしい地霊殿に。

 温泉卵が大好きで頭の空っぽな大事な親友と一緒に笑って。
 他者を弄ることを趣味にしていながらも心優しい主と食事を取って。
 そこに、ひどく楽しげな遊び相手がいれば――人生最高じゃないか?

「魔理沙」
「あー?」
「魔理沙はこれからどうするの? 家に帰るの?」

 一拍置いて、魔理沙が答えた。

「そうだな……。しばらくこいつを頭に叩き込む作業だぜ。今度こそ、連敗を脱する!」

 そう言って魔理沙は風呂敷に包んだ本を誇らしげに叩いた。
 今度は能力のせいにせず、自らの実力で圧倒的優位に立つ友人から勝つ。
 そのための努力を、この少女は一人で繰り返すのだろう。
 なにせ、彼女は呆れるほどに負けず嫌いなのだから。

 そんな魔理沙が羨ましくて、ついこんな言葉を口にしてしまった。
 今度は勝敗で一喜一憂する彼女を眺めるのではなく、今みたいに同じ景色を見たくなって。

「なら、あたいに将棋を教えてくれないかい?」

 しばし空白が流れ。
 魔理沙は、子供が悪戯を考え付いたかのような笑みで、

「じゃあ二人でさとりをぎゃふんと言わせてやるか!」

 非常に魅力的な提案をした。
 あたいは思わず嬉しくなってこう返した。

「うん! さとり様をにゃふんと言わせよう!」
「……にゃふん?」
「あ……ごめん、噛んだ」

 顔が急速に熱を帯びていくのが分かる。
 よりにもよって『にゃふん』とは何なのか。猫だからってこれはないだろう。
 そんな負の思考に囚われようとしていたとき。

「いや、それで行こうぜ。私たちが勝ったらさとりに『にゃふん』と言わせる。最高に燃える勝負になるな!」

 魔理沙が前を向き、強く箒を握りこむ。
 すると箒は急加速し、凄まじい速度で空を駆けていった。
 振り落とされないよう魔理沙の体にしがみつく。
 その最中、あたいはさとり様が『にゃふん』と言う姿を想像して。

「……ああ、楽しみだよ」

 そう笑ったのだった。









 後日談。

「なんでさとり様、遊んでる最中に心を読むんですか? 面白くないと思いますけど」
「ふふ、相手が貴方達ならしないわよ。魔理沙さんだからこそ、心を読んででも勝ちたいんだから」
「はぁ。何でですか?」
「だって魔理沙さん、負けそうになるとすごく可愛い顔で悩むのよ! 眉間に皺を寄せて、時折私の様子を伺うように上目遣いで見てくるの。チラっとね、チラっと!」
「あー……さいですか。さとり様が楽しそうで何よりです」
「む、お燐。そんな軽蔑したような顔で見られると、お燐までいじめたくなっちゃうじゃない」
「ごめんなさい、勘弁してください」
「それはそうと……。お燐はこれくらいの大きさで青い表紙の本知らない?」
「? いえ、見かけてないですけど。何ですか、それ」
「私が暇つぶしに書いた本。内容は……大人向け、かしら。いつの間にかなくなってたのよ」
「(青い表紙で、大人向けの本?)……あ!?」
「心当たりがあるようね。どれどれ、マインドスキャーン。……い、いやあああああああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 その後、さとり様は謎の体調不良で一ヶ月ほど寝込んだ。
どうも、ごはんつぶです。
六作目は『タイトルオチ』+『下ネタ』でした。不快に思われた方がいましたらごめんなさい。
今作は難産で、書いて挫折してを数回繰り返しての投稿になりました。
ですので、前半と後半でひどく文章が違います。泣きたい。
健全と不健全の境界で悩んだりオチが薄かったりと反省する点が多々ありますが、個人的には紅魔館を書けて満足しました。
紅魔館のみんなは可愛い。異論は認めない。フランちゃんが出てねぇぞ馬鹿野郎? ……ごめんなさい。今度フラマリを書きます。たぶん。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

それでは、ここまで読んでくださってありがとうございました!

*追記
最後の辺りに文章を追加しました。
ごはんつぶ
http://
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コメント



0.4590簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
受けなさとり様、あると思います
さとまり分補充できました

フラマリにも待ってるよ!!
4.80名前が無い程度の能力削除
さとり様の本が読みたすぎてたまらないのぜ!
5.100奇声を発する程度の能力削除
読んでる途中であの法案を思い出してしまったのは私だけでいい…orz
楽しく読めました
8.100名前が無い程度の能力削除
自分と好きな人のエロ小説を書いているさとり様の明日はどっちだ
15.100名前が無い程度の能力削除
この話の主役は小悪魔、間違いない!

朗読のシーンで、一瞬「あれ?地霊殿に場面が移った?」と思ってしまい、
その後読んで勘違いだったと気づいたのですが、
最後まで読んでその勘違いにも納得。どーりで間違えたわけだw
23.100名前を忘れた程度の能力削除
コレは面白かった!
ぜひともフラマリもよろしく。待ってるよw
24.90コチドリ削除
小>>>>さ>>>パ>燐≧咲>>>(超えられない壁)>>>魔>レミ

恋の呪文はエロイムエッサイム!
そんな感じ。ありがとうございました。
28.100名前が無い程度の能力削除
最後のオチと「……メイド長、生涯初の大ピンチ」に噴いた
32.100名前が無い程度の能力削除
何をしているんだ、今すぐ夜○に本の内容をあげるんだ。
のほほんとしたさとまりをこっちであげてもいいが。
つまり、だ。
さとまりを早く書く作業にうつるんだ、いや、移ってください。
33.100名前が無い程度の能力削除
さとり様が書いた本を読みたいので、ちょっと紅魔館まで行ってきます。
36.100名前が無い程度の能力削除
エロにとんと疎い魔理沙かわいいよ魔理沙
そしてさとり様はなに書いてはるんですかw
40.100名前が無い程度の能力削除
純真な魔理沙が可愛い過ぎて困るw
魔理沙をネタにしたネチョい官能小説を書いて、何も分かってない魔理沙自身にそれを朗読させてほくそ笑むさとり様・・・を余裕で幻視したわ。

>わりとリアルな話をしましたので、それを想像して気分が悪くなった
ここのところ詳しく。
51.80名前が無い程度の能力削除
マインドスキャーン。
54.100名前が無い程度の能力削除
オラをエロイム・エッサイムに連れて行ったけろ!
56.100oblivion削除
買わせてください……さとりの本を。
62.80mthy削除
>>さとりに『にゃふん』と言わせる。最高に燃える勝負になるな!
いやぁ、萌える勝負になるんじゃないかな

楽しかったです!
74.90名前が無い程度の能力削除
おもしろい! テンポよくて好きだな~
76.100名前が無い程度の能力削除
さとりェ…
79.100名前が無い程度の能力削除
さとりなにしてんだwwwww
94.100名前が無い程度の能力削除
咲夜さんの性教育が描写されていない事に強く抗議したい
95.100名前が無い程度の能力削除
さとり様w
104.90名前が無い程度の能力削除
十六夜咲夜の瀟洒な性教育。
なんて魅惑的な響きか。